嗣希創箱の消閑

小説、落書き、二次創作、etc…。 あなたの暇潰しのお供にどうですか♪ 

《THE SECOND LIFE》8

《THE SECOND LIFE》






 朝のホームルーム後、ボクらは『学園長室』というプレートのかかった豪奢な一室に居た。
「……あぅ〜。あの、その……」
 焦りと苦悩に顔を歪めて、俯く。無意味にスカートの裾を握りしめて、視線を右往左往。
 今日ここに呼び出された理由は単純明快。昨日の桜通りでのことである。
 この部屋の主である“学園長(おじいちゃん)”は自身の伸びに伸びた髭を撫でてボクを眺めているし、他の人たちも同様。皆ボクに注目していた。
「……チッ。おい、小娘。無駄な言い訳なんか考えている暇があるのならとっとと話してオコジョにでもなれ!」
 ボクに注目する一人。ボクの隣で不機嫌そうに腕を組み、怒鳴るエヴァンジェリンさん。ボクとそう大差無い幼い容姿とは反比例する態度の尊大さに思わず首をすくめてしまう。
「ぇうっ!? そ、そんな……だって、ボクは――て言うか、エヴァンジェリンさんがそもそもの原因――」
「黙れ」
 絶対零度にして傲岸不遜な命令口調。エヴァンジェリンさんは青筋を浮かべてボクを睨み、静かに言葉を次ぐ。
「桜通りを吹き飛ばした原因は貴様だろう、小娘」
「えぐっ!」
 そ、それは確かに。
「結界も無く、しかも自身の教え子を巻き込んで上位魔法を使っておきながら自分は悪くないとでも言うのか貴様は」
 すみません、おっしゃる通りです……。
 みるみる小さくなって行くボク。対してエヴァンジェリンさんはギラギラと危ないぐらい殺意のこもった視線をボクに向けて、足踏み。
「分かったらとっととそこのじじいに説明しろ!」
「ぇうっ! だ、だって……そんな事したらボク――」
 ――がし!
「ヒィィ!?」
「ごちゃごちゃ抜かすな! それでも貴様、“奴”の娘か!?」
 胸倉を掴んで怒鳴るエヴァンジェリンさん。それがあまりにも怖くて、思わず目をつむりかけ、

 ――“奴”の娘か!?

 その台詞にハタと動きを止めた。
「『“奴”の娘』って……エ、エヴァンジェリンさん、もしかしてボクのお父さんの事を――!?」
「知っていたら何だと言うんだ、ぁあ!?」
 再びエヴァンジェリンさんの剣幕に押し黙るボク。
 ……こ、怖い。だけど――
「――まぁその辺にしといてやれ、エヴァンジェリン」
 突然の第三者の言葉にそちらを向くボクとエヴァンジェリンさん。
 それに、今まで学園長室に入ってすぐの壁に寄りかかって腕を組んでいたシロウが苦笑を浮かべて返した。
「そもそもエヴァンジェリン。お前が俺の忠告を無視して神楽坂を襲ったのが悪い」
 シロウの台詞にボクの服から手を離してそちらを向くエヴァンジェリンさん。苦い顔でシロウを睨んで、
「……そう言えば貴様も結界もなしに上位魔法を使っていたな? しかも私やそこの小娘に近い威力と魔力のものを」
 シロウに詰め寄るエヴァンジェリンさん。怪訝顔で彼を睨み上げる。
 シロウはキョトンとして、一瞬何を言われたのかわからなかったらしく首を傾げ、すぐに何かを思い出してかニヤリと笑って見せた。
「“アレ”は魔法じゃない。だから俺自身の魔力は大して関係ない」
「は? 昨日のやつが魔法で無ければ何だと――」

「――んな事は後にしてよエヴァンジェリン」

 腕を組み、シロウたちを睨んでアスナさん。
「そや。それより、まずは昨日の説明をせなアカンで?」
 その傍らで微笑を浮かべてこのかさん。
 そして彼女の横に桜咲さん。アスナさんを睨むエヴァンジェリンさんに対して一歩前に出る。
「……学園長」
 エヴァンジェリンさんへと警戒の視線を向けながら桜咲さんは言う。
「すみません……。お嬢様に魔法のことを――」
「私が無理矢理聞き出したんよ。せっちゃんは悪ない」
 ……え?
「そ、そう言えば、桜咲さんはどうして魔法の事を!?」
 ボクの言葉にこちらを向いて桜咲さん。無表情のまま、こともなげに、
「私も魔法、とは言わないまでもそれに通ずる心得はありますので」
 え!?
 驚愕に目を剥くボクをよそに、
「……なるほど。貴様、陰陽術を」
 桜咲さんの台詞にエヴァンジェリンさん。ニヤリと笑って腕を組み、彼女を睨む。
 対して瞳を細めて睨み返す桜咲さん。手に持つ竹刀袋から今にも野太刀を引き抜きそうな雰囲気で、
「――ふぉふぉふぉ」
 そんな空気をぶち壊す学園長。長い顎髭をさすりながら少しだけ笑い、ボクたちを見回す。
「いやいや。若いというのは威勢があって良いの〜」
「……おい。私は貴様より――」
「時にエヴァンジェリン」
 何かを言おうとしたエヴァンジェリンさんを遮り学園長。彼女を見つめ、
「こたびの件、衛宮教諭からの報告を聞くにそなたが発端だろう」
 学園長の視線に苦い顔をしてエヴァンジェリンさん。舌打ち一つ、シロウを睨む。
「ただ、衛宮教諭、及びネギ君にも失態が無かったとも言えん。流石に桜通りを吹き飛ばす魔法を教え子に使うのはどうかのう?」
 えう!
 学園長の視線と言葉に肩を竦める。うう……ボクもそう思います〜!
「また、一般生徒に魔法の事を知られてしまった」
 ひう!
「……まぁそれは仕方ないとしても、ちとやりすぎじゃの」
 か、返す言葉がありません〜。
「よって今回の一件は――不問とする」
 …………………え?
 呆然と学園長を見る。学園長はボクにウィンク一つ、指を一本立てて、
「確かにエヴァンジェリンが忠告を無視したのがことの発端。しかし、それに当たった教員がいささか暴挙とも取れる行動を取ってしまった。結果、関係の無い生徒に迷惑をかけたことは学園側の責任。よって一概にエヴァンジェリンが悪いとは言えん」
 顎髭を撫で、視線をこのかさんに向ける学園長。
「うちのこのかやアスナちゃんに魔法を知られてしまったのは……まぁ仕方ないの。それに、」
「じいちゃん……」
「学園長……」
 視線をシロウに向ける学園長。シロウはシロウでジッと学園長を見つめ返して無表情。
「衛宮教諭の話からして、もう解決したらしいからの。よって不問じゃ」
 ……どっと、安心からの脱力感。はぁ……良かった。今回は本当にオコジョになっちゃうかと思った。
「とは言えエヴァンジェリン。しばらくは衛宮教諭と行動をともにしてもらうぞ」
 ……え?
「は? 何を言っている?」
「当然だな」
 怪訝顔のエヴァンジェリンさんにシロウ。振り向き睨む彼女にニヤリと笑って、
「今回の件は俺の監督責任でもある。だからまぁ大人しく俺と一緒に生活しろ」
「ふぉふぉふぉ。なに、期限は一週間だけじゃよ」
 一週間て――あ!?
 アスナさんとエヴァンジェリンさんの勝負!
「……なるほど。全ては貴様の思惑の通りというわけか」
 不機嫌顔でエヴァンジェリンさん。対して苦笑するシロウ。組んでいた腕をほどき、
「そうでもないさ。まぁ今回のことでいろいろと聞きたいこともあるし、諦めろ」
 え?
 ボクを見るシロウ。あ! う、うん! 確かに聞きたいことが山摘みだよ!
 父さんのことを知っているらしい、吸血鬼で魔法使いのエヴァンジェリンさん。
 このかさんとは仲が良さそうな、とても強い桜咲さん。
 あとでちゃんと話を聞かないとね!
「では解散じゃ」
 学園長の言葉を受け、ボクたちは三々五々、部屋を後にした――。

 ◇◆◇◆◇

 ここ、3‐Aのクラスはいつになく静かだった。
 それと言うのも、クラスの代表――と言うか、クラス担任のネギが見るからに落ち込んでいるからなのだが、
「ネギ先生、どしたの?」
「元気無いね」
 ささやくようなひそひそ声。みんな元気の無い年下の女の子に気を使ってか声をひそめて話していた。
 ……たく、あの子ったら。
 理由を知っているだけに怒るに怒れない。だから私は苦い思いでネギを睨むしかない。
「……はぁ」
 物憂げな表情で頬杖をつき虚空を眺めるネギ。おそらく彼女はこれからのことを思い、いろいろと複雑なのだろう。

 ――ついでだ。お前も神楽坂と共に私に挑むが良い。

 エヴァンジェリンからある程度の事情を聞いた、その後。ネギの父親と因縁があり、またあの子の知らないサウザンドマスターとかいう男のことを多く知っている彼女に、ネギが父親のことを訊いた、その際に返された台詞。
 ――私に茶々丸がつくようにお前も神楽坂につくが良い。
「……あのバカ吸血鬼」
 ギリ、と奥歯を食いしばって呟く。
 ……私はあの子に、教え子と戦って欲しくなくて頑張ってるのに。
 ――交換条件……いや、勝利の代価とするか。もしお前と神楽坂が私と茶々丸に負けを認めさせられれば、お前の問いに答えてやる。
 ……バカネギ。
 ――逆に私が勝てば、小娘……貴様の生き血を啜り、忌まわしき呪いを解く糧とさせてもらう。
「…………悔しい、な」
 エヴァンジェリンが怖いのだろうネギ。実力云々より、大切な教え子の一人である彼女を傷付けることを恐れる少女。
 そんなネギだからこそ、私は拳を握りしめる。
 私はそんな少女だからこそ、守ってあげたかった。
 泣き虫でガキで頑固で……どうしようもなく優しくて傷付き易い、どうしても放っておけない女の子。
 一人で寝るのを寂しがり、いつも私のベッドに入ってくる少女。
 そして一途に父親の背を追い、先を行く“相棒(パートナー)”の隣を歩くのを夢見る幼い魔法使い。
 ガキなんて嫌いだ。自分で自分の面倒も見れない、他人に頼るしか出来ない迷惑な恥知らずは大嫌いだ。
 だけど――ネギという少女は違う。
 確かに言動や考え方は幼稚だけど……それでも、私なんかよりずっとずっと前を見て歩いている。
 頼ることを良しとせず、どこまでも自分の力で。
 悩んで、
 足掻いて、
 諦めず、がむしゃらに。
 だから私は、彼女を守ってあげたかった。
 頼りないから――というのもある。危なっかしい、というのも勿論ある。
 だけどそれ以上に、私はネギに、前を見続けて欲しかったから。夢を見て、止まらず真っ直ぐに進んで欲しかったから。
 だから、私がその障害を出来るだけ取り除いてあげたかった。その小さな背を押してあげたかった。
 その力は――そのための知恵は、あるつもりだった。
 だけど――私は無力だった。
 今回の件だけじゃない。図書館島の一件から薄々は感じていた、それは純然たる実力差。
 私はあの子より上のつもりで、実際は全然下だった。
 確かに身体能力や年齢から来る思考能力は私の方が上だろう。
 だけどネギは、それを補って尚上回る戦闘技術を持っていた。
 図書館島でゴーレムと対峙した時、あの子は魔法の力を封じて尚、常人以上の戦闘能力を見せた。
 ただ、その時は古菲や長瀬さんの方がもっと凄かったから気になんなかったけど――それでも今の私なんかより十分、上だ。
 それが……悔しい。
 それに気付かず、少女を守っている気になっていたのが、悔しい。

 ――で? 小娘はどうする?

 エヴァンジェリンの挑発。それに対するネギの返答は――

 ――……その勝負、請けます。

 だから、私は、
 あの子が前に進むのを辞めないように、
 ――私は、強くなる。
 そう、決めた。

 ◇◆◇◆◇

 中学生に限らず、健全な学生ならば部活に入るべきだ――そうケイトに言われ、あたしは渋々ながら放課後、麻帆良学園の部活動巡りをすることにした。
 それも――
「――さて、これから幾つかの部活動を巡るとして、君たちは具体的に何かやりたい、もしくは興味のあることなどはあるか?」
 件の容疑者候補の一人――衛宮士郎の引率で。
「う〜ん……わたしは剣道とか野球が得意なんですが……」
 副担任でもある彼の言葉に弱ったような表情でケイト。頬を唯一動く右手でかきつつ困ったような微笑を士郎教諭へと向ける。
 ……まあ、ケイトは隻腕だしな。
 一般的な運動部は無理だろう。そう思ったあたしや、何故か一緒に部活巡りをすることになった雪広や村上は奴に同情の視線を向けていた。
「ほう、剣道……」
 それに引き換え、衛宮教諭は同情ではなくどこか関心した風に頷き、興味深そうな表情をケイトに向けて言った。
「……確か八神――ケイトの“隻腕(それ)”は生まれつきだったな?」
「あ、はい」
 キョトンとした表情でケイト。そして「ちょっと先生……!」と非難するような視線を衛宮教諭に向ける雪広。おそらくは他人の深い部分に、簡単に踏み来んでいった彼を叱責するためなんだろうが……あいにく、ケイトの奴はぜんぜん隻腕なんを気にしてねーから、あたしからすれば雪広のそれは過保護に見えて仕方ねーな。
 そしてそれは衛宮教諭も同じだったのか。睨みつけてくる少女に苦笑を向けて言う。
「雪広……、お前の気持ちもわからないでもないが、本人以上にお前が『それ』を気にしているようでは本当の友達にはなれないぞ?」
「うっ……!」
 途端に顔をしかめる雪広。まあ本人にも多少は自覚があったのだろう。彼女は恥いるような、申し訳なさそうな表情をケイトに向け、そしてそれにケイトは『気にしないで良い』とでも言うように笑って返す。
「さて、話を戻すが……ケイト。君は剣道と野球が得意と言うが、それはつまり『棒を使って何かに当てるのが得意』ということか?」
 ほう……。あたしは思わず衛宮教諭の台詞に関心する。
 なるほど、確かに。一見して共通項の無さそうな剣道と野球には彼の言った通り、『棒を当てる』という点で共通していた。
「はい。ただ、わたしはこんなですから、野球はバット振ったりしか出来ませんので野球部は無理ですけど」
 衛宮教諭の言葉に苦笑して頷き、左手の義手を右手でプラプラと揺すりつつケイト。
「ふむ……、ちなみにヴィータの方は何か得意なのはあるか?」
「あ゛ー……ゲートボールが得意だな」
 ……昔なら『空戦』だが、今じゃこれしか無いな。と、内心で苦笑しつつ衛宮教諭の言葉に無表情で返すあたし。それに、
「げ、ゲートボール……?」
 思わず、といった感じで声を上げる村上。見れば何とも言えない微妙な表情であたしの顔をまじまじと見つめていた。
「ぁ゛あ? なんか変か?」
 ゲートボール……って、もしかしてこの世界には無いのか?
「いや、変ではないが、最近の子供にしては珍しい、なかなか渋い選択をするので驚いた」
 あたしの視線に引きつった表情を浮かべていた村上に代わり衛宮教諭が苦笑混じりに返す。
 ……あぁ、なるほど。そー言えば、あっちでもゲートボールやってんのは、じーちゃんばーちゃんばっかで子供はいなかったな。
「よし、ではとりあえず剣道部から見に行くか」
 そう言って歩き出す衛宮教諭に続きながら、ふと考える。
 まさかケイトの奴……本気でやったりしねーだろうな?
 チラリと隣を行く、今や同じ容姿をしている奴を見ながら思い出す。
 ケイトが剣道が得意というのは本当だ。正確には剣道ではなく剣術――それも暗殺や殺し合いなんかの実践的なものを奴は得意としている。
「ケイトは、面や防具を自分一人で着けられるのか?」
「あ、はい」
 昔――あたしがまだ現役だった頃。ケイトはシグナムと、互いに竹刀を使って純粋な剣術だけで試合をしたことがあった。
「そう言えばヘルパーって剣道部の顧問もしてたんだっけ?」
「……村上。顧問ではなく“副”顧問な」
 その結果は――驚いたことにケイトの圧勝。あのシグナムが全く歯が立たなかったらしい。
「おい、ケイト。……まさか剣道部の連中相手に本気出さないよな?」
 だからこそ、声を潜めてケイトに問う。
「ほえ?」
 『ほえ?』じゃねー! あたしの顔でキョトンとするなっ! なんかムカつく。
「……『剣道』ってののルールはよく知らねーけど、ようは竹刀持って叩き合うんだろ? なら、おめーが一番強いに決まってんだから、手加減しろよ」
 あたしは顔をしかめつつ、小声で忠告。若干、ケイトの本気を見てみたくはあるが、それでもあんまし目立つよーなのは避けたい。
 そう思ってのあたしの言葉は、
「ほう……、それほどケイトは強いのか?」
「――っ!」
 衛宮教諭に聞かれてしまった時点で意味を成さなかった。
「じゃあ――俺とやるか?」
 おまけに、
「はい! ぜひっ!」
 ケイトの奴は衛宮教諭の相手をすることになったのだから、最早目立ちたくねーなんて言ってられなかった。
 ……ケイト。まさか本気で?
 あたしは頭をかきつつ、談笑を交わすケイトたちを複雑な思いで眺めていた――。





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