嗣希創箱の消閑

小説、落書き、二次創作、etc…。 あなたの暇潰しのお供にどうですか♪ 

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《ゼロの使い魔~雷槍の騎士~2》15

《ゼロの使い魔~雷槍の騎士~》





 狂騒と怒号と絶叫の響く闇夜に、
 爆音と紅蓮と火球の上がる月下で、
 彼の白いローブの留め金を外して、
 彼の頭を抱き寄せて、
 ゆっくりと瞳を閉ざして、
 ゆっくりと顔を近付けて、
 少女はそして、青年の唇へと自分のそれを落とした――。

 ◇◆◇◆◇

 ――そこに礼節はない。
 タバサは対峙する仮面の男が何かをする前に動く。
 ――そこに確認なんて要らない。
 相手が誰であるか。
 そんなことに頓着なんてしない。このタイミング、この状況で自分たちを追って来た時点で男が敵であるのは明白。
 故に、タバサは躊躇わない。
 ――言葉は不要。
 タバサはキュルケとは違う。どんな窮地だろうと思考を鈍らせない。
 タバサはモンモランシーやルイズとも違う。自身の実力を正しく把握し、それを活かして勝利する道を迷わず選択する。
 タバサはエリオとも決定的に違う。相手が誰であれ、状況如何では敵を殺すことを躊躇わない。
 ――慈悲は不要。
 タバサの初動に合わせて男も動く。
 速度はほぼ同格。その帰結として先手を取ったのはタバサ――ではなく、男。
「――――ッ!!」
 呪文の長さ、強さは関係ない。呪文を唱え、魔法に集中する少女に対し、男は呪文とともに抜き放った杖を突き出したのだ。
 ヒュッ! 風切る音を耳元で聞きつつタバサは一歩前進。
 男の攻撃は鋭いが魔法の発動を阻害させるほどではない。タバサは踏み出すと同時に杖を振るう。
「――――ッ!」
 タバサの魔法は見えなかった。しかし男はそれを気配と勘だけで横に飛び、避ける。
 ……さすがに、強い。
 少女の使った不可視の魔法は、常人には決して視認叶わぬ速度で翔る、氷結させた大気の刃だった。
「…………く!」
 この魔法はその特性上、手加減が出来ない。
 必殺にして瞬殺。防御や牽制以外の、攻撃としての使用は相手を選ぶ――そんな魔法を男はあっさりと避けた。
 それはつまり、攻守の逆転を意味する。
「ハッ!」
 男の持つ黒い杖が青白く輝く!
「――――っ!」
 それは『風』の魔法を一点に集中したためであり、当たればひとたまりもない。
 タバサはそれをどうにか避け、いったん距離を離そうと跳躍。そしてその間も魔法の詠唱を続け、
「チッ!」
 男は舌打ちを一つ。タバサの放った氷槍の雨を後退し、杖で薙払ってそのことごとくを落とす。
 ――魔法は呪文と集中というプロセスを必要とする。
 それ故に、打てばまた呪文と集中が要り、メイジとメイジの戦闘はさながらターン制のゲームのようだった。
「…………」
 タバサはこの数回の攻防を反芻し、相手の実力を把握し分析する。
 ……敵は『風』のメイジ。
 牽制に生み出した大気の鎚は男に難なくかわされ、逆に放たれる稲妻に狭い階段の上を転がり落ちるようにして避ける羽目に。
 ……実力差はそれ程ではない。
 体を起こすタバサに男の追撃! 青白く発光する風のレイピアが中腰の少女を突き刺さんと走る!
 それは避けられるタイミングではない。だからタバサは攻撃のために唱えていた氷纏う竜巻を前面に展開し、相手を退けることに努めた。
「ほお!」
 男の感嘆の声を尻目に体を起こし、次の魔法の詠唱へ。
 竜巻が消える。男が構え、刺突。
 タバサはタイミングを合わせ、突き出された杖を払い、魔法を――

 瞬間、タバサは一も二もなく横へと跳んだ。

 同時、一瞬前まで少女のいた空間を稲妻が走って過ぎた。

「――――ッ!」

 実力差はそれほどでもない――

 タバサは階段を転げ落ちながら、背後を向く。

 ――その敵は、しかし、当然のように二人居た。

「…………」
 ――故に当然、少女に勝ち目など無い。
 タバサは立ち上がり、並んで立つ男たちを睨む。
 ――故にこそ、少女は薄く笑う。
 タバサは杖を構え、男二人に向けて口を開いた。
「……あなたは間違えた」
 悠然と、勝てる見込みなどないはずの、格下の少女は言った。
「なに……?」
 それはどちらの言葉か。男たちは並んで構え、少女を殺さんと仮面の下、彼女の動きを注視する。
 タバサは動かない。
 戦いの場に生まれた『静』の時――それを有意義に使うため、少女は一度殺意を隠す。
「……あなたの目的は、本命とわたしたちを離すこと」
 ……だから、あなたは間違えた。
 タバサは無表情の仮面を被り、その奥にすべての感情を隠す。
 男の使う、この魔法。『風』の魔法で分身体を作り出す、この『偏在』の魔法はその一つ一つが意志と力を持っている。
「……それならば成功してしているな」
 そしてその分身体は風の吹く場所ならば何処でも出現させられる。
 しかし――弱点はある。
「いいえ」
 タバサは静かにそう答え、
 そこでようやく、少女は呪文を唱え始め、
 男たちはそれに合わせて少女へと杖を突き出し、
「――――ッ!」
 タバサは自身の身長を超える杖を突き出す。
 左の男はそれを半身で避け、右の男は杖の先から竜巻の魔法を放つ!
「ヒュッ!」
 ザァア! 飛行の魔法により避けるタバサ。学院のマントが竜巻により破け散り、避けきれなかった肩や腰に裂傷が走るが表情を変えず、階段から下へと飛び降りる。
「チィ!」
 男の一人の突き出した青白く発光する杖は少女の頬に朱線を引くに留まり、もう一人の男は即座に竜巻の魔法を止めてタバサを追う。
 ……『偏在』の魔法の、弱点。
 チラリと追って来る男を見つめ、飛び降りると同時に唱えていた氷結させた大気の刃を放つ!
「……ぬっ!?」
 飛行の魔法を使っている最中は他の魔法は使えず、また回避を優先しても避けられるタイミングではない。飛び降りた男は顔色を驚愕へと変え、
 ――バシン!
 階段上にいた男がそれを同種の魔法で落とし、飛行中の男を助けた。
 ……やっぱり。
 男が一人であれば今ので決着だった。故に彼を助けるためにもう一人の男は迎撃の魔法を使わざるをえない。
 だからここまでは計算通り。タバサは即座に次の呪文を詠唱し、飛行の魔法で追って来た男の突き出した杖を睨み――

 ――……ドン!

 無理に捻った体に男の杖が当たり、
「「――――ッ!」」
 同時、
 少女の放った氷纏う竜巻の魔法が炸裂!
 落下中のタバサと、杖を突き出し、飛行魔法中の男と今まさに飛び降りた男の三人を襲う!
「…………っ!」
 服を裂き、皮膚を貫いて過ぎる魔法を耐え、下を見るタバサ。
 地面が近い。飛行の魔法は間に合わないが、竜巻の魔法によって得た浮力のおかげでどうにか死なずにすむ。少女はそれを今一度確認し、

 ――ドン、と。気付くと、青白く発光する杖が自分の腹を貫いていた。
「かッ……!」
 血を吐き出し、自分を貫いて見せた男を――三人目の男を、睨む。
 ……まだ、だめ。
 赤い線を引き、腹部から抜かれる杖。それを持つ、今現れた男。
 タバサはその男へと注意を向け、

 ――男は消えた。

「がァ……ッ!」
 同時、落下の衝撃に視界が暗転しかけた。
 一瞬だけ確実に意識が飛んだ。
 自分が誰で、今がどんな状況かを瞬間的に忘れ、
 真っ直ぐに自分を追って来た男二人を呆然と見上げ、
「――――ッ!?」
 それでも気付いたら体が動いていた。
 タバサは地面を転がり、二人の魔法を辛うじて避けた。
「……はぁ、……はぁ」
 朦朧とする意識をかき集め、杖を文字通り杖として使い、どうにか体を起こす。
「……はぁ、……はぁ」
 腹部から滴る血を押さえようとし、杖を持たない右手が折れていることに気付いて眉を潜める。
 至る所に走る裂傷。服を赤く染める出血量と傷の具合、体の調子を正確に計り、前を向く。
「……ほう」
 向かって左側に立つ男が軽く感嘆の声を上げる。
「何がきみをそこまでさせるのか……聞かせて欲しいものだね」
 そして右に立つ男もまた、小さな驚きを声に乗せて少女に問う。
「……はぁ、……はぁ」
 対してタバサは、杖に寄りかかるようにして体を起こし、なんとか立ち上がろとしながら返す。
「……頼まれたから」
 力の入らなくなり始めた体に鞭打ち、
 失血から来る寒気から体を震わせ、
「だから……守る」
 少女は倒れない。
 体中に刻まれた裂傷。貫かれた腹部。打たれた腰部。折れた右手。
 それらの痛みが無いわけがない。今にも激痛に意識が飛びそうだ。
 それでも少女は決して立とうとすることを止めない。
「……わたし、は」
 魔法は、もう、使えない。
 戦う力は、もう、無い。
 しかしそれでも、枯渇した精神力を補うだけの思いがあった。ここで立たなければならない理由が、少女にはあった。
「わたし、は――」
 ここに来るために、窮地に置いて来た赤毛の少女を思えばこそ、立たねばならない。
 少女たちを守り倒れた青年を思えばこそ、戦うことを止めてはならない。
 何より――

 ――……あたしはタバサを信じてる。だから、あなたのも友だちを信じなさいよ。

 そう言って自分を送り出してくれたキュルケの言葉を、思いを、裏切るわけにはいかない!
 だから――
「――あなたから、友達を……守る!」
 少女はそう宣言し、精神力の枯渇を推して魔法を詠唱する。
 ……負けられない。
 勝てなくても良い。
 だけど、殺されるわけにはいかない。
 ここで倒れるわけにはいかない。
 ここでルイズを追わせるわけにはいかない。
 だから、魔法を――

 瞬間、『ぷつり』と。
「……ぁ」
 どこかで糸の切れる音が聞こえ、
 少女の視界が今度こそ暗転し――
「……友のため、か」
「なるほど。それがきみの覚悟の形、か」
 どうしようもなく倒れていく体。急激に熱を失い、感覚を閉ざして行く四肢。
 そして、

 ――ヒュン、と。

 気を失う少女は、それでもその最後の瞬間で大気の刃を放ち、
 男たちはそれを防ぐこもなく、
 刃は男たちに届くことはなく、

 男たちは――消えた。

 そしてそれを見届けることは無く、タバサはドサリと地面に倒れ伏した――。

 ◇◆◇◆◇

 ――その日、異世界から連れられて来た『赤いてるてる坊主』は巻き毛の少女に紹介された。
 そして、大切な者を今度こそ助けられるように――モンモランシーはアリスと契約した。
 その代価は――

 ◇◆◇◆◇

 重なる双子月を振り仰ぎ、フーケは黄昏る。
「……なにやってんだろうね、わたしは」
 巨大なゴーレムに肩に腰掛け、騒がしい眼下の争いなど見向きもせず自嘲する。
 トリステイン中の貴族を震え上がらせた大盗賊、『土くれ』のフーケ――そんな風にして生きて来た自分は、今なにをしているのかフーケは夜風に髪を流して考える。
 自分を牢から脱獄させた男の言うがまま、よくわかりもしない組織に付き従ってこんなところまで来た。そして自分を牢へと入れた青年を倒し、今はその仲間を殺すために一人残っている。
 ……なんのために?
 そう疑問に思い、ため息。考えなくてもわかる。自分がここに残る理由は無いし、そもそも男の言うことに付き従う理由も無い。
「……本当に、なにしてんのかね」
 視線を下へと向ける。
 そこに、いつか見た赤毛の少女を見つけ妖艶に笑う。
 ……眩しいわね、やっぱり。
 彼女の手に握られた大剣を見つめ、瞳を細める。
 貴族というのはすべからくプライドの高い生き物であり、そんな彼らが見下す平民が自分たちに対するために作り出した武器を決して使おうとはしない。
 平民の武器を使うぐらいなら死ぬ。
 そんな、誇り高く傲慢なはずの貴族の少女が、今、自分に向けて剣を構えている。
「なに、それ? まさかそんなオモチャでわたしをどうにかするつもり?」
 挑発的な言葉を紡ぎながら、相手の少女の持つ輝きを眩しく思う。
「ま、ね。あなた相手に魔法は必要ないってことよ」
 そう強がる少女が、もうロクに魔法を使えないだろうことを察しながら、瞳を細める。
 ……ばか、ね。
 プライド高き貴族の娘が、その信念を曲げてでも自分に挑もうとしている。自分がもう魔法を使えない――そのことを敵対するメイジに知られて尚、そのことに気付いていることを知りながらも尚、それでも剣を構えて立ち向かう。
 なんのために?
 それはもはや愚問。彼女が戦う理由、引かない理由ぐらいわからないわけがない。
 ……コイツも、誰かのために、ね。
「そう? それなら遠慮は要らないのね」
 内心でため息を一つ。
 ……十日近く前に青年と対峙してからこっち、どうにも調子が狂って仕方ないわ。
 眼下の真っ直ぐに過ぎる瞳を見つめ、心の内で苦笑。手に持つ剣といい、あの青年と被る。
 誰かのために戦い、圧倒的な実力を見せつけて尚、それを畏怖させることなく自分を倒した赤毛の青年――『雷槍の騎士』と出来ることなら、もう一度戦いたかったわね。
 わたしはそう思い、視線を少女の背後の闇へと向け――
「――――!?」
 ――瞬間、闇を切り裂くように金色の光が夜空に伸びた。

 ◇◆◇◆◇

 ――何かを犠牲にしてまで守ろうとはしていない。
 死ぬ気で戦うことも、無茶を賭して闘うつもりも無かった。
 だけど、
 その結果が――

「――アリス」
 暗闇の中、エリオは巻き毛の少女を抱き締めて呟いた。
 その青年に傷は一つとて無く、
 その手の少女は、今にも死にそうな傷を負っていた。
「……ごめん」
 まるで、
 青年の負った傷を肩代わりするように――
「約束…………破る」
 瞬間、青年の足下に黄色に発光する魔法陣が浮かび、
 彼の着た白きローブが、まるで火の粉のように金色の煌めきを散らして消えて行き、
 闇夜を貫くように黄金の柱が天を貫き、
「……ごめん、モンモランシー」
 青年は手の中の少女へと視線を落とし、呟く。
 自分に傷が無い理由。彼女が傷を負っている理由。それを思って顔を苦渋に歪める。
 ……ごめん。
 どうやったのかは知らない。それでも現状を鑑みるに考えられるのは、自分の負った怪我を少女が肩代わりしたということ。
「……ごめん」
 気を失う少女を抱き、歩き出す。
 ――あ、あなたねえ! 明日にはアルビオン行くってわかってて何やってんのよっ!!
 不意に蘇る声。それに対してまた顔を歪め、『ごめん』と呟く。
 視線を前へと向け、現状把握。
 巨大なゴーレムに対峙し、こちらに驚愕の視線を向けて佇む少女を見つめ苦笑する。
 ……ごめん。
 それから、ありがとう。
「ダ、ダダダダーリン!? え? な、なんで怪我……」
 驚き、目を剥く少女にニコリと微笑み、手の中の少女を彼女の前に下ろす。
「っ!? モっ、モンモランシー……!?」
「すみませんが、彼女をお願いします」
 慌ててモンモランシーへと近付くキュルケの横を通り過ぎ、ゴーレムの前へ。巨大なそれの肩に座るフーケへと顔を向け、青年は口を開く。
「フーケ……あなたはどうしてこんなことをするんですか?」
 その問いにフーケは薄く笑うだけで答えず、
 そして、
「っ! ダーリン!!」
 返答はゴーレムの拳が。
 それをエリオは避けない。避けられない。その背に少女たちがいるから、また青年はその身を楯とし、
 そして――

 ドォオオオ――――……ッン!!

「「――――ッ!?」」
 その巨大な拳は、青年には届かず、
 ――彼のかざした手のひらの先に浮かぶ黄色の魔法陣が受け止めていた。
「……僕はもう、誰にも傷付いて欲しくない」
 呟き、ゴーレムが拳を引くと同時に跳躍! その肩に乗ったフーケへと一直線に飛ぶ!
「だったら――どうする!?」
 ゴーレムは引いた拳を再びエリオへと向けて放ち、
 エリオはそれを魔法障壁で防ぎ、弾き飛ばされる。
「ダーリン!!」
「相棒!!」
 ドン、と。半壊した宿の壁に叩きつけられ――そうになる直前に体を反転。エリオは両足で壁に着き、間髪入れずまたフーケへと跳躍! その衝撃で壁が崩れ、それを見ていたすべての人間が息を飲む。
「フーケ! あなたはなんのために魔法を使うんですか!?」
 叫び、拳に魔力を込める。
 ――ストラーダの無い状態で使える魔法は少ない。だからこそ、やれることは限られる。
「それを訊いてどうする!?」
 三度振るわれる巨腕! 一直線にエリオへと向けて走るそれと青年が激突し、
「――説得します」
 ズン、と。低い轟音を響かせ、ゴーレムの巨腕と青年の拳がぶつかり合う。
「なっ――!?」
 驚愕は一瞬。驚き固まるフーケに呼応してか動きの止まったゴーレムの拳に手をつき、エリオはその石の腕に飛び乗り――駆ける!
「あなたは悪い人じゃない!」
「ッ! なにを――!?」
 慌ててゴーレムへと命令を送るも後の祭り。今まさにゴーレムの肩へとたどり着いた彼をゴーレムで迎撃するのは難しく、フーケは舌打ち。ゴーレムを破棄することを決め、ゴーレムに使っている土を石の氷柱へと変え青年を――

 ――なんのために魔法を使うんですか!?

 ――迎撃しようする思考に走るノイズ。そのせいで一瞬だけ魔法の発動が遅れた。
「フーケさえ良ければ学院でまた働きませんか!?」
 再びの、そして決定的な隙を見逃すエリオではない。次々に地面から突き出される石柱をジグザグに動いて避け、フーケへと駆ける!
 対してフーケは目を丸くし、慌てて杖を振るって迎撃。青年の足場たるゴーレムを崩し、叫ぶ。
「はあ!? あんた何を――!」
「学院長は僕が説得しますから大丈夫です!」
 フーケは飛行の魔法で、エリオは人並み外れた跳躍力でそれぞれ暴落するゴーレムから離れ、二人は揃って瓦礫の上へ。
「この……! だから、わたしは『土くれ』のフーケよ!? それを、どこの世界に教員として招く学院があるって言うのよ!?」
 杖を振るい、鉄のゴーレムを幾つも生み出して青年へと走らせるフーケ。
「だからこそ、あなたには教員になって欲しいんです!」
 それをエリオは拳一つで迎撃! 魔力を纏わせたそれで鋼鉄のゴーレムを次々と粉砕して見せる!
「あなたなら――いえ、あなたにしか伝えられないことが、教えられないことがあるはずです!」
「っ! ずいぶんとわかったような口をきくじゃないかっ!!」
 誰もがそれを見て絶句した。
 身長二メートルほどのゴーレムたちは体を作るそれがまるで砂糖菓子のように易々と粉砕されて行く。
「あんたみたいな得体の知れない奴に何が――!」
「わかりません!」
 紫電纏う拳を振るい、、常人のそれとは明らかに異なる身体能力の高さと戦闘能力を見せる青年は、どこまでも真剣な様を崩さず叫んだ。
「だから、これから教わります!」
「なっ――!?」
 そして今度こそ、フーケは動きを止めた。
 意味が分からない。相手の真意が計れない、彼の言葉の意味が理解出来ない。
「ぁ……!」
 しかしそれでも、青年の瞳を見つめフーケは一つだけ理解出来た。
 ……まさか本気で!? 本気でわたしを学院に入れる気!?
「フーケ……あなたの事情を聞かせてくれませんか?」
 驚愕に目を剥き、後退るフーケにエリオは笑顔を向け、手を差し出す。
「あなたは、なんのために魔法を使うんですか?」
 フーケは答えず、一歩後退する。
 なんのために――そう問われ、思い出すのは一人の少女。そしてそれを思い出し、彼女のためと一瞬でも思ってしまった自分を自嘲する。
「……そんなの、自分のために決まってる」
 吐き捨てるように、目の前で笑顔を向けて佇む青年に返す。
「わたしは盗賊。言うなればお金のために――」
「では、そのお金はなんのために必要なんですか? なんのために盗むんですか?」
 エリオは遮り、問いを重ねる。
 それに殺意すら込めて睨んで返すも、彼は構えない。笑顔を、崩さない。
「魔法は人を助けるための力です」
 理解出来ない。
 なんなんだ、この平民は?
 彼の言っていることが、彼の考え方が普通じゃないことはわかる。青年の言うそれが平民の理想であり、貴族からすれば鼻で笑って相手にしないようなことなのもわかる。
 そしてそれがわかるからこそ、理解出来ない。
 そして何より、
 理解出来ない、
 わけの分からないのは――

 ――この青年の言葉に惹かれる自分。

 彼の言うそれに従ってしまいそうな自分自身が一番、理解出来ない。
「……わたしは犯罪者よ?」
「それならその罪を償えば良いんです」
 揺らぐ、心。
 彼の確固たる在り方を前にどこまでも揺らいで行く。
「…………」
 どうすれば良いのか、よくわからなくなって行く。
 どうすれば?
 どちらにするか?
 ……いつの間にか、当たり前のように彼の言うもう一つの選択肢が生まれていた。
「…………わたしは」
 それでも、
 半ば意地になって、
 彼の告げる選択肢を切り捨て――

 一つの銃声が上がった。

「ぁ」
「っ!? フーケ!!」
 それは誤射か、或いは何らかの刺客の仕業か。
 フーケは脇腹から鮮血を迸らせてくず折れ、
 エリオは慌てて彼女を抱き留め、
「フーケ! しっかりして下さいフーケ!!」
 そして結果的に、
 その一発が、すべての運命を変えた――。








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