嗣希創箱の消閑

小説、落書き、二次創作、etc…。 あなたの暇潰しのお供にどうですか♪ 

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

PageTop

《ゼロの使い魔~雷槍の騎士~2》13

《ゼロの使い魔~雷槍の騎士~》







 協議の結果、モンモランシーはタバサから結構な額の借金をして薬の原料を買いあさり、翌日には別れるだろう青年のために、夜になるまで部屋に籠もって集められるだけ集めた原料を調合していた。
 ついて行けないのならせめて薬だけでもと、とりあえず速効性の魔法薬を幾つかととっておきの魔法薬を一つ。気付けば、念の為と持って来ていた秘薬をも使って作っていた。
「…………さて、どうしたものかしらね」
 日も落ちた暗い一室で一人苦笑する。
 明日、エリオたちに渡す魔法薬は出来た。それはもう、自信をもって彼らの手に渡せるだけのものを作れた。
 しかし、
 ……借金返済のあてがないわ。
 モンモランシーは手の中の香水瓶を見た。
 色とりどりの小さくて綺麗な小瓶。その数、十と少し。中身はモンモランシーが自信をもって薦められる、それはもう凄まじく高価だろう魔法薬だった。
「…………一個、誰か他の人に売ろうかしら?」
 最初と違い二回目の買い出しは半ば意地になって金に糸目をつけず高くて珍しい薬の原料を買いあさったのが失敗だった。気付けば――と言うか、我に返った時には手遅れで、少女の小遣い程度ではどうやっても返せないだろう額になっていたのである。
 まったく、どうしてタバサがそんなに持っていたのかは知らないが、一言ぐらい注意しても良いのに、とモンモランシーは逆恨み気味に思う。しかもキュルケにいたっては『それだけで良いの?』なんて煽るのだから始末に負えない。そんな風に言われれば『もっと』と言うに決まってるわ、と自分の非を棚に上げて憤る。
「あ、そうよ! いっそキュルケに売れば――」
 ポンと手を叩き、さも名案とばかりに表情を輝かせてモンモランシー。しかし、次の瞬間にはその輝きは室内のそれに負けず劣らずの暗鬱としたものに変わる。
「――て、なんで知り合いの借金のために違う知り合いからお金を稼がないといけないのよ……」
 なんだかそれはものすごく情けない気がした。少女はため息を一つ、とりあえず出来た魔法薬を、持って来ていた肩掛けのバッグにしまい部屋を出た。
 そして、
「……………………え?」
 廊下に出て、少女は初めて一階の喧騒に気付いた。
「うそ……! これって――!?」
 騒がしいのは階下が酒場だから――ではない。
 今までそう思って気にしていなかったが、違う。
 違う。絶望的なまでに、違う。
 今まで全然それに気付かなかった。なにせ室内と廊下とでは防音性が段違いだったし、何より中では魔法薬の調合に集中していてから気にかける余裕が無かったからだ。
「…………っ!」
 モンモランシーは真っ青な顔になって駆け出す。
 騒がしいのは酒場だからでは無い。
 聞こえる喧騒に混じる怒号と悲鳴はそんな生易しいものじゃない。
 何より、時折響く銃声が酒場とかそんなのは関係無く今が非常時であると雄弁に語っていた。
「はぁ、はぁ……!」
 息せききって走る。
 目指すは青年の部屋。
 階下のそれに気付いたからこそモンモランシーは一目散にエリオの居るだろうそこを目指した。
 しかし――

「! モンモランシー! 伏せて!!」

 開けようとした扉は勝手に開き、
 中から出てきた会いたかったその人は、栗色長髪の美人顔を焦りに歪め、
 その青年と彼に肩を貸す少女の背後に、

 ――長大な岩の拳が、見えた。

「………………………………ぇ?」
 モンモランシーは反応出来なかった。
「く――っ!!」
 エリオは反応し、今まで縋っていた少女を呆然と立ち尽くす彼女へと突き飛ばし、
「ッ!? エリオ――!!」
 ルイズはとっさに動けず、突き飛ばされるがままに巻き毛の少女にぶつかり二人して転倒。
 そして次の瞬間――
 ドガシャァアアアア――――……!!
 凄まじい音を響かせて、
 岩の拳は宿の壁、窓、扉を易々と吹き飛ばし、
 そして、
 伏せた少女たちの目の前で、
 二人と少し離れた位置で自ら的になった青年は、

 ――赤く、弾けた。

 まるでトマトのように、血しぶきが舞った。
「「――――――――!!」」
 二人の少女の悲鳴が重なる。
 岩の拳に吹き飛ばされ、受け身はおろか満足に防御の体制すら取れなかった青年は反対側の壁に強く打ちつけられ、
 ズルリ、と重力に引かれて廊下に倒れるまでの軌跡を赤黒くべっとりと塗って記した。
「エリオ! エリオエリオエリオエリオエリオ!!」
 ルイズがいつかみたいに半狂乱で叫んで青年へと近付き、
 そして、

 ――モンモランシーの視界から、色が抜け落ちた。

「――触らないで!!」
「きゃっ!?」
 ともすれば、狂ってしまいそうだった。
 喚き、駆け出す友人を突き飛ばし、モンモランシーは青年へと詰め寄る。
 前と違って不思議と取り乱さなかった。前と違ってどういうワケか頭がひどくクリアーだった。
「……大丈夫、助かる」
 色の抜け落ちた、白と黒の視界の中で、即座にそうと判断。青年の傷で一番酷い後頭部と右腕を一瞥し、これならまだ助けられると確信する。
 理由なんて知らない。だけど頭の中に自然と浮かぶ手順に従い、今は手を動かす。
「エリオ!!」
「黙ってジッとしてなさい!」
 一番確実な縫合手術などは無理。だけど速効性の魔法薬は幸いにして手の中。
 モンモランシーはボロボロと涙を零すルイズを一括し、持って来た薬瓶を二つ手に取り、呪文を唱えながら二つを同時に青年の傷口へと垂らす。少女自慢の魔法薬はそれだけで見る間に傷口を塞ぎ、出血を抑えていく。
 ……もともと魔法がダメなルイズでも使えるようにってしていたのが良かったわね。
 今のモンモランシーは先ほどまでの魔法薬調合で精神力を大量に消費したためほとんど残っていない。
 通常、魔法薬である程度以上の速効性を求める場合必須な『魔力を込める』という作業を今の彼女は困難な状態であったが、少女の手の中のそれは普通の薬とは違い魔力を込める必要が無い。ルイズや平民であるエリオでも使えるようにと工夫と苦労をして作った特別性のこれは、製作段階で魔力の込もった高価な原料を溶かして混ぜ込み、調合の際に少女自身の魔力を存分に込めてある、市販の物とは出来も違えば手間暇も違う逸品だった。
「傷は……見た目ほど深く無いわね」
 とは言え予想より若干、治りが早い。モンモランシーは青年の傷を改めて見て回し、泣きべそをかきながらハラハラとした面持ちでそれを窺っていたルイズへと顔を向けて言う。
「たぶん、とっさに右手を盾にしたのね」
 未だモノクロの視界の中、複雑骨折なんて生易しい、重度の粉砕骨折を負っている青年の右腕を見ながらモンモランシー。それから少し離れた廊下に突き立つデルフリンガーを見つけて呆れ顔になる。
 ……あの一瞬で、肩から剣を?
 そのおかげで致命傷は免れているが、それだけのことが出来るなら素直に初めから避ければ良かったのに、と思って呆れる。
 ……たぶん、避けれたのに避けなかったのね。
 反応出来なかった二人を助けるためにわざと。重傷を負うことぐらい覚悟の上で青年は自らを囮とした。
「……無茶はしないんじゃなかったの?」
 バッグから包帯を取り出し、青年の頭に巻く。出血は抑えたとは言え流れ出た血は尋常な量では無い。それこそ白い包帯が即座に深紅となるほどで、モンモランシーは顔をしかめた。
「……色、まだ戻らないわね」
 黒に近い灰色に染まる包帯を見つめてモンモランシー。
「え……?」
 その呟きにポカンとした様子で聞き返すルイズ。それに『何でもないわ』と返し、バッグからもう二つ、香水瓶に入れた魔法薬を取り出して青年にかける。
 片方は先ほどと同じ魔力の込もったそれ。そしてもう一方のが、特に『水』に関する怪我に効くように調合した魔法薬で、要は即席の増血剤代わりであり輸血パック代わりだった。
「……たく! これだけで平民なら十年は遊んでくらせるわよ……!?」
 青年の様態が改善していくに連れ、視界に色が戻り声に涙の気配が混じり出す。
 モンモランシーはぶつくさと涙声混じりの呟きとともにテキパキと青年に包帯を巻いていく。
「……ぁ」
 その様子を見て、ルイズは小さく声を上げた。

 ――フーケん時に何もしなかったあんたなんか足手まといよ!

「――――ッ!!」
 思い出した。
 昨日の朝、自分の言った台詞を思い出した。

 ――人のこと散々馬鹿にしておいて、何よ!

 それは、言っちゃいけないってわかっていながら、

 ――いざとなったら何の役にも立たないじゃない!

 それでも、言葉を止められなかった。

 ――だから、あんたなんか要らないの!

「……モンモランシー」
 胸が、痛い。後悔と自責の念から、締め付けられるように痛い。
「ん?」
 モンモランシーはゆっくりと振り返り、
 ルイズは謝ろうと思って、
 しかし、

「――あら? もしかしてわたしのこと忘れてない?」

 ズン……――。
 低い地響きと打って変わって響く高い声。
 吹き飛ばされ、風通しどころか視界を遮るものすべてをぶち抜かれた壁の向こう。
「――――ッ!!」
「な――っ!?」
 ルイズは即座に反転し、モンモランシーは目を剥く。
 本来なら月明かりが少なからず入って来るはずのベランダに居る、光を遮る巨影。
「な、なんで……」
 『それ』は、いつかの巨大なゴーレムに乗った、
 『土くれ』の二つ名を持つ、大盗賊――
「なんであんたが出てくるのよ――フーケ!!」
 ルイズは叫んだ。
 対して『それ』は――フーケはゴーレムの肩に腰掛け、月光の下、ニヤリと笑った。

 ◇◆◇◆◇

 それは結界の内側。
 トリステイン魔法学院の図書室の最奥。『人払い』と『認識阻害』の魔法により他者には見ることの出来ないそこ。
 幾つもの書籍とともに地上三メートルの位置に滞空する、『赤いてるてる坊主』――アリスは静かに閉じていた瞳を開けた。
「……エリオさんが落ちた」
 リィン……――
 少女の呟きに合わせて右目の片眼鏡に吊された鈴が鳴る。
「――介入すんのか?」
 その音に呼び出されるように、高い本棚の陰から忽然と姿を表す銀髪に黒いスーツを着た青年――カオル。サングラス越しの視線を宙に浮く少女に向けてニヤニヤと笑う。
「――必要ないんじゃない?」
 響く声は二人のそれとは違う、少女のもの。しかしその姿は無い。
「――大丈夫だろ、彼なら」
 次いだ声は低い男のそれ。先の声と同様、その姿は図書室のどこにも無い。
「――どうしますか? 我が主」
 そしてまた姿無き女性の声。アリスでもなく、先の少女のものでもない落ち着いた大人の女性の声。
「……しばらくは様子見に徹するわ」
 それらの声にため息を吐かんばかりの、心底つまらなそうな声でアリス。幼い見た目と打って変わっての乾いた表情で言い、足下の青年へと視線を向けた。
「もし彼が死んでも……――」
 そっと瞳を閉じ、開けた、その時には、
「――『人柱』はあるでしょう?」
 少女の付けたモノクルの内側――アリスの右の瞳には、
「ま、確かに」
「なんなら私が出よっか?」
「いや、俺やアルと同じで介入出来ないだろ?」
「……我らは未だ、この世界に紹介されてませんから」
 ――血色の魔法陣が浮かんでいた。

 ◇◆◇◆◇

 状況は最悪だった。
 いつの間にか眠ってしまっていたエリオとともにただ床に座り、呆としていたルイズ。魔法薬調合のため部屋に籠もっていて気付かなかった少女との違いは、寝ていても尚、外からの襲来に気付ける人間と一緒にいたことだけ。
 いきなり飛び起きた青年に対し、ルイズはしばらく怪訝な視線を向けていたが――
「良かった、覚えてくれたのね」
 ――ベランダの向こうに佇むゴーレムを目にして血相を変えた。
「あんた、今は牢屋に入ってるはずじゃ……」
 頬を冷や汗が流れて過ぎる。
 ……最悪だわ。
 おそらくは治癒魔法のために精神力を使ったであろうモンモランシーはもとより、重傷を負って気絶している青年ななど頼れない。
 故に、
 ルイズは二人を庇うように、フーケへと一歩近付く。
「あら? まさかまた、あなた一人でわたしに挑む気?」
 そんな少女に嘲笑を向けながらフーケ。いつかのようにどこまでも見下しきった視線でルイズを見、しかし以前のように油断はしない。
 ……最悪。
 ルイズはそんな彼女を睨みながら奥歯を『ギリ……』と鳴らす。
 ……どうする?
 フーケの実力は知っている。
 以前の『破壊の杖』に関する事件で直接的、間接的に戦い、自分とキュルケ、タバサと今はいないギーシュの四人を撃退し、キュルケとカルディナに重傷を負わせた『土』のメイジ。最終的にエリオ一人に圧倒的な実力差でもって捕縛され王宮へと送られた、『土くれ』の二つ名持つ大盗賊。
 エリオの倒れた今、彼女を倒せるメイジは一人しかいない。そしてその人はおそらく階下の喧騒に巻き込まれて身動きが出来ない状態だろう。
 つまり――最悪。
 前回のような『杖に見えない杖を使う』という奇策は、フーケに限ってはもう通じない。頼みの綱のワルドは階下。切り札中の切り札である青年は二人の盾となって撃沈。
 今、目の前のメイジと戦えるのは二人。その内、モンモランシーは精神力に難があり、今尚重態だろう青年の治療をしなければならないため戦えない。
「……あんたの相手はわたしがするわよ」
 つまり、必然的に残るのはもう一方のみ。
 ルイズは青ざめた顔をフーケに向け、冷や汗の止まらない頬をそれでも挑発的に歪める。
 ……最悪ね。
 どうやっても勝てない。それをわかっていて、ルイズは背を向けない。
「ルイズ……!」
 その背に友だちがいるから。
 その背に大切な使い魔がいるから。
「……エリオを連れて逃げなさい、モンモランシー」
 ともすれば竦んでしまう両足を、それでも前へと進め、
「下に。それでワルドに守ってもらいなさい」
 杖を片手に、
 夜風に学院のマントをはためかせて、
 フーケにまた一歩、近付く。
「ルイズ……!? あなたまさか――」
「良いから、早く!」
 ルイズは、逃げない。
 決して、敵に背を向けない。
「フーケなんてわたし一人で――」
 そんななけなしの勇気と意地を賭けて立ち向かう少女を、

「――……ばかね」

 フーケは嘲り、
 ドッグォオオオオ――――……!!
 次の瞬間、ゴーレムの巨大な拳が振り下ろされ、半壊した部屋を粉砕。
「なっ――!?」
「きゃっ――!!」
 床に走る亀裂は即座に倒壊。部屋の内外を問わず、床という床が自重に耐えられなくなって崩れ落ちる。
 遠く、近く、悲鳴が上がり、『ゴォオオオ……!』と、地響きを立て、宿の一部が呆気なく崩れる。
 そこに居た、三人を巻き込んで――
「…………」
 それを、
「……………………」
 フーケは笑みともつかない、なんとも言えない微妙な表情を浮かべて眺めていた――。

 ◇◆◇◆◇

 死ぬかと思った。
 何の誇張でも無く、たまたま崩れ落ちた階下にキュルケやワルドたちが居て、タバサが落ちてきた自分たちに気付いて魔法を使ったから良かったが、そうでなければ間違い無く死んでいた、とモンモランシーは思った。
「……なるほど。敵にはあの『土くれ』のフーケがいるのか」
 落ちてきた二人の話を聞き、この中で最も頼れるだろう子爵は思案顔で腕を組み、瓦礫の向こうを睨んだ。
 倒壊し、瓦礫の山を成す酒場の成れの果て。そこに今、ルイズたちは居る。
「……参ったね」
 そして瓦礫を挟んだ向こうには、たくさんの傭兵がいて時折矢を飛ばして来る。モンモランシーら三人が気にしていた階下の喧騒の元凶が彼らであり、酒場にいたワルドら三人にいきなり襲いかかったらしい。
「やっぱり、この前の連中は、ただの物盗りじゃなったわね」
 フーケによって崩落した瓦礫を挟み、今なお殺意を向けて来る連中に苦い顔を向けてキュルケ。
「あのフーケがいるってことは、アルビオン貴族が後ろにいるということだな」
 少女の言葉に頷き、ワルド。そして苦い顔で何かを考えてるらしい彼をチラと見て、キュルケは考える。
 ……連中はちびちびとこっちに魔法を使わせて、精神力が切れたところを見計らって一斉に突撃する気ね。
 そしたらどうする?
 キュルケはワルドに向けていた視線を隣の少女に向ける。
「……いま動くのは危険」
 無表情にタバサ。その自分が最も信頼する友人からの言葉に苦笑で返し、視線を背後へ。
「……大丈夫なの?」
「傷自体は塞いだわ。今は気を失ってるだけよ」
 不安顔を気絶した美女に向けるルイズと、こんな状況でありながら治癒魔法を使うことに余念の無い様子のモンモランシー。
 ……二人は戦力外ね。
 内心でそう結論付け、視線を少女の中心で瞳を閉ざし、巻かれた赤黒い包帯が痛々しい美女に向ける。
 ……最悪ね。
 思わずため息を漏らすキュルケ。こういった危機的状況に何よりも信頼出来る青年を欠いた今、彼女には現状を打破する術が思いつかない。
 せめて何か一つでも手があれば――
「いいか諸君」
 そんな折に聞こえた低い声。キュルケはハッとした面持ちで声を発したワルドを見た。
「このような任務は、半数が目的地にたどり着ければ、成功とされる」
 半数。
 つまり残りは――
「…………」
 その言葉を聞き、タバサはスッと音も無く杖を自分とモンモランシー、そして倒れたエリオへと向け『残る』と言った。
「なっ――!?」
 ギョッとしてタバサを見る。
 しかしこんな時にも無表情な少女はキュルケを無視して残る三人を杖で示して小さく口を開く。
「桟橋へ」
 キュルケ、ルイズ、ワルドを当分に見回して言った。
「時間は?」
 それに真剣な声でワルド。
「今すぐ」
 迷わず、間髪入れずタバサ。残された半数がどうなるか――それをわかっていて少女は言った。
 そして、
「却下よ」
 その案を切って捨てる。
「…………」
 少しだけ目を丸くして自分を見つめる少女にキュルケは笑いかける。
 ……さすがね、タバサ。
 半数――それを聞いてギョッとした自分とは違い、即座に片方を切り捨てる覚悟を決め作戦とも呼べない作戦を口にした少女に心底感嘆する。
 さすがはタバサ。さすがはあたしが認めた、あたしの友だち。
 窮地の時、頼りになるのは何もエリオだけではない。そしてそれが故に、キュルケは信頼する少女の言葉に異議を唱える。
「タバサ。あなたもルイズたちと行きなさい」
「…………っ!」
 その言葉に今度こそ誰が見てもわかるほどに大きく目を丸くするタバサ。
「残るのはあたしとモンモランシーとダ――キャルゥ? よ」
 キュルケは視線をワルドに向けて言う。
 それに子爵は残されるのがどちらでも大して興味は無いのかあっさりと頷き、
「だめ」
 タバサが食い下がった。
「あなたは行って。残るのはわたしと――」
 少女は真っ直ぐにキュルケへと視線を向けて口を開き、
「タバサ」
 キュルケは少女を抱き締めて言葉を止め、
「……………………ょ」
「――――!?」
 耳元でそっと囁き、頬に口付け。
 そしてキュルケは、絶句し、呆然とするタバサから体を離しウィンクを一つ。笑顔をただ成り行きを見守っていたワルドへと向け、口を開く。
「残るのはあたしよ。すいぜい派手に暴れるからその隙にとっとと桟橋にでも行きなさいな」
 その台詞に、もう反論の声は上がらない。
 ワルドはキュルケの傍らで顔を伏せ、口付けされた頬に手を当てて佇む少女を一瞥し、それから視線を背後へと向けて口を開く。
「聞いての通りだ。裏口に回るぞ」
「……え?」
 子爵の視線の先――言われたルイズは目を丸くして驚いた声を上げた。「え?」
 少女は今まで彼らの話を聞き流していた。
「ええ!」
 重態の使い魔のことで頭がいっぱいだったため、タバサやキュルケの言葉も聞くとはなしに聞いていたため気にしていなかったのだが、
「今からここで彼女が敵をひきつける。その隙に、僕らは裏口から出て桟橋に向かう」
 狼狽する少女を見つめワルドはそう宣言し、
「で、でも……!」
 ルイズはオロオロと傍らのモンモランシーを見た。
「……ま、仕方ないわね。わたしたちは足手まといだしさ」
 それに苦笑し、気絶する青年へと視線を向けるモンモランシー。そしてゆっくりと彼の血で汚れた頬をハンカチで拭いながら、小さな声で言葉を次ぐ。
「……大丈夫よ。あなたの使い魔はわたしの命にかえても守ってみせるから」
 ……ぁ。
 ルイズはそう言った少女の顔を見てようやく気付いた。
 先ほどまでキュルケやタバサが『どちらが残るのか』で軽く言い争っていた理由がようやく。
 半数が行き、半数が残る――その言葉の意味をようやく理解した。
 そう、つまり――

 ――残された半数は死ぬ可能性が極めて高いということに、ルイズはようやく気付くことが出来た。

「そ、そんなの――!!」
 たまらずルイズは首を振って全てを否定しようとし、
「行こう」
 それを、小さな声が遮った。
「え……?」
 呆然とルイズは声の主を――この作戦の危険性を一番明確に理解しているだろう青い髪の少女を、見る。
 ……どうして?
 ルイズは困惑する。一番キュルケが残ることを反対していたタバサには、もう迷いが無かったから混乱する。
 そして、
「――ねえ、ヴァリエール」
 呆然としたまま、ルイズは視線を転ずる。
「勘違いしないでね? あんたのために囮になるんじゃないんだからね」
 その視線の先で、赤毛の少女はいつものように挑発的に笑っていた。
「キュルケ……」
 ルイズは泣きそうになった。
「ほら、さっさと行きなさいよ」
 そんな彼女の背を、傍らの少女が押した。
「モンモランシー……」
 巻き毛の少女もいつものように笑っていた。
「タバサ……」
 不意に手を握られ、その手の先で青い髪の少女が表情に乏しい顔で頷いて見せた。
「…………………………………………」
 ルイズは顔を俯けた。
 肩を震わせ、歯を食いしばり、そしてすぐに顔を上げた。
「……行くわ」
 今にも泣き出しそうな顔で、
 まるで泣いているように声を震わせながら、
 それでも少女は涙を流さず、言った。
 これが今生の別れにならないように、青年と別れると決めた時に一緒に決めた誓いを違えぬように――
「…………行こう」
 少女は泣かない。
 今だけは決して――。






次話/前話
スポンサーサイト

PageTop

コメント


管理者にだけ表示を許可する
 

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。