嗣希創箱の消閑

小説、落書き、二次創作、etc…。 あなたの暇潰しのお供にどうですか♪ 

《ゼロの使い魔〜雷槍の騎士〜2》1

《ゼロの使い魔〜雷槍の騎士〜》


 ――第二章――






 ――夢。
 小さかった時の夢。
 トリステイン魔法学院から馬で三日ほどの距離にあるルイズの生まれ故郷――ラ・ヴァリエールにある屋敷の『秘密の場所』。
 人があまり寄り付かない、うらぶれた中庭にある池の、小船の中に夢の中の幼いルイズはいた。
 空に浮かぶ二つの月の片方――赤い月が満ちる夜のこと。幼い少女は出来の良い姉たちと魔法の成績を比べられ、そして母に『物覚えが悪い』と叱られて逃げて来たのである。
「ぅっ……ぅぅ……」
 予め用意しておいた毛布にくるまり、ルイズは小船に潜んで泣いていた。
 中庭の池は周りを季節の花々が、そして中央には小さな島があり、少女のいる小船はもともとそこで舟遊びを楽しむためのものだったが、今は誰もそれをしない。成長したルイズの姉たちは魔法の勉強で忙しく、軍務を退いた地方のお殿様である父親は近隣の貴族との付き合いと狩猟以外に興味は無い。母親も娘たちの教育と嫁ぎ先以外目に入らない様子であり、この中庭の池とそこに浮かぶ小船を気に留めるものは、屋敷の中でルイズ以外いなかった。
 そんなワケで幼き日のルイズは叱られると決まってそこに逃げ込み、一人泣いていたのだが――
「――泣いているのかい? ルイズ」
「――――ッ!?」
 中庭の島にかかる霧の中。ルイズが声に驚いて顔を上げると、一人のマントを羽織った立派な少年がいた。
 年の頃は十六ぐらいか。夢の中の幼いルイズが六歳ぐらいの背格好に対し十歳ばかり年上に見えた。
「……子爵さま、いらしてたの?」
 つばの広い羽根つきの帽子のせいで少年の顔は判別出来なかったが、ルイズには彼が誰だか一目でわかった。
 子爵さま――最近、近所の領地を相続した年上の貴族であり、晩餐会をよく共にした少女の憧れの人。
 そしてルイズの父と彼との間で交わされた約束――
「〜〜〜〜!」
 少女は慌てて顔を隠した。みっともない所を憧れの人に見られて恥ずかしかったのである。
 そんな彼女の反応など気にも留めず、少年は口を開いた。
「今日はきみのお父上に呼ばれたのさ。あのお話のことでね」
「まあ!」
 その言葉に顔を赤らめるルイズ。ほんのりと胸を熱くして顔を俯けた。
「いけない人ですわ、子爵さまは……」
 彼の言う『あのお話』とは、幼き日の自分の父と彼との間で交わされた約束――少女と少年が将来結ばれるという、婚約話のことだろう。
 それを思い、恥いるルイズに対し、子爵はおどけた調子で言う。
「ルイズ。ぼくの小さなルイズ。きみはぼくのことが嫌いかい?」
「いえ、そんなことはありませんわ」
 彼の言葉を反射的に否定するルイズ。それから、まだほんのり赤い顔で、『でも』と言葉を次ぐ。
「……わたし、まだ小さいし、よくわかりませんわ」
 そう、はにかんで言う少女に彼はにっこりと笑った。
 そして手をそっと差し出す。
「子爵さま……」
「ミ・レイディ。手を貸してあげよう。ほら、つかまって。もうじき晩餐会が始まるよ」
 その優しい声と差し伸べられた大きな手に、ルイズは眉根を寄せた。
 彼は憧れの人。だから本当はすぐにでも、その手にすがりたい。
 しかし――
「…………」
 どういうワケか、今はその手にすがれなかった。
 子爵から視線を逸らす。
 いつの間にか夢の中の自分は十六歳の、今の姿であった。そしてそれに伴い思い出した事柄が、ルイズを踏みとどまらせていた。
 ……わたしは――
 拳を握り締める。
 憧れの子爵。小さい頃の自分は確かに彼のことを憎からず想っていた。
 だけど――
「……また怒られたんだね? 安心しなさい。ぼくからお父上にとりなしてあげよう」
 いつまでも手を伸ばさない自分に子爵が優しい声音で言う。
 それに、幼き日のルイズならば手を差し出したろう。少年の優しさに縋り、その手を握ろうとしただろう。
 しかし、夢を夢と認識した今の――十六歳のルイズは、その手を握れなかった。
「……子爵さま。わたしは――!」
 意を決したように顔を上げ、
 しかし、その先にいたのは――
「…………ぇ?」
 頭が真っ白になった。
 突然吹いた風が、少年の帽子を運び去り、
 そして現れたのは、赤い髪の青年――エリオだった。
「そっか。ルイズ……婚約者がいたんだ」
 当惑する少女をどこか陰りのある微笑で見つめ、エリオは伸ばしていた手を引っ込めた。
「……あ!」
 ルイズは混乱した。夢だということを忘れて焦りまくった。
 青年に婚約者がいることを知られてしまった。そのことで少女の頭はいっぱいになった。
 ……い、言い訳を!
 そう思い、言葉を探すが、しかしとっさに思い付く言葉など無く、思考はさらにぐちゃぐちゃになっていった。
「ち、違うの……!」
 何が違うのかは自分にもわからない。それでも口をついて出たのは否定の言葉。
「わ、わたし――!」
「ミ・レイディ」
 なんとか自分の想いを言葉にしようとしたルイズを、遮る声。
 それは先ほどまで、自分の胸を温めていた憧れの子爵の声であり、思わず肩を震わせて振り向いた先に立っていたのも、やはり憧れのその人だった。
「し、子爵さま……!」
 いつの間にかルイズたちは暗闇の中に立っていて、小船や池などは消えていた。
「ルイズ。ぼくの小さなルイズ。きみはぼくのことが嫌いなのかい?」
 しかしそのことに誰も気付かない。気付く余裕がない。
 青ざめ後ずさる少女に、いつかの姿のまま子爵は聞いたことの無い憂いを帯びた声で問うた。
「わ、わた、わたし、は……!」
 どうしようもなく声が震えた。
 子爵を嫌いか、と問われれば否だ。憎からず想っていたし、その優しさには好意も多少はあったと思う。
 何よりも、彼は幼き日の自分の憧れであった。だからこそ嫌いなワケが無い。
「わたし、は……」
 嫌い、では無い。
 では、『好き』なのか?
「…………わたし、は」
 今のルイズにはわからない。自分の想いが何なのかわからない。
 子爵からそっと視線を逸らし、後ろのエリオを見る。
 彼を召喚し契約してから今日まで、自分は彼のことが好きなのだと思っていた。
 だけど――
「わたしは――」
 子爵が好き?
 エリオが好き?
 ……わからない。
 二人とも嫌いでは無い。この想いがどういう『好き』なのかがわからない。
 憧れ?
 羨望?
 恋?
 ……わからない。
 今日まで子爵のことを忘れていた。
 だけど今は、彼と、そして幼き日の想いを思い出していた。
「……ルイズ」
 この使い魔である青年に、自分は本当に『恋』と呼ばれる想いを抱いていたのか?
「ルイズ」
 わたしの抱いていた想いは本当に憧れ意外には無かったのだろうか?
「………わかんない!」
 闇の中、瞳を閉じ、耳を手で覆って、うずくまる。それでも夢だからか、少女には青年と子爵の声が聞こえた。二人の、自分を呼ぶ声が聞こえ続けた。
「わかんないのっ!」
 暗闇の中で少女は叫んだ。
 『好き』って気持ちが、どういう気持ちなのか――ルイズはわからなくなっていた。

 ◇◆◇◆◇

 翌朝。
 ルイズは目の下にくっきりと隈を浮かべて午前の授業へと向かっていた。
 ……結局、あれから一睡も出来なかったわ。
 憧れの子爵を自分は好きだったのか?
 使い魔である青年への想いは本当に恋なのか?
 悩みに悩んだ末、結局ルイズは答えを見いだせぬままに朝を迎えていた。
 ……あとでモンモランシーにでも聞こう。
 心底疲れ果てたようなため息を一つ。ルイズはヨロヨロと本塔にある図書館へと向かって歩いた。
 図書館――本来の授業を受ける教室では無いが、別に少女が寝不足で間違えたワケでも、ましてや色恋の悩みを解決させるために向かっているのでもない。
 ルイズは一週間ほど前からこの図書館で授業を受けることになっているのだ。
「……おはようございます」
 図書館の入り口に座る眼鏡をかけた司書に挨拶し、ルイズはノロノロと入室。
 見渡す限りの、二階、三階分はゆうにある高い本棚にも慣れたもの。ルイズは半分閉じかけた瞳でユラユラと揺れながら奥を目指して歩いた。
 そして――

 果たして、奥まったそこに――少女はいた。

 例えるならそれは、赤い『てるてる坊主』か。真っ赤な、丸いクッションのような帽子に、同じく赤のマントを羽織り、年の頃は十歳前後。前面までキッチリ閉じられたマントから覗くのは金属製の靴だけで、素肌が見えるのは首から上だけ。周りの赤に栄える白い肌と、うなじや耳の辺りに僅かに見える金髪の、整った容貌の美少女。
 彼女が一週間ほど前――舞踏会の次の日からのルイズの専属講師だった。
 ……まるで怪談ね。
 寝ぼけ眼で見つめながらルイズはため息。
 目の前――半二階ほどの高さで浮かび、瞳を閉ざして空中に座す、この『赤いてるてる坊主』の周りには、たくさんの本が少女を中心とした円形に並んで浮いていた。
 どういう理屈か、彼女の周りで浮かぶその本たちは少女へとページを向け、一定の早さで勝手にページをめくっている。
 この光景を初めて見た時は驚いたな、とルイズは遠い目をして思った。オスマンにいきなり『次の日の授業は図書館で』と言われた時以上に、このきっかいな光景には驚愕したものだ。
 ……まあ、いい加減慣れたけど。
 初めこそ驚いて、思わず魔法を使っちゃったが、一週間ともなれば慣れる。たとえ少女がこうやってたくさんの本を一辺に読んでいるんだとしても、そんなのは既にルイズには日常のこととして受け入れていた。
「……ふあ〜。おはよう、アリス」
 欠伸混じりにルイズ。それにアリスと呼ばれた『てるてる坊主』は反応。瞳を開け、その小さくて整った顔を足下にいる少女へと向けた。
「あ。おはようございます、ルイズさん」
 ――リィン。
 アリスが振り向くのに併せ、彼女が着けていた右目の片眼鏡――モノクルに付けられた鈴が澄んだ音を響かせた。
「……じゃあ、今日もよろしく」
 そう言って、ルイズは少女に背を向けて読書スペースへと行く。
 この授業に距離は関係無い。そして必要なのは杖でも本でも無く、右手に巻かれた青年のデバイスであり、それがあればどこでも授業を受けられる。
 ……なにせ授業は念話を介してなんだものね。
『えっと……昨日はどこまでお話しましたっけ?』
 適当な本を見繕い、席に着くと、早速アリスからの念話が来た。
 それにルイズは表情を変えず、やはり念話で返す。
『……「魔導師ランク」っていうのについて少し聞いたわ。エリオがなんか凄く強いって話で、今日はそれを具体的に説明するとかなんとか』
 この一週間、ルイズは魔法の勉強と称して異世界――エリオたちの世界のことをアリスから教わっていた。
『はい。ではエリオさんの魔導師ランク――この際、術式や「陸戦」「空戦」「総合」は問わず「AAA」というクラスだけを見て、大まかに説明しますね』
 そもそもルイズが使う魔法の特性が既存の四系統ではないとオスマンに話したのがきっかけで、この奇妙な授業が始まったのである。
 表向きは、魔法の特に出来ない少女に対する補習や特別授業として。そして本質は、ルイズが使う魔法が『虚無』の系統であった場合の対処として、この授業が始まった。
『こちらの世界での魔導師――メイジの中で最高位が「スクウェア」でしたか? それが大体、わたしたち魔導師でいう「A」クラスに該当するとします』
 喪われた伝説の系統――『虚無』。そんなものを教えられるメイジなどおらず、かと言って大っぴらにその使い方や少女が使えるかも知れないなどということを広めるワケには行かない――そう判断した学院長は、異世界から来た青年の補佐官であった少女に、それを託すことにした。
『……まあ確かに、エリオはスクウェア・メイジより強いかも知れないけど……それでもあいつよりわたしたちの世界のメイジが弱いみたいな言い方は何か嫌ね』
 アリスはもともと、この『ハルケギニア』のことを調べるために遣わされた、言わば調査のプロだった。
 彼女は長年ミッドチルダ本局の無限書庫で司書を勤めていたらしく、オスマンから図書館の出入りを許されるや、その探査技能を遺憾なく発揮して即座に『虚無』のことを調べあげて見せたのである。
『あ、違いますよ。この場合は強さより稀少価値の方を指して言ってます。Aクラス――つまりスクウェア相当のメイジはとても少ないものとわたしは思いますが、如何でしょう?』
 その結果は、どうにも『虚無』の曰わくや伝承、資料が驚くほど少なく、またその系統に目覚める者は少ないが、しかし過去幾度か目覚めた者がいた――という詮無いこと。そして図書館中の本を読んだワケでは無いが、その調査には時間がかかり、尚且つ、もしかしたらここにある資料だけでは見つからないかも知れないと言うことだけ。
 つまりアリスにも『虚無』は教えられ無いということだった。
『……まあ、確かにスクウェア・メイジは少ないわね』
 少女にも、そして学院にいる誰にも虚無は教えられない。
 しかし他の魔法を教えても、どうやらルイズの特性が邪魔をして全ての魔法が失敗するらしいことはわかっていたため、系統魔法を教えても無駄。
『こちらの世界でもAクラス相当の魔導師は少ないですが、確かにいますし、Aクラスもあれば十分一流の魔導師と言えます。そしてエリオさんのAAAクラスともなれば更に稀少で、こちらで言えば「虚無」――とは行かないまでも、とても強力で珍しいです』
 しかし教えるべき事柄が何も魔法だけとは限らない。
 ルイズは異世界の魔導師と契約した、異端なるメイジ。そして時空管理局側としては管理世界を管理する際にある程度の情報交換は必須であり、民間協力者とのより良い関係を築くためには、異世界の知識をある程度は開示する義務があった。
 そんなワケでルイズは、アリスが図書館を調査する傍ら、彼女から異世界の知識を教わることに。
『強さで言えば……そうですね。例えばエリオさんは、一人で一般人のみからなる国を壊滅させられます』
『――――ッ!!』
 サラッととんでもないことを言う少女に、ルイズはカモフラージュ用に立てた本の向こうで息を飲んだ。
 ……た、確かにエリオは馬鹿みたいに強いけど――
 青年とフーケとの戦いを思い出し、改めて戦慄する。アリスの言うように、彼なら平民だけの国なんて簡単に潰せるような気がした。
 だけど――
『……エリオはそんなことはしないわ』
 あの優しくて、人の傷みを知る青年は、絶対に無益な殺生はしない。
『それはわたしも信じています
 その意見にアリスは肯定。そしてその上で『ですが』と言葉を次ぐ。
『――それでも時と場合によっては、変わって来るでしょう』
『変わらないわよ!』
 アリスの言葉に拳を握り締めて強く反論。しかし――
『例えば――あなたです、ルイズさん』
 そんなルイズを嘲笑うように、一際醒めた声でアリス。十歳に届くかどうかという外見からは想像出来ない、無機質で冷たい、疲れ果てた老婆のような声で言葉を次いだ。
『あなたが、例えば命令します。「あの国を滅ぼして」と』
 息を飲む。
『そ、そんな命令、わたしは――』
 どこか気圧されつつ反論するルイズに、アリスはやはり醒めた声で言う。
『例えばあなたが、戦争に参加したら。例えばあなたが、どこかの誰かに人質として捕まり、命令を聞かなければ殺されてしまうとしたら。例えばあなたが、「虚無」を軍事利用しようとした国や世界に狙われるとしたら』
 それらの例えを聞き、ゾッとした。そのどれもがこれから先、無いとは言えなかった。
 ルイズ青ざめる。そして想像した。そのどれか一つでも本当になれば――青年は自分のために世界を敵に回してしまうのでは、と。
『……強すぎる力はそれだけで争いを呼びます』
 知らず肩を抱き締めていたルイズに幾分優しい声音を取り戻して、アリス。
『あなたは今は「ゼロ」のルイズかも知れませんが、いずれは虚無の担い手になるかも知れないのです。そしてそれでなくてもエリオさんの力は、国を脅かせるほどに強力だと言うことを忘れないで下さい』
 その言葉にルイズは苦笑した。
 ……なによ、それ。
 笑えてくる。ほんの一週間前にも似たようなことを言われた。
 ――ルイズさん。あなたは確かにたまたまエリオくんを召喚しただけかも知れませんが……――
 『キャロ』といった、青年の仲間であった飛竜の使い手は自分に真剣な瞳を向けて言った。
 ――それでも、あなたがエリオくんの主だということを、絶対……忘れないで下さい。
 笑える。今まで最強の使い魔だの無敵の槍だのと無邪気に縋り、振り回していたそれは、なるほど言われてみれば確かに強力だった。
 呆れる。呆れてもう笑うしかない。
『……はは、何よそれ。わたしは知らず、国を滅ぼせるだけの「槍」を手にしてたんだ』
 手のひらを見つめて『クツクツ』と笑う。この手にある力は強力無比なるそれ。自分のような無能なメイジには重すぎる力だった。
 急に締め付けられるように胸が痛くなった。この事がもし他国に知られれば――いや、他国でなくても、この国のお偉方にでも知られればえらいことになってしまう。
 カルディナを研究室にどうこうなんかよりもある意味凄い。何せ自分の使い魔が一人いるだけで国一つ滅ぼせるのだから、もはや笑うしかない。
『いえ。正確にはそこまで強力では無いです。流石にメイジが一人も居ない、ましてや軍人がいない国なんてありませんから、彼一人で国一つは――』
『気休めは止めて』
 アリスの言葉を一蹴。確かに『彼一人では』国は落とせないだろうが、何も彼が一人だけで戦う必要は無い。
 単純にエリオ一人で千のメイジなり兵士の相手が出来るのであればそれだけで国を脅かせるだろう。
『……そうですね。とりあえず今回のお話で、如何にルイズさんが重要な人間であり、エリオさんがどれだけ危険な存在かを知って頂ければお話したかいはあります』
 ルイズはその言葉に冷や汗を拭い、深呼吸をして落ち着かせてから問いかけた。
『……で? そういうあんた達はどれくらい強いのよ?』
 それはただの勘だった。
 エリオが強いのは知っていたし、その具体的な強さには心底ゾッとしたが、それでも今、自分の胸を締め付けている傷みは彼のせいでは無かった。
 強さがどうのと語った時の、老婆のように醒めきった声で話したアリスにこそルイズは戦慄した。フーケを前にした時やエリオの本気を目の当たりにした時とは比べものにならない、生物の根源的な本能から来る恐怖を少女に覚えたのだった。
『……わたし達は魔導師資格を保持していません』
 冷や汗が止まらない。具体的なそれを知らなければ、恐怖などしないだろうことはエリオのことで痛感していた。
『良いから! もし魔導師の資格ってのを持ってたらどれくらいなのよ!?』
 だけど聞かなければならない。
 本能が、いくら『聞くな』と叫び、怯えていようとも、自分にはそれを知る義務がある。
 エリオという槍とカルディナという少女の主として、自分にはこのきっかいな少女の実力を正しく把握する必要があった。
 ……万が一、彼女が敵対したら――

『――SSS』

「…………ぇ?」
 一瞬、何を言われたのかわからなかった。
 そんなルイズの反応に、意味を理解出来なかったのだと受け取り、更に詳しく言うアリス。
『AAA、S、SS、SSSという魔導師ランクにおいての最高位。エリオさんをドット・メイジとするなら、わたしはスクウェアクラスのメイジですね。つまりわたしは総合SSSクラス相当に匹敵する大魔導師です』
 そんな彼女の言葉に冷や汗が止まらず、心臓が握りつぶされる思いだった。
 ……ははは。何よそれ?
 頭を机に突っ伏し、青ざめた顔で力無く笑う。
 国を脅かせるエリオが『ドット』?
 なんだ、それ。デタラメも良いところではないか。
『具体的な例を上げるなら――』
 ――止めて!
 もう言わないで良い! そんな本能から来る訴えを必死で抑えて少女はそれを聞いた。
『わたしのそれは、正真正銘、一国のそれに匹敵します』
 ――それはもう、あまりに馬鹿馬鹿しい力。
 ルイズは胸を締め付ける重圧に耐えながら、最初で最後となるだろう決定的な問いを発した。
『アリス。あなたはわたしの味方? それとも――』

 ――……敵?

 その問いにアリスは――



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HP:嗣希創箱の消閑  (ゼロの使い魔〜雷槍の騎士 "2"の第一話から / "1"のおまけ話から)原作:ゼロの使い魔場所:TOPページ→カテゴリ「なのは×ゼロ魔 クロス小説  (...

二次創作/SS/web小説/novel 情報 2007年11月10日(Sat) 00:45