嗣希創箱の消閑

小説、落書き、二次創作、etc…。 あなたの暇潰しのお供にどうですか♪ 

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 ◇◆◇◆◇

 信じるかどうかは後回しで。とりあえず話の続きを聞こう、と僕となのはは彼女の言葉を待った。
「……たとえば、ですね。この世界での出来事を前世で、アニメーションでみた、って言ったら……お二人は信じるですか?」
 果たして、佐々岡 蜜柑は告げる。
「アニメの題名を――『魔法少女リリカルなのは』」
 それはひどく荒唐無稽な話。
「内容は、ある日、主人公の少女が傷ついたフェレットと出逢い。暴れる怪物から街を守るために魔法のチカラを手に入れる、っていうところから始まる熱血バトルもの、です?」
 だけど、それは――聞き覚えのある話。
「それで、その主人公の名前をなのは。フェレットの名前をユーノ」
 それは僕らの話。
「危険な青い宝石を集めるために、主人公の少女と友だちのフェレットは頑張る――そんなお話を、わたしはアニメでみた記憶があるです」
 それはだから、本当に信じられないような話。
 だから、僕となのははポカンとして彼女を見て。だから、蜜柑自身もどこか冗談めかしたような雰囲気を漂わせていて。
「……あはは。まぁ信じられないですよね」
 だから――
「うん。わたしでもちょっと信じられ――」
 ――だけど。

「信じるよ」

 蜜柑の言葉に、なのははキッパリと言い放った。
「なのはは信じる。だって蜜柑ちゃんが話してくれたことだもん」
 だから、信じる。信じられる、と彼女はふんわりと微笑んで断言した。
 ……うん。まぁ、なのはならそう言うと思ったよ。僕は肩をすくめ、僕も信じるよ、と。一転して今度はポカンと口を半開きにして固まってる蜜柑に言った。
「まあたしかに信じられないような内容だったけどさ。でも、きみが言うなら信じてもいいかなって」
 少なくとも、これで彼女が僕のことを知っていたわけがわかった。少なくともこれで、さっきまでの『前世の記憶があるから僕らのこと知っている』理由も知れた。
 あとは信じられるかどうかで。それを信じるかどうかってだけで――つまりはもう彼女のことを信じないっていう発想が僕らには無かったってだけの話。
「ぅえ!? いっ、いやいやいや! ちょっと待ってくださいです!」
 果たして、どうして? と、慌てるのはむしろ蜜柑の方で。自分の言った言葉がどれだけ胡散臭いかを理解しているからこそ、なぜ僕らが信じてくれるのかわからないと目を丸くして言った。
 だから――僕となのはは顔を見合わて笑う。
「どうして、って」
「ねえ?」
「ぅえーッ!? な、なんでさも当たり前みたいな顔してわたしのことみるですかー!?」
 なんでですかー? と、クスクス笑いあう僕らに心底わけがわからないと首を傾げて問う彼女は、きっと気づいてない。
 なぜ、こうして彼女に会いに僕らがきたのか。どうしてあの日、彼女の怪我になのはが慌てたのか。あのとき、僕が魔法を使おうとしたのか。
 佐々岡 蜜柑という少女は、きっと気づかない。
 なまじ前世の記憶なんてものがあるせいで。なまじ自分を卑下するきらいがあるせいで。
 彼女はきっと、自分がどれだけ他人に想われているかに気づけない。
「ぅぅ……。二人が意地悪さんですぅ」
 そう言って唇を尖らせ、ちまちまとケーキを切り分けながら口に運ぶ蜜柑に、プッ、と吹き出してから。すっかりいじけてしまってる彼女に、僕は一転、まじめな声をつくって問う。
「――それで、だ。蜜柑。もしかしてきみ、これまでのことはおろか『これからのこと』も知ってたりするんじゃない?」
 先の話が本当なら。
 本当に蜜柑がこの世界のことを一つの物語としてみていたというなら。
 ジュエルシードを巡る、僕となのはの『これから』を彼女は知っているんじゃないだろうか?
「きみの言う危険な青い宝石――ジュエルシードを僕らはたしかに探してる」
 彼女の言うアニメが本当にあったのなら。きっと今の僕らの状態は、まだ物語の途中であり。おそらく始まりがジュエルシードを巡って、というのなら、最後はそれを集めきっている状態を指すのだと思う。
「だからもし、蜜柑がジュエルシードのありかを知っているのなら」
 教えてほしい、と。僕は頭を下げる。
「…………。一つ、ユーノくんに聞いていいですか?」
 そんな僕に対するは、問いかけ。
「まず結論から言っちゃうと、ですね。はい、わたしはお二人の『これから』をすこしだけ知ってますし、ジュエルシードの場所も知ってるのもあります」
 本当に、と。顔をあげて蜜柑を見れば、彼女も彼女で真剣な目を僕に向けて、ですが、と言葉を重ねる。
「ユーノくん。ジュエルシードって、一つでも使い方を誤って暴走させたら……どうなるです?」
 それは……、と。そこからさきは言葉にならない。
 ……ジュエルシードは次元干渉型の高純度の魔力結晶。だからもし、それを暴走なんてさせたら――
「もしも、わたしが教えて。もしも、それを暴走させてしまったら――わたしは、どうしたらいいです?」
 …………そう、か。
 首を傾げての蜜柑の問いに、僕はようやく気づく。……そうか。未来を知り、教えるっていうのは……きっと、未来を変革する覚悟と責任がいるんだ。
 そしてそれを聞くっていうのは、彼女をも巻き込むことに他なくて。なのはと話した、もう蜜柑を――他の誰も巻き込まないよう頑張ろうっていうのに反することで。
 だから、
「まあ、でも……うん。訊かれて答えるぶんには――」
「ごめん、やっぱりいい」
 僕は自分で訊いといて、彼女の言葉を遮った。
「ごめん」
 果たして謝罪をもう一度。ごめん、こっちがあまりにも考えなしだった、と。もう蜜柑を巻き込まないから大丈夫、と。僕も僕で、彼女に習うように笑顔をつくって言った。
「……こっちの方こそ、ごめんなさいですよ」
 対して、蜜柑も笑って謝る。
「わたし、ユーノくんの声……無視したです」
 ……え?
「ユーノくんが助けを求めた声を、わたしは……。聞こえたのに……」
 ごめんなさいです、と。頭を下げる蜜柑に、僕は思い出す。
 ……そうだった。彼女も僕の念話を聞いたって、前になのはが……。
「――でも、みかんちゃんは、それで眠れなかったんでしょ?」
 どう答えようかと僕が悩んでる間に、なのは。うなだれてる蜜柑の顔を上げさせ、真剣な顔をして言葉を重ねる。
「あの夜。みかんちゃんは不安だったんじゃないの? ずっと考えてたんじゃないの?」

 ――蜜柑は、なのはが僕の声に応えることを知っていた。

「……あの日。みかんちゃん、なのはの顔をみて『よかった』って言ってくれたよね?」

 ――蜜柑は、なのはに魔法の力があることを知っていた。なのはなら大丈夫だと知っていた。

「……みかんちゃんは知ってたんだよね」

 ――蜜柑は、自分が居なくても大丈夫だと知っていた。むしろ、自分が居ない方がいいと知っていた。

「みかんちゃんは、だから――」
「だけど、それを気にしてくれてたのなら、僕は嬉しいよ」
 にこり、と。なのはの言葉を次ぐように、僕は告げる。
「ありがとう、蜜柑」
 ありがとう。そう言って頭を下げると、蜜柑は目を丸くし。それから、あはは、と照れたように笑って言った。
「大丈夫です。もうすこししたら管理局が来るです。なので、大丈夫ですよユーノくん」
 ……きっと蜜柑は、言うとおりすべてを知っているのかも知れない。
 そう思わせる優しい笑みをまえに、僕たちはまた笑顔を咲かせるのだった。

 ◇◆◇◆◇

 普通、信じないですよー、と。自分が如何に数奇な運命を背負っているかを話してくれたみかんちゃんは、それこそ簡単に信じてみせたわたしやユーノくんに心の底から不思議そうにしていた。
 そこで、じゃあアリサちゃん達にも言ってみたら? と提案し。たぶん簡単に信じると思うよ、って冗談めかして言ったのはわたしだけど――……まさか本当に話すとは思わなかった。
「前世の記憶、ねぇ。……うん。なんか納得だわ」
「そうだね。なんかそう言われると、そんな感じだよね」
「――って、だからなんで信じるですかー!?」
 夜。お稽古ごとが片付いた帰りにお見舞いに寄ったアリサちゃんとすずかちゃん。
 そしてその二人に席を勧めるや、さっそく、じつはわたしには前世の記憶があるんですー、と告白するみかんちゃんは、代わらずベッドで上体を起こす格好で居り。わたしもわたしで、けっきょくずっとそんな彼女のベッドの横に並べられた丸椅子の一つに座っていた。
 って、いきなり衝撃の告白!?
 それをあっさり信じてる二人もだけど。みかんちゃんも、本当に信じられないことするなぁ。……っていうか、みかんちゃんにとって『前世の記憶』云々て、じつは聞けば簡単に答えられるようなことだったのかな?
「いや、だって。蜜柑てかなりバカっぽいのにテストの成績だけはいいじゃない? それがなんでだかようやくわかったって言うか、納得したって言うか?」
 って、アリサちゃん……。
 その物言いはちょっとひどくない? みかんちゃん、膝抱えて『の』の字書いてるよ?
「……そう言えば、蜜柑ちゃんて一年生のころとかでも、普通に漢字がいっぱいの小説とか貸してもしっかり読んでくれてたもんね」
 す、すずかちゃん?
 それは貸す方も貸す方ですごいんじゃないかな……?
「? なのはちゃんにもあとで貸そうか? 『羅生門』」
「あ。それならこの『銀河鉄道』とかどーです? 面白いですよ~♪」
 …………。
 どうしてかな? みかんちゃんとすずかちゃんの好意が、なのはにはとっても痛いんだ。
「って、ちょっと蜜柑。そんなの、漢字がダメダメのなのはじゃなくても普通に読めないわよ」
 せめてイラストのあるライトノベルぐらいにしなさいよ、と。呆れ混じりのアリサちゃんの言葉も何気に突き刺さるんだけど……。
「いやいや、最近のラノベだって漢字いっぱいですよ?」
「じゃあ童話?」
「絵本とかどうかな?」
 み、みんながなのはのこといじめるよ~。と、若干涙目で抗議すると――
「そりゃあ、あんたもあんたで魔法なんて面白そうなものをわたし達に隠してるからよ!」
 アリサちゃんは、ビシ! と、なのはの隣でお見舞い品のリンゴの皮を剥いていたユーノくんを指差して告げた。
 ――……じつは、みかんちゃんのことを告白するのと併せてわたしとユーノくんも魔法とかジュエルシードのこととかを説明しました。
 間違ってもみかんちゃんと同じような被害者を出さないため。そして何より、これから先、魔法とわたしがどう付き合っていくかを考えるために家族と友だちには話しとくべきだ、ってみかんちゃんが言うから話したんだけど……。
「いや、あのね。いちおう、『魔法』に関しては秘匿する義務が――」
「わたしには魔力っていうの? は、あるのかしら?」
 ユーノくんの言葉をアリサちゃんはスルー。よっぽど魔法っていうのに興味があるのか、レイジングハートを貸して貸してって、さっきっから妙にハイテンションだった。
「やっぱり『魔法』って、時間を止めたり、変身したり、何かを出したりとかってできるのかな?」
 それはすずかちゃんもなのか。レイジングハートを手に起動ワードを唱えてるアリサちゃんを、瞳を輝かせて見ていた。
 ……ちなみにアリサちゃんとすずかちゃんは魔力を持ってないようで、レイジングハートは無反応でした。
「う~ん……。時間を止めたり、っていうのはできないかな」
「変身ならできるですよね、なのはちゃん♪」
 すずかちゃんの問いにユーノくんとみかんちゃん。って、えー!? なのは、今からセットアップするの? みんなのまえで!?
「で、何かを出したりっていうのは――」
「なのはちゃん、ビームなら出せると思うですよー」
 にゃー!? ちょ、ちょっとみかんちゃん、やめて! アリサちゃんとすずかちゃんのまえでセットアップするだけでも恥ずかしいのに、魔法なんて――
「は? 魔法少女なのに……『ビーム』?」
「? もっとこう、キラキラしてるハートとかお星さまとかじゃないの?」
 ……訝しげなアリサちゃんと不思議そうなすずかちゃんの言葉が微妙にグサリとくるなぁ。
「あー、うん……。たしかになのはの『ディバインバスター』って、端目には光学兵器とかに見えるかも」
 にゃー!? ゆ、ユーノくんもそこを肯定しないでよ。っていうか、『ディバインバスター』って名前で若干引いてるよね、すずかちゃん。アリサちゃんはアリサちゃんで、『魔法』の『大砲』で魔砲少女』か、って変な納得してるし!
「ふみぃ? むしろ『かめはめ波』とか『波動砲』とかって感じです? ビルとか吹っ飛ばしちゃう威力的に」
 み、みかんちゃん? そこでどうして『威力』とか言っちゃうのかな?
「……なのは」
「なのはちゃん……」
 う、うわーん!

 ◇◆◇◆◇

 二人で、話したかった。
 だから、数日後。蜜柑ちゃんの退院の日。わたしは学校を休んだ。
「それで、すずかちゃん? 話ってなんです?」
 彼女の退院に併せて、メイドのノエルに回してしてもらった車の横で。今日もやっぱり普段着が空色ジャージの蜜柑ちゃんと二人、周りに人気がなくなったのを確認して口を開いた。
「蜜柑ちゃんは、この世界のことをアニメで見た……んだよ、ね?」
 まずは、確認。
「だから、なのはちゃんが魔法を手にしたことも。ユーノくんが魔法使いの男の子だったことも知ってた」
 それを前世で見たから。アニメとして見て、知っていたから。
 だから――
「じゃあ…………わたしのことは?」
 問う。
 なのはちゃんのことを知っていた蜜柑ちゃんに。
 ユーノくんのことを知っていた蜜柑ちゃんに。
 それこそ本当になんでも知っていそうな彼女に、問う。
 ……わたしには、秘密がある。
 そしてそれは、知られてはいけない秘密。知られたら記憶を消してでも秘匿しなければならない秘密。
 だから――
「蜜柑ちゃんは、わたしの――」
 ――だけど、その問いの途中で。
「知ってるって答えたら、すずかちゃんはわたしの記憶を消してくれるです?」
 蜜柑ちゃんは微笑んで、問う。
「すずかちゃんはわたしの前世を……無かったことにしてくれるですか?」
 問う。
 蜜柑ちゃんは、微笑み。空を仰いで、昼の陽光に瞳を細めて言葉を重ねる。
「……すずかちゃん。もし、すずかちゃんに前世の記憶があったら……どうするです?」
 もし、生まれたときから大人の記憶があったら。
 もし、生まれたとき、自分以外のひとの心があったら。
「すずかちゃんは両親のことを、ちゃんとお父さん、お母さんて思えるです?」
 その問いに、今さらながらに想像する。
 前世の記憶。それは生まれるまえの記憶。もう一人の、べつの人間として生きた記憶だ。
 だから、もし、そんな記憶があったら……。もし、もう一人の自分の記憶があったのなら――……って、あれ?
 ふと、気づく。あれ? 待って。もし、『前』の自分から『今』までの記憶が地続きに連なってるのなら――

 それは、もしかして『今の自分』なんて存在しないのではないか。

 想像する。もし仮に、今の自分が死に。生まれ変わり。死ぬまえまでの記憶をもっていたら――

 赤子は赤子たりえず。親は親たりえないのではないか。

 なぜなら、自分が生まれ、育ち、自分を『自分』とした記憶が、すでにあるのだから。
「……待って」
 血の気が引く。
 もし自分が、と想像し。想像するたびに寒気が増す。
「それで、もし、すずかちゃんが男の子に転生したら……どうです?」
 ……待って。
 わたしは目を剥き、蜜柑ちゃんを見た。
 ……そうだ。わたし達はたしかに蜜柑ちゃんには前世の記憶があるって聞いた。その記憶には『この世界のことがアニメでやっていた』なんてとんでもないものもあった。
 だけど――待って。
 わたし達はたしかに蜜柑ちゃんの、そんな信じられないようなお話を聞いた。どうして信じるです? と、不思議そうにする蜜柑ちゃんに、信じるに決まってるよって笑った。
 だけど――……聞いてない。
 たしかに、訊いてない。

 蜜柑ちゃんの前世の性別を――聞いてない。

「わたしの前世の名前は『金森 尚人』。性別は男で、死んだのは二十六のとき」
 蜜柑ちゃんは簡単に言うけど――…………待って。
 待ってよ、蜜柑ちゃん。そう、心の準備ができてなかったわたしは慌てて声をかけようとして――
「金森 尚人は、最低のクズでした」
 蜜柑ちゃんは謳うように告げる。
「性格は陰湿で根暗で。いっつもオドオドしてたから小学校、中学校でイジメられ、卒業を待たずに引きこもり。高校には行かず――」
「待って」
 たまらず遮ろうとして、
「それからずっとパソコンのまえ。オタクでニートで、おまけにメタボ。日がな一日、エッチな動画サイトを――」
 だけど、蜜柑ちゃんは構わず言葉を続けて。
「ま、待ってよ、蜜柑ちゃん!」
 だから、少しだけ声を荒げて。

「――『俺』は、ロリコンだった」

 蜜柑ちゃんは、告げる。
 そう言ったらどうするです? と、驚くわたしに選択を迫る。

 ◇◆◇◆◇

 正直なところ、すずかちゃんのことを知っているか、って訊かれたら……あんまり知らない、としか答えられない。
 たしか『魔法少女リリカルなのは』の原作? だったかな? に、PCゲームがあって。それにすずかちゃんのお姉さんのルートがあって。月村家には秘密があって、それを知ったら記憶を消される……みたいなノリ、だったかな?
 なんか、そういう設定があったような無いような気がしたんで、とりあえず知ったかぶってみたら……微妙にビンゴだったらしいですねぇ。
「『ロリコン』って……え? そんな……」
 果たして先の言葉に、さすがに動揺しているらしいすずかちゃんに微笑み、彼女の選択を待つ。
 さて、すずかちゃんはどうするです?
 わたしの前世の記憶を消す? わたしとはもうお話をしない?
 ……っていうか、なんでそんな簡単に信じるです?
 混乱し、わずかに距離を置く少女を眺めて不思議に思う。このまえのなのはちゃん達もですが……どうしてこんなにも荒唐無稽で胡散臭い話を信じられるです?
「あー……そう言えば、わたしのはじめての友だちってすずかちゃんだったんですよねぇ」
 ふと、振り返り。小学校に入学し、クラスどころか目に入る子ども全員に声をかけていた頃を思い出して呟く。
 ……そう言えば、あの頃、クラス内で『普通』に話せたのってすずかちゃんぐらいでしたからねぇ。
 別段、周り全員が子どもで嫌だったとか疲れたとかってわけじゃなく。ただ、やっぱり同じような目線で話せる子っていうのは、話すのも接するのも楽しいし面白かったってだけで。……まぁそれもそれでおかしいんですが。アリサちゃんやなのはちゃんも、あの頃は多少、周りより大人びた言動をしていたけど……それでも金森 尚人の目線からすれば、他の子より話が通じる程度でしかなかったですしねぇ。
 だから、
 わがままを言わせてもらえれば、
「もしすずかちゃんがわたしの記憶を消せるなら……もう一回、わたしのお友だちになってほしいです」
 果たして、それが最後の言葉。
 正直なところ、月村家の秘密なんて覚えてないけど……。それでももし彼女がわたしの記憶を消すのなら……今度こそちゃんとしたお友だちになりたい。そう本心から思った。
 だから、
「……もう一回だけ聞くよ、蜜柑ちゃん。蜜柑ちゃんはわたしの秘密を……知ってる、の?」
 すずかちゃんの問いに、わたしは素直に答えた。
 月村家に秘密があって、知られたら記憶を消す習慣があることなら知ってる。だけど具体的にどんな秘密があったかは覚えてない、と。これまた胡散臭いこと極まりないことをバカ正直に。
 そして――だからこそ、少女は笑ったのかも知れない。
「ぷっ。あははは」
 月村すずかは可笑しそうに、笑う。
 笑って、わたしに記憶を消すチカラなんてないよ、と。わたしは魔法を使えないよ、と。すべてを冗談にしようと笑って言う。
 だから、
 笑って言うから、
「あ、そうなんです?」
 じゃああれは夢だったですね、と。わたしも笑う。笑い話にする。
 ……それでいいの? とは、問わない。
 だってすずかちゃんは、わたしの前世がどういう人間だったかを聞いてなお、わたしの手をにぎってくれたから。さあ、蜜柑ちゃんのお家に行こう? って、変わらぬ態度で接してくれたから。
「ところで、蜜柑ちゃんて今もロリコンなの?」
「うーん……どーなんでしょう?」
 まるで笑い話のように。今までと同じ、ただ友だちと笑って話すように。
「わたしが、ほら。女の子ですし? だから、佐々岡 蜜柑を金森 尚人の視点でみれば愛でれるですが……わたしはわたしですからねぇ」
 ……昔は、そんな『遊び』をしていた。
 金森 尚人の記憶と人格を持っていながら、それを発する場に巡り会わなかったから。『俺』の性格をひた隠し、『わたし』になろうとしていたから。何より、目にする光景すべてに現実味を感じず、ストレスを感じていたから。その発散として、『俺』として『わたし』を弄りまわして遊んでいた。
 …………だけど、
「知ってますか、すずかちゃん。ひとの趣味嗜好って、意外と肉体に依存するんですよ」
 けっきょく、なにをどうしたところで……わたしはわたしでしかなかった。『俺』なんてどこにも居なかった、と笑う。
「たとえば、好きな食べ物は舌に依存してて。たとえば、好きな子は、たぶんホルモン的な何かから」
 金森 尚人は酒が好きだった。塩辛いものが好きで、年端もいかない少女を偏愛していた。
 だけど、佐々岡 蜜柑は甘いものが好きで。幼い女の子は同性で。同じ子どもで。裸をみたところで興奮せず、当たり前として恋愛の対象とは見ない。
「……これで性同一性障害とかだと違うんでしょうが、佐々岡 蜜柑はそうじゃなかったみたいですね」
 あはは、と笑って。すずかちゃんの後に続くように車に乗る。
 乗りながら、でもすずかちゃんは好きですよー、とふざけて抱きつく。
「あはは。もう、蜜柑ちゃんたら」
 そう言いながら、頭を撫でてくれるすずかちゃん。
 ……思えば、金森 尚人のことをこんなにも話したのは彼女がはじめてで。だからこそ、わたしは少女の胸に顔をうずめて隠し、
「すずかちゃんは……気持ち悪くないですか?」
 問う。
「わたしのこと……気持ち悪いって、思わないですか?」
 問う。
「わたし、前世の記憶があるですよ。わたし、もとは男です。ロリコンでデブでオタクで変態で……」
 金森 尚人は最低の男だった、と話し、わたしのことを気持ち悪いと思わないのかと問う。
「……本当のことを言ってほしいです」
 わたし、気持ち悪いでしょう? 変でしょう?
 もともと男だったですよ? それなのにこんなナリして。こんな性格で。こんなしゃべり方で。……やっぱり、気持ち悪いでしょう?
「やっぱり、こんなのとお友だちになんて――」
 果たして、その言葉は――

「わたしは、蜜柑ちゃんのこと好きだよ」

 ――少女の優しい声に遮られた。
「…………うそ、です」
 わたしは苦笑し、顔を上げて。
「うそじゃないよ」
 すずかちゃんはにっこり笑って言った。
「わたしは蜜柑ちゃんとお友だちになれてよかったって思ってる。蜜柑ちゃんとお友だちになれたから、アリサちゃんやなのはちゃんともお友だちになれた。蜜柑ちゃんのおかげで毎日学校が楽しいって思ってるんだよ」
 それは…………違う。
 それは勘違い。
 だって、『原作』には――佐々岡 蜜柑は出てこない。
 だけど、彼女たち三人は笑っていて。
 本来なら、彼女たち三人だけでも十分で。
 だから――
「…………そう言ってもらえると嬉しいです」
 わたしは笑顔で答える。
 目の前で微笑む、優しい優しい少女のために。わたしなんかに暖かい言葉をくれる彼女のために。
「あ。そろそろつくですね?」
 わたしは、笑顔を浮かべる。
 笑顔ですずかちゃんから視線を逸らし、見え始めた、古めかしい木造アパートを眺めて――
「……んにゅ? あれって……――ッ!?」
 気づく。
 目を剥く。
 絶句する。
 車が止まるのと同時に駆け出す。
 そして――



「お父さん!!」



 果たして、わたしの呼びかけに、彼は――佐々岡 蜜柑の父親はゆっくりと振り向いた。
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