嗣希創箱の消閑

小説、落書き、二次創作、etc…。 あなたの暇潰しのお供にどうですか♪ 

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 ◇◆◇◆◇

 塾だ、習いごとだ、という現代小学生らしい忙しさを訴える三人娘とは割と早い段階で別れ、わたしは一人、帰り道をスキップしながら歩んでいた。
「そ~ろそろ、リリカルマジカルはじまりますですかー?」
 普通なら、ここがアニメの世界だなんて思わない。
 普通なら、彼女やこの世界で出会った人たちをフィクションのキャラクターたちだとは思わない。
 普通なら――なんて、アニメの世界に居る自分スゲー、自分って普通じゃねー、なんて、それがカッコイいって思ってた時期もありましたです。
 じゃあ、今は? と訊かれれば、答えは簡単。どっちでもよくない、みないな? ……正直なところ、世界中の全部が全部をアニメ絵にしか見えないことも含めて、そんなのはどーでもいいって感じです。
「お腹が空いたらご飯ご飯ですー♪」
 学校から帰り、玄関を開けて。暗くて静かな部屋にカバンを置いてUターン。遅くなるまえに今晩のおかずと明日のお弁当用の食材を買いに、スーパーへゴーゴー☆
 ――はい。アニメの世界だろうと関係ない理由がコレです。
 佐々岡 蜜柑がフィクションの存在でも、わたしはお腹がすけばご飯が食べたくなって。ここがアニメの世界でも、スーパーに行けば食べ物があって。
 蜜柑の母親は働き。その収入の一部を手に買い物をさせてもらって。スーパーでは他の主婦の人たちと話して。笑いあって。そして――そうやって、生きていく。
 ここがアニメかどうかなんて関係ない。だってわたしは、確かにこうして生きてるんですから。
「――なんて。正直、生きてるからどーだって感じですがー」
 空がすっかり藍色へと変わる頃。やっぱり暗く、誰も居ない部屋へと帰ってきながら、言の葉を散らしていく。
「普通なら、もっとなのはちゃんと関わろうってするんでしょうかねー? ……でも、もう『リリカルなのは』はうろ覚えもいいところですしー。正直、興味も無いんですよねー」
 築十年以上はたってるだろう、木造アパート八畳一間の1LDK。
 そこで一人、今日も今日とて部屋着の青いジャージを着て夕食の準備をすすめながら、思いをそのまま口からこぼす。
「べつに我が身かわいさで忌避してるんでもなくですねー。逆に、魔法っていうのに興味が無いわけでもなくですねー。単純に、わたし的には今日の宿題とかー、クラスの子との話題用にテレビ見たりとかがー、優先順位が上なんですー」
 手のなかの買い物袋の中身を冷蔵庫へ。今日使うものをそとへ。今から使うものを手に、今晩のおかずを作りはじめる。
「料理なんて金森 尚人じゃ考えられないですよねー。でも、料理した方がお得ですしー。やっぱり女の子は料理ぐらいできなきゃですよねー」
 一人。誰に言うでもなくしゃべり。
 一人。料理する。
「そー言えば、なのはちゃんは何になりたいって思ってたんですかねぇ? 現時点で、まさか魔法少女にー、なんて思ってはいないでしょーし……うーん?」
 一人。ご飯を食べる。
 一人。お風呂に入って。一人。宿題を済ませ。一人。テレビを見て。一人。布団を敷いて、横になる。
 そうして、ふと、枕元に置いた、目覚まし代わりの携帯を開き、
「……おやすみなさいです、お父さん。お母さん」
 待ち受け画面に映った、今ではもう有り得ない、家族三人が笑顔で立っている絵面に挨拶をして、
「…………やっぱり、バカみたいですねー」
 そうして、一人、わたしはずっと浮かべ続けていた笑顔に苦みを乗せて瞳を閉じる。

 ――……はい。まさかそこで、たすけてください、なんて声が聞こえるたー思ってなかったです。

 ◇◆◇◆◇

 佐々岡 蜜柑という少女に、わたし、アリサ・バニングスは……すこし、負い目があった。
 だから、というだけではなく。もちろん、今はもう友だちだから、というのもあり。わたしは割と蜜柑のことをよく見ていて、だからこそ、誰よりも早く気づけた。
「ちょっと、蜜柑? あんた……なんか顔色わるくない?」
 朝。通学バスの最後尾にすずかと座し、今まさに乗車してきた蜜柑をみて声をかける。
「あー。アリサちゃんにすずかちゃん、おはよーですぅ……」
 対して、いつものヘラヘラ笑いでもって蜜柑。何を考えてるか、はたまた何も考えていないのかわからない締まりのない表情で挨拶をしながら……だけど、やっぱりいつもの元気がない。
 微妙にふらついてる、っていうか……なんか、目元にクマまでできてない?
 大丈夫かな、と眺めてる間にもバスに乗る子ども全員に挨拶してまわってる蜜柑。ふと、隣を見れば、すずかも彼女のことを心配そうな眼差しで見ていた。
「どうしたの? 寝不足?」
 ようやくわたし達のところまで来た蜜柑に、すずか。眉をハの時にして問い、すこし寝ていく? と、自身の膝もとをしめす。
「あー……はい。わかるですか?」
 笑顔を傾け、あははー、と笑いながらけっきょくすずかの隣に腰掛ける蜜柑。じつは怖い夢をみて眠れなかったんですー、と本当に悪夢をみたのか疑いたくなるようなお気楽笑顔で告げる。
「すずかちゃんの膝枕は、とっても魅力的ですがー……いま横になると吐きそうなんで遠慮するです」
 って、なにげに顔面蒼白!? じつは相当ツラい!?
「あ、あんたねえ! なに、こんなときまでヘラヘラ笑っ――」
 笑ってんのよ、と。怒鳴ろうとして、すずかにそっと裾を引っ張られてやめる。
 ……そうね。そんなことしてる場合じゃ、なかったわね。
 すこし冷静になり、そっと、ため息を一つ。今は何より、蜜柑のことよね。
 バスが走り出すや、本当にみるみる顔色が悪化していく蜜柑。それなのに笑顔なのがまた、なんともらしいが……その額や頬をすぎる汗をみれば、これがただ静観していていい状態にないのだとわかる。
「……わたし、ちょっと運転手さんと話してくる」
 すっかり、ぐったり脱力し、半ばすずかにされるがまま、その身を傾けている蜜柑のために、マナー違反は承知で走行中ながらも席をたち――

 そっと、蜜柑に手を掴まれて、止まる。

「なッ!? み、蜜柑――」
 驚き、振り返って。
 どうして、と。離して、と怒鳴ろうとして。
 にへらー、と笑う蜜柑を見て――

 フラッシュバックする、最悪の記憶。

「ぁ……――!」
 それは、まだ入学してすぐの頃。それはまだ、クラスで独りだった頃。

 ――はじめましてですー☆

 それは、初めての、クラスの友だち。彼女は初めての、同い年の友だち。

 ――アリサちゃんて頭いいです。スゴいスゴいですよー。

 だけど、相手には他にもたくさんのお友だちが居て。自分には彼女しか居なくて。
 いつも彼女のことを眺めて。いつも彼女のことを求める……そんな自分が情けなくて。
 だから――

 ――わたしの苦手なものですか? えっと……じつは、ですね。

 …………バカだった。
 その頃は本当に、どうしたらいいのかわからなくて。なにをしたらダメなのかもわからなくて。彼女にとっての特別に、なりたくて。
 ……本当なら、ただもう少しだけ素直になれてればよかったのに。それだけでよかったのに。
 それなのに、わたしは――
「……だ、だぃ、じょーぶ、心配……ぃらない、ですよー」
 にへらー、と。お気楽に笑い、少女は言う。
 青ざめ、冷や汗を流し。少しも大丈夫に見えない顔色で、佐々岡 蜜柑は言う。
 そして、そんな風に言われたら――……わたしには、何もできない
「? アリサちゃん……?」
 不思議そうにこちらを見るすずかから視線を逸らし、再び席に座る。
「…………」
 ――アリサ・バニングスは、佐々岡 蜜柑に負い目がある。
 だから、そうして大丈夫と笑って言われたら何もできない。彼女が助けを必要としていないとわかれば、何もできない。
「…………」
 ――あの日の、最初で最後の最悪な光景が、
 佐々岡 蜜柑の泣き顔が……いまだに重く、鮮烈に、瞼の裏に焼き付いていたから。

 ◇◆◇◆◇

 こういうとき、彼女がどんなにみんなに思われてるかがわかる。
「大丈夫、蜜柑ちゃん?」
「もういいの?」
「顔色……まだあんまりよくねーぞ?」
 朝。登校するやすずかちゃんに肩を貸してもらって保健室に直行したみかんちゃん。
 そしてそのことをアリサちゃんと二人、なのはもクラスのみんなに話して。すこし寝かせてあげよう、ということで休み時間のお見舞いを自粛してもらうよう促して。
 三限目の途中からようやく帰ってきたみかんちゃんを、だからその休み時間にクラスの子みんなで囲んでいた。
「大丈夫です、すこし寝れたんでスッキリシャッキリですー」
 そう言って、あははー、と笑うみかんちゃんは……じつは学校に着いてすぐにお手洗いでもどしてた。
 だけど……みかんちゃんは、たぶんどんなときでもそうなんだろう。
 大丈夫? と聞けば、大丈夫ですぅ、と笑って返す。……たとえ、大丈夫でなくても。たとえ、笑顔でいられるような状態でなくても。みかんちゃんはたぶん、どんなときでも笑っているんだろう。
 そう思わせる強さが……すこし、まぶしい。
「なのはちゃんも、心配かけちゃってごめんなさいですぅ」
 ……ん。強いな、みかんちゃん。
 彼女の笑顔に、よかったぁ、と笑って返し、思う。
 みかんちゃんのみた、怖い夢の話。夜に聞こえた、助けをもとめる声の話。
 みかんちゃんは、もったいないお化けがでたですー、って言って。わたし達は、もったいないお化けって? と、首を傾げた。
「ぅぇええ!? や、やっぱり、もったいないお化けってもう死語だったですかー!?」
 果たしてそれはクラスの子たちも同じだったみたいで。みんなして首を傾げ、たまにみかんちゃんて不思議なこと言うよねー、というふうに笑ってた。
「このまえは『キンケシ』だっけ?」
「『まぐなむとるねーど』するミニ四駆がどうの、っていうのは、けっきょくどうなったの?」
「そう言えば、『ばとえん』っていうのは見つかったのか?」
「ぬぁふぅーッ! み、みんなしてわたしをお年寄り扱いですかー! おのれ、『ロケットペンシル』も知らない平成っ子たちめー、ですぅ!」
 わいわい、がやがや。彼女を中心に広がる笑顔。声。楽しげな雰囲気。
 それらから一歩離れ、わたしは一人、考える。
 ……みかんちゃんが聞いた声。それってもしかして…………ユーノくん、の?
「そんなことより蜜柑! 今度、駅前のカードショップで大会あるんだ。出ようぜ出ようぜ!」
「んにぃ? でもわたし、自分のカードって持ってないですよー?」
「大丈夫! このまえ蜜柑が作った俺のやつ貸すから!」
「……なにげに蜜柑の作ったデッキって強いからなぁ」
 つくづく最近のカードゲームって小学生向けじゃないですよねー、と笑うみかんちゃんを眺めながら、ふと、ポケットにしまってる宝石を――レイジングハートを、握る。
 ……もしかしてみかんちゃんも魔法を?
 昨日の夜。わたしも聞いた、助けをもとめる声。
 それをみかんちゃんは夢だと思った。お化けだと思い、怖くて眠れなくなったと言った。
 そしてわたしは――その声に従った。
 請われ、喚ばれるがままに外へと飛び出して。
 それから――
「そうだ、蜜柑ちゃん。この前言ってたマンガ、今度ドラマになるんだって」
「ぬぇ!? ほ、ほんとーですかー!?」
「あれ? もしかして今月号読んでないの?」
 ニコニコ、ニコニコ。
 男の子も、女の子も、笑顔。蜜柑ちゃんを中心に笑って、楽しそう。
 だから――……うん。話すの、やめよう。
 他のひとを危険なことに巻き込みたくない、ってユーノくんも言ってたし。昨日、わたしだってあんなに怖くて危ないめにあったんだから。
 だから――
「あ、そうです。あのあのー、なのはちゃ~ん!」
 なのははみかんちゃんの呼びかけに振り向き、なにー? と、近寄っていく。
 昨日のことを――魔法のことを、彼女には話さないと決めて。
 そして――



 ……………………あとですごく、後悔しました。



 ◇◆◇◆◇

 どうやらなのはちゃんは、もうすっかり魔法少女としてデビューしていたらしい。
 いつだったか、三人からケガしたフェレットがどうのっていうメールをもらって。いつだっかに、なのはちゃんがそのフェレットを飼うらしいことを聞いて。
 そして今日、はじめてそのフェレットを――ユーノくんを見せてもらって。……あれ? なんかこの子……『リリカルなのは』のアニメ内で見たことあるような? もしかしてこの子が、僕と契約して魔法少女になってよ、って言うんだっけ? とか、今さらに気づいたのがなんともわたしらしい。うん、じつはもう、ほっとんどアニメのことなんて覚えてないぜー! はっはっはー!
 ――はい。今日も佐々岡 蜜柑はぜっこーちょーです。
「いやぁ、まさかこんなことになるたー、たとえお天とさんでもわかるめーですよー」
 腰に手を当て、無意味にワッハッハーと胸を張って言いながら空を仰ぐ。
 今日はなのはちゃんにお呼ばれした、彼女のお父さんがコーチしてるサッカーチームの応援に駆けつけたのですが……ついでに声をかけたクラスメートのほとんどが一緒に観にくるって言うとは思わなかったです、はい。
「……あんたねぇ。いい加減、自分がまわりにどう思われてるかぐらい気づきなさいよ」
「蜜柑ちゃん、クラスの人気者だからねぇ」
 そう呆れ、微笑みながら声をかけてくれるのはアリサちゃんとすずかちゃん。万年、普段着が青ジャージのわたしとは違い、二人とも可愛い格好をしていた。
「……べ、べつに羨ましくなんてないんだからね! ですぅ」
「はあ? いきなり何拗ねてんの?」
 拗ねてないですー、と言って二人のもとから離れ、せっかくだからと相手さんチームの応援もしよう、だったら二つのグループに別れて応援合戦だー、おー☆ っていうノリになってるクラスメートのところへ。じゃあわたしは応援してるみんなの応援してるですぅ、と笑いながら駆け寄っていく。
「……あんた、ここに何しに来たわけ?」
 そう呆れるアリサちゃん達、なのはちゃんを含めた三人は、初志貫徹の構えで『翠屋JFC』の方を応援するらしい。
「――で? このあとどうするの蜜柑?」
「蜜柑ちゃん、お昼は?」
 果たして、サッカーが終わって。なんだかんだで応援されて白熱した試合展開をしてみせた選手たちを労ってたら、クラスの子たち。翠屋JFCの子らはこれから喫茶店に――なのはちゃんが経営してる喫茶『翠屋』に、って話だったけど……そう言えばわたし達はどーしよう?
「あー……」
 改めて、わたしが誘った人数を確認。いち、にー、さん、しー……いっぱい。
 翠屋JFCの子たちと、その対戦チームの子たち。……さすがにこの人数で翠屋は無理ですよねー。
 じゃあ、違うお店? ……今からこの多人数はないですねぇ。しかも子どもだけとか……普通に断られますよねー。
 だから――

 べつに、ここで食べればよくね?

「はい、みんなに相談ですよー」
 手を叩き、みんなに注目を促してから提案する。
 これからここでお昼を、っていうのはどーです? メニューはデリバリーをてきとーに、って考えてるです。――あ。今、お金が無いひとはお貸しするですよー、と。クラスの子たちはもとより、なのはちゃんのお父さんと、それから相手さんのコーチにも話してみる。
「これからお店の予約をー、っていうのは無理そうですし。子どもが多すぎてお店にもご迷惑をおかけしてしまいかねませんですからー」
 できれば、まだみんなと居たい。できれば、みんなでワイワイ騒いでいたい。
 それにはお店は向かない。ここなら青空の下、みんなで笑ってご飯を食べれるですー、と相談。……まあもちろん、いきなりお昼代を請求なんてできないから、そこはわたしの手持ちからすこし融通するしかないんですが。というか、普通に考えて小学生のお小遣い的にこの提案は微妙に苦しいかもですが。
 ……だけど。
 それでも――
「わたしはまだもう少しだけ、みんなと居たいです」
 わたしは笑顔で、言った。みんなの顔を見回して、言った。
 そして、
「……そうだね。その方がいいかも知れない」
「うん。せっかく応援してもらったんだ。そのお礼を、まだちゃんと言えてない子もいるだろうし」
 最初に、大人二人が。
「あんたはもう。……ほら、わたし達もすこしは手持ちあるから」
「わたし達はクラスの子たちと相談すればいいかな?」
 次いで、アリサちゃんとすずかちゃんが。クラスの子たちが。それぞれに賛同の意を述べ、それぞれが自分の役割を話し合って。
 だから――



「――……大丈夫。なのはちゃんのせいじゃ、ないですよ」



 それから数日の後。
 わたしは病室のベッドの上で。傍らで泣き崩れるなのはちゃんに、笑顔で言った。
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