嗣希創箱の消閑

小説、落書き、二次創作、etc…。 あなたの暇潰しのお供にどうですか♪ 

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《なのはさん。》第一稿1

 古代ベルカの戦乱を終息にみちびきし最強にして最凶なる舟――『ゆりかご』。
 それは聖王の血筋のものとその印たる赤き魔石をもってあまたの争乱を駆け、その比類無き力によってすべてを沈めし戦艦。
 そしてそんな舟を現代に蘇らせ、歪んだ私欲のためにその力を振るおうと画策した次元犯罪者が現れ、その凶行を止めようと立ち向かった物たちもまた現れた。
 前者を、ジェイル・スカリエッティ。後者を、時空管理局。
 その二者の戦いの縮図が、今、空にあがったゆりかごの内にて行われようとしていた。
「――どいて。時間が無いの」
 長い栗色の髪を頭の左右で結び、白きバリアジャケットに槍にも見える魔杖を持って対峙するは一人の少女。
 闘志燃やす瞳には迷いは無く、足下に浮かべた桃色の魔法陣には明白な敵意があった。
「どけないよ。……今さら、どけるわけがない」
 対するは、まるで鏡写しのように瓜二つの外見もつ少女。同じく長い栗色の髪を左右で結び、まったく同じデザインの防護服を纏い対峙する。
 違いがあるとすれば、瞳の色か。後者の少女の左目は、まるで蒼い宝石のようにわずかに輝き、眼前の少女に向けられていた。
「……そっか。そう、だね」
 相対する少女の言葉と浮かべられた自嘲の笑みとに頷き、魔杖構える少女は悲しそうに言った。
「そうだよ。だから……止めに来たんでしょ?」
 オッドアイの少女も悲しそうに笑い、両手に日本刀を――小太刀二刀をもって静かに構える。
「……時空管理局、本局地上部隊。異質物管理部機動六課所属、スターズ分隊隊長――高町なのは一等空尉」
 少女は――高町なのはは、小太刀を下げた少女に名乗り、返礼。
「……元・時空管理局本局、次元航行艦『アースラ』所属――ナノハ・タカマチ・ハラオウン執務官」
 対して少女も――ナノハ・タカマチ・ハラオウンも名乗り、本気の敵意をもって返礼。
「…………行くよ」
「……ええ」
 果たして、二人は激突する。
 二人が二人とも、貴女とだけは戦いたくなかったと思いながら――。









《魔法少女リリカルなのは~doppelganger~》





 ◇◆◇◆◇

 …………………………………………。
 ……………………ん?
 ゆっくりと、まぶたをあける。……あれ? 私は……。まどろみの抜けきらない意識の中で現状を省みる。
 私は……たしか、ゆりかごの中で――そこまで考え、そしてさいごに件の戦艦とともにアルカンシェルの一斉砲火によって光にのまれたのを思いだした。
 ……あれ?
 混乱する。私はアルカンシェルで――……あれ? つまり、私は死んだはずで――…………あれ?
 どうにも抜けない眠気。依然としてかすみがかったように判然としにくい思考を過去から今へ。私はぼんやりと、右目のみの視界で自身のいる場所を見渡した。
 ……ああ、もしかしてここ――病院?
 白い天井。どくとくの、ほのかに香る薬品臭。どうやら私は、今、どこかの病院のベッドに寝かされているらしい。
 そしてそれならば、この眠気と倦怠感も納得できる。思考能力を奪う類の薬か何かを投与されたのだろう。体はおろか頭ですら鉛のように重く動かしづらいし、瞳を動かすだけでもかなり億劫だ。用意周到と言うか、なんと言うか……そこまで管理局の奴らに好かれてたのかとむしろ笑えてくる。
 ……はは。まぁ、けっこう殺したしね。
 でも……未だにあのさいごの光景からして、万に一つとして助かるとは思えないんだけどな。まったく……また、私一人だけ生き残ったってこと、か。
 スカリエッティはどうなったのか。ナンバーズの子たちは? ルーテシアたちは? それから――……ヴィヴィオは? 
 私のこれからのことも併せて疑問は尽きないが……もう考えるだけ無駄なのかも知れない。
 ……あ~あ、眠いなぁ。
 薬のせいか、今はただひたすら眠い。
 私はそして、まぶたがゆっくりと落ちて行くことに抗えず…………………………………………。
 ……………………。
 …………ん?
 耳朶をうつ、どこかなつかしい、それでいて耳障りな音に目をさます。
 これは…………泣き声? それも『しくしく』などというそれではなく、赤ちゃんの『おぎゃーおぎゃー』に近い――って、赤ちゃん!?
 私は声の方を見る。……目だけで。…………首が、動かない。
 果たして、私の目に映ったのは生後間もない赤ちゃんの顔で。赤ちゃんは元気いっぱい泣いていた。……それも距離にして十センチも無い至近で。
 ……………………え゛?
 まさか…………私の?
 …………え? あれ? でもお義兄ちゃんとさいごに寝たのは――……あれ?
 やっぱり計算合わない……。
 え? じゃあまさか、この子――スカリエッティ!?
 あ。そう言えば彼、ナンバーズの子たちの胎内に自分の分身を、って! それで――ま、まさか私にまで!?
 …………………………………………はぁ。
 …………もう、いいや。私は泣きわめく赤ちゃんから視線をそらし、瞳をとじた。……もう、どうにでもなれ、よ。
 そして、

「う、わ!? も、桃子桃子!」

 突然のその声に、
「な、泣いてる! 泣いてるぞ! ――なのはが!!」
 その台詞に、私は再びまぶたを上げた。
 …………え? 呆然と、ぼんやりと。なさけない声をあげてオロオロしている男性を――

 あの日、亡くしたはずのお父さんを――高町士郎を、みあげた。

「あー、あー! ど、どうしたらいい!? み、ミルクか!? なぁ、桃子! お、俺はどうしたら――」
 その、お父さんによく似た人が大慌てで叫ぶ先で――
「ふふ。まぁまぁ、とりあえず落ち着いてください」
 隣のベッドに体を横たえ、柔和な笑みを浮かべている女性を――

 いつかの記憶より若いお母さんを――高町桃子を、見た。

「こ、これが落ち着いてられるか!? ああー、どうしたら~!」
 …………これは、なに?
 泣いている赤ちゃん。慌ててるお父さん。微笑んでるお母さん。
 ここは病院で。私はゆりかごと一緒にアルカンシェルで。
 だから――
「あらあら。そんなに騒いでるとなのはだけじゃなくて『ゆり』まで泣いちゃうわよ?」
 …………え?
 ま、まさか――
「ぅおお!? そ、それは……! ゆ、ゆりにまで泣かれたら俺は――!」
「はいはい、落ち着いてくださいね。……とりあえず、その剣しまって」
 ――今の私の名前は、高町ゆり。
 私は…………どうやら生まれ変わった、らしい。

 ◇◆◇◆◇

 どうして生まれ変わったのか。……思いあたる節は一つしかない。
 あの日、ゆりかごと運命をともにした私が最後に願ったことは――リセット。
 最初からやり直したい。そう願い、願ったからこそ叶えられたのだろう。……私の左目に埋め込んでいた魔石――ジュエルシードによって。
 もともとはあのスカリエッティと管理局最高評議会の人たちがレリックウェポンとは違うアプローチでの人体強化を狙ったのが始まりで、たまたま適正があったのが私。……当時の私は、ちょっとした油断で普段なら何でもないような事件で大ケガした挙げ句、『もう飛べない』とお医者さんに言われて絶望していたか
ら、いきなり振られたその実験の話はまさしく救いの種であり、私は一も二もなく飛びついた。
 おかげでスカリエッティや最高評議会の仕事を手伝うはめになったけど……それでも、飛べないよりはまし。私のために死んでしまった――私が守れなかった人たちのために、私はどんな手を使ってでも生き伸びて…………そして、復讐してやるんだってずっと思ってたから。
 そのための力を貰えるっていうんなら、相手が悪魔でもよかった。……ジュエルシードの埋め込み手術で半分人間をやめてしまう事になっても、無理がたたって傷付いてしまったリンカーコアに代わり重宝してくれたから、なおさら。私はスカリエッティを恨まず、彼に感謝すらしていた。
 だからこそ、ゆりかごでは――……と、それはまた別の話ね。
 閑話休題。私がこうして時間を逆行してまで転生した理由は、だからたぶんジュエルシードのおかげだろう。……というより、それ以外に思いあたる節が無いのでそう思っておく。
 さて、そんなわけで私、ナノハは今、高町ゆりとしての第二の人生を歩むことになったんだけど…………早くもスッゴく苦労してます。
 まず第一に、動けないんです。
 当然のことなんだけど……赤ちゃんはまだ骨格が未成熟で、しかも頭がむだに大きくて。寝返りすらとりにくい上に神経が通ってるのか疑問に思えてくるほど指先や四肢を動かすのが難しいんです。
 おかげで…………その、これも当たり前なんですが……………………おトイレにいけないんです。しかも我慢もできないんです、トホホ……。
 さらに言えば、私がこうして中身が多少なり大人だからか…………うまく泣けないんです。
 赤ちゃんはしゃべれません。しゃべれないから、泣くんです。……それはわかります。わかりますが……泣けないんです。
 だから、というのも情けないのですが、そういった時は隣の赤ちゃん――なのはちゃんに頼ります。
 どうやら私、高町ゆりはなのはちゃんの双子の妹として生をうけたらしく、おかげでそれら困ったときのタイミングが割と合います。
 今だって私が『お腹すいたなぁ』と思っていると、隣で泣いてくれてます。……ありがとう、なのはちゃん。あなたが居なかったら私、第二の人生もすぐに終えちゃうところだったよ。
「ふふ、お腹すいたのね」
 そう微笑み、私たち二人を抱いて母乳をくれるお母さん。……おっぱいを吸うのには若干の抵抗感はありますが、背に腹は変えられません。と言うか、このタイミングで飲まないとなのはちゃんとの間で他の色々なもののタイミングがズレてしまいます。……ずっとおしめを変えてもらえないというのは、ある種の拷問ですから。
 そんなわけである意味泣けて仕方ない毎日ですが、前述の通り、私は生まれてこのかたまったく泣いてません。……そのことをお母さんたちは心配していましたが、こればっかりはどうにも出来ないんです。申し訳ない。
 ちなみに一度、なのはちゃんの真似をして『おぎゃーおぎゃー』と泣いてみましたが……私の内心の羞恥心以前に、表情をうまく制御出来ず棒読み無表情で泣く赤ちゃんは、見回りにきた看護婦さんの反応をみるにホラー過ぎるようなのでやめました。…………ちなみにその看護婦さんも辞めてしまいました。重ねて申し訳ない。
「……ふう。それにしても、ゆりは大人しいわね」
 背中をトントンとたたき、私たち双子がげっぷをするのを見届けてお母さん。ベッドに私たちを寝かせながら、軽く私の頬をつついて言いました。
「お母さん、なのはの夜泣きには困ってるけど……ゆりの泣かないのにも困ってるのよ」
 それは…………ごめんなさい。
 当然、声には――言葉には出来ないけど、謝る。ごめんなさい、お母さん。私は……でも、やっぱりもう少し、心配をかけちゃいます。
 だから「……ごめんなさいね」――え?
 私はまじまじと、今にも泣きそうな顔で謝るお母さんを見た。え? なんで、お母さん……そんな顔してるの?
「ごめんね。……ちゃんと、生んで上げられなくって」
 そう言ってお母さんは、私の左目を――視力を無くした瞳を見つめ、私の左肩に触れた。
 そしてそのままお母さんは私の左肩をなぞり――なのはちゃんの右肩に触れる。
「…………ごめんなさい」
 私たちは奇形児だった。
 ……願いを叶えたジュエルシードの影響なのか。どうやら私の左手は、お母さんの胎内でなのはちゃんの右手とくっついてしまったらしい。
 おかげで私の左肩から下は無く、なのはちゃんとくっついてしまった部分から下はなのはちゃんの右手だけが生えているという状態だ。
 ……そのことをお母さんは誰よりも悔やみ、自身を責めていた。
「ごめんね、ゆり」
 ……近い未来、私となのはちゃんは手術によって分けられるだろう。
 そしてそうなれば――ならなくても、私は障害者として生きていくことになる。
 そのことに恨みはない。むしろ謝りたいぐらいだ。
 だけど、
「……ごめん、なさい」
 そう一人で涙するお母さんを慰めてあげるには……まだまだ、時間がかかって
しまう。
 そのことが……今、泣けないながらも涙が出そうだった。

 ◇◆◇◆◇

 三歳になりました。
 そんなわけでかねてより抵抗があったおしめや母乳から解放されました! ……まさか離乳食がおいしく思える日がくるなんて思いませんでした。あと、できればオマルもやめてほしいです、べつの意味で恥ずかしいので。
 閑話休題。さて、三歳です。なので先日は七五三の写真を撮ってもらいました。
 ……こう言ったらナルシストになるのかも知れませんが、なのはちゃんの振袖姿がとても可愛かったです。っていうか生まれてからずっと一緒で、その成長を見守ってきたからか、私にとってなのはちゃんは歳の離れた妹、或いは娘のように映ってます。……ゆりはなのはちゃんの妹ですが、それは些細なことです。
 これもシスコンと言うのか、同じ顔、同じ背格好なのになのはちゃんは私以上に可愛いく映るんです。……幸いにして私たち、一歳の誕生日を迎えるころには『二人』になっており、隻腕でオッドアイのゆりと違ってなのはちゃんは五体満足で無事に手術を終えられました。よかったよかった、なの。
 さて、そんなわけで晴れて障害者となりましたゆりですが……当然と言うかなんと言いますか、子どもたちの間でついたあだ名が『よーかい』です。……これには苦笑を禁じ得ません。子どもって時々すっごく残酷だなぁ、って感じです。
 そしてこれも当然なんですが、私は『よーかい』と呼ばるのも気にしてません。と言うより、あからさまに周りがそのことを気にしているのがわかるだけに、逆に申し訳ないぐらいです。
 私としては「おい、よーかい!」「何か用かい?」と涼しい顔して返しているだけに、「ウチの子が申し訳ない」と謝り「お宅のお子さん、大変ですね」なんて同情の眼差しをお母さんに向けるのは勘弁してください。……本当に、お母さんが夜、ひとり涙しているのを見るのはツラいんで。
 たとえ私が「おかあさんは、きにしすぎ」って言っても、健気な娘が強がっているふうにしか映らないようで……。仕方なく、ゆりは子どもらしく「『よーかい』って、いうな!」って怒ったふりをするようにしたけど……はっきり言って火に油でした。
「うわ、よーかいがおこったぞ!」
「にげろにげろ!」
 などと、どうにもこちらの反応に面白みでも見いだしているのか、『いじめ?』は悪化してしまいました。……子どもって、本当に残酷。
 これでまた無視することにしたら、「おい、よーかい!」「もうくんな!」「きもちわるいだよ!」って言いつつ打ったり蹴ったりで……はぁ。どうしたらいいんだろう?
 それだけならまだいいのですが「……ゆり。引っ越そうか」って心配したお父さんお母さんは言いだすしまつで大変。そんなことされたら、海鳴市が――ひいてはこの世界が滅んでしまうかも知れないので私は必死に「ひっこしはヤダ!」と説得しました。
 周りは知るべくもないでしょうが、ゆりは――私は大人です。なのでいくらいじわるされたところで、所詮あいては子ども、気にしません。
 だけど、
「うう……! ゆ、ゆりちゃんはよーかいじゃないもん……!」
 私のことでなのはちゃんが怒り……悲しみ、
「うわ、『にせもの』がないてるー!」
「やーい、なきむしーなきむしー!」
 などと、ただ私と顔がそっくりだからという理由だけでいじわるされるのには我慢できません。
「……ちょっと、いいかな?」
 私は、その時だけは本気で怒ります。……大人げないとわかっていても、目の前でなのはちゃんがいじめられるのを我慢できない私は、まだまだ子どもということなのでしょう。
「ゆりには、なにいってもいいよ。でも、なのはちゃんをなかせるのはゆるさない」
 繰り返しますが、私たちはまだ三歳になったばかりで、
 ゆりは左肩から下が無く、右目しか見えない障害者の女の子で、
「よーかいはだまってろよ!」
「そーだ、そーだ!」
 当然、ケンカしても男の子になんて勝てません。
 当然、年上で、複数で、体格差のある健常な彼らに勝てるわけがありません。
 だけど――……見過ごせない。
「……すこし、あたまひやそうか」
 そう言って、私が取り出したのは――水鉄砲、お湯入り。
「あ、あちーっ!?」
「う、うわ、やめっ――あつっ!!」
 こうして、今は追っ払えても……あとでいじめられるのはわかってる。
 もしかしたら、今度からは私の反応見たさのためだけになのはちゃんに手を出すかも知れない。
 ……わかってる。わかってたけど……だまってられなかった。
「ゆりちゃん……!」
 子どもは…………残酷だ。
「このっ! よーかいのくせに……!!」
 私は水鉄砲をとられ、なすすべもなく複数の子たちに蹴られながら思った。
 ……明日、お父さんに剣を教えてって言おう。
 なのはちゃんを泣かせないために強くなろう――そう、動けなくなるまで蹴られながら強く思った。

 ◇◆◇◆◇

 五歳になりました。
 あれから、私はすぐにお父さんに御神流をならいはじめたのですが、目下の懸案事項だったいじめ問題は、お兄ちゃんとお姉ちゃんの手で拍子抜けするほど簡単に沈静化し、今ではすっかり私たちにいじわるしようなんて思う怖いもの知らずはいなくなりました。っていうか調子にのってお兄ちゃんまで怒らせるとは……ご愁傷様です。
 そんなわけで、私が剣を習う明確な理由は無くなってしまいました。……それは良いんです。なのはちゃんが笑っていてくれるんなら、それに勝る喜びはありません。……最近では『シスコン』という言葉の前に『重度の』とつきそうなぐらい可愛くって仕方ありません。
 さらには、私がお父さんに剣を習うようになったおかげか『ボディーガードの仕事で入院』という事件が発生しなかったのは嬉しい誤算。入院の時期は覚えていたのでどうにか止めようと思っていたのですが……どうやらお父さん、私のいじめ問題で色々痛感したのか、いつの間にかそっちの仕事は辞めてたらしいです。
 そして少々以上にダダ甘な師範代といのも嬉しい誤算です。……私、運動苦手なので。
 ただ、気がかりなのは……最近、なのはちゃんが大人しいことです。
 どうにも遠慮がちっていうか……少し前までは子どもらしいわがままを言ってくれてたのに、最近じゃ全然。身体の障害を除けばそれなりに頼りになるという自負があっただけに、甘えてくれない最近のなのはちゃんに少しだけ寂しさを覚えています。
 ……あれかな? やっぱり、私に遠慮してるのかな?
 思いあたる節はいじめ問題意外にも一つ。先日まで私が入院していたから、というのも考えられます。
 私の左手は、肩から先がありません。なので定期的に、成長した骨が切断面から飛び出さないよう、手術をうける必要があります。
 件のいじめ問題で多少神経質になっている時期に、その子が手術を受けるということで……家族全員がひっきりなしにお見舞いに来ました。
 そのことで……もしかしたら、昔の私がお父さんの入院時に感じたのと同じ思いをなのはちゃんにさせてしまったのかも知れません。
 店がまだ忙しい時期での入院、そして私のことでいろいろ神経質になっている時の手術。その上、私が入院中にタイミング悪く風邪をひいてしまい……けっきょく、お父さんではなく私が原因でなのはちゃんを一人にしてしまったようです。
「……なのははいいよ。まってる」
 退院後。早速なのはちゃんをさそってお父さんに剣術をならおうとしたら、これです。
「いいよ。ゆりちゃんのおこづかいだもん、ゆりちゃんの好きなのかおうよ」
 テレビを見ている時、なのはちゃんがCMのお菓子を微妙に欲しそうな顔してたので『買ってあげる』って言ったら、これです。
 ……私のお小遣いはたいていなのはちゃんのために使ってたので、少し途方にくれました。私の欲しいものは、なのはちゃんの笑顔なのに…………難しいです。
「なのはは『おるすばん』してるから、いってらっしゃい」
 『いってらっしゃい』って……。べつにお店が忙しいからって遊びに行っちゃダメなんて言われてないのに……。
 …………もう、我慢できない。
「……わたしは、なのはちゃんと行きたいの」
 私は五歳児の作り笑顔を泣きそうな眼差しで見つめ、その小さな手を持って言います。
「どうして? なのはちゃん、ゆりのことキライなの?」
 意地の悪い問いなのは自覚していますが、訊かずにはいられません。……なのはちゃんが肯くとは思えないけど、せめてなにかのきっかけになれば。そう思っての問いに、なのはちゃんは――

「……キライ、だよ」

 私の手を払い、顔を伏せて言いました。
「…………ぇ?」
 呆然と。私はなのはちゃんを見つめ、「ゆりちゃんなんて……キライ」紡がれた言葉に愕然としました。
「……キライ」
 私は、よろよろと後ずさり――気付きました。
 なのはちゃんが…………泣いてる?
「キラ、イ……」
 顔を伏せ、
 スカートがしわくちゃになるぐらい力いっぱい握り、
 肩と声を震わせて、
「なのは、は……ゆ、ゆりちゃんが――」
 キライ――そう言わせないために、私はなのはちゃんに抱きつきました。
「……キライでも良いよ」
 思う。気付く。
 もしかしたら、私もあの日――……あの時、こうして欲しかったのかな、と。
「……ゆりは、それでも――なのはちゃんが好きだから」
「――――っ!?」
 思う。
「ぅ……、ぅぁああ……!」
 もしかしたら私も、こうして誰かの胸で泣きたかったのかな、と。
「……ごめんね」
 いい子になろうって必死になってた、私。
 いい子であろうって無理に笑ってた、私。
 それと同じように――あるいはそれ以上に頑張ってきたのだろうなのはちゃんに…………ごめんなさい。
 そして、
「……大好きだよ――『おねえちゃん』」
 思えば初めてなのはちゃんを姉と呼ぶようになったその日、
「う、うん……! なのは、も……だいすきっ!」
 私たちは初めて、本当の意味で仲良し姉妹になれたのかも知れません。
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