嗣希創箱の消閑

小説、落書き、二次創作、etc…。 あなたの暇潰しのお供にどうですか♪ 

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《けいおん! ~平沢家の男の娘!?~》3-2

《けいおん! ~平沢家の男の娘!?~》




 ◇◆◇◆◇

 ――思えば、私はいつも逃げてばかりでした。
 由緒ある家――白桜院の家に生まれ。その名を背負えるにたる能力を望まれ。早く、多くを教わり、導かれ。
 それで……いつから、でしょう?
 周りの目が怖いと思ったのは。母さまの叱責に怯えだしたのは。
 ……いつからでしょう?
 自分が白桜院の家に生まれてなければ、と考えだしたのは。
 自分がもし、今の自分でなければ、と夢想しはじめたのは。
 ……私は弱い人間です。グズでダメで、いつも叱られてばかりの人間です。
 だから、逃げだしました。
 現実から。……自分から。
 弱い自分から目を逸らし、強い誰かを想いえがいて……それになりきろうとしました。
 そうしたら、私を知らない人は私を誉めてくれました。
 そうしたら、私を知らない人は私を認めてくれました。
 すごいね、と言ってもらえました。さすが白桜院の人間だね、と言ってもらえました。
 だけど…………母さまは誉めてくれませんでした。
 ……当たり前です。
 だって私が演じた理想のそれは、母さまが私に超えて欲しいと願った人だったから。
 ……私には兄が一人居ます。
 兄さまは私とは違って優秀です。私とは違って誰からも誉められ、認められる人です。
 だから、私の理想でした。
 だから、私の目標でした。
 そして母さまは、そんな兄さまのことが……あまり好きではないようでした。
 だから、誉めてくれなかったんだと思います。だからきっと、ただのモノマネだとすぐに気づかれてしまったんだと思います。
 私は……叱られました。
 すごく、叱られました。
 それからは、前にも増して母さまは厳しくなりました。
 そしてダメな私は……また逃げだしました。
 ダメな私ではない私になりたくて。誰でもない誰かになろうと思って……私は女装をするようになりました。
 ……たぶん本当は、なんでもよかったんだと思います。
 たぶん本当は、昔兄さまが『かわいい』と言ってくれたから着物を纏ったんだと思います。
 ……私は逃げだしたかったんだと思います。
 『白桜院』の名が重くて……。母さまの期待に応えられない自分が嫌で……。だから、すこしだけ休憩するつもりで……着物を纏うようになったんだと思います。
 ……だから、当然なんです。
 そんなダメな私を母さまが許してくれるわけないんです。
 だから……当然、なんです。
 私に『白桜院』を名乗る資格なんて無いんです。母さまに見放されるのは当たり前なんです。
 だから――……だけど。
 こんな私に、唯さんは言ってくれたんです。
 『ウチ、来る?』って。
 それが……私には、とても嬉しかったんです。

 ◇◆◇◆◇

「――つまりさぁ。皐って、べつに女装じゃなくても良いってこと?」
 ところ変わって平沢家のリビング。
 そこで皐とテーブルを挟んで向かいあって座り、彼の入れてくれたオレンジジュースを傾けながら律は言った。
「ほら。なんだっけ? あの、体と心の性別が違うっていう――」
「『性同一性障害』、ですか?」
 ちなみに律たち軽音部一同が平沢家に来たのは、ほかでもない、唯の追試対策のためだった。
 もし唯が追試でまで赤点をとるようなら、彼女は部活をやめさせられるかも知れない……。そうなれば、今でこそ定員ギリギリの軽音部は廃部の可能性もある――と考えた彼女たちは『ならばみんなで勉強会だ!』とばかりに平沢家に立ち寄り、唯の勉強をみてやることにした。
「つまりさぁ……。皐の場合、『別の誰か』に慣れれば女装でなくても良いんだろ?」
 心が女だからってわけじゃないんだし、と。さきの少年の話を思い返し、改めて確認する律は……落ちつきなく、騒がしくしすぎたせいか澪に部屋から叩き出されていた。
「? はい」
 そして皐はと言えば、道中でした過去の告白を聞いてからこっち、なんだか自分のことを避けているふうな澪のことを慮り、『一人で掃除でもしてようかな』と思っていたところで……一人、暇そうだった律に捕まって、今にいたる。
「…………。ここまで言って、なんでわかんないのかなー」果たして律は、どうにも要領の得ない様子の皐に頭をかきかき「単刀直入に言うけどさ。……女装、やめないか?」と、ド直球で言ってみた。
「…………」
 どうして少年が着物を着始めたのかはわかった。
 その上、別段、女装でなくても良いのなら、それはやめるべきだ。……自分はまだしも、澪などは明らかに引いていたし。と、律としてはひどく当たり前で常識的な指摘をしたつもりだったが――
「? どうしてですか?」
 皐は、やはり不思議そうに首を傾げた。
 そして、
「あ。もしかして似合ってませんか?」
 …………いや。似合いまくってるけど。
「……かわいくないですか?」
 かわいいけども。男だって言われなきゃわからなかったけども!
「女装……ダメ、ですか?」
 果たして、捨て犬のような潤んだ瞳で見つめてくる皐に、律は「くっ……!」うめき、半ば気圧される。
 ……あ、あっれ~? もしかして間違ってんの…………あたしの方?
「いやいや、そんなハズないし」
 呟き、いったん首を左右に振る律。それから、キョトンとした様子の少年を見やり、なにか根本的に話が――認識が食い違っていることに気づく。
「あ~……」まさかね~。そんなわけないって、と思いつつ、「もしかして、皐……女装が変じゃないって思ってる?」
 ……そもそも、どうして女装なのか。
 別に女装でなくても良い、というのは確認した。なのに、なぜ、敢えて女装なのか。そして、なんでそれで外に出れるのか。
 それ以前に…………恥ずかしくないのか。
 それらもろもろの疑惑を乗せ、律は半信半疑ながらも問うた。
「まさかとは思うけど……女装趣味が世間一般では変態だって、知らない、とか……?」
 果たして――

「ッ!! そ、そうなんですかッ!?」

 目を丸くし、思わずテーブルを『バン!』とぶっ叩いて立ち上がる皐。完全に予想外、ビックリ仰天状態だった。
 そして「って、マジで知らんかったんかい!!」と、むしろその反応に驚く律。
「い、いやぁ。ムギも世間知らずっぽいなぁって思ってたけど……」
 ……まさかその上がいるとは。
 というか、もしかして……金持ちってのはみんな馬鹿ばっかなのか?
 などと失礼極まりないことを少女が遠い目をして思っていると、
「え? い、いや、だって……え!? へ、へへへ、変態!?」めちゃくちゃうろたえまくって、皐。『あわあわ』と両手を無意味に動かしつつ、「で、ですが! 歌舞伎などで女形と言えば、舞台の華! 主役ですよ? それに宝塚などでは、その逆が主役級ですし」
 最近見たテレビなどでも男性なのに女装している方がいらっしゃいましたし。バイトではメイドですし。たしか法律でも『女装禁止』とは無かったような、と。完全に女装イコール変態という認識が無かったらしいことをまくし立てる皐に、またも律は『あれ? 私の認識の方がおかしいのか?』と自身の常識を疑いだす。
 ……そう言われてみれば、最近は普通にコントとかで女装してんのとかニューハーフ芸人とか見るしなぁ。男が女のカッコしてても、『個性派』ってことで通るのか?
 いや、でも……もし弟が女装趣味に目覚めたら――と、そこまで考えた律は頷きを一つ。「うん。やっぱりあたしは、『女装趣味はねーよ』って言うわ」と、爽やかな笑顔で言った。
「うぬぅ……。ちょ、ちょっと待っててください!」
 果たしてそんな少女からいったん離れて、皐。着物の裾から携帯電話を取り出し、ダイヤルをプッシュ。
 自身の知りうるなかで最も常識人だろう彼女――真鍋 和に電話した皐は、さっそく先ほどの律の言葉を問いただしてみた。
 そして、
『…………知らなかったの?』
 ああ……だからあんた、いつも恥ずかしげもなくあんなカッコしてたのね。……私はてっきりそういう病気だと思ってたわ、と。最初の一言で両手を地面につけていた少年にトドメまでさしてくれる、頼れる常識人。
『前に、「着物着てると落ちつく」って言ってたし……。女装してる方が都合が――って、もしもし?』
 ……返事がない。ただの屍のようだ。

 ◇◆◇◆◇

 ――秋山 澪は、ひとより少しだけ繊細な少女だった。
 怖い話はダメ。痛い話は聞けない。人前に出るのが苦手で、人見知りで、恥ずかしがり屋。
 だから――考えていた。
 唯の部屋で、数学の教科書を片手に彼女の勉強をみながら。澪は、今は下に居るだろう女装少年のことを考えていた。

 ――思えば、私はいつも逃げてばかりでした。

 白桜院 皐。
 ……最初は、女の子だと思った男の子。
 小柄で、同い年とは思えないほど童顔で。着物と髪型、そして整った容貌とで、今でも異性には見えない彼は、言った。

 ――……私は弱い人間です。

 とても悲しげに。寂しげに。
 少しだけ恥ずかしそうに、少年は言った。

 ――誰でもない誰かになろうと思って……私は女装をするようになりました。

 その言葉が、忘れられない。
 その台詞が、頭のなかをぐるぐる、ぐるぐると回っていて。
 だから――

「どうして、……言ったの?」

 気がつくと、問うていた。
「……ん? なに、澪ちゃん?」
 不思議そうに見つめ返す唯に、
「唯は、なんで……『ウチに来る』なんて言ったの?」
 澪は唐突に、問うた。
「あ。それ、私も気になってたの」と、それに追随するかたちで紬。ポンと両手をあわせ、「唯ちゃんは、どうして皐くんを引き取ろうって思ったの?」どことなく瞳を輝かせながら問う。
 紬は白桜院家のことを知っていた。
 家柄、風習、事業。それらを少なからず聞き知っていて――だからこそ、不思議に思っていた。

 ――私に『白桜院』を名乗る資格なんて無いんです。母さまに見放されるのは
当たり前なんです。

 型式に厳しい白桜院家の人間が、身内の不祥事を許さない……というのは、わかる。それで追放、というのも……無くはないのかも知れない。
 しかし――それで他家に預けるだろうか?
 女装を恥とし、それを罰するにしても……それで余所の家に白桜院の人間を、という流れが紬には信じられなかった。
「皐くん……もしかしてお家を追い出されちゃったの?」
 勘当でもされて『白桜院』でなくなった?
 それなら、どこの家に出してもおかしくはない――……という考えも十分に異常なのだが、自家の名に並々ならぬ誇りと威信をもつ白桜院の人間なら、あるいは?
 名の剥奪と追放という流れは考えられる……ような? …………う~ん? と、頭をひねり続ける紬。
「ふえ?」
 果たして、眉根を寄せての紬の問いにキョトンとして唯。首をかしげ、「えーと……」まずは考えをまとめるように視線をさまよわせてから、改めて口を開いた。
「よくはわかんないけど……なんとなく、かな?」
 ……いや。なんとなく、って。
 澪と紬は半ば同じように思い、
「だって、もともとはクラスメートだった男の子でしょ?」
 犬猫じゃないのだから、と。
「世間体とか……大丈夫?」
 赤の他人――それも女装趣味のある異性を、と。二人は呆れ、まるで考えなしのような少女を見た。
 そして、
「さっちゃんは――いい子だから」
 唯は笑って返した。
「さっちゃんは、だって私のことを助けようってしてくれて……。だから、『ウチ、来る?』って」
 変かな? と首を傾げる少女に、『だけど』と澪と紬は思う。
 例えば、少年が自分にとって恩ある人で。例えばその彼が、家を追い出されたとして。それで『ウチに来る』と言えるだろうか? 本当に、それで赤の他人を引き取ることができるだろうか?
「……反対は、されなかったのか?」
 例え、唯のそれが善意からのものでも……普通なら反対される。例え、娘の恩人でも……普通は、『じゃあ引き取る』と親は言わない。……それが同い年の異性ならなおさら。普通なら、同居なんて認めないと澪は思い、問うた。
「え? されたよ?」
 そして、対する答えは至ってシンプルだった。それこそ「だからみんなで説得したんだぁ」と、『頑張ったんだよ』とばかりに言うのが信じられないぐらい。
「さっちゃんは、いい子だから」唯は笑って、「お母さんたちもね、はじめは『ダメ』って言ってたけど、さっちゃんがいろいろ手伝えるようになったら『いいよ』って」なんてことはない、とばかりに言った。
 いい子だから。
 恩人だから。
 だから――
「でも……」
 ……それでも、
 それでも普通は――と、澪は反論しかけて。

「「たのもーッ!!」」

 突如、勢いよく部屋に乱入してきた二人の声に、かき消された。

 ◇◆◇◆◇

 女装は変態。そのままでは世話になってる平沢家に迷惑をかける。
 ならば、と。皐は着物から普通の、男性用のシャツとスウェットに着替え、
 そして――なぜかサングラスをして、現れた。
「どうですか!?」
 なぜか仁王立ちで、澪に、皐は問うた。
「どう、って……」なんて答えたらいいんだ? と、澪は目を白黒させて「…………おい」少年の隣で、吹き出すのをこらえてる律を見つけ、『……また、何か余計なことを』と半目になる。
 …………うぬぅ。
 これではダメらしい、と澪の反応にわずかに落ちこむ皐。チラリと律を見て、
「ぷぷぷ……! い、いけ、皐!」とそれに応える少女に頷きを一つ。キリッと表情を引き締めて、
「お、おれ、白桜院 皐! よ、よよよ、よろしく、だぜッ……!」
 キリッと、言った。
「…………………………………………は?」
 対して澪は呆然とし、「ぶは……!」と律はたまらず吹き出した。
「……律?」
「あはっ、あははッ、あははははは……!!」
 …………うぬぅ。
 よくわからないという様子の少女に、『……これでもダメらしい』と皐は落ちこむ。
 ……せっかく男らしいところを見せようと思ったのに…………失敗、したのでしょうか。
「うぬぅ……」
 皐はうなる。
 考える。
 ……女装趣味のある男は変態、らしい。女装は世間体がよくない、らしい。
 だから、『女装はやめました』アピールをしようと思い、律の教えにならって男らしさをアピールしてみたのだが……。
「? さっちゃん?」
「皐くん?」
 不思議そうにしている唯と紬の様子からも、なんだかまた自分だけが空回ってるようだと感じた皐は、考える。
 考える。自分が知らず、迷惑をかけていたらしい平沢家のために。自分に居場所をくれた、唯のために。自分のことを受け入れてくれた彼女たちのために。
 考える。なにをすべきか。どうしたらいいか。
 考える。考える。
 そして――
「……これ、少しお借りします」
 言って、少年は『それ』を手に行動する。
「……え?」
「お、おい……」
 『それ』を――ハサミを手に、
 皐は躊躇いなく、

 髪を――切った。

「さ、さっちゃん!?」
 目を剥く唯をチラリと見て――また一房、切って捨てる。
 ジョキリ。ジョキリ、と。
 それまで肩にかかるほどに伸ばしていた髪を、切る。切っては、ゴミ箱に捨てる。
「ちょっ……!? お、おい、皐!?」
 その手を、律はたまらず止める。
 な、なにしてんだ? と、突然の行動に疑問を抱き――「あ!」気づいた。
「あ~……」も、もしかして、「私の言ったこと……気にして、か?」
 澪は『女装』ってのに引いてるだけ。皐が男らしさをアピールすれば良いんだよ、と。律は面白半分に助言した。
 まずは普通に男の子の格好をして。つぎに『誰か』になるためにサングラスをして。一人称を『俺』に。語尾に『だぜ』をつけて――なんて、それこそ冗談半分だとわかるような助言を、した。
 だから、
「……すみません、澪さん」
 果たして、皐は澪を真っ直ぐに見つめて、言った。
「すみません。私が……。私…………気持ち悪い、でしたか?」

 ――気持ち悪い。

「……すみません。私は、世間知らずで……。人の気持ちとかも、あまりわからなくて……」

 ――恥ずかしくないのか?

「…………すみません」
 謝り、顔をうつむかせて。スウェットの裾を、握りしめて。
「――ですが!」
 顔を上げて。真っ直ぐ、澪を見て。
「私は『こんな』で……。私は……――だけど、唯さんは良い人です!」
 その瞳に涙をためて。ただ、真っ直ぐに澪を見つめて、言った。
「唯さんも、憂さんも良い人で! みんな、私なんかとは違って……! だから――唯さんのこと、嫌いにならないでください!」
 お願いします、と。少年は頭を下げる。
 中途半端に切られた、不格好な頭を、下げる。自分『なんか』と言って、下げる。
「わ、私のことは……無視してくれて構いません。気持ち悪い、でしょうし……次からは、なるべく澪さんの視界に入らないようにします」
 だから、どうか。
 どうか、唯さんだけは。
「唯さんたちは、とても良い人で――」
 自分なんかとは違うから。
 だから、どうか彼女たちのことを――

「うん」

 澪は頷き、
「うん。なんか……わかった」
 頷き、そして皐の頭に『ポン』と手を置いて、
「うん」
 キョトンとして見上げる少年に、少女はふわりと微笑んだ。

 ◇◆◇◆◇

「――……じっさい、そんなに難しい話じゃないのよ」
 しばらくの後。サンドイッチを手に唯の勉強をみに来た和は、言った。
「皐は『もう白桜院は名乗れない、母さまに見放された』ーって言ってるんでしょうけどね。本当のところは、ただ、皐の家が今、少しゴタゴタしてるから『預かってほしい』ってだけ」
 少女は軽い調子で、否定する。
 どうして引き取った? という疑問を、否定する。
 もしかして勘当された? という疑問を、否定する。
「それで、なんで唯ンとこ?」
「……唯が考えなしに『ウチ、来る?』って言ったから」
 半年前を振り返り。
「それを聞いた皐の保護者がね。『じゃあお願いします』って」
 半年前からの出来事を思い出し。
「まぁ当然、反対されたけど……そこはさすが平沢家ってところかしら」
 和は軽く、告げる。
「だから……っていうのも変だけど――」
 憂に手を引かれ、美容院に連れて行かれた少年のことを想い、
「――……あの子のことも、どうかよろしくお願いします」
 少女は軽く、頭を下げた。
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