嗣希創箱の消閑

小説、落書き、二次創作、etc…。 あなたの暇潰しのお供にどうですか♪ 

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《なのはさん。》4

《なのはさん。》

いち。
に。
さん。
し。
えぴろーぐ。





 ◇◆◇◆◇



 ――あの子は…………寂しい、と泣いていたんだ。



 三ヶ月ほど前。

 その日は、本当は調査の引き継ぎがメインのはずだった。

 春から私は、親友の創設する部隊に配属される。だから、ある程度の調査を他の執務官や調査部署にまわす予定だった。……それだけの、はずだった。



 ――少女が、みつからなければ。



 それはちょうど、違う調査部署に私のこれまでの資料を渡す日で。ちょうど、その部署のひとが違う調査でとある研究所跡を調べる日だった。

 そして――見つけた。

 素体だろう子どもたちの骸に抱かれ。死骸と果てた臓腑の地獄絵図のうえで。乾いた血潮と腐った薬液でその身を彩り。醜悪にして汚らわしい、汚臭と嫌悪を纏いし様相の、少女。



 ――高町なのはのクローンが、そこには居た。



 プロジェクト『F』。人造魔導師生成、研究施設。そんな場所に、彼女は居た。



 ――…………さみ、しぃ。



 ボロボロで。

 本当に、ボロボロの状態で。



 ――……さ、み、しぃ。



 半死半生の状態で。



 ――ひとりは…………いや、だ!



 今にも死んでしまいそうな状態で、少女は言った。



 ――…………さみしい、よ。



 ……泣きながら、言ったのだ。

 泣きながら、さみしい、と。ひとりは嫌だ、と。

 だから――……だけど、少女は覚えていなかった。

 あの日のことだけではなく、研究所のこと、研究員のこと。そして…………実験の、こと。

 少女は重体だった。……心も、重体だった。

 それは破棄されて久しい研究所跡で、どうにか生きようと足掻いた結果。

 魔法封じの結界のなかで、同じように生まれ、育った同朋と殺しあって……喰らい、あって。

 飢えと食中毒と薬物による禁断症状。そのどれもが並大抵の痛みでは無かったろう。そのどれもこれもが、少女の体と心を削っていったのだろう。

 だから――…………だけど、忘れてしまったのなら、それでもいい。

 覚えてないんなら、それでも。……執務官にはあるまじき思考だけど、少女のこれまでを思うなら、それもありだと思った。

 だから、私は――……すべてを、話した。

 なのはに。なのはの、家族に。

 話してはいけない――……そんなことは、わかってた。わかっていて、私は話した。

 それが少女のために――小さきなのはのために、なるかと思って。……私はどこまでも私情に走ってしまった。

 いけないとわかっていた。それでも彼女のために――なのはに、居場所を作ってあげたかった。

 寂しい、と泣いていた彼女に、『ここに居ても良いんだよ』と言ってあげたかった。『ここに居ても良いんだ』と思ってほしかった。

 だから――……だけど、そんな私の思いは、間違ってたのかな?



 ――なんか、『なのは』が二人っていうの……やっぱり面倒よね。



 ある日、見舞いにきたアリサが言った。

 それまで、誰一人言わず、

 それまで、皆が思っていて、言えなかったことを。



 ――幼い、なのは。『おさなのは』? ……いえ、子どものなのはで、『このは』ってのはどう?



 少女は、なのはのクローンで。少女には『高町なのは』の記憶と人格があって。

 だから、みんな、少女を『なのは』として扱って。

 だけど、みんな、少女が『なのは』と違うと知っていた。

 ――高町、このは。……うん、かわいいじゃない!

 そう、違う。

 いくら似ていても。素体の記憶をもっていても。少女は、なのはにはなれない。……私が、アリシアになれなかったように。

 高町このは。

 その名前を少女が受け入れたのを見て、ようやく気づいた。

 彼女は、なのはのクローン。『なのは』じゃない。なのはとは違う。

 だけど――ニセモノじゃない。……例え、ホンモノが他に居ようと、関係ない。少女は少女、なのははなのはだ。

 だから、



 ――今度ね。あの子と模擬戦するんだ。



 そう話してくれたなのはの言葉に、



 ――……あの子が、言ったんだ。あなたとたたかいたい、って。



 少女の想いに、私は――





 ――……………………たす、けて。





「――――ッ!!」

 気づいたときには、動いていた。

 ディスプレイに映る、落ちてゆく少女をまえに、じっとなんてしていられなかった。

「この、はぁぁああああッ!!」

 叫び――ソニックムーブ。

 私は考える前にその身を加速させ、気絶してしまったのか、まっすぐ落ちいく少女へと両手を伸ばし、

 そして――





 耳を覆いたくなるような悲鳴が、世界をふるわせた。



 ◇◆◇◆◇



 ――気づけば、ヒカリのなかにいた。

 ヒカリ。白い、ヒカリ。

 まるで、世界の果てのような。

 まるで、世界の中心のような。

 ただ、明るい、白の空間。なにもない、ヒカリの平原。

 ここは――



『「地獄」ってのは無しで行こうか』



 こえが、した。

 すこし高い、男の子のこえだった。

『さて、改めまして、自己紹介を。こんにちは、あなたの最後の願いを聞きました、神さまです』

 こえが、する。こえだけが、きこえる。

 白いヒカリのなかに、すがた無く。こえだけが、響いていた。

『さてさて、じゃあ改めまして問いますデスよ』

 …………。

 ……ねもう? どうして、いま、そんなことを――

『君は、神に、何を願う?』

 果たして、ねもうは、問う。

『君が望むなら、何でも叶えるよ。……なんなら、九歳の――魔法と出会ったころの君にだって戻せるし。望むなら、世界征服だろうと最初っからやり直すって願いだって叶えてあげるよ』

 ……ねもう?

 いきなり、どうしたの?

『俺は神さまだからね。望むなら、君が欲しいもの全部、君にあげられる。だから……望むなら、「なのは」にだって勝たせてやるぜ?』

 ――ッ!?

 思いだした。そうだ、わたしは高町なのはと!

『わかってたろうけどさ。君の最終的な魔導師ランクは「AAA-」で、相手は現役空戦「S+」だ。勝てるわけ無いよねぇ』

 模擬戦……! ねもう!? 模擬戦は……!?

『それでなくても身体的、体力的にも不利ってわかってて、なんで「わざわざ」非殺傷設定で挑むのさ』

 ねもうはわたしのことばを無視し、問う。

『「勝てなきゃ意味がない」、だから「殺すのも仕方ない」。それが君だろ? ナノハ特務官』

 ……ッ!?

 そ、それは……。

『奇襲、上等。卑怯、当たり前。負けられない、死にたくないから、やるなら必勝、必殺……でしょ?』

 …………それ、は。

『君は言ったよね。「わたしを見せつける」って。だったら最後のも「ナノハらしく」殺傷設定でやれば勝てたんじゃない?』

 …………。

『こっちの「高町なのは」を殺せば、君が唯一無二になれる。君の望む、本当の君を見せつけられる。その上で、もし許して貰えれば、君は手に入れられるんだぜ? 君の居場所を、さ』

 …………それは。

 ……それは、たしかに、わたしが望んでたこと、だけど――

『つか、願えばいいじゃん。俺に。「神さま、私に勝たせて下さい」って』

 …………。

 ……それ、は。

 それは――

『ああ、それから。模擬戦なら――』

 ――瞬間。わたしの目は、それを映す。

 蒼い空。先ほどまで飛んでいた模擬戦場。

 ――同時。わたしの耳は、それを捉える。



「ぁ゛ぁぁあ゛あぁああぁあああぁあぁあ゛ぁぁあぁ――――ッ!!」



 それは空気を切り裂く、悲鳴。

 こころを引き裂く、悲鳴。

 それは、わたしの口から――わたしのからだが勝手に、あげていた。

『……君の人格を憑依させたときに、消えたと思ったんだけどね』

 ねもうのことばに、反応する余裕はない。

 ……え? なに? なにが、どうなって……?

 混乱する。

 わたしの口からは変わらず悲鳴がほとばしり。どういうわけか五感はあれどからだに自由は無く。頭を抱える両手は痛いほどにその爪を頭皮に食い込ませ。見開かれた瞳は勝手に涙をこぼし。ふるえるからだは妙な熱を宿して。

 されどこころはどこまでも冷たく、寒々しく。それはわたしのこころではないはずなのに、わたしまで切り刻まれるような痛みをよこして。

「いや……! た、すけて……! たすけて、たすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけて……!!」

 不意に浮かぶ、映像。

 それはおそらくこの身が経験した記憶。体感した地獄。

 そこには、白衣を着た悪魔がいた。

 その悪魔に、日常的に薬物を投与された。『殺さなければ殺される』なんてルールを強要された。毎日毎日毎日、その手と身を血の赤に染めさせられた。それでも『失敗作』と蔑まれる日々だった。『ニセモノ』と呼ばれ、なぶられる人生だった。

「……いや! やだ! やだやだやだ! たすけて! おかーさん! おとーさんおにーちゃんおねーちゃん!」

 薬物と実験は、人格と精神を狂わせる。発狂しなければおかしい痛みを、毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日与えられる。

「たすけて……ふぇいとちゃん」

 そして、悲鳴も助けを呼ぶ声も枯れ果て、精神を徹底的に破壊されて……その身に、『わたし』が憑依した。

「このは……!!」

 呼びかけに。この身を抱く感触に。ぬくもりに、反応など返さない。

「たす、けて。たすけて、よ……。たすけて、くれる、って……、なまえ……よんだら、きて、くれる、って……やくそく」

 その瞳は世界を映し――映さない。

 その口は思いを発し――発さない。

「ッ!! このは! 私は……! 私は――」

 耳は、音を拾い。

「……きらい、なの?」

 されど耳は、こころへと想いを伝えず。

「なのはが『わるいこ』だから? なのはが『ひとごろし』だから? なのはが『しっぱいさく』だから? 『にせもの』だから? だから、きらいなの?」

 それはことば。思い綴る、言の葉。

 この身が抱える、疑問という名の刃。聞くもののこころを刺す、思いのかけら。

「……違う! 違うよ、なのは! 私は――」

 わたしを抱きしめ、必死に、涙すらにじませて告げるフェイトちゃんへ、

「…………さみ、しい、よ」

 そして…………わたしに。

 そんな彼女のことばと思いは、突き刺さる。

『ん? ――ああ、どうやら体の主導権は戻ったみたいだね』

 果たして、眠りについたらしい少女に代わり、再びからだを自由に動かせるようになったわたしには……すでに覇気は無かった。

 …………言うだけ言って眠るなんて、ひどいよ。

「……ごめんね、なのは。ごめん。ごめんね。なのは」

 そうわたしを抱きしめ、ついには泣き出してしまったフェイトちゃんを無表情に眺めて、

「…………『このは』で、いい」

 わたしは、それだけをこぼした。



 ◇◆◇◆◇



 泣いてる。

 このはさんが――なのはさんが、泣いてる。

 やだ、って。

 たすけて、って。

 さみしい、って……泣いてる。

「「…………」」

 模擬戦場で。フェイトさんと少女とを映すディスプレイを眺め、みんな無言。……たぶんみんな戸惑っていて、無言。

 それは……そうだろう。まさか彼女がなのはさんのクローンなんて思わない。『F』の子どもがどんな実験をされるかなんて……知るはずない。

「……エリオくん」

 僕の横で。僕の手をにぎるキャロにしたって、わからないのだろう。

 だけど、わからないなりに『悲しい』というのは察しているようで、僕と同じように涙ぐんでいた。

「…………うん」

 なにが、『うん』なのか……わからない。

 ただ、思い出していた。



 ――なのはが『わるいこ』だから?



 その言葉。



 ――なのはが『ひとごろし』だから?



 その言葉の意味と、それを発したときの気持ちを……思っていた。



 ――なのはが『しっぱいさく』だから?



 少女の気持ちは、わかる。……わかるような、気がする。



 ――『にせもの』だから? だから、きらいなの?



 そして、それを聞いたフェイトさんの気持ちも……。



『……ごめんね、なのは。ごめん。ごめんね。なのは』

 そう彼女を抱きしめ、ついには泣き出してしまったフェイトさん。

 その姿に……恥も外聞も無い。それはまさしく一人の無力なる少女の姿であり、その言葉には謝罪以上の意味と切実さが込められていた。

『…………「このは」で、いい』

 果たしてそれに応えるは、再び無表情に戻った少女。その、先ほどまでとの変化は、『もしかして二重人格?』なんて思わせるほどで――……あるいは、本当にそうだったとしても、僕は不思議に思わなかった。

『っ! で、でも……!』

 未だ混乱と悲しみに涙をこぼし、少女を抱きしめ続けるフェイトさん。

 そこから、するりと自然な動作で抜け出し。少女はフェイトさんの目尻を拭って、背後へと向く。

『……続けるの?』

 少女の視線のさきで、なのはさん。どこか複雑そうな表情で問い、

 それに、少女はこくり。躊躇なく頷き、そして再び杖を構え――



 瞬間。なのはさんへと突撃した。



『え?』

 目を丸くするフェイトさん。

 それを無視し、なのはさんのプロテクションへと杖を突き出す少女は……まるでフェイトさんに『大丈夫』と背中で語っているようで。

 応戦するようにプロテクションを爆破し、距離を稼ぐように飛んでいくなのはさんも、『心配しないで』とみんなに言っているみたいで。

 だから、無性に…………泣けてきた。

「この、は、さんは……なのは、さん、の…………クローン、なんです」

 まだやるの? ――そんな空気に耐えられず、僕は言った。

「記憶転写型クローン……プロジェクト『F』」

 涙を流し、機密事項を。口止めされていた、少女のもっともデリケートだろう秘密を。

「このはさんは……だから、もう一人のなのはさん、なんです」

 僕は勝手に。自己満足のために。勝手に同情して、勝手に語った。

「……え?」

「それって……」

 みんなの反応は…………見ない。

 怖いから見れない、というのもあるが……何より、二人の模擬戦から目を離せなかったから。

 二人の……あるいは『三人』のなのはさんの舞踏から、視線をそらせなかったから。

「…………がんばれ」

 知らず知らず、こぼれるエール。

 それはやはり同情から来るもので――……だけど、どこかその演舞に魅せられた観客として。

 生まれも、育ちも、関係ない。一人の少女の、強き魔法を。たくさんの傷を刻み、それでも広げられた翼に敬意を評して。

「……がんばれ」

 二つの、桃色の閃光が空を駆ける。

 数多の、桃色の魔弾が真昼の綺羅星のごとく散らばる。

「がんばれ!」

 黒き、ボロボロのワンピース纏う少女に、エールを。

 その身の痛みすら吹き飛ばす魔法に、エールを。

「がんばれ!」

 僕は勝手に。自己満足のために。

 自己を投影した少女の姿に、エールを送り続けた。



 ◇◆◇◆◇



 …………なんで、だろう?



 ――じゃあ、お互いに全力全開で行こう。



 …………なんのために、だろう?



 ――最初で最後の……手加減抜きの、真剣勝負。



 勝つために? ――ちがう。

 彼女が嫌いだから? ――ちがう。

 ちがう。

 わたしは、だから――





 ――私たちの本当を……ここから、始めよう。





 …………ああ、そっか。

『もう、大丈夫みたいだね』

 ねもうのことばに、そしてわたしは――うなずいた。

 ……うん。ようやくわかったよ、ねもう。

 空を駆け、桃色の閃光を避けながら、思う。

 ……わたしは、ずっと…………寂しかったんだ。ずっと、ひとりになるのが怖かったんだ。

 だから、今度は……最初から、もとめなかった。

 優しくしてくれる家族にも。笑顔をくれる親友にも。それは『ナノハ』にではなく、『なのは』に向けられたもの――……なんて、そんなふうに思って、こころを動かさないようにしていた。

 わたしは『なのは』じゃない。だから、みんなが向ける表情も感情もわたしに対してじゃない。だから――……期待しちゃ、だめ。

 わたしは、『なのは』とはちがう。ちがうから、わたしには最初から居場所なんて無くて……。だから、もう…………失わない。無くさない。

 ……もう、いやだった。

 温もりを失うのも。裏切られるのも。……殺すのも、殺されるのも。

 …………もう、いたいのはいやだった。

 だから、こころなんていらない。ことばなんていらない。……優しさも、希望も、いらない。

 だから――……だけど、期待してしまう。

 もう一度、とか。今度こそ、なんて。

 あきらめて。あきらめて。あきらめて。そうして弱いこころを守ってきたのに…………また、希望を、抱いてしまった。

 ……やり直せるのかな?

 人殺しの『ナノハ』じゃない、『なのは』に……戻れるのかな? …………『ナノハ』でも受け入れてもらえるのかな?

 わたしは……やっぱり、この世界の『高町なのは』とはちがう。

 ちがうけど、でも……もしかしたら。

 もしかしたら、こんなわたしでも……またみんなと笑いあえるのかな?

 ……そんな儚くて、温かい幻想を、抱いてしまった。そしたら、なにもかもをあきらめて、感情を凍らせて……そうして守っていたこころが動いてしまった。

 だから……わたしは、もう一人の自分に挑んだ。

 本気で。『ナノハ』の魔法で。わたしは『なのは』に挑むことにした。

 わたしのすべてをぶつけるために。わたしのすべてを伝えるために。そのために、今――わたしは、空を飛んでいた。

 自由に。血なまぐさくない、綺麗な空を。大好きだった空を飛んでいた。

 ……けっきょく、わたしの魔法は、何のためにあったのだろう?

 わたしは魔法で何がしたかったのだろう?

 その答えを、わたしはわたしと対峙する、もう一人のわたしから教えてもらった。思い出させて、もらった。

 ……そうだ。わたしはずっと寂しくて。わたしはずっと、居場所をもとめていて。

 魔法と出逢って。ユーノくんやリンディさんたちに必要とされて、嬉しくて。

 それでわたしは、フェイトちゃんと話したかったんだ。話して、わかりあって、友だちになりたかったんだ!

 はやてちゃんとだって、そう。もっといっぱいお話したかった。みんなに魔法のことを話して……みんなに認めてほしかった。みんなと居たかったんだ!

『……例え、結果的に全てを失っても、そのとき君が選んで、頑張って、それで「間違えてない」って今の君が思えるなら――それで良いんじゃない?』

 ねもうのことばに、うなずく。……うなずくことが、できた。

 ずっとわたしは、まちがった――……そう思ってた。

 だけど、あの日、あのとき。フェイトちゃんと友だちになりたいって思ったのは…………本当にまちがいだった?

 ユーノくんを手伝いたいって思ったのは、まちがい? はやてちゃんを助けたいってがんばったのは、まちがい?

『失敗は、イコールで間違いなのかな?』

 結果が、すべて。

 だから勝つために――……生きるために、戦った。殺した。

 だけど…………それで、なにを得た?

 わたしは――わたし『たち』は、なにを得た?

 果たして、思い出す。わたしと、わたしが宿るこの身の記憶を、振り返る。

 けっきょくナノハは、管理局の暗部で働いて……殺された。

 『失敗作』と罵られ続けた、名も無き少女は……こころを壊された。

 それは……だけど本当に、わたしたちがまちがえたから?

 わたしたちは失って。失って、失って……殺されて。わたしたちは結果をもとめて、なにを得た?

 考える。振り返る。わたしが欲しかったもの。わたしたちが、願ったもの。……それは何だった?

 わたしは――わたしたちは…………寂しかった。

 ……だから。

 だから、わたしは――



「がんばれ!」



 こえに、振り向く。

 振り向いて、目を丸くした。

「がんばれ、このはぁぁああ!」

「がんばってくださぁぁああい!」

 それは、なのはの教え子で。彼女たちとわたしたちとの間に繋がりなんてなくて。

 だけど、みんながわたしをみていた。

 なのはの幼いころを知らず、わたしのことだってほとんど知らないはずなのに。わたしの魔法戦しか――『ナノハ』としての姿しか知らないはずなのに。

「がんばれ!」

「がんばれぇぇえ!」

 その声援に――……思ってしまう。どうしようもなく、揺り動かされてしまう。

 ……いいのかな?

 ナノハでも、いいのかな? こんなわたしでも、受け入れてもらえるのかな?

『つか、そろそろ目を覚ませば? ――なのは』

 そのことばに、わたしはひとみを閉じて――あけた。

「……ん」

 五感を、認識した。

 世界を、認知した。

 視線を流し、現在地を確認した。

『さあ、ぶつけてやれ。まっすぐ、君の想いを! 君の魔法を、見せつけてやれ!!』

 わたしはうなずきを一つ。即座に姿勢を制御し、その魔法を起動する。

 …………そうだ。

 思い出す。そうだよ、なのは。そうだよ!

「がんばれ!」

「がんばれ!!」

 わたしは呼びかけに振り向き、

 こちらを見つめる、わたしを応援してくれる彼女たちに、

 わたしは――



 わずかに、瞳をほそめて。



 ほんの少しだけ口元をを綻ばせて。



「…………ん♪」

 頷いた。

 頷いて、その魔法を――起動した。

「行くよ、このは!」

 視線を、まえに。

 こちら同様、まったく同じ魔法を撃とうとしていた彼女に――高町なのはの微笑に、こたえる。

「……全力、全開!!」

 杖を掲げ、

 桃色の星光を、天に集結させて、

 そして、



『――がんばれ!』



 真横に映る、映像。

『がんばれ、このは!』

『がんばってください!』

 次々にわたしの周りに浮かび上がってくる通信ウィンドウ。

『がんばってな、このはちゃん!』

『がんばれですー!!』

 そこから送られてくるエールと想いに、

「いっけぇぇええ!!」

「がんばれぇぇえ!!」

 空気とこころを震わせるヒカリに、

「頑張って、『なのは』!」

 こんなわたしを、まだ『なのは』と呼んでくれるフェイトちゃんに、

「……星よ、集え!」

 わたしは、あの日、フェイトちゃんに使えなかった魔法で、

 わたしたちができる、最高の魔法で、

「スタァアーライト、ブレイカァァァアアアア――――ッ!!」

 わたしたちは、こたえた。

 ありがとう、という想いを、桃色の閃光に変えて――。





いち。
に。
さん。
し。
えぴろーぐ。
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