嗣希創箱の消閑

小説、落書き、二次創作、etc…。 あなたの暇潰しのお供にどうですか♪ 

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《なのはさん。》2

《なのはさん。》

いち。
に。
さん。
し。
えぴろーぐ。




 ◇◆◇◆◇



「ふえ~……ここがミッドチルダの病院かぁ」

 春の陽光さしこむ、明るい廊下。そこをキョロキョロと見回して歩きながら、私は前を行く幼き少女に――犬耳と尻尾を生やす使い魔、アルフに言った。

「ん~。でもまぁ、あんまり変わんないだろ?」



 ――私、高町美由希が、ここ、異世界『ミッドチルダ』までわざわざ彼女に連れてきてもらったのにはわけがあった。



「う~ん、そうかな? ――あ、でも。私、異世界なんてはじめてきたかも」

「そうなのかい?」



 妹の――高町なのはのクローンがみつかった。



 その知らせは、まさに寝耳に水で。友人であり、妹と同じ時空管理局に勤める女性――エイミィから、さらにその子についての詳しい説明をされたけど…………正直、よくわからなかった。

 記憶転写技術。特殊な人造生命。……そんな説明をされても、どこか他人事で。不謹慎かもしれないけど、私はどこか小説やドラマをみているときのような感覚だった。

 でも――その気持ちも、ベッドに寝かされた少女を見た瞬間に…………消しとんだ。

「なの、は……」

 そう彼女を呼んだのは、どうしてだろう。

 目を剥き、立ち尽くし。二の句も継げず、こころを凍らせて……私はただ、見つめていた。

 白いベッドにからだを横たえた、少女を。白い包帯を幾重にも巻いた痛々しい姿を。幼き日の妹と同じ、少女の顔を。同じ、二つに結いあげられた栗色の髪を……私は当然、見知っていた。

 なのはのクローン――……なるほど、瓜二つだ。

 そして幼き日の妹とそっくりだからこそ、思う。……どうして、そんな目をしてるの?

「おお。なんだ、もうからだ起こせるようになってたんだな」

 そう言って柔らかく笑い、軽い足どりでベッドへと近づいていくのはアルフ。……彼女は気づいてないのかな?

 それとも……知ってるのかな? なのはにそっくりなその子が、どうしてあんなにも悲しい瞳をしているのか。

「…………」

 私は、上半身を起こし、アルフの動向をただただ眺めている少女を……一人、遠くから、見ていた。

「はは。なんか、その髪型してんのをみると、やっぱ『なのは』って感じだよな」

 それは…………そうだね。たしかに、アルフの言うとおり、なのはに似てるね。

 だけど――……違う。

 違いすぎる。

「……どう、して?」

 思わず、疑問がこぼれ落ちた。……こぼさずには、いられなかった。

「…………」

 私は、見ていた。

 見つめて、いた。

 少女の、私のよく知る家族の顔を。幼きなのはの顔を。その瞳を。

 少女の、暗き、濁れる瞳を見る。……まるで戦争帰りのような、生ける屍のごとき瞳を、私は見つめる。

 そして…………胸が、苦しくなる。

 この子は、なのはに似ている。……だけど、この子はなのはじゃない。なのはとは、違う。違いすぎる。

「ぇ、と。あー……。その、なんだな……うん」

 果たして、そう、頭をかきかき、私のところへと歩みより、アルフ。身長差からこちらを見上げるようにして顔をむけ、苦笑を浮かべて言った。

「ほら、美由希さんも。あいさつ」

 あ。

「う、うん。そうだね」

 アルフに言われ、私はあわてて笑みをつくり、少女に向く。

 ……えっと。たしかこの子はなのはのクローンで。なのはの子どもんときの記憶をもって生まれたから、この子も『なのは』、だから――

「えと……『はじめまして』で、『ひさしぶり』、かな?」

 なのは。そう少女を呼び、その頭へと手を伸ばした。

「…………」

 対し、少女は――なのはは無言、無表情のまま。ただ感情の読めない瞳を私にむけ、撫でられるがままだった。

「あ~。そう言えば、あとでママさんたちも来るって言ってたよね」

 もしかして、失語症かなんか、かな? ……そんなふうに暗くなりかけた私をフォローするように、アルフ。軽く私の背中をたたき、どこまでも明るく言う。

「そうそう。恭ちゃんも帰ってくるって言ってたから、久しぶりに家族全員揃うよ」

 だから、私もそれに乗る。……せめて彼女の前では、明るく振る舞う。

「へ~。――って、あれ? 『翠屋』は?」

「ふふ。それより『なのは』、だって。みんな」

 ――今はもう、十年以上も前。……私たちは一つ、大きな過ちをおかした。

「はは。それはそれは」

 ――私たちは、なのはを『ひとり』にしてしまった。

 お店が忙しかったから。父さんが大変だったから。だから、幼い少女に『独り』を強いてしまった。『一人』で家に残し、『いい子であれ』という願いを半ば押し付けてしまった。

 ……本当は、さみしかっただろうに。本当は、みんなと一緒に居たかっただろうに。

 だけど、私たちはお見舞いに、お店に、忙殺されていて。幼きなのはの相手など満足にできず、何かにつけて「なのははいい子だね」と、まるで一人で留守番し、ただ大人しくしていることが「良いこと」のように洗脳した。

 それを『仕方なかった』とは…………言いたくない。

 たしかに、子どものわがままを聞いてあげられるほど余裕は無かったし、寂しいと泣かれてもどうすることもできなかったろう。……ただ幼き少女の『お話し』を聞いてあげることすら、満足にできなかったろう。

 だけど…………なのはをひとりにしたのは、間違いだった。

 当時はたしかに、余裕がなかった。私も恭ちゃんもまだまだ半人前の子どもで、お店もようやく軌道に乗り始めたぐらいのころだったから忙しかった。

 それでも……私たちはなのはを、ひとりにすべきじゃなかった。甘えたいはずの幼き少女に、『いい子』を演じさせるなんてまねをさせてはいけなかった。

「でね、なのは。とりあえず私は、これからコッチに泊まりがけでなのはのお世話をすることにしたんだよ」

 ――私たちは、痛感した。

 私たちは、なのはが大ケガをおったときに、思い知らされた。

 私たちの罪。幼き少女に孤独と『いい子であれ』という呪詛をかけ続けていた、その愚かしさを。

 だから――私たちは、『なのは』をひとりにしない。

「なんか必要なものがあったらお姉ちゃんに言ってね? ――って、言われても、私じゃ、どこに売ってるかもわからないから……アルフ?」

「ん、あたしに任せな」

 ――私たちは、罪を償う。

 奇しくも現れた、幼き日のなのはに対して。もう同じ過ちを犯したくないと、皆こころから思っていたから。



 ◇◆◇◆◇



 目覚めてから一月。退院してから二月ほど。なぜだかたくさんのひとがわたしに会いにあらわれた。

 フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官。ユーノ・スクライア無限書庫司書長。

 高町美由希。アルフ。高町桃子、高町士郎。高町恭也、高町忍。月村すずか、アリサ・バニングス。そして、八神はやてとその守護騎士たち。

 そんなたくさんのひとの、たくさんの笑顔とことばにふれて、思った。……愛されてるんだね、『高町なのは』は。

『――て言うか、君が、だよ』

 ミッドチルダの、とある空港で。ベンチに座り、窓から空を見上げていると、ねもう。わたしが胸に抱いたカバのぬいぐるみを起点にこえを発し、どこか呆れまじりのため息を吐いた。

『愛されてる自覚……やっぱり無いんだね』

 …………それは。

 ……だって、愛されてるのは『高町なのは』であって、わたしじゃない。…………というか、今のわたしは、『わたし』ですらないし。

『それは、まぁ、たしかに今の君の肉体は、前世のそれじゃないし。そもそもその体にしたって、この世界の「高町なのは」を模して作られたものだよ』

 そう。だから、愛されているのは……わたしじゃない。

 本当に愛されてるのは、だから――

『だけど――だからこそ、君なんだよ』

 …………。

 ……え?

 わたしはねもうのことばの意味を掴みかね、膝のうえに乗せてたぬいぐるみを見下ろした。……『だからこそ』?

『たとえばさ。君の身元引き受け人の、高町家の人たち。彼らがどうして君に優しくするか、わかる?』

 え?

 それは、だから、わたしのこの身が『高町なのは』のクローンで、記憶までもってるから……でしょう?

 わたしは、思い出す。……たしかに、ねもうの言うとおり、みんなはやさしかった。あたたかった。

 だけどそれは……みんな、幼き日の『高町なのは』にむけられた――

『ほら』

 果たしてねもうは、『してやったり』とでも言いたげな、じつに楽しそうな声音で、

『つまり、君にじゃん。「高町なのは」ちゃん♪』

 ……………………ちがう。

 わたしは視線をぬいぐるみから外し、こころのこえで否定。

 ちがう。『わたしに』じゃない。ちがう。わたしは、『高町なのは』じゃない。ちがう。ちがう、ちがう、ちがう。

 わたしは……『高町なのは』じゃない。

『そうかい。――あ、そう言えばさ。なんでアレ、断ったの?』

 わたしの否定に、ねもうは呆気なく話題を変える。

 …………『アレ』?

『ほら、はやての。「六課に来ないか~?」って話』

 ……ああ。

 そう言えば、と思い返すと、たしかに彼女からそんなような誘いはうけた。

『あ~あ、せっかくの六課参戦フラグが! 「StS」介入フラグぐぁぁあ!!』

 …………。ねもうの言うことは、あいかわらずよくわからない。

 だけど……わたしが、どうして彼女の誘いを断ったのかときかれれば、それは、わたしが管理局がきらいだから、かな?

『とか言いつつ、君は美由希お姉ちゃんや桃子ママとの日々を選んだんでしょ?』

 それは――……ちがう、とは言えない。

 胸に抱いたねもうをひときわ強く、ギュッと抱きしめて。顔をまっすぐ窓へとむけ、空の青さをひとみいっぱいに映して、思う。

 ……そう、だね。わたしは、やっぱり……帰りたい。地球に。わたしが壊し、無くしてしまった日常に。

 それが……たとえ、借り物だったとしても。そこが、たとえわたしではない『なのは』の場所だったとしても。

 それでも、わたしは……帰りたい。…………もう、いたいのもさみしいのも、いや、だから。

『……ま、君が管理局を嫌ってるってのも本当だろうけどね。なんせ、もろもろの仇でもあるわけだし』

 …………うん。

 ねもうは、やっぱりわたしのすべてを知っている。わたしの過去を――罪を、知っている。

『憎い?』

 ――わたしは、管理局の下で働いていた。

 そして、ひとを殺し……さいごにはわたしも、殺された。

 だから、憎いかと聞かれれば――……そんなのは、あたりまえだ。

 わたしは、わたしを殺した管理局が……憎い。わたしに人殺しをさせた管理局が、憎い。わたしの家族や友人を殺した管理局が憎い。わたしの日常を壊し、わたしの思いを裏切った管理局が憎い。

 憎い。

 ……けど、それ以上に――

『自分が嫌い、と』

 …………うん。

 そう。わたしは……無力だった自分がきらい。

 だまされてた自分が、きらい。

 守れなかった自分が、きらい。

 人殺しの自分が、きらい。

 だから――



「こんにちは」



 こえに振りむき、そこに白き制服をまとう栗色の髪の女性を――高町なのはをみつけ、思った。

 ああ、やっぱり、

 やっぱり、わたしは、彼女のことが――





 ………………きらい、だ。



 ◇◆◇◆◇



 ――あなたとたたかいたい。



「こんにちは」

 ベンチに腰掛け、空を眺めていた少女に声をかける。

 振り向く、その顔は……ああ、やっぱり、私によく似てる。

「…………」

 無言、無表情でペコリとお辞儀する彼女は――私のクローン。

 私の記憶と姿をもつ、もう一人の高町なのは。

 だから当然、私を見る少女の顔は、私の幼いときと同じ。格好も、私のお古だろう、聖祥小の制服で。髪型も、お母さんたちの手によってだろう、昔の私と同じようにされてる。

 だから、よけいに似てる。

 だから、よけいに別人と知れる。

 私を見つめる少女の瞳は……私とは全然違う。感情の色を削げ落としたみたいな顔を……私はしない。

 だから、彼女は彼女で、私は私。……少なくとも、私はそう思っていた。

「そう言えば、こうして会って話すのは、はじめて、かな? なのはちゃん」

 ――しかし、少女もやはり『高町なのは』だった。

「…………『このは』」

 ――しかし、少女はやはり『高町なのは』ではなかった。

 無感動の、幼いこえ。短く、端的な、否定の言葉。

 高町このは。『子どものなのは』で、『このは』。それが少女の、私と差別化させるための名前。

「そっか。うん。じゃああらためて、はじめまして、このはちゃん」

 にこりと、笑う。……笑えたと、思う。

 このはちゃんは私の、クローン。私の記憶と姿を盗み、利己的な理由で生み出された、子。

 ……だから、かな。だから私は…………彼女が、苦手。

 …………いや。たぶんそれは、みんなも。

 私を知っている人は、私を知っているからこそ苦手だろう。知っているからこそ、このはの扱いがわからないんじゃないかと思う。

「…………」

 このはちゃんは、無言。無感動、無表情、無関心。

 めったにしゃべらず、決して表情を動かさず。感情の伺えない瞳で、ただ、見返す。

「じゃあ、行こうか?」

 ベンチの横。このはちゃんの持ってきたのだろう手提げを肩にかけ、笑顔で先導する。



 ――あなたとたたかいたい。



 …………わからない。

 少女が何を考えているのか。何を思い、何をどうしたいのか。

 わからない。

 わからない……けど、



 ――あなたとたたかいたい。



 だけど、彼女は言ったのだ。

 電話で。たぶん、なかば無駄だと思ってたろう、お母さんから渡された受話器越しに。このはちゃんは、私と戦いたいと言った。

 だから、私たちは、それを叶える。

「……そう言えば、デバイスは?」

「…………」

 ――私たちは、少女の扱いかたがわからない。

 彼女を私と同じ『高町なのは』として扱っていいのか……わからない。

 少女は私とは違う。

 だけど少女は、私の記憶と姿をもっている。私と同じ、『高町なのは』でもある。

「え? ――あ。それ、クロノくんの『S2U』?」

 ……みんな、戸惑っている。

 少女は私と同じで。

 だけど少女は、私と違う。

「それ、たしか『ストレージデバイス』だよね? ……いいの?」

 ……だから、戸惑ってる。

 だから…………ややこしい。

「たぶん、フェイトちゃんに言えば『バルディッシュ』を貸してもらえると思うよ?」

「…………」

 私の家族は、少女を見た目通りの、私の幼いときのように扱っている。

 私の友人は……私と同じで、戸惑いを隠せないでいる。

「……体は、もう大丈夫、なんだよね?」

「…………」

 だから――

「……そっか。じゃあ、お互いに全力全開で行こう」

 決着を、つける。

「最初で最後の……手加減抜きの、真剣勝負」

 私は、少女に振り向いて、告げる。

「私たちの本当を……ここから、始めよう」

 その言葉に、少女は静かに、そしてたしかな意志をもって頷いた。



 ◇◆◇◆◇



 高町なのはに連れられ、むかった先は、彼女が勤めているらしい部署だった。

 時空管理局地上、遺失物管理部、機動六課。

 そこには、高町なのはの友人がいた。彼女を慕う部下が、気の合う同僚が、いた。

 だからここも、彼女の居場所で。いくら紹介されようと、ここはわたしの居場所たりえない。

『どうして?』

 場所は変わって、海上の模擬戦場。立ち並ぶ、生み出されたビル群の一つ。その屋上に佇み、空を見上げていると、ねもう。ぬいぐるみがわたしの手元に無いからか、今は手のなかのカードから――待機状態のS2Uを起点にこえを発し、問うた。

『君も「高町なのは」だろ?』

 …………ちがう。

『いいや、違わないね。つか、その体にしたって彼女のクローンだし。「前世」の君と、つまりは同一だしょ?』

 ……ちがう。

『高町家の人たちだって君を「なのは」として扱ってるし。フェイトやはやてにしたって、君が「高町なのは」を名乗れば――』

 ちがう!

 わたしは遮り、かぶりをふる。……ちがう。わたしは、『高町なのは』じゃ――



「じゃあ、そろそろ始めよっか」



 こえに、振り向く。

 向かいのビルの屋上に佇む、高町なのはを、見る。

「…………」

 わたしは頷きを一つ。S2Uを起動し、こたえる。

「あ。それ、クロノくんの……」

 纏うは、黒き甲冑。彼女の言うとおり、彼と同じデザインの黒い防護服。それのズボンをロングスカートへと変え、黒きリボンで髪を二つに結んだすがたが、今のわたし。

 そしてこれが、わたしの――



 ナノハ・タカマチ・ハラオウンの、戦装束。



『……ねぇ。どうしても、やるの?』

 …………。

『さっきも言ったけど……君が「高町なのは」として接すれば、万事解決。大団円じゃん』

 …………そう、かな。

 でも、わたしは……『高町なのは』じゃない。…………もう、『高町なのは』としてなんて接せない。

 わたしは、見る。

 わたしは、高町なのはを――この世界のわたしを、見る。……睨む。

 わたしは…………彼女とは、ちがう。わたしは、彼女と……ちがいすぎる。

 思いだす。わたしは、たしかに『高町なのは』のクローンで、ねもうの言うとおり『高町なのは』として過ごせば、みんなにずっとやさしくしてもらえるのかもしれない。……幸せに、なれるのかもしれない。

 だけどそれは…………『わたし』の居場所じゃない。そこは『ナノハ』が居てもいい場所じゃ、ない。

 そこは、だって『高町なのは』の場所だ。

 …………ひと殺しの、『ナノハ』が居ていい場所じゃない。

 わたしは、『高町なのは』じゃない。……彼女にはなれない。戻れ、ない。

 彼女とはちがう。ちがいすぎて、だから他のひとたちだって戸惑ってた。……『なのは』とはちがう『ナノハ』の扱いに、困っていた。

 だから――……それを、見せつける。

 わたしの魔法を。わたしの想いを。わたしのすべてを、ぶつける。

 高町なのはに、ナノハ・タカマチ・ハラオウンのすべてを。そして皆にわたしの戦いを、見せる。

 …………見せて、それで――

『……なのは対ナノハ、か』

 そうため息まじりに告げるねもうは、知ってる。

 わたしの過去を。わたしの前世を。わたしが『ナノハ』だったことを、知っている。

 彼が、彼の言うとおりの神さまだからか。ねもうは、わたしからしたら何でも知っていた。

『片や、管理局の期待の星。空の切り札。エースオブエース、高町なのは』

 もう一人の、わたし。もう一つの、可能性。

 ……わたしが前世で勝てなかったフェイトちゃんに勝った、高町なのは。

 『闇の書』の脅威から地球を救った、高町なのは。

 ……フェイトちゃんを救った、なのは。はやてちゃんを殺さなかった、なのは。

 …………わたしとはちがう、ヒカリのなかをいく、なのは。

『片や、管理局暗部の掃除屋。堕ちた星光。ナノハ・タカマチ・ハラオウン』

 目のまえにいるのは、わたしではなし得なかった奇跡を起こした英雄。わたしが味わった苦渋も苦難も知らず、わたしが屈した運命をはねのけた、わたし。

 もう一人の、高町なのは。

 そんな彼女のことが…………わたしは、やっぱり……きらい、だ。

「さぁ、始めようか」

 そう言って杖を構える彼女。その姿は、わたしとは違う白き衣。わたしとは違う、汚れ無き白。

「…………」

 わたしは、彼女に頷く。そして、わたしも杖を構える。

 ナノハのとき同様、お義兄ちゃんの――……クロノくんの、杖を。……今回は形見ではない、借り物の杖を。わたしはもう一人のわたしに、向ける。

 ……見せて、あげる。

 開始のベルは鳴った。舞台も整い、観客もそろった。

 だから――さあ、ダンスを始めよう。

 ヒカリとカゲの、歪なワルツを。

 さあ、踊ろう。高町なのは!

『「StS」のなのはVS幼少期のなのはの図、か。これはこれで見ものだね』

 ねもうのことばにはこたえず、わたしは――魔法を、起動。

『まあ多少なり若返っちゃいるが、保有魔力の総量なり魔導師としての資質なりは前世の君と同じだし。――うん、これは楽しみだな!』

 牽制にシューターを八つ。同じように八つのシューターを生み出すなのはより半瞬早く、放つ。

「さすが! S2Uは早いね!」

 そう感心したように言うなのは。そんな彼女にわたしの魔弾は迫り、

「だけど――あまいよ」

 ――あっけなく、彼女の弾丸に消し飛ばされた。

「ッ!!」

 わずかに目を剥き、わたしは慌てて自分へと迫るなのはの魔力弾に――






いち。
に。
さん。
し。
えぴろーぐ。
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