嗣希創箱の消閑

小説、落書き、二次創作、etc…。 あなたの暇潰しのお供にどうですか♪ 

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《りりかるーぷ》2-3

《りりかるーぷ》2-3


前話





 ◇◆◇◆◇



 着信履歴、一。川平雅樹。それに気付いたのは夜だった。

 習い事が終わって、いつもみたいに車で帰る途中に確認して、みつけた。

 そして家につき、「なぁに、ニヤニヤしてんの?」と、廊下であったお姉ちゃんに言われ、慌てた。

「そ、そんな、ニヤニヤなんてしてないよ……!」

 お姉ちゃんに手をわたわたと振って、私。それに、むしろお姉ちゃんの方がニヤニヤと笑って「あの子からメールでも来た?」――……たぶん、顔を赤くしました。

「ち、違うよ……」

 ……視線を逸らして言ってたら説得力無いなぁ。

「じゃあ電話か」

 …………お姉ちゃんは鋭いです。……あぅぅ。

「で? すずか、告った?」

 ……顔から火が出るかと思いました。

 私はお姉ちゃんの問いに「ま、まだ……」と消え入りそうな声で返し、視線を廊下の窓から外へ逃がしました。あ、夕立が凄い「現実逃避?」――……お姉ちゃんは鋭いです。

「ぅぅ……。だ、だって雅樹くん……アリサちゃんのこと、好きだから……」

 ――私は、川平雅樹くんが好きです。

 それをお姉ちゃんも知っています。それも雅樹くんがアリサちゃんのことを好きだっていうのも知っています。

 知っていて……私のことを応援してくれてます。

「……ったく。早くあの子もアリサちゃんに告れば良いのにね」

 そう苦笑して言い、お姉ちゃんは私の頭を撫でてくれます。

 ……やっぱり優しいな、お姉ちゃん。私は「……うん」と、たぶん元気なく笑って頷き、だけどすぐに「でも……仕方ないよ」と、今度は首を左右に振って言いました。

「雅樹くんは……ちょっと、他の子と違うから……」

 ――そう。彼は、他の男の子と違う。他の、私たちにすぐ告白する子たちとは、違う。

 違う。私の顔や胸を撫で回すように見る子たちとは。

 違う。すぐ、私に触れようとする子たちとは。

「……すずか。でも、それじゃあ――」

「告白って、やっぱり、すっごく勇気がいるから」

 何とも言えない顔をするお姉ちゃんに力無く笑って返し、まだ手の中にあった携帯電話に視線を落とす。

 ……そう。勇気がいる。

 そしてだからこそ――それをわかっているからこそ、彼は安易に告白しない。



 ――俺は…………好きに、なるよ。



 三年生の、たぶん転入してすぐの頃からアリサちゃんを好きになったらしい雅樹くんは……ともすれば、意気地の無いように見えるかも知れないけど、違う。


 ――た、たとえば……俺が、普通じゃない、として。だ、だけど……それでも、俺は誰かを好きになると、思う。



 告白がどういうものか……彼はたぶん、ずっと知っていたんだと思う。



 ――たぶん、さ。『普通』とか、そんなの……関係ない。『関係ない』って、俺は信じたい。




 人を好きになる――そのことを、彼は小学校の三年生のときからちゃんと知っていて、そしてずっと考えてたんだと思う。



 ――たとえ俺が普通じゃなくて……たとえ、月村が普通の女の子じゃなくってもさ。俺はキミのことを嫌わない。俺は月村なら好きになれる。



 或いは、彼にも告白出来ない理由があるのかも知れないと、最近はそう思っていた。

「……煮え切らないわねぇ」

 お姉ちゃんは眉根を寄せ、腕を組んで「すずかはこのままで良いの?」と問います。

 それに、

「…………うん」

 頷く。

 ……うん。私はこのままでも……良い。

 このまま……もう少しだけ、彼の近くに居られたら、それで――それだけで、良い。

 だって、私は彼のことが好きで――……だって私は、安易に告白なんてできないから。

 だからずっと、このまま。このまま、彼と同じように一定の距離を――だけど遠ざからない、心地良い距離を保って居られたら、それだけで私は幸せ。

 だから「てい!」――お姉ちゃんに携帯電話を取られて目を丸くしました。

「ふふん。今からあいつに電話して、呼び出しましょう」

 ……え? ええ!?

「で、すずかはあいつに告る」

「っ!? や、やめてよお姉ちゃん……!」

 私は慌ててお姉ちゃんから携帯を奪おうとして「あ、もしもし?」――そして通話中になったらしいのを見て固まった。

 あ、ぅぅ……。や、やっぱりこういう時のお姉ちゃんは、ちょっと苦手だ……。本当に……どうしてそんなにもアクティブになれるんだろ?

 私はそしてお姉ちゃんから視線を逸らし、窓を叩く雨足の強さを目で確かめるようにして居心地の悪さを誤魔化「……もしもし?」そうとして、怪訝な様子に変わったお姉ちゃんに向き直った。

「……ど、どうしたの?」

 思わず訊くと、お姉ちゃんは「何か変なのよ……」とやっぱり怪訝顔で言い、電話を返してくれた。

「……え?」

「通話中よ。……一応」

 ええー!? 私はお姉ちゃんの言葉に慌てて携帯電話を耳に当て、「も、もしもし……!?」と若干声を震わせて呼びかけ、



 ザーザー、という砂嵐を思わせるノイズ音に眉を寄せた。



「……え?」

 耳を澄ませる。……? これって……潮騒? それに……雨と風の音?

 私はハッと目を剥き、今までただただ呆然と眺めるだけだった外を見た。え? ま、まさか雅樹くん――外に居るの!?

「ま、雅樹くん……!? 雅樹くん、返事して!」

 血の気が失せる。

 思い出すのは、今日、彼と別れた防波堤。彼に『すずか』って、初めて名前で呼んでもらえた、オレンジの世界。

「う、うそ……!」

 改めて、外を見る。

 暗き曇天。激しく窓を叩く雨。風にしなる庭木。……こんな凄い夕立のなかに彼が? いつから!?

「す、すずか……?」

 血相を変える私に声をかけるお姉ちゃん。それを半ば無視して「わ、私、ちょっと!」と叫ぶように言い、駆け出した。



 ――当然、その後のことなんて、何も考えずに。



 ◇◆◇◆◇



 暗い。

 寒い。

 防波堤に座り、いつからか降っていた雨に身をひたし。着信を知らせた携帯電話を、半ば自動的に耳に当てて。

 ――だけど、心はひどく……空虚だった。

「ま、雅樹くんッ!!」

 呼びかけに、ゆっくりと。空っぽになった心で、ただ顔を向ける。

 対し、顔を青ざめさせた少女は、肩で息をしながら俺へと近づいてきた。

「はぁ、はぁ……ま、雅樹くん! だ、だめ……、はぁ……、だめ、だよ……! か、風邪……はぁ、……ひいちゃう、よ?」

 少女は――すずかは、あらい呼吸を整えながら、言った。

「……すずか」

 だけど、俺は……空っぽ、だった。

 俺と同じようにビショ濡れになってるすずかを前に、俺はどこまでも空虚だった。

「……雅樹くん?」

 不思議そうにこちらを覗きこむ少女から視線を逸らし、また手のなかへ。そこに抱えた、無惨な姿を晒す黒猫の成れの果てへと顔を向け、

「……わかっては、いたんだ」

 ひどくかすれた声で、呟いた。

「え……?」

 対し、不思議そうな顔をするすずかを無視し、考える。

 ……そうだ。わかってた。

 転生者である俺が『前』の知識を使って、『過去』を――『今』を変えたらどうなるか。そんなのは、初めから。

 ……そうさ、わかってたさ。俺はアリサと、今度こそ結ばれたくて――そんな下らない欲望のために、『前』より早く彼女と知り合い、仲良くなろうとした。己の性欲を満たすために……それだけのために、何も知らない彼女に近付き、『今』を変えた。

 その代価が――黒猫の命。

「俺が…………殺したんだ」

 頬を伝う滴は、果たして雨か涙か。……少なくとも、今の自虐的な笑みを浮かべる俺にはわからない。

「……その子」

 俺の抱えたのが何なのか、すずかにはわかったらしい。端正な顔を雨風とかとは関係ない理由で歪め、いつまでも座ったまま動こうとしない俺に合わせてか身をかがめて、俺の顔を覗きこむようにして言った。

「……後悔、してるの?」

 彼女が、どこまでわかって訊いてるのかは知らない。

「…………してるよ」

 だから、素直に返す。

「俺は……後悔、してる」

 未だにぼんやりとする意識の焦点を内側へ。

「俺は…………だって、普通じゃない、から」

 俺はそして…………話した。

 懺悔のように、全部。

 俺が転生したこと。『前』にアリサと結ばれかけていたことを、すずかに。

 それは……彼女、だったからか。それとも今は何も考えられなかったからか。

 わからない。だけど、ただ……なんとなく、今は彼女に甘えてしまいたかった。

 だから――



「…………私じゃ、だめ、かな?」



 ――俺は、わからなかった。

「私は……『今』の雅樹くんが、好き、だよ……?」

 少女が何故、俺の手を握ったのか。どうして、俺を後ろから抱きしめるように身を寄せてきたのか。

「…………やめろよ」

 彼女の温もりから逃げるように、血を吐く思いで言う。

 ……やめろよ。やめてくれよすずか。

 頼むよ。頼むからこれ以上、『前』と『今』を変えないでくれよ。その結果を――責任を、俺に求めないでくれよ。

「……なあ、すずか。キミは、そういうのが怖かったんじゃないのか?」

 瞳を閉じる。思い返す。

 ……そうだ。彼女はずっと男を――男という、性欲に支配された下劣な輩を、忌避していた。……筈だ。

 だから、たぶん……俺、なんだろう。

 同じように異性を苦手とし、『女の子』というものを何か別の生き物みたいに幻視して距離を持って接していたからこそ、だろう。

 だから――……だけど、

「さっき言ったろ? ……俺は、キミが嫌う、ただ可愛いだけで人を好きになって、エッチがしたい……そんな奴だよ」

 彼女を見ない。……見れない。そして背に当てられた胸や右手の感覚から意識を逸らさなければ、おかしくなりそうだ。

「……なあ、すずか。手、離せよ」

 頼むよ。離してくれよ。

 そうじゃないと、俺は「……雅樹くんは、優しい、ね」――え?

 すずかの場違いな台詞に思わず振り向く。……え? 俺が……優しい?

「ねえ……どうして、アリサちゃんに告白しないの?」

 ……それは、俺がヘタれだから。それは俺が、意気地の無い奴だか「雅樹くんは、優しいよ」――……なんで、だ?

「雅樹くんは、本当に……『前』のアリサちゃんが好きだったんだね……」

 ……え?

「『前』の――……だから、『今』のアリサちゃんに告白できないんだよね」

 …………違う。

 俺は何故か微笑んで言うすずかから視線を逸らし、胸中でだけ否定の言葉を口にする。……違う。違うよ、すずか。俺は優しくなんて「いいと、思うよ」……え?

「雅樹くん。人を好きになる理由は、ただ可愛いだけでも……エッチでも、いいと、思うよ」

 …………やめろ。やめろよ、すずか。

 視線を戻す。微笑むすずかを――睨む。

「……俺を、肯定するな」

 言って、未だに握られてた手を振り払い「きゃっ!?」――……小さく悲鳴を上げたすずかに内心で顔をしかめながら、表面上は下品な笑みを浮かべて彼女の髪をわし掴み、

「俺は……今すぐキミを犯したい。俺はもう何年も『お預け』をくらってるんでね。我慢も限界だ」

 だから――離れろ。

 だから、俺を嫌え。

 そうじゃないと――……もう、止まれない。

 すずか……頼むから、離れてくれ。頼むからこれ以上、近付かないでくれよ。

「だから――」

 なあ、頼むよすずか。頼むからさ。頼むから、

「――……俺なんかに、キミを、好きにならせないでくれ」

 零す。未だに微笑を浮かべるすずかから視線を逸らし、嘆願する。

「……どうして?」

 わからない。どうして、はコッチの台詞だ。

 どうして、キミはまだ微笑んでる? どうして、俺が普通じゃないとわかって、俺を嫌わない?

 わからない。

 ……だけど、

「…………資格、無いだろ?」

 そう返しながら……なんとなく、もう手遅れなんだと悟っていた。

「……すずか。俺は……たぶんまた、十九歳の誕生日までしか、だから」

 そう。俺は二度の転生でわかった。

 十九歳の誕生日に死ぬのか。それともそれ以上を覚えて居られないのかはわからないけど……前者なら最悪だ。そんなのが人を好きになる資格は「それまでで、いいよ」――……なんで、だ?

 ……わからない。

 わからないよ、すずか。

「俺は――」

「好きだよ」

 遮り、いっそう笑顔を咲かせる少女をまえに――

「雅樹くんは、言ってくれた。たとえ自分が普通じゃなくて。たとえ、私が普通の女の子じゃなくても……雅樹くんは私のことを嫌わない、月村なら好きになれる、って」

 ――……頬を過ぎるのは、果たして涙か雨か。

「普通とか、そんなのは関係ない――そう言ってくれたのは、雅樹くんだよ?」

 ――そのときの俺には、わからなかった。

「俺は――……ッ!?」

 そのとき、すでに雨は止んでいたなんて。

 そのとき、俺の返事を遮ったのがなんだったのかなんて。

「「…………」」

 そのときの……すぐに瞳を閉じた俺には、わからなかった。





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