嗣希創箱の消閑

小説、落書き、二次創作、etc…。 あなたの暇潰しのお供にどうですか♪ 

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《りりかるーぷ》2-2

《りりかるーぷ》2-2


前話/次話




 ◇◆◇◆◇



 果たして、四年生に進級した。

 あれから――どういうわけかアリサが俺の申し出を受け、テストで勝負してくれるようになってから、早いようで既に一年。高町や月村、テスタロッサに八神の四人ともそれなりに仲良くなれはしたが、いまだにアリサとは付き合えてない、そんなある日の昼下がり。

「ぅ、ぅぅ……!」

「ぐすっ……ひっく……」

 そう目の前で、ハンカチを涙で濡らすのはテスタロッサとアリサ。……最近は特に高町、テスタロッサ、八神が学校を休んだり早退したりってことが増えてて、こういうふうに二人か、或いは三人かとで遊ぶことが多くなったんだけど――……うん。もちろん俺が泣かしたんじゃないぞ?

「ぅっ……ぅぅっ」

 ……というか、俺も泣きそうだった。

 焼けるように痛むのどとこみ上げてくる想いとを胸に振り返るは、とある映画の看板。

 ――つまり、みんなで映画を観にきた帰りだった。

「ご、ごめんっ。あ、あたし、ちょっと御手洗いに……!」

「あっ。わ、わたしも……!」

 そう言って、映画館を出るやすぐさまトイレへと引き返すアリサとテスタロッサ。……前者は涙で崩れた顔を見られたくなかったからだとして、後者は――……まぁ、おそらく、ずっと我慢してたのかな。もじもじしてたし。

 そして残される俺と月村。

 ちらりと見れば、未だに映画の余韻に浸ってる俺とは違い、月村はなんか暗い表情を俯けて考えこんでいるようだった。

 ……まさか、つまらなかったのかな? そう不安に思い、「つ、月村は……あんまり、映画、面白くなかった……?」と、普段はあまり俺から話しかけたりはしないが、今回ばかりは訊いてみた。……っていうか、誘ったの俺だし、聞かずにはいられないって。

「え? ……ぁ。ううん、そんなことないよ?」

 そう言いつつ、やっぱりどこかおかしい月村。うーん……アリサやテスタロッサの反応をみるに、評判通りの感動作だったと思うんだけどなぁ。

 ちなみになんでコレを観るんにみんなを誘ったのかと聞かれれば、それは『前』のアリサが見たがってたからであり、たまたまコンビニのクジで割引券が当たったからだった。……うん。まぁ、欲を言えば、アリサと二人っきりが良かったけど…………『今回』はまだ、彼女と付き合えてないから、無理。っていうか、俺から告白なんて出来ない。へ、へたれで何が悪い!?

「…………あのね。川平くん」

 ん? 俺は映画とはまた違った理由で涙しそうになりつつ、改めて月村を見つめて、



「川平くんは――……いつ、アリサちゃんに告白するの?」



 ――絶句した。

「…………え?」

 俺はたぶん血の気の失せた顔で月村を見ていた。って言うか……なに? え? ば、バレバレ……?

「い、何時から?」

 俺はマジマジと彼女の顔を見た。……うん。これまで『睨めっこ』という名の拷問――もとい、特訓のおかげで、どうにかいつものメンバーだけは顔が見れるようになったんだ、俺。

 ――って、今はそれどころではなく!

「えっと……た、たぶん、三年生の時、から」

 対し、どこか固い表情で月村。って、え? は、初めからッスか?

「「…………」」

 気まずい沈黙――……と言うか、なぜかそれっきりコッチをチラチラ窺うだけで言葉を発しない月村を相手に、何を言って良いのかわからなくなる。

 いや、えっと……――あれ? でも、なんでいきなり?

「ぇあ。あのさ、月村――」

「か、川平くんは……! 映画、どうだった!?」

 遮られた。

「ぇ?」どこか焦ったふうな月村に若干気圧されつつ、「ぁ、うん。お、面白かった、よ……?」と、俺はなんとか返した。

「う、うん。そっか……よかった」

 そう言って俯いたかと思えば「か、川平くん!」と、勢いよく顔を上げ、どうしてだかやっぱり焦ってるみたいな表情で口を開く月村。……? な、なんか月村の様子が、おかしい……?

「あ、あのね……! え、映画の、女の子みたいに……たとえば、妖怪とか、そういう普通じゃない子でも…………す、好きに、なれる?」



 ――そのときの俺は、知らなかった。



「え……?」



 ――目の前で、どこまでも真剣な目をした月村の気持ちを。

 どこか怯えまじりの少女の想いを。



「ふ、普通じゃない女の子は……誰かを、好きになって、良いと思う?」



 ――俺はその問いの真意を、知らなかった。

 知らなかったからこそ、素直に返した。



「俺は…………好きに、なるよ」



 ――……それは俺の悩みでもあったから。

 その疑問は、俺のなかにもあったから。



「た、たとえば……俺が、普通じゃない、として。だ、だけど……それでも、俺は誰かを好きになると、思う」



 ――俺は『普通』じゃない。俺は転生者で、繰り返すもの。



「たぶん、さ。『普通』とか、そんなの……関係ない。『関係ない』って、俺は信じたい」



 ――だからこそ、月村の問いに、俺なりの答えを返した。

 俺の解を――願いを、返した。



「俺は……好きだよ、月村のこと」

 果たして「え……!?」と、目を丸くする月村に、告げる。

「たとえ俺が普通じゃなくて……たとえ、月村が普通の女の子じゃなくってもさ。俺はキミのことを嫌わない。俺は月村なら好きになれる」

 絶対に。そう言って笑い、そして視線を彼女から今まさにこちらへと駆け寄ってくる二人へと――アリサへと向けて、

「……普通とか、そんなのは、関係ない」

 最後にそう自分に言い聞かせて、俺は歩き出した。

 ――当然、月村が何を思っているかを知らぬままに。



 ◇◆◇◆◇



 それは中学に上がってすぐの、ある日の放課後。

 その日は、俺は月村と二人だけで下校していて、途中、なんでだか一匹の黒い野良猫に懐かれた。それで、俺はどうせ帰ってもやること無いしって感じで帰宅途中の防波堤に座りこみ、月村も「塾が始まるまでは」って言って俺の横でいっしょに猫と戯れていた。

「て言うか、さ。なんで、月村は……その。お、俺が、アリサが好きだって、わかったんだ?」

 オレンジに染まりだした海を眺めて、俺。せっかく今は二人っきりなんだから、と前々から気になっていた、彼女が俺の想いに最初っから気付いていたわけを訊いてみた。

 ……うん。俺の想いをアリサも知ってるのかも気になるけど……聞けない。…………ヘタれで何が悪い。

「あ、うん。えっと…………名前」

 対し、どこか言いづらそうに月村。防波堤に座す俺の横に佇み、見上げる俺から視線を逸らして言った。って、え? 名前?

「あ、アリサちゃんだけ……名前、だから」

 果たして、続く月村の言葉に『ポン』と手を叩く。ああ、うん、確かに。うん。そう言えば『前』に名前で呼べって言われてそのまま――……ああ、なるほどなるほど。

「じゃあ、『すずか』って呼んで良い?」

「え……!?」

 額に巻いた、いつぞやに月村から貰った空色のヘアバンドを掻きながら訊くと、彼女は目をパチクリして俺をマジマジと見つめ返した。……って、あれ? 俺、なんか変なこと言ったかな?

「? いや、だって……アリサだけ名前で呼ぶから悪いんだろ?」

 俺はすり寄ってきた黒猫を膝の上にあげ、撫でまわしながら問う。

「あ。それともやっぱり……俺に名前で呼ばれんのは嫌――」

「い、嫌じゃないよ!」

 遮られた。

 それも叫ぶように。あの、お淑やかな月村――すずかに。

「そ、そうか……」

 俺、目をパチクリ。そしてそれっきり、隣でなぜか顔を赤くして下を向いてしまったすずかに首を傾げ「わ、私も……」――すずかが、どうにか絞り出したような声で言葉を紡ぐのに併せて静聴の構えに。

「私、も……名前で……」

 …………ああ。なんだろう、この親近感は。

「な、名前「はは!」――…………っ」

 思わず笑った。

 その途端、泣きそうな顔になって目を白黒させるすずかに「わ、悪い悪い」と、やっぱり笑いながら言い、

「なんか、すずかって、そーいう所、俺に似てるよな」

 はは! なるほどね。親近感――なるほどね!

 俺の言葉に「え? え……!?」と、やっぱり目をパチクリして何も言えないらしいすずかに、「可愛いなぁ」と思わず零す。

「え……!?」

 はは! うん。なんか、今さらだけど……女の子に俺、幻想持ちすぎだったんだな。うん。

 俺は半ば呆然とこちらを見てるすずかに自然と口元を綻ばせ、改めて口を開いた。

「いいよ、名前で」

 気付いてみれば簡単。ああ、同じなんだって。すずかだって――女の子だって、同じなんだって。

「はは……! なんだ、そっか……」

 そう気付いてみれば、もう他の人を相手にしたときみたいにくぐもった言い方はしていなかった。……現金なことに、たったそれだけの共通点で、俺はすずかに限って『女の子イコール未知で怖い』という見方をやめていた。

「なんだ……すずかも、俺が苦手だったんだ」

 未だにぼんやりとこちらを見てる彼女に、俺はたぶん、生まれて初めて心の底から安堵するように笑って言った。



 ◇◆◇◆◇



 果たして塾に行く月村を見送り、俺は一人、ずっと夕暮れ色に染まった海を防波堤に座って眺めていた。

「…………」

 考えて、いた。

 俺は本当にアリサが好きなのか……それがわからなかった。

 ……いや、正確には、『今』のアリサのことが好きなのかが、わからなかった。

「俺は、どうして……転生、したんだ?」

 視線を、自身の両手に。『前』にその手に抱いた彼女のことを思い返して、顔を歪める。

 ……なぁ、アリサ。アリサと俺はさ、あの日まで――最後の日まで、好きあってたよな? 俺はキミが好きで……アリサは俺に、最後は体まで許そうとしてくれたよな?

 だから……――だけど、さ。

「……はぁ」

 ため息が、漏れる。

 ずっと考えないように、目を逸らし続けていたそれを思い、顔をしかめる。

 ……ねえ、アリサ。キミは、『今』じゃ俺のこと何とも思ってないのか? やっぱり『前』みたいにしないと、俺はキミに好きだと言って貰えないのか?

 それ以前に俺は……『今』のキミを好きになって良いのか?

「……教えてくれよ、委員長」

 頬を、知らず、想いの雫が過ぎる。

 ……なぁ、アリサ。俺はキミのことが好きだったよ。

 そりゃ、初めこそキミが可愛いからってだけだったけどさ。『好き』っていう気持ちを……正直、わかってなかったけどさ。

 でも…………好き、だったよ。

 俺はキミのことが、好きだったんだよ……。

「俺は、なんで……転生、するんだ?」

 拳を、握る。顔を、しかめる。

 ……くそ。なんで、俺は! 握り締めた右手を左手で抱え、ついには体を丸めて嗚咽を漏らす。

「ぅ……、ひぐ……」

 くそ。くそ!

 ……なんで。なんでなんだよ、くそ。

 くそ。なんで、俺は……くそ!

「ふざ、ッけんなよ……!」

 ずっと、考えないようにしていた。

 ずっと、目を逸らしていた。

 ……そうしないと耐えられないってわかってたから。そうでもしないと胸の痛みに発狂しそうだったから。

 俺は、だから今まで、考えなかった。

 どうして、俺は転生するのか? どうして、九歳から十九歳までなのか? どうして、その十年という記憶をもってやり直すのか?

 そして、何より――



 十九歳の誕生日を迎えた俺は、どうなったのか?



「くそ……!」

 わからない。考えても、意味がない。だからこそ、イラつく。だからこそ、悪態を吐かずにはいられない。

「俺は……あと、何度、こんなのを繰り返すんだ?」

 考えても、答えなんて出ない。考えるだけ、自身の胸を痛めるだけだ。

 ……だけど、

 …………それでも、

「……………………ごめん、アリサ」

 俺は、涙とともに想いを零す。

 ……ごめんな。俺、キミの想いに応えてやれなくて。

 ごめんな、アリサ。やっぱり、俺…………『今』のキミを好きになれないよ。

「……ごめん」

 俺はそして、届かぬ謝罪をずっと零し続け「にゃあ」――猫の鳴き声に、ゆっくりと振り返った。

「……はは。なんだよ、まだ居たのか?」

 果たして、後ろに居た黒猫に思わず笑みを零し、頬を過ぎた涙の残滓を拭うや、そいつを膝に乗せた。

「う~ん……これはアレかな? 『黒猫飼いました』フラグ?」

 首を傾げ、気分を切り替えようとわざと明るい声で言う。うん。そう言えばウチのマンションはペットを飼えるんだっけ? とりあえず、すずかに飼い方とかいろいろ詳しく訊こう、とポケットをガサゴソ。

「あー……でもまだ塾の最中かな?」

 メールの方が良いか? と、いっこうに繋がらない電話を切り、片手で猫を撫でつつ携帯電話を操作し――って、わ!? 俺は、抱えていた黒猫が勢い良く走りさるのを見て、



 果たして、その黒猫は――ひかれた。



 目の前で。車に。車道に、赤い染みを広げた。

「…………え?」

 ブレーキの音は聞こえなかった。『ドン』というような音も。

 きっと、潮騒に消されて聞こえなかったんだ。きっと、黒猫が小さくてドライバーは気付かなかったんだ。

 だから、きっと猫は――

「…………」

 呆然と、見つめる。

 ずっと。俺は。そんな、醜くて汚らしい、黒猫であったものの残骸を。携帯を片手に、いつまでも、見つめていた――。





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