嗣希創箱の消閑

小説、落書き、二次創作、etc…。 あなたの暇潰しのお供にどうですか♪ 

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《りりかるーぷ》1-3

《りりかるーぷ》1-3




前話/次話





 ◇◆◇◆◇



 三年生の三学期、だったと思う。

「……川平、雅樹、です。…………よろしく」

 黒板の前。そんな変な時期に転入して来た、松葉杖のソイツは、そう、たぶん最前列にいるあたし他数人以外には聞き取れないだろう、ボソボソとした喋り方で言った。

「…………」

 変な奴。もしくは暗い奴。

 それがあたしの彼に対する第一印象であり、それでなくてもウザったい前髪に隠され、決して他人の目を見ようとしない態度や対人恐怖症を疑うようなオドオドした態度が、何か妙に癇に障った。

 だから、転入してすぐにも孤立し始めた彼を助けようとはせず、

 だけど、何でかずっとソイツのことを目で追っていた。

 そして『川平雅樹』の名前がテスト上位者――それもあたしと同じ満点一位をずっとキープし続けてるのに気付いた時には……もう、彼を無視出来なくなった。……て言うか一回だけ、本当に、わざとじゃないイージーミスをして負けたのが悔しくって、ずっと密かにライバル視していた。

 だと言うのに、コイツ……四年生の途中から授業をサボリ始めやがった。

 その上、テストまで適当に受けたり受けなかったりで……人がずっと本当の本当に彼に勝とうってしてたのに、コイツは勝手に逃げやがった。そう思った。

 だから、

「……じゃあさ。賭け、する?」

 あたしは、そう。この生意気な転入生に目にものを見せるために――

「どうする、委員長? 俺に――川平雅樹にテストを受けさせて奴隷になりたい?」

 ――その提案を、受けた。

 結果は、両者満点のドロー。

 つまりは――

「……キミ、そのテストで、俺に点数で勝てなかったら――俺の言うこと、何でも聞けよ……」

 本当の本当に悔しいけど……あたしは、彼の言うことを聞くことになった。

 だと言うのに――

「…………ちょっと。なにしてんの?」

「ぅきュぁあぱアあ!?」

 なんでか沈んでる彼に声をかけると、奇声を発して椅子から転げ落ちた。

「……あんた。相変わらず、変な奴ね」

 そう呆れ顔を作って言ってやれば、「何かよう?」って返って来た。

 ……コイツ。本当にどういうつもり? 人がせっかくいろいろと覚悟を決めて声をかけたって言うのに――ああ、やっぱりムカつくわ。

 その上、あたしが急かしたからって、なにも教室で……大声で、こ、告らなくても良いじゃない!

 こ、これはアレよね? 新手のイジメ……そうよ! イジメよ! こうやって断れないのがわかっていてあたしをイジメてんのよ!!

 うん。絶対。だから、きっと――

「結婚したい」

 ――……こ、コイツは、本当に!

 どうしてそんな恥ずかしい台詞を、こんな他の子がたくさん居る中で言えるのよ!? っていうか、いつの間にあんたはあたしを――ああ、もう! やっぱりムカつくわ、コイツ!!

「世界一綺麗だよ、アリサ」

「――――ッ!?」

 ……なんなのよ、コイツ。

 意味わかんない。なんなの? 男の子って、みんなこうなの?

 もう、そんなに真っ直ぐ思いをぶつけられたら、あたしは――

「…………バカだなぁ」

 ――次のテストで、あたしはわざと彼に負けた。

 意識し過ぎてる。その頃にはもう、彼があたし達の中に居ても違和感が無くて――あたしの心の中にはいつも、臆病で、真っ直ぐで……だけど、たぶん誰よりも綺麗な彼が、居た。

 そしてだからこそ、あたしは彼の努力を汚したことに、気付くのが遅れた。

「――だから、返事を……次のテストで、貰う。次を、最後にしよう、アリサ……」

 ああ、彼は気付いたんだ。あたしがわざと負けたんだって――自分が尊敬するあたしが負ける筈無いって、思ってたんだ。

 ああ、なんて矛盾。彼はあたしに勝ちたくて勉強して、あたしが好きだから賭を申し出て――だけど彼はあたしに負けて欲しく無かったと言う。『委員長の方が凄い』っていう幻想を胸に、彼は勝てない勝負をずっと続けていたのだと言う。

 だから――……それから、彼に避けられるようになったのは自業自得。

 むしろ清々する。これで要らぬ誤解は生まれることなく、パパに言い訳することもなくなる。これであたしの平穏は保たれる――そう思っていたのに、

「…………なんで?」

 その日――約束のテストの日。

 彼の言葉が確かなら、これが最後になる筈の約束の日に、彼は――休んだ。

 教師のテスト開始の声。静まり返った教室。鉛筆が用紙を埋める音だけが響くそこに、彼は遂に現れなかった。

「…………ぁ」

 果たして、気付いた。……ああ、そっか。こういうことなんだ。

 前回のテストで彼は――……ああ、そっか。だから矛盾を抱えてたのね。

 あたしは今日、彼との決着を望んでいた。

 そのために勉強した。いつもに倍して、勉強した。

 勝つために。だけど同時に、彼ならあたしに負けないだろうという信頼を持って。

 だから全力で――だからこそあたしは、彼に負けて欲しく無かったんだとようやく気付いた。

 そして――

「……良いの? アリサちゃん?」

 休み時間。或いはあたし以上にあたしのことを知っているんじゃないかって思える瞳で、親友たちは問うた。

「アリサはマサキに勝ちたいんじゃないの?」

 ……そうだ。勝ちたい。勝ちたいから、ずっとあたしはアイツを目で追ってたのに。

「どないするん? ここが本当に勝負の分かれ目やよ?」

 ……そうよ。これは勝負。これはあたしとアイツの、最後の勝負。

「アリサちゃんの気持ち……ちゃんと言葉にしないと、雅樹くんに伝わらないよ?」

 ……そうよね。あたしは、まだ、何も――

「…………お願い、出来る?」

 立ち上がる。

 余計な言葉は要らない。親友たちはただ「うん」と笑顔で頷き、そして駆け出すあたしを見送ってくれた。

「……あの、バカ!」

 駆ける。

 擦れ違う生徒や教師に何か言われても無視。

 駆ける。

 駆ける駆ける駆ける。

「……はっ。はっ!」

 息を切らせ、そしてアイツの家を目指す。

 車は呼ばない。

 だってこれはあたしの勝負だから。あたしとアイツの勝負だから!

 駆ける。

 いったい、いつの間にアイツの住所や家を知っていたのか――その不思議さに笑える。はは! あたし、アイツん家なんて行ったこと無いのにね!

 駆ける。

 転ぶ。立ち上がり、よろめいて、駆ける。

 たぶん酷い顔だ。汗に張り付いたボッサボサの髪や無様に喘ぐ様は、バニングス家の次期頭首にあるまじき姿だ。

 だけど、駆ける。

 無様に、駆ける。

 目指してたマンションに着くや、これまたいつの間にか暗記していたアイツの部屋の番号を入力。即座に呼び出しボタンをぶっ叩き、

 そして――



「みっ、見つけた……、わよ……!」



 あたしはようやく、たどり着いた。



 ◇◆◇◆◇



 委員長は部屋に入ってくるや二歩と進まずに倒れかかり、それを俺の胸倉をいっそう強くつかんで支え、少女は息も絶え絶えに、それでも鋭く睨んで言った。

「あ、あんた、ねぇ……。だから、サボる……んじゃ、ない、わよ……!」

 ……あれ? あれ?

 えっとコレって、どんな状況?

「だ、大丈夫、か……?」

 おずおずと、委員長に問い――って、ハッ!! しまった! 大事なことを忘れてた!

 俺はそして思い出す。そうだ! せっかく女の子が来てくれたのに――まだファブリーズしてない!!

「……はぁ。はぁ!」

 やっちまったぁあああああ!!

 『この部屋臭うYO☆』とかって思われたら――って、ハッ!! それ以前に俺、今日まだ髪型整えてない!? 寝癖でコンニチハってあり得ないYO!

「……はぁ、ふぅ。はぁ。っと、とりあえず制服は、着てる、わね」

 ろ、ロード!

 こ、コンフィグは!? メニューは!? うわーん、ど~う~し~よ~う~!?

「ほら……。早く。ガッコ、行くわよ……!」

 気付けば目の前に委員長が居て――我に返った。

「……はい?」

 手を引かれた。て、ててて、手を握られた!? 女の子に!! 生まれて初めて!

「ぅあ。いゃ、その……!」

 緊張する。て言うか、手を引っ張られた所で俺は松葉杖無しじゃ歩けな「ほら……。捕まって」――肩を貸された。

「いぴぁ!?」

 ちょっ待っ!

 顔近っ、て言うか体密着――女の子の体だワ~イ! ――じゃなくて!!

「い、委員長……!? 何を――」

「行くわよ。学校。早く。テスト、するのよ」

 ええ~、そこまであなた様はテストを受けさせたいの~?

 ……いや、それ以前に、さ。

「…………放っとけよ」

 ボソッと、言う。

 顔を逸らし、委員長が進もうとする力に抗い、言う。

「委員長こそ、サボるなよ……。テスト、受けて来いよ……」

 そうすりゃ、もう……解放、だろ?

 そうすりゃ、もう…………終わり、だろ?

「委員長は、優等生、だろ……? こんなろくでなし――」

「返事は?」

 遮られた。て言うか、さり気なく体を離そうってしてたのに引き戻された。

「……あ?」

 顔は変わらず明後日に。だけど頬に突き刺さる委員長の視線には気付きつつ、とりあえず疑問符を乗せて低い声で返す。

「あ、あんたは、あたしの、返事、聞きたくないの……!?」

 対し、カタコトで委員長。って、あれ? なんか委員長、震えてない?

「あんたは、あたしが……す、すす、好きなんでしょ!?」

 ちょっ!? 耳元で怒鳴らないでー! キーンってしてるー!

「だ、だから……?」

 顔をしかめる。こちらを突き刺す視線から全力で首を反対側へと向け――



「賭、しましょう!?」



 ――委員長の言葉に、目を丸くした。

「……は?」

「だ、だから賭! テスト! あ、あたしが勝ったらあんたはあたしの言うことを聞く! あんたが勝ったら……け、けけけ、結婚でも何でもしてあげるわよ!!」

 キーン。

 うわー、だから叫ばないでー。

「きょ、今日が最後なんでしょ!? 決着、付けるんでしょ!? 返事聞くんでしょ!?」

 言って、また、委員長は前へと向いて歩き出した。……って、おーい。本当に委員長……なんでそこまでするんだ? 先生に頼まれたからって……やり過ぎだろ?

 果たして俺を急かし、さっさと靴を履かせようとわずかに体を離した彼女に、問う。

「……何でだ?」

 委員長がこちらを見る。

 それを頬に感じながら、

「……委員長。それ、なんか……おかしいだろ?」

 明後日にやった目で床の木目をなぞりつつ、問う。

「キミ、何してんだ? テスト、だろ? ……放っとけよ。先生には、委員長はよくやったって言うし……。こんなののために……自分を投げ出すなよ」

 ため息。

 そう、ため息だ、本当に。

「……あのさ。俺、別に、委員長のこと…………そんなに、好きじゃねーし」

 委員長から体を離し、一人、壁に手を当てて立ちながら、告げる。

「そりゃ、委員長はかわいいし……付き合いたいって、思ってた、けど」

 ……でも、違うだろ?

 先生に言われて、俺にテストを受けさせるために、俺と嫌々付き合うとか……おかしいだろ?

 だって、それじゃあ……そこで終わりじゃんか。意味無いじゃんか……。

 だって、俺は――

「…………俺は、アリサと、本当に――……結婚、したいのに」

 言って、そしてまたため息だ。

 ……あ~あ。本当に、ヘタれ。

 本当に。委員長の言う通り、最後ぐらいって思うけど……なんかこんな口約束以下のソレで人生を棒に振りたくないし。クラスでの居場所……また失いたくないし。

 勝っても負けても……どうせ最後だし。どうせ何も要求出来ないし。こんなんで結婚なんて、どだい無理だし。……返事、怖いし。

「……だからさ。委員長は学校に「ばかちん!」――ぃげぱぁあ!?」

 委員長ぱーんち。俺、ボディを押さえて崩れ落ちる――って、いきなり何するんだね!?

「な、ぼ……。い、委員ちょ「『アリサ』!」――……はい?」

 俺はお腹を押さえ、いつの間にか仁王立ちになってた委員長を見やった。

「『アリサ』よ! いい加減、『委員長』はやめなさいよね『雅樹』! わかった!?」

 ……え~。そんな理由でレバーに一撃~?

 俺はとりあえず「……はい」と頷き、思ったより肉体言語な委員ちょ――もとい、アリサを見た。

 ……あ、もちろんさっきからの『見る』ってのは彼女の顔じゃないんで。もちろん首から下なんで「……『委員長』じゃないから」――って、はい?

「『委員長』としてじゃ、ないんだから……」

 手が、差し出された。

 それをマジマジと見つめていると、

「ほら、掴まりなさいよっ!」

 引っ張られた。

 ……ねえ、アリサ? さっきっから強引過ぎ無い?

 俺は再び彼女の肩に捕まり、そして無理やり家から連れ出されながら思った。……て言うか、やってることが『委員長』のままじゃね?

「……放っとけよ」

 ため息。

「嫌よ」

 睨まれた。首をすくめて顔を背ける。

「放っとけない――っていうか察しなさいよ! このバカ雅樹!!」

 怒鳴られた。……理不尽だ。

「……何を?」

「~~ッ!! あ、あんた、本当に――ムカつくわ!」



 ――そうして、俺はアリサに引っ張られて学校に行った。



「あ……。うん。アリサ、なんか、良い匂いがす――げぐぱぁああ!?」

「か、嗅ぐな! い、いい、今、汗くさ――っていうか、本っ当~に、デリカシー無いわねッ!?」



 ――思えば、この時にはもう……アリサルートに入っていたのだろう。



「き、キミが……察しろって。……あ。アリサ、服に汚れぐぎゅぱぁあ!?」

「ちょっ、バッ……!? い、いきなりドコ触ってんのよっ!!」



 ――果たしてその事に気付くのは……まだ少し、先のお話。






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