嗣希創箱の消閑

小説、落書き、二次創作、etc…。 あなたの暇潰しのお供にどうですか♪ 

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《りりかるーぷ》9

《りりかるーぷ》




 ◇◆◇◆◇

 ――最悪、だった。
 病院からの帰り道。最愛の妻であるすずかと娘とを後部座席に、俺は車を運転していた。
 そして――事故った。
 大型トラックとの正面衝突――を、回避しようとして、出来なかった。
 トラックの運転手は……たぶん寝ていた。
 俺はハンドルを切った。ブレーキを踏んだ。……失敗した。相手のスピードが出過ぎだった。……突っ込まれた。外壁に突っ込まされた。
 フロントガラスが割れた。エアバックで息が詰まった。
 そして――後部座席が潰れていた。
 俺は、叫んだ。娘を。妻の名を、叫んだ。
 答えは…………返って来なかった。
 果たして車は炎上。爆発した。
 それが最後の記憶だった――。

 ◇◆◇◆◇

 年が明けた。……わたしは、それでも生きていた。
 後に最後の『闇の書』事件て呼ばれるそれを経て、わたしはわたしを取り巻く環境のすべてを理解した。
 ……わたしが生き残れた理由は、たぶん、彼のおかげ。川平くんがあの日、わたしに『頑張れ』て言うてくれたおかげやと思た。
 だからわたしの退院の日。わたしは川平くんにお礼を言おうと思った。
 時間は昼過ぎ。この時間、川平くんは屋上に一人で居る。
 そこに、いつもならわたし一人で行くところやけど、今日は違う。
 今日はすずかちゃん、なのはちゃん、フェイトちゃんにアリサちゃんの四人も一緒。四人で、聖祥小の制服を着て、川平くんに会いに行くことにしてた。
「さ~て、はやての彼氏はどんな顔をするかしらね?」
 ――川平くんは、他人を遠ざけようとする。
「か、かかか、彼氏やないよ……!?」
 ――それは彼が十九歳になるか、死んでしまうかしてしまったら、転生してしまうから。どんなに仲良くなっても、そうなれば初めからやり直しとなってしまうから。
「え? 違うの?」
「す、すずかちゃんまで……!?」
 ――彼はそれを『地獄』と称した。ゲームのようだと笑い、わざと他人を傷付けるような言動を取って周りと距離を取っていた。
「あはは。はやてちゃん、顔、真っ赤~♪」
「本当だ」
「は、はぅぅ……」
 ――わたしは、そんな彼のことが……可哀想だ、と思った。
 一人は……寂しい。
 独りは…………悲しい。
 押し付けがましい、独善的な意見かもやけど……わたしは、彼にも幸せになって欲しかった。
「い、いじめや。み、みんなしていじめや……!」
――わたしは、幸せや。
 みんなが居て――だから、川平くんにもそれを分けてあげたい。彼にも、この輪ん中に入って欲しい。
 だから、それが彼にとってどういう行為なのか――



 わたしは、川平くんに殴られるまで、気付かなかった。



「「――――ッ!?」」
 屋上で。川平くんに会って。みんなを紹介して。
 そして――頬を、打たれた。
「…………ぇ?」
 思考が止まる。……え? 顔を川平くんに戻すと、彼に胸倉を引っ張られて息を飲んだ。
「……………………最悪だ」
 っ!? 川平くんの、冷めきった瞳を前に目を剥く。
「ちょ、ちょっとちょっと!? あ、あんた、何してんのよッ!?」
 わたしは……動けない。
 アリサちゃんが川平くんの手を引っ張り、すずかちゃんに車椅子を引かれても……。なのはちゃんとフェイトちゃんが彼との間に立っても、ずっと。
 最悪だ。そう言った川平くんの声と表情に、固まってた。
「――――!」
「――――!」
 みんなが、何かを言っている。
 川平くんに、何かを言ってる。
「――――!?」
 ……聞こえない。映らない。
 わたしは、わたしに、真っ直ぐ視線を向ける彼以外、見えない。
「…………ぁ」
 川平くんは、そして歩き出した。
 振り返らずに……歩き去った。
「っっっ! なんっなのよ、あいつ!」
「はやてちゃん、大丈夫……?」
 茫然自失。……あかん、何も考えられへん。
 わたしは憤慨するアリサちゃんや頬にハンカチを当ててくれるすずかちゃんに、ぼんやりと顔を向けた。
「……わ、わた、わた、わたし、は――」
 わたしは言葉を、どうにか紡ごうとして――

 遠くから聞こえた悲鳴に、今度こそ心臓が止まるかと、思た。

 ◇◆◇◆◇

 ――わからない。
 どうしたら、良い?
 どうしたら、俺は解放される?
 どうしたら――
「…………なんだ、また、死に損なったのか」
 見慣れた、暗い病室の天井を見上げ、苦笑する。
「……はは。ほとほと、今回は死神に嫌われてるらしいな」
 なぁ、八神? そう、暗がりに埋もれるようにして車椅子に座ってた少女に話を振る。
「…………」
 対し、八神は顔を俯かせて無言。
 だから、
「……どういうつもりだ?」
 こちらから、問う。
「なあ、八神。……キミは俺が他人を遠ざけてるんは知ってるよな? 気付いてたよな?」
 視線を八神から、ベッドの脇に詰まれた医療関係の参考書へと向ける。……くそ。人がせっかく、色々と勉強したのに。せっかく、八神の病気をどうにかしようとしたのによ。
「キミはバカか? それともコイツは、新手の嫌がらせか?」
 ため息を一つ。俺は折れたらしい右手を睨み、痛みを無視して拳を作った。
「……最悪だな。キミは、もっと――」
「わたしは……!」
 八神は、そこでようやく顔を上げ、頬に張られた湿布の痛々しい顔で、涙を必死に我慢しながら叫んだ。
「わたしは、川平くんにも……お友だちを――」
「それが最悪だって言ってんだよッ!!」
 遮る。目を丸くする八神を睨み――その格好が聖祥小のではないのに内心安堵する。
「善意のつもりか!? 俺が一人なのが可哀想で、だからわたしの友だちをってか!」
 勝手に見下ろしてんじゃねーよ! そう怒鳴り、息を飲んで固まる八神から顔を背ける。
「……もう二度と、俺に関わるな」
 吐き捨てる。
 ……くそ。どうして放っといてくれないんだ? どうして……俺に彼女たちを会わせようとするんだよ。
 俺は、もう…………アリサにも、すずかにも会いたくねーのに。
「…………なあ、川平くん」
 ポツリと。
「わたし…………ばか、やから」
 零すように、紡がれた言葉。
「ばかやから、言ってくれんとわからへん……。何が、あかんかったんか……わからへんよ、川平くん……」
 果たして、しゃくりあげるような呼気に振り向けば、八神は遂にポロポロと涙を流していた。
「わ、わたしは……川平くんに、お礼、したかったんや……」
 ……視線を、逸らす。
「わ、わたし……川平くんに、『頑張れ』って……。だから、わたし……今、生きてて……」
 …………くそ。だから、嫌だったんだ、この子たちに関わるのは。
「わたし……幸せ、なんや。今は……みんな、居て……。みんな……、だから――……川平くんにも、って」
 ……知ってる。この子たちが良い子なのは知ってたよ……、くそ。
「わたし……ばかやから。何で川平くんが怒っとるんか、わからへん……」
 涙を拭い、涙を流し。誰かのために考え、行動し、泣ける彼女たちのことが…………俺は、好きだ。
 嫌えない。だから避けていたのに――
「わ、わたしは――」
「泣くなよ、バカ」
 俺はため息を一つ。……ああ、もう無理だな。そう思い、すべてを諦めるように苦笑し、彼女の頬を濡らす涙を袖で拭ってやった。
「……ごめん。俺が、悪いんだ、八神」
 俺の苦笑いに「ぇ……?」と、ぼんやりとこちらを見る八神。その頬に張られた湿布に手を当て「……ごめん」と瞳を伏せて謝ると、視線を窓から外へ。すっかり暗くなったそこへと向けて口を開いた。
「俺は……九歳から前の記憶が無いんだ」
「……ぇ?」
 苦笑する。……苦笑するしか、無い。
「初めは事故に対する心因的なものかと思ってたけど……違った」
 後で調べてわかったんだ……。そう言って、前髪を上げ、額の傷を見せて八神に笑いかける。
「事故で、俺の記憶系の脳神経に傷が付いたらしい。……それが原因ぽい」
「…………」
 視線を、八神からまた外へ。前髪を下ろし、言葉を次ぐ。
「初めは、だから九歳なのに赤ちゃんみたいに過ごしたよ。それで十九になって……転生して。俺は、今度は逆に九歳児にしては精神年齢が少しだけ高くなれた」
 そして、今度は彼女を作ろうって思った。
 出来れば可愛い子と。せっかく転生出来たんだから、そのチャンスを活かしてみたかった。
「で、俺は聖祥小に通うことにした」
 初めは、専門の学校だったから。今度は、頭の良い学校に通いたかった――それだけで私立を選んだ。
「八神……。俺は、それで、アリサと恋人になったんだ」
「え……!?」
 八神が目を丸くするのを背中で感じ、苦笑。それからすぐ「でも結婚までは出来ずに転生さ」と軽く笑って言い、
「二度目の転生で……俺は、だからアリサとまた恋人になろうとした」
 その時は、少し、焦っていた。
 出逢い方を早めて、結論を急いだ。
「……だけど、結局、俺はアリサとは結ばれ無かった。代わりに、じゃないけど……俺はすずかと結婚した」
「…………っ!?」
 瞳を、伏せる。
 笑みを、消す。
 こっから先は……まだ、笑って語れないから。
「俺はすずかを愛した。娘も、出来た。彼女のお腹には二人目も居た」
 ……幸せ、だった。
 その言葉を、血を吐く思いで紡ぎ「……そして、事故に合って――死んだ」と、こちらは返ってサラリとした物言いで言えた。
「……え?」
「死んだよ、みんな。事故で。俺は勿論。すずかも娘も、みんな、ね」
 だから、俺はまた、転生した。
 だから、俺は自殺を繰り返した。
「……幸せ、だったんだ。本当に。だから……戻りたかったんだ」
 転生する、そのシステムはわからないけど、死ねば九歳の誕生日に戻るのはわかってた。だから、何かの間違いで戻れるかもと思った。
「……幸せ、だったんだよ八神。だから、もう……また『初めから』は、嫌だったんだ」
 彼女たちと出逢いたく無かった。出逢い、別れるのが嫌だった。
 だから――
「……ごめん、八神。キミは……悪く無い。俺がヘタれなだけだ……」
 言って、俺は笑みを彼女に向け、頭を下げる。
「……ごめん。ごめんな、八神。ごめん」
 果たして、
「川平くん。わたし、魔法少女に、なったんよ」
 彼女は涙の後が痛々しい顔で、それでも笑って言った。って、は?
「……………………キミさ」
 半目になる。……あれかな? この子、やっぱり本の読み過ぎで頭が「な、なんか失礼な目ーしてへん?」……いや、むしろ俺が殴ったせいでネジが飛んだのか?
「……可哀想に」
「な、なんか失礼なこと言われ――って、なんで『わかってるわかってる』みたいな生暖かい目ーして頭撫でるん!?」
 そりゃあ……ねえ?
「う、うう……! か、川平くんにも、信じて欲しいんやけど……」
 魔法少女を? ……んな無茶な。
 とは言え、上目使いで見つめて来る八神を相手に、いつまでも半信半疑な体で対するのは大人気ないと思い、「はいはい、そうだね八神」と優しい笑みを浮かべて彼女の言葉を信じてやることに。
「で、魔法少女ヤガミンが、何だって?」
「…………もう良えわ。一々突っ込んでたら切り無さそーやし」
 八神はため息を一つ。一転して真剣な眼差しになると再び口を開いた。
「川平くん。わたしと一緒に魔法の世界に行かへん?」
 ……………………は?
 俺は呆然と八神を見る。……は? 八神は真剣な表情だった。……え? だから俺は、半ば愕然とする思いでそれを口にした。
「八神…………プロポーズにしては唐突過ぎないか?」
 果たしてその言葉に、八神は顔を真っ赤にして目を剥いたのだった――。




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