嗣希創箱の消閑

小説、落書き、二次創作、etc…。 あなたの暇潰しのお供にどうですか♪ 

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《りりかるーぷ》8

《りりかるーぷ》




 ◇◆◇◆◇

「――なんだ、八神か」
 川平くんの自殺を止めた次の日。またシグナムに車椅子を押して貰って入室した彼の病室で、川平くんはわたしを見るや開口一番そう言うた。
 ……あれ? なんでわたしの名前……? 昨日は川平くん……気を失うように寝てて、まだ話したことは無かった筈や。
 そんな風に刹那の間、疑問符を内面でだけ浮かべ、しかし外見上はにこやかに接しようと努力しとるわたしに「はは! なに不思議そうな面してんだよ、八神」と川平くんは嘲笑混じりに言うた。……やっぱり、川平くんはわたしのことを知っとるみたいやね。
「え、えっと……。か、川平く――」
「――って、ああ、そう言えば、『こっち』じゃ初めてだったか? それに出会い方も病院て――はは! 今までに無いな! 今回は八神フラグか!? ははは!」
 冷や汗が頬を伝い、表情が引きつる。……な、なんや? どういうこと?
 わたしは半ば呆然とベッドに座る彼を見つめ――そして昨日までは無かった、頬のガーゼや右腕に巻かれた包帯を見つけ、今度こそ目を丸くした。
「ん? ……ああ、なるほどな」
 果たしてそんなわたしの視線を追って川平くん。口の端をニヤリと歪め、そしてわたしの脇に立って事の推移を見守っとったシグナムへと視線を移して口を開いた。
「そう言えば、昨日の『失敗』はキミらのせいだったな。で、お節介な石田に俺のことを聞いた――と、そんな所か?」
 ……確かにその通りや。
 わたしは川平くんが事あるごとに自殺未遂をおかしとるんを聞いた。だからこそ、彼の傷が増えとる理由に気付いて目を丸くしたんや。
 でも――
「……すごいなぁ。川平くんは何でもお見通しみたいやね」
 感嘆する。わたしも長い通院生活でそれなりに観察眼は持っとるつもりやったけど、川平くんのそれは段違いや。
 それに、なんや川平くんは子供って感じがせん。見た目はそれでも同い年の男の子なんに……自分ではわたしも実際の年齢以上に大人びとるつもりやったのに、彼と比べたら全然子供みたいや。
 そして、それが…………少しだけ嬉しい。
「? なに、喜んでんだ?」
 また、や。また、表面上は普通にしとる筈やのに内心を読まれた。
「あはは。うん、ちょっと嬉しかったんよ」
 ……人によっては、内心を悟られるのを嫌がるらしいけど、わたしは違う。
 そりゃあ、わたしだって隠したい気持ちや事柄だってあるけど――でも、ずっと、なんやかんやで『仮面』みたいなんを被って色々と平気なフリしとったわたしからすれば、こんな風に『キミのことなら何でも知ってる』みたいな彼の態度が新鮮で……それで、少しだけ肩の力が抜けるようで嬉しかった。
「…………」
 果たして、川平くんは無言でわたしを睨んだ。
 ……ぁ。そしてわたしも、彼の、少し長めの前髪の向こうの瞳を見て言葉を失う。
「川平、くん……?」
 呆然と、彼を呼ぶ。
 なあ……なんでそないな目ーするん? なんで、そないにも悲しい目ーしとるん?
 ……そう言葉には出来ず、ただただ彼のことを見つめていると、
「…………帰れ、八神」
 感情のこもらない声。表情の消えた顔でそう言い、川平くんは窓へと視線を移した。
「……川平、くん?」
 彼からの返事は、もう、なかった――。

 ◇◆◇◆◇

 通院日に。暇な日に。わたしは彼の病室を訪ねるのが日常の一つとなっていた。
「…………つくづく有り得ねーだろ。なんだよ、九歳児の一人暮らしって」
 ――川平くんは日に日に傷が増え、日に日にわたしとよく話してくれるようになっていた。
「…………」
 ――そしてわかったのは、彼が不意に黙り込み、とても痛々しい、悲しい目をして窓を見始めたら……もう、その日は話してくれないってこと。
 それから、
「……前世には、どうやれば戻れるんだ? どうしたら俺は……死ねるんだ?」
 輪廻転生、と言うんやろか?
 川平くんは、前世の記憶を持って九歳の誕生日に生まれ、そして死ぬか十九歳の誕生日になったら転生する……らしい。
「はは……。信じられねーだろ? だって、まるでゲームだ。死んだら始めから。ステージクリアでも始めからって……どうすりゃ良いんだよ、くそ!」
 ――幾度目のお見舞か。
 その日、川平くんは頭に巻いた包帯に手を当て、わたしに問うようでいてその実、誰に言うでもなく悪態をついた。
「…………わたし、は」
 ……わからない。
 どうしたら良いのか、わからない。
 ……川平くんの言ってることが信じられなくて、じゃない。信じたからこそ、わからない。
 …………だけど、
 ……それでも、
「わたしは――魔法少女、や」
 それを言葉に、していた。
「……………………は?」
 呆然と。ポカンと。それこそ初めて見る、川平くんの唖然とした顔にわたしは僅かに頬を蒸気させ、
「わ、わたしは……よく、わからへんけど……、わたしは……魔法が使える、らしいんよ」
 ……恥ずかしい。
 わたしが『闇の書』いう魔法の本の主で、じつは魔法が使える――才能がある、と言う、シグナムたちの話を信じてはいるけど……恥ずかしい。
 だ、だって魔法少女て……。わたし、まるでイタい子や。もしくは子供過ぎるわ、ほんま。
「だ、だから……その。た、たぶん……えっと」
 視線を右往左往。……恥ずかしい。だけど……言葉にせんといかん。言葉にせな、伝わらん!
 わたしはそう奮起し、呆然から覚めたそれへと変わっとった川平くんに視線を戻して口を開いた。
「す、少しだけ、待ってて欲しいんよ……。な、なんや、その……わ、わたしが魔法を使えるようになるには……えっと、……ま、魔法の本を完成させなあかんくて……」
 しどろもどろに。自分でも聞き取り辛いなぁ思う言い方で、しかもやっぱり冷めきった川平くんの目を見れんくて視線を逸らして言うわたしに、川平くんは「……キミ、バカだろ?」……すごい辛辣な言葉で返した。
「う、ぅぅ……」
 凹む。わたしは車椅子の上で小さくなり、先に言った自分の台詞に今さらながらに羞恥心の極みいう状態に。ほ、頬が熱いよ……。
 そして、「……はぁ」て、川平くんはため息を一つ吐き、
「……まるで俺だな」
 言って、手を伸ばし――って、わわわ!? わたしは川平くんに頭をぐしゃぐしゃって掻き回され、目を丸くした。
 え? ええ……!?
 果たして、びっくりして顔を上げたわたしに、
「ったく。八神とは何だかんだで結構長い付き合いだけど、『魔法少女』なんて設定は聞いたことねーぞ?」
 て言うか、恥ずかしくねーの? そう言って川平くんは、笑った。
 笑った。
 ニヤリと、じゃなくて。意地悪く、じゃなくて。
 川平くんはわたしの言葉で、初めて笑ってくれた。
 それが――
「って、おい。何、また嬉しそうな顔してやがる?」
「いっ、ぃひゃっ……!? ほ、ほほ、ひっひゃらないで~……」
 ――わたしはその日、初めて、川平くんと友だちになれた。……そんな気がした

 ◇◆◇◆◇

 十二月に入ってすぐの頃。わたしには『月村すずかちゃん』いう女の子の友だちが出来た。
 だけどそれを、川平くんには教えてない。……彼は人見知りが激しい――と言うか、わたし以外の誰とも関わろとせんから、なんや教える機会を逸していた。……ちなみに『わたし以外』っていうのが少しだけ嬉しいのも内緒や。
 そしてそんな師走も半ばを過ぎた頃には、わたしもなんや体調を崩して入院することになっていた。
「……キミ、さり気なく病気だったんだな」
 そう、いつもとは逆で車椅子に乗って言う川平くんは苦笑してた。……あはは。なんやベッドの傍らに川平くん言うのは、ほんまに立場が逆で少しだけ面白いな。
「あれ? 知らんかったん?」
 ちなみに今、わたしの病室には二人だけ。……川平くんが誰とも同席しようとせん、いう理由以外にも最近は、なんやシグナムたちは忙しいらしくてあんまり来ない。
 それが……少し、寂しい。
 口では大丈夫だと言いつつ……やっぱり、寂しい。わたしは、ほんまに寂しがり屋やから。
 だから、
「知らないね。俺はキミが退院して、学校に来てからしか知り合ったこと無かったからな」
 時折、不意に現れては話してくれる川平くんには感謝しとる。
「え? わたし、学校行けるようになるん?」
 ……川平くんは優しい。
 たぶん、わたしがそんな風に孤独を何より怖がっとるんを知っとるから、こうして現れてくれるんやろうて思う。
 ……だから、
「ああ。来年の春には聖祥に居たぞ? ついでに車椅子も中学に通う頃には無かったな」
 …………川平くんは優しいから、そんな嘘を言えるのやろて、思った。
「それ……嘘や」
 川平くんから視線を外し、自嘲の笑みを刻んで告げる。
「川平くんは優しいな。……大丈夫や。自分の体のことは自分が一番よー知っとる」
 わたしは――永く、無い。
 どんなに頑張っても、春までは保たない。……それが、わかる。
 皮肉なことに、長い通院生活で『死相』いうのが大体わかるようになってた。それが見えたら永く無いっていうのが、何度となく知り合いの患者さんを見送って来たわたしにはわかる。
 わかる。……わかってしまうんよ、川平くん。
「……この前、石田先生に無理言ってキミのカルテを見せて貰った」
 果たして、返って来たのは意外な台詞。わたしは「え……?」て半ば呆然と彼へと向き直り、その無表情な顔を見つめて固まった。
「『前』に医者を目指しててね。その時の専攻は血液関係だったから専門じゃないし、まだ医大生だったから本職には遠く及ばないのは承知の上で言うよ」

 キミは――今月が山だ。

 そう静かに告げ、それに絶句するわたしに川平くんは――ニヤリと笑った。
「ああ、確かに、キミが一番良く知ってるらしいね。キミの言う通りだよ。おめでとう。キミは今年中には死ぬ。死ぬんだよ、八神はやて」
 ……ぁ。わたしは、その言葉に衝撃を受けた。『死ぬ』――その言葉にショックを感じた自分に戸惑い、『今月中』という具体的な数字に愕然とした。
「わ、わたし、は……」
 呆然と、呟く。……俯く。
「ぁ……」
 わたしは……死ぬ。
 そんなのは……知っていた。助からないのは知っていた。
「……ぅ、あ」
 知ってた。覚悟もしてた。
 だからこそ、『闇の書』の転生機能に感謝した。だからこそ、再び与えられた家族がわたしが居なくなってもすぐに新たな主の所に旅立つと知って安堵した。
 安堵、した。
 遺された人のことを思い、想って、死を受け入れてた。
「ぅ、ぅ……」
 だから、
 ……だけど!
「ぅぁ、ああああ……!」
 気付けば、泣いていた。
 気付けば、わたしは、傍らの彼に縋りついて泣いていた。
「い、いや……!」
 覚悟はしてた――つもりだった。
 死は受け入れてた――つもりだった。
「し、死にたく、ない……! いやや……!」
 つもりだった――そのことを思い知り、胸を掻き毟るような痛みにただただ嗚咽を漏らして泣く。泣き喚く。
「ま、まだ……まだなんや……! まだ、わたし……やりたい事、ある! まだ、したい事、ある……! まだ、あるんよ……!」
 彼の胸を叩く。「何でや……!」と叫び、「何で死なないとあかんの……!?」と慟哭する。
「死にた、ない……。まだ……。わたし……」
 死にたく、ない……!
 そう、自分でも気付いて無かった、胸の内に蟠ってた本当の思いを吐き出すわたしに、

「……死なねーよ、バカ」

 川平くんは、言った。
 それに「え……?」て、呆然と見上げるわたしに笑顔を作って言った。
「言ったろ? キミは来年の春には聖祥小に行ってるって。……それ、勝手に嘘だと決め付けんなよ」
 抱き付くわたしの頬を拭い、優しく髪をすきながら川平くんは言うた。笑顔で、言ってくれた。
「『前』のキミは、きっと頑張ったんだろ。『今』のキミと同じで、死にたくねーって、頑張ったんだろうよ」
 だから、頑張れ。
 キミも、頑張れ。
「……もう、俺は失いたくねーからさ。頼むよ、八神……」
 そう、最後に零すように言って、川平くんはわたしの頭を抱き締めた。
「……川平、くん」
 わたしは、抱き返す。
 わたしの頬に落ちた、想いの滴に気付かぬふりをして――。





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