嗣希創箱の消閑

小説、落書き、二次創作、etc…。 あなたの暇潰しのお供にどうですか♪ 

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

PageTop

《りりかるーぷ》7

《りりかるーぷ》




 ◇◆◇◆◇

 月村雅樹。それが今の俺の名前で――つまりは、そう。俺は十八になると殆ど同時に、すずかと結婚したのだった。
 転生は十九歳の誕生日に。だから焦っていた――というのもあるけど、違う。っていうか、それ以上に、
「ぱぱぁ♪」
 ……十五の時に、娘が、出来た。……うん。避妊に失敗したんだ。だ、だって、初めてだったんだから仕方ないじゃんか!
 そして、だからまあ、結婚は『できちゃった婚(?)』だ。うん。まあ……後悔はしてない。
「ん? どうした?」
 俺は今年で三つになる、人一倍元気に歩き回る娘に笑みを向け、手を伸ばす。うん。この子は手を離したら危ないから……って言うか、俺とすずかの娘なのに何でこんなにも元気っ子なのか?
 ……遺伝子とはかくも不思議に満ちてますねぇ。
「早く! 早く行くの!」
 そう喜色満面で俺の手を引っ張る娘に、俺は苦笑。……この子は、わかってるのかな? 今、向かってるのがすずかの――ママが待ってる病院だって、本当に。
「そんなに急いでどうするんだ?」
 っていうか、もう少しママに見習ってお淑やかになって欲しい。……切に。大学から帰ってすぐに『遊ぼー』コールは、意外とキツいのだ。
 …………俺は疲れたサラリーマンか何かだろうか?
「だって! だって赤ちゃん、生まれちゃうもんっ!」
 ……ああ、うん。この子、やっぱりわかって無かった。
「あのね。ママ、まだ五ヶ月なの。生まれるの、まだ先なの」
 今日は検査なの、わかる?
「うん! だから早く行くのっ!」
 ……ぜんっぜん、わかってねー。
 俺はため息を一つ吐き、苦笑。そして娘に手を引かれるがままに歩き出した。
 果たして――

「あ、あのね……。こ、これからは、く、くくく、口で、頑張ろうと思うの……!」

 待ち合わせの病院に迎えに行き、俺の運転する車の後部座席に娘と並んで座るや、すずかママ。何やら真剣な顔で――だけど顔を僅かに赤くして、言った。
「…………あのさ、すずか?」
 キミ、また周りのオバサン連中に余計なこと吹き込まれたね?
「口~?」
 ……うん。娘が居るの忘れてるね。
「あ、あのねっ……! えっと……は、激しく、しなかったら…………お、お尻で――」
 うおーい!?
「す、すずか!? キミ、なに「おしり~?」……忘れなさい。お願いだから……」
 俺は嘆息し、赤信号で停車するや後ろを振り返った。
「キミ、どうしたの? 何、テンパって――」
「だ、だって……! 雅樹くん――出来ないんだよ……!?」
 すずか、涙目で叫ぶ。……って、お~い。さっきっから発言が一々危ないぞ~?
「ま、雅樹くん……。私、頑張るから……。だ、だから…………う、浮気、しないで」
 ……え? もしかしなくても俺――エッチだけが目的で一緒になったって思われてる?
「…………あのさ」
 視線を、前に。車を発進させながら、若干低い声を作って言った。
「俺……そんなに信用、無いか?」
 ミラー越しに、僅かに怯え混じりの表情になってるすずかを睨んで、問う。
「俺はすずかを……愛してる。それが……信用、出来ないか?」
 ……俺は、怒る。
 少しだけ。たぶん身重で、不安に苛まれてるんだろう彼女を、怒る。
「前に言ったよな? 『今』はキミだけを愛するって。『今』の全部を、すずかに上げるって」
 娘の前だろうと、関係ない。
 すずかのために……最愛の妻を安心させるために、俺は怒る。
「信用しろ」
 そして最後に「って言うか、『今』の俺が何年『お預け』を我慢してたかキミも知ってんだろ?」と笑いめかして言い、言葉をしめた。
「雅樹くん……」
 果たして俺の言葉にすずかは感極まったような声を上げ、瞳を濡らしながら微笑んだ。
 ……うん。俺はそんな彼女をミラー越しに見て、思う。やっぱり可愛いなぁ、すずかは。
 うん。っていうか、どうせ子供が生まれたらまた、すずかを思う存分味わうから良い――ああ、でも「ボテ腹プレイ、か……」呟き、そして僅かに膨らみの目立ち始めた彼女のお腹を見て……ゴクリ。
「ま、雅樹くん……!?」
 目をしばたくすずかに「はは! 冗談だよ」と返し、「? 何の話~?」と首を傾げる娘にようやく存在を思い出したらしい彼女は、「な、ななな、なんでも無いよ……!?」と手をわたわた振って、
「くっ。ははは!」
 俺は、笑った。
 『今』の幸せを噛みしめるように、心から――

 ◇◆◇◆◇

 ――九歳の、誕生日。
 それは、わたし、八神はやてにとって……たぶん、一生忘れられない日。……家族が出来た、日。
 …………嬉しい。
 ずっと……両親が居なくなってから、ずっと……寂しかった、から。このまま一人で……世界の誰にもわたしは必要とされることなく、わたしはわたしを閉じるのだと思っていたから……。
 嬉しかった。
 ……神さまは居るんだ。……そう、思った。
 ああ、神さま。ありがとう。たぶん、『最期くらいは……』って事やろうけど…………でも、嬉しかったから、ありがとうございます。
 そして、その日も……たぶん一生忘れない。
「――きゃぁあああああ!!」
 その日――九歳の、秋。
「っ!? な、なんや……!?」
 病院で、
 検査の帰りに、
 突然の悲鳴に目を白黒しとる、わたしの前に――

 彼は――川平雅樹は、落ちて来た。

 ◇◆◇◆◇

 自殺。
 彼は病室から飛び降りた――らしい。
 それをたまたま、帰る途中のわたしの車椅子押しててくれたシグナムが受け止めて助けた――て、石田先生は言うた。
「な、なんで自殺なんか……」
 場所は彼の病室の前。『面会謝絶』いう札と『川平雅樹』て書かれたネームプレートがある扉の前で、わたしとシグナム、そして石田先生は三人は話してた。
「……たぶん、事故のショック…………なんだと思うわ」
 廊下に備え付けのソファーに座り、目の前で車椅子に座っとるわたしから視線を彼の病室に向けて石田先生。その表情は……お世辞にも明るいとは言えんかった。
「あの子……川平雅樹くんは、目の前でお母さんを亡くしているの」
 ……本来なら、患者のプライバシーに関わることは絶対に話さへん筈の先生が他人のわたしに話す――それが意味する事が何なのかは、わたしは朧気にやけどわかり始めていた。
「今年の春。……いえ、初夏にね。雅樹くんはお父さんのお仕事の都合で海鳴に引っ越して来た――……引っ越す、筈だったの」
 筈だった。その言葉の、なんと重いことか。
「……雅樹くんは事故で、脳の一部を傷付けちゃってるのね」
 思い返す。
 少し前、振って来た彼は……たぶん、同い年ぐらいの男の子だった。
 パジャマを着とった事。石田先生の言葉を省みるに、たぶん事故で入院した時に全部を一度切ったんやろと思わせる長さの髪。それらから、なんとなく、彼の状態は察せられた。……それだけで察せられるぐらい、わたしは病院に居ったから。
「彼のお父さんからは、暫く入院させて欲しいって言われてるの」
 そう言い、沈痛な内面を吐き出すように吐かれたため息で……わたしは石田先生が敢えて言葉にせんかった内情も伺えた。
 ……と言うか、息子が飛び降り自殺した、いう連絡は受けてるだろうに未だに姿を見せんことからもなんとなく彼の家庭事情が伺い知れるいうものや。
「わ、わたしは……川平くんとお話し、させてもらえへんやろか?」
 わたしはそう言って、今はベッドで寝てるやろう彼を透かし見るように病室の扉を眺める。
「…………良いの?」
 ……先生は優しいな。本当は、その言葉を見越しての説明だったんやろうに、石田先生は律儀にも確認してくれるなんてな。
 それに、
「先生。……わたしも、家族を亡くす悲しみは、知っとるから」
 親を亡くす痛みは知っとるから。そう笑顔を浮かべて言い、そんなわたしを見て「はやてちゃん……」とわたしの名前を呼んだきり絶句する先生に内心でだけ言葉を次いだ。
 ……ごめんなさい、石田先生。さっきのは『こう言うたら、先生が頷いてくれる』いうのを計算しての言葉や。
 それから……川平くんも、ごめんな。
 わたしのこれは……同情や。憐れみから来る、上から目線の言葉とお節介や。
 だけど…………わたしなら、それでも嬉しい、思う。
 同情でも、憐憫でも良い。それでも、一人より良い。それでも……孤独よりずっとマシや。
「…………」
 石田先生は数秒わたしの瞳を見て、立ち上がり、そして無言で彼の病室の扉を開いた。
「……雅樹くんは、まだこっちに来てからは誰とも話してないと思うわ」
 だから、お友だちになってあげて。そう、どこか陰りある微笑をたたえて言った。
「はい♪」
 わたしは、だから何も気付かんふりして明るく笑った。

 ――それが運命の分岐点だったと教えて貰うのは、まだ少し、先のお話。





次話/前話
スポンサーサイト

PageTop

コメント


管理者にだけ表示を許可する
 

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。