嗣希創箱の消閑

小説、落書き、二次創作、etc…。 あなたの暇潰しのお供にどうですか♪ 

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《りりかるーぷ》6

《りりかるーぷ》




 ◇◆◇◆◇

 着信履歴、一。川平雅樹。それに気付いたのは夜だった。
 習い事が終わって、それからアリサちゃんと二人、いつもみたいに車に乗ろうとした際に確認して、見つけた。
 そして「なに、ニヤニヤしてんのよ?」……アリサちゃんに、彼女こそニヤニヤ笑われて言われ、慌てた。
「そ、そんな、ニヤニヤなんてしてないよ……!」
 走り出す車の、後部座席の隣。私はやっぱりニヤニヤ笑ってるアリサちゃんに手をわたわたと振って良い「あいつからメールでも来た?」……たぶん、顔を赤くしました。
「ち、違うよ……」
 ……視線を逸らして言ってたら説得力無いなぁ。そして「じゃあ電話か」……アリサちゃんは鋭いです。…………あぅぅ。
「で? すずか、告った?」
 ……顔から火が出る思いになりました。
 私はアリサちゃんの言葉に「ま、まだ……」と消え入りそうな声で返し、視線を窓から外へ逃がしました。あ、夕立が凄い「現実逃避?」――……アリサちゃんは鋭いです。
「ぅぅ……。だ、だって雅樹くん……アリサちゃんのこと、好きだから……」
 ――私は、川平雅樹くんが好きです。
 そして雅樹くんはアリサちゃんが好きで……アリサちゃんは、そんな彼の気持ちも知っています。
 知っていて……私のことを応援してくれてます。
「……ったく。あいつもとっとと告れば良いのに。そうすればあたしは――」
 振るのに。そう言おうとしたアリサちゃんを「し、仕方ないよ……」と遮って、また手の中の携帯電話に視線を落とします。
「ま、雅樹くんは……ちょっと、他の人と違うから……」
 ――そう。彼は、他の男の子と違う。他の、私たちにすぐ告白する子たちとは、違う。
 違う。私の顔や胸を撫で回すように見る子たちとは。
 違う。すぐ、私に触れようとする子たちとは。
「……すずか。でも、それじゃあ――」
「告白って、やっぱり、すっごく勇気が要るから」
 何とも言えない顔をするアリサちゃんに首を左右に振り、笑顔を作って返す。……そう。勇気が居る。
 そしてだからこそ――それをわかっているからこそ、彼は安易に告白しない。
 三年生の、たぶん転入してすぐの頃からアリサちゃんを好きになったらしい雅樹くんは……ともすれば、意気地の無いように見えるかも知れないけど、違う。
 告白がどういうものか……彼はたぶん、ずっと知っていたんだと思う。人を好きになる――そのことを、小学校の三年生の頃からちゃんと知っていて、そしてずっと考えてたんだと思う。……たぶん。
 或いは、彼にも告白出来ない理由があるのかも知れないと、最近はそう思っていた。
「……煮え切らないわねぇ」
 アリサちゃんは眉根を寄せ、腕を組んで「すずかはこのままで良いの?」と問います。
 それに、
「…………うん」
 頷く。
 ……うん。私はこのままでも……良い。
 このまま……もう少しだけ、彼の近くに居られたら、それで――それだけで、良い。
 だって、私は彼のことが好きで――……だって私は、安易に告白なんて出来ないから。
 だからずっと、このまま。このまま、彼と同じように一定の距離を――だけど遠ざからない、心地良い距離を保って居られたら、それだけで私は幸せ。
 だから「てい!」――アリサちゃんに携帯電話を取られて目を丸くしました。
「ふふん。今からあいつに電話して、呼び出しましょう」
 ……え? ええ!?
「で、あたしはあいつを振る。そしてすずかは告白する」
「っ!? や、やめてよアリサちゃん……!」
 私は慌ててアリサちゃんから携帯電話を奪おうと「あ、もしもし?」――そして通話中になったらしいのを見て固まった。
 あ、ぅぅ……。や、やっぱりこういう時のアリサちゃんは、ちょっと苦手だ……。本当に……どうしてそんなにもアクティブになれるんだろ?
 私はそしてアリサちゃんから視線を逸らし、窓を叩く雨足の強さを目で確かめるようにして居心地の悪さを誤魔化「……もしもし?」そうとして、怪訝な様子に変わったアリサちゃんに向き直った。
「……ど、どうしたの?」
 思わず訊くと、アリサちゃんは「何か変なのよ……」とやっぱり怪訝顔で言い電話を返してくれた。
「……え?」
「通話中よ。……一応」
 ええー!? 私はアリサちゃんの言葉に慌てて携帯電話を耳に当て「も、もしもし……!?」と若干声を震わせて呼びかけ、

 ザーザー、という砂嵐を思わせるノイズ音に眉を寄せた。

「……え?」
 耳を澄ませる。……? これって……潮騒? それに……雨と風の音?
 私はハッと目を剥き、今までただただ呆然と眺めるだけだった外を見た。え? ま、まさか雅樹くん――外に居るの!?
「ま、雅樹くん……!? 雅樹くん、返事して!」
 血の気が失せる。う、うそ……! だって外……、凄い夕立……!
「す、すずか……?」
 血相を変えた私に声をかけるアリサちゃん。それを半ば無視して「う、海に!」私は叫ぶように言いました。
 そして、
「車の音……だからたぶん海岸線に。海岸線に向かって下さいっ!」
 早く――そう言おうとして、

「…………ごめ……アリ、サ。……俺…………――」

 ノイズに紛れるように聞こえた、小さく、震える声に……私は言葉を失った。

 ◇◆◇◆◇

 ……わかっては、いた。
 転生により得た『前』の知識を使って『過去』を――『今』を変えたことによって『未来』が変わることなんて初めから。
 ……そう。俺はアリサと、今度こそ結ばれたくて――そんな下らない欲望のために、『前』より早く彼女と知り合い、仲良くなろうとした。己の性欲を満たすために……それだけのために、何も知らない彼女に近付き、『今』を変えた。
 その代価が……――

「後悔、してる、の……?」

 月村邸の客間。ベッドで横になってる俺の傍らに座り、今まで静聴の構えだったすずかは静かに問うた。
「…………してるよ」
 ため息を一つ。俺は未だにぼんやりとする意識の焦点を内側へ。
 俺は……後悔、してる。
 あの日――黒猫を殺してしまった日、俺はそのままずっと、その死骸を前に立ち尽くして……倒れて、気付けばこうして、すずかの家に居た。
 そして…………話した。
 懺悔のように、全部。俺が転生したことを。『前』にアリサと結ばれかけていたことを、すずかに。
 それは……すずか、だからか。……なんとなく、今は彼女に甘えてしまいたかった。
 だから――

「…………私じゃ、だめ、かな?」

 ――……ああ。もう、駄目だ。
「私は……『今』の雅樹くんが、好き、だよ……?」
 すずかはそう言って、三日三晩熱を出して寝込んでいたらしく体力の無くなった俺の手を引き寄せ――胸に、当てた。
「…………やめろよ」
 彼女の柔らかく暖かいそこから視線を逸らし、血を吐く思いで言う。
「……なあ、すずか。キミは――そういうのが怖かったんじゃないのか?」
 瞳を閉じる。思い返す。
 ……そうだ。彼女はずっと男を――男という、性欲に支配された下劣な輩を、忌避していた。……筈だ。
 だから、たぶん……俺、なんだろう。
 同じように異性を苦手とし、『女の子』というものを勝手に幻視して距離を持って接していたからこそ、だろう。
 だから――……だけど、
「さっき言ったろ? ……俺は、キミが嫌う、ただ可愛いだけで人を好きになって、エッチがしたい……そんな奴だよ」
 彼女を見ない。……見れない。そして未だに胸に当てられた右手の感覚を無視しなければ、おかしくなりそうだ。
「……なあ、すずか。手、離せよ」
 頼むよ。離してくれよ。
 そうじゃないと、俺は――
「……雅樹くんは、優しい、よね」
 え……? その場違いな台詞に思わず振り向く。……え? 俺が……優しい?
「ねえ……どうして、アリサちゃんに告白しないの?」
 ……それは、俺がヘタれだから。それは俺が、意気地の無い奴だか「雅樹くんは、優しいよ」……なんで、だ?
「雅樹くんは、本当に……『前』のアリサちゃんが好きだったんだね……」
 ……え?
「『前』の――……だから、『今』のアリサちゃんに告白出来ないんだよね」
 …………違う。
 俺は何故か微笑んで言うすずかから視線を逸らし、胸中でだけ否定の言葉を口にする。……違う。違うよ、すずか。俺は優しくなんて「良いと、思うよ」……え?
「雅樹くん。人を好きになる理由は……ただ可愛いだけでも、良いと思うよ。……エッチで、良いと、思うよ」
 …………やめろ。やめろよ、すずか。
 視線を戻す。微笑むすずかを――睨む。
「……俺を、肯定するな」
 言って、未だに抱き締められていた手をすずかの胸倉を掴むようにし「きゃっ!?」……そう僅かに悲鳴を上げたすずかに内心で顔をしかめながら、表面上は下品な笑みを浮かべて彼女を引っ張り、
「さっきっから言ってる、だろ? 俺はもう何年も『お預け』をくらってんだ。だから――」
 手を離せ。俺を嫌え。
 そうじゃないと――……もう、止まれない。
 すずか……お願いだから、誘惑しないでくれ。頼むから、近付いて来ないでくれよ。
「だから――」
 なあ、頼むよすずか。頼むからさ。頼むから、
「――……俺に、キミを、好きにならせないでくれ」
 零す。未だに微笑を浮かべるすずかから視線を逸らし、嘆願する。
「……どうして?」
 ああ……この子、意外に押しが強いのね。
 俺は「資格、無いだろ?」と返しながら、なんとなく、もう手遅れなのを悟っていた。
「……すずか。俺は……たぶんまた、十九歳の誕生日までしか、だから」
 そう。俺は二度の転生でわかった。
 十九歳の誕生日に死ぬのか。それともそれ以上を覚えて居られないのかはわからないけど……前者なら最悪だ。そんなのが人を好きになる資格は「それまでで良いよ」――……ああ、もう。
 俺は嘆息する。もう、すずかの微笑を前に、言葉を失う。
 そして、
「雅樹く――きゃっ!?」
 俺は彼女を引き寄せ、その驚きに丸くした目を見つめ、そして頭を抱き締めるようにしてすずかの耳元で囁いた。
「……良いのか?」
 好きになって。
「…………良いよ」
 その言葉を最後に――…………俺はもう、止まれなかった。




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