嗣希創箱の消閑

小説、落書き、二次創作、etc…。 あなたの暇潰しのお供にどうですか♪ 

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《りりかるーぷ》5

《りりかるーぷ》




 ◇◆◇◆◇

 本当に、聖祥は良い学校だ。
 そうつくづく思うのは、中学に上がるまで何だかんだで女子――それも人気どころのアリサたちと連むことが多い俺みたいなのを、それでも虐めたりしないっていうのが大きい。
 っていうか凄い。こんな俺なんかを、それでもただのクラスメートとして扱うってのが、それだけで凄いって思うよ。うん。
 そして、
「川平くんは、いつ、アリサちゃんに告白するの?」
 場所は月村邸。居るのは、俺と月村だけ。……最近は特に高町、テスタロッサ、八神が学校を休んだり早退したりってことが多くて、こういう風に二人か、或いは三人かで遊ぶことが増えたんだけど――
「……え?」
 俺は月村家の猫たちに群がられたまま床に寝転がり、それを膝を着いて眺めていた月村を見上げた。って言うか……なに? え? ば、バレバレ……?
「い、何時から?」
 俺はマジマジと彼女を見た。……うん。これまで『睨めっこ』という名の拷問――もとい、特訓のおかげでどうにかいつものメンバーだけは顔が見れるようになったんだ、俺。
 ――って、今はそれどころではなく!
「えっと……た、たぶん、三年生の時、から」
 俺はそれを聞き『ニャーニャー』言う猫を全身に纏いつつ身を起こす。え? 初めからッスか?
「「…………」」
 気まずい沈黙――……と言うか、何故かそれっきりコッチをチラチラ窺うだけで言葉を発しない月村を相手に、何を言って良いのかわからなくなる。
 いや、えっと……――ああ、そうだそうだ。
「そ、それで? なんで、気付いたんだ……?」
 一応、聞いておく。……うん。俺の想いをアリサも知ってるのかは気になるけど……聞けない。……ヘタれで何が悪い。
「あ、うん。えっと…………名前」
 え?
「アリサちゃんだけ……名前、だから」
 果たして月村の言葉に『ポン』と手を叩く俺。ああ、うん、確かに。うん。そう言えば『前』に名前で呼べって……ああ、なるほどなるほど。
「じゃあ、『すずか』って呼んで良い?」
「え……!?」
 額に巻いた、何時か貰った空色のヘアバンドを掻きながら言うと月村は目をパチクリして俺をマジマジと見た。……あれ? なんか変なこと言ったかな?
「? いや、だって……アリサだけ名前で呼ぶから悪いんだろ?」
 あぐらをかき、膝の上で戯れてる子猫たちを撫でながら訊く。
「あ。それともやっぱり……俺に名前で呼ばれんのは嫌――」
「い、嫌じゃないよ!」
 遮られた。
 それも叫ぶように。あの、お淑やかな月村――すずかに。
「そ、そうか……」
 俺、目をパチクリ。そしてそれっきり、何故か顔を赤くして下を向いてしまったすずかに首を傾げ「わ、わたしも……」――すずかが、どうにか絞り出したような声で言葉を紡ぐのに併せて静聴の構えに。
「わたし、も……名前で……」
 ……ああ、この親近感は何だろう?
「な、名前「はは!」――…………っ」
 思わず笑った。
 その途端、泣きそうな顔になって目を白黒させるすずかに「わ、悪い悪い」と、やっぱり笑いながら言い、
「なんか、すずかって、そーいう所、俺に似てるよな」
 はは! なるほどね。親近感――なるほどね!
 こちらの言葉に「え? え……!?」と、やっぱり目をパチクリして何も言えないらしいすずかに思わず「可愛いなぁ」と零す。
「え……!?」
 はは! うん。なんか、今更だけど……女の子に俺、幻想持ちすぎだったんだな。うん。
 俺は半ば呆然とこちらを見てるすずかに自然と口元を綻ばせ、改めて口を開いた。
「良いよ、名前で」
 気付いてみれば簡単。ああ、同じなんだって。すずかだって――女の子だって、同じなんだって。
「はは……! なんだ、そっか……」
 そう気付いてみれば、もう他の連中みたいにくぐもった言い方はしていなかった。……現金なことに、たったそれだけの共通点で俺は、すずかに限って『女の子イコール未知で怖い』という見方をやめていた。
「なんだ……すずかも、俺が苦手だったんだ」
 未だにぼんやりとこちらを見てる彼女に、俺はたぶん、生まれて初めて心の底から安堵するように笑って言った。

 ◇◆◇◆◇

 中学の二年生。
 すずかと名前で呼び合うようになった日以来、彼女は俺の、アリサ関係の相談に乗ってくれるようになってくれていた。
 そして、
「……ぁうう。ちょ、ちょっと難しいよ~」
 放課後。その日は、すずかと二人、彼女に頼まれるがまま、俺はその向かいに座って勉強を教えていた。
「え? そう?」
 俺はすずかの言葉に、頭に乗せた黒猫を下ろしつつ彼女の教科書を覗くようにして返す。あ、ちなみにこの黒猫は、さっき教室に紛れ込んでたやつで、俺や彼女が連れて来たやつじゃないんで。
「?」
「……雅樹くん。『何でわかんないのかわかんない』って顔してる」
 果たして俺の顔を見て『ぶー』とでも言いたげな、少しだけ子供っぽく拗ねたような表情になるすずかに「あはは」と笑って手の中の猫を撫でる。
「ま、小学校ん時に帝王学まで収めてた天才児には、お馬鹿さんの考えがわかんないってことで」
 まぁ、それは……『前』にアリサと、彼女のおじさんから叩き込まれたからなんだけどね。
「……ひどいよ。わたし、これでも最近は成績上位なのに」
 果たしてそう内心で、微妙に『前』のことを思い出してアンニュイになっていると、すずかが何か落ち込んでいた。……うーん、わかっては居たけど――
「すずかって、可愛いよな……」
 しみじみ、呟く。
 うん。やっぱりアリサとかその友達のすずかや高町たちって、みんなクォリティー高いよなぁ。っていうか、これが所謂『類友』か。……違うか?
「ふえ……!?」
 そして目をしばたき、思わず呟いてしまった俺の言葉を真に受けたらしいすずかは段々と顔を朱に染め、俯いてしまった。……うん。なんて言うか、その恥じらいっていうか奥ゆかしい感じが何とも「……可愛いなぁ」――って、また声に出しちゃったよ。
「あ、あぅぅ……。そ、そういうのは……す、好きなアリサちゃんに言おうよ……」
 …………うん。そうだね。
 俺はすずかの言葉に苦笑し、視線を手元の猫へ。……うん。猫の喉元を撫でながら、思う。……うん、そうだねすずか。
 ……………………でも、
「俺は、アリサが――」

 ……好き、なのかな?
「ぇ……?」
 呆然とこちらを見ているらしいすずかの気配に苦笑濃くし「……悪い、何でも無い」と言って首を左右に振る。
「「…………」」
 ……結局、その日はそれ以来、俺たちは無言で過ごした。

 ◇◆◇◆◇

 果たしてその帰りに、俺は一人、夕暮れのオレンジ色に染まる海を防波堤に座って眺めていた。
「…………」
 考えて、いた。
 俺は本当にアリサが好きなのか……それがわからなかった。
 ……いや、正確には、『今』のアリサのことが好きなのかが、わからない。
「俺は、どうして……転生、したんだ?」
 視線を、自身の両手に。『前』にその手に抱いた彼女のことを思い返して、顔を歪める。
 ……なぁ、アリサ。あの日まで――最後の日まで、俺たちは好きあってたよな? 俺はキミが好きで……アリサは俺に、最後は体まで許そうとしてたよな?
 だから……――だけど、さ。
「……はぁ」
 ため息が漏れる。
 ……ねえ、アリサ。キミは、『今』じゃ俺のこと何とも思ってないのか? やっぱり『前』みたいにしないと、俺はキミに好きだと言って貰えないのか?
 それ以前に俺は……『今』のキミを好きになって良いのか?
「……教えてくれよ、委員長」
 頬を、知らず、想いの雫が過ぎる。
 ……なぁ、アリサ。俺はキミのことが好きだったよ。
 そりゃ、初めこそキミが可愛いからってだけだったけどさ。『好き』っていう気持ちを……正直、わかってなかったけどさ。
 でも…………好き、だったよ。
 俺はキミのことが、好きだったよ……。
「俺は、なんで……転生、するんだ?」
 拳を、握る。顔を、しかめる。
 ……くそ。なんで、俺は! 握り締めた右手を左手で抱え、体を丸めて嗚咽を漏らす。
「ぅ……、ひぐ……」
 くそ。くそ!
 ……なんで。なんでなんだよ、くそ。
 くそ。なんで、俺は……「にゃあ」――猫の鳴き声に、俺はゆっくりと振り返った。
「……はは。なんだよ、ついて来ちゃったのか?」
 俺はそして、後ろに居た黒猫に思わず笑みを零し、頬を過ぎた涙の残滓を拭うや、そいつを膝に乗せた。
「う~ん……これはアレかな? 『黒猫飼いました』フラグ?」
 首を傾げ、そう言えばウチのマンションはペットを飼えるんだと思い出し、ポケットをガサゴソ。とりあえず、すずかに電話で訊こう。さっきのことと……それから、猫の飼い方を教えて貰おう。
 俺はそして猫を撫でつつ携帯を操作し――って、わ!? 抱えていた黒猫が、勢い良く走り去るのを見て、

 果たして、その黒猫は――ひかれた。

 目の前で。車に。車道に、赤い染みを広げた。
「…………え?」
 ブレーキの音は聞こえなかった。『ドン』というような音も。
 きっと、潮騒に消されて聞こえなかったんだ。きっと、黒猫が小さくてドライバーは気付かなかったんだ。
 だから、きっと猫は――
「…………」
 呆然と、見つめる。
 ずっと。俺は。そんな、醜くて汚らしい、黒猫であったものの残骸を。携帯を片手に、いつまでも、見ていた――。





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