嗣希創箱の消閑

小説、落書き、二次創作、etc…。 あなたの暇潰しのお供にどうですか♪ 

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《魔法少女リリカルなのはStrikerS ~Fenrir~》蛇足3

《魔法少女リリカルなのはStrikerS ~Fenrir~》




 ……やっぱり、いい加減、決着つけなあかんのかな?
 そんな風に悩み、決意を新たにしようと――
「は、はやては本当に……結婚、しないの?」
 ポチの言葉に、固まった。
 …………。私は数秒、無言で夜空を仰ぎ、そして苦笑。……そか。頷きを一つ、今度は顔を俯けるようにして笑みを自嘲のそれへと変える。……はは。やっぱり、そか。
「……ポチは――」
 私に結婚して欲しい? そう訊こうとして……止めた。はは……。たぶん、ポチはハティのために『結婚して』て言うんやろな。
 ……でも、な。
 でも、
「…………出来れば、ポチにだけは訊かれたくなかったな」
 私はまた苦笑し、『え?』て顔しとるポチに顔を向け、その頬に手を伸ばした――。









 魔法少女リリカルなのはStrikerS ~Fenrir~



  








 ◇◆◇◆◇

 われ、スコール・八神・ランスターは今日も体内時計の告げる五時のアラームで目を覚ました。
 ……今日も良い天気だ。ゆっくりと体を起こし、窓から入る朝の陽光に瞳を細めて思う。……良かった。今日はままが楽しみにしていた日。やはりそういう日なればこそ、こうして晴れ渡って欲しいと思っていたのだ。
 われはそして隣を――われと同じブカブカなTシャツにショーツといういつもの格好の、ダブルベッドで今なお眠る二人を見下ろし、僅かに口元を綻ばせた。
「……まま」
 呟き、われとハティの間で寝息を立てるままを静かに見下ろす。……ああ。知らず、感嘆するのは、われと同じ銀の長髪と容貌の、われの大好きなままが隣に居る今を嬉しく思うが故。夢にまで見た今この時を、幸せに思うが故に、われはため息を吐いて思ってしまう。
 ……家族、か。隣のハティに抱きつかれ、その力強さに眉を寄せてうなされ始めたままを微笑ましく見つめ、改めて今の幸せを噛み締める。
 われらは、そう。ままとこうしてただ暮らす、この日、この時のために頑張って来た。
 そしてそれは間違っていなかった。どれだけの苦労をしようとも、きっとその思いは皆変わらない。……そうわれは確信出来る。
 ままはそれだけ凄いのだ。
 決して強いわけでも無いし、今では本当にただの子供とそう変わらない技能しか持ち合わせていなくても……関係ない。ままはままで、きっと皆、ままの事が本当に大好きなのだから……。
「……まま、起きて。朝」
 少し名残惜しく思いながら、ままを揺すって起こす。……少し前までは目覚まし時計のアラームだったけど、それはハティに壊されてしまったので最近は専らわれが目覚ましの代行を買って出ていた。
「ん……。ぁ……、スコール……♪」
 ままはすぐに目を覚まし、そして――ただ『にこり』と笑った。
「……ぁ」
 それだけ。本当にままはただ笑ってくれただけ。
 でも、それだけでわれは嬉しい。幸せな気持ちで心が満たされ、口元が綻んでしまうのを止められない。
 ……ああ、良いな。ままに軽く頭を撫でて貰いながら、われは心底思った。やっぱりまま、大好き♪
「ん、と。……あれ? ハティ、朝だよ~」
 果たしてままは自分に抱き付くハティの手を解こうとし、解けず、揺すって起こそうとするが……あ。われはハティの狸寝入りに気付き、内心で苦笑。ハティはやっぱり素直じゃない。
「? ハティ~?」
「ん~……、あと五分……」
 ハティの寝言はいつものこと。そしてままがそれを律儀に待ち、本当に五分たってから起こすのだろうこともわれは知っている。
「ん、じゃあ五分ね」
「ん……♪」
 ままはそう笑顔で言い、常ならば恥ずかしがって触らしてくれない娘の頭を優しく撫でる。
 ……良いなぁ。ままがこの『あと五分』という戯れ言を、密かに至福の時と感じているのは察せられたが、こう目の前で妹だけが可愛がられているのは少し……羨ましい。
 それに今回は狸寝入り。
 つまりは嘘。ハティはままを騙している。
 だから――
「……武装、選択。パースエイダー『カノン』――顕現化」
 カチリ、と。右手に現出させたリヴォルバーの銃頭をハティの眉間に当てて、
「ちょっ!? す、スコール……!?」
 とりあえず慌てて止めに入ろうとするままにティアナ流『笑顔で黙殺』技能を使って黙らせ、
「十、九、」
 ささっとテンカウント。
「八、六、五、四三二一ゼロ」
 ドン! 躊躇い無く引き金を引いた。
「くぉ!? 『七』が無いよ!? っていうか『四』以降が早口だった!?」
 ハティは避けた。……ちっ。
「え? ツッコミ所、そこ……?」
 壁に刻まれた銃痕を冷や汗を流して見つつ、まま。それを半ば無視してわれは、
「……この行為は大変危険です。ハティ以外に当たったら洒落にならないので絶対に真似しないよう――」
「ハティだって死ぬよ! っていうか今さっき『ちっ』って! 姉さん!?」
 ――こうして今日も騒がしく一日が始まりました。

 ◇◆◇◆◇

 ポチ公、姉さん、ハティの三人で暮らしている今、朝ご飯は専らポチ公とハティで作る。……つか姉さんは味音痴だから任せられない。一回だけ作って貰った、栄養価『だけ』を重視した『青汁入りコーンフレーク、各種ビタミン剤入り』の味は……軽くトラウマだ。
 それに引き換え、ポチ公は料理が上手い。今も薄手の白いシャツに水色の短パン、そしてスカイブルーのリボンで長い髪をポニーテールに結い上げ、同色のエプロンを着て料理をしているポチ公は、皆に自慢出来る程の手際と腕である。……ま、本人は八神のババアと漫画の受け入りだって言って料理上手なんを認めないんだけどね。
 その隣で首都航空武装隊の制服の上に黒のエプロンを纏うハティは、だからまぁ、その手伝いだけ。そして……この時間が大好きなのは秘密だ。
 小動物を模したスリッパをペタペタ鳴らして動き回るポチ公。その隣に立ち、その笑顔や上機嫌に振られる尻尾等を近くで眺め、同じ時間を共有する。それが何より……幸せだ。
「……良いなぁ」
 そうキッチンのハティとポチ公とを眺め、黒い執務官の制服を着て呟く姉さんは、基本的にリビングでお皿と飲み物を用意する役。……ふふん、良いだろ良いだろ♪
 朝の仕返しとばかりに軽く見下すような目と勝ち誇った笑み等を姉さんに向けて、ハティ。悔しかったら何でもかんでも栄養剤入れる癖を直すんだね、姉さん♪
「……武装、選択。特殊兵装『輝くトラペゾヘドロン』――顕現化」
「ちょっ!? 姉さん、それ、洒落になって無い!?」
 とりあえず逃げる。そして始まる追いかけっこ。『姉さんに挑む』? ……自殺志願者じゃあるまいし、そんな選択肢無いよ。
「大丈夫、ハティ。ちゃんと『ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ~』って直すから」
 って、直す前に撲殺する気か姉さん!?
「あ、もう少しで朝ご飯だから、あんまり埃立てないでね?」
 にっこり笑ってポチ公。って、それ以前に止めろ! 姉さんの武装の殆ど全ての情報ソースはポチ公だろ、オイ!
「え? でも作ったのはシャーリィと忍さんだよ?」
「それが問題なんだよ!」
 特に後者! なんで管理外世界の、それもミッドより技術水準が低い地出身の女が、下手な異質物顔負けの兵器なんて作れるんだよ! おかしいだろ、地球!!
「訂正を一つ。おかしいのは海鳴市です、ハティ」
 ……た、確かに。
 って、それどころじゃない!
「あ、二人とも、また家を壊さないようにね♪」
 笑ってないで止めろポチ公ぉぉおお!!

 ◇◆◇◆◇

 二人の娘を見送り、ぼくは今日も炊事に洗濯、お掃除とを始めた。
 今、ぼくらが住んでいるのは何気に豪邸で……さり気なくすずかやアリサの家と比べても遜色ないっていうのが凄い。……っていうか、殆ど空き部屋で、客間にするしかないんだけど(汗)
 そしてそんなわけで掃除は大変なのだ。……ご想像の通り、今のぼくの一日の大半はそれで終わる。『メイドを雇う』? ……無理。第一、信用出来ない人を家に居れた挙げ句、何かあったら……みんなに、また要らない心配をかけちゃうからね。
 それでなくても八神家の人間は、今や『超』の付く有名人。筆頭のはやてなんかは終始武装隊の警護付きなのだから、ぼくが下手なことしてまた人質とかになったら……たぶん今度こそ、はやては局を辞める。問答無用で。
 だって、はやては今だって局を辞めたがってる。……辞めないのは、ぼくが止めてるからだ。
 ……いや、ぼくだってはやてが本気の本気で辞めたいんなら止めない。
 だけど、ずっとぼくのために――或いはそのためだけに頑張って来たと言うなら、ぼくははやてに辞めて欲しくない。今度こそ、はやてには自分のために生きて欲しいって思うから……。
 だから、ぼくは逆に何もしない。
 働かない。
 もう二度と、ぼくは自身を危険に晒さない。
 『働け、ニート』って言われるかもだけど……違う。今や殆どの異能の力を失い、ただの子供と同じぐらいの技能しかないぼくは……もう『フェンリル』じゃない。
 今は言葉も、正常な五感もある。一人で歩ける。
 だけど……それだけ。『浦島太郎』のように時代に置いて行かれたぼくは、異能どころか持ってる知識の殆ど全てが共に置いて行かれて……今やぼくには人に誇れるものなんて何も無い。
 それでも勉強すれば追い付けるだろうし、ユニゾン技能を使えば前線にだって立てるだろう。
 だけど、やっぱり……それでぼくが傷付けば、きっとぼく以上に傷付く人が居る。
 自惚れ……じゃない。きっとコレはぼくの『呪い』。自身を軽く見て無茶ばかりしていたぼくは、その行為により皆の信頼を得ることは出来ず、逆に今や皆に過保護とも取れる心配という名の『呪い』をかけてしまった。
 だから、ぼくは何もしない。ぼくはもう、歩かない。
 惰性に。優し過ぎるみんなのために……ぼくはただ、日々の移ろいに身を任せ、たゆたうように生きることを選んだ。
 そして、ぼくはだからこそ、一日一日を全力で楽しむ。だからこそ、今日は――
「来た!」
 インターフォンの音に喜色満面、ぼくは玄関へと駆け出した。
 今日は八神家が揃う日。そう約束していた日。
 だから、
「いらっしゃーい♪」
 ぼくは笑顔を咲かせ、たまにしか会えない家族を出迎えた。

 ◇◆◇◆◇

 ポチと会う――ただそれだけのことに歓喜するのは、一重にあまり会えないからか。
 そして、
「いらっしゃい、シャマル~♪」
 そう出迎え、笑顔で抱き付いて来たポチは――やっぱり可愛い!
 空色リボンのポニーテールや白い少しサイズの大きいTシャツ。その上に羽織った袖の無い、薄い濃紺のシャツに青い短パン。白と水色のストライプ柄のハイソックスに三毛猫を思わせるスリッパ。仕事帰りで制服に白衣の私と違い、当然普段着なのだろうポチの格好と愛らしい容貌は、もう……反則的なまでに萌えるわ!!
「久しぶりね、ポチ」
 私はだから抱き付くポチの頭を撫で、思わず頬を擦り寄せた。ああ、マシュマロほっぺだわ♪
「く、くすぐったいよ~」
 そう嬉しそうに、だけど少しだけ照れ混じりの表情で言う我らが永遠のアイドルは……もう、今すぐ色々としたいぐらい可愛らしい。……うん、本当に、色々。筆頭、コスプ――
「あ、シャマルが一番だよ♪」
 …………へえ。
 知らず溜まってしまった生唾をゴクリ。つまり今は二人きり、なんだぁ……。
 私はポチの『あがってあがって』コールに笑顔で応対しつつ、心の中では早くもポチの着せ替えショーを開始。……ふふ。ここにはスコールちゃんも住んでるし、たぶん可愛いフリフリ系もあるわよね? ……嗚呼、楽しみだわぁ♪
「? シャマル、何か良いこととかあった?」
 そう私の笑みに顔を覗き込むようにして問うポチ。それに私は『ふふふ』と笑みを零し、初等部の子よりも小さいだろうポチを抱き上げて返す。
「良いことは……もちろん、ポチとこうして会えることよ♪」
 あら、ポチが照れてる照れてる♪ ほっぺが真っ赤で、可愛い~♪
「ぅあ。ぇと……。ぼ、ぼくも……嬉しい、よ」
 ポチはそう言って更に顔を茹で上がらせ、俯き、耳をたらし、そしてチラリと私の顔を伺い、はにかんだように笑った。
 ――え? なにかしら、この究極の萌えコンボは……。
「もう止めて……、私のライフ――もとい我慢指数はとっくにゼロよ!」
 ぎゅ~っと。柔らかくて暖かいポチを抱き締める私。
 それに、
「HA☆NA☆SE――って、いきなりどーしたのシャマル!?」
 律儀にノリ突っ込みをするポチ。目をしばたき、その大きくて深紅の瞳いっぱいに私を映して驚き顔に。
 ……あれよね。もうこれはポチを召し上がるしかないわよね。
「シャマル……?」
「…………いただきます♪」
 果たして私は、遂に耐えられなくなったとばかりにポチを押し倒――……『ピンポーン』という、不意に響いたインターフォンの音だろう電子音にハッとし、背中に突き刺さる冷たい視線に今更ながらに気付いた。
 あ、あはは……。冷や汗を流し、ぎこちない動作で私が振り向くのと、
「あ、シグナムとアギト~♪」
 私の胸の中からひょっこりと顔を出してポチが言うのが同時。
 そして……私は渋々、ポチから手を離すのだった。
「……………………ちっ」
「……なんだ、その舌打ちは」

 ◇◆◇◆◇

 今日集まったのは他でもない、主はやての誕生日が明日であり、それはつまり我らが主のもとに集いし時が今夜と同じ日であるからだ。
 故にこれまで、我らはこうして集まり、その日その時を記念として祝うようにしていた。
 そして、
「……ねえ、シグナム。やっぱりシャマル、置いて来て良かったのかな……?」
 時刻は昼から夕へと代わる頃。街中を行き、私と手を繋ぐポチは……或いは誰よりもこの日を楽しみにしているのだろう。融合騎アギトとシャマルとを残し、夜の祝賀会の買い出しと他の騎士たちの迎えにこうして私と二人出ながら、時折振り向き問うていた。
「いや、アギトに監視を任せているから心配は無い」
 そう返し、置いて来た二人の内一人――シャマルの事を、思う。
 ……シャマル。貴様、ポチにあの時何をするつもりだった?
「『監視』……?」
 私の台詞に不思議そうな顔で首を傾げるポチ。その何気ない仕草と愛くるしい容姿とに過ぎ行く人々の幾人かが振り向いていたが……本人は間違いなく気付いてないのだろう。
 ……まったく、無防備に過ぎるな。私はそう内心で苦笑し、『何でも無い』と軽く首を振って返すと改めて現状を鑑みた。
 私やアギト、ハティは管理局地上部隊の一つ、首都航空武装隊に所属しているが……ポチは無所属。そればかりか、今は特定の仕事に就くことも無く、家で炊事洗濯、掃除などの家事をこなして二人の娘と楽しく暮らしているらしい。
 そしてそのことを我ら守護騎士と主はやては嬉しく思っていた。
 ポチが幸せに……何の痛苦無く、ずっと笑っていられるように。……我らは、もしかしたらそのためだけにこれまで戦って来たのかも知れない。
「…………」
 連れ立って歩き、ポチの横顔を見て思う。
 ……お前は今、幸せか? 笑ってくれているか?
 ポチが目覚める前――眠る前を思い返し、これまでポチがその小さき身一つでどれだけの奇跡を起こして来たのかを省みる。
 ……やはり、お前はすごいな。
 私の手の中の、ポチの小さな手。横を行く、幼さの目立つ華奢な体躯。
 その頼り無く、力強さなど微塵も感じ得ないその身で……ポチはいったいどれだけのものを救い、受け止めて来たのか。
「あ、シグナム。ちょっと」
 そう言って笑い、私の手から離れて駆け出すポチ。……本当に、お前は。私はその行く末を見守り、思う。
 どうか幸せであってくれ、と。どうか、これからは泣くことの無いように、と。
 私は祈り、想う。
 どうかポチのこれからに、幸多からんことを。……私は切に願い、
「はい、シグナム♪」
 両手に持つ二つのアイスクリームの内、一つを差し出して笑うポチに私は『ありがとう』と万感の思いを込めて返した。

 ◇◆◇◆◇

 夕方。おそらくは我と同じく仕事帰りなのだろう、局の制服姿のシグナムと、普段着なのだろうラフな格好で彼女と手を繋ぐポチとを見てとり、我は二人へと歩を進めた。
「ん?」
「っ! ザフィーラ~♪」
 すぐさまシグナムは我の接近に気付き、その視線を追って我に気付くポチ。そして喜色満面、シグナムから手を離してパタパタと駆け寄って来る。
 ……ふむ。ポチが『ボスん』と我に抱き付き、顔を擦り寄せるのを見下ろして思う。珍しく人間形態で出歩いたのは正解であったな。
「久しいな」
 抱き付くポチの頭を軽く撫で、言葉を投げる。
「ん、久しぶり~♪」
 ……ふ。頬が緩むのを止められないとは、我ながら可笑しい。
 それでも表面上は仏頂面なのだろうが……おそらく、同じように表情に乏しくも僅かに口元を綻ばせているシグナムは気付いているのだろう。
「持とう」
 果たしてシグナムの手に下げられた袋が今晩の祝賀会のものであろうと察し、軽く手を差し出す。
「ああ、……頼む」
 と、その言葉の途中でチラリと何かを視線で示すシグナム。……む? 我はそれを追い、そして横を行く親子を見て気付く。
 ……なるほど。我は軽く頷き、シグナムから片手で持てるだけの荷物を預かり、
「ぁ……!」
 そして、我らはポチの両手をそれぞれ握り、先ほどの親子のようにまるで両親が子供にするようにポチを真ん中に沿えて歩き出した。
「……相変わらず、親馬鹿だな」
 苦笑をシグナムに向け、
「ふ。他人のことを言えるのか?」
 シグナムは軽く笑って返し、
「♪」
 真ん中でポチは、見ているこちらまでもが幸せに思えるような笑みを咲かせていた。

 ◇◆◇◆◇

「あ! おねえちゃ~ん♪」
 あたしの姿を見つけ、ポチは耳を立て心底嬉しそうな顔をして駆け寄って来た。……く! やべー、可愛い。つか『おねえちゃん』は反則……!
 あたしはシグナムやザフィーラの目もあり嬉しさを前面に出せないことを苦しく思い、そして『おう』と一応は笑みを浮かべて応え――抱き付き、頬を擦り寄せて来たポチを前に仮面が剥がれ落ちた。
「♪ 元気だったか?」
 あまりの嬉しさで頬が緩みっぱなしの顔であたし。……ああ、くそ。本当は外じゃしっかりと大人の対応をするつもりだったのにな。
 でも、
「ん♪ おねえちゃんは?」
 そう言ってキラキラとした目であたしを見るポチを前に、我慢なんて出来ない。……ああ、もう周りの目なんてどーでも良くなって来た♪
 あたしは、おそらくはさっきまで教導官として接した連中が『誰だ?』って思うようなとろけた顔になり、ポチのほっぺたに今度はこちらから頬を擦り寄せて言った。
「もちろん元気だったぞ~♪」
 すりすり。ああ、ポチの頬は柔らかいな……。
 シグナムやザフィーラが苦笑しているようだが、気にしない。つか気にならねーぐらいポチがやべー。マジ、可愛い。
「ん~、くすぐったいよ……♪」
 そう言って笑い、体を離すポチ。……む。それを少し残念に思い――今度はあたしの腕に抱き付くようにして手を繋いで来たポチを前に、再び頬がだらしなく緩む。
 や、やべー。会うのが久しぶりだからか、ポチがギガ可愛い!
「お、おい、あんまりくっ付くなよ」
 い、一応は言っとかねーとな。……遅いかもだが。
「ヤ~♪」
 そしてそう言って絡めてた腕に頬を寄せるポチ。…………良いや、もう。恥や外聞なんて、どーでも。
「よ~し、じゃあ行くか!」
「ん♪」
 あたしはポチに抱き付かれたまま笑顔で歩き出す。お、買い物の途中か? ははは、何でもおねえちゃんが買ってやるぞ~♪



「「…………姉馬鹿」」

 ◇◆◇◆◇

 日も暮れ、夜の藍色が広がり始めた頃。わたし、リィンフォース・ツヴァイとお姉ちゃんのリィンフォース・アイン、そしてわたし達のマスター――はやてちゃんの三人でマイスター・ポチの家へと向かっていました。
 ……本当はもっと早く来たかったですが、はやてちゃんはスゴくスゴく忙しくて。それこそ、本当はこんな風に遊んでいられる時間なんて無いですが……今日は特別です。
 だって、今日は――

「お、お帰りなさいませ、ご主人さま……!」

 マイスターの家で、扉を開けるやそう真っ赤な顔して出迎えてくれたのはマイスター本人で、
 その、ヴィータちゃんと同じ身体年齢の体躯に、
 その、シャマルと同じ柔らかい目鼻立ちで、
 シグナムと同じ髪形の、
 お姉ちゃんと同じ銀の髪と赤い目と、
 そしてザフィーラと同じ狼の――って、あれ?
 はやてちゃんの肩の上で首を傾げる。あれあれ? マイスターの耳と尻尾が――……………………猫?
「……シャマルですね」
 ため息を一つ、お姉ちゃん。疲れた表情で『やれやれ』と首を左右に振り、改めてマイスターをまじまじと見る。
 って、あ。そう言えばマイスターの格好……なんで給仕服です?
「ただいま、ポチ♪ あ、もうみんなは来とるん?」
 挨拶を済ませ、マイスターの後に付いて行きながらはやてちゃん。羞恥に顔を赤くしてるマイスターの頭を撫でながら問うた。って、マイスターの格好に対する反応無し!? なんでそんなに自然なんですはやてちゃん!?
「え、ぁ、うん」
 ……それにしても、マイスターの格好――黒地に白のエプロンやフリルの付いた、所謂メイド服ですが……本当に、似合ってるですね。
「い、今はみんなでご飯を――あ」
「? どうしたです?」
 果たしてわたし達を先導するように歩き出したマイスター。そしてその言葉の途中で何かに気付いたのか一段と顔を真っ赤にし、『ぎぎぎ』と軋んだ音が聞こえそうな動きで振り向くと――
「ご、ご主人さま……! ごっ、ごご、ご飯にします? おっ、お風呂にっ、します!? そっ、それっ、それともぼくに――」
「ポチで」
 はやてちゃん即答。って、ええ!?
 わたしとマイスターは目をパチクリ。にっこり、良い笑顔のはやてちゃんを見た。は、はやてちゃん……一瞬の迷いも無かったですね……。
「あはは、にゃん子なポチも可愛いなぁ♪」
「ぁぅ、ぁぅ……」
 はやてちゃんはそして茹で上がってるマイスターを撫で回し、抱きかかえるようにして歩き出した。って、あ。
 わたしは少し先の壁に隠れ、撮影端末を手にはやてちゃん以上に良い笑顔を浮かべる主犯――シャマルを見つけ、呆れ顔に。シャマル……顔に『(*^-^)bグッジョブ♪』とか書いてありそうですね。
「……まったく。烈火の将も止めなかったのですかね」
 そう呆れ顔で、だけど口元を綻ばせて言うお姉ちゃんにリィンも同意。たぶんはやてちゃんが喜ぶからとかって言いくるめられたですね。
「でも、はやてちゃん……すごく、楽しそうです」
 言って、瞳を細める。……うん、良かったです。最近のはやてちゃんは本当に忙しくて、笑うことが少なくて……本当に、来て良かったです。
「ああ、でも先にシャワー借りよかな? 汗かいたし着替えたいし――て、なに逃げようとしとるんポチ?」
 ――今日は特別な日。
「いっ!? そ、それはもちろん、ぼ、ぼくもそろそろ晩ご飯の準備をしようかなぁ――って、理由聞いといて無視!?」
 今日は――明日は、はやてちゃんの誕生日。
「は、離して~! て言うか脱がさないで~お代官さま~!」
「あはは、良いではないか良いではないか♪」
 だから今日が、出逢いの日。
 今晩が出逢いの時。今晩が、お姉ちゃんが目覚め、ヴォルケンリッターが――新しい家族が八神家に加わった時。
 特別な時。
 大切な日。
 だから――
「――ただいま」
 玄関が開き、スコールとハティが帰って来た。
「ただい――って、ゲ。リィン姉妹に……八神のババア」
 じつに嫌そうな顔でハティ。……あ、相変わらず口が悪いですね。
「あ、お帰りなさい♪」
「「――――」」
 そして二人は、猫で今まさにメイド服を剥かれてるマイスターを見て固まった。
 ……うん、気持ちはよ~くわかるですよ。

 ◇◆◇◆◇

 この場にアタシが居るのが……なんか不思議だ。
 ポチさんの家の浴室。そこに、誘われるがまま八神はやてとリィン姉妹、ポチさんと娘のスコール、ハティの計六人とともに居るんだけど……やっぱり不思議だ。
 それは……もちろん、居心地が悪いんじゃない。場違いに感じているんでも無い。
 ただ、不思議。
 ただ、どうして自分がここに居るのかが不思議なだけ。
「こ、これって、いわゆるパワハラだよね……? って、ギャース!?」
「ほらほら、いつまでも隅に居らんと、いい加減諦めいやポチ♪」
 例えばポチさんと八神はやて。
 シグナムや他の人からそれとなく聞いた話じゃ、この二人が特別に仲が良いのはわかるし、一緒にお風呂ってのもわかる。
「あ、あんなにイキイキしてるはやてちゃん……久しぶりに見たです」
「ええ……」
 そんな二人を半ば遠い目をして見つめるリィン姉妹だって、そう。姉のリィンフォース・アインさんは言わばポチさんの生みの親だし、今はアタシ同様人間の子供サイズになってるツヴァイの方なんかポチさんが生み出したらしいからな。
「……良いなぁ」
「…………」
 湯船に浸かり、羨望の眼差し向けるスコールとハティは言わずもがな。ポチさんのコピーにして改良量産騎であり、娘であるからこそ一緒に入浴というのは不思議じゃない。
 ……だけど、アタシは?
 アタシはなんでここに――
「きゃーきゃー! あ、アギト助けて~!」
 ぼんやりとしてたらポチさんがアタシの後ろに隠れた。……ん? 物思いから現実へと視線を戻せば、何やら八神はやてが泡立つタオルをもってにじり寄って来ていた。
「さぁ、大人しくこっち来ぃポチ。すみずみまで綺麗にしたるから♪」
 ……うわ、すげー良い笑顔。
「じっ、自分で洗える! つか洗う! 自分で洗うから!!」
 アタシの背に隠れてポチさん。……? 今さらだが、なんで逃げてんだ?
「まぁまぁ、そう遠慮せずに、っと♪ 」
 見ればポチさんの手には白い手錠が――
「って、え!? バ、バインド!?」
「――だが、断る!」
 バキィン、と。
 アタシが目を剥く間もあらばこそ。ポチさんは即座に手首を拘束するそれを解除。……そんな、いとも簡単に。
「ふっふっふ。魔法を使えなかった以前のぼくと同じに――」
 果たしてポチさんはアタシの背に隠れながら胸を張り、
「ほい♪」
 再び八神はやてはバインドの魔法をかける。……ん? このバインドの魔法は――
「って、話は最後までぅえあ゛ぁああ!?」
 魔法の発動と発現を阻害するバインド系高等魔法――『グレイプニル』。……って、そこまでするか?
 アタシは半ば呆れ、白い手錠をはめられて涙目になってるポチさんとめちゃくちゃ良い笑顔を浮かべてる八神はやてとを見る。お、変身魔法を解除させられてポチさんが犬に戻ってる。
「は、はやて様……? そ、その『ワキワキ』してる手は色々とヤバいと思うんでつが……?」
 ……さて、とりあえず風呂入ろ。…………くっ。そんな捨て犬みたいで見ないでくれ、ポチさん!
「うふふ、大丈夫やって。ちゃんとかろうじて『板違いだろ!?』って言われんラインに留めとくから♪」
 果たしてアタシは『メタな発言禁止ー!』というポチさんの叫び声を背に湯船へ。
「……逃げたですね」
 うっせ、バッテンちび。

 ◇◆◇◆◇

 魔導書型ロストロギア『白き夜天の魔導書』。
 それは私、広域次元指定の危険な遺質物『闇の書』改め『夜天の魔導書』の写本にして、あのミッドを震撼させた『JS事件』において起動せしめし最凶最悪のロストロギア――『聖王のゆりかご』を取り込んで暴走、封印された魔導書。
 それが、ポチ。
 それが、今や――
「……『ロクヨン』のコントローラーは、リリンの生み出した文化の極みだと思うんだ」
 変わらずメイド服を着て、
 手に、かなりローカルなデザインのコントローラーを持ち、
 皆の映像ディスプレイに自身の記憶領域に保存した、やはりローカルなゲームを転送し、
 災厄とまで言われた闇の書の闇を抑えて見せた演算能力をフルに活かしてゲーム機の代わりをつとめていた。
「……『白夜の書』改め『ロクヨン』+『スマブラ』ですか」
 ため息を一つ、とりあえず蓄積ダメージの多かった烈火の将(リンク)をスマッシュで飛ばす。……手持ち無沙汰だったとは言え、私もなぜ普通にコントローラーを握っているのでしょうね?
「こ、のっ! つか、このゲームって四人対戦までしか出来なかったんじゃねーのか!?」
 紅の鉄騎(赤帽子のネス)はそう言いつつ果敢にも白銀の狼(黄帽子のネス)に挑み――
「って、ぎゃああああ!?」
 ハメられ、空の星に。……どうやらこのゲーム、技をしっかりと繋げられれば二回のコンボで倒せるようですね。
「そこはままの演算能力と――」
「センス、ですね!」
 言って、銀の番犬(青帽子のネス)に二代目の祝福の風(ピカチュウ)は二人がかりでポチへと挑み――二つの星に。……相変わらずこの手のゲームだと天下無敵ですね。
「今さらだが、同じキャラクターが多いな」
「……ネスの『空中下A』は反則だと思うんだ」
 シグナムの呟きに『あはは』と渇いた笑みを浮かべてポチ。……外見だけで『カービィ』を選択したのは失敗だったのかも知れませんね。
「あ、でもカービィも強いんだよ?」
「……そう言いつつダメージ無しで沈めますか」
 ポチの言葉にため息をまた一つ。……蓄積ダメージ二百パーセント以上に釣られてしまいましたね。
「こんにちは、戦技無双『万丈の仕手』のポチです♪」
「なっ!? 私の『ブーメラン』を打ち返す、だと……!?」
「っ!? あ、あたしの『PKファイア』もか!?」
「ええ!? わ、わたしの『電気ショック』は打ち返さずに吸収ですか!?」
 …………。
「って、あ! スコールに打たれた!?」
「……まま。それは流石に隙有り過ぎ」
 …………ああ。
「……楽しい、な」
 呟き、そして知らず浮かべていたらしい笑みを自覚して瞳を閉じる。……本当に、良いな、このような時間は。
「ははは! 食らえ、シグナム!!」
「くっ!? 『スター』をとって『ハンマー』とは、卑怯な……!!」
「ヴィ、ヴィータちゃん、こっち来ないで下さいですー!」
 こうして私たちは、ただ笑いあって過ごす。
「あ、おねえちゃん? 『ハンマー』持って上級者を相手にしたらダメだよ?」
「良いカモですから」
「ぅお!? 無敵じゃなくなった途端、いとも簡単に落とされたぁああ!?」
 ただ楽しく、
 ただ楽しいから、
「うわわ、全員でかかっくるのは卑怯だよ~♪」
「と言いつつ、何故勝てる!?」
 私たちは笑いあう。
 今の幸せを噛みしめて――



「あはは、みんな楽しそうやね、シャマル」
「ですね♪」
「って、コラ! いい加減メシのしたく手伝えよ!!」

 ◇◆◇◆◇

 日付の変わる、三十分ほど前。私はハティに呼び出され、中庭に。
「話って、なに?」
 煌びやかな夜天を仰ぎ、私。それに中庭の中央――ライトアップされた噴水を背に、ハティは口を開いた。
「アンタ…………結婚、しないのか?」
 …………はい?
 私はハティの、あまりにも予想外に過ぎる言葉に目を丸くした。結婚……?
「え、ぁ。……な、なんで?」
 聞き返さずには居られない。な、なんでいきなりそないな話に?
「……アンタが死んだら、どーなる?」
 問いに問いで。
「たしかアンタが死んだらリィンフォース姉は――……八神家のほとんど全員が、消えるんだろ?」
 ハティは私を睨み、問いを重ねる。
「アンタが死んだら……ポチ公も、消える」
 ……私とリィンフォース・アインは命運をともにしてる。
 そしてそれは、リィンフォースと寿命を同じにしとる守護騎士たちも同じで……もちろん、ポチもその中に含まれとる。
「姉さんはティアナと契約してっから、ティアナが死んだら姉さんも消える」
 ハティは私の目を見つめ、『……だから』と告げる。
「ハティはまた…………ひとりに、なっちゃう」
 …………。
 私はハティの言葉に目を伏せ、考える。……ひとり、やない。リィンフォース・ツヴァイやアギトは残るし、他の人かて居る。誰も彼もがハティを残していったりせん。
 …………そんな言葉に、意味は無いんやろな。
「どうして、それで結婚なんや?」
 僅かに口元を緩ませ、私は目の前の、或いは誰よりも孤独を恐れているかも知れない少女の頭に手をやり、問う。
「……たぶん、みんな、アンタがいなくなったら、いなくなっちゃう」
 それは……聞いた。だからそれでどうして私の結婚話に――
「頼んでも、ダメだ。たぶん、アンタでも……みんな、アンタと一緒に消える道を選ぶ」
 ハティは私に撫でられるがままになりながら、
「ポチ公は――みんなは、アンタの騎士だ」
 瞳を逸らさず、表情を変えず。
「だから、主とともにって考えるんはおかしくないし……反対も出来ねー」
 ハティは、言葉を紡ぐ。
「でも…………ハティは、寂しい」
 ずっと一緒にいたい、と。
 ずっとみんなといたい、と。
 じつは内気で素直やないハティにしては珍しく本心を吐露し、私に縋るような視線を向けて言う。
「でも、アンタが結婚したら――アンタに子供とかが出来たら……」
 ……ああ、なるほどな。ハティのその言葉でようやく、最初の問答の意を得た。なるほど、たしかに。それならリィンフォースやシグナムたちも、或いは――
「…………」
 私は、無言で微笑む。
 ……なあ、ハティ。
 たしかにハティの言う通り、私が誰かと結婚して……子供が産まれて。私がその子をお願いてリィンフォース達に頼んだら……きっとみんな、残ってくれる。きっとみんな、私にあとは任せろて言うて残ってくれるやろな。
 ……でも、な。
「それは…………出来ん」
 微笑み、首を左右に振る。
 ……ごめんな、ハティ。
 ごめんな。たとえハティが寂しい言うても、な。その方法は……ダメや。
 その方法やと終わりが無い。それをしてまうと、もしかしたら『子が子を頼む』いう連鎖が生まれてまうかも知れん。
 そしてそれは――あかん。してはいけない。
「私が――最後の夜天の王が、みなを連れて行かなあかん」
 ……私はいつか死ぬ。みなを道連れに、死ぬ。
 そしてそれが最期。永き時をさまよい、苦しんだ夜天の書の終焉。
「……ごめんな」
 謝り、微笑む。……ごめんな、ハティ。私たちはたぶん、ハティの言う通りハティを残して居なくなってまう……。
 だけどそれは……自然なこと。
 人が生まれ、いつか死ぬように……ようやく彼女たちも最期を迎えられる。
 だから――
 ……だけど、
「…………ごめんな」
 私は、謝る。
 私は、だから結婚しない――というワケじゃない。
 私は、
 八神はやては、
 だって――
「……ふん。ま、そー言うだろーとは思ってたよ」
 ハティはそして頭に置かれた私の手を払い、ため息。今までのどこかしおらしい雰囲気を霧散させ、いつもの勝ち気に過ぎる強い視線を寄越して口を開いた。
「つか、それ以前にアンタみたいな行き遅れのババアなんて、誰も相手にしねーだろうしな。土台、ムリか」
 はーやれやれ、と。ハティは肩を竦め、ニヤニヤと私を見た。って、ひどいなぁ。これでも見合いの話には事欠かんし、政略結婚目的やろうけど求婚されることだって少なく無いんやで。
 っていうか、それ以前に――
「い、『行き遅れ』はともかく、ババアって……これでもまだ二十代に間違えられるぐらいには若く見えるはずなんやけど?」
 言って自身をかえりみる。うん、大丈夫。リィン達とユニゾンすることが多かったおかげか歳より断然若々しい……はずや。
「えと、だからせめて八神のおばさんにせんか?」
 ババアは、なぁ……。本当に、私、子供どころか未婚者やで? 彼氏いない歴イコール年齢の生娘やで?
「はあ?」
 あ、あれ? なんでハティ……怪訝顔?
「え、えと……じゃあ例えばフェイトちゃんは何て呼ぶん?」
「あ゛? 『フェイトさん』、だけど?」
 ……あ、あっれ~?
 お、おかしいな。私たち、同い歳なんやけど……。そ、そりゃあみんなしていつまでも若々しいけど……。
「じゃ、じゃあ、なのはちゃんは?」
「……なのは様」
 ちょ……!? な、なぜに『様』!?
「……つか、だって、アンタとリィンフォース姉はポチ公の――ハティのままの、母親みたいなもんだろ?」
 つまりババアじゃん。そう私の問いに呆れ顔して結論付けるハティ。って、いや。でもな……『ババア』イコール『ままのまま』イコール『お婆ちゃん』言うのはなんとなくわかるにしてもな……そう呼ばれるんはちょっと。
 ――あ、いや。きっとハティはこう言いたいんや。今さら『八神さん』とか『はやてさん』みたいな他人行儀な呼び方はしたくない、て。
 きっと、『ババア』っていうのは、つまり私も家族やって認めてくれてるってことや。うん。
 …………そう思わな悲しくて涙が出そうや。
「……ま、それじゃあ話はそんだけだから」
 私がそう微かに縦線を背負い虚ろに笑っていると、ハティはさっさと言いおいて家の中へ。あ、あはは……なんや立ち直れんぐらい精神的ダメージを受けた気が……。
「…………はぁ」
 とりあえず、ため息。
 あ~あ、結婚かぁ。噴水のふちに腰掛け、天を仰いで思う。ハティ……ごめんな。やっぱり私は――

「――はやて」

 呼びかけに、視線を下へ。おそらくは晩餐会を抜け出した私を探しに来たのだろう、未だにメイド服着とるポチへと向け、私は微笑んだ。

 ◇◆◇◆◇

「……もしかして、聞いてた?」
 そう問うはやては、どこか寂しげな微笑を浮かべていて、
「…………うん」
 だから躊躇いつつ、肯いた。
「……はは。そか、聞かれてたんか」
 はやては苦笑し、肩を落とす。……ぁ。ぼくはだから眉根を寄せ、トテトテと彼女の傍らへと近付く。
 ……やっぱり盗み聞きはよくなかったかな。
 いつの間にか居なくなっていたはやてとハティ。その二人なら今、中庭に居るとスコールと聞いて来たけど……やっぱり、ぼくって最低だな。
「…………」
 落ち込む。顔を伏せる。とりあえず隣に座るよう促すはやてに従い、同じく噴水のふちに腰掛けながら考える。……やっぱり、謝らないと。
 ごめんなさい、って、 盗み聞きしてたのを謝って、
 それで――

 ――アンタ…………結婚、しないのか?

 言葉を、失う。

 ――アンタが死んだら……ポチ公も、消える。

 思い出す。リフレインする。

 ――ハティはまた…………ひとりに、なっちゃう。

 喉が、焼ける。口内が干上がる。

 でも、アンタが結婚したら――アンタに子供とかが出来たら……。

 ぼくは――



「は、はやては本当に……結婚、しないの?」



 問うた。訊いて、しまった。
 ぁう……! 混乱する。ぼ、ぼくは謝ろうって……! 目が、回る。謝って、謝ろうと……――だから!
 …………だけど。
 顔を、伏せる。ど、どうしよう……?
 体が、震えた。……は、はやては、どう答えるのかな?
 …………いや、違う。
 そうじゃない。
 そうじゃなくって……それ以前に、ぼくは――
「……ポチは――」
 はやてが何かを言いかけて、止めた。
 …………え?
 な、なに? なにを言いかけたの……?
 ぼくは胸の動悸を感じる。締め付けられるような痛みを――不安を、感じて――……でも、違う。
 でも、そうじゃなくって――
「…………出来れば、ポチにだけは訊かれたくなかったな」
 ……え?
 顔を、上げた。そして苦笑し、ぼくの頬へと手を伸ばすはやてを見て――
「は、はやて……?」
 困惑、する。
 苦笑してるはやてに、混乱する。
「……あはは。やっぱり私は……ポチの『お母さん』、なんかなぁ」
 はやては呟き、視線をまた空へ。
「――っ!」
 ズキン、と。胸が……心が、痛んだ。……苦しい。ぼくは胸を、着ているメイド服がしわくちゃになるのも構わず鷲掴み、顔を歪めた。
 ……ぼく、は。
 言葉が、出ない。締め付けられるみたいに痛む喉は、まるで昔みたいにぼくから声を奪う。
 ……ぼく、は。
 だけど、言わなくちゃ……言わなくちゃ、ダメだ。
「……ぼく、は」
 一度きつく目を瞑り、
 意を決し、
 顔を上げて、
「――っ!?」
 ぼくは、見た。
 はやての寂しげな微笑を、
 その頬を伝う涙を、
 ――だから!
「は、はやて!」
 呼びかけに、ハッとし、こちらを向くはやて。
「あ、あはは。こ、これは、その――」
 そしてそこで初めて自分が泣いていたのに気付いたのだろう。はやてはどうにかそれを誤魔化そうと――
「はやて! ……あのっ、あのっ! あのね!」
 それを、遮る。
「あ、あの……」
 遮り――だけど、言葉が続かない。
「ぼ、ぼくは……」
 ……顔が、熱い。思考が茹で上がり、また喉が干上がる。
「ぼく、は……」
 言わなくちゃ、ダメだ。
 言わなくちゃ、伝わらない。
「ぼくは……!」
 ぼくは真っ赤になっているだろう顔で、
 涙目になりながら眉をギュッと寄せ、
 握り締めた拳をプルプルと震わせて、
「ぼ、ぼくと……!」
 そして、固く目を瞑って――

「ぼくと――夜明けのコーヒーを一緒しませぇんきゃ!?」

 叫んだ。
 て言うか……カミカミだったorz
「…………はぃ?」
 首を傾げるはやて。って、ぎぃぃゃや゛ぁあああぁあ!?(絶叫)
 ぼくは頭を抱えた。そりゃあもう盛大に。あ、穴があったら入りたいぃぃぃぃ!!(滝涙)
 ――って、ハッ!! 今はそれより、
「ぅ、あ……! 違っ……!?」
 ぼくは『ガバッ』と顔を上げ、とりあえず手をワタワタと振って否定。そして混乱と羞恥心に半分目を回してながら、息を荒げつつ言った。
「だ、だからっ! ぼ、ぼぼぼ、ぼくは……!」
「……うん、なに?」
 ぅわ、はやてがすっげー優しい顔して笑ってる!?(汗)
 しかも忙しなく動かしてたぼくの右手を両手で包み込んで――
「……ぁ」
 その温もりで……少し、落ち着いた。
 ……うぅ。ぼくは変わらず赤い顔で、だけどさっきまで『ピン』と立っていた耳を垂らし、だんだんと体から余計な力を抜いて行く。
 そして、
「……ぼ、ぼくはね、はやて」
 顔を俯け、視線を逸らし、さまよわせ、
 早鐘を打つ動悸に急かされるようにしてはやてを上目使いに伺い、
「ぼくは…………はやてに、結婚して欲しくない」
 言った。
「……だって、」
 真っ直ぐに、
 真っ赤な顔を、はやてに向けて、
「だって、ぼくは――」
 深呼吸を一つ、

「ぼくは――はやてのことが好きだから!」

 叫んだ。叫んで彼女の顔を両手で持って、
「……っ」
 ギュッと目を瞑り、

 唇を――重ねた。

「――――」
 固まる。
 目を、開けられない。耳と尻尾を『ピーン』と立て、沸点を超えてなお真っ赤っかな顔で動けず。
 そして――……離れた。
「…………」
 時間にして数秒。だけど体感時間としては永遠を思わせるほどの間をあけ、ぼくは彼女から体を離すや身を翻した。
「っ、ポチ!!」
 駆け出し――右手を捕まれて、止まった。
「…………」
 顔を、下に。耳を、尻尾を垂らし、意味もわからず涙を流した。
「ぅ……。ぅぐ……」
 振り向けない。唇を噛んで必死に嗚咽をこらえ、あいてる左手で顔をこする。
「……ポチ?」
 はやての呼びかけに、応えられない。……ぅぅ。応えられない。……なんで、ぼくは泣いてるんだろう?
 わからない。だけど、涙が溢れて止まらない。
「……ぼ、ぼくは――」
 ああ、それでも――
「はやてが、好き……」
 好き。
 好き、だよ。
 ――はじめまして、になるんかな? こんにちは。
 最初は、ただ『なのは』のなかの一人として。
 ――……あかん。わたしが後でちゃんとした名前をあげる。これはぜったいや! だから――『ポチ』は、それまでや……。
 だけど、いつの間にか、家族になってて……。
 ――お、そか。なら今夜はハンバーグにしよな。
 救いたい、と思った。
 ――わたしのために……闇を喰らえ。変わらぬ悲劇に黄昏を……。白銀の賢狼、フェンリル……!
 そのためなら死んでも良い、って思った。
 ――諦めた無い! わたしはポチを犠牲にしてまで生きたないんやっ!!
 だけど、
 ――ポチ! わたしはポチを封印なんてさせへんで! ひとりになんて、絶対せーへんで!!
 いつの間にか、
 ――わたしは……ポチが好きや! 大好きなんや!!
 ぼくは、
 ――ずっと一緒に……ずっと家族でいたい! 離れたない!
 ぼくの胸には、それがあった。
「はやて……」
 涙が、溢れる。
 嗚咽が、漏れる。
「はやてぇ……」
 それでも、呼ぶ。涙とともに――気が付いた時には、彼女に抱き付いて、泣いてた。
「ぅっ……、ぅぁああ……!」
 わからない。なんでぼくは泣いてるんだろう?
 なんで……?
 なんで、ぼくは――
「……不器用、なんやろな」
 涙するぼくの頭を抱き、撫で、顎を乗せてはやては言った。
「ずっと……ずっと。私もポチのことが、好きやった……」
 ぼくはそれを……どうしてか、すんなりと受け入れられた。
「どうして、やろうな……? どうして、すれ違ってたんやろな……?」
 ……ああ、本当に。本当に、どうしてぼくらは……こんなに近いのに、互いの想いに気付かなかったのかな?
 こんなに……。こんなに、近いのに……。
「……近すぎ、たんかな?」
 瞳を閉じ、はやての声に、温もりに、体を預ける。……心を、預ける。
「……好き、だよ」
 微笑んだ。
「私も、や」
 たぶんはやても笑って言った。
「……はやて」
 いつの間にか、涙は止まっていた。だから顔を上げて、ぼくは笑って言った。
「ありがとう♪」
 ――ぼくらの物語は、きっとまだ続いて行く。
 ぼくの――ぼくらの望んだハッピーエンドに向けて。
 きっとずっと、幸福な物語を綴って行く。
「はやて、だ~い好き♪」
 ぼくは笑う。家族と一緒に。
 愛おしい人と一緒に、笑い続ける――。







   -Finale-



蛇足2
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| | 2010年10月18日(Mon)19:26 [EDIT]


むしろその感想に感謝感激!!

> しかしメイド服か・・・、アレ?性別ってなんだっけ?
ポチの性別はポチ!(ぉ
かあいいは正義がモットーでした♪

嗣希創箱 | URL | 2010年10月19日(Tue)00:21 [EDIT]


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