嗣希創箱の消閑

小説、落書き、二次創作、etc…。 あなたの暇潰しのお供にどうですか♪ 

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《魔法少女リリカルなのはStrikerS ~Fenrir~》蛇足2

《魔法少女リリカルなのはStrikerS ~Fenrir~》





「――ああ、先なら知っているさ」
 瞳を閉じ、そしてまた開き隣を見下ろす。
 そこに居るのは白衣を着た、小さき賢者――フェンリル。
 自身の身長を越す長い銀の髪。私の知識を写されて尚澄んでいる紅き瞳。そして狼の耳と尻尾を生やす、一見して美少女にか見えぬコレは、しばらく前から私と行動を共にし、何かにつけ私を説得しようとしていた。
『スカリエッティの夢は……失敗、するんだよ?』
 魔導師の念話に近い、私の脳裏に直接響くフェンリルの声。
 対し私は目の前の――生体ポッドの中にたゆたう獣の耳と尻尾を生やした幼女を見つめ、口角を釣り上げ、返した。
「……ああ、知っているさ」
 君の忠告は、しっかりと聞いているともさ。そう内心でだけ言葉を足し、チラリと横を見ればフェンリルは私を心配そうに見上げていた。
『……もしかしたら、スカリエッティは――』
 死ぬかも知れないんだよ?
 そう、それこそ我が事のように不安に揺れる瞳を向けるフェンリルに私は――笑う。くくく……。
 可笑しい。
 何故、フェンリルは私を心配する?
 何故、フェンリルは私のために未来を話す?
 ――そんな疑問を、今さら抱きなどしない。
『スカリエッティ……』
 ――私は、フェンリルから聞いていた。
 『最高評議会』の思惑も。彼らが用意したシナリオも。その結末まで。
 だが――
『……それでも?』
「ああ、そうだよ」
 私は、笑う。それでも私は止まらないのだよ、と笑って告げる。
「……いや、違うな。私はもう、止まれないのだよ」
 言って、傍らのフェンリルの頭に手を置き、また瞳を閉じる。
「……君の話を今更疑ってなどいない」
 いや。むしろ――信じているからこそ、私は君の言葉に頷けない。
『でも――』
 フェンリルは、それでも私を案じるように、その愛らしい瞳いっぱいに私を映し、私の白衣の裾を握り締めて来た。
 ……ああ、そうだね。私は――ジェイル・スカリエッティは、死ぬかも知れないね。
 私はそう内心でだけ返し、そしてニヤリと笑って返す。
「だがね、フェンリル。だからこそ私は――」
 そう言って、私はまた眼前に浮かぶフェンリルのコピーにして私の人格を転写したソレを、眺めた。








 魔法少女リリカルなのはStrikerS ~Fenrir~



 蛇足2 ロリエッティ




 ◇◆◇◆◇

 ……懐かしい夢を見たな。
 ミッドチルダ、首都クラナガンにある医療機関。その自室のベッドに半身を起こし、手のひらを見つめて笑う。
 ……小さな手だ。横を向き、ガラスに映った自身を見る。くく……なんだね、その姿は? 今の自分の、なんと愛らしいことか。
「君は、誰なのだろうね?」
 呟き、そしてその問いの可笑しさに笑いが込み上げて来る。
 くくく……。私は喉を震わせるようにして笑い、ベッドから身を起こした。
「くく……! 本当に、私は――何をしているのだろうね?」
 そしてまた、振り向く。
 ガラスには長い濃紺の髪に金の瞳のフェンリルが、幼くも妖艶に笑っていた。

 ◇◆◇◆◇

 空が、好き。
 青い。蒼い、空が。広い、空が、好き。
 だから私――イクスベリアは、今日も一人、メディカルセンターの屋上で空を見上げていた。
「……不思議ですね」
 呟き、背後を振り向く。
 そしてそこに立つ、白衣を着た幼き守護獣――それを模して生み出されたらしい少女を見やり、微笑む。
「私は……このように澄んだ空を知りません」
 そっと瞳を閉じ、過去に思いを馳せる。
 約千年前。古代ベルカの、戦乱の時代。
 その暗き空を。その空を覆う軍船と暗雲を。
 そして、血河築き、業火燃やす戦場を。その中心に要る自分を、思い出す。
「……不思議です。空は、いつも私達の上に等しく広がって居るのに……」
 瞳を開け、また空を仰ぐ。
「この空を汚したのも人ならば……また、このように清めたのも人の力」
 そして――
「……私を生み出し、私を目覚めさせたのも――やはり、人の力であり……想い」
 呟き、見上げた蒼穹のキャンパスにその子を描く。
 ――イクスに今の空を見せたいんだ。
 そう眠っていた私の夢に現れ、笑って告げた小さな守護獣――フェンリル。
「あの子とは、またお話が、出来るのでしょうか……?」
 問わずには、居られない。そう、あの子と私は……話したい。
 融合騎にして稀代の生態技術者であったフェンリルに。私を起こそうとしながら、私の力を必要としなかったあの子に、私は――
「……どうして、私を目覚めさせたのですか?」
 代わりに、問う。
「私は……冥王。冥王、イクスベリア」
 死者を冒涜し、率いて、生者を喰らい、燃やす、兵器。
 故に私は、これまでずっと、戦争のために目覚め、戦争のためだけに力を振るい、生きて来た。
 ……故に、問わずには居られない。
「あの子は、私に――」
 何をさせたかったのでしょう?
 そう、問おうとした私に――
「それは私ではなく、本人に聞いてくれたまえ」
 少女は苦笑し、軽く肩を竦め――そして先ほどの私のように空を仰ぎ、瞳を細めて、
「……まあ、おそらく、答えは君も知っている通りだろうがね」
 え?
 それは――

 ――イクスに今の空を見せたいんだ。

「…………」
 空を、仰ぐ。
 答えは、しかし、当然……返って来なかった。
 でも――

「イクス!」

 振り向く。
 そこに私は、あの子のくれた居場所を見つけた。

 ◇◆◇◆◇

 喜色満面でイクスへと駆け寄る少女――ヴィヴィオを見送り、私は白衣の少女を連れ立って屋上を後にした。
「ふむ。彼女達はもうここに通う必要は無いね」
 階段を下る途中、先に口を開いたのは彼女の方だった。
「まあ、もともと、アレらはフェンリルが手を加えていたからね。私のする事など――」
「ありがとう、スカリエッティ」
 肩を竦め、妖艶な笑みを浮かべて謙遜する少女を遮り、笑みを向けて告げる。
「たぶん、ポチならそう言うだろうし、私もやっぱりお礼を言うよ」
 そしてまた『ありがとう』と言ってお辞儀をし、顔を上げるとスカリエッティは目を丸くして私を見ていた。
「ん?」
 首を傾げる。
 それを見て少女は『……いや』と言って苦笑し、肩を竦めて見せた。
「……なるほど」
 そして、『くくく!』と喉を震わせて笑い始めるスカリエッティ。私をニヤニヤと本当に上機嫌なのだと思わせる瞳で見上げ、
「知っているかい、高町なのは。君はあのフェンリルが最も信頼し、頼りとしていた事を」
 問う。
「知っていたかな?」
 アレは八神はやてやその守護騎士たちを基本的に頼りとしない。
 基本的に、アレは他者を頼る事を良しとしない。
「気付いていたかね?」
 フェンリルは助けを――求めない。
 如何なる痛苦、如何なる絶望の中にあっても。
 アレは救いを、求めない。
 如何なる虐待、如何なる地獄にあっても。
「フェンリルは救済を他者に求めない。……君意外の、誰にも」
 …………。私は無言で、立ち尽くす。
 それは――スカリエッティの言っている事は……薄々、感じては、いた。
 あの凄惨な『闇の書事件』の中で……ポチは結局、フェイトちゃんやヴィータちゃん達に『助けて』と言わなかった。
 あの壮絶な『JS事件』の中でも……やっぱり、ポチは一度も助けを求めなかった。
 そして――
「助けが要らない、わけではない」
 当然。
「助けを求められ無かった、わけではない」
 それも、知っている。
「それでも、求めなかった」
 何故だかわかるかい? そう笑みを浮かべて問うスカリエッティに、私は――
「……ポチは、私達『全員』を救うために、頑張っていたから」
 瞳を閉じ、思う。
 そうだ。いつだってあの子は……救いたい『みんな』の中に、自分をいれて無かった。
 『闇の書事件』の時なんて自身を犠牲に。去年の『JS事件』にしたって、ポチは自分の事なんて全然省みなかった。
 ――その、最後まで。
「知ってる、スカリエッティ?」
 瞳を開け、微笑を向けて告げる。
「私は――高町なのはは、ずっと……そんなポチの事が――」

 好き、だったんだよ……。

 ◇◆◇◆◇

 白衣に慣れたのは、いつからだろう?
 メディカルセンターの廊下でふと立ち止まり、ガラスに映る白衣に眼帯という自分を見て苦笑。今さらだが、やはり私よりドクターにこそ似合――と、そうだった。
「『ポチ』、であったな」
 呟き、そして今度はガラスを透かして空を仰ぐ。……ポチ。あなたのくれた私達のこれからを……やはり私は、あなたと共にありたかったと思うよ。
 そして……ああ、どうしてあなたは今、ここに居ないのだろう。
 『JS事件』から、もう一年。未だに施設にて社会復帰を待つ上の姉妹やセッテの事を思い、そして教会やスバルと同じ救助隊へと行った下の姉妹達を思う。
 彼女達と、そして私がこうして減罪され、これからを『人』として生きて行けるのは……ドクター・スカリエッティとポチのおかげだ。
「……なのに、どうして――」

「あ、チンク~♪」

 声に振り向き、廊下の向こうから笑顔を浮かべて駆け寄って来る少女達を見つけ、微笑んだ。
「ああ、今日は――」
「うん♪」
 ああ……やはり思ってしまうな。
 どうして、と。目の前で、どこまでも無邪気に、そして明るく笑う少女を前に、思ってしまう。どうしてここに、あなたの姿は無いのだろう?
「……ふふ。今日は、母君は?」
 私に抱き付き、笑顔を咲かせる少女を見やり、問う。
 それに、
「なのはは、今、スカリエッティとお話されています」
 答えたのは、もう一人の少女――高町イクスベリア。
 ポチが目覚めさせようと尽力し、ドクターによって完全に蘇った古代ベルカ時代の兵器――『冥王』の、少女。
 しかし――
「えっとね。来週っから、イクスもヴィヴィオと同じ学校に通うんだよ!」
 そう心の底から嬉しそうに笑う少女も、その実、古代ベルカの最終決戦兵器『ゆりかご』の担い手たる『聖王』であった。
「『来週から』? それはつまり、」
 一年前。『聖王』である彼女は兵器として無理やり覚醒させられ――しかし、兵器ではなく一人の少女として、彼女は居られた。
「はい、今日で退院。だ、そうです」
 思えば、何時だって。
 何時だって、ポチは皆のために――
「……イクスベリア」
 故に、問わずには居られない。
 私はこの少女に――

「貴女は今……幸せ、か?」

 ――そう、問わずには居られなかった。

 ◇◆◇◆◇

 夜。久しぶりに会いに来てみれば、彼女は相変わらずだった。
「やはり愉快だね、君たち人間は」
 院内の応接間の一つ。くつくつと笑う白衣の幼女――スカリエッティに苦笑し、向かいのソファに深く腰を沈ませる。
「何の話か知らんけど……まあご機嫌なようなら『アッチ』も期待して良えんかな?」
 瞳を細め、スカリエッティを見た。
 それに、
「ふむ」
 スカリエッティはニヤニヤとした笑みをそのままに勿体ぶるような間を開けて、返した。
「いや、残念ながら『難しい』と言わざるを得ないのが現状でね」
 言って、肩を竦めて見せるスカリエッティ。そして懐に手を入れ、『それ』を取り出した。
 『それ』――白い装丁が美しい、ベルカ十字輝く魔導書を、
 『白き夜天の魔導書』――ポチの完全待機状態であるそれを、私は食い入るように、見た。
「君たちが再三に渡って上伸し、その上かの三提督や教会すら巻き込んで取り戻した『コレ』の封印は――……残念ながら、そう簡単には解けそうに無い」
 取り戻した。そうスカリエッティが表現する通り、私は今の私の出来る全ての人脈を駆使してポチを手元に戻すことには成功した。
 だけど――
「……やはり順序を変える必要があるね」
 そう嘆息し、告げるスカリエッティに私も苦笑する。
 ポチを手元に戻せた。しかしその封印を解く権限が、無い。
 それは今のポチの扱いが、見た目の通り、白い『闇の書』だからだ。
「じゃあ、『闇の書』の『闇』を完全に払拭するには……どれだけかかる?」
 ――ポチにリィンフォース・アインは『闇の書』の『闇』たる最悪のプログラムを流し続けている。
 そしてだからこそ、リィンフォースは自由であり、ポチは封印されているのだ。
 だから――
 …………だけど――
「前にも話したと思うがね。……一年や二年ではきかないよ」
 ため息が、漏れる。
 ……そう、リィンフォースとスカリエッティがどれだけ尽力しても、かの『最悪』は少しずつしか払えない。少しずつしか、改善されて行けない。
 だから私は……無理やりにでも封印を外そうと画策した。
 ……もしかしたらポチを取り戻したのが悪かったのかも知れない。こんなにも早く手元に戻せるとは思って居なくて……そして手元にあるからこそ、我慢出来なくなっていた。
「……私、は」
 言葉は、続かない。
 そっとテーブルの上に置かれた白き魔導書を抱き、私は瞳を閉じる。
 ポチは…………冷たい。
 何も言わず、応えない。
 それが、なんて――
「……こんなにも、近くに居るんに、な」
 悲しい。
 寂しい。
 会いたい。
 会いたくて、私は何もかもを投げ出してしまいそうになる。
「聞いても、良いかね?」
 スカリエッティの静かな問いに、『なに?』と、こちらも僅かに声を潜めて返す。
「君は……フェンリルを、好いているのかい?」
 それに、
「ポチは、ズルいんや」
 微笑を浮かべ、言った。
「ポチはな、すっごく優しいんよ」
 思い返す。
 それは出逢ったばかりの頃。声無く、不自由に過ぎる体で毎日を一生懸命に生きていたポチ。
 笑う、ポチ。
 怯える、ポチ。
 ずっと私は、そんなポチを『守ってあげたい』て思ってた。ずっと私は、そんなポチを『守らなければいけない、か弱い存在』て思ってた。
 だけど…………違った。
「ポチは私を……助けて、くれた」
 今なら、わかる。
 ポチに『原作』を見せてもらった、今なら。
 わかる。ポチの目指したエンディング。ポチの夢見た、奇跡。
 わかる。その難しさが。それがどれだけの奇跡か。
 そして、
「……ポチは、私よりずっと、強かった」
 ポチのしてきたことを知っているからこそ、
 ポチの『前世』を知っているからこそ、
「ポチは私の……ヒーローや」
 その感情は、だから当然の帰結。
 半ば生を諦めていた私。そんな私のために我が身を省みず、誰よりも無力であった筈のポチは、不可能に近い奇跡を起こして見せた。
 だから、私は、いつの間にか――
「……ズルいんよ、ポチは」
 苦笑する。
 ……ズルい。ズルいよ、ポチ。
「どうして、いつも……。いつも……」
 どうして……私のために頑張ってくれるん?
 どうして……私を救ってくれるん?
 どうして……私の元から居なくなるん?
「どうして……ずっと、一緒に居てくれないん?」
 涙が、流れる。
「ズルいよ……」
 ポロポロと、溢れる。
「ズルいやんか……。そんなん、ズルいよ……」
 涙が、
 言葉が、
「ズルい……。だって、そんな事ばっかりされたら――」
 想いが、溢れる。



「私がポチのこと――…………好きんなっちゃうに、決まっとるやんか」



 私は、ポチを抱き締める。
 想いよ届けとばかりに、力の限り――。

 ◇◆◇◆◇

 果たして、八神はやてを見送った後も私は一人部屋に残り、ソファーに腰を下ろしていた。
「……かくも『恋は盲目』、という事か」
 口元に変わらぬ笑みを刻み、テーブルの上に置かれた白き魔導書に触れる。
 ……なあ、フェンリル。八神はやては君の復活を急ぐあまり、私に助力を求めて来たが……君がもし、今の夜天の王を見たならば、何を思う? その『想い』に縛られ、駆け回る愚かさは……君にはどう見える?
 そして君は彼女のことを――
「……くくく。やはり私も、少なからず君の影響を受けていたらしいな」
 笑う。自身の思いの、あまりの滑稽さに。その、あまりにもスカリエッティらしくない思考に、笑いが込み上げて来て仕方がない。
「まったく。罪作りだね、君は」
 僅かに肩を竦め、零す。……本当に、らしくない。らしくないなぁ、スカリエッティ。
 私は口元に笑みを貼り付けたままフェンリルを高く持ち上げ、ソファーに深く体を沈ませるようにして見上げた。
 ……なあ、フェンリル。君は知っていたかな? 彼女達の想いを……気付いていたかな? 君という存在の大きさを、君は……。
 ああ、でも……君は知らないし気付いて居なさそうだね。君には、君に対する想いなど関係無かったのだったね。
「……『君は何故、そこまでする?』」
 その問いは以前にしたもの。
 私にはどうしてもフェンリルの献身的な振る舞いが理解出来ず、またその行き過ぎた自己犠牲に興味が湧いたので発した問い。
 そして、対する答えは――

 ――……スカリエッティ。あなたは、凄い。

 フェンリルは微笑を浮かべて言った。

 ――スカリエッティ。あなたは簡単に人を生み出し、殺すだけの力があり、他の誰よりも優れた頭脳がある。

 だけど……ぼくには、無い。

 ぼくには、この『ぼく』しか無い。

 だけどぼくには、大切なものが――守りたいものが、ある。

 それは、ぼくが命を投げ打っても――……いや。それは元来、命程度じゃ決して手に入らないもの。

 元来、欲しいと願ったところで手に入れられるとは限らないもの。『彼』が最期の最期まで――殺されることを是とし、自身を殺してでも手に入れられなかったもの。

 それが――

「――……『居場所』」
 呟き、嘆息する。
 ……やはり私には理解出来ない。そう返した私にフェンリルは苦笑して、
 ――スカリエッティ。ぼくは、嬉しかったんだ。ぼくのことを否定しない暖かなそこが……ぼくには、何より大切だったんだ。
 ……ねえ、スカリエッティ。ぼくはね、たぶん狂ってるんだ。ぼくはたぶん、普通じゃないんだよ。
 だってね、おかしいんだ。だってね……ぼくは、ただぼくに笑いかけてくれた……ぼくのことを否定せず受け入れてくれた――ただそれだけの女の子のために死んでも良いって思える奴なんだ。彼女が笑ってくれるなら、ぼくは何でもする――そんな風に思ってしまう奴なんだよ。
 ……ねえ、狂ってるでしょう?
 理解……出来ないよね。おかしいよね。
 ……でもね。ぼくはそれでも良いんだよ。
 誰にも理解されなくても……ぼくは、それでも良いんだ。それでも、ぼくは命を懸けれるんだ。
 だって――



 ぼくは……幸せ、だったから。



「……愚かだね、フェンリル」
 白き魔導書をテーブルに置き、静かに笑う。……まったく、愚かしいね。
 フェンリル。君は愚かだよ。君はその行為と思想の矛盾に気付いていないのかい?
 君は『居場所』を――君を肯定してくれた暖かな『そこ』を守るために命を懸けると言ったがね。例え守れても……『そこ』に君が居なければ無意味なのだと気付いていなかったのかい?
「……いや、それとも」
 果たして私は、それに気付いた。
「まさか君は――死にたかったのかい?」
 呟き、まじまじとフェンリルを見た。
 まさか君は……ずっと終焉を望んでいたのかい? 暖かく、幸せだった――そんな思い出を最期の最期まで抱いて死にたかったのかい?
 ……なるほど。フェンリルは死にたかったのか。私はそう仮定し、それならば、と納得する。
 フェンリルが『闇の書』と主の救済のために行ったこと。受けて来た仕打ち。それらを思い返し、改めて気付く。フェンリルの自己犠牲の正体は『優しさ』などではなく――
「つまり、君は今、幸せなのかな?」
 白き豪奢な装丁の本を見やり、問う。
 君は幸せな思い出を抱き、死にたかったのだろう? だからこそ君は、その最後の最後は主の胸の中を選んだのだろう?
 ……そう言えば、君は『闇の書事件』の際にも同じ方法をとっていたね。同じように自身にすべての災厄を集め、封印されることを望んでいたね。
 だから――
「……しかし、フェンリル。君は一つ、見落としていたね」
 本をテーブルへと置き、苦笑する。
 そして、
「君は君の復活を願う者が、決して少なくないということを失念している。……いや、自己を軽視しがちな君では気付かなかったのかな?」
 私はソファーに深く体を沈め、笑みを浮かべると――
「……困ったことに、かく言う私もその一人なのだよ」
 嘆息し、瞳を閉じて思案する。
 封印を解くこと自体は簡単なのだが……はてさて。私はそしてスカリエッティらしくない思考のまま、ポツリと零す。
「……早く偉くなると良いね」
 瞳を閉じ、先ほどまで会話していた彼女を思い、呟く。八神はやて……君は早く、誰よりも偉くなれ。
「誰よりも……」
 そして私に――
「……………………くくく。本当に、らしくないね」
 私は笑い、最後にまたそれを思い出した。

 ――スカリエッティ♪

 それを。
 フェンリルの笑顔を、らしくなく。






蛇足3/蛇足1
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