嗣希創箱の消閑

小説、落書き、二次創作、etc…。 あなたの暇潰しのお供にどうですか♪ 

《夜天の王がゼスト隊に入ったようです》

 まえがき


 本作は、アニメ『魔法少女リリカルなのは』の『A´s』から約二年後、『StrikerS』のおよそ八年前を舞台にしております。
 なのでこちらをご存知でない方には少々解りづらい表記などございますとは思いますが……ぶっちゃけ、あんま本編関係無いんで解り難いとこは読み飛ばして下さいな♪

 また、この作品は以下の要素を含みます。

 ・一部キャラの設定改変
 ・オリ主転生、及びTS(男→女)
 ・オリキャラ、及びオリ設定

 こちらも予めご了承下さい。

 
 それでは、感想、ご指摘おねがいします。


  




《夜天の王がゼスト隊に入ったようです》









「――……すみません」

 時空管理局、地上本部の廊下。

 わたしは、そのまますれ違うようにして横を行くレジアス中将に、車椅子の上で深々と頭を下げた。

「…………?」

 対し、中将と彼のお付きの人らが怪訝な顔をして立ち止まるんを見、わたしは顔を上げた。

「っ!?」

 そして今度こそ、彼らはわたしの状態を目にして息を飲んだ。

 ……当然や。

 右目に眼帯。頭には包帯。

 各所に貼られたガーゼや、片手を吊った包帯は僅かに赤く塗れ、固定されとる脚は一目で折れているのがわかる様。

 そんな満身創痍の少女が、こんな夜もいい時間にいきなり謝りだしたら、だれでも驚くと思う。

 しかも、

「ゼスト隊長を…………守れへん、かったです」

「――――ッ!!」

 わたしのその言葉に中将が目を剥き、そして足早に去ろうとすれば、なにも知らん人らが泡を食うのも無理は無い。

 だから――……いや、それ以上にわたしは、

 「ごめんなさい!」



 ――わたしは『原作』を知っていて、



 それを回避させるために異動をし、



 そのために努力し続けて、



 それでも、結局――



「ごめん、なさい……!!」

 ――わたしは、彼らが見えなくなるまで何度も謝罪を口にした。

「…………ごめん、なさ、ぃ!」

 ……いくら謝ったところで、死んだ人らは帰って来んことを理解しながら。

 何度も――。








仮・夜天の王がゼスト隊に入ったようです
(※ 題名は正式なのが決まり次第変更となります)







 ◇◆◇◆◇



 ――新暦六十六年。

 場所はミッド北西部のとある廃棄都市区画。その、おそらくは食品の生産や精製の用途で建設されたビルの地下。儂は一人、憂鬱な思いでそれの表面を撫でていた。

「…………」

 仄かに暖かい透明な容器。時折生まれては消ゆる気泡。独特の薬品臭。壁際に置かれたそれは、所謂――『生態ポッド』。

 中身は、幸いにして無い。

 しかし、だからと言ってそこが終始空であったと思える筈も無く、むしろ見渡すだけで二十は下らないこれらの中身の行方を思えば、軽はずみに暁光などとは言えない。

 故にこそ、最悪。毎度の事なれど、人の業の深さ罪深さに気分が滅入ると言うもの。

「……相も変わらず、儂らは後手じゃの」

 儂はポッドからの淡い光に照らされ、その表面に映る自身を睨む。

 自身――ツアラ・グランガイツという名の女児。

 特徴的なのは、その燃えるような赤い瞳と後頭部の高い位置に結い上げた長髪。そしてそれを栄やす、白磁の如き肌色。

 今年で十二となれど体の発育は遅く、しばしば十にも満たないように映る童顔に幼児体型。それを覆い隠すべき時空管理局地上部隊の制服とコートは、しかし首に巻いた長い嚥脂のマフラーに顔を埋めているような儂を、逆に幼く引き立てている様。

 そしてそんな自身を見る度に儂は思う。何故、儂は転生などしたのか、と。

 ――儂には『ツアラ』として生を受ける以前の記憶があった。

 “不破厳正(ふわ・げんせい)”。それが、ただ生涯を剣に捧げ続けた儂の、前世での名。

 その最期は誰に看取られることもなかったが、儂に未練、後悔の類は一切無く、我ながら潔い死に様であった。

 故に解らぬのがこたびの生。不破厳正の知を持って生まれ代わりし、今のこと。今世に置いて、儂は何の因果か、このような異国の女子として転生していた。

 理由はようとして知れぬが、常々儂は思うている。せめて男子であれば、と。例え異国の地、異国の血をもって転生しようとも、せめてそれが同じ男子であったならばどれだけ救われたか、と。

 それが詮無きこととはわかっている。しかし女子は……。例え前世の知識があろうとも、儂には荷が勝ち過ぎる。逆に前世でのそれが要らぬ苦労の種となり、儂を苦しめてさえいた。

 考えても貰いたい。誉も高き大和の男が、今や異国の女児。それも燃えるような紅き髪と瞳の、だ。

 目つきこそ儂元来の鋭きそれだが、まだ幼きこの身なれば、大きな瞳と相俟って単なる気の強い女童にしか見えぬ。更にはせめてもの抵抗とばかりに高い位置にて纏めた長髪も、髷と言うよりただの女の髪型の一つとしてしか映らぬ様で……。

 また、そんな紅き髪を映やす、異国人なればこその白き肌は、他の女人にとって羨むべきもののようだが、儂からすれば軟弱に映るのみ。

 それは儂が、儂の産まれ落ちる前に病にて短き生涯を閉じた父親の病弱さを正しく受け継いたが故。母親の健康的なそれと比べても白過ぎるように映る今の儂は、まこと脆弱の一言に尽きる。

 おかげで同い年の女児と比べるべくもなく発育が遅い――だけでなく、少し動いただけで熱を出すのは勘弁願いたい。

 ただでさえ小さき身。女子の非力に過ぎる体を憂い、儂が儂たることを証明せし唯一の剣術すら振るうに難しいとあっては、この身を不幸と嘆く他無い。

「……憂鬱よな」

 硝子の如き容器の外面をなぞり、嘆息。……ああ、まこと、憂鬱。何が悲しくて還暦も過ぎし儂がこのような女児などに――



「まあ、そう言わない」



 声は儂の肩から。

 視線を容器の照り返し越しに向けると、それに嘆息して返す水色のイタチが映った。

「ツアラ。それでも俺たちの仕事は、そんな犯罪者を捕まえて『これ以上』を防止すること、でしょ?」

 水色イタチ――名をアスティナ・スクライアという小奴は、所謂儂の連れ合い。幼馴染みという奴じゃ。

 そして小奴、今はこんな形じゃが、本来はれっきとした人の姿をしており、この姿は『魔法』によるもの……らしい。

 『魔法』――……いや、流石は異国の地。

 日本より出たことの無い儂は、このように不可思議な様を目の当たりにした今でも半信半疑。どころか、このような奇妙奇天烈なそれを当然のように教育機関で教授しているというのだから狐に摘まれた心境にもなろうと言うもの。

「……わかっておるわ」

 再びの嘆息を一つ。儂はポッドから離れ、肩のイタチを一瞥。

「儂ら――時空管理局、首都防衛隊の仕事は、の」

 ……故にこそ憂鬱なのじゃよ。そう言葉を継ぎ、儂は腰に下げた小太刀二刀を見やる。

「小僧。……儂はやはり、この様な下種に情けなど――」

 果たして、気付く。

 不意に感じた、接近する気配。儂は気配を殺し、闇に紛れるように身を隠しながら、

「小僧。例の魔法を――」

 頼む。そう紡ぐ前に、

「なっ――!? ちょっ、ばっ! ツアラ!?」

 儂は身を翻し、今まさに此方へと接近しつつあった者たちの前へと現れ出でた――。



 ◇◆◇◆◇



 ネズミ色の地肌が剥き出しになった床や壁がなんとも寒々しいここは、まさに『人造魔導師』の研究施設だった。

 ちなみに『人造魔導師』とは、読んで字の如く、人口的に生み出された能力の優れた魔導師のことであり、そしてその研究は言うまでもなく違法で、犯罪。

 だからこそ俺たちはそんな犯罪者を断罪するべく、こんな陰気な場所へと潜って来たのだが――



「――我こそはツアラ・グランガイツ一等陸士。今すぐ武装を解除し投降せよ、犯罪者!」



 ――ったく、このバカ!

 俺はツアラの肩で内心悪態を吐き、そしてそんな彼女といきなり対峙する羽目になった相手を見た。

「か、管理局……!?」

「チッ……!!」

 人数は六――いや、七人。

 内、五人は、完全武装と呼ぶには明らかにショボい、単なる銃器のみという質量兵器頼みの体だが、リーダー格の男は違う。その手のスピア状のデバイスは言うに及ばず、その身を包むバリアジャケットだろう外套を見るに彼は別格だろうと知れる。

 そして我らが短気で短絡的な剣士、ツアラ・グランガイツ嬢は――ぶっちゃけ、魔導師戦が大の苦手。はっきり言って正面からのガチでツアラが魔導師に勝つのは殆ど無理だとも言える。

 しかし、

「もう一度だけ言おう。大人しく武装を解除せよ!」

 それでも、ツアラは引かない。

 魔導師戦が苦手なのを誰よりも苦渋とともに知っていながら、それでも彼女は彼らの前に立っていた。

「……ハッ! そんな脅しに屈すると思うのか?」

 そう言ったリーダー格の男が手を引く七人目。半裸の、傷だらけの少年を前に、ツアラは決して引かない。

 ……いや。もしツアラが現れなければ、彼らはその手の銃器をその少年に向けていただろう。

 ツアラとは長いようで、まだ彼女が母親のお腹にいた頃からの付き合いになる。

「おいおい、管理局の犬さんよ。コイツが見えねーの?」

 ――だからこそ、わかる。

 仏頂面にへの字口。眉間に皺。足を肩幅に広げて重心を落とし、一見自然体に映る構えをとるツアラの意思が。人質を人質として使わせることによって少年を守ろうとする彼女の思いが、如実に。

 しかし――

『このバカ! 俺たちの役目は時間稼ぎだって忘れてねーか!?』

 俺は思わず念話で罵倒していた。

 と言うのも、このバカ――もとい、短気でチビ助のツアラちゃんは、隊長から『時間稼ぎ』の任を受けていたからだ。

 それ以前に――事前に俺にも彼らの接近を知らせてくれてたら、俺の魔法でどうとでも出来たろうし、ツアラも不意打ちによって彼らを一網打尽に出来ただろう。

 そしてだからこそ、目も当てられない。

 当初の予定じゃ相手方が不振な素振りを見せるまで監視。然る後に、ツアラの叔父であるゼスト・グランガイツ隊長の指示を仰ぎ、分散している部隊で包囲網を敷きつつエース級のアタッカーであるクイントさんメガーヌさんコンビに任せて離脱――の筈だったのに、いきなり命令無視の上に最悪な事態を招いたよコイツは……。

「……相変わらず無礼な物言いよな、小僧」

 対し、こちらこそ相変わらずの失礼極まりない物言いで小娘ツアラ。釣り目勝ちの赤い瞳で肩の俺を一瞥するや嘲笑し、『やれやれ』とでも言うように幼くも整った容貌で呆れ混じりのため息を一つ。わざわざ肩まですくめて見せて、言った。

「指示とはな、ただ聞くものに非ず」

 その言葉とともに、視線を前へ。

 同時、鋭く、空気を凍らせるツアラ独特の威圧感を発し、表情を引き締めて告げた。

「アステナよ、覚えておけ。真に使える者とはな、上のそれを全うするだけでなく状況に際した最良の手を迷い無く選択出来るものを指すのだ!」

 自信満々、傲岸不遜。ツアラはそれこそ胸を張るように言った。……って、このバカ。いろいろ突っ込みたいが、何より一番は――俺のこと『アステナ』って……いい加減『ィ』の発音ぐらい覚えろよ。

 果たして俺がそう呆れてる間に、ツアラは管理局指定のコートのボタンを外し、前部を開いて腰にさした二刀のデバイスへと躊躇い無く手を伸ばした。

 ――ちなみに、なんでコイツが未だもってバリアジャケットでなく局の制服姿なのかって言えば、このバカがバリアジャケットを構築することすら出来無ーバカだからだ。

 一応事前に、それ相応の防護効果を持たせたコートと自身の身長より長いマフラーとを身に付けさせてはいるが……そんなのは気休め。見るからに質量兵器チックな小銃を持った相手にバリアジャケット無しは痛すぎる。……無論のこと、おバカさんのツアラちゃんは魔法障壁なんて使えないしな。

 そしてそんなあからさまに攻撃体勢となれば相手だって動く。

 幸か不幸か、出会ったここが行き止まりの奥まった場所ではなく、三人が両手を広げて歩けるほどの通路であったため、敵さんは素早く前衛と後衛に別れて対峙の構えだ。……ついでに、いざとなれば人質を盾に、戦える一人を残して他のは逃げられるようにって寸法かな。

「お、おいチビ! このガキが見えねーのかッ!?」

 状況は最悪に近く、以前戦力比は二対六。ついでに相手には人質というおまけ付き。そして……俺には全く、攻撃オプションが無い。

 だからキツいの何のって……ホント、半端無くキツい。

 それでなくてもツアラは生まれつき体が弱く、筋・体力ともに平均値を大幅に下回る病弱っ娘。全力での戦闘なんて三分保てば良い方ってんだから、これがどんだけヤバい状況かをお分かり頂けただろうか?

「……武装を捨てる意思無し、か?」

 だと言うのに、ツアラはどこまでも悠然と佇んでいた。……いや、さっきから俺がバカだバカだとツアラを評しちゃいるが、何もこの状況でコイツがここまで落ち着いてるんが、『勝てないことにすらわからないほど低脳』って意味じゃない。

 だって――



 勝てるのだ、ツアラなら。



 例え相手が六人だろうと、

 その手に人質が居ようと、

 自身じゃまともに魔法が使えず、ガチでやれば魔導師になんて絶対に勝てなくても、

 そんなのは――関係無い。

 はっきり言おう。俺はコイツが負けるなんて微塵も思っていない。ツアラの前に立った時点で連中は終わってると、声高に言える。

「……最後通告をするぞ」

 僅かな通風にそよぐツアラの長いマフラーとコート、そして紅の長髪。

 彼女は六人もの武装した男たちを前に泰然自若。むしろ纏う空気の質から言えば、こちらの方が圧倒的に危険を孕んだそれを持って告げた。

「命が惜しくば投降せよ――下種が」



 ◇◆◇◆◇



 管理局にバレた。

 突然の襲撃に散り散りとなり、なし崩し的に商品であるガキと研究者の連中とを連れて逃げ出したが……最悪。最悪だぁ、畜生!

 くそ……!! 俺はただ、運搬の手伝いを依頼されただけだってのに……畜生!

「てめぇ……! だからコイツが――!!」

「見えておるさ」

 対峙するのは管理局のガキ。自身の身長を越す長大なマフラーに顔を半分埋めた、赤毛赤目の少女は、焦燥感で顔を歪ませる俺に薄く笑みを作って告げた。

「なぁ、小僧。その童を人質とするなら、精々大事に扱うのじゃぞ? さすれば――」



 貴様だけは生かして帰してやる。



「な――っ!?」

 絶句する。

 十歳前後だろう少女の表情が――纏う空気が、その言葉に重みと鋭さを持たせて俺を固めていた。

「お、おい……?」

「…………?」

 果たして、少女の台詞に気圧された周りの研究員どもが俺に縋るような目を向けてきたが……チッ。つまりはそれが狙いかよ!

 俺は、だからこそ逆に冷静さを取り戻して小娘を睨んだ。

「ハッ! 何が『生かして帰す』だ! そもそも管理局ってーのはもともと殺しはしねーんだろ!?」

 知ってるぞ。管理局ってのは魔法を使う時は決まって非殺傷設定を使って、なるべく人死にを避けるってな!

 俺は怯え始めた連中に見せ付けるよう、ことさら尊大な態度で小娘と対峙する。……しかし万が一、周りの奴らが保身で寝返りやがったら、俺は――

「ふむ……なるほど。それが貴様の寄る辺か、小僧」

 そんな俺の内心を知ってか知らずか、少女はやはり見た目に反した古風な言い回しで言った。

「だが、生憎だな」

 凛と冷たく、鋭く、重みのある声音で、

 悠然と、泰然と、小さなその身を遥か大きく見せる空気を纏い、

「見ての通り、儂は幼い。故に間違いもまた、やむなし」

 薄暗闇の中で浮かび上がる、白く、言葉の通りに幼くも整った容貌で僅かに口元を歪め、

「そうさな。つい、間違えて『非殺傷設定』とやらを忘れてしまうやも知れん」

 うっかりとな。そう言って、軽く肩を竦めて見せる少女は――……一体、何だ?

 外見だけを見るなら、確かに幼く、弱そうに映るが――違う。

 纏う空気。感じる重圧。これは――この少女は、まさか不老長寿の種族か?

 ……そうだとしたら、マズい。もし万一にもこのチビの言ったそれが真実なら――

「ぅ、うわぁぁあああ!!」

 そして研究員どもは叫ぶ。我先にと、その凶器を少女のようにしか見えないソイツへと放つ。

 しかし――届かない。

 小娘は動かず、その身を包むライトブルーの光に銃弾の悉くが受け止められ、或いは弾き跳ばされる。

「……なぁ、小僧」

 俺は――……動けない。

 五つの銃、数多の銃弾をその身に向けられて尚、彼女はただ俺だけに冷笑を向けて言った。

「最後通告は先ほどしたが……なに。少し儂の興に付き合って貰うぞ?」

 少女はそして悠然と、その腰から刀剣――おそらくは彼女のデバイスだろうそれをゆっくりと鞘に入れたまま抜き、掲げた。

「察しの通り、之こそが儂のデバイス。名を『“正継(まさつぐ)”』と言う」

 目を、逸らせない。

 注意を、逸らせられない。

 ……わかる。幾つもの修羅場を潜って来たからこそわかる。コイツはヤバい。本物だ。

 わかる。勘が告げる。

 コイツの言葉は真実だと、俺の生存本能が訴える。

「さて、小僧」

 だから――

「儂は告げるぞ? 今から儂は之を放るが――」



 之が地に落ちるまでに――勝敗を、決しようぞ。



「くっ――!!」

 動く。

 動かざるを得ない。

 俺はチビがそれを放るのを目にするや最速で呪文を――

「渇ッッッ!!」

 少女が吼える!

 それと同時に顔面へ飛来し――バリアジャケットに弾かれる、小さな刃物。って、な!? い、いつ投げやがった!?

「ッ――!?」

 外傷は無い。しかし正確に眉間へと、弾丸のような速度で投擲されたそれのせいで一瞬だが注意が逸れた。

「ぐぎっ!?」

「ぎゃひッ!?」

 俺は目を剥く。

 周りで同時に上がった、連中の悲鳴に――じゃない。それが俺と同じように刃物を投げられ、すべからく銃器を取り落としているのなんてどうでも良い。

 違う。俺が驚愕に目を剥いた理由は――

「――――」

 少女が嘲い、

 目で、落下しつつある刀を指し、

 俺が血の気の失う思いでそれを追う、

 そんな、僅かな間に――



 彼女は――消えた。



「ッッッ!?」

 驚愕。そして慌てて攻撃の魔法を防御のそれへと変え――障壁を張った、その瞬間に飛来し弾かれた刃物を見て息を詰める。

 や、やべー……! 額に浮かぶ嫌な汗。背筋を過ぎる悪寒。

 混乱し、恐慌状態となりつつある周りなど無視。ともすれば人質として側に置いていたガキすら無視し、次の攻撃に全神経を――

「ほう? なかなかに良き目じゃな」

 声は――背後。

 俺は即座に反転! 迎撃のために手の中のスピアを――

「ッ!?」

 走る朱線。迸る火花。

 それが、少女の持つ刀と俺の張った全方位を覆うバリアとの鍔迫り合いの結果だと理解する、その間もあらばこそ。

 俺は眼前――俺の魔力光であるダークグリーンの障壁によって隔てられた僅かな間越しに見えた少女を前に、今度こそ絶句。

「……なるほど。やはり貴様は別格か」

 そう言った少女の手にあるのは――先ほど投げた刀。

 ……くそ! そういうことかよ!!

 ようやく理解した。つまり少女は――嘘を吐いたのだ。

 『刀が地に落ちるまで』と言いながら、いつまでも地面に落ちる音がしないそれ。少女の手に握られた、彼女の魔力光だろう紅炎の如き光を刃に纏うデバイス。

 つまりは、そう。振り向かなくてもわかる。このガキは俺の注意を逸らすために刀を投げ、姿を消し、放ったソイツを空中で――



 瞬間。背後で響いた甲高い落下音に意識が塗りつぶされた。



「な――ッ!?」

 何故――そう疑問視し、そしてその僅かに過ぎる思考の空白に、今度こそ勝敗は決した。

「……御神不破流を前にしたことを――不幸に思え」

 斬り裂かれる障壁。斬り捨てられる防護服。

 そしてその、あまりの衝撃に意識を吹き飛ばされる刹那の間に――

「な、ぜ……!?」

 ――俺は、少女の手にある二つの刀を目にした。



 ◇◆◇◆◇



 全員を昏倒させるや倒れかかるツアラを、俺は急いで動物形態を解き、慌てて抱き止めた。

「……と」

 果たしてその、軽く、柔らかく、また高い熱をもってぐったりとしている少女を抱え、嘆息。ったく、このバカ……。

 俺は着ていたコートを脱ぎ、それを地面に敷いてツアラをそこに寝かせた。

「……戦闘時間、五分、と」

 まあ、保った方かな。そう零し、俺は周りの、ツアラに意識を刈られて転がる連中を見て回す。

 ……いや、マジで冷や冷やした。

 とりあえず仕上げとばかりにささっと印を結んで『バインド』の魔法を連中にかけながら、思う。……本当に。特に魔導師との駆け引きが。

 俺はまた一つため息を吐き、床に転がったままの小太刀――その、鞘を拾いに行った。

 ……まったく、コイツは。苦笑し、もはや意識を失っている彼女を見やる。

「――ああ、隊長? ……すみません。こっちは見ての通りです」

 眼前に浮かべた画面の向こう。いつでも厳しい眼差しを向けるゼスト隊長に通信越しに報告しつつ、俺は苦笑。

 ――ツアラは魔法が使えない。

 途中、フィールド系魔法で銃弾を防いだり、幻術で姿を消したりしたのは俺の魔法だし、敵である魔導師の障壁を斬り裂いたのはデバイスの力だ。

『……奴らは?』

「ツアラに、みんな。仕上げに俺が『バインド』かけたんで、大丈夫かと」

 ――ツアラ特注の、小太刀型の特殊ブーストデバイス『正継』。

 それは、柄を握った者の魔力を自動的に使用し、刀身の魔力補強に身体能力を強化、加速させる事『だけ』しか出来ないデバイス。

 つまりこれは、今は青い顔して眠る少女のためだけのデバイスであり、『彼』に生前の力を発揮して貰えるようにと組んだ特性の刀だ。

「ああ、それからですね。一応、彼らが連れてた子供も無事(?)に保護したッスよ」

『……なんだ、その「(?)」は』

 それは報告書で。そう苦笑し、すべてをぼんやりと眺めていた少年の手を引き、にっこり。

「…………」

 対し、少年は無反応。

 俺はその、見た目五歳児ぐらいの子の額に張り付いた髪をそっと退かしてやりながら、囁くように治癒魔法の呪文を唱えた。

 ……まったく、ツアラは。視線を、意思の感じられない少年の瞳から気絶する少女へ。

 ツアラは……弱い。

 俺の魔力カラーであるライトブルーの光に包まれ、眠る少女は、『正継』の力を持ってしても僅かな時間しか戦えない。

 だから、はっきり言って今回のような戦闘には不向き――どころか、足手まといですらある。

 ……しかし、

 それでも――

『……そちらにメガーヌとシビックを回す』

 と、継いだ隊長の言葉に俺は目を丸くし、顔を上げた。……え? 先輩はともかくメガーヌさんを?

『こちらはあらかた片付いた。……ゆっくり待機していろ』

 果たして隊長は、俺の顔から心情を正しく読み取り苦笑して言った。

 ……はは。まったく、隊長も姪には甘いようで。

 俺はそして隊長に『了解』と返しつつ、少年の手を引いてツアラのもとへ。

「ぅぅ……」

 と、唸り、寝返りを打つツアラを見下ろし、俺は膝を折って彼女の眉間を揉み揉み。……頼むから、ここに皺が残りませんように。

 体は熱いのに額が冷たいツアラの、青ざめた顔を覗き込んで思う。ったく、せっかく可愛いのに、ホント勿体無い。

 寝返りの際に捲れたスカートの裾や、頬に張り付いた髪とを直しつつ俺はため息。ホント、寝顔は間違い無く天使なんだがなぁ……。

「そんなんじゃ、明日っから来る子とも仲良くなれないぞ?」

 『うーうー』唸るツアラの眉間を揉み解しつつ、瞳を細めて呟く。……このチビ助は。明日には本局から臨時の特別捜査官が来るってのに、まったく。

 ツアラの額に浮かぶ汗をハンカチで拭いながら、ため息。……せっかく、歳の近い女の子が同じ部隊――それもツアラんとこにホームステイするってんだから、ちゃんと仲良くしろよ?

「ホント……お前は、友だち、居ないんだからさ」

 俺は、そしてメガーヌさんたちが来るまで少年と二人、ツアラのそばに居たのだった。





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| | 2009年01月15日(Thu)10:44 [EDIT]