《THE SECOND LIFE》
「きゃぁああ――――ッ!!」
「アスナさん!」
ヴィータさんの一撃に吹き飛ぶアスナさん。
そして、
「――調子に乗るなよ小娘!!」
即座にヴィータさんの背後へと跳び、冷気纏う左手を彼女へ振るうエヴァンジェリンさん!
「……改めて先に謝っておきます」
そしてその手をいともたやすく掴み止めてケイトさん。僅かに眉根を寄せて驚愕に目を剥くエヴァンジェリンさんを見つめ、
「ごめんなさい……」
掴んだ、エヴァンジェリンさんの腕を――
切断、した。
◇◆◇◆◇
――わけが、わからない。
「……どういうつもりだランサー。まさか――敵対する気か?」
ウチの見ている前でアスナとネギちゃん、エヴァちゃんがいきなり消えて、
「まあ、なに。オレとしてはそれも悪く無いんだが――生憎と別件だ」
衛宮先生と茶々丸さん、せっちゃんが戦こうてるそこに青い服の赤い槍持った男の人が現れて、
「な、なんなんスかアレ……?」
そんで、そん人が現れた瞬間に状況がウチらと悪魔たちと槍持った人とで三分されて、
「……状況は未だに改善されていない、か」
「そのようですね」
そして、
そんなわけのわからない状況の中心に、
――三人は現れた。
「――――ッ!?」
息を呑む。
いきなり『ランサー』いう男の人の後ろに現れたんは、さっき消えた三人の内の二人――アスナとエヴァちゃん。それも二人ともなんや気ぃ失っていて、それを三人目の女の子――八神ヴィータちゃんが小脇に抱えてた。
それだけでも驚きやのに、ヴィータちゃんが抱えるエヴァちゃんの状態が、もう……最悪やった。
「な、なんでや……?」
知らず言葉が漏れる。
なんでや?
なんであのエヴァちゃんが――“左手のあった場所から血流して”気絶してるん? なんで左腕が無くなっとるん……!?
「……どうやら連中は味方じゃあないみたいッスね」
どうして?
どうしてこないな場所に“転校生(ヴィータちゃん)”が居るん? どうしてその手に二人を抱えとるん……?
それやとまるで――
「近衛このか!」
いきなりそのヴィータちゃんに呼ばれて、心臓が跳ねた。
「は、はひ!?」
あ、アカン! 混乱し過ぎて目ー回しそうや……。
「――と、ついでに桜咲刹那に絡繰茶々丸……だったか?」
果たしてそんなウチなんか無視するように、ヴィータちゃんは、
「いつまであたしにこいつら抱えさせる気だ? ボサっとしてねーでとっととこっち来い! いい加減放り捨てんぞ!?」
苦笑するようにそう叫んで肩をすくめた。
◇◆◇◆◇
――結界の中に残されたのはボクとケイトさんだけ。
そしてなんとなくだけど、彼女の目的にも気付いた。
「……ボクの左手も切り落とすんですか?」
未だにエヴァンジェリンさんの左腕を持っているケイトさんに苦笑を向けて、問う。……そっか。そう言えばアスナさんの案を却下するって言って現れたんだっけ。
「……先生」
沈痛な表情をボクに向け、ケイトさんはゆっくりと近付いて来る。
「……わたしたちは学校に通ったこと、無かったんです」
一歩、一歩。その手に血の滴る腕と機械的なデザインの剣を持って、ケイトさんは近付いて告げる。
「……わたしはおねえちゃんに、普通に学校に通って欲しい」
その言葉にはどうしようもない矛盾があった。
だって『普通に』と言うのなら、彼女たちがこんなところに居てはいけない。こんなことになんて関わらずに過ごさなくちゃいけない。
……だけど――
「だから――……強くなってください、先生」
――結局はボクが弱いからいけないんだ。
「……ごめんなさい」
たぶん、ケイトさんは無視出来た。こんな血なまぐさい事件に関わらず、それこそ普通に明日を迎えることだって出来たんだ。
その願いが『普通に学校に通う』というなら、関わらないのが自然だし、だからこそエヴァンジェリンさんは彼女たちのことを信じられなかった。
「……ごめんなさい、先生」
だけど、ボクは信じてあげられる。ボロボロと涙を零して謝り続けるケイトさんを見つめ、
「いいよ」
と、ボクは笑って告げられる。
「ボクの手を……おねがいします」
石となりつつある腕をどうにか水平に持ち上げて、笑いかける。
「……先生? で、でもわたしは――」
その態度に、逆に狼狽するケイトさん。
「ボクは信じてますから」
そしてその台詞を遮って、ボクは尚も言葉を続ける。
「だって、ボクはあなたたちの担任の先生だから」
ボロボロと涙を零す少女を見つめる。
……ごめんね。たぶんボクが弱いからいけなかったんだよね?
きっと、本当はこんなことに介入なんてしたくなかったんだよね? ヴィータさんを巻き込みたくなんてなかったんだよね?
「……強く、なります」
普通に。ただ普通に学校に行きたい。だから“先生(ボク)”には絶対に強くなってもらわないと困る。
ケイトさんたちが介入してきた理由は、つまりそういうこと。
担任である先生が変な事件に巻き込まれてしまった。だから助けなくちゃいけない――そんな風に今後ならないように、彼女たちは今回の件に最初で最後だろう介入をしてきた。
「で、でも……! 先生はその代わりに人では無くなるんですよ……!?」
ケイトさんの目的は初めから彼女の言葉通り、ただ普通に学校に通うこと。
そしてその願いのために、ボクを強くすること。
つまり――ボクの石となりつつある腕の代わりに“真祖の吸血鬼(エヴァンジェリンさん)”の腕をくっつけて、ボクを吸血鬼にすること。
「せ、先生は……“吸血鬼(バケモノ)”になって……、不老不死になって……!」
そのために彼女たちはみんなを敵に回すような言動をとってまで介入した。
それこそ無視して然るべき事件に、その願いに反するような形で介入してきた。
「……いいですよ」
すべてはボクが弱いから。
「ボクは強くなりたかったんです」
だから泣かないで。
そんなに自分を責めないで。
「それに、ボクはあなたたちの先生です。だからもう、心配なんてかけないように強くなります」
強くなる。
これはただそのための方法。これはただ、彼女たちがボクのことを心配した結果。
だから――
「ですから、ボクからもお願いします」
――ボクは笑って、
「ボクをあなたたちの先生にして下さい」
人の道を――捨てた。
◇◆◇◆◇
――手を抜いたつもりなど無かった。
ランサーが現れ、ネギたちが消え。そして神楽坂とエヴァンジェリンを抱えたヴィータが現れた。
「あなたは味方、なのか……?」
「……あのな、桜咲。そーいうんは聞くもんじゃなくて判断するもんだぜ?」
負傷したエヴァンジェリン。そして気絶する神楽坂のためにそちらに行った近衛、桜咲、絡繰。ランサーはそんな連中をまるで守るように佇み、悪魔たちを牽制する。
「……マスターの負傷の理由は説明して貰えますか?」
「そ、そや! な、なんでエヴァちゃんの手が無くなってはるん……!?」
現状は、そう。先ほどとは比べるまでもなく混沌としていながら、最悪の展開とはほど遠い。少なくともランサーがこちらの陣営に肩入れしている時点でほぼ勝敗は決した――そう思っていた。
少なくとも、次の瞬間に現れた二人を目にするまでは。
「――――!?」
予想はしていた。ネギとケイトの二人が現れることはだけは予想出来ていた。
ネギが消え、ヴィータたちが現れた瞬間にケイトの介入は読んでいた。それでなくてもランサーが現れた時点で彼女が何らかのアクションを起こしていることぐらいは予想していた。
しかし、
それでも――
まるでバケツいっぱいの赤いペンキを乱暴にかけられたように服を汚したネギと、
その小さな手に抱かれ、ぐったりとその体を少女に預けるケイトに、
「……なんだ、これは」
俺はそう零さずにはいられなかった。
「…………ぁ」
そしてその呟きに気付いたのか否か。ネギはこちらに視線を向け――倒れた。
「っ! ネギ!!」
それを見た瞬間、すべての懸念を無視して駆け出す!
悪魔たちのことなど露程にも鑑みず。そしてそれらすべてをランサーが抑えていることにすら気にせず、俺は倒れた少女のもとへと駆け寄り、
そして――言葉を無くした。
「……シロウ」
ネギの状態に異常は見られない。少なくとも外見上の問題は俺には見受けられなかった。
しかし――その胸に抱くケイトは違った。まるでネギの服を染める血が彼女のものかのように、一見してわかるほど青白く、そして冷たくなっていた。
「……ネギ。これは――」
言葉が、続かない。
混乱する。わけがわからない。
俺がわかるのはせいぜいでケイトが過剰に血を失ったのだろうことぐらいだ。
だから、わからない。
だから、気付いてはいけない。
ネギの石化しつつあった左腕が治っている理由も、
エヴァンジェリンの左腕が無くなった理由も、
ケイトが血を失い、それとは逆に血色の良くなったネギの状態にも、
考えてはいけない。その答えに辿り着いてはいけない。
「……ごめんね、シロウ」
涙を流し、それでも笑顔をこちらに向けるネギ。
その口元の血が――やめろ。気付くな。
倒れたケイトの首もとの――違う! そうじゃない!
ネギの左腕は――それ以上考えるな!!
「……ごめんね。ボク――“人じゃなくなっちゃった”」
――なあ、衛宮士郎?
「ごめんね。ボク……もう、大きくならないんだって……」
――なんだ、この状況は?
「……ごめんね。ボクは……もう、ずっと……このままなんだって……」
――何故、こんなことになった?
「……ごめん、ね。ボクのおっぱい……小さいままで、ごめんね……。もうボク……赤ちゃん、出来ないから……ごめんね……」
――この女の子は何故泣いている?
「……ごめん、なさい」
――何故、この子はお前に謝っている?
「……ボクは、それでも――」
――――そんなのは決まっている!
「――……シロウのこと好きで、……ごめんなさい」
――――すべては貴様のせいだ“衛宮士郎(おろかもの)”!!
「……嫌いに、ならない、で」
最後にそう呟いて、ネギは気を失う。
「…………ああ」
俺は頷き、
眠る少女の口元についた血を拭い、
ようやく、立ち上がった。
「……決心は着いたかよ、先生」
そんな俺に無表情を向けてヴィータ。それに「ああ」と頷いて返し、
「みんなを頼めるか?」
俺はスーツの内へ――“聖骸布(ふういん)”へと手を伸ばし、
「ハッ! もともとこっちは平穏無事が目標なんだぜ? 言われなくたって守ってやらぁ」
ヴィータの乱暴な言葉に笑みを返し、
「そうか。なら――」
後は任せる。
そう言って俺は、完全に聖骸布を――外した。
前話
「きゃぁああ――――ッ!!」
「アスナさん!」
ヴィータさんの一撃に吹き飛ぶアスナさん。
そして、
「――調子に乗るなよ小娘!!」
即座にヴィータさんの背後へと跳び、冷気纏う左手を彼女へ振るうエヴァンジェリンさん!
「……改めて先に謝っておきます」
そしてその手をいともたやすく掴み止めてケイトさん。僅かに眉根を寄せて驚愕に目を剥くエヴァンジェリンさんを見つめ、
「ごめんなさい……」
掴んだ、エヴァンジェリンさんの腕を――
切断、した。
◇◆◇◆◇
――わけが、わからない。
「……どういうつもりだランサー。まさか――敵対する気か?」
ウチの見ている前でアスナとネギちゃん、エヴァちゃんがいきなり消えて、
「まあ、なに。オレとしてはそれも悪く無いんだが――生憎と別件だ」
衛宮先生と茶々丸さん、せっちゃんが戦こうてるそこに青い服の赤い槍持った男の人が現れて、
「な、なんなんスかアレ……?」
そんで、そん人が現れた瞬間に状況がウチらと悪魔たちと槍持った人とで三分されて、
「……状況は未だに改善されていない、か」
「そのようですね」
そして、
そんなわけのわからない状況の中心に、
――三人は現れた。
「――――ッ!?」
息を呑む。
いきなり『ランサー』いう男の人の後ろに現れたんは、さっき消えた三人の内の二人――アスナとエヴァちゃん。それも二人ともなんや気ぃ失っていて、それを三人目の女の子――八神ヴィータちゃんが小脇に抱えてた。
それだけでも驚きやのに、ヴィータちゃんが抱えるエヴァちゃんの状態が、もう……最悪やった。
「な、なんでや……?」
知らず言葉が漏れる。
なんでや?
なんであのエヴァちゃんが――“左手のあった場所から血流して”気絶してるん? なんで左腕が無くなっとるん……!?
「……どうやら連中は味方じゃあないみたいッスね」
どうして?
どうしてこないな場所に“転校生(ヴィータちゃん)”が居るん? どうしてその手に二人を抱えとるん……?
それやとまるで――
「近衛このか!」
いきなりそのヴィータちゃんに呼ばれて、心臓が跳ねた。
「は、はひ!?」
あ、アカン! 混乱し過ぎて目ー回しそうや……。
「――と、ついでに桜咲刹那に絡繰茶々丸……だったか?」
果たしてそんなウチなんか無視するように、ヴィータちゃんは、
「いつまであたしにこいつら抱えさせる気だ? ボサっとしてねーでとっととこっち来い! いい加減放り捨てんぞ!?」
苦笑するようにそう叫んで肩をすくめた。
◇◆◇◆◇
――結界の中に残されたのはボクとケイトさんだけ。
そしてなんとなくだけど、彼女の目的にも気付いた。
「……ボクの左手も切り落とすんですか?」
未だにエヴァンジェリンさんの左腕を持っているケイトさんに苦笑を向けて、問う。……そっか。そう言えばアスナさんの案を却下するって言って現れたんだっけ。
「……先生」
沈痛な表情をボクに向け、ケイトさんはゆっくりと近付いて来る。
「……わたしたちは学校に通ったこと、無かったんです」
一歩、一歩。その手に血の滴る腕と機械的なデザインの剣を持って、ケイトさんは近付いて告げる。
「……わたしはおねえちゃんに、普通に学校に通って欲しい」
その言葉にはどうしようもない矛盾があった。
だって『普通に』と言うのなら、彼女たちがこんなところに居てはいけない。こんなことになんて関わらずに過ごさなくちゃいけない。
……だけど――
「だから――……強くなってください、先生」
――結局はボクが弱いからいけないんだ。
「……ごめんなさい」
たぶん、ケイトさんは無視出来た。こんな血なまぐさい事件に関わらず、それこそ普通に明日を迎えることだって出来たんだ。
その願いが『普通に学校に通う』というなら、関わらないのが自然だし、だからこそエヴァンジェリンさんは彼女たちのことを信じられなかった。
「……ごめんなさい、先生」
だけど、ボクは信じてあげられる。ボロボロと涙を零して謝り続けるケイトさんを見つめ、
「いいよ」
と、ボクは笑って告げられる。
「ボクの手を……おねがいします」
石となりつつある腕をどうにか水平に持ち上げて、笑いかける。
「……先生? で、でもわたしは――」
その態度に、逆に狼狽するケイトさん。
「ボクは信じてますから」
そしてその台詞を遮って、ボクは尚も言葉を続ける。
「だって、ボクはあなたたちの担任の先生だから」
ボロボロと涙を零す少女を見つめる。
……ごめんね。たぶんボクが弱いからいけなかったんだよね?
きっと、本当はこんなことに介入なんてしたくなかったんだよね? ヴィータさんを巻き込みたくなんてなかったんだよね?
「……強く、なります」
普通に。ただ普通に学校に行きたい。だから“先生(ボク)”には絶対に強くなってもらわないと困る。
ケイトさんたちが介入してきた理由は、つまりそういうこと。
担任である先生が変な事件に巻き込まれてしまった。だから助けなくちゃいけない――そんな風に今後ならないように、彼女たちは今回の件に最初で最後だろう介入をしてきた。
「で、でも……! 先生はその代わりに人では無くなるんですよ……!?」
ケイトさんの目的は初めから彼女の言葉通り、ただ普通に学校に通うこと。
そしてその願いのために、ボクを強くすること。
つまり――ボクの石となりつつある腕の代わりに“真祖の吸血鬼(エヴァンジェリンさん)”の腕をくっつけて、ボクを吸血鬼にすること。
「せ、先生は……“吸血鬼(バケモノ)”になって……、不老不死になって……!」
そのために彼女たちはみんなを敵に回すような言動をとってまで介入した。
それこそ無視して然るべき事件に、その願いに反するような形で介入してきた。
「……いいですよ」
すべてはボクが弱いから。
「ボクは強くなりたかったんです」
だから泣かないで。
そんなに自分を責めないで。
「それに、ボクはあなたたちの先生です。だからもう、心配なんてかけないように強くなります」
強くなる。
これはただそのための方法。これはただ、彼女たちがボクのことを心配した結果。
だから――
「ですから、ボクからもお願いします」
――ボクは笑って、
「ボクをあなたたちの先生にして下さい」
人の道を――捨てた。
◇◆◇◆◇
――手を抜いたつもりなど無かった。
ランサーが現れ、ネギたちが消え。そして神楽坂とエヴァンジェリンを抱えたヴィータが現れた。
「あなたは味方、なのか……?」
「……あのな、桜咲。そーいうんは聞くもんじゃなくて判断するもんだぜ?」
負傷したエヴァンジェリン。そして気絶する神楽坂のためにそちらに行った近衛、桜咲、絡繰。ランサーはそんな連中をまるで守るように佇み、悪魔たちを牽制する。
「……マスターの負傷の理由は説明して貰えますか?」
「そ、そや! な、なんでエヴァちゃんの手が無くなってはるん……!?」
現状は、そう。先ほどとは比べるまでもなく混沌としていながら、最悪の展開とはほど遠い。少なくともランサーがこちらの陣営に肩入れしている時点でほぼ勝敗は決した――そう思っていた。
少なくとも、次の瞬間に現れた二人を目にするまでは。
「――――!?」
予想はしていた。ネギとケイトの二人が現れることはだけは予想出来ていた。
ネギが消え、ヴィータたちが現れた瞬間にケイトの介入は読んでいた。それでなくてもランサーが現れた時点で彼女が何らかのアクションを起こしていることぐらいは予想していた。
しかし、
それでも――
まるでバケツいっぱいの赤いペンキを乱暴にかけられたように服を汚したネギと、
その小さな手に抱かれ、ぐったりとその体を少女に預けるケイトに、
「……なんだ、これは」
俺はそう零さずにはいられなかった。
「…………ぁ」
そしてその呟きに気付いたのか否か。ネギはこちらに視線を向け――倒れた。
「っ! ネギ!!」
それを見た瞬間、すべての懸念を無視して駆け出す!
悪魔たちのことなど露程にも鑑みず。そしてそれらすべてをランサーが抑えていることにすら気にせず、俺は倒れた少女のもとへと駆け寄り、
そして――言葉を無くした。
「……シロウ」
ネギの状態に異常は見られない。少なくとも外見上の問題は俺には見受けられなかった。
しかし――その胸に抱くケイトは違った。まるでネギの服を染める血が彼女のものかのように、一見してわかるほど青白く、そして冷たくなっていた。
「……ネギ。これは――」
言葉が、続かない。
混乱する。わけがわからない。
俺がわかるのはせいぜいでケイトが過剰に血を失ったのだろうことぐらいだ。
だから、わからない。
だから、気付いてはいけない。
ネギの石化しつつあった左腕が治っている理由も、
エヴァンジェリンの左腕が無くなった理由も、
ケイトが血を失い、それとは逆に血色の良くなったネギの状態にも、
考えてはいけない。その答えに辿り着いてはいけない。
「……ごめんね、シロウ」
涙を流し、それでも笑顔をこちらに向けるネギ。
その口元の血が――やめろ。気付くな。
倒れたケイトの首もとの――違う! そうじゃない!
ネギの左腕は――それ以上考えるな!!
「……ごめんね。ボク――“人じゃなくなっちゃった”」
――なあ、衛宮士郎?
「ごめんね。ボク……もう、大きくならないんだって……」
――なんだ、この状況は?
「……ごめんね。ボクは……もう、ずっと……このままなんだって……」
――何故、こんなことになった?
「……ごめん、ね。ボクのおっぱい……小さいままで、ごめんね……。もうボク……赤ちゃん、出来ないから……ごめんね……」
――この女の子は何故泣いている?
「……ごめん、なさい」
――何故、この子はお前に謝っている?
「……ボクは、それでも――」
――――そんなのは決まっている!
「――……シロウのこと好きで、……ごめんなさい」
――――すべては貴様のせいだ“衛宮士郎(おろかもの)”!!
「……嫌いに、ならない、で」
最後にそう呟いて、ネギは気を失う。
「…………ああ」
俺は頷き、
眠る少女の口元についた血を拭い、
ようやく、立ち上がった。
「……決心は着いたかよ、先生」
そんな俺に無表情を向けてヴィータ。それに「ああ」と頷いて返し、
「みんなを頼めるか?」
俺はスーツの内へ――“聖骸布(ふういん)”へと手を伸ばし、
「ハッ! もともとこっちは平穏無事が目標なんだぜ? 言われなくたって守ってやらぁ」
ヴィータの乱暴な言葉に笑みを返し、
「そうか。なら――」
後は任せる。
そう言って俺は、完全に聖骸布を――外した。
前話


