……はい、突込みどころ満載ですね(苦笑)
一章の改稿と相まって、完全に変更される『修学旅行編』の名シーンでした(涙)
◇◆◇◆◇
百を超える魔の献族が蔓延るそこで、ワインレッドの魔術師は笑う。
――もはや遠慮容赦、一切無用。
月の光を浴びて、それは神々しく聳える。
士郎とエヴァンジェリンの二人が居る湖畔からは遠く、遥か彼方で召還されたそれ――古の魔神を睨み据えて、彼はニヤリと笑った。
「……士郎?」
先ほどまでの諦めとは違う不思議なものでも見るような彼女の視線に、衛宮士郎は不敵に笑って返す。
「エヴァンジェリン。確かにお前の言う通り、俺はネギにとって邪魔な存在だろう」
――それは、前に彼女と激突し、そして言われた台詞。
『確かにお前は強いよ。だがそれ故に小娘には過ぎた存在だ。はっきり言って、お前は小娘の成長を阻害する邪魔な存在だよ』
それは無力な者が持つには過ぎた力。
諦め、絶望し――しかし前へ自力で進もうとする者が絶対に使ってはいけないカード。
衛宮士郎という名の“切り札(ジョーカー)”は、強いが故に弱者が持ってはいけない最悪の存在。
「だから、これが彼女を助ける最後だ」
ジリジリと包囲網を狭める魔族の軍勢。
それを先ほどまで絶望として見ていたエヴァンジェリンは、しかし今や既に彼の烏合の集など見ていなかった。
ボロボロにされ、機能を停止した自らの相棒を抱き、真祖の吸血鬼が見つめるは紛う事なき“正義の味方”。
己がパートナーを信頼し、パートナーである未熟な魔法使いでは無く無力な少女のためにこの場に残った馬鹿な魔術使い。
ワインレッドのスーツの内から、士郎は仮契約カードを取り出し、
そして、
「――“来れ(アデアッド)”」
――彼の剣が顕現す。
「なっ――!?」
それは絶対的な希望の光。
幾百の闇を並べようが色褪せる事なく屹立する最強の剣。
――蒼衣が翻る。
それを見てエヴァンジェリンは絶望を忘れた。
――金の髪が夜風になびく。
それを見て悪魔達が絶望する。
――鋼の鎧が月下で光る。
それを見て士郎は笑う。
「――お久しぶりですね、シロウ」
希望の化身である彼女は、そう言ってワインレッドの正義の味方に微笑む。
「ああ。久しぶり――セイバー」
彼女の背に百を越す魔を、神の如き災厄を目にしながら――士郎は微笑んで彼女を見た。
そんな二人を戦慄と共に眺めるしかないエヴァンジェリン。
世界屈指の魔法使いにして最強最悪と唄われた悪の魔法使いが――心の底から震え上がった。
「? シロウ? 彼女は?」
と、エヴァンジェリンの視線に気付き、士郎に問うセイバー。
「じつはな、セイバー。俺はコッチじゃ、柄にも無く教師をやってるんだよ。それで、この子は――」
言いながら、士郎はエヴァンジェリンの頭をポンと叩く。
「大切な教え子さ」
――それは、どんなに凄い魔法よりも素晴らしい魔法の言葉。
「…………良いのか?」
それは幾度目とも知れない確認の言葉。
エヴァンジェリンは今やボロ切れとなりかけたゴシック調の黒いドレスの裾を握り、顔を伏せて士郎に問う。
「私は悪い魔法使い……『闇の福音』だぞ?」
それでも貴様は助けるのか? 正義の味方――衛宮士郎に吸血鬼は問う。
「私は貴様達“正義の味方”の――」
「だからどうした」
遮り、衛宮士郎は笑う。クツクツと意地悪く、優しく、嘲笑う。
「エヴァンジェリン。俺が女の子を助けるのにそんな事を気にすると思うか?」
腰を折り、目線を合わせて士郎は問う。
そこが敵地の真っ只中とは思えない程に――そう、そんな些細な事など気にする事無く、衛宮士郎はエヴァンジェリンを見つめる。
「……お前は馬鹿だ」
「知ってる」
顔を伏せる彼女に笑って返し、士郎は立ち上がる。
そして彼はセイバーを見て、ニヤリと笑う。
「あれを任せる」
視線で彼方に聳える魔神を差して士郎。セイバーはそれに笑顔で頷き、
――躊躇無く、その場から跳び去った。
「良いものを見せてやるよ、エヴァンジェリン」
切り札を手放し、敵地のど真ん中に居ながら、士郎は威風堂々と告げる。
「これが本気の――」
最悪の驚異が去り、悪魔の群れが二人に迫る。
「正義の味方――衛宮士郎の剣の全てだ」
人外の咆哮と殺気の軍勢にハッと顔を上げるエヴァンジェリン。
百の魔物は死の津波となって彼らへ迫り、弱者を飲み込み最悪の具現にならんと勇み寄る。
だがしかし、衛宮士郎に恐怖など微塵も無く、
「――――“投影、開始(トレース・オン)”」
はらり、と彼の左手を縛っていた赤い布が夜風に舞い、
――遠く彼方で魔神が光に呑まれ、
圧倒的な魔力の奔流を感じて全ての邪悪が動きを僅か鈍らせ、
「――“体は剣で出来ている(I am the bone of my sword.)”」
紡がれる、ワインレッドの魔術使いの祝詞。
「――“血潮は鉄で 心は硝子(Steel is my body,and fire is my blood.)”」
衛宮士郎が体得する異界の神秘を喚ぶ呪文。
「“幾たびの戦場を越えて不敗(I have created over a thousand blades.)”」
彼にしか使えず、また彼にしか意味の無い旋律を紡ぐ。
「“ただ一度の敗走はなく(Unaware of loss.)、ただ一度の勝利もなし(Nor aware of gain.)”」
それは大切な少女を守って喪い、そして新たに手にした奇跡の顕現。
「“担い手はここに孤り(Withstood pain to create many weapons.)”」
――その世界には赤い、宝石の魔術師がいた。
その魔術師は衛宮士郎の魔術の師であり、大切な人の姉であり、最高の仲間だった。
――その世界には白い、雪国のお姫様がいた。
そのお姫様は衛宮士郎の妹であり姉であり大切な人の対局に位置する存在だった。
――その世界には衛宮士郎の愛する女性がいた。
その女性を救うために、その元凶を破壊した余波で世界から弾き出された。
「“剣の丘で鉄を鍛つ(waiting for one's arrival.)”」
この世界で彼は幼い魔法使いと出会い、そしてその子のために第二の人生を歩む決心をした。
「“ならば我が生涯に意味は不要ず(I have no regrets.This is the only path.)”」
禁断とされた知識の林檎をかじるようにして手に入れた未来の自分の力。
「“この体は無限の剣で出来ていた(My whole life was "unlimited blade works")”」
――世界が衛宮士郎に切り取られる。世界が衛宮士郎に浸食される。
「こ、れ……が……!」
戦慄と共にエヴァンジェリンは彼を――ワインレッドの魔術使いが生み出し、線引き、飲み込んだ世界を眺めた。
どこまでも荒廃した、剣の丘。
――固有結界『“無限の剣製(アンリミテッド・ブレイドワークス)”』を真祖の吸血鬼は畏怖を持って眺め回す。
「エヴァンジェリン。まだお前は、百の悪魔を前に絶望するか?」
世界屈指の魔法使いを背に庇う、世界でただ一人の魔術使いが笑みを浮かべて問い掛ける。
「今だ少しでも怯えると言うのなら――教えてやろう」
さながら教壇に立つ教職者のように、この世界の主は言った。
「相手はたった百有余。対するコチラは――無限だ」
混乱し、辺りを見回す悪魔達。それを正に見下すように彼は告げる。
「量より質という言葉もあるが――そこは安心して良い。例え相手が先ほど召還された魔神とて、この剣に勝てる道理は無い」
言って、士郎は一つの剣を手に取った。
それを見てエヴァンジェリンはギョッとする。
衛宮士郎の持つ剣。装飾の凝った金の刃のそれには見覚えがあった。
そんなエヴァンジェリンにニヤリと笑って、彼は無造作にその剣を振るった。
「――“約束された勝利の剣(エクスカリバー)”」
光が、走った。
それは夜を終える朝日のように――光が通り抜けたそこに、影などは無かった。
数瞬前まで居た数十の悪魔を消し去った極光。迸った魔力の高さに一種の恐怖すら覚えてエヴァンジェリンは士郎を見た。
「さて、これから課外授業を始めるぞエヴァンジェリン」
そんな彼女に彼はクツクツと笑い、両手を広げて剣の丘に突き刺さる無限の剣を示して告げた。
「ここにあるのは全て神話に登場する宝具の模造刀。しかして性能は見ての通り。ではエヴァンジェリン」
それは馬鹿げた授業だった。
一人の生徒に教えるは神世の魔剣。教材は無限の模造刀に百に迫る悪魔の群れ。
「この剣は何だか解るか?」
真祖の吸血鬼にして世界屈指の魔法使いは、知らず笑顔で答えていた。
「知るかよ、先生」
一章の改稿と相まって、完全に変更される『修学旅行編』の名シーンでした(涙)
◇◆◇◆◇
百を超える魔の献族が蔓延るそこで、ワインレッドの魔術師は笑う。
――もはや遠慮容赦、一切無用。
月の光を浴びて、それは神々しく聳える。
士郎とエヴァンジェリンの二人が居る湖畔からは遠く、遥か彼方で召還されたそれ――古の魔神を睨み据えて、彼はニヤリと笑った。
「……士郎?」
先ほどまでの諦めとは違う不思議なものでも見るような彼女の視線に、衛宮士郎は不敵に笑って返す。
「エヴァンジェリン。確かにお前の言う通り、俺はネギにとって邪魔な存在だろう」
――それは、前に彼女と激突し、そして言われた台詞。
『確かにお前は強いよ。だがそれ故に小娘には過ぎた存在だ。はっきり言って、お前は小娘の成長を阻害する邪魔な存在だよ』
それは無力な者が持つには過ぎた力。
諦め、絶望し――しかし前へ自力で進もうとする者が絶対に使ってはいけないカード。
衛宮士郎という名の“切り札(ジョーカー)”は、強いが故に弱者が持ってはいけない最悪の存在。
「だから、これが彼女を助ける最後だ」
ジリジリと包囲網を狭める魔族の軍勢。
それを先ほどまで絶望として見ていたエヴァンジェリンは、しかし今や既に彼の烏合の集など見ていなかった。
ボロボロにされ、機能を停止した自らの相棒を抱き、真祖の吸血鬼が見つめるは紛う事なき“正義の味方”。
己がパートナーを信頼し、パートナーである未熟な魔法使いでは無く無力な少女のためにこの場に残った馬鹿な魔術使い。
ワインレッドのスーツの内から、士郎は仮契約カードを取り出し、
そして、
「――“来れ(アデアッド)”」
――彼の剣が顕現す。
「なっ――!?」
それは絶対的な希望の光。
幾百の闇を並べようが色褪せる事なく屹立する最強の剣。
――蒼衣が翻る。
それを見てエヴァンジェリンは絶望を忘れた。
――金の髪が夜風になびく。
それを見て悪魔達が絶望する。
――鋼の鎧が月下で光る。
それを見て士郎は笑う。
「――お久しぶりですね、シロウ」
希望の化身である彼女は、そう言ってワインレッドの正義の味方に微笑む。
「ああ。久しぶり――セイバー」
彼女の背に百を越す魔を、神の如き災厄を目にしながら――士郎は微笑んで彼女を見た。
そんな二人を戦慄と共に眺めるしかないエヴァンジェリン。
世界屈指の魔法使いにして最強最悪と唄われた悪の魔法使いが――心の底から震え上がった。
「? シロウ? 彼女は?」
と、エヴァンジェリンの視線に気付き、士郎に問うセイバー。
「じつはな、セイバー。俺はコッチじゃ、柄にも無く教師をやってるんだよ。それで、この子は――」
言いながら、士郎はエヴァンジェリンの頭をポンと叩く。
「大切な教え子さ」
――それは、どんなに凄い魔法よりも素晴らしい魔法の言葉。
「…………良いのか?」
それは幾度目とも知れない確認の言葉。
エヴァンジェリンは今やボロ切れとなりかけたゴシック調の黒いドレスの裾を握り、顔を伏せて士郎に問う。
「私は悪い魔法使い……『闇の福音』だぞ?」
それでも貴様は助けるのか? 正義の味方――衛宮士郎に吸血鬼は問う。
「私は貴様達“正義の味方”の――」
「だからどうした」
遮り、衛宮士郎は笑う。クツクツと意地悪く、優しく、嘲笑う。
「エヴァンジェリン。俺が女の子を助けるのにそんな事を気にすると思うか?」
腰を折り、目線を合わせて士郎は問う。
そこが敵地の真っ只中とは思えない程に――そう、そんな些細な事など気にする事無く、衛宮士郎はエヴァンジェリンを見つめる。
「……お前は馬鹿だ」
「知ってる」
顔を伏せる彼女に笑って返し、士郎は立ち上がる。
そして彼はセイバーを見て、ニヤリと笑う。
「あれを任せる」
視線で彼方に聳える魔神を差して士郎。セイバーはそれに笑顔で頷き、
――躊躇無く、その場から跳び去った。
「良いものを見せてやるよ、エヴァンジェリン」
切り札を手放し、敵地のど真ん中に居ながら、士郎は威風堂々と告げる。
「これが本気の――」
最悪の驚異が去り、悪魔の群れが二人に迫る。
「正義の味方――衛宮士郎の剣の全てだ」
人外の咆哮と殺気の軍勢にハッと顔を上げるエヴァンジェリン。
百の魔物は死の津波となって彼らへ迫り、弱者を飲み込み最悪の具現にならんと勇み寄る。
だがしかし、衛宮士郎に恐怖など微塵も無く、
「――――“投影、開始(トレース・オン)”」
はらり、と彼の左手を縛っていた赤い布が夜風に舞い、
――遠く彼方で魔神が光に呑まれ、
圧倒的な魔力の奔流を感じて全ての邪悪が動きを僅か鈍らせ、
「――“体は剣で出来ている(I am the bone of my sword.)”」
紡がれる、ワインレッドの魔術使いの祝詞。
「――“血潮は鉄で 心は硝子(Steel is my body,and fire is my blood.)”」
衛宮士郎が体得する異界の神秘を喚ぶ呪文。
「“幾たびの戦場を越えて不敗(I have created over a thousand blades.)”」
彼にしか使えず、また彼にしか意味の無い旋律を紡ぐ。
「“ただ一度の敗走はなく(Unaware of loss.)、ただ一度の勝利もなし(Nor aware of gain.)”」
それは大切な少女を守って喪い、そして新たに手にした奇跡の顕現。
「“担い手はここに孤り(Withstood pain to create many weapons.)”」
――その世界には赤い、宝石の魔術師がいた。
その魔術師は衛宮士郎の魔術の師であり、大切な人の姉であり、最高の仲間だった。
――その世界には白い、雪国のお姫様がいた。
そのお姫様は衛宮士郎の妹であり姉であり大切な人の対局に位置する存在だった。
――その世界には衛宮士郎の愛する女性がいた。
その女性を救うために、その元凶を破壊した余波で世界から弾き出された。
「“剣の丘で鉄を鍛つ(waiting for one's arrival.)”」
この世界で彼は幼い魔法使いと出会い、そしてその子のために第二の人生を歩む決心をした。
「“ならば我が生涯に意味は不要ず(I have no regrets.This is the only path.)”」
禁断とされた知識の林檎をかじるようにして手に入れた未来の自分の力。
「“この体は無限の剣で出来ていた(My whole life was "unlimited blade works")”」
――世界が衛宮士郎に切り取られる。世界が衛宮士郎に浸食される。
「こ、れ……が……!」
戦慄と共にエヴァンジェリンは彼を――ワインレッドの魔術使いが生み出し、線引き、飲み込んだ世界を眺めた。
どこまでも荒廃した、剣の丘。
――固有結界『“無限の剣製(アンリミテッド・ブレイドワークス)”』を真祖の吸血鬼は畏怖を持って眺め回す。
「エヴァンジェリン。まだお前は、百の悪魔を前に絶望するか?」
世界屈指の魔法使いを背に庇う、世界でただ一人の魔術使いが笑みを浮かべて問い掛ける。
「今だ少しでも怯えると言うのなら――教えてやろう」
さながら教壇に立つ教職者のように、この世界の主は言った。
「相手はたった百有余。対するコチラは――無限だ」
混乱し、辺りを見回す悪魔達。それを正に見下すように彼は告げる。
「量より質という言葉もあるが――そこは安心して良い。例え相手が先ほど召還された魔神とて、この剣に勝てる道理は無い」
言って、士郎は一つの剣を手に取った。
それを見てエヴァンジェリンはギョッとする。
衛宮士郎の持つ剣。装飾の凝った金の刃のそれには見覚えがあった。
そんなエヴァンジェリンにニヤリと笑って、彼は無造作にその剣を振るった。
「――“約束された勝利の剣(エクスカリバー)”」
光が、走った。
それは夜を終える朝日のように――光が通り抜けたそこに、影などは無かった。
数瞬前まで居た数十の悪魔を消し去った極光。迸った魔力の高さに一種の恐怖すら覚えてエヴァンジェリンは士郎を見た。
「さて、これから課外授業を始めるぞエヴァンジェリン」
そんな彼女に彼はクツクツと笑い、両手を広げて剣の丘に突き刺さる無限の剣を示して告げた。
「ここにあるのは全て神話に登場する宝具の模造刀。しかして性能は見ての通り。ではエヴァンジェリン」
それは馬鹿げた授業だった。
一人の生徒に教えるは神世の魔剣。教材は無限の模造刀に百に迫る悪魔の群れ。
「この剣は何だか解るか?」
真祖の吸血鬼にして世界屈指の魔法使いは、知らず笑顔で答えていた。
「知るかよ、先生」


