嗣希創箱の消閑

小説、落書き、二次創作、etc…。 あなたの暇潰しのお供にどうですか♪ 

落書きキョン子2!

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「起きろ〜……」

 ゆさゆさ……

「お〜〜〜い……」

 ゆさゆさゆさ……

「いい加減起きろ〜」

 ゆさゆさ、ゆさゆさ……

「……お客さん、終点だよ」

 ゆっさゆっさ……

「ほおら! はやく起きろっての! ごはん作ったぞ!」

 ゆさゆさゆさゆさゆさ!

「……………………起きて、おにいちゃん」

 ――――がば!!

「っ!? ちょっ、おまっ――起きてたのかっ!?」



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《魔法少女リリカルなのはStrikers〜postscript〜》4

《魔法少女リリカルなのはStrikers〜postscript〜》





 ◇◆◇◆◇

 ――圧倒的だった。
 わたしもカローラちゃんも、雫ちゃんの前では等しく無力で弱かった。
 それが悔しかったかと訊かれれば……たぶん違うってヴィヴィオは答えると思う。
 だけど――カローラちゃんは違った。
「…………ッ!!」
「っ、カローラちゃんっ!!」
 模擬戦が終わるや走り去るカローラちゃん。その顔は、敗戦の悔しさと悲しさで今にも泣き崩れてしまいそうなほどに歪んでいて、だからヴィヴィオはカローラちゃんを追おうとして立ち上がり――

「追わない方が良い」

 ――雫ちゃんの言葉で止まった。
「……雫ちゃん?」
 振り向くと、雫ちゃんはコートのポケットに手を入れ、明後日を向いて、
「……ひとりにしてあげることが優しさになる時だってある」
 言葉をこぼすようにして、言った。
 ……雫ちゃん? ヴィヴィオは内心で首を傾げる。
 雫ちゃんはいつも通りの無表情だった。声もいつもみたいな凛としたそれだったし、纏う空気だっていつもと変わらなかった。
 ……だけど、ヴィヴィオには――

 途方にくれた小さな女の子に、見えた。

「ヴィヴィオ」
 呆然と雫ちゃんを見ていたヴィヴィオに、スバルさんが声をかけた。
「カローラの方はあたしが。だから、ヴィヴィオ」
 「クロスミラージュ……」と苦笑するように笑って言うスバルさんに、ヴィヴィオは素直に従って、彼女の手にデバイスを渡した。
 そして、
「スバルさん」
 ジッと、スバルさんの瞳をまっすぐに見る。
「ん、任せといて」
 頷きを一つ。スバルさんはそう言って屋上から去って行った。
「…………雫ちゃん」
 果たして、残ったのは雫ちゃんとヴィヴィオの二人だけ。
 ――さっきの模擬戦。
 ヴィヴィオはゆっくりと雫ちゃんの方へと視線を戻して、問う。
「どうして、あんなやり方……したの?」
 ――雫ちゃんの戦い方が卑怯なものだったから、負けたんじゃない。
 そんなことをしないで、雫ちゃんが初めっから正々堂々と戦っても……やっぱりヴィヴィオたちは負けてたと思う。
「……ねえ、雫ちゃん。どうして?」
 ヴィヴィオたちと雫ちゃんとの実力差はそれだけあって、そしてそのことに気付かないヴィヴィオたちじゃない。特にカローラちゃんは、そのことに初めっから気付いていたみたいだった。
 改めて思い返してみればわかる。あのカローラちゃんが、初めて会った女の子を相手に本気で攻撃し始めるなんておかしい。それでなくても雫ちゃんはデバイスを持って無いのだから、尚更だ。
「雫ちゃん……」
 そっと、雫ちゃんの手を揺すって、顔を見上げる。
 それに雫ちゃんは視線を明後日からヴィヴィオへと向け、また明後日へ。小さなため息を一つ挟んで、ようやく口を開いた。
「……例えば、自分より強い相手がいたとして」
 視線を合わせることはせず、顔や声に感情を宿すことすらせずに雫ちゃん。
「もしその相手が卑怯な手段をとる明確な敵だとして――……ヴィヴィオなら、そんな相手にどう対象する?」
 雫ちゃんの言葉にヴィヴィオは首を傾げる。それは、つまりさっきの雫ちゃんを相手にヴィヴィオならどうするのかってこと……かな?
「目には目を、卑怯な敵には卑怯な手で――……とは言わないまでも、せめて奇策を弄することぐらいはするべき。人質をとられているのなら尚更、でしょう?」
 どうやら雫ちゃんはヴィヴィオの答えに興味が無いみたいで、言葉は問いの形をしていながら、その口調は断定的で一方的だった。
「正攻法で勝てない。故に、自分より強い相手。……その前提を理解しながら、それでも正攻法でのみ抗うは愚作の極み」
 そして、と言葉を次ぐ雫ちゃんの声には今や明確な敵意が宿っていた。
「それを愚作と知りながら……勝てないと知りながら、それでも最初から最後まで……!」
 感情の発露は一瞬。すぐに雫ちゃんは顔や声から色を消し、ため息。いつものクールに過ぎる雰囲気を取り戻して、視線をヴィヴィオに向けて言った。
「失礼。ヴィヴィオには迷惑をかけましたね」
 肩を竦めて雫ちゃん。コートのポケットから手を出してヴィヴィオの頭に乗せ、僅かに瞳を細めるようにして苦笑する。
「私は汚い。だからヴィヴィオも、あまり近付かない方が良いですよ」
 ……ぁ。その時、ヴィヴィオはなんとなく雫ちゃんの言わんとしていることがわかった。

 ――私に近付くな。

 ……たぶん、それが答え。

 ――私を嫌え。

 雫ちゃんはたぶん、こう言いたかったんだと思った。

 ――私のようにはなるな、って。

 ◇◆◇◆◇

 雫ちゃんの横顔がなんだか独りになりたいって言っているように見えたヴィヴィオは、ちょっとだけしょんぼりとした気分で屋上を後にした。
 ……『ひとりにしてあげることが優しさになる時だってある』か。
 ぼんやりと、エレベーターの電光表示板を眺めて、思う。あ、恭也さんのこととか訊くの忘れてた……。
「……ま、いっか」
 ため息。なんかみんな明日っから『捜査部』に行くって言ってたし、明後日にはヴィヴィオも行くんだから、また後で聞けばいいや。
 エレベーターの表示が『七』になったのを確認して降りる。二度の模擬戦で汗かいちゃったし、夕ご飯の前にシャワー浴びよっかな。そう思って何の気なしに扉を開けて、

「おお!! おっかえりーヴィヴィオ〜!」

 固まった。
 ある意味意外性で言ったら雫ちゃんと恭也さん並に意外な、ここにいることが心底不思議な二人を目にして、ヴィヴィオは目を剥いた。
「な、なんで――」
 そこに居たのは、オレンジの髪の、犬耳と尻尾を生やした小さな女の子と、
 その子を背に乗せた大きな狼。
 つまり、
「――アルフとザフィーラがここにっ!?」
 フェイトママの使い魔――アルフと、
 はやてさん家の守護獣――ザフィーラは、揃ってこちらに顔を向けて、
「ん? 『なんで』ってそりゃ、ヴィヴィオが心配だったからさ。そんで、ちょこっとクロノたちに頼んでここの寮母になったわけ」
 『ニカ』とアルフは無邪気に笑って言った。「あ、ちなみにこっちは、このマンションの番犬ね」と、呆然とするヴィヴィオを抜きに自分が乗っているザフィーラを指してアルフは説明。
「――って、説明になってないよ!?」
 『ドカドカぁ』って玄関を慌ててあがってアルフに詰め寄る。あ、ザフィーラに乗っているせいかちょうど目線が合う――ってそんなことはともかくっ!
「ヴィヴィオが心配ってなに!? それに番犬って――!?」
 言葉を切る。視線をアルフから外して内側へ。今まで疑問にして、不安に思って、押し殺していたそこへと向けて、顔を俯ける。
 ――この春から参加・見学することが決まった陸士108部隊特殊テロ対策合同捜査部。
 ギンガさんと元・ナンバーズの面々を起用した対AMF戦特化部隊。
 宿舎にしては異常な設備のマンション。
 スバルさんとティアさんの転属。
 次元世界とは無関係の雫ちゃんと恭也さんの出勤。
 そして――ヴィヴィオ。
 ああ……やっぱりヴィヴィオは普通じゃないんだ。そう改めて思い知り、心を暗く落ち込ませる。
「……ヴィヴィオは――」
「お〜い」
 ヴィヴィオの顔を下から覗き込むようにしてアルフ。眉を『ハ』の字にしながらも笑顔を作り、俯くわたしの顔を持ち上げるようにしつつ、
「なぁに勘違いしてるかは……ま、なんとなくわかるけどさ。違うよ」
 ……なにが?
 なにが違うの?
「……あたしはヴィヴィオが特別だから来たんじゃない」
 え?
「ヴィヴィオがあたしの家族だから来たんだ」
 ……ぁ。アルフの笑顔に目を丸くして、ヴィヴィオは呆然とする。
「……でも、だって、ここのマンションて普通じゃないし」
 ヴィヴィオの呟くような言葉にアルフは苦笑して、
「そりゃあ、ねぇ。まあもともと特殊な新設部隊用の宿舎だし、そういう意味じゃ普通じゃないことの方が普通なんじゃない?」
 言う。
 それに、
「でもAMF戦用の部隊で……。いきなり春から課外授業なんて……」
 胸の内で、『疑問』という名の闇を作り出していた事柄を、
「スバルさんも、ティアさんも……。雫ちゃんも、恭也さんも……。なんで……」
 不安を、アルフに向けて、吐き出す。
「なんで……!?」
 そして、

「恐れることはない」

 それに答えたのは、アルフの下で今まで沈黙を守っていた紫の狼――ザフィーラだった。
 ……ザフィーラ?
 寡黙で、めったなことでは口を開かない彼の言葉に、半ば呆気にとられるヴィヴィオ。目をしばたいて彼を見ると、ザフィーラは『ふい』と顔を背けてリビングへ。そしていきなり歩き出したせいで「あわわっ!」と慌てたような声を上げるアルフを無視し、
「とにかく、まずは上がれ」
 立ち止まり、背中を向けながら言った。
「……ったく、相変わらず不器用に優しいねぇ」
 その様子にケラケラと笑いながらアルフ。そしてポカンと立ち尽くすヴィヴィオに向けてウィンクを一つ。
「あとヴィヴィオ。外から帰って来たら、なんて言うんだったかな?」
 ……………………かなわないなぁ。
 見た目だけならヴィヴィオより幼く見えるアルフに『ふっ』と零すようにして笑って、
「…………ただいまっ!」
 そして、
「おかえりっ!」
 ヴィヴィオとアルフは揃って笑顔を咲かせた。

 ◇◆◇◆◇

 一人では広すぎて、そして閑散としていたリビングも三人ならそうは感じない。
 大きな長方形のテーブルに向かい合って座りながら、アルフはゆっくりと口を開いた。
「まず第一に、だ。……ヴィヴィオも知っての通り、あの『JS事件』はまだ終わってない――ううん、正確には終わってるけど解決してないってところか」
 頬杖をつき、椅子から両足をぶらぶらと振りつつアルフ。ヴィヴィオはそれをちょっとだけ顔を強ばらせて見る。
 ……最近、ミッドの地上や近隣の世界を騒がしてる次元犯罪。その中に、あのスカリエッティが使ってたっていう技術や機械が使われていた。その上、『ガジェット』まで使った犯罪事件まで発生する始末で、ヴィヴィオとしては気になって仕方がなかった。
「あの『機動六課』が解散した今、その対策部隊が新しく出来るのは当然だし、ヴィヴィオだってわかるだろ?」
 ……うん、それはわかる。苦々しい思いのままアルフの言葉に頷いて、ヴィヴィオは思う。
 ……うん。それ自体は不思議じゃない。最近のニュース――特に魔導師を狙ったテロや襲撃事件にAMF技術を使われたものが増えたのを思い出しながら、考える。未だに魔法技術を頼りにしてる管理局の魔導師が、そのAMF下での戦闘に対応しきれないというのも、なんとなくわかる。
「それでその新設部隊の筆頭――というか、大元に、陸士108部隊が選ばれたのだって、流れとしては当然だってヴィヴィオも思うよ」
 もともと、あの事件後に元・ナンバーズの面々がギンガさんの部隊に配属されたらしいことは、知っていた。だから、AMF下での戦闘を主眼に置いた部隊で、ギンガさんたち陸士108部隊を大元として選んだ理由もわかるし、逆に選ばれない方が不自然に思える。
 ……でもさ。
「……アルフは雫ちゃんと恭也さんがこっちに来てる理由って知ってる?」
 ……なんでだろう。
 流れは自然なのに、それが意図的に思えるのは、どうしてだろう。
 わからないことが埋まって行けば行くほど、誰かの手のひらの上にいるような気がするのは、何故?
「? それって前になのはに訊いてなかったかい?」
 ヴィヴィオの問いに首を傾げてアルフ。果たして、それに無言で視線を向けるだけのヴィヴィオに、彼女は問いを重ねることはおろか嫌な顔をすることもなく、「あたしも又聞きだから詳しくは知らないんだけど――」と再び口を開いた。
「……ヴィヴィオは、さ。最近頻繁してるテロ事件の、その手口ってどんなだと思う?」
 え? アルフの予想外の問いかけにキョトンとする。
「手口って……だから、さっき言ってた機械とかで……AMFで魔法を使えなくして――」
 改めて言葉にして――『ハッ』とした。
 AMF――魔導師の魔法の発生を阻害する『アンチ・マギリング・フィールド』は、その名が示す通りの、フィールド系の技術だ。
 だから、AMF下で魔導師を倒すには魔法以外の技術を使うのが定石で、
 だから、ジェイル・スカリエッティは戦闘機人を生み出して、
 だから――
「違うよ」
 ヴィヴィオが何かを口にする前に、アルフは苦笑しながら手をヒラヒラ。それから急に真剣な表情になって、
「ヴィヴィオは殆どこっちにいるから、思いつかないんだろーけどさ。魔法を使えない状況下で人が人を傷付ける技術ってーのは、意外とコッチの――なのはんとこの世界の技術の方が確実で、物騒なのが多いんだよ」
 ? なのはママの?
 アルフの言葉に首を傾げる。魔法文化はおろか、技術水準で言えばミッドより数十年以上も前の世界の技術が……物騒?
 怪訝顔になるヴィヴィオからアルフは視線を外して、心底忌々しいというような顔になって言葉を継ぐ。
「魔法技術を一切使わない、質量兵器。作っちまえばヨチヨチ歩きの赤ちゃんだろーと指先一つで人が殺せる技術」
 ため息を一つ。ギョッとして目を剥くヴィヴィオに苦笑を向けてアルフ。
「で、そんな兵器を武装した相手にAMF下で真っ向から戦うってんだ。それなりの人材は必要だし、スペシャリストだって欲しい」
 あ。
 そこまで聞いて、アルフの言わんとしていることに気付いた。
「じゃ、じゃあ恭也さんたちって――!?」
「そゆこと」
 驚愕するヴィヴィオに軽く返して、アルフは頬杖をやめて椅子の背もたれにもたれ、ユラユラ。
「AMF下――魔法の使えない状況下で連中を倒すんは至難のわざ……っていうか、あたしじゃ無理だね。あんたは?」
 と、足下で伏せていた狼に話を振るアルフ。
 対してザフィーラは耳を少し動かし、ヴィヴィオにチラと視線を寄越しから明後日を向いて一言。
「魔法を使えないという前提では、打倒するのは不可能に近い」
 そ、そんなに!?
 思わずアルフとザフィーラとを交互に見て目を剥く。嘘……!? だ、だってアルフとザフィーラって、二人とも超一流なのに……。今日の模擬戦を鑑みて、雫ちゃんと恭也さんの実力を過小評価しているつもりはなかったけど、まさかそこまで強いなんて思ってもみなかった。
「ま、そんなわけで二人はコッチに呼ばれたっていう話。詳しくは相部屋なんだし、雫に直接聞いてくれ」
 ……う、うん。ヴィヴィオは半ば呆然としながら頷いた。
 あ、あとで雫ちゃんとお話しよう。そう心に誓いつつ、おずおずとアルフに向かって挙手。
「じゃ、じゃあ……ヴィヴィオがその部隊の見学することになったのって、なんで?」
 それにアルフはキョトンとした顔になって、
「は? そんなのあたしが知るわけないだろ?」
 ヒラヒラと手を振って言った。そして、
「……まあ、ヴィヴィオの学校がどういう理由で見学なんてさせる気になったんかは知んないけどさ。もしかしたら、その見学先を件の新設部隊にしたんは誰かの意図かもね」
 言って眉根を寄せるアルフ。それから「たしか〜……」と頭をかきかき口を再び開き、
「ヴィヴィオの通ってんのって教会関連のとこだろ? だから後で、はやてとかに聞けば、案外もしかするともしかするかもだぞ」
 と、少し考えてから言葉を次いだ。
 ……ああ、そっか。それを聞いてヴィヴィオは、改めてその可能性に気付いた。今までヴィヴィオは全部が全部、誰かの意思が絡んだ結果だと思ってたけど……もしかしたら、その大半が偶然で、実はその一点だけが意図的だったのかも知れない、と思った。
 AMFテロの多発から新設部隊発足までは局の思惑で、
 学校の、いわゆる校外学習の見学先がそこなのがヴィヴィオのことを慮った誰かの意図。
 よくよく思い返せば、不自然で意図的なのはヴィヴィオの見学先がギンガさんの部隊っていう点だけで、恭也さんや雫ちゃん、ましてやスバルさんやティアさんが転属されたからって、別に出来過ぎた話じゃ――
「って、そうだよ! スバルさんたちがなんで転属されたのかって、アルフは知らない!?」
 バン、て勢いよくテーブルを叩いて問うヴィヴィオを見て、
「ああ、それなら――って、わあ!?」
 絶妙のバランスで椅子を斜めにして座っていたアルフは、それに驚いたのか後ろへとひっくり返った。うわ……。なんだかすっごく痛そうな音が聞こえて思わず視線を逸らすヴィヴィオ。あ、あんな座り方してるアルフが悪いんだもん。ヴィヴィオは悪くないの!
「つつつ……。って、それこそ本人に聞けば良いんじゃないか? 明後日にゃ会えるんだろ?」
 あ……。打った腰を押さえながらのアルフの台詞に、ヴィヴィオは自分が結論を急ぎ過ぎていたことに改めて気付いた。
 ……そうだよ。明後日にはスバルさんたちに会えるし、雫ちゃんたちのことは相部屋なんだしいつでも聞けるじゃん。なに焦ってるんだろ……。
「……ごめんね、アルフ。ヴィヴィオ――」
「それで、だ」
 『しゅん』とするヴィヴィオの言葉を遮ってアルフ。腰をさすりさすり、伏せていたザフィーラに腰掛けてウィンクを一つ。
「ザフィーラはさっきも言った通りこのマンションの番犬。最近のニュースじゃ部隊の宿舎を狙ったテロってのも多いって聞くからね。その辺をくんで、ヴィヴィオのことを聞いてたはやてが念のために寄越したんだってさ」
 嫌な顔一つせず、明るい笑顔を絶やさずにアルフは言う。
「そんで、あたしが来たんはヴィヴィオが不安になった時に助けられるように!」
 アルフ……! その言葉にヴィヴィオは思わず椅子を蹴ってアルフに抱き付いていた。
「ごめん……! ごめん、ね……!」
 感極まって泣き出すヴィヴィオに「あ〜よしよし」と言って、まるで幼子をあやすみたいに抱き返して頭を撫でてくれるアルフ。そして、
「ああ、それから、ヴィヴィオ? 別にあんたは何も悪いことしてないし、あたしもヴィヴィオに迷惑をかけられたなんて思ってないから、『ごめん』は無いだろ?」
 ふえ? アルフに両脇を抱えられて顔を離され、自然に目と目が合うようにされながら、首を傾げる。
 それを見てアルフは『ニィ』って笑い、
「こーいう時は『ありがとう』ってんだよ!」
 そっと、ヴィヴィオの涙を拭った。
 ……ぁ。だけど、ヴィヴィオの涙は後から後から流れて、
 アルフはそれを見て、『仕方ないなぁ』って感じの微笑になって、
 指先で拭うのをやめて、ヴィヴィオを胸にそっと抱き締めた。
 そして、
「…………ありがとう」
 わたしはアルフの胸に顔をうずめながら、万感の思いを込めて、言った。





次話/前話

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流行の波に呑まれて……

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『涼宮ハルヒの憂鬱 SS(仮)』


《嘘予告》


 ――ああ、そうだな。確かにこうなった原因の一端は俺にもあるだろう。

「なあハルヒ? 宇宙人、未来人、超能力者ってのはなんとなくわかるが……異世界人ってなんだ?」

 ――ええ、そうね。確かにこうなってしまった原因の一端はあたしにもあるわ。

「……よくはわからないけど、でももし本当にこことは違う世界に性別の違う自分がいるのなら、会ってみたいと思う気持ちもわからないでもないわね」

 ――ああ、確かに俺は言ったさ。異世界人に会ってみたいと。

「今日からみなさんと一緒に勉強させていただくことになりました……小泉今日子です」

 ――ええ、確かに言ったわ。性別の違う自分に会ってみたいって。

「じつは、この子は僕の従姉妹なんです」
「え゛!?」

 ――でもな、ハルヒ。

「……こっちの先輩もバニーガールになったんですね」
「ええ!! 『こっちの先輩も』って、『も』ってなんですか〜!?」

 ――でもね、ハルヒコ。

「……………………ああ、長門は長門なんだ。あなただけはなんだかすっごく違和感がない」
「……そう」

 ――なにも本当に、異世界の俺を連れて来なくても良いだろ?

「……あんた、もしかしてキョンのこと好きなの?」
「はい?」

 ――なにも本当に、異世界にあたしを跳ばさなくても良いでしょう?

「もしかして…………俺か?」
「やっぱり…………あたし?」




 ※ 元ネタが解らない方は今すぐ『ダルデレ』もしくは『キョン子』でググってみよう!

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《魔法少女リリカルなのはStrikers〜postscript〜》3

《魔法少女リリカルなのはStrikers〜postscript〜》







 春の陽気にあって、全身を漆黒で統一した月村恭也の格好は些か以上に不自然だった。
 それでなくても長身痩躯に整った容貌の恭也である。その上、教導隊に正式採用される防護服と同質のロングコートを羽織り、手には『ずっしり』と重厚なデザインのボストンバッグを下げているのだ、目立たないはずがない。

 ――本来、ならば。

 恭也がごくごく自然な動作で人目を避けながら移動していなければ、前述の通りに目立っていただろう。そしてそうなれば、彼がそこに辿り着くまでにはもう少しの時間を有したことだろう。
 そこ――地上十二階の超高級マンションの最上階。幾重にも張られた防犯設備によって半ば外界とは遮断された十二階のそこへ、恭也は誰の目にも触れることなく行った。
「…………ん?」
 部屋中を縦横無尽に埋め尽くす電子機器。そしてその灯りのみを光源としたほの暗いそこには先客がいた。
 あれは……。幾つかの空中投影されたディスプレイの画面に囲まれるようにして座す、長いオレンジの髪の女性――ティアナ・ランスターを見つけ、恭也は瞳をほんの僅か細めた。
「ぁ――」
「ちょ〜っとあんたのちからを二人に見せたげるだけだからさ!」
 まさに恭也が声をかけようとした――その瞬間にティアナは画面の一つに向かって叫んだ。
 ……失敗したな。声をかけるタイミングを完全に逸した恭也は内心でため息を一つ。ティアナから視線を逸らして頭をかいた。ついいつものくせで気配を殺し、無音で接近したのが仇となってしまった。
『……しかし、ランス――ティアナさん。私は魔法を――』
 ん? どこからともなく響いた少女の声に眉を寄せる。この声は――
「いいからいいから! もともとあんたに『魔法戦をしろ!』なんて無茶は言ってないでしょ? ――雫」
 視線を、ティアナへと戻す恭也。そして彼女が交信中らしいディスプレイをそれとなく確認して――苦笑する。
 ……そうか、あの子も来ていたんだったな。
『そ・れ・よ・り! なんでさっきっから戦わせよう戦わせようってしてんのっ!?』
 旧姓・高町恭也の末妹――高町なのはの娘、高町ヴィヴィオを映す画面を眺めながら、恭也は再び瞳を細めた。







 第二話 け・ん・え・ん?



 ――おかしい。
 スバルさんもティアさんも変だ。なんか隠してる!
 ヴィヴィオはマンションの屋上で、映像ディスプレイ越しにティアさんを睨む。
「いきなり『模擬戦、模擬戦』ってなに!? ヴィヴィオは模擬戦なんて――」
 したくない、と言おうとして――

『良いんじゃないか』

 ――遮られた。
「え……!?」
 目を剥く。
 ディスプレイの向こう――同じく瞳を見開くティアさんの隣に立つ男の人を見て、言葉を無くす。
「きょ、恭也さん……!? どうして――」
 果たして、ヴィヴィオが口を開いたのと、
「やります」
 雫ちゃんが妙にキッパリとした物言いで返したのが同時。
「模擬戦やります」
 …………え?
 ジッと画面上の恭也さんを見ながら告げる雫ちゃんを見て、瞳をパチクリ。え? なんで?
 そうやってヴィヴィオが半ば呆然としている間に、
『そうか。頑張れ』
「はい、父さま」
 ウィンドウは消滅した。って、なんか勝手に話が決まってる!?
 ギョッとして、いつの間にかやる気満々になってる雫ちゃんが一歩後退。そして最後の望みを託すように、今は遠くにいるカローラちゃんへと視線を向けて――その隣にスバルさんが居るのを見つけて肩を落とした。
 ……ああ、デジャヴが。……って言うか、またですかスバルさん。
「…………」
「…………」
 ヴィヴィオを抜きにして睨み合う雫ちゃんとカローラちゃんを見て、ため息を一つ。仕方ないなぁ……。視線を、またしても明後日に向かって口笛なんか吹いてるスバルさんへと向けて口を開いた。
「……スバルさん、ルールはどうしますか?」
 ほんとに……仕方ないなぁ。

 ◇◆◇◆◇

 屋上は広い。それこそ小さなスタジアムと同じぐらいの、もしかしたらサッカーのグラウンドぐらいは入りそうなほどはある。
 だから十メートルぐらい離れて雫ちゃんと対峙してもぜんぜんスペース的には余裕だ。その屋上を半円形に包む結果内での空戦だって窮屈とは思わないほどだから改めて広いと思う。
「ルールは時間無制限の、敗北条件指定の一本勝負。ヴィヴィオとカローラはさっきと同じで『セーフティーシールド』が作動したら負けで、雫は二人の攻撃がヒットしたら負けね」
 そして対峙するヴィヴィオたちの中心に立って、スバルさんはこの模擬戦のルールを説明してたんだけど――それを聞いてヴィヴィオは目を剥いた。
「ええ!? ヒットしたらって――雫ちゃん、二対一だよ!?」
 ヴィヴィオとカローラちゃんの二人を相手に雫ちゃんは一人。しかもヴィヴィオたちはまだ、スバルさんたちのデバイスを貸与されたままで、対する雫ちゃんは見たところデバイスは無し。
「それに雫ちゃんて、魔法使えるの!?」
 もし魔法を使えないのだとしたら危ないよ!? そう続けようとしたヴィヴィオに、「大丈夫、大丈夫」とスバルさんはにこやかに言った。
「さっきの模擬戦と同じでデバイスたちは『非殺傷設定』だし、雫の着てるコートって教導隊とかで正式採用されてる防護服と同じぐらい頑丈だから、たとえ被弾しても――」
 そしてその言葉を、
「問題ありません」
 凛とした声で遮り、雫ちゃんはどこまでも涼しい顔をヴィヴィオに向けて言った。
「そのルールでなら、私に『負け』はありませんから」
 え?
 目を丸くして雫ちゃんを見る。え、え? だって一回でも魔法が当たったら負けなんだよ? ヴィヴィオとカローラちゃんの二人がかりなんだよ? それでも雫ちゃんは――
「油断してはいけませんヴィヴィオさん」
 不意の呼びかけに隣を見る。カローラちゃんは困惑するヴィヴィオを諫めるように表情を引き締めて、言葉を次いだ。
「今、ヴィヴィオさんの懸念している事柄はスバルさんもご存知のはずです」
 あ。カローラちゃんの言葉に『ハッ』とする。そうだよ、ヴィヴィオの心配してることにスバルさんたちが気付いてないはずないよ!
 だからきっと、雫ちゃんは本当に魔法が使えなくて、
 だけどそれでも、雫ちゃんはヴィヴィオたち二人を相手に被弾無く勝てる――と、スバルさんたちは思っているのだろう。
 つまり、それは――
「見返してやりましょう」
 ヴィヴィオの表情の変化を見て取りカローラちゃん。悪戯っぽく笑って、ウィンクを一つ。カローラちゃんはヴィヴィオに拳を突き出した。
「そだね!」
 それにニコリと笑って返し、ヴィヴィオはカローラちゃんの拳に自分のそれを『コツン』と当てた。
 ……いいよ、スバルさん。
 視線を対峙する雫ちゃんへと戻して獰猛に笑う。いいよ、見せたげる。こっちに来たばっかりの雫ちゃんが見たこともないような本気の魔法を――ヴィヴィオたちの強さを見せたげるよ!
「それじゃあ行くよ? レディー……――ゴー!!」
 開始の合図と同時に、隣のカローラちゃんはまた魔力を爆発させるようにしてダッシュして刹那の内に雫ちゃんと肉迫!
 ヴィヴィオはいったん空へと魔法で浮き、
 雫ちゃんは弾丸のような勢いで迫って来たカローラちゃんなど気にする気配すら見せずに、ただ『だらん』と両手を下げた自然体で佇んだまま、
「ハァアアアア!!」
 拳を振りかぶるカローラちゃん。
 ヴィヴィオは中空に離脱しつつ周りに虹色の魔法球を――『ディバインスフィア』を生み出して雫ちゃんを狙い、
 そして雫ちゃんは――
「ヴィヴィオ」
 ゆっくりと、自然な動作でヴィヴィオを見て、
 迫り来るカローラちゃんの拳を、ほんの僅か体を傾けただけで避けて、
 常のクールな無表情に若干の苦笑を混ぜて、
「スカートのフォック……直した方が良い」
 え? 一瞬、なにを言われたのかわからずにキョトンとするヴィヴィオ。それからすぐに雫ちゃんの指摘が何を指しているのかを察して、慌ててスカートのフォックへと顔を向けた。
「わわわ!」
 もしかしてファスナー開いてた!? そう思って見たそこは、予想に反して別段ヴィヴィオには問題があるようには見えず、
 首を傾げて、視線を雫ちゃんへと――

「ヴィヴィオさん!!」

 ――戻そうとして、そしてカローラちゃんの声に『ハッ』と我に返った時には既に手遅れ。
「……え?」
 キィン、と。
 眼前に張られた『セーフティーシールド』に何かが弾かれた音と軽い衝撃があって、
 気付いた時にはもう、

 ――ヴィヴィオは、負けていた。

 ◇◆◇◆◇

 完全な不意打ち。思いっきり単純な騙し討ち。
「ちょっ――!?」
 ヴィヴィオはたまらず抗議の声を上げようとして、
「雫さん!!」
 それ以上の怒号によって遮られ、言葉を失う。
 え? カローラちゃん……?
 ヴィヴィオは目を丸くして、らしくない、怒りを露わにするカローラちゃんを見た。
「あなたはまたっ! あなたは――!!」
 ドン! ドン! 魔力を爆発させての、すごい速さでのフットワークを見せてカローラちゃん。当たれば、たとえ防護服の上からでもただじゃ済まないだろう、一撃一撃にすごい魔力を乗せた彼女の拳は――だけど、決して当たらない。
「…………」
 速くて重い――だけどその代わりに大振りなカローラちゃんの攻撃を雫ちゃんは完全に見切っていた。
 その上、カローラちゃんの攻撃の間に、その攻撃よりも速い挙動で手を振り上げ――投擲!
「くっ……!!」
 ギィン! ィン!!
 カローラちゃんがとっさに張ったバリアに弾かれる雫ちゃんの投げた小さな刃物。って、そんな物騒なものをさっきヴィヴィオに投げたの!?
「し、雫ちゃ――!?」
「動くな!」
 ヴィヴィオの抗議は、いつの間にか隣まで近付いていた雫ちゃんによってまたしても遮られ――って、…………あれ? なんでヴィヴィオの首筋に刃物なんて当ててんの?
「……失礼、ヴィヴィオ」
 困惑するヴィヴィオに雫ちゃんは小さな声で言った。
「少しの間だけ大人しくしてて。最悪、手元が狂うとケガさせてしまうかも知れないから」
 え? これってやっぱり――ヴィヴィオ、人質? …………模擬戦で?
「ちょ、ちょっと雫ちゃん!? なんで――」
「卑怯者!!」
 そしてヴィヴィオの抗議はまたしても遮られる。ああもうっ! なんでみんなしてヴィヴィオに喋らしてくれないかなぁ!?
「これは模擬戦です! 今すぐヴィヴィオさんを離して下さい雫さん!」
 声を荒げて、それでも律儀に人質のヴィヴィオのことを慮ってかその場から動かないカローラちゃん。うんうん、その通り! なんだか少しでも動いたら『チク』ってされそうな雰囲気だったので、ヴィヴィオは内心だけで大いに頷いた。
 そしてそれに対する雫ちゃんは、やっぱりどこまでも涼しい顔を崩さずに「卑怯者?」と逆にカローラちゃんを挑発するようなニュアンスを込めて冷笑。
「私はルールに違反したことはしていませんが?」
 ……そりゃあ、模擬戦で人質取る人なんて普通いないし。それ以前にルールって敗北条件以外はけっこう穴だらけだよ?
 ヴィヴィオは視線に抗議の意志を乗せて雫ちゃんを見る。さっきの騙し討ちは……ヴィヴィオが油断したせいでもあるから良いけど、これはさすがにダメだと思うよ?
「あ、あなたは――!!」
「それから、ミス・エルグランド……あなたは仮にも魔法を使う者でしょう? 故に、このような稚拙な問答などより先に、口にすべきことがありますでしょう?」
 額に青筋すら浮かべて本気で怒ってるカローラちゃんに対し、雫ちゃんは冷笑を口元に浮かべたまま、軽く首を傾げて見せる。
 そして、
「……ヴィヴィオは気付いてますか? 彼女の目がよくないことに」
 口元を動かさずに、ヴィヴィオにしか聞こえないだろう声量で雫ちゃんは言った。
 え? 突然の、思いがけない言葉に目を丸くして、カローラちゃんを見る。そして――あ!? 模擬戦をする前、彼女が眼鏡をかけていたことを思い出す。
「…………!」
 不機嫌さを隠そうともせず雫ちゃんを睨むカローラちゃんを見て、気付く。そっか、だからカローラちゃんは動かないんだ。
 熱くならず冷静に現状を鑑みる。
 今、たしかに雫ちゃんはヴィヴィオを人質にとってる。だけど客観的に見て、現状は膠着していることの方がおかしい。
 人質のヴィヴィオは仮にも魔導師だ。しかもいざっていう時にオートでシールドを張ってくれる優秀なデバイスまで装備してる。だからもしヴィヴィオがカローラちゃんの立場なら――人質は人質たりえない。そもそも非殺傷設定なのだから、最悪、人質もろとも打ち抜いちゃえばそれで終わり。
 それなのに、カローラちゃんは動かない。人質になんてならないヴィヴィオに躊躇して、動けない。
 何故なら――カローラちゃんは、きっと射撃系の魔法が使えないから。クロスレンジですら相手がよく見えなくて大振りになっちゃうカローラちゃんには、たぶん中・遠距離用の魔法が無いのだろうから。だからカローラちゃんは――

「……ヴィヴィオさんを離して下さい」

 ――そう思ってたけど、違った。
 ……あ。カローラちゃんが構えを解いたのを見て、ヴィヴィオは自分の思い違いに気付いた。
「……私の負けで構いません」
 中・遠距離用の魔法が無いから――じゃない。
 クロスレンジでの魔法ですら、間違ってヴィヴィオに当てちゃうかも知れないから――でも無い。
 人質にならないとか、ヴィヴィオが魔導師で優秀なデバイスを持ってるからとか、そんなことは関係ない。カローラちゃんはただヴィヴィオに万が一にもケガをさせたくないから動かないんだ。
「……カローラちゃん」
 初めて出会ったのは一週間前。

 ――『ヴィヴィオ』って、まさか高町ヴィヴィオさん……!? うそ……!?

 それまでは話したことすら無かった。

 ――わー……! わー……! 私、ヴィヴィオさんにお会い出来て嬉しいです……!

 それまでは、まったくの赤の他人で、

 ――ヴィヴィオさん……! 是非、私と――

 だけど、今は――

 ――私と、お友だちになって下さい……!



「――この偽善者が……!」



 それは、初めて耳にした雫ちゃんの怒気を孕んだ声。
「……冗談は終い」
 常の澄んだ清水の如く凛とした声は、今やドライアイスのように冷たく、触れたものすべてを傷付けてしまうようなそれへと代わり、
 その身に纏う月夜の湖畔を思わせる空気も、極寒のツンドラ地帯を彷彿とさせる冷めきったそれへと代わって、
 雫ちゃんは何故か――……すごく怒っていた。
「ヴィヴィオは解放しますよ。その上で、改めて決着をつけましょう」
 そう言って、雫ちゃんはヴィヴィオから手を離して一歩下がった。
 そして、
「構えなさい、ミス・エルグランド」
 雫ちゃんは初めて、腰を落として半身に構え、両手をコートの内側へと潜らせて言った。
「あなたが持つ最強の技を私に。そして私は、それを完膚無きまでに打倒して、あなたに勝ちます」
 果たして、その言葉に、
「…………はい」
 カローラちゃんは静かに応え、腰を落として右手を振りかぶり、
 雫ちゃんは纏う空気に殺気すら込めて、
 カローラちゃんの足下には蒼い魔法陣が浮かび、
 それらを見て、ヴィヴィオが慌てて二人の射線上から退避しようとして、
 そして、
 いきなり、

 ――雫ちゃんに突き飛ばされた。

「「――――!?」」
 虚を突かれ、目を剥くヴィヴィオとカローラちゃん。そして次の瞬間、
「っ! あなたって人はぁああああ――――ッ!!」
 ドン、と。カローラちゃんの足下で魔法陣が爆発し、
 キィン、と。ふらついたヴィヴィオの背後で軽い衝撃と金属質の何かが弾かれる音がして、
「うぁっ――!?」
 ヴィヴィオはバランスを崩して、
 カローラちゃんはそれ見て、ギョッと目を剥いて、
「――ッ!!」
 雫ちゃんは構わず――寧ろ、初めからそれを見越して――最初っからヴィヴィオを狙って、小さな刃物を投擲!
 なっ、なんでヴィヴィオを!? そう思いながらも何とかそれを防ごうと体を捻って――コケた。
「わぁ!?」
「ヴィヴィオさん!!」
 キィン! バランスを崩して転倒しかけるヴィヴィオを、カローラちゃんは左手で抱きとめつつ、右手でバリアを張って投擲された刃物を弾き――

「あなたの負けです、ミス・エルグランド」

 ――ヴィヴィオは見た。
 それは本当に刹那的な、一瞬の出来事だったけど、たしかに――雫ちゃんのその両手に、いつの間にか握られていた『それ』を、見た。
 そして『それ』は――銀の刀身輝かす小太刀二刀は、残像すら残さない、ものすごい速さで駆け抜けて、
「ぁぐっ!?」
 ヴィヴィオのせいで身動き出来なかったカローラちゃんを――マッハキャリバーが張ってくれたシールドの上から斬りつけ、
 即座に、雫ちゃんは小太刀をコートに収め、
 それと殆ど同時に『ィン!』というシールドに攻撃が当たったことを告げる音が鳴って、
 それこそ瞬きの内に、

 ――勝敗は決していた。

 そして、
「そこまで――――!」
 スバルさんの、模擬戦終了を告げる号令に――……ヴィヴィオとカローラちゃんは、ほとんど何の反応も返せなかった。






次話/前話

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……直った、かな?

 ブログのカテゴリーをいじっていたら、なにやら全部が全部ぐちゃぐちゃになっちゃいました。ネット関連初心者の嗣希創箱です、こんばんは。

 とりあえず気付いた範囲では直せているはずですが、嗣希創箱の気付かぬどこかで変なことになっているようでしたらお知らせ下さい。早急に直したく思います。

 話は変わりまして、現在連載中のSS、《魔法少女リリカルなのはStrikers〜postscript〜》につきまして。本日の更新により新たに登場しました『彼女』に関しまして、嗣希創箱は現在、以前にどこかの雑誌にて掲載されたらしい『彼女』の絵を探しています。ご存知の方がおりましたら是非、情報を下さい。それにともなって『彼女』の外見描写の変更もありえますので、よろしくおねがいします。

 次回の更新も《魔法少女リリカルなのはStrikers〜postscript〜》です。お楽しみに

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《魔法少女リリカルなのはStrikers〜postscript〜》2

《魔法少女リリカルなのはStrikers〜postscript〜》






 ◇◆◇◆◇

 ふわり、と。模擬戦の終了を告げるスバルさんの声を聞いて、ヴィヴィオは屋上へと下りた。
「……ふぅ」
 瞳を閉じて、そっとため息。
 ……あれ?
 そうして吐き出してから、ゆっくりと瞼を開いて――考える。ヴィヴィオはどうしてため息なんかを?
 負けたのが悔しくて――じゃない。
 疲れたから――じゃない。
 模擬戦にノリ気でなかったから――……かもしれない。
「…………ぁ」
 視線を、右手に握られたデバイスへと落として――気付いた。
 そっか。さっきのため息は――

「ヴィヴィオさんっ!」

 ――内心で苦笑を浮かべて、カローラちゃんへと笑顔を向けた。
「あはは! やっぱりヴィヴィオが負けちゃった」
 「やっぱり強いねーカローラちゃんっ!」そう言いながら頭をかく。それを見て「い、いえいえそんな!!」と、慌てて手を振り乱すカローラちゃんにニコニコしながらヴィヴィオは駆け寄る。
「ううん! やっぱり学校で模擬戦無敗なのは伊達じゃないねっ!」
 真っ赤な顔をして尚も「いえいえいえ!!」と謙遜し続けるカローラちゃんの手を取って、振り回す。すごいすごい! さっすがベルカ式魔法クラスのトップ! ヴィヴィオは素直に感激し、目をキラキラさせてカローラちゃんを見上げた。
「……いやぁ、すごいね、二人とも」
 そんなヴィヴィオたちにスバルさんが苦笑いを浮かべつつ近付いて来た。
「スバルさんっ!!」
 それだけで、今まで『あわあわ』言っていたカローラちゃんのテンションが上がる。ああ、尻尾が……ブンブン振られてる尻尾が見えるよ、カローラちゃん。ヴィヴィオは苦笑してカローラちゃんから手を離した。
「それにしても……ヴィヴィオが空戦できるのは聞いてから驚かなかったけど、カローラがあんな魔法を使えるなんて思わなかったからビックリしたよ」
 そんな、スバルさんの笑顔での賞賛に「あ、あわわわ……!?」と真っ赤になって縮こまるカローラちゃん。あはは、照れてる照れてる! なんか下を向いた犬耳が見えるようだよカローラちゃんっ!
 でも……さっきのはヴィヴィオもビックリしたなぁ。先ほどの模擬戦を思い返して改めて思う。うん、やっぱりすごい。自慢じゃないけど、ヴィヴィオだって学校の模擬戦は無敗だったのになぁ。
 カローラちゃんとは学年も選択クラスも違うから、学校じゃやったこと無かったけど……これは学校でしてても勝てなかったかなぁ。それこそヴィヴィオが本気を出さないと――
「ヴィヴィオもビックリしちゃった!」
 ――自分の考えを否定するように、ただただ素直にカローラちゃんを賞賛する。
 本気を出さないと? ……なにそれ? ヴィヴィオは本気だったよ?
「あ〜あ。ヴィヴィオのクラスの子には、ヴィヴィオが空飛ぶだけで勝てるのになぁ」
 『ぶー』と唇を突き出して不平を漏らす。
 それにスバルさんは「それはそうだよ」と苦笑する。どころかカローラちゃんまでが苦く笑って言った。
「ヴィヴィオさんのクラスでは、まだ飛行魔法は教えていませんから……」
「それに……たしかヴィヴィオのクラスって、ミッド式の初級魔法までしか教えないんでしょ? ……それで実戦レベルの空戦魔導師となんて勝負にならないよ」
 カローラちゃんとスバルさんがさも当たり前みたいな顔して言うのに対して、ヴィヴィオは「え〜」と不満顔になって反論する。
「だけど、なのはママとフェイトママはヴィヴィオと同じ九歳の時には空戦できたよ〜?」
 空戦できないのが当たり前――そんな風にクラスのみんなも言うけど、それは違うってヴィヴィオは思う。
「いやぁ、あはは。それはヴィヴィオのままたちが特別――」
「はやてさんも! ユーノさんも飛べたって言ってたよっ!!」
 若干引きつったような笑みを浮かべて言うスバルさんの言葉を遮って、身を乗り出すようにして言葉を次ぐ。
「特別なんかじゃないもん! ヴィヴィオが飛べるからっておかしくないっ! おかしいのはそれだけで勝てないみんなが――」
 そこまで言って、『ハッ』とする。ヴィヴィオは何を……。我に返った途端に泣きたくなって顔を伏せる。うう……自己嫌悪で涙出そう……。
「ヴィヴィオさん……」
 そんなヴィヴィオの肩に手を置いて、カローラちゃんは優しい声で言った。
「だから……手を抜いたんですか?」
 っ!? カローラちゃんの言葉に肩を跳ねさせる。
 ギョッとして顔を上げた先で、カローラちゃんは声音とは裏腹にヴィヴィオのことを強く睨んでいた。
 ……ぁ。
 カローラちゃんから知らず知らず内に視線を外していたヴィヴィオに、カローラちゃんは呟くように「やっぱり……」と。
 それを聞いてヴィヴィオはまた肩を『びくり』と跳ねさせた。
「……『やっぱり』ってなに?」
 下から上目遣いでもってカローラちゃんを睨む。『やっぱり』ってなに? やっぱり、ヴィヴィオが手加減したって言うの?
 ……違うよ。カローラちゃんは自分のちからを卑下し過ぎ。ヴィヴィオのことを買い被り過ぎなんだよ。さっきのは本気で――そんな風に、視線に不平不満を込めて見るヴィヴィオに対して、カローラちゃんは、
「さっきの模擬戦で、ヴィヴィオさんは初めにベルカ式の魔法を使ってました」
 キッパリとした物言いとは正反対の、オドオドとした迷いを孕んだ困惑顔をして言った。
「だけど、それ以降はミッド式の魔法で――」
 しまった、と思った。だから慌ててカローラちゃんの台詞を遮る。
「だから? ヴィヴィオは『ミッド』のクラスだよ? 当たり前じゃん!」
 早口でまくし立てるヴィヴィオにカローラちゃんは「ですけど!」と今までとは違って声を荒げるようにして言葉を次ぐ。
「ヴィヴィオさんは私の――!!」
 そして、
 その途中で、
 カローラちゃんは『ハッ』と何かに気付いたように慌てて視線をヴィヴィオから逸らした。
「…………?」
 それを見て、ヴィヴィオは怪訝顔になって首を傾げる。なに? なんで言葉を途中で切るの?
 ヴィヴィオはちょっとだけイライラしながら、半ば喧嘩腰になってカローラちゃんを――

「――お邪魔をしてしまいましたか?」

 ――罵倒しかけて、突如かけられた凛とした声を聞いて、止めた。
「っ!?」
 この声って――!?
 聞き覚えのあるそれにヴィヴィオは『バッ』と勢い良くカローラちゃんの向いた方――屋上隅のエレベーターの出入り口へと向けて、
「……………………え?」
 絶句。
 瞳を限界まで見開いていきなりの珍入者を凝視する。
「失礼。……しかし、私たちもこちらでは他に寄る辺がありません。ですから、出来れば同席を許可していただきたいのですが?」
 ヴィヴィオの視線の先にいるのは、きめ細かな美しい白肌と、対照的な漆黒の髪の女の子。
 彼女の後頭部で一つに結い上げられた艶やかな黒髪が夜色だとすれば、その身を纏うロングのコートとシックなデザインのワンピースはさながら影のような黒色か。十三歳という年齢以上に童顔で子供っぽい雰囲気を放つカローラちゃんとは対照的な、大人の落ち着きと凛とした雰囲気を纏う十一歳。そんな彼女にヴィヴィオは見覚えがあった。たしか名前は――
「――し、雫ちゃん!? どうしてここに……!?」
 驚愕するヴィヴィオに視線を向けて、彼女は――月村雫ちゃんは、涼しげな表情を崩さずに一言。
「ヴィヴィオ……問いに問いで返すのは失礼ですよ?」

 ◇◆◇◆◇

 不意の、雫ちゃんの登場でヴィヴィオたちのいる屋上には微妙な空気が漂っていた。
 それは清々しい春風が吹き抜けても変わることなく、どこまでも涼しい顔のまま佇む雫ちゃんを中心として滞り続ける。あ、あれ? どうして? さっきまで半ば険悪なムードだったヴィヴィオとカローラちゃんのせいだ――そう思ってたけど、違った。
「…………………」
「…………………」
 険悪なのはむしろ、カローラちゃんと雫ちゃんの方だった。
 スバルさんが関わらないことだとオドオドしがちなカローラちゃんが、雫ちゃんを睨んでるのもそうだし、雫ちゃんにしたって彼女に一切視線を向けないのはおかしい。
 え? なんで? ヴィヴィオの知ってる雫ちゃんは、いっつもクールな無表情だけど、ここまであからさまに他人から視線を逸らしたりしない。それ以前に、赤の他人は一切気にしないのが雫ちゃんだったはずなのに……もしかして二人はお知り合い?
「ス、スバルさん……! もしかしてお二人は――」
 とりあえずカローラちゃんから離れて、いつの間にかちょっと距離を置いた位置にいたスバルさんへと近寄り、小声で問おうとして――止まった。
「ど、どうしようティア……? まさかこんな形で会えるなんて思ってなかったから、あたし今日は『アレ』持って来てないよ……?」
『そ、そうね……。考えてみればヴィヴィオたち三人って相部屋だったのよね……盲点だったわ』
 ……う〜ん? 何故かコソコソとディプレイ越しに相談中のスバルさんに眉根を寄せる。
「あ、でもでも! ヴィヴィオもだけど前日に会えたのってラッキーじゃない? ほら、二人って――」
「なにがぁ?」
 二人の間に『にょき』と顔を出して首を傾げると、スバルさんとティアさんがギョッと目を剥いた。
「うわぁヴィヴィオ!? いつから……!?」
『なっ!?』
 ん〜? なんかあからさまに二人の様子があやし〜? ヴィヴィオはジト目を二人に向けて唇を突き出すようにして口を開いた。
「あやしい……。っていうかティアさん? どこ、そこ?」
 空中表示された画面越しにティアさんの居る場所を見る。
 そこはたぶん、どこかの管制室かモニタールームか。周り機械とかコンソールとかがいっぱいの薄暗い部屋で、以前に見た六課のそれとよく似た作りのそこに、若干頬を引きつらせた顔のティアさんは居た。
「……そう言えばヴィヴィオたちの模擬戦が始まったぐらいの時からいなかったよね? ……なんで?」
 怪訝顔を不信顔へと変えてスバルさんたちを交互に見る。
 ……あやしい。二人して視線を逸らして引きつった笑顔なんて浮かべちゃってさ、なにか隠してるでしょ?
「ねえ、なに隠して――」

「失礼」

 っ!! 不意に言葉を遮られてギョッとする。そうだ、今は――!!
 勢いよく振り向くヴィヴィオ。そして、
「お話中のところ申し訳ありませんが、先に私の問いへの返答をいただけないでしょうか?」
 声の主――雫ちゃんは思いの外近くに居た。というか隣に居ました。い、いつの間に……?
「あ、あのね雫ちゃん……」
 声をかけてから――……なにを言おうか考えてなかったことに気付いて、言葉を失う。
 対して雫ちゃんはやっぱり涼しい顔を崩さず、視線を右往左往するヴィヴィオなんて眼中に無いみたいに無視して、スバルさんを真っ直ぐ見ながら言葉を継ぐ。
「同席の許可をいただけないでしょ――」
「月村雫さん!」
 それを半ば遮って、スバルさん。顔に若干の冷や汗と乾いた笑みを貼り付けて言った。
「えっと、はじめまして。今度、ギン姉の――陸士108部隊特別テロ対策合同捜査部に転属されますスバル・ナカジマです」
 「よろしく」そう言って自己紹介を閉めるスバルさんの顔と差し出された右手とを交互に見て、雫ちゃん。変わらずのクールな無表情を浮かべたまま、
「……失礼。明日、午前八時をもって同部隊に配属されます月村雫です。階級は――」
 『ビシ!』と敬礼して返す雫ちゃんに「ああ、いいよ、いいよ」と手を『わたわた』と振ってスバルさん。キョトンとする雫ちゃんに苦笑を向けて、頭をかきかき言葉を継いだ。
「月村さんたちのことはなのはさんに聞いてるから……あたしたち相手には『局』の階級なんて気にしないでいいよ」
『ま、ギンガさんの部隊の子たちはみんな特別だからね』
 スバルさんの台詞を補足するように言葉を継ぐティアさん。画面越しに、雫ちゃんに肩を竦めて見せてから、
『あたしはティアナ・ランスター。そこのスバルやあなたと同じで、明日付けで同部隊に転属する予定よ』
 「よろしく」とスバルさんと同じ言葉で自己紹介を閉めるティアさん。それに雫ちゃんは「はあ」と何だかぼんやりとした声で返した。
「あ、ちなみに他の部隊だとそうも言ってられないから気を付けてね?」
 半ば呆然としてスバルさんを見る雫ちゃん。
『だけどま、ギンガさんのとこの子に局の階級を気にしてんのなんて一人もいないだろうし、興味無いだからから一々名乗んなくて良いわよ。あたしらも名乗んないし聞く気ないからさ』
 次いでぼんやりとティアさんを見る雫ちゃん。
 ああ、これは……。内心で苦笑して三人のやりとりを眺めるヴィヴィオ。暮れの年末行事や某かのイベントで何度か雫ちゃんと話したことのあるヴィヴィオにはわかる。雫ちゃん……たぶん困ってる。
 もともと雫ちゃんは、まずはよく考えてから行動するタイプの子だ。だから予期せぬことや、自分の考えとは異なる思考ロジックを持った人間と出会うと、しばしばこうして呆としていた。
 だからたぶん雫ちゃんは、二人の言葉にどうして良いのかわかんなくなっちゃったんだと思う。もともと、出身世界からして違うもんね。だから、せっかくこっちの常識を学んで実行した矢先にイレギュラーな反応をする二人に困惑してるんだ。
「……私のことは『雫』と呼んで下さい」
 そうやって、自分のことを『月村さん』と呼んでいた二人に言うまでの長い間からも、彼女がどれだけ困っているのかが窺えるというもの。
「そう? じゃ、あたしも『スバル』で良いよ。『ナカジマさん』じゃギン姉や父さんと被るしさ」
『そうね。ならあたしも下の名前で呼んでくれて良いわよ』
「はぁ…………」
 ああ、雫ちゃんが困ってる困ってる。仕方ない、ここはヴィヴィオが助け舟を出そう!
「ねぇねぇ雫ちゃん! 雫ちゃんはどうしてここに来たの?」
 ニコニコしながら雫ちゃんの腕をとって首を傾げる。あ……雫ちゃん、どこか『ホッ』としたような目をした。
「ここへは日課の模擬戦をしに――」
 「模擬戦!?」と、雫ちゃんの言葉に反応するスバルさん。次いでティアさんまで『もしかしてお父さんと!?』と驚愕の表情になって反応。あちゃあ……、せっかく雫ちゃんの緊張を和らげようと思ってたのに――
「って、恭也さんも来てるの!?」
 ティアさんの言葉を聞き、ヴィヴィオは『信じられない!』って顔を雫ちゃんに向けて叫んだ。嘘……!? 雫ちゃんだけならまだわかるけど、恭也叔父さんまで一緒にミッドに来てるの!?
「え、あ、はい。父も一緒ですが……」
 無表情の中に困ったような色を数滴混ぜながら雫ちゃん。常の澄み切った声音に困惑の濁りを宿して、ヴィヴィオたちを交互に見やる。
「ええ!? なんでなんで!? どうして恭也さんがこっちに〜!?」
 ヴィヴィオは混乱のままに叫ぶ。なんで〜? なんで恭也さんまでミッドに来てるの〜!? もう何が何だかわからない。
 だって、そもそも雫ちゃんがこっちに居るのだって普通じゃないのに……。雫ちゃんと相部屋だって知った時ですら驚いたのにどうしてその父親まで……。
「そんな……!? だって雫ちゃんがこっちに来たのって社会勉強の一環だって、ままが……」
 愕然とした面持ちのまま雫ちゃんに問う。
 そんな……。一週間前の、引っ越しの下見の際に雫ちゃんが相部屋だって知った時にヴィヴィオは、すぐになのはママに確認した。「ミッドとか魔法とかとは関係ない雫ちゃんがどうして!?」って。そしたら、ままは「ほら、雫ちゃんてお兄ちゃ――恭也ぱぱとずっと旅してたって言ってたでしょ? だから今回のもそんな感じ。雫ちゃんの社会勉強……みたいなものかな?」って言ってたのに。てっきりヴィヴィオみたいに、親元離れて異国の地で暮らさせるのが目的だって思ってたのに……。
「……ヴィヴィオは聞いてなかったんですか? そちらのナカジマさ――スバルさんやティアナさんたちに」
 ヴィヴィオの様子を見て、逆に首を傾げながら雫ちゃん。ハッ!! そうだよ! スバルさんたちが何か知ってるみたいじゃんっ!! ヴィヴィオは雫ちゃんの言葉を聞くや『バッ』と勢い良く傍らのスバルさんへと視線を向けて、
「ス、スバルさ――」
「雫! 今から模擬戦しない?」
 スバルさんの呼びかけに出鼻を挫かれて言葉を切った。
 そしてそれに、「はぁ……?」とまたもや呆然とした声で返す雫ちゃんと、不機嫌顔になっていたヴィヴィオは、
「これからどっちがここを使うかを賭けて、ヴィヴィオとカローラの二人と勝負!」
 と、続いたスバルさんの言葉に、揃って目を剥いた。






次話/前話

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《魔法少女リリカルなのはStrikers〜postscript〜》前書き?

 以前から時折話題にのぼらせておりました『ヴィヴィオの話(仮)』、改め『魔法少女リリカルなのはStrikers〜postscript〜』の連載を満を持してスタートさせました。

 この『第一話 再会と』の前話となります『ヴィヴィオの話(仮)』は、ひとまずお忘れになってかまいません。そちらの話を抜きにしてもお楽しみになれますようなお話作りを目指しておりますので、『ヴィヴィオの話(仮)』の方は投稿はしません。悪しからず。

 感想、コメントお待ちしております。

 それでは。

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《魔法少女リリカルなのはStrikers〜postscript〜》1

 地上十二階の超の付く高級マンションの七階。
 日当たり良好。防寒防犯最新設備の完備。そして広く、豪奢な作りのそこに、今日から高町ヴィヴィオは移り住む。
「……た、ただいま」
 大きなボストンバッグを手に、小さく零す。
 時刻は正午を少し過ぎた頃。誰もいない広い部屋にヴィヴィオの声は響くことなく吸い込まれていった。
 静寂が耳に痛い。ヴィヴィオは今日まで学校の寮におり、よくも悪くも常に騒がしい空間で暮らしていた。
 だから誰もいないのを承知で呟いたのだが、しかしそれが返って閑散としたリビングを際立たせたようで、思わずため息。なにやってるんだろう、わたし。ヴィヴィオは『ふっ』と小さく笑い、リビングを素通りして自分用にあてがわれた部屋へと向かう。
 今日初めて入ったそこは、予め専門の人たちに頼んでいたため、昨日までいた寮のそれと内装がほとんど同じだった。
 勝手知ったるなんとやら。ヴィヴィオはバッグをベッドへと放り、ドアに寄りかかって肩を落とす。なにを落ち込んでるんだろう。ヴィヴィオは自分の気持ちがよくわからず、また一つため息。
 急な転居だったけど、引っ越しそれ自体は簡単だった。それこそ全部が全部、学校と親族知人がやってくれたおかげでヴィヴィオはほとんど何もしていない。
 そうか。ヴィヴィオはもう一度室内を見回して、苦笑。だからかも知れない。引っ越しの実感がわかないから、いきなりひとりになったようで寂しいんだ、とヴィヴィオは思った。
「……ホームシックは早いよ」
 一度大きく首を左右に振って、部屋を出る。
 そのままリビングを素通りして、外へ。廊下を少し歩いた先にあるエレベーターに乗る。
 向かうのは、下ではなく上。
 屋上。ヴィヴィオはそこで空を見ようと思った。
 そして、

「――ヴィヴィオ!」

 そこで、不意に見知った人たちと再会し、目を丸くした――。





 『魔法少女リリカルなのは』SS


 《魔法少女リリカルなのはStrikers〜postscript〜》



 JS事件から三年後。彼女たちは再び、立ち上がった――。








 第一話 再会と



 ――空が好き。
 青くて、蒼い、広くて大きな空が、大好き。
 だからヴィヴィオは、なにかがあった時は――なにもなくても、空を見に行く。
 そして、今日も――。
 だけど、今日は――。

「あ」

 広くて高い、マンションの屋上には先客がいた。
「やっほー、ヴィヴィオ! 久しぶりだねっ」
 元気いっぱい、満面の笑みを浮かべてスバルさん。いつか見た管理局の制服の上着を脱いだ動き易そうな格好で腕をブンブンと振って言った。
「あら、ほんと久しぶり……」
 そしてその隣――目を丸くしてヴィヴィオを見つけて言うのはティアさん。それからすぐに『ハッ』と何かに気付いたようで、一転して不機嫌顔になり隣のスバルさんを睨む。
「ねぇスバルぅ?」
 それそれは底冷えするような声でティアさん。途端に「ひっ!?」と息を飲むスバルさんを恐ろしいまでの冷笑でもって見つめ、言葉を次いだ。
「どうしてヴィヴィオがここにいるのかなぁ?」
 ひ、ひぃ!? ティアさんの視線を直接受けたわけじゃないのに身が竦んだ。こ、こわいよティアさん!
 そしてその怒気を真っ向から受けたスバルさんはもっと怖いのだろう。さっきまで元気溌剌としていたのが嘘のように怯え混じりの引きつった笑みへと表情を変え、ティアさんから一歩後退。「え? あれ?」と当惑しつつも視線を右往左往し、「――あ!!」何かに気付いたみたい。
「あ〜…………」
 スバルさんは冷や汗をダラダラと流しつつ一歩、二歩。外見上は笑っている――……ように見えなくもないティアさんから後退る。
 そして、
「ごめん、ティア……日にち、間違えてたみたい」
 ヴィヴィオは空を仰いで思った。ああ、ほんとに……………………空気が凍りつく音って聞こえるんだぁ。
「あ・ん・た・はっ!! どーしていっつもいっつもいっつもそうなのよ!!」
「いひゃいいひゃい!! ご〜め〜ん〜ティア〜!!」

 ◇◆◇◆◇

 それから数分後。
 どうやらスバルさんとティアさんの二人は明日、ヴィヴィオには内緒でわたしを迎えに行くつもりだったみたい。
 でもね、スバルさん……ヴィヴィオ、今日が引っ越し日だよ?
「ほんとごめんね、ヴィヴィオ。スバルのばかのせいで……」
 屋上のフェンスに背を預けてティアさん。少し苦さの混じった笑みを向けて言った。
 それに「ううんっ!」と首を左右に振り、ヴィヴィオは満面の笑みでもって返す。
「こうやってまた会えたんだからいいよっ!」
 嬉しい! さっきまでちょっと寂しかったから、こうして二人と再会できたこと自体が嬉しい!
 だから素直にニコニコしてティアさんを見るヴィヴィオ。それにつられてか、いつしかティアさんの笑みからも苦みが消えていた。
「……えっと、四ヶ月ぶりぐらい? ヴィヴィオ」
 そしてようやくティアさんからの折檻――思いっきり両頬を左右に引っ張った――の痛みから立ち直ったらしいスバルさんの言葉に、ヴィヴィオは「えっと」と視線を上向けて考える。
 スバルさんとティアさんに、最後に会ったのはお正月だったから――……そっか、もう四ヶ月になるんだ。
「早いわねぇ」
 ヴィヴィオと同じことを思ったのか、ティアさんも感慨深そうな声で言った。
「そう言えば、あたしら今年は『あれ』に参加出来なかったもんね」
 そして苦笑をスバルさんに向けてティアさん。
「そうだねぇ。今年はあたしもティアも忙しかったから」
 まさに以心伝心。『あれ』ってなに? なんてヴィヴィオが首を傾げている横で、スバルさんはティアさんの言葉を正しく理解したらしく簡単に頷いて言った。
 やっぱり仲良しなんだなぁ。ヴィヴィオはそんな二人の様子に、目を細めた。
「けっこう楽しみにしてたんだけどねぇ」
「ねぇ」
 一通り『残念だ残念だ』と言い合ってから、二人は揃ってヴィヴィオを見た。って、え? なになに?
「やっぱりなのはさん家のみんな来たの?」
 ? なんの話?
「なんか今年もフェイトさんが歌うたわされたんだって?」
 ???
 顔中で『?』マークを浮かべるヴィヴィオをそっちのけで二人はまた『残念だぁ残念だぁ』と言い合う。
「あ、でもエリオたちも行けなかったんでしょ?」
 ?
「らしいわね。まぁでも仕方ないんじゃない? あっちもあっちで今年は、さ」
 ??
「う〜ん……でも、やっぱりあの子だけには事前に会っときたかったよね。明日でしょ?」
 ???
「ま、今さら言っても仕方ないわよ。そりゃあ、あたしだって――」
「なんの話?」
 放っておいても答えは出て来そうになかったので、ヴィヴィオはティアさんの言葉は遮る形で二人の会話に加わった。
「『残念』ってなにが?」
 首を傾げる。それを見て二人はキョトンとした顔を見合わせて、揃って口を開いた。
「なにって」
「お花見?」
 ああ!
 思わず手をポンと打って破顔一笑。
「そっか!」
 言われてみればたしかに。春の恒例行事――なのはママの世界でお花見――に二人は今年、来てなかったのを思い出した。
 新暦0079年。今年はスバルさんとティアさん以外にも数人、管理局のお仕事関連で休んでいた。
 だけどそれ自体は珍しくない。なのはママとフェイトママにはやてさんの三人はともかく、全員が全員お休みで勢揃いっていう方が少ないし、ヴィヴィオの知る限りではまだ一度もなかったと思う。
 特に元・機動六課メンバーは、みんながみんな所属の部隊でエース扱いだから抜けるに抜けられない。毎年毎回、誰かが足りないのはちょっと寂しいけど、イベント好きの人が多いおかげで次の何かで会えるから、いつの間にか誰も気にしなくなっていた。
 だけど、言われて思い返せば、
 たしかに今年は――

「す、すみませんっ、お、遅くなりました〜!」

 ――突然の大声に思考を止めた。
 あれ? この声……。ヴィヴィオは聞き覚えのあったそれにゆっくりと振り向き、
「「あ!」」
 屋上への入り口――三つ並んだ高速エレベーターの出入り口から来る彼女と一緒に声をあげた。
「ヴィヴィオさん!」
 歳はたしかヴィヴィオより四つ上の十三歳。短く切りそろえられた髪と大きくて丸い眼鏡が印象的な女の子で、名前は――
「カローラちゃん!」
 カローラ・エルグランド。
 ヴィヴィオの通う魔法学校の先輩で、今日ヴィヴィオが引っ越したマンションでの相部屋さん。
「あれ?」
「あんたたちって知り合いだったの?」
 あ。ヴィヴィオとカローラちゃんが知り合いらしいことにキョトンとした顔になる二人を見て、わかった。
 カローラちゃんが両手に付けた黒いグローブと紺のTシャツ、そして短パンと運動靴という動きやすいた格好なのも、その両手にジュースのパックを幾つか持って来た理由も、なんとなく。同じように、ヴィヴィオの隣のスバルさんがどうして動きやすそうな格好をしていたのかも一緒に。
「は、はいっ! そのっ、ちょっと前にここでお会いしましてっ!」
 頬を染め、心の底から嬉しそうな表情で言うカローラちゃんを見ればわかる。
 たぶん二人で模擬戦をしてたんだろう。よくよく目を凝らせば、それとなく二人の衣服についた打撃痕などが見てとれるし、間違いないと思う。
「あ、そうなんだ」
「は、はいっ!」
 尻尾があれば振りまくっていることだろう。カローラちゃんは心底嬉しそうな笑顔をスバルさんに向けて言う。
「……ほんと、スバル二号ね」
 その様を眺めながら皮肉気にティアさん。「うん!」とヴィヴィオも頷いて隣を見れば、ティアさんは言葉とは裏腹の優しい笑顔を二人に向けていた。
「あ、そう言えばヴィヴィオ」
 わたしの視線に気付いてか、ティアさんが若干慌てたようにヴィヴィオへと顔を向けて口を開いた。
「いきなりでなんだけどさ。今からあの子と――カローラと模擬戦してみない?」
 ふえ? ヴィヴィオは首を傾げてティアさんを眺め、
「なんで?」
 それにティアさんは何故か視線を逸らして頭をかくと、どこか困ったような顔になって再び口を開いた。
「ん〜……と、ね。さっきカローラとスバルが模擬戦してたんだけど、さ。あの子、けっこう強いみたいだし、そう言えばヴィヴィオの模擬戦て見たことなかったなぁって思って……」
 ……………………あからさまに嘘ついてる?
 ヴィヴィオはジトーとした目をティアさんに向けて数分間。果たして先に声を出したのは――
「ヴィヴィオさんっ!」
「ふえっ!?」
 いきなり肩を掴まれ、ビックリして振り向くヴィヴィオ。そしてその先で、やる気まんまんな顔をこちらに向けたカローラちゃんと必死で他人のふりをするスバルさんを見て思わずため息。相変わらずナイスなコンビネーションだね……。
「……しょーがないなぁ」
 四人の内、三人がノリ気なら断れない。ヴィヴィオは空を仰いで頷いたのだった。

 ◇◆◇◆◇

 カローラちゃんと初めて会ったのは一週間前に、やっぱりここ――屋上だった。
 引っ越し先の下見で来た時に、ヴィヴィオは何はともあれ一番にここに来た。そして一人、シューティングアーツの練習をしていたカローラちゃんと出会って、話した。
「――デバイスは非殺傷設定でカートリッジシステムは使えないようにしてるよ」
 二十メートルぐらいの間を挟んで対峙するヴィヴィオとカローラちゃん。そしてその中間に立ってスバルさんはヴィヴィオたちに向かって説明していた。
「それと勝手に魔法を使わないようにしてるから、ちょっと高性能なストレージデバイスだと思ってね」
 ヴィヴィオの手にはティアさんの銃状のデバイス――クロスミラージュが。
 カローラちゃんの右手と両足にはスバルさんのデバイス――リボルバーナックルとマッハキャリバーが。
 それぞれ個人のデバイスを持たないヴィヴィオたちのために二人は貸してくれた。
 ……だけど、
「なんか、準備良すぎない?」
 ワンハンドモード――片手銃状態のクロスミラージュを眺めながら眉を潜める。
 おっかしいなぁ。スバルさんとティアさんの口ぶりから、この模擬戦が突発的なものだと思ってたけど、それにしては舞台が整い過ぎてる。
 視線を空へ――防壁結界の張られた半円形の天井を見上げて、ますます眉根を寄せた。二人のデバイスもだけど、何よりこのマンションの設備が異常だ。どうしてただの宿舎に模擬戦用のフィールド形成システムや防壁設備があるの?
「――で、一応危なくなったらマッハキャリバーたちが障壁張ってくれるようにしてる。だから全力でやっても大丈夫だよ」
 ……ヴィヴィオがここに引っ越すのは、けっこう前から決まってた。それこそ、たぶんこのマンションが出来るかどうかぐらいの時から。
 だとしたら何か関係があるのかな? この設備の行き届いた――行き届き過ぎたマンションとヴィヴィオたちがこれから行く部隊のことって。
 …………やっぱりヴィヴィオは――
「とりあえず今回はその『セーフティーシールド』が発動したらおしまいってことで」
 頭を左右に振って思考を切り替える。
 今は……集中しよう。視線を――意識を、眼前のカローラちゃんへと向けて集中する。
 カローラちゃんを前に油断は禁物。眼鏡を外して長い鉢巻を巻いた、本当にスバルさんによく似た構えを取る本気の彼女は――強いから。
「それじゃあ模擬戦……、レディ……――ゴー!!」
 スバルさんの上げられた右手が、声とともに勢い良く振り下ろされて、
「――――っ!!」
 同時、弾丸のような勢いでカローラちゃんは距離を詰めた!

 ◇◆◇◆◇

 っ、早いっ!!
「ハァアアアア!!」
 裂帛の気合いとともに凄まじい速度の右ストート!
「っ、ぐ!」
 ガギィン! とっさに張ったベルカ十時の魔法障壁でそれを防ぎ――
「『バぁああースト・ナぁックル』!!」
 ドッガァアア!! いきなりヴィヴィオの張った障壁が爆発!
「っ!? ――ふ、『フラッシュムーブ』!!」
 即座に高速移動魔法で距離を離して空へ!
 やっぱり――強い!!
 カローラちゃん――カローラ・エルグランドの名前は、たまたまこの屋上で出会う以前から知っていた。
「…………」
 ヴィヴィオの通う魔法学校の、近代ベルカ式魔導師の成績ナンバーワンで模擬戦無敗の優等生。それを度々、掲示板とか噂で目にして聞いてたから油断なんてしてない――つもりだった。
「……すごい」
 改めて、思う。カローラちゃんはすごく――強い。
 だから――ここからは、ヴィヴィオも全力全開で行く!
「行くよ、カローラちゃん!!」
 知らず笑顔になっていた。
 ワクワクが、ドキドキが止まらない。楽しくって仕方ない!
「『ディバインシューター』!!」
 足下に浮かぶミッドの魔法陣と周りに現れる虹色の球状魔力球!
 その数――四! それをカローラちゃんに向けて――
「シュゥウ――――ット!!」
 ――放つ!!
「っ!」
 それにカローラちゃんは一瞬だけ目を丸くして――
 にこり。
 ヴィヴィオと同じ、手加減する必要のない、実力の伯仲した相手を見つけた歓喜の表情を浮かべて構え、
「『バースト・ダッシュ』!!」
 っ!?
 カローラちゃんはヴィヴィオの誘導魔法弾を、さっき見せた爆発的な加速によって正面突破! その上空中に浮かぶヴィヴィオに向かって一直線に駆け、
 ドン! 足下で魔力を爆発させ――跳躍!!
「っ!!」
「ハァアアアア!!」
 驚愕に息を詰めるのも一瞬! またもすごい勢いで距離を詰めたカローラちゃんによる一撃をヴィヴィオは、
「『プロテクション・パワード』!!」
 ガギィイインッ!! 先のシールドとは違う強固なバリアを展開して受け止め、
「『バースト――」
「『バリアバースト』!!」
 ドン!! カローラちゃんにバリアを破壊される前にヴィヴィオから爆発させる!
「ぐっ!?」
 不意の爆風によってカローラちゃんの状態がブレる。
 もともと足場の無い空中戦。カローラちゃんはなすすべなく地上へと落ちて行き、
「――アクセル!!」
 それを、今まで待機させていた――さっき撃った『ディバインシューター』四つを向けて走らせ、
 ヴィヴィオはそれで「勝った!」と思って、

「――『スケイフォールド』!」

 次の瞬間、蒼いベルカ十時の魔法陣が四方八方に出現し、
 カローラちゃんはその一つに足を着け、
「『バースト・ジャンプ』!!」
 その魔法陣を爆発させて――跳躍!! ヴィヴィオの誘導弾を素早く回避する!
「――――っ!!」
 ドン! それはまるで、弾頭を発射するように、
 ドン!! まるで、ハンマーで玉を跳ね返し続けるように、
「ハァアアアア!!」
 スバルさんとはまた違ったタイプの、空戦も可能な近代ベルカ式魔法を使う陸戦魔導師――
「っ!!」
 ――それがカローラちゃん。
 そして、
「そこまで!!」
 一瞬だけ――シューターで勝利を確信した一瞬だけ油断したヴィヴィオは――……結局、それが理由でカローラちゃんに負けちゃった。






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