《魔法少女リリカルなのはStrikers〜postscript〜》
◇◆◇◆◇
――圧倒的だった。
わたしもカローラちゃんも、雫ちゃんの前では等しく無力で弱かった。
それが悔しかったかと訊かれれば……たぶん違うってヴィヴィオは答えると思う。
だけど――カローラちゃんは違った。
「…………ッ!!」
「っ、カローラちゃんっ!!」
模擬戦が終わるや走り去るカローラちゃん。その顔は、敗戦の悔しさと悲しさで今にも泣き崩れてしまいそうなほどに歪んでいて、だからヴィヴィオはカローラちゃんを追おうとして立ち上がり――
「追わない方が良い」
――雫ちゃんの言葉で止まった。
「……雫ちゃん?」
振り向くと、雫ちゃんはコートのポケットに手を入れ、明後日を向いて、
「……ひとりにしてあげることが優しさになる時だってある」
言葉をこぼすようにして、言った。
……雫ちゃん? ヴィヴィオは内心で首を傾げる。
雫ちゃんはいつも通りの無表情だった。声もいつもみたいな凛としたそれだったし、纏う空気だっていつもと変わらなかった。
……だけど、ヴィヴィオには――
途方にくれた小さな女の子に、見えた。
「ヴィヴィオ」
呆然と雫ちゃんを見ていたヴィヴィオに、スバルさんが声をかけた。
「カローラの方はあたしが。だから、ヴィヴィオ」
「クロスミラージュ……」と苦笑するように笑って言うスバルさんに、ヴィヴィオは素直に従って、彼女の手にデバイスを渡した。
そして、
「スバルさん」
ジッと、スバルさんの瞳をまっすぐに見る。
「ん、任せといて」
頷きを一つ。スバルさんはそう言って屋上から去って行った。
「…………雫ちゃん」
果たして、残ったのは雫ちゃんとヴィヴィオの二人だけ。
――さっきの模擬戦。
ヴィヴィオはゆっくりと雫ちゃんの方へと視線を戻して、問う。
「どうして、あんなやり方……したの?」
――雫ちゃんの戦い方が卑怯なものだったから、負けたんじゃない。
そんなことをしないで、雫ちゃんが初めっから正々堂々と戦っても……やっぱりヴィヴィオたちは負けてたと思う。
「……ねえ、雫ちゃん。どうして?」
ヴィヴィオたちと雫ちゃんとの実力差はそれだけあって、そしてそのことに気付かないヴィヴィオたちじゃない。特にカローラちゃんは、そのことに初めっから気付いていたみたいだった。
改めて思い返してみればわかる。あのカローラちゃんが、初めて会った女の子を相手に本気で攻撃し始めるなんておかしい。それでなくても雫ちゃんはデバイスを持って無いのだから、尚更だ。
「雫ちゃん……」
そっと、雫ちゃんの手を揺すって、顔を見上げる。
それに雫ちゃんは視線を明後日からヴィヴィオへと向け、また明後日へ。小さなため息を一つ挟んで、ようやく口を開いた。
「……例えば、自分より強い相手がいたとして」
視線を合わせることはせず、顔や声に感情を宿すことすらせずに雫ちゃん。
「もしその相手が卑怯な手段をとる明確な敵だとして――……ヴィヴィオなら、そんな相手にどう対象する?」
雫ちゃんの言葉にヴィヴィオは首を傾げる。それは、つまりさっきの雫ちゃんを相手にヴィヴィオならどうするのかってこと……かな?
「目には目を、卑怯な敵には卑怯な手で――……とは言わないまでも、せめて奇策を弄することぐらいはするべき。人質をとられているのなら尚更、でしょう?」
どうやら雫ちゃんはヴィヴィオの答えに興味が無いみたいで、言葉は問いの形をしていながら、その口調は断定的で一方的だった。
「正攻法で勝てない。故に、自分より強い相手。……その前提を理解しながら、それでも正攻法でのみ抗うは愚作の極み」
そして、と言葉を次ぐ雫ちゃんの声には今や明確な敵意が宿っていた。
「それを愚作と知りながら……勝てないと知りながら、それでも最初から最後まで……!」
感情の発露は一瞬。すぐに雫ちゃんは顔や声から色を消し、ため息。いつものクールに過ぎる雰囲気を取り戻して、視線をヴィヴィオに向けて言った。
「失礼。ヴィヴィオには迷惑をかけましたね」
肩を竦めて雫ちゃん。コートのポケットから手を出してヴィヴィオの頭に乗せ、僅かに瞳を細めるようにして苦笑する。
「私は汚い。だからヴィヴィオも、あまり近付かない方が良いですよ」
……ぁ。その時、ヴィヴィオはなんとなく雫ちゃんの言わんとしていることがわかった。
――私に近付くな。
……たぶん、それが答え。
――私を嫌え。
雫ちゃんはたぶん、こう言いたかったんだと思った。
――私のようにはなるな、って。
◇◆◇◆◇
雫ちゃんの横顔がなんだか独りになりたいって言っているように見えたヴィヴィオは、ちょっとだけしょんぼりとした気分で屋上を後にした。
……『ひとりにしてあげることが優しさになる時だってある』か。
ぼんやりと、エレベーターの電光表示板を眺めて、思う。あ、恭也さんのこととか訊くの忘れてた……。
「……ま、いっか」
ため息。なんかみんな明日っから『捜査部』に行くって言ってたし、明後日にはヴィヴィオも行くんだから、また後で聞けばいいや。
エレベーターの表示が『七』になったのを確認して降りる。二度の模擬戦で汗かいちゃったし、夕ご飯の前にシャワー浴びよっかな。そう思って何の気なしに扉を開けて、
「おお!! おっかえりーヴィヴィオ〜!」
固まった。
ある意味意外性で言ったら雫ちゃんと恭也さん並に意外な、ここにいることが心底不思議な二人を目にして、ヴィヴィオは目を剥いた。
「な、なんで――」
そこに居たのは、オレンジの髪の、犬耳と尻尾を生やした小さな女の子と、
その子を背に乗せた大きな狼。
つまり、
「――アルフとザフィーラがここにっ!?」
フェイトママの使い魔――アルフと、
はやてさん家の守護獣――ザフィーラは、揃ってこちらに顔を向けて、
「ん? 『なんで』ってそりゃ、ヴィヴィオが心配だったからさ。そんで、ちょこっとクロノたちに頼んでここの寮母になったわけ」
『ニカ』とアルフは無邪気に笑って言った。「あ、ちなみにこっちは、このマンションの番犬ね」と、呆然とするヴィヴィオを抜きに自分が乗っているザフィーラを指してアルフは説明。
「――って、説明になってないよ!?」
『ドカドカぁ』って玄関を慌ててあがってアルフに詰め寄る。あ、ザフィーラに乗っているせいかちょうど目線が合う――ってそんなことはともかくっ!
「ヴィヴィオが心配ってなに!? それに番犬って――!?」
言葉を切る。視線をアルフから外して内側へ。今まで疑問にして、不安に思って、押し殺していたそこへと向けて、顔を俯ける。
――この春から参加・見学することが決まった陸士108部隊特殊テロ対策合同捜査部。
ギンガさんと元・ナンバーズの面々を起用した対AMF戦特化部隊。
宿舎にしては異常な設備のマンション。
スバルさんとティアさんの転属。
次元世界とは無関係の雫ちゃんと恭也さんの出勤。
そして――ヴィヴィオ。
ああ……やっぱりヴィヴィオは普通じゃないんだ。そう改めて思い知り、心を暗く落ち込ませる。
「……ヴィヴィオは――」
「お〜い」
ヴィヴィオの顔を下から覗き込むようにしてアルフ。眉を『ハ』の字にしながらも笑顔を作り、俯くわたしの顔を持ち上げるようにしつつ、
「なぁに勘違いしてるかは……ま、なんとなくわかるけどさ。違うよ」
……なにが?
なにが違うの?
「……あたしはヴィヴィオが特別だから来たんじゃない」
え?
「ヴィヴィオがあたしの家族だから来たんだ」
……ぁ。アルフの笑顔に目を丸くして、ヴィヴィオは呆然とする。
「……でも、だって、ここのマンションて普通じゃないし」
ヴィヴィオの呟くような言葉にアルフは苦笑して、
「そりゃあ、ねぇ。まあもともと特殊な新設部隊用の宿舎だし、そういう意味じゃ普通じゃないことの方が普通なんじゃない?」
言う。
それに、
「でもAMF戦用の部隊で……。いきなり春から課外授業なんて……」
胸の内で、『疑問』という名の闇を作り出していた事柄を、
「スバルさんも、ティアさんも……。雫ちゃんも、恭也さんも……。なんで……」
不安を、アルフに向けて、吐き出す。
「なんで……!?」
そして、
「恐れることはない」
それに答えたのは、アルフの下で今まで沈黙を守っていた紫の狼――ザフィーラだった。
……ザフィーラ?
寡黙で、めったなことでは口を開かない彼の言葉に、半ば呆気にとられるヴィヴィオ。目をしばたいて彼を見ると、ザフィーラは『ふい』と顔を背けてリビングへ。そしていきなり歩き出したせいで「あわわっ!」と慌てたような声を上げるアルフを無視し、
「とにかく、まずは上がれ」
立ち止まり、背中を向けながら言った。
「……ったく、相変わらず不器用に優しいねぇ」
その様子にケラケラと笑いながらアルフ。そしてポカンと立ち尽くすヴィヴィオに向けてウィンクを一つ。
「あとヴィヴィオ。外から帰って来たら、なんて言うんだったかな?」
……………………かなわないなぁ。
見た目だけならヴィヴィオより幼く見えるアルフに『ふっ』と零すようにして笑って、
「…………ただいまっ!」
そして、
「おかえりっ!」
ヴィヴィオとアルフは揃って笑顔を咲かせた。
◇◆◇◆◇
一人では広すぎて、そして閑散としていたリビングも三人ならそうは感じない。
大きな長方形のテーブルに向かい合って座りながら、アルフはゆっくりと口を開いた。
「まず第一に、だ。……ヴィヴィオも知っての通り、あの『JS事件』はまだ終わってない――ううん、正確には終わってるけど解決してないってところか」
頬杖をつき、椅子から両足をぶらぶらと振りつつアルフ。ヴィヴィオはそれをちょっとだけ顔を強ばらせて見る。
……最近、ミッドの地上や近隣の世界を騒がしてる次元犯罪。その中に、あのスカリエッティが使ってたっていう技術や機械が使われていた。その上、『ガジェット』まで使った犯罪事件まで発生する始末で、ヴィヴィオとしては気になって仕方がなかった。
「あの『機動六課』が解散した今、その対策部隊が新しく出来るのは当然だし、ヴィヴィオだってわかるだろ?」
……うん、それはわかる。苦々しい思いのままアルフの言葉に頷いて、ヴィヴィオは思う。
……うん。それ自体は不思議じゃない。最近のニュース――特に魔導師を狙ったテロや襲撃事件にAMF技術を使われたものが増えたのを思い出しながら、考える。未だに魔法技術を頼りにしてる管理局の魔導師が、そのAMF下での戦闘に対応しきれないというのも、なんとなくわかる。
「それでその新設部隊の筆頭――というか、大元に、陸士108部隊が選ばれたのだって、流れとしては当然だってヴィヴィオも思うよ」
もともと、あの事件後に元・ナンバーズの面々がギンガさんの部隊に配属されたらしいことは、知っていた。だから、AMF下での戦闘を主眼に置いた部隊で、ギンガさんたち陸士108部隊を大元として選んだ理由もわかるし、逆に選ばれない方が不自然に思える。
……でもさ。
「……アルフは雫ちゃんと恭也さんがこっちに来てる理由って知ってる?」
……なんでだろう。
流れは自然なのに、それが意図的に思えるのは、どうしてだろう。
わからないことが埋まって行けば行くほど、誰かの手のひらの上にいるような気がするのは、何故?
「? それって前になのはに訊いてなかったかい?」
ヴィヴィオの問いに首を傾げてアルフ。果たして、それに無言で視線を向けるだけのヴィヴィオに、彼女は問いを重ねることはおろか嫌な顔をすることもなく、「あたしも又聞きだから詳しくは知らないんだけど――」と再び口を開いた。
「……ヴィヴィオは、さ。最近頻繁してるテロ事件の、その手口ってどんなだと思う?」
え? アルフの予想外の問いかけにキョトンとする。
「手口って……だから、さっき言ってた機械とかで……AMFで魔法を使えなくして――」
改めて言葉にして――『ハッ』とした。
AMF――魔導師の魔法の発生を阻害する『アンチ・マギリング・フィールド』は、その名が示す通りの、フィールド系の技術だ。
だから、AMF下で魔導師を倒すには魔法以外の技術を使うのが定石で、
だから、ジェイル・スカリエッティは戦闘機人を生み出して、
だから――
「違うよ」
ヴィヴィオが何かを口にする前に、アルフは苦笑しながら手をヒラヒラ。それから急に真剣な表情になって、
「ヴィヴィオは殆どこっちにいるから、思いつかないんだろーけどさ。魔法を使えない状況下で人が人を傷付ける技術ってーのは、意外とコッチの――なのはんとこの世界の技術の方が確実で、物騒なのが多いんだよ」
? なのはママの?
アルフの言葉に首を傾げる。魔法文化はおろか、技術水準で言えばミッドより数十年以上も前の世界の技術が……物騒?
怪訝顔になるヴィヴィオからアルフは視線を外して、心底忌々しいというような顔になって言葉を継ぐ。
「魔法技術を一切使わない、質量兵器。作っちまえばヨチヨチ歩きの赤ちゃんだろーと指先一つで人が殺せる技術」
ため息を一つ。ギョッとして目を剥くヴィヴィオに苦笑を向けてアルフ。
「で、そんな兵器を武装した相手にAMF下で真っ向から戦うってんだ。それなりの人材は必要だし、スペシャリストだって欲しい」
あ。
そこまで聞いて、アルフの言わんとしていることに気付いた。
「じゃ、じゃあ恭也さんたちって――!?」
「そゆこと」
驚愕するヴィヴィオに軽く返して、アルフは頬杖をやめて椅子の背もたれにもたれ、ユラユラ。
「AMF下――魔法の使えない状況下で連中を倒すんは至難のわざ……っていうか、あたしじゃ無理だね。あんたは?」
と、足下で伏せていた狼に話を振るアルフ。
対してザフィーラは耳を少し動かし、ヴィヴィオにチラと視線を寄越しから明後日を向いて一言。
「魔法を使えないという前提では、打倒するのは不可能に近い」
そ、そんなに!?
思わずアルフとザフィーラとを交互に見て目を剥く。嘘……!? だ、だってアルフとザフィーラって、二人とも超一流なのに……。今日の模擬戦を鑑みて、雫ちゃんと恭也さんの実力を過小評価しているつもりはなかったけど、まさかそこまで強いなんて思ってもみなかった。
「ま、そんなわけで二人はコッチに呼ばれたっていう話。詳しくは相部屋なんだし、雫に直接聞いてくれ」
……う、うん。ヴィヴィオは半ば呆然としながら頷いた。
あ、あとで雫ちゃんとお話しよう。そう心に誓いつつ、おずおずとアルフに向かって挙手。
「じゃ、じゃあ……ヴィヴィオがその部隊の見学することになったのって、なんで?」
それにアルフはキョトンとした顔になって、
「は? そんなのあたしが知るわけないだろ?」
ヒラヒラと手を振って言った。そして、
「……まあ、ヴィヴィオの学校がどういう理由で見学なんてさせる気になったんかは知んないけどさ。もしかしたら、その見学先を件の新設部隊にしたんは誰かの意図かもね」
言って眉根を寄せるアルフ。それから「たしか〜……」と頭をかきかき口を再び開き、
「ヴィヴィオの通ってんのって教会関連のとこだろ? だから後で、はやてとかに聞けば、案外もしかするともしかするかもだぞ」
と、少し考えてから言葉を次いだ。
……ああ、そっか。それを聞いてヴィヴィオは、改めてその可能性に気付いた。今までヴィヴィオは全部が全部、誰かの意思が絡んだ結果だと思ってたけど……もしかしたら、その大半が偶然で、実はその一点だけが意図的だったのかも知れない、と思った。
AMFテロの多発から新設部隊発足までは局の思惑で、
学校の、いわゆる校外学習の見学先がそこなのがヴィヴィオのことを慮った誰かの意図。
よくよく思い返せば、不自然で意図的なのはヴィヴィオの見学先がギンガさんの部隊っていう点だけで、恭也さんや雫ちゃん、ましてやスバルさんやティアさんが転属されたからって、別に出来過ぎた話じゃ――
「って、そうだよ! スバルさんたちがなんで転属されたのかって、アルフは知らない!?」
バン、て勢いよくテーブルを叩いて問うヴィヴィオを見て、
「ああ、それなら――って、わあ!?」
絶妙のバランスで椅子を斜めにして座っていたアルフは、それに驚いたのか後ろへとひっくり返った。うわ……。なんだかすっごく痛そうな音が聞こえて思わず視線を逸らすヴィヴィオ。あ、あんな座り方してるアルフが悪いんだもん。ヴィヴィオは悪くないの!
「つつつ……。って、それこそ本人に聞けば良いんじゃないか? 明後日にゃ会えるんだろ?」
あ……。打った腰を押さえながらのアルフの台詞に、ヴィヴィオは自分が結論を急ぎ過ぎていたことに改めて気付いた。
……そうだよ。明後日にはスバルさんたちに会えるし、雫ちゃんたちのことは相部屋なんだしいつでも聞けるじゃん。なに焦ってるんだろ……。
「……ごめんね、アルフ。ヴィヴィオ――」
「それで、だ」
『しゅん』とするヴィヴィオの言葉を遮ってアルフ。腰をさすりさすり、伏せていたザフィーラに腰掛けてウィンクを一つ。
「ザフィーラはさっきも言った通りこのマンションの番犬。最近のニュースじゃ部隊の宿舎を狙ったテロってのも多いって聞くからね。その辺をくんで、ヴィヴィオのことを聞いてたはやてが念のために寄越したんだってさ」
嫌な顔一つせず、明るい笑顔を絶やさずにアルフは言う。
「そんで、あたしが来たんはヴィヴィオが不安になった時に助けられるように!」
アルフ……! その言葉にヴィヴィオは思わず椅子を蹴ってアルフに抱き付いていた。
「ごめん……! ごめん、ね……!」
感極まって泣き出すヴィヴィオに「あ〜よしよし」と言って、まるで幼子をあやすみたいに抱き返して頭を撫でてくれるアルフ。そして、
「ああ、それから、ヴィヴィオ? 別にあんたは何も悪いことしてないし、あたしもヴィヴィオに迷惑をかけられたなんて思ってないから、『ごめん』は無いだろ?」
ふえ? アルフに両脇を抱えられて顔を離され、自然に目と目が合うようにされながら、首を傾げる。
それを見てアルフは『ニィ』って笑い、
「こーいう時は『ありがとう』ってんだよ!」
そっと、ヴィヴィオの涙を拭った。
……ぁ。だけど、ヴィヴィオの涙は後から後から流れて、
アルフはそれを見て、『仕方ないなぁ』って感じの微笑になって、
指先で拭うのをやめて、ヴィヴィオを胸にそっと抱き締めた。
そして、
「…………ありがとう」
わたしはアルフの胸に顔をうずめながら、万感の思いを込めて、言った。
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