嗣希創箱の消閑

小説、落書き、二次創作、etc…。 あなたの暇潰しのお供にどうですか♪ 

らいそー2あとがき対談?

嗣希創箱(以下、嗣)「『ゼロ魔』の『二巻』って終わり方が投げっぱなしジャーマンって感じしませんか?」

カルディナ(以下、カ)「……だから『らいそー2』の終わり方もそうしたのでしょう?」

ヴィヴィオ(以下、ヴ)「……あれ? もしかしてヴィヴィオもコレのレギュラー?」

アリス(以下、ア)「(そっとため息)……そうですか。わたしは三章では活躍しないんですね……」

嗣 「そもそも『二巻』自体がアルビオンから帰るまでの話でしたからね。だから二章は敢えてここで切りました」

カ 「随所に張った伏線の回収は三章?」

ア 「あれ? でも『三巻』ってたしか……」

ヴ 「アルビオン……今回のお話でボロボロになってるよ?」

嗣 「しかも『祈祷書』や『エクスプロージョン』も既に習得済みですね」

ア 「残る見せ場と言うと……シエスタとゼロ戦ぐらいですか?」

嗣 「ですね」

ヴ 「え? それだけなの??」

嗣 「いえいえ、まさか! それだけのためにわざわざ高町親子やフェイト一家を出すわけありませんって」

ヴ 「あっ! そう言えばヴィヴィオとなのはままが着た理由って言ってなかったよ!?」

カ 「それどころか、いたるところに伏線を張りながら未回収のままです」

嗣 「もともと『らいそー』は『ゼロ魔一巻』の再構成で完結させるつもりでしたので、一章は伏線をほぼ完全に回収しましたが、二章からはかく章ごとの伏線をすべて回収することはせずに進めて、次章か、その次の章で回収する予定です」

ヴ 「じゃあヴィヴィオたちが来た理由は次回回し?」

カ 「では、次章の予告を」

嗣 「三章は『三巻』の再構成なのは言わずもがな。それにプラスして『ゼロ魔』だけではなく『なのは』サイドの話を絡める予定です」

ヴ 「? つまり?」

嗣 「つまりは舞台を、ハルケギニアから移します」

ア 「ミッドに行くんですか!?」

嗣 「さらに言えば、三章は『三巻』だけではなく、それ以降の巻の話も混ぜるつもりです。……と言うか、もう混ぜ始めてます」

カ 「次章の新キャラは?」

嗣 「それはもうわんさか。それこそ『なのは』サイドを知らない読者様には『こいつら誰よ?』と突っ込まれること必至かと」

ア 「具体的には誰ですか?」

嗣 「『なのは』サイドの御三家は出したいかと。だから『エース』と『ストライカーズ』の知識は必須ですね」

ヴ 「へぇ」

嗣 「ただ……三章はヴィヴィオの話の後か、もしくは同時掲載という形になるので更新速度は……期待しないで下さい」

ヴ 「あ! やっと♪」

嗣 「大変長らくお待たせしました。……というか、覚えている読者様はいるのでしょうか?」

ア 「ヴィヴィオさんのお話は……たしか、『らいそー』と『ストライカーズ』の間の話ですよね?」

カ 「肯定。カルディナが父に会う話です」

ヴ 「違うよ! ヴィヴィオが全力全開で頑張るお話!!」

嗣 「……正直、ヴィヴィオの話を書かないと『らいそー』では使えない設定が多いのでさっさと書ききりたいのですが――」

カ 「それが出来れば二章の完結に半年もかからないでしょう」

嗣 「仰有る通りで……。さて、それでは改めまして、ここまで読んで頂きました読者様すべてに感謝の言葉を。本当にありがとうございました。コメントを書いて下さった方、拍手をして下さった方は勿論、カウンターをグルグル回して下さったすべての読者様へ。嗣希創箱は数字が増えるのを見るだけで幸せでした! 本当にありがとうございます!」

カ 「次回より更新は『ヴィヴィオの話(仮)』もしくは『雷槍の騎士』の一章の改訂版がメインとなり、次いで『三章』の予定です」

ア 「『セカンド』及び『ナイウィ』は不定期更新で、特に更新する予定はありません」

ヴ 「その他SSはすべて休載中です」

嗣 「それでは♪」

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《ゼロの使い魔〜雷槍の騎士〜2》22

《ゼロの使い魔〜雷槍の騎士〜》





 カラン、と。ついに青年の手から大剣は離れた。
 アルビオンの上空を航行していたすべての戦艦は今、緩やか速度で地表へと落下していき、そしてエリオはその内の、最後まで航行していた艦内にいた。
「……はぁ……はぁ」
 荒い息を絶え間なく吐き出し、
 痙攣する両手をダラリと下げて、
 もはや限界をすら超えた両足は自身で立つことを放棄し、
「……相棒」
 それでも青年は膝を折らない。折ることを赦されない。
 その肩を、脇腹を幾つものの槍で貫かれ、壁に縫い留められているエリオは、もはや死に体であった。
「流石は、音に聞こえし伝説の使い魔。よもや一人で百を越す艦を、騎士を倒すとは……」
 青年を囲む騎士達――その中央で最も彼に近い位置に居た隊長格の男は冷や汗を浮かべながら言った。
 対してエリオは、過労から言葉を返せない。顔すら上げられない。
 ……ここまで、かな。
 霞がかる思考でそう思い、汗と血をポタリ、ポタリと流しながら密かに笑う。
 ああ、疲れた。本当に、疲れた……。
 疲労感はもはや痛みとなり、しかし痛覚など無くして久しい彼にはそれを本当は感じていない。
 ただ感覚を無くした四肢が、鉛のように重い頭が、疲労感を訴えているように思えた。
「敵ながら、まこと天晴れである。貴君が『伝説』を名乗るも当然。まこと、最強の名は伊達ではなかったぞ『ガンダールヴ』」
 エリオの耳は彼の賛辞を聞かず、ただ内側で荒れ狂う心臓の鼓動だけを青年へと聞かせていた。
 ……そう言えば、ルイズは?
 死神の足音すら聞こえてきそうな状態でエリオは思う。
 ……ルイズは大丈夫かな?
 ケガとかしてないかな?
 僕はちゃんと彼女との約束を守れたかな?
「しかしながら、残念だ。私は貴君の敵。故に、恨んではくれるな」
 隊長格の男は言葉通りの残念そうな顔をエリオと向け、右手を上げた。
 ……ごめん、ルイズ。

 青年を囲む騎士達が手に手に槍を構え、


 ……ごめん、みんな。

 隊長格の男は右手を――

 ……さようなら。

 ――下ろした。

 瞬間、

 ――青年の前に彼女たちは現れた。

 ◇◆◇◆◇

 ヴィヴィオが逃げて、
 それを追って、捕まえて、
 そして――跳ばされた。
「……………………はい?」
 光に包まれた――そう思った、次の瞬間には別の場所に居て、
 目の前には、呆然とこちらを見る多くの騎士たちが居て、
 そして後ろには――
「ッ!? エリオ!?」
 血相を変えてモンモランシーは青年にすがりつく。
 そして、彼女と共に転送されて来た少女は、
「こんにちは」
 にこり、と。
 ヴィヴィオは場違いな微笑を騎士達に向けて言った。
「申し訳ありませんが、彼はヴィヴィオたちが預からせていただきます」

 ◇◆◇◆◇

 それを喜んで良いのか、ルイズにはわからなかった。
「…………」
 小高い丘でアリスと二人、戦場を見下ろす。
 今、数万もの反乱軍を抑え、圧倒しているのは自分たちやエリオではない。
「……お兄ちゃん」
 半ば呆然としながらアリスは呟く。
 彼女の視線の先――少女の生み出した幾つかのウィンドウの一つに映るのは、長い金の髪を流すアリスと瓜二つの容姿をした少女が居た。
 ……すごい。
 内心で感嘆の声を漏らす。
 なにせアリスの『兄』らしい、少女にしか見えない彼は、たった一人で数千からなる部隊を相手に圧倒していた。
 ……これがエリオのいた部隊。
 視線をその隣のウィンドウへ。
「あ……」
 そこに映るのは、前にフーケと対峙した際に見た少女二人――キャロ・ル・ルシエとルーテシア・アルピーノだった。
「……うそ」
 呆然と、呟く。
 彼女たちは別段、エリオやアリスの兄のような単体での強さは感じられない。
 だけど――彼女たちはたった二人だけで大部隊だった。
「…………」
 視線を空へと向ける。
 そこに先ほどまでいた竜騎士たちは、その数倍もの数を有する雷を放つ虫たちに――ルーテシアが召還したらしい『地雷王』によって、まるで彼らこそが脆弱なる羽虫のように落とされていた。
「……これがフェイトさんの率いる部隊」
 声を震わせて呟くルイズに、
「……いいえ」
 それ以上に震える声でアリスは言う。
「お姉ちゃんの部隊の方は……ほとんど動いていません」
 ……え?
 目を丸くしてルイズはアリスを見る。そして声を震わせて、
「だ、だってあの子たちは――」
「だから、キャロさんやルーテシアさんの――その二人しか動いていないんです」
 ルイズの言葉を、同じく声を震わせて遮るアリス。ようやく完治したのだろう、血糊こそあれ外傷一つ無い顔に驚愕と不安の色を混ぜてウィンドウを睨む。
「……皆さん、すごく手加減をしています」
 ……え?
 アリスの言葉にギョッとしてウィンドウを見る。
 召還するだけで何もしないキャロやルーテシアはともかく、アリスと瓜二つの少女はそうは見えない。
 同時に数十人からなる歩兵部隊を相手にし、その攻撃をアリスと同じ血色の魔法で防ぎ、凪ぎ払い、飛び回る姿からは手加減なんて感じられない。
 しかし、
「……お兄ちゃんが普通に戦ってる――そのこと自体が既に『手加減』なんです、ルイズさん」
 アリスは簡単にルイズの思考を否定する。
「……そもそもキャロさんかルーテシアさんが、彼らの内の片一方だけでも召還すれば簡単に勝敗は決するはずです」
 ……そんな。
 アリスの言葉にもはや声も出せないルイズ。
 ストラーダにより威力を増幅された、伝説の『虚無』の魔法を使うルイズが、
 最強の使い魔と呼ばれた『ガンダールヴ』の力を使うエリオが、
 異世界の奇跡を行使するアリスが、
「…………」
 自分たちが決死の覚悟をもって対峙したアルビオンの反乱軍を、同じくたった三人で圧倒する彼女たちは、それでも手加減をしていた。
「……複雑、ね」
 心の底から苦く笑う。
 助けられた、そのことは素直にありがたいと思える。ルイズだって死にたく無かったし、誰にも死んで欲しくなかったから彼女たちの助力は本当に助かった。
 しかしそれでも、
 自分たちが最強でないのが、もどかしい。
「…………」
 手の中のストラーダを見て思う。
 別に自分が最強じゃなくても良い。ただ、この槍の持ち主が最強でないのが悲しい。
「……わたしの使い魔が最強よ」
 まるで拗ねた子供のように呟く。
 ……そうよ。エリオが一番強いに決まってるの。
 だってエリオはわたしの大切な――
「そうですね」
 アリスの言葉にハッとして顔をあげる。
「……そう、ですね」
 アリスは笑っていた。
 純粋に、無垢に、嬉しそうに、笑っていた。
「エリオさんが一番、です」
 ――そう、例えば、彼が初めからストラーダを使っていたら、
 すべてを潰すつもりで戦っていたら、
 誰も守ることなく闘っていたら、
 彼は一人で五万もの敵軍を圧倒したことだろう。
「……そう、ですね」
 アリスはようやくわかった。
 彼女がどうして、自分のチカラを頼らなかったのかがようやく。
 なぜもう一人の自分が、自身の願いを叶えようとしなかったのかがようやく、わかった。
「……アリス?」
 彼らは――強い。
 ルイズは自分のために命懸けで戦い、
 それでいて他人の命のために誇りを捨てず、
 エリオは少女のために命を賭け、
 それでいて手加減をして誰も殺さず誰も殺させず、
 二人は命よりも大切なもののために戦った。
 死ぬことを覚悟して、それでも誇りに準じて戦い続けた。
 それはまるで、彼らが否定したアルビオンの王党派のように。名誉を重んじ、自身の誇りに殉ずるように。
 それでいて、彼らは王軍とは違う。
 彼らは誇りと、そして命を守った。
 誰も殺さず、殺させず、死なない。
 そんな至難を成すために、しかし彼らは安易な裏技を使わない。
 彼らは決して、過程と結果を他者に委ねない。
「……そう、ですね」
 アリスの頬を涙が伝う。
 人の願いを叶える異能。
 そのチカラにすべてを狂わされ、奪われ、壊されて絶望の中にいた少女。
 彼女は不幸のどん底にありながら、しかし決して自身のチカラを自分のためには使わなかった。いつも他の誰かの願いを叶えていた。
 少女はそのせいで不幸だった。
 しかし少女は、やはり自分のためにはチカラを使わず、そして願いを叶え続けることをやめなかった。
 なぜなら、少女は『願いを叶える』ことこそを願い、叶えていたのだから。
 少女は絶望の中にあって、小さな幸福を得ていたのだから。
「ルイズさん」
 アリスは笑う。笑って、涙を流す。
 そして、いきなり呼ばれて目を丸くするルイズに恭しく頭を下げる。
「ありがとうございます」
 こんな模造品の自分を頼ってくれて、ありがとう。
 借り物の異能ではなく、魔導師アリス・ハラオウンを頼ってくれて、ありがとう。
 ありがとう。気付かせてくれて。
 ありがとう。もう一人の自分。
「……なによ急に」
 不機嫌そうな――照れ隠しの仏頂面になりながら、ルイズは腕を組んでアリスを睨む。
 そして、
「あ、ありがとうは……こっちの台詞よ。ほんとに……ありがとう」
 そっぽを向いて、ボソボソと赤い顔でそう言ったルイズに、
「ルイズさん!」
「ちょっ――わっ!?」
 アリスはたまらず抱き付いた。

 ――ありがとう。

 そう言ってくれたあなたに、ありがとう。

「ちょっ、ちょっとアリス!? な、なんでいきなり体当たりなんて……」
「ルイズさん! 本当に、ありがとうございました!!」

 きっと、少女はそれだけで良かったんだとアリスは思った。

 ありがとう。そう言ってもらえただけで、彼女は幸せだったんだとようやく知った。

 だから、もう一人の自分に『ありがとう』と、アリスは心の底から言う。

 その言葉が、いつか彼女にも届くと信じて――。







    ――――《ゼロの使い魔〜雷槍の騎士〜2》・終――





                         ――続・《ゼロの使い魔〜雷槍の騎士〜3》――――






あとがき対談2/前話

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《ゼロの使い魔〜雷槍の騎士〜2》21

《ゼロの使い魔〜雷槍の騎士〜》





 港街ラ・ロシェール。
 さすがにいつまでの残骸の中には居られない。そう思い、夜も明け、気を失っていた面々が起きるとモンモランシーたちは宿を変えた。
 ……正確には、変えざるを得なかったのよね。
 一階の酒場で昼食を取りつつ内心でため息。
「……………………」
「……………………」

 例えば、と両者無言で食事を取っているテーブルを横目でチラリ。
 なにをどうしてそうなったのか。何故か言葉無く表情も無く同席し、食事を続けるカルディナとフーケ。本の数日前には命のやり取りをし、本当なら死んでいたっておかしくない怪我を負い負わされた彼女らは、しかしどういう経緯か席を同じにしていた。
 ……気まずいわね。
 内心でため息をまた一つ。モンモランシーは視線を違うテーブルへと向けた。
「あ〜あ。さすがに日帰りってわけには行かないのねぇ、タバサ」
「…………」
 ……と、こっちは問題なかったわね。
 苦笑し視線をまた転じる。
「――エリオなら大丈夫だよフェイトちゃん」
 栗色のサイドテール。白が生える異国の衣服を纏った美人――高町なのはさんと、
「……うん。でもね、なのは――」
 金のロングに黒いどこかの軍服を纏う、こちらも妙齢の美女――フェイト・テスタロッサ・ハラオウンさん。
 ……ホント、反則よ。
 下手な貴婦人など足下にも及ばない美貌と気品をもった二人を、今や残骸も同然となった前の宿屋跡地になんていつまでも滞在させられない。
 そうでなくてもエリオという青年を中心として集まっているのに、
「……いや、でも、エリオだってもう子供じゃないんだしさ」
「でも……今、エリオがいるのは戦時中らしいし……管理局のサーチャーでも場所がわからないみたいなんだよ?」
 片やそんな彼の師で、
 片やそんな彼の保護者。
「……はぁ」
 そんな二人を相手に緊張するなって方がおかしい。本当に。だからモンモランシーは、もう何度となくしたため息をまた一つ吐いた。
 そして、

「――三十二回目ですね」

 眼前で楽しそうに笑っている少女の言葉に顔をしかめた。
「……数えてたの?」
 長いオレンジがかっ金色の髪を左で結んだサイドテール。歳はおそらく十二、三。白を貴重とする異国の衣服を纏った、幼くも整った顔の美少女。
「うん! 暇だったから」
 翡翠と紅玉のような左右で色違いの大きくな瞳いっぱいに『楽しい』と書いてある彼女は、名前を『高町ヴィヴィオ』といった。
「あなたもやっぱり心配?」
 何が、とは訊かない。ヴィヴィオは大きな瞳いっぱいに茶目っ気を乗せて首を傾げる。
「……あなたは?」
 問いに問いで返す。
 ……どうにも苦手みたいなのよね、わたし。
 別に彼女のことが嫌いなわけではない。ましてや怖いというわけでもないのだが――自己紹介でヴィヴィオが『なのはままとフェイトままの娘だよ!』と言ったのが引っかかっていた。
 以前、エリオやカルディナが、所謂『孤児』で『引き取られた子供』というのを聞かされた時から感じていた引っかかり。戦争があり、災害があり、危険な幻獣がいるハルケギニアにおいて家族や親族を失って孤児となる者は少なくない。
 しかし、それも所詮は他人事。言ってしまえばお話の中にしか登場しない、自分とは無関係の事柄。
 それが貴族であるモンモランシーと平民である彼らの差。その認識の差違に少女はずっと引っかかりを覚えていた。
「ヴィヴィオは心配してないよ」
 果たして自分の問いにあっけらかんと笑って返した少女は、いったいどれほどの悲しみを体験したのだろう?
 エリオは?
 カルディナは?
 彼らを引き取ったフェイトさんは?
 彼女たちはどろほどの悲しみと痛みを乗り越えてきたのだろう?
「……はぁ」
 モンモランシーはため息を一つ吐き、視線をまた金と栗色の髪の美女たちのテーブルへと向け、
 瞬間――フェイトさんの顔色が劇的に変化した。

 ? なに?
 視線に疑問符を乗せてヴィヴィオを見る。
 果たして少女は明後日を向いて口笛を吹いていた。
「…………………なにしてんの?」
 じとー、と半眼になってヴィヴィオを見る。
「ぴゅ〜、ぴゅ〜……」
「…………いや、吹けて無いし。顔に『何かありました』って書いてあるし」
 ヴィヴィオの頬が引きつり、冷や汗がたらり。モンモランシーの視線から温度が下がる。
 ジ――――――……。
 だらだら、だらだらだらだら……。
「…………あ、あのねモンモランシーさん? その――」
 たまらずこちらを向いて口を開くヴィヴィオを、
「――エリオは見つかった?」
 遮り、睨む。
「なっ……ナンノコトデショウ……?」
 冷や汗を滝のように流しつつ視線を泳がせるヴィヴィオ。それを見てモンモランシーは思わず呆れる。
 ……この子はこれでごまかしてるつもりなのかしら?
「……さっきまであなたの親御さんたちが話してでしょ? 『エリオが見つかんない』って」
 視線をフェイトさんとなのはさんのテーブルへ――いつの間にか姿を消し空席となったそこへと向けながら肩を竦めて見せる。
「――って、ちょぉっ!?」
 そして視線を戻した先で、
「ごっ、ごめんなさ〜っい!!」
 ヴィヴィオは背を向け、脱兎の如く逃げ去るのだった――。

 ◇◆◇◆◇

 ――魔法。
 科学とは異なる概念により紡がれた、人の夢を叶える方法。
 ――では、その究極とは?
 人が人の望みを叶える――そのために必要な魔法。その魔法を使うために必要な莫大な魔力と類い希なる魔導師としての資質。
 そのすべてを揃え、整わせ、願望機とする――その理念に基き作成されたロストロギアがあった。
 ――人の望みを叶える魔法の、一つの究極。
 そしてそのロストロギアを組み込まれ、内包し、彼女らは生み出された。
 ――人が人の望みを叶える人型願望機。
 その名を――

『――アリス!? どうしたのその傷っ!!』

 ウィンドウ越しに響く悲鳴のようなフェイトの声に、アリスはらしくないほどの狼狽と困惑を顔に描いていた。
 ……ううん、違う。
 ルイズは内心で首を振る。
『血が……!! アリス……!!』
「ぇ、あ、その……えっと……」
 自分を心配するフェイトに対し、見た目同様に慌てふためくアリスは、それが『らしい』のだろう。
 老獪にして無機質。機械的にして枯れ果てた無表情の少女。それこそがアリスだと思っていたが――違う。
「これは……大丈夫、だから」
 本来のアリスは、
 本当の彼女はきっと、
「……心配、しないで。…………お姉ちゃん」
 ただの、大好きな姉のために一生懸命な女の子なのだろう。
 それこそ、
 本当に本当は――

 ――では、そんな少女はどうしてあんな顔になった?

『はいはい、落ち着いてフェイトちゃん』
『な、なのは……?』
「なのはさん!?」

 ――では、そんな少女はどうして色を無くした?

「――――ッ!!」
 目の前が暗転するような衝撃。ルイズは絶句し、視線を内面へと転じる。
 ――少女が色を失った理由を、
 失ってしまったワケを、
 ルイズは既に知っていた。
「…………そういうこと」

 ――……わたしはアリス。

 彼女の言葉を思い出せ。

 ――わたしは言うなれば生きる『ロスト・ロギア』――進み過ぎて滅んだ古代文明の遺産――そのデッドコピーです。

 彼女の言葉の意味を考えろ!

 ――……わたしはその願望器の模造品。……わたしはそれでも良かった。模造品でも、デッドコピーでも……それでもわたしはお姉ちゃんが大好きだったから。

 どうして彼女は、色を無くした?

 ――……わたしはこう見えて百年以上生きてます。

 その間に、少女は何を知った?

 ――……特別なチカラは人々の欲望の前に悲劇しか呼ばない、と。大きすぎる夢は、時に、人を狂気に堕とすのだ、と。

 彼女は何を知ったと言った?

 ――……人と違うチカラが、人を狂わせる。

 どうして?

 ――助けた人に、わたしはわたしの大切な人を殺されました。

 なぜ?

 ――だけど、結果的にわたしはその人に殺されかけ……結局、わたしの大切な人は殺されてしまいました。

 その話に自分を重ねたのを忘れたか?

 ――……わたしにはもうチカラしか残っていません。だから、ルイズさんも覚えていて下さい。『特別なチカラは人々の欲望の前に悲劇しか呼ばない』ということを。

 もしかしたら自分の末路の一つかも知れない――そう思ったのを忘れたか!?

 ――わたしは……後悔しています。

「――…………ぃよ」

 ――ずっと、……ずっと。一歩進む度に、振り返って……悔やんで。悔やんで、悔やんで……諦めて、……諦めた。

「――……もう、いいよ」

 ――だけど、……それでも。……やっぱりわたしは……――

「……もう、いい」

 ――……お姉ちゃんが、大好きだから。

「アリス」
 呆然と、こちらを見るアリスへと向けて微笑む。
「……わたしは――」
 そしてまた、『もういいよ』と。わたしは一人で大丈夫だから、と。もうアリスは休んでもいいよ、とルイズは言おうとして――
「っ! ルイズさん!!」
 ――アリスの叫び声に、遮られる。
「…………え?」
 いきなり視界に影が差し、
 背後から凄まじいまでの殺気を感じて、
 振り向く。
 そこに、巨腕を振り上げて迫るオーク鬼を見つけ、
 ――ガガギギィイイイ!!
 ストラーダによって眼前に展開された黄色い障壁にオーク鬼の拳がぶつかり、火花を散らす。
「あ――」
 目を剥く。
 ほんの数分、自失していた間に幻獣を有する部隊に接敵されていたらしい。
「くう……!」
 視点を周りへ。障壁の内側から自分たちを囲う形で展開された敵軍を見て回し、顔をしかめる。
 ……だめ。完全に囲まれてる!!
 ルイズは自身の魔法の特性上、オーク鬼の猛攻を防いでいる間は攻撃出来ない。
「……まずいわ」
 攻撃か、防御か。両方を同時にこなすことは出来ず、回避に回ることも出来ないルイズは苦渋に顔を歪ませる。
 そして、
「ル、ルイズさん……!!」
 視線を何気なく逸らした先で、

 ――吐血し、体の端々から血しぶきを飛ばして攻撃を防ぐアリスを見つけて、我が目を疑った。

 ……え?
 果たして彼女の状態には見覚えがあった。そしてだからこそ、半瞬前まで完治して見えた少女の状態が見せかけだったのだとようやく気付いた。
「あ、あんた――」
 完治したんじゃなかったの!?
 そう問おうとして、
「障壁をといて! 早く!!」
 いつになく真剣な、鬼気迫る表情を浮かべて叫ぶアリス。それを見てルイズは息を飲む。
 ……障壁を――とく?
 眼前――どころか、周りをオーク鬼や敵歩兵部隊に囲まれ、間隙の無い猛攻を受けながら、ルイズは数瞬、思考を加速させる。
 そして、
「っ! アリス!!」
 叫ぶようにして少女の名を呼び――障壁をといた。
「ゥオオオオ――――ッ!!」
 瞬間、無防備となったルイズへと迫る怒号と殺意。
 そして、
「――『フェイク・シルエット』!!」
 目を剥くルイズの眼前へ一瞬で移動するアリス。
 それとほぼ同時、彼女の幻影魔法が起動。数百からなる幻獣歩兵混成部隊を凌駕する総数のアリスとルイズの幻影を生み出す。
「な、なんだ!?」
「これは――幻!?」
 それは一瞬の出来事。突然現れた少女たちの幻影は、その出現と同じく唐突に――消えた。
 本物のルイズとアリスの二人とともに――

 ◇◆◇◆◇

 いったい、何人と戦ったのか。
 いったい、何隻を墜としたのか。
「……はぁ……はぁ」
 エリオは一人、航行不能となって徐々に高度を下げる戦艦の中で荒い息をついていた。
 ……さすがに疲れた。
 火災の発生した、他に誰もいない甲板で壁に背を当て、両足を投げ出すようにして座りながらエリオは苦笑する。
「……だいじょーぶかよ、相棒?」
 左手に下げた大剣からの問いに青年は言葉を返せない。それだけの余裕すら、無い。
 疲労困憊。
 熱と痛みを孕んだ右腕に力は入らず、左手は硬直して開くことすら出来ない。両足は痙攣し初め、そして少し前から片目もおかしかった。
 ……最悪。
 時折チラつく幻影。それも、今まさにルイズが殺されてしまうような映像ばかり。激戦の中でそれを幾度か見せられたエリオは、肉体と精神の両方を余計に削られていた。
 それでなくともデバイス無しでの空戦に次ぐ空戦で魔力がほぼ底をつきかめているのだ。そこにきて護るべき少女の危機を幾度も垣間見る羽目となればいくら青年でも限界を迎えるというもの。
「……さて、と」
 それでもエリオは立ち上がる。
 魔力は枯渇寸前。肉体は限界を痛みをもって訴え始めている。
 しかしそれでも、青年は立ち向かうことを止めない。まっすぐに、エリオは空を――自分へと向かって飛来する竜騎士たちを睨んで硬直していた左手になけなしの力を込めた。
 そして――ドサリ、と。
 両足は立つことを放棄し、青年は無様に尻餅を着いた。
「あはは……これは、だめ、かな」
 左手から『カラン』と、音を立てて剣が落ちる。
 もはや打つ手無し。
「はは……」
 だから――笑う。彼我の戦力差が絶望的なことぐらい初めから知っていた。
 だから、エリオは笑う。笑って、自分の死すら覚悟する。
「……だけど」
 笑う。
 笑って――足掻く!
「僕にも、たとえ死んでも、守りたいものが、あるから」
 笑顔のまま、歯を食いしばって前を見据える。

 ――諦めない。

 震える右手を、左手を、デルフリンガーへと伸ばす。
 ガンタールヴのちからでいくらか疲労も緩和され体が軽くなるが、それも既に焼け石に水。大した効果を与えることは出来ず、エリオはそれだけでは立てず、デルフリンガーを地面に突き立てるようにしてどうにか身を起こす。

 ――覚悟を決める。

 震える足に活を入れ、

 ――自分の死すら絶望ではない。

 支えとしていた壁から手を離し、

 ――喪うことこそが絶望と、知っているから。

「……相棒」
「さあ、派手に行こうかデルフリンガー」

 ――醜くとも、格好悪くとも、足掻くのを止めない。

 飛来する竜騎士たちを迎え打つため、青年は最後の力を振り絞る。

 ――ルイズを護ると決めたから。

 ◇◆◇◆◇

 ――例えば、エリオは高速戦闘に特化した、近代ベルカ式魔法を使う魔導師で、
 例えば、その師である高町なのはは単体戦闘が可能なミッドチルダ式魔法を使う砲撃魔導師で、
 例えば、ルイズは伝説の系統魔法『虚無』を使うメイジだ。
 それらは人の個性のように彼らの魔法の特徴を、特性を、力の強弱の差こそあれ形作る。
 そして、魔導師アリス・ハラオウンの魔法特性は――

「――『並列思考』?」

 一瞬にして反乱軍たちから離れ、彼らを一瞥できる小さな丘へて逃れたルイズは傍らの少女の言葉をオウム返しにする。
「……そう。二つ以上の……ことを同時に……思考する……こと」
 座ったルイズに体を預けるようにしてどうにか上体を起こしながらアリス。矢によって貫かれた傷をゆっくりと、しかし見る見る内に修復しながら遠くを見つめて言葉を次ぐ。
「……わたしはもともと……それだけに特化した……魔導師、になるはず、でした」
 少女たちの役割は地上部隊の足止め。そしてだからこそ、彼女らの姿を見失った反乱軍が捜索活動へと動作を切り替える間を休憩とした。
「……魔力の扱いに長けた……エリオさんたちとは違って……わたしは二種類以上の……魔法を……同時に使える……そのことだけを念頭におかれた……人造魔導師」
 戦闘で疲弊したのを回復するのは勿論。アリスの状態を完全に回復させるために、ルイズは敢えて休むことを選んだ。
「わたしには……他に……才能が、無い」
 よく見なくともアリスが血で汚れたひどい有り様だったことを知っていたルイズは、少女に話をさせている間に彼女の体を自分の膝へと横たえさせる。
「……そのはず、でした」
 スカートの中から綺麗なハンカチを取り出し、アリスの体を拭う。
「……目覚めた時、わたしには、人を超えたチカラがあった」
 汚れを拭えば、少女のきめ細かく白磁のように綺麗な肌が現れる。
「わたしは……異世界のわたしのチカラを使う……そういうチカラが、ありました」
 その白を際立たせる、醜悪な血色のタトゥーとともに。
「異世界の、わたし?」
 アリスの言葉をまたオウム返しにしながら、少女のマントを脱がせ、その身を戒める黒い包帯を外して体を拭う。
「……世界は、星の数ほどあって。……中には、わたしと同じ、もう一人の自分がいる世界もあって。……わたしはその、もう一人のわたしの魔法を……魔力を、使えるんです」
 そしてそれこそが、アリスという少女の本当の異能。
 他者の願いを叶える願望機。
 その宿命を、チカラを持ったアリス。
 そして――その『アリス』の記憶とチカラを転写し振るうことが可能なアリス。
「……すみません、ルイズさん。わたしは……嘘をつきました……」
 アリス――『プロジェクトF』によって生み出された人造魔導師にして他者の願望を叶える人型ロストロギア『アリス』の異世界同一存在。
「わたしは……前にわたしが言ったような経験は……していません」
 少女の本当のチカラ――先天性保有技能『ドッペルゲンガー』は、『他者の願いを叶える』というチカラではなく、『異世界の自分のチカラを、記憶を自身のもののように使える』というもの。
「わたしは……まだ、生み出されて……一年ほどしかたっていません」
 そして人型願望機『もう一人のアリス』の異能と記憶を彼女は生まれる前から持っていた。
「だから、わたしは……もう一人のわたしの……劣化模造品」
 ――遠い昔、願望機として生み出された少女がいた。
「わたしは絶望を知っていますが……知っているだけです」
 ――その少女は、その『願いを叶える』という異能を持ちながら、不幸だった。
「……だって、わたしは……もう一人のわたしのように、強くないですから」
 ――何故なら、少女は、決して自分の願いを叶えようとは思わなかったから。
「……わたしには……わかりません。どうして、わたしは――……ルイズさんは、わたしのチカラを使わないんですか?」
 アリスはまっすぐ、その澄んだ瞳をルイズへと向けて問う。
 対してルイズは――
「――……そっか」
 頷いて、返す。
「どうしてあんたが自分のためにチカラを使わなかったのか……ようやく、わかったわ」
 不思議そうな顔を自分に向ける少女に笑みを浮かべる。
 願いを叶えるチカラ。
 そのために払う代価が怖かったから、彼女に願いを叶えてもらわなかったわけではないし、もし自分にそんな異能があったとしても使わなかったとルイズは思う。
「あんたは――……もう一人のアリスは、そのチカラを与えてもらったのよね?」
「え? あ、はい……」
 そう確認してルイズは確信する。
 ……ああ、そっか。
 少し前に、彼女の話したもう一人のアリスに自分を重ねたことを思い出す。
 そう……本当に似てたのね。
「ルイズ、さん……?」
 願望機として願いを叶える少女。
 自身のためにはそれを使わず、不幸となった少女。
 そして――もしかしたら自分の末路の一つかも知れない少女。
「……もう一人のあんたが、どうして自分のためにチカラを使わなかったのかは知らないけどね」
 疑問符を瞳いっぱいに浮かべる少女から視線を外し、遠くの反乱軍へと顔を向けて言葉を次ぐ。
「わたしがどうして、あんたのチカラに頼らなかったのかなら、教えてあげる」
 わたしは――そうルイズが言葉を続けようとするのと、
 あ――とアリスが目を丸くするのが同時。
 そして、
 二人の視線で、
 遠くの反乱軍の頭上で、

 ゴォオ゛オオオオ――――!!

 凄まじいまでの稲光が、轟音が、閃き、轟き、空を駆け巡った。
 そして、
「「――――!?」」
 彼らは空を覆い尽くさんとばかりに現れた――





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《ゼロの使い魔〜雷槍の騎士〜2》20

《ゼロの使い魔〜雷槍の騎士〜》





 彼らは当初、三人の少年少女たちを往生際の悪い王軍による時間稼ぎとしてしか見ず、『我らはトリステインの大使だ』という少女の言葉に耳を貸す者はいなかった。
 故に彼らは進軍を止めず、
 故に少女らの再三に渡る警告を無視し、
 そして、

 彼らは五万という大軍でありながら、たった三人の少年少女たちによって無理やり進軍を止められた――。

 ◇◆◇◆◇

 十人いれば多いと感じ、百人いれば多勢と感じ、そして千人を超えれば最早数の多さなんてどうでも良かった。
 遠くで動く人の波。対する自分たちは石ころか。そんなとるに足らない存在を前に波は止まらず、一切気にせず、軍靴の調べを潮騒のように響かせ続ける。
「……まあ、そうするでしょうね」
 ルイズは苦笑し、呟く。
 再三に渡る、叫ぶような大声をあげての説得は徒労となり、対する五万ものアルビオンの反乱軍は一切進軍を止めなかった。
 だから、仕方ない。
 少女は視線を、隣に浮遊していたアリスへと向け、
「いいわよ、やっちゃって」
 肩をすくめ、一言。
 そして、
「了解。『オプティックハイド』――解除」
 幻術の隠れ蓑が剥がれ、赤いてるてる坊主の眼前に現れる桃色の魔力光。
 それは巨大な魔法陣。
 それは超大な魔力球。
 半径にして十数メートルという巨大なミッド式魔法陣の前に収束する、三十メートルは優に超えた直径を有する桃色の魔力の塊。
 それをアリスは躊躇無く――
「起動――『スターライト・ブレイカー』」
 ――放つ!
 ド……ッゴォオオオ!! 桃色の閃光が駆け、人の波を抉って過ぎる!
 正に圧倒的。アリスの放った砲撃魔法は驚愕し恐怖して目を剥いているだろう大多数を飲み込み、そのすべてを等しく地に伏せさせる。
「……ぅわ」
 それを見て、ルイズは目を丸くした。
 スターライト・ブレイカー。
 事前にアリスからその魔法について聞いていたし、エリオからもその魔法がいかに強力かは聞かされた。もともとは、青年の師に当たる魔導師が編み出したそれは、強大な魔力を周囲から集め、収束させて放つ強力無比なる砲撃魔法で、その威力たるや彼の知る魔法の中では最高位だとか。
 アリスのはその模倣で、本家本元のそれとは比べものにならないぐらい威力や収束率などで劣っている上に、その魔力の収束から砲撃までのシークエンスがあまりにも長くかかってしまうため実績には向かないという話。少女が言うには見た目の派手さなら負けてはいないが、それは上手く魔力を一点に収束しきれていないせいであり要はムラの成せる技だとか。
 しかしそれでも、ルイズの目には反則的なものに映った。
 どれだけエリオやアリスに『本物はもっと凄い』と言われようと、一撃で百を超える兵士を昏倒させ反乱軍の陣形を抉ってみせたそれを、ルイズは過小評価なんて出来ない。
 ……これが異世界の魔法。
 これが異なる世界において最高位とされる魔法。
「さて、ここからが本番ですね……」
 そして百を超える兵を凪ぎ払って尚、傲るでもなく純粋に事の推移を見定めるアリス。
「うん。彼らも少しは僕らの危険性がわかったろうしね」
 そんな少女を誉めることも忌避することもなく、逆にそれが当然とばかりに肩から大剣を抜き放って彼女に同意するエリオ。
 ルイズは戸惑う。文字通り次元の違う二人の魔導師を前に、思ってしまう。
 自分が、どうしようもなく足手まといな存在ではないか、と。
 自分一人が、彼らと違う、平均以下の落ちこぼれではないか、と。
 だから――

「――大丈夫です」

 一歩、下がろうとした少女に、かかる声。
「あなたは役立たずじゃありません。だから、ルイズさんはルイズさんの役割をこなして下さい」
 振り向くルイズに顔を向けず、
 不安を宿す瞳に笑みすら向けず、
「あなたが居なければわたしたちは生き残れません」
 アリスはただ、遠くを睨んで告げる。
 少女はただ、それが当然だと言わんばかりの態度で告げる。
 そして、
「行くよ、ルイズ!」
 エリオは一瞬だけ笑みを向けて、すぐに駆けだした。
 二人はルイズを励まさない。
 彼らは少女を叱咤しない。
「『プロテクション』――自動起動設定。『ジャンプ』――起動準備開始」
 何故なら、その必要が無いから。
「さあ、行こうデルフリンガー!」
「おう!」
 何故なら、ルイズは既に、前を向いていたから。
「……ふん! いいわよ、やってやるわよ!!」
 少女は凶悪な笑みを刻み、
 左手に、青年より借りた『ストラーダ』を、
 右手に、少女より渡された『始祖の祈祷書』を持ち、
「――……エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ」
 紡ぐは、祈祷書に記されし古代のルーン。
 アリスが予めトリステインの王宮から盗んで来たらしい国宝――『始祖の祈祷書』に記された、始祖ブリミルが記した古代語を唱える。
 それに伴い、『ジャキン!』とストラーダのカートリッジがロードされ、少女の消費する魔力を補う。
「――……オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド」
 長い、長い、詠唱。
 それは初めて読む、生まれて初めて紡ぐ詠唱でありながら、まるで子守歌のような懐かしさをルイズに感じさせた。
「――……ベオーズス・ユル」
 懐かしい。
 ルイズは呪文に陶酔していくように、体内に生まれた波をうねらせていく。
「スヴュエル・カノ・オシェラ」
 リズムが刻まれ、うねり、大きくなっていく。そんな感覚に身を任せ、周囲の一切を無視して謳い続ける。
「…………」
 その様子をアリスは横目で眺め、すぐに視線を前に戻した。
 それと同時、
 ヒュッ……!
 幾百、幾千という矢が、砲弾が二人へと殺到!
 そして、
「邪魔です」
 ギィギィィイイイ――――……ン!
 そのすべてを数センチという小さな魔法陣が防ぎ、弾き、無力化させる。
「……いいえ、邪魔ではありません。邪魔にすらなりえませんね」
 アリスは笑う。
 異界の魔女はかくも皮肉げに嘲う。
「強い魔力を持つエリオさんやお姉ちゃんならまだしも」
 アリスは嘲笑する。
 対物理攻撃に特化させた自動起動型の魔力障壁を前に、幾百の矢は、幾千もの弾は無力。
「対魔特性の攻撃をするルイズさんやお兄ちゃんならまだしも」
 アリスは狂笑する。
 それら一つ一つは無力でありながら、しかし魔力を消費し続けることには変わり無く、数の暴力は確実に少女を致死へと追い込む。
「あなた方ではわたしを終わらせることは出来ない」
 それでも、笑う。
 刻一刻と死へと近付きながら、それをこそ笑いに変える。
「殺せるものなら殺して――」
 果たして、その言葉はルイズの放った魔法の光にかき消された。
「……『エクスプロージョン』」
 それは小さな太陽のような、凄まじいまでの閃光をもった一撃。数十メートルという広範囲を包み、吹き飛ばす無音の爆撃魔法。
 ストラーダのカートリッジ・ロードによって魔力や威力を上乗せしたからこそ、だとルイズは思う。そうでなければ自身の魔法が先ほどのアリスのそれと同等かそれ以上の威力を持って大部隊を吹き飛ばしたとは思えなかった。そうでなければ――怖すぎる。
 先の魔法は我ながら反則だ。強すぎる。もしストラーダの『非殺傷設定』という加護を持たず自力でのみ放っていたら……何十という人間が死んでいたかわからない。
「これが……『虚無』」
 これこそが伝説……。
 これこそがわたしの――
「ルイズさん」
 自分の力に愕然としていたルイズは、不意に呼ばれて我に返った。
「……なによ?」
 隣に浮遊し、真紅の魔法陣でもって殺到する矢や銃弾を無力化していたアリスを見る。
 それに赤マントに赤い帽子の少女は悪戯っ子のように茶目っ気たっぷりの微笑を浮かべて、一言。
「じゃ♪」
 瞬間――アリスの姿はかき消えた。
 すべての攻撃をわたし一人に集中させて――。

 ◇◆◇◆◇

 敵主力艦を叩き落とすこと事態は難しくない、とエリオは思っていた。沈めるだけなら、それこそ先ほどアリスの放った砲撃魔法だけでも十分だったろう。
「来やがったぜ! 相棒、竜騎士だ!」
 しかし、それではダメだ。
 誰一人として殺さず、殺させずに済ますには危険を冒してでも接近し、艦に乗り込んで直接叩かなければいけない。
 故に、エリオは単身、敵主力艦目指して滑空する。
「無視だよデルフリンガー!」
 接近する数十からなる竜騎士隊の、そのすべてを無視しする! 降りかかる火炎を、風の刃を、すべて避けて一直線に空を駆ける!
「! 本気か相棒!?」
 視界の先――目標である艦で光が瞬き、轟音が上がる。
 砲撃。たくさんの鉛を一気に放つ散弾。それを眼前に張った魔力障壁で弾き、速度を上げる!
 ガガガガギィィイイ……!!
 障壁を削る散弾に怯まず、デバイス抜きでの魔法使用による莫大な魔力消費に構わず、一分一秒でも早く敵主力艦へ!
「はは! おでれーた! さすがは相棒! さすがは伝説の使い魔、ガンダールヴだ!!」
 砲撃を避けず、竜騎士たちを無視して一直線! 果たして数分という、短くも長い激戦区を潜り抜けてようやく敵主力艦へと突っ込む!
 ドッグォオ――……ン!!
 相手が船だからといって素直に甲板に上がる必要は無い。エリオはそれこそ一直線に、今まで散々砲撃をしてくれた砲台を吹き飛ばして艦内へと侵入した。
「う、うわぁあああ!!」
「ヒィイイ!?」
 混乱と驚愕と戦慄をもって自分を見るすべての人間に向けて視線を走らせ、柄にもなくニヤリと笑って口を開く。
「我が名はガンダールヴ! 始祖ブリミルに仕えし最強の使い魔なり!!」
 若干頬を染めるのはご愛嬌。エリオは当初の目的通り相手に畏怖と混乱を招くために精一杯悪人顔をして叫んだ。
 それに、侵入者に気付いたのだろう迎撃部隊が雄叫びを上げて特攻。そして即座に暗く狭い室内を縦横に吹き飛ばされる。
「ぅわぁあああ!!」
「ヒィイイイ!!」
 絶叫が、悲鳴が、恐怖と混乱を呼び、艦内に轟き満たす。
「我は千の軍を滅ぼす者!」
 その中にあって青年の言葉に疑う者は、もはや居なかった。
 僅かばかりの戦意や勇気を振り絞って彼に挑む者はすべて彼の紫電散らす大剣によって凪ぎ払われ、また及び腰の残存部隊も含めた逃げ遅れていた者すべてが昏倒させられる。
 そして、すぐさま室内に火の手が上がり、更なる絶叫が艦内に響き渡る。
 もはや青年に挑もうとする者は一人とておらず、艦内に残ったすべての者たちは我先にと脱出し始めていた。
「我はガンダールヴ!」
 それらすべてに青年は等しく鬼のような形相を浮かべ、悪鬼羅刹のように狂ったような笑みを口元に刻んで応対。雷光纏う大剣を振るい、逃げ惑う者たちをこれでもかと追い立てる。
「我は始祖に仕えし最強の使い魔!!」
 ――その日、その艦に乗るすべての兵士は後にこう語る。
 どうして自分たちが生きているのか――そのことが逆に不思議に思えた、と。

 ◇◆◇◆◇

 エリオが単身『レキシントン』号、及び航空戦力を叩いて、わたしとアリスの二人が地上部隊を抑える。
 ……そう、二人で。
 なのに――わたしは今、一人だった。
「アリィイイ――――ッス!!」
 雨霰と降りしきる矢の中、ストラーダが張ってくれた障壁に守られ動けないわたしはとりあえず叫ぶ。
 状況は最悪。カーリッジをロードし続けてバリアを維持しているけど、それでも現状は苛められている亀のよう。
 距離の離れた相手に攻撃する手段なんてわたしには『虚無』しかなく、それを打とうものならたちまちバリアが消えて矢の餌食になってしまう。
 つまりは手詰まり。
 エリオは航空戦力を一手に引き受けているだろうから呼べないし、アリスはいないしで、もう最悪!
『――……どうにも状況は芳しくないみたいですね』
 ようやくの念話での返事は彼女にしては冴えないもの。無機質無感動な声音に焦りを匂わせる雰囲気を纏ったアリスの声に額をまた冷や汗が伝って過ぎた。
『あちらの「目」――遠距離の戦況を把握し伝える手段は、ほぼ潰しましたが……まだ「頭」――戦況を判断し指示する者たちが潰し切れてません』
 わたしは歯噛みしてアリスの言葉を聞く。なによ、らしくなく焦ってんのよ……。
 冷静沈着な彼女がそんななのだ。それだけで現状が如何に不味いのかが知れるというもの。
「な、なんか打開策は無いの?」
「今はそれより相手の『槍』を――城へと向かった別動隊をどうにかするのが先です」
 問いへの答えは隣から。アリスはいつものような神出鬼没っぷりを遺憾なく発揮して気付いたら隣に浮遊し、向かって左手側を睨んでいた。
「流石に一筋縄では行きませんね。こちらの『主砲』が長い詠唱を必要とする『大砲』だと気付かれているようです」
 ! それで――!
 アリスの言葉にハッとする。つまりわたしの『虚無』を抑えるために矢の雨を!?
「ちょっと! どうする――」
「ルイズさんは向かって前方の『矢』を――遠距離攻撃に特化した弓兵部隊に向けて『虚無』を」
 遮り、らしくない早口でアリス。そして視線を左手側に向けたままわたしの前に浮遊し、

 ――ニコリ、と笑った。

「……先に申し上げておきます。わたしは――死にません」
 呆然とアリスを見た。
 その浮遊する足下に浮かぶ三角と十字架で描かれた魔法陣――エリオのそれと酷似した真紅の図形を見ながら言葉を失う。
「『デアボリック・エミッション』開始――闇に、染まれ……」
 その言葉と共にアリスはルイズを守る楯から飛び出し、

 ――その身を少女の楯とするように滞空した。

「っ!? アリス――!!」
 叫ぶ間もあらばこそ。即座に数百数千もの矢に打たれ、その身に纏う赤いマントや帽子を打たれるアリス。
 ルイズは目を剥く。
 少女の纏うそれがバリアジャケットであったからこそ未だ彼女に傷は無いが、しかしそれは『今は』というだけ。遠からずアリスの防護服が貫かれるだろうことは段々と端から傷付いていくのを見れば嫌でも知れる。
 そしてだからこそ――ルイズはアリスから目を逸らした。
 ……わたしは死なない? ――だから何よ!!
 彼女の狙いがわかったからこそ、ルイズは迷わない。ストラーダに張らせていたバリアを『虚無』の魔法へと転じ、消す。
 今は一刻も早く攻撃を!
 それだけを念頭に、二人は魔法を詠いあう――。

 ◇◆◇◆◇

 『レキシントン』号の動力部を墜落しないギリギリまで破壊するのに思いの外時間がかかった。
「皆逃は……まだ、か」
 次なる航空戦艦へと向かいながら、眼下の戦況を見回すエリオ。瓦解し始めた部隊や混乱し停滞する部隊もチラホラと窺えるも、未だに数千数万という兵は無傷にして戦意を損なっていない。しかもルイズたちだろうと思しきそこに矢を降らせて動きを封じ、その脇を迂回するように城へと向かう部隊を見つけて顔をしかめた。
「戦況はまだまだ芳しく無いな相棒」
 手に下げたデルフリンガーが苦い声で言い、エリオもそれに苦い表情になって頷く。
「……もともと勝てるような戦力差じゃなかったから、ね!」
 言葉の途中、向かって来た竜騎士たちに向けて剣を振るう。
 ……正直、手間がかかりすぎる。
 相手を傷付けず、無力化する――それだけでも難しいのに高高度での空戦では、下手に無力化すれば墜落死の危険性もあるため必要以上に神経をすり減らす羽目になる。
「ぐぁ――!?」
「ギャアア!!」
 数十数百という竜に跨る騎士たちを睨み、最も近い飛行戦艦へと向かう道すがら片っ端から片付けていく。
 ……マズいな。
 途中、ルイズの爆発魔法によってだろう眩い閃光や、アリスが使ったのだろう対照的に漆黒の闇を視界の端に捉えるも、しかしエリオは内心の焦燥を止められない。
「……相手方の司令官は優秀みたいだね」
 チラリと眼下を見つつ、デルフリンガーにしか届かないような声音でエリオ。出来ることなら今すぐにでも少女たちのもとへと向かいたいが――そんなことをすれば間違いなく敵軍を抑え続けることなど出来ない。
「たしかに! こっちの唯一の航空戦力である相棒をご自慢の竜騎士隊総出で抑えるたー並の軍師じゃ出来ねー判断だ! 恐れ入るぜ」
 皮肉を多分に含んだ賞賛の言葉でデルフリンガー。エリオは内心で苦笑してそれに同意。
 ……本当に、恐れ入る。
 敵軍の主戦力である航空戦力をすべて自分に当てているため下手に合流出来ない上に、地上へも降りられそうにない。相手の狙いが戦力の分断にあるのだとしても、エリオは今、デバイスも無しに飛行や攻撃の魔法を使っているせいで魔力を浪費し続けているため、その点でも頭が痛い。
 開戦するやアリスの『スターライト・ブレイカー』にルイズの『虚無』の魔法をくらい、主力艦を早々に失って尚、戦意を失っていないらしい敵軍とその動きを見れば、彼らに指示する立場の人間が如何に優秀かがわかる。
「……マズいな」
 そしてわかっているからこそエリオは焦る。
 眼下ではあまり動きを見せないルイズとアリスへ向かって幻獣だろう巨大な鬼人が数十匹、数百からなる歩兵と共に駆けていた。
「ルイズ、アリス……どうか無事で!」
 助けるすべの無い青年はそう叫び、また敵戦艦の一つへと突撃するのだった――。

 ◇◆◇◆◇

 例えば、とある『文明が進み過ぎて滅んだ世界』があったとして、その文化の遺産が何らかの理由で異世界へと流れたとする。
 それは、その流れついた世界からすれば自分たちより進んだ世界の遺産であろう。それはさながらオーパーツであり、そしてとある世界の住人たちからそれは『ロストロギア』と呼称されていた。
 『ロストロギア』――進み過ぎて滅んでしまった世界から流出した遺産。その中には、願いを叶える魔力結晶――『ジュエル・シード』や、圧縮された魔力の結晶――『レリック』があった。
 そしてその二つに共通する『莫大な魔力を内包する宝石』はもう一つ、とある少女の一部にも存在していた――。
「……だから、わたし、は……死なない……と、言ったん……で、す」
 ルイズの代わりに文字通り矢面と立ったアリスは全身至るところを矢で貫かれた酷い有り様で、それでも笑顔を作って言った。
「わたしの……右目、と……頭の、一部は……固ぃんで、す……」
 右手や左肩に矢を生やし、
 右肺を、心臓を、貫かれ、
 左右脇腹から血を流し、
 両足は削られ、
 服を血の赤に染め、
「……だぃ……じょ……ぶ、です」
 辛うじて無事に残った顔の右半分で微笑み、
 見るも無惨な有り様となった顔の左半分で真紅の涙を流して、
「アリス……」
 ルイズは言葉をかけられない。
 少女の着ていたバリアジャケットがボロ雑巾のように成り果て、血と臓腑を垂れ流す死体であるはずの彼女は、しかし人で無いが故に地上には降りない。辛うじて残ったマントの残骸と四肢を拘束する漆黒のベルトで赤く醜い裸体を隠し、アリスは真に化け物であることを証明するように未だに滞空し続けていた。
『――とりあえず体の修復は後回しにしますので今は念話でお話させて頂きます』
 アリスは視線を遠くの敵部隊へと向けながら念話を介して言う。
『現在、相手方の歩兵部隊とオーク鬼による部隊がこちらに向かって来ています』
 その言葉と同時にルイズの前に出現する三十センチ四方のウィンドウ。
 その、いきなり現れたウィンドウとその中に映る雄叫びをあげて駆ける敵部隊とを見て目を丸くするルイズに、しかしアリスは一瞥もくれずに言葉を継ぐ。
『しかし先行する部隊は……おそらくは陽動でしょう。その後方から近付く魔導師――メイジを中心とした部隊と、大砲を担いだ部隊こそが本命かと』
 ルイズの眼前に新たなウィンドウが開き、先ほどの歩兵部隊やオーク鬼を中心とした幻獣を使役する部隊と違って歩みの遅い、ローブを着た部隊と大砲を運ぶ部隊とを写す。
『……歩兵部隊が平民でのみの編成から見て、おそらくは彼らに足止めさせている間に、最悪、彼ら共々砲撃の餌食とするつもりでしょう』
 その台詞に『……最悪』と呟くルイズ。その作戦は自分たち『誰の犠牲を強いることのない終戦』を目指す者からすれば是が非でも止めなければならないものだったが――
「……状況は芳しくありません」
 ――そう言う少女の状態からして、困難は必至。
 ルイズがウィンドウに視線を向けた一瞬で、どうやってか顔や大体の部位を修復したらしいアリス。血糊がベッタリと張り付いた、ボロ雑巾のようなバリアジャケット姿でありながら少女の視線や声に疲労や苦痛の色は無い。
「こちらの傾向は分析されているようですね。……どうやら、相手方のブレインに――『頭』となり指示する立場の人間に優秀な方がいるようです」
 そしてまたウィンドウが開き、航空戦艦や竜騎士隊と戦うエリオを映す。
 青年は見た限りでは目立った外傷は無かった。それに思わず安堵の息を吐きかけ――彼が相対する大部隊を目にしてルイズは顔をしかめた。
「あちらの思惑が何であれ、結果的にこちら側からすれば現状は最悪です」
 その体に纏うバリアジャケットも見る間に修復しながら、アリスは淡々に語る。
「取れる作戦としてはわたしが先行する部隊を抑えている間にルイズさんが」
 魔導師部隊を――そう言いかけ、アリスはいきなり目を見開いて驚愕の表情となった。
 それを見てルイズもギョッとして目を剥き、口を開こうとして――
「しまっ――!? 気付かれ――!!」
 らしくなく慌てふためくアリスと、
 そして目を丸くするルイズの前に、

『――アリス!!』

 ウィンドウが開き、
 ルイズが見たことの無い焦った表情をした金色の髪の、

 ――フェイト・テスタロッサ・ハラオウンが叫ぶようにして少女を呼んだ。

 そして、
「……………………お姉ちゃん」
 ポツリ、と。アリスは申し訳なさそうな表情で呟き、ウィンドウから視線を逸らした――。






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対談日記2・17

嗣希創箱(以下、嗣)「(しみじみ)……週六でアルバイトはやりすぎましたねぇ」

カルディナ(以下、カ)「……学校が休みに入るや更新が停滞した理由がそれでしょう?」

ヴィヴィオ(以下、ヴ)「……それよりどうしてヴィヴィオがまたこの場に?」

ネギ(以下、ネ)「……それを言ったらボクもですよ(とほほ)」

嗣 「……二月って忙しい(遠い目)」

カ 「否定。暇です。多忙は自業自得。また、作者が普段、授業中に執筆しているのが異常」

嗣 「……まさか『2nd』の更新すら出来ないとは(しみじみ)」

ネ 「……二人して無視ですか?」

嗣 「ヴィヴィオがいる理由は次話に登場するからです」

ヴ 「え? (フリーズ)……………………はあ!?(再起動)」

嗣 「注:この会談での言葉は前触れもなく変更されます。あまり本気になされませんように」

ヴ 「ええっ! じゃ、じゃあヴィヴィオは!?」

カ 「先生が出ているのですから出演の可能性は高いかと」

ネ 「……ボクは?」

嗣 「出て来たらスゴいね♪」

ネ 「…………」

嗣 「(サザ〇さん風に)さぁて、次回の『雷騎士』は?」

ヴ 「ヴィヴィオです。って、え!? ほ、本当にヴィヴィオが出るの!?」

カ 「カルディナです。作者が今月中に何話更新出来るか、とても不安です」

ネ 「……ネギです。(台本を取り出して)ところで、次回が最終回って本当ですか?」

カ&ヴ 「え゛!?」

嗣 「……流石にジャンケンは出来ないですよねぇ」

ヴ 「ちょっ!?」

嗣 「注:この会談はあくまで現在の予定であって予告無く躊躇なく変更される可能性があります」

ネ 「(台本を見つつ)次回は『アルビオン反乱軍VSエリオとその仲間たち』『ヴィヴィオ再登場?』『二章完結。そして三章へ』の三本です。……一話ですよね?」

嗣 「注:この会談での(以下、略)」

ネ 「……ちなみに『2nd』は?」

嗣 「未定」

カ 「三章……。今度こそ……(ぶつぶつ)」

嗣 「まあ、今月中には三章に入れないですね」

ヴ 「そんなあっさり更新しない宣言!?」

嗣 「……いや、ヴィヴィオの話をそろそろ…………」

ヴ 「! そっか♪」

嗣 「まあ、たぶん『2nd』の更新の方が先かな? ……下手したら『らいそー』より『セカンド』の方が先に次章に入るやも」

ネ 「! つまり『修学旅行編』ですか!!」

嗣 「(しみじみ)今月は忙しくて忙しくて。だから加筆修正するだけで更新出来る『セカンド』で時間を稼ぐ可能性が……」

カ 「『らいそー』は毎回『書いて、修正して、書いて』の繰り返しですから」

ヴ 「え〜! 『セカンド』はヴィヴィオ出ないからヤ〜」

嗣 「……ふ」

カ 「……まさか、出るんですか?」

嗣 「人って頑張れば百二十歳ぐらいまで生きられるそうですよ?」

ヴ 「え゛!?」

ネ 「――て、出す気ですか!?」

嗣 「例えば『あいつ』の『あれ』を使えば異世界だろうが並行世界だろうが、引っ張って来ること事態は不可能じゃないのです」

ヴ 「『あいつ』……?」

嗣 「そもそも『セカンド』のコンセプトが『闇鍋』なんで今更何を混ぜた所で違和感は無いかと」

カ 「……なにせ『らいそー』ともさり気なくリンクさせてますから」

嗣 「現時点では、さすがに気付いてる人はいないかなぁ、と思ったのでこの場を借りてネタバレを。では、次回の更新でまた」

カ 「……月一更新は流石に」

嗣 「が、頑張りますとも!」

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《ゼロの使い魔〜雷槍の騎士〜2》19

《ゼロの使い魔〜雷槍の騎士〜》






 敵軍、総勢五万有余。中には当然、平民はおろかメイジもいるし幻獣もいる。開戦ともなれば有名なアルビオンの竜騎兵も大挙して押し寄せて来るだろうし、巨大戦艦も嫌がらせではすまない砲撃を加えるだろう。
 本来、迎え撃って出るべき王軍では火力はおろか数の上でも勝てない。つまり、敗戦は必至三百と五万ではもはや戦いにすらならない。背水の陣たる彼らは、それでも最後の一兵になろうと戦い続けたろう。そして全員、生きて明日は迎えられない。
 それは名誉ある敗北か。
 それは勇気ある行動か。
 王軍の者たちはきっと、最後の最後までそのことを疑問視せず、そして結局、それは彼らが死した後に誰かが判断するだろう。

 ――本来、ならば。

「け、結婚式……?」
 ニューカッスル内の教会で、エリオは目を白黒させてルイズを見る。
 これから、三百のアルビオン王軍の代わりに五万もの反乱軍と戦わねばならない二人は、そんな絶望的な状況にあって尚、気落ちしていない。
「あ、ああああんたがわたしの、結婚式を、ワルドと……、だから……!」
 アルビオン王家の新婦の冠に純白のマントを纏った少女は、これから二人だけで戦地に臨もうとしながら、そのことを今は気にしていない――どころか、頭に無かった。
「ぇ、いや、でも……、それは……!」
「うるさい!」
 ルイズは真っ赤な顔をエリオに向けながら、たじろぐ青年を睨んでいる。少女の内心を占める感情の中には不安もあるが、しかしその不安はこれからの戦いへのものではない。
「……あ、あんたは――」
 しかしそれは、世界中の誰もが感じてしかるべき不安。
 世界中の誰しもが感じておかしくない不安。
「――わたしの……、こと……」
 ルイズは赤い顔を俯けて、言葉を濁す。
 ……エリオはわたしのことをどう思ってる?
 そう訊きたくて、しかし訊けない。困惑顔の青年をチラリと見て、またすぐに顔を逸らす。
 青年に自分の想いを伝えたらどうなるか。
 わからない。わからないからこそ不安に思う。
 そして、

「……ごめん、ルイズ」

 エリオは申し訳なさそうに微笑し、言った。
「僕ではワルド子爵の代わりには、なれません」
 ぁ……。
 ルイズは顔を俯けたまま、小さく零した。
 ……そっか、わたしは――
「……ルイズ?」
 エリオは少女の想いを知らない。
 ルイズも自身の想いを正しくは把握していなかった。
 ――ワルドと結婚式をするわ。
 青年は昨晩、念話によって少女の結婚式が翌朝に行われることを知った。
 ――……好きよ。
 その際に、ルイズがワルドのことをどう思っているかを確認した。
 ――……ずっと憧れてたの。だから……、好き。
 その言葉に嘘は無かった。そして子爵の正体に当たりを付けていた青年は、そんな少女の結婚式に内心では反対だった。
 しかし、
 ――……ごめん、ルイズ。
 エリオは結婚式に反対はせず、それを利用する案を出して少女に謝り、
 ――べつに良いわよ。それが最善なんでしょ?
 ルイズは青年の案を大して抵抗せず了承した。
「……エリオ。ごめん……ちょっとだけ、ひとりにして」
「…………うん」
 顔は上げずにルイズ。それに小さく頷いて、エリオは気絶し倒れ伏すウェールズ皇太子を背負い、外へ。
 青年はそして最後に一度だけ振り返り、少女の肩が震え出すのを見て瞳を伏せた。
 ……ごめん、ルイズ。
 声に出さず口だけを動かして謝る。
 ごめん。
 ルイズはワルドが好きだった。そして今日、その憧れの子爵と結婚出来るはずだったのに、それをしなかった。
 ……僕のせいで。
 ワルドは十中八九、アルビオン貴族派の刺客だ。
 つまりはトリステインの敵であり、僕らの敵だ。
 度重なる貴族派の手のものによる襲撃や脱獄させて貰ったらしいフーケ。おそらくはどちらか、或いは両方の手引きをしたのがワルドであり、狙いはアンリエッタ姫の書状とルイズ。ワルドが結婚式を急いだ理由は、おそらく『虚無』の担い手たる彼女を戦火で失うのを惜しんだためか。何であれ、彼がルイズを一人の女の子として見ていなかったのはわかっていた。
 だからこそ、そんな子爵の本性を知らない彼女が、このままワルドと結婚式をあげるのは可哀想だと思った。本気で彼を慕っていたらしいルイズに、僕は傷付いて欲しくなかったから策を弄して結婚を妨げた。
 ……そのせいで、少女が哀しむことになるとは思わずに。
「……馬鹿だな、僕は」
 自嘲の笑みを刻んで、教会の扉を閉める。
 馬鹿だ。ルイズだって女の子なんだ。好きな人とする結婚式に憧れていたっておかしくないし、こんな形で子爵と別れることになって彼女が傷付かないワケが無い。
「? ……エリオ?」
 今まで廊下で待っていた青髪の少女――シルフィードが不思議そうな顔を向けて首を傾げる。
「…………うん」
 なにが『うん』なのかはわからない。だけど僕は他に何を口にしたら良いのかわからなかった。
 とりあえず、笑う。笑顔を作ってシルフィードを見つめ、背負っていたウェールズ皇太子を廊下に下ろす。
 ……僕は間違えたのかな?
 壁に背を付き、ズルズルと引きずるようにして座り込む。
「……シルフィード」
「きゅい?」
 顔を伏せる。
「僕らはこれから、アルビオンの反乱軍と戦う」
 自分の手を見つめ、言葉を継ぐ。
「敵は五万。僕とルイズがどうがんばったところで勝てるような数じゃないし、生き残れるかもわからない」
 拳を作る。ため息を吐く。
「それでも、少なくとも王軍が逃げられるだけの時間を稼ぐことは出来ると思う」
 瞳を閉ざす。脳裏に今までに出会い、知り合い、笑顔を交わしあった大切な人たちを一人ずつ思い描いて謝って行く。
「たぶん、勝てないまでも反乱軍を後退させることぐらいは出来る」
 ……フェイトさん。ごめんなさい。
 キャロ。ごめん。
 ルーテシア。ごめん。
 カルディナ。ごめん。
「最低でも、相手方の切り札は潰すよ」
 ……モンモラシー。ごめん。
 ギーシュ。ごめん。
 キュルケ。ごめん。
 タバサ。ごめん。
 シエスタ。ごめん。
「だけど、最悪の場合は……シルフィードにはウェールズ皇太子とルイズをお願いしたいんだ」

 ◇◆◇◆◇

 ――……ごめん、ルイズ。
 その言葉が、告白に対するものでないと知りながら、少女は涙した。
 ……わたしは、エリオが好き。
 ほんの数時間前まで、気付かなかった想い。本当にさっきまで、それを『憧れ』と誤認し、青年の素性と自身の立場から、必死で『好き』という想いを否定してきたというのに。
 ……好き。
 気付いてしまった。
 ワルドとわかれ、青年に拒否されて気が付いてしまった。
 ――ルイズはエリオが好き。
 他の誰でもない。自身の使い魔にして伝説の使い魔『ガンダールヴ』である彼を。異世界から渡り来た、最強の魔導師を。
 好きだった。
 たぶん、ずっと。出会ってから今日までずっと――

 ゼロの魔法使いは雷槍の騎士に恋していた。

「――……はあ」
 ため息を吐く。
 ……わたしはばかだ。どうしてこの状況下で色恋ごとなんかで一喜一憂してるの? もっと他に、考えなくちゃいけないことがあるでしょ?
 涙を乱暴に拭い、無理やり思考を切り替える。
「……敵はアルビオンの反乱軍」
 総勢で五万有余。
 このニューカッスルに入城する前に『イーグル』号から見た敵主力艦と有名なアルビオンの竜騎士たち。その両方をわたしとエリオで叩くのが今回の主任務だ。
「……本当に、どうかしてる」
 苦笑する。
 作戦事態は単純明快。本格的な開戦と同時に敵主力艦『レキシントン』号を叩いて、後は残存する竜騎士を片っ端から潰す。
 それだけ。最早、作戦ですらない。早期決戦意外に道は無く、それでも勝てない。だからこそ目的は戦に勝利することではなく戦死者を一人でも多く減らすこと。
 そのためにわたしとエリオは死力を賭す。一人でも多くの命を救う、そのために身を粉にして尽力する。
「……たぶん、そう」
 苦笑を微笑に変えて、思う。
 誰かを助ける。
 そのために尽力する。
 それはきっと、わたしの意志であってわたしの意志じゃない。少なくとも、以前のわたしにはそんなことを念頭になんて置かなかった。
「……わたしは、変わった」
 正直に言えば、他人のことなんてどうでも良かった。他人のことを気にかけるだけの余裕が、以前には無かった。
 親に、周りに、わたしは馬鹿にされ続けていたから。他人を見返すことしか考えてなかったから、わたしはそんな連中のために命を賭けようなんて思わなかった。

 ――エリオと出会うまでは。

「……でも、まだ死にたくない、な」
 ため息。
 誰かを助けるために命を賭ける。
 そして命を賭けるということは、自身の死も覚悟せねばならないということ。
 だから――
 ……だけど――
「……このままじゃ、エリオまで死ぬわ」
 ――まだ出来ることがあるから。
「……どうする? ――アリス」
 振り向く。
 そこに、気配無く佇む赤マントの少女がいた。
「わたしの力は借りないんじゃなかったの?」
 呆れ混じりの苦笑を浮かべてアリス。それに挑発的な笑みを浮かべて返す。
「わたしが借りないのはあんたの能力の方。だからそれを抜きに、あんたが協力してくれるっていうのなら喜んで手を借りるわ」
 最悪に近い、絶望的な現状。それを容易く打破出来るアリスの異能には頼らず、少女の手を借りたいと思う。
 それは例えば、神出鬼没な少女の、その魔法やいつでも全てを見通しているのではと思えるそのチカラ等。
「……まさかエリオさんを人質に、わたしと交渉するつもりですか?」
 アリスを即戦力としては期待していないし、自分のわがままに命まで賭けて戦ってくれるお人好しは間に合ってる。だから少なくとも青年の生存率を高められる手札が欲しい。
「あんたはあいつの味方なんでしょう?」
 エリオは強い。そしてその実力を今更疑ったりはしないが、しかし盲信もしない。
「それに、あんたたちの組織ってコッチの世界の戦争に参加しちゃ駄目なんじゃないの?」
 表情を消すアリスに意地悪く笑って言葉を次ぐ。
「エリオ……もしかして犯罪者になっちゃうの? そうなったら、親御さんは悲しむんじゃない?」
「……なにを今さら」
 肩をすくめてアリス。自嘲と嘲りと後悔と諦めが当分に混ざったような、少女特有の枯れた微笑を浮かべて言葉を次ぐ。
「わたしはエリオさんに対して事前に警告しました。そしてそれを無視し、ルイズさんの意志に従ったのは彼自身です。それを今さら――」
「じゃあ、アリスはそれで良いの?」
 遮る。
 キョトンとする少女との距離を詰め、硝子細工を思わせる透き通った瞳を見つめて問う。
「あんたは、このまま、エリオが死んでも良いの? このまま、あいつを犯罪者にしちゃっても良いのアリス?」
 そしてその問いに、
「わた、し……?」
 赤いてるてる坊主は初めて狼狽して見せた。
「あんたも魔法使えるんでしょ? 魔導師なんでしょう? だったらその、自分自身の思いのためにそれを使おうとは思わないの?」
 ……そうだ。初めっから、そこがおかしかったんだ。
 アリスの代価を払えば何でも願いを叶えれるという異能は確かに強力だし反則だ。
 だけど、少女は自分自身のために何かをしたか? 何か、自分の願いを叶えるためにしただろうか?
「あんたは何がしたいの? 何を望んでここに来たの?」
 わからない。
 最悪、彼女の異能が他者の願いを叶えるものであるならば、それを逆手にとって自分に都合の良い願いをさせれば良い。それだけで少女は何を代価として喪うことなく、願いを叶えられるのではないか?
「あんたは何もしないの? 何も出来ないの?」
 そもそも少女自身の、異能以外の実力は?
「あんたの言う大切な人のために、アリス自身は何もしないの?」
 それは純粋な疑問。
 途中から、ルイズは少女の力を借りるための算段を抜きに訊いていた。
 そして、
 だからこそ、
「……………………はぁ」
 アリスは盛大なため息を吐いて首を左右に。やれやれ。少女は呆れ混じりの苦笑をルイズに向けて口を開く。
「参りました……」
 肩をすくめる。そして怪訝顔のルイズに向けて苦笑の質を『呆れ』から『弱ったな』といった感じへと変える。
 そして、
「……本当はルイズさんにはこの日、この戦で亡くなってもらいたかったのですが――」
 ……何ですと?
 アリスのあんまりな台詞に眉根を寄せて怒鳴ろうとするルイズを、
「――仕方、ありませんね」
 くすくす、くすくす、と。外見同様の、明るく幼い、アリスの笑顔を前にルイズは言葉を失った。
「……わたしの願い、か」
 アリスは笑う。
 くすくす、くすくす、と。
「……それを持ち出されたら、仕方ないよね」
 それは本当に、嬉しそうな。
 それは本当に、眩しそうな。
「良いよ。あなたに協力してあげる」
 それは本当の本当に、屈託ない笑顔で、
 それは本当の本当に、純真にして無垢なる――涙。
「わたしがわたしの魔法で……。魔導師アリス・ハラオウンの魔法で、手伝ってあげる」
 アリスは笑いながら、泣いていた。
 いつまでも。
 いつまでも――。

 ◇◆◇◆◇

 凄まじい轟音で目が覚めた。
 ……ここ、は?
 ウェールズはゆっくりと重たい瞼を開け、雲一つ無い青空を見つめた。
 ……どうなってる?
 今尚聞こえ続ける轟音と砲声。更には雄叫びと絶叫までが響き、自分が体を横たえる地面を揺るがしていた。
 ……もう開戦か。
 空に昇る太陽の位置を確かめるまでもない。遠くから止めどなく響き渡る戦火の轟音を聞けば嫌でもわかる。
 アルビオン王軍と反乱軍による最終戦争は正午の開戦。そして今、王軍の将たる自分は両手を拘束され地面に転がされている。
 つまりわたしは――

「――やっと起きたのね」

 ため息を吐こうとして、止めた。
 今まで青空しか映さなかった視界を空色の髪をした少女の顔が埋め尽くし、思わず目を剥いた。
「きみ、は……?」
 着ているそれは王軍のもの。しかし彼女には見覚えがない。そして現状、この状況下において少女が味方でないのは明白。
 故に――
「今、あなたには名乗れないのね」
 そう答え、自分を抱え起こした少女に怪訝顔を向け、
 そして、
「――――ッ!?」
 絶句。
 ウェールズは少女に起こされて初めて、自分がニューカッスルの屋上に居ることを知り、
 城下の戦場を見下ろして初めて、今戦っている者たちが王軍で無いことを知った。
「アルビオンはトリステインに亡命したの。だからエリオたちが戦ってるのね」
 呆然と、自分を起こし支える少女を見た。
 ……アルビオンがトリステインに亡命? 何を言っている?
 気を失う直前までの記憶を探る。
「……きみは大使の仲間かい?」
 慎重に言葉を選びつつ問う。
 気を失う直前、トリステインからの大使である少女が自分に強く亡命を勧めていたことを思い出す。
 ……もし彼女たちが『レコン・キスタ』の刺客なら、覚悟を決めないといけないね。
 隣の少女に気付かれぬよう細心の注意を払って自身の状態を再確認。だめだ。両手の拘束がとれそうにない。
「? 『大使』?」
 ……え?
 内心、戦々恐々としていたウェールズは首を傾げて自分を見つめる少女に対して反応出来なかった。
「よくわからないけど、とりあえず伝言を伝えるのね」
 そして少女はウェールズの問いや反応その他一切合切を無視して話を進める。
「『反乱軍は抑えます。そして皇太子殿にはトリステインに亡命して貰います』」
 少女の言葉を呆然と聞きながら、視線をゆっくりと戦場へと戻す。
 ……反乱軍は抑える?
 馬鹿な! 相手は五万もの軍勢! トリステイン軍が総勢で戦っても勝てるかどうか危ういものをどうやって!?
 そう疑問に思い、そして城下の光景を目の当たりにして引きつったように笑う。
「はは……、まさか……」
 遠く、そして多い反乱軍はウェールズの目には波のように映る。
 その波に対するのは『点』であり『空白』。反乱軍という波を受けて尚、静けさを保ち続ける空間がおそらくは少女の仲間。
「『最低でも敵主力艦は潰します』」
 少女の言葉に視線を転ずる。
 遠く、小さく、空に黒い煙を上げて沈黙するそれを目にして笑いがこみ上げてくる。ははは、なんだいこれは。あそこで瓦礫へと成り果てているのは、あの『レキシントン』号かい?
「『わたしたちは命懸けで王軍をトリステインへと連れ帰ります』」
 轟音が響く。空に雷鳴が轟き、反乱軍の竜騎士たちがまるで蚊トンボのように落ちていく。
 閃光が駆ける。地を揺るがして流れる人並みを真紅の光線が切り裂き、鎮めていく。
 絶叫が上がる。砲声が鳴り響く。爆音が轟き、雄叫びが消えていく。
「きみたちは……いったい……?」
 声を掠らせ、頬を引きつらせて隣の少女に問い、
「『わたしたちは一騎当千。虚無の担い手と最強の使い魔』」
 青髪の少女は問いには答えず、遠い彼方――空を駆ける真昼の雷光を眺めながら言葉を次ぐ。
「『だから、安心してトリステインへ行って欲しい』」
 それはまるで御伽噺のような、
 それはまるで吟遊詩人の語る喜劇のような、
「『そして、アンリエッタ姫と話して欲しい』」
 城下の戦場とは正に舞台だった。
 そして、だからこそ観戦する側の自分に絶望感など無い。
 例え相手が五万の軍勢だろうと、胸に宿った安心感は揺るがない。
「……ふふ」
 少女は遠くを見ながらウェールズの縄を解く。
 果たして体が自由になっても、ウェールズは動かない。眼下の光景に見入り、動けない。
「ふふふ……」
 笑える。無性に、笑えてしまう。
 敵は五万。
 その荒波に対するのは一つの点だ。本当に、一人か二人か、それ程までに少ない人数でもって彼らは五万もの敵兵を抑えていた。
 それが可笑しい。
 それは最早、喜劇だ。
 なるほど、これが伝説! これが英雄!!
「はは! これは、トリステインに行くしかないな!」
 亡命? ああ、今となっては望むところ!
 伝説の一端を目の当たりにして、最早小さな面子に拘る理由など無い。死して名誉を守るのではなく、今は生き恥を晒し、その汚名を返上するために逃げよう。
「……皆を説得する。案内を頼めるかな?」
 少女の役割と自分へと割り振られた役割を把握し、ため息。ウェールズは苦笑を浮かべて隣の少女へと言った。
「我らはこれよりトリステインへと亡命し、生きよう!」
 果たしてその言葉に少女は、
「きゅい!」
 嬉しそうに笑って頷いたのだった――。






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