嗣希創箱の消閑

小説、落書き、二次創作、etc…。 あなたの暇潰しのお供にどうですか♪ 

対談日記?

嗣希創箱(以下、嗣)「ごめんなさい!!(土下座)」

カルディナ(以下、カ)「……今回は間が長過ぎでしょう」

ヴィヴィオ(以下、ヴ)「せめてヴィヴィオの話で間を稼ぐとか、」

ネギ(以下、ネ)「こちらの話で間を稼ぐとかすれば良かったのに……」

嗣 「……師走って忙しいんですよね(遠い目)」

カ 「それはさて置き。一月、二話更新はひどいかと」

嗣 「……ごめんなさい」

ヴ 「それもさて置き! ついに『なのは』関連の資料が出揃ったけど、結局どうするの?」

嗣 「とりあえず最近ハマってる『ナイト・ウィザード』のリプレイでも書こうかと」

カ&ヴ&ネ 「はあ!?」

嗣 「TRPGって楽しいですよね〜」

ヴ 「ちょっ! じゃ、じゃあヴィヴィオの話は!?」

カ 「『雷槍の騎士』は?」

ネ 「『THE SECOND LIFE』は?」

嗣 「(視線逸らして)いや〜……たぶん次回の更新は何かとセットだとは思いますが、メインは……『ナイウィ』?」

カ 「……来月中に二章、終わりませんよ?」

嗣 「が、頑張ります(汗)」

ヴ 「ヴィヴィオの話に至っては題名すら決まってないよ!?」

嗣 「う〜ん……ヴィヴィオの話は『雷槍の騎士』みたいに投稿する予定だから近い内にきっと決めますよ……たぶん

ヴ 「たぶん!?」

ネ 「あ。じゃあボクたちの話も――」

嗣 「(遮って)『2nd』は無理

ネ 「無理!?」

嗣 「『なのは』はともかく、『ネギま!』は設定いじりまくりだし『Fate』は型月ファンの突っ込みが怖いんで投稿なんてとてもとても……」

カ 「結論。次は『ナイト・ウィザード』のリプレイと『何か』を更新?」

嗣 「その予定です」

ヴ 「ヴィヴィオの話はまだ〜? き、きっと全国のヴィヴィオファンが更新を待ってるよ?」

嗣 「……と言うか、ヴィヴィオの話…………もう忘れられているのでは?」

ヴ 「た、たしかに……」

嗣 「『2nd』に至っては未だに感想やコメント無いし……読んでる人いないんじゃ?」

ネ 「い、いますよ! ……きっと!!

嗣 「まあ、とりあえず『ナイウィ』書いてから決めます。ふっふっふ……さて、嗣希創箱がどのキャラを演じているのか、わっかるっかな?」

ヴ 「??? あ、そう言えばTRPGってなに? リプレイって??」

カ 「わからない方は『ググ』って下さい」

ネ 「――て、説明しないんですか!?

嗣 「一応、『ナイト・ウィザード』の公式ホームページにリンク張っときますので、詳しくはそちらへ」

ヴ 「うう〜……結局、ヴィヴィオの話はいつ更新〜?」

嗣 「少なくとも優先順位が『雷槍の騎士』より低いのは確かですが……はてさて。とりあえず、次回の更新をこうご期待ということで!」

カ 「……来月は何回更新出来るでしょう?」

嗣 「こ、今月よりは……!」

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《ゼロの使い魔〜雷槍の騎士〜2》15

《ゼロの使い魔〜雷槍の騎士〜》





 狂騒と怒号と絶叫の響く闇夜に、
 爆音と紅蓮と火球の上がる月下で、
 彼の白いローブの留め金を外して、
 彼の頭を抱き寄せて、
 ゆっくりと瞳を閉ざして、
 ゆっくりと顔を近付けて、
 少女はそして、青年の唇へと自分のそれを落とした――。

 ◇◆◇◆◇

 ――そこに礼節はない。
 タバサは対峙する仮面の男が何かをする前に動く。
 ――そこに確認なんて要らない。
 相手が誰であるか。
 そんなことに頓着なんてしない。このタイミング、この状況で自分たちを追って来た時点で男が敵であるのは明白。
 故に、タバサは躊躇わない。
 ――言葉は不要。
 タバサはキュルケとは違う。どんな窮地だろうと思考を鈍らせない。
 タバサはモンモランシーやルイズとも違う。自身の実力を正しく把握し、それを活かして勝利する道を迷わず選択する。
 タバサはエリオとも決定的に違う。相手が誰であれ、状況如何では敵を殺すことを躊躇わない。
 ――慈悲は不要。
 タバサの初動に合わせて男も動く。
 速度はほぼ同格。その帰結として先手を取ったのはタバサ――ではなく、男。
「――――ッ!!」
 呪文の長さ、強さは関係ない。呪文を唱え、魔法に集中する少女に対し、男は呪文とともに抜き放った杖を突き出したのだ。
 ヒュッ! 風切る音を耳元で聞きつつタバサは一歩前進。
 男の攻撃は鋭いが魔法の発動を阻害させるほどではない。タバサは踏み出すと同時に杖を振るう。
「――――ッ!」
 タバサの魔法は見えなかった。しかし男はそれを気配と勘だけで横に飛び、避ける。
 ……さすがに、強い。
 少女の使った不可視の魔法は、常人には決して視認叶わぬ速度で翔る、氷結させた大気の刃だった。
「…………く!」
 この魔法はその特性上、手加減が出来ない。
 必殺にして瞬殺。防御や牽制以外の、攻撃としての使用は相手を選ぶ――そんな魔法を男はあっさりと避けた。
 それはつまり、攻守の逆転を意味する。
「ハッ!」
 男の持つ黒い杖が青白く輝く!
「――――っ!」
 それは『風』の魔法を一点に集中したためであり、当たればひとたまりもない。
 タバサはそれをどうにか避け、いったん距離を離そうと跳躍。そしてその間も魔法の詠唱を続け、
「チッ!」
 男は舌打ちを一つ。タバサの放った氷槍の雨を後退し、杖で薙払ってそのことごとくを落とす。
 ――魔法は呪文と集中というプロセスを必要とする。
 それ故に、打てばまた呪文と集中が要り、メイジとメイジの戦闘はさながらターン制のゲームのようだった。
「…………」
 タバサはこの数回の攻防を反芻し、相手の実力を把握し分析する。
 ……敵は『風』のメイジ。
 牽制に生み出した大気の鎚は男に難なくかわされ、逆に放たれる稲妻に狭い階段の上を転がり落ちるようにして避ける羽目に。
 ……実力差はそれ程ではない。
 体を起こすタバサに男の追撃! 青白く発光する風のレイピアが中腰の少女を突き刺さんと走る!
 それは避けられるタイミングではない。だからタバサは攻撃のために唱えていた氷纏う竜巻を前面に展開し、相手を退けることに努めた。
「ほお!」
 男の感嘆の声を尻目に体を起こし、次の魔法の詠唱へ。
 竜巻が消える。男が構え、刺突。
 タバサはタイミングを合わせ、突き出された杖を払い、魔法を――

 瞬間、タバサは一も二もなく横へと跳んだ。

 同時、一瞬前まで少女のいた空間を稲妻が走って過ぎた。

「――――ッ!」

 実力差はそれほどでもない――

 タバサは階段を転げ落ちながら、背後を向く。

 ――その敵は、しかし、当然のように二人居た。

「…………」
 ――故に当然、少女に勝ち目など無い。
 タバサは立ち上がり、並んで立つ男たちを睨む。
 ――故にこそ、少女は薄く笑う。
 タバサは杖を構え、男二人に向けて口を開いた。
「……あなたは間違えた」
 悠然と、勝てる見込みなどないはずの、格下の少女は言った。
「なに……?」
 それはどちらの言葉か。男たちは並んで構え、少女を殺さんと仮面の下、彼女の動きを注視する。
 タバサは動かない。
 戦いの場に生まれた『静』の時――それを有意義に使うため、少女は一度殺意を隠す。
「……あなたの目的は、本命とわたしたちを離すこと」
 ……だから、あなたは間違えた。
 タバサは無表情の仮面を被り、その奥にすべての感情を隠す。
 男の使う、この魔法。『風』の魔法で分身体を作り出す、この『偏在』の魔法はその一つ一つが意志と力を持っている。
「……それならば成功してしているな」
 そしてその分身体は風の吹く場所ならば何処でも出現させられる。
 しかし――弱点はある。
「いいえ」
 タバサは静かにそう答え、
 そこでようやく、少女は呪文を唱え始め、
 男たちはそれに合わせて少女へと杖を突き出し、
「――――ッ!」
 タバサは自身の身長を超える杖を突き出す。
 左の男はそれを半身で避け、右の男は杖の先から竜巻の魔法を放つ!
「ヒュッ!」
 ザァア! 飛行の魔法により避けるタバサ。学院のマントが竜巻により破け散り、避けきれなかった肩や腰に裂傷が走るが表情を変えず、階段から下へと飛び降りる。
「チィ!」
 男の一人の突き出した青白く発光する杖は少女の頬に朱線を引くに留まり、もう一人の男は即座に竜巻の魔法を止めてタバサを追う。
 ……『偏在』の魔法の、弱点。
 チラリと追って来る男を見つめ、飛び降りると同時に唱えていた氷結させた大気の刃を放つ!
「……ぬっ!?」
 飛行の魔法を使っている最中は他の魔法は使えず、また回避を優先しても避けられるタイミングではない。飛び降りた男は顔色を驚愕へと変え、
 ――バシン!
 階段上にいた男がそれを同種の魔法で落とし、飛行中の男を助けた。
 ……やっぱり。
 男が一人であれば今ので決着だった。故に彼を助けるためにもう一人の男は迎撃の魔法を使わざるをえない。
 だからここまでは計算通り。タバサは即座に次の呪文を詠唱し、飛行の魔法で追って来た男の突き出した杖を睨み――

 ――……ドン!

 無理に捻った体に男の杖が当たり、
「「――――ッ!」」
 同時、
 少女の放った氷纏う竜巻の魔法が炸裂!
 落下中のタバサと、杖を突き出し、飛行魔法中の男と今まさに飛び降りた男の三人を襲う!
「…………っ!」
 服を裂き、皮膚を貫いて過ぎる魔法を耐え、下を見るタバサ。
 地面が近い。飛行の魔法は間に合わないが、竜巻の魔法によって得た浮力のおかげでどうにか死なずにすむ。少女はそれを今一度確認し、

 ――ドン、と。気付くと、青白く発光する杖が自分の腹を貫いていた。
「かッ……!」
 血を吐き出し、自分を貫いて見せた男を――三人目の男を、睨む。
 ……まだ、だめ。
 赤い線を引き、腹部から抜かれる杖。それを持つ、今現れた男。
 タバサはその男へと注意を向け、

 ――男は消えた。

「がァ……ッ!」
 同時、落下の衝撃に視界が暗転しかけた。
 一瞬だけ確実に意識が飛んだ。
 自分が誰で、今がどんな状況かを瞬間的に忘れ、
 真っ直ぐに自分を追って来た男二人を呆然と見上げ、
「――――ッ!?」
 それでも気付いたら体が動いていた。
 タバサは地面を転がり、二人の魔法を辛うじて避けた。
「……はぁ、……はぁ」
 朦朧とする意識をかき集め、杖を文字通り杖として使い、どうにか体を起こす。
「……はぁ、……はぁ」
 腹部から滴る血を押さえようとし、杖を持たない右手が折れていることに気付いて眉を潜める。
 至る所に走る裂傷。服を赤く染める出血量と傷の具合、体の調子を正確に計り、前を向く。
「……ほう」
 向かって左側に立つ男が軽く感嘆の声を上げる。
「何がきみをそこまでさせるのか……聞かせて欲しいものだね」
 そして右に立つ男もまた、小さな驚きを声に乗せて少女に問う。
「……はぁ、……はぁ」
 対してタバサは、杖に寄りかかるようにして体を起こし、なんとか立ち上がろとしながら返す。
「……頼まれたから」
 力の入らなくなり始めた体に鞭打ち、
 失血から来る寒気から体を震わせ、
「だから……守る」
 少女は倒れない。
 体中に刻まれた裂傷。貫かれた腹部。打たれた腰部。折れた右手。
 それらの痛みが無いわけがない。今にも激痛に意識が飛びそうだ。
 それでも少女は決して立とうとすることを止めない。
「……わたし、は」
 魔法は、もう、使えない。
 戦う力は、もう、無い。
 しかしそれでも、枯渇した精神力を補うだけの思いがあった。ここで立たなければならない理由が、少女にはあった。
「わたし、は――」
 ここに来るために、窮地に置いて来た赤毛の少女を思えばこそ、立たねばならない。
 少女たちを守り倒れた青年を思えばこそ、戦うことを止めてはならない。
 何より――

 ――……あたしはタバサを信じてる。だから、あなたのも友だちを信じなさいよ。

 そう言って自分を送り出してくれたキュルケの言葉を、思いを、裏切るわけにはいかない!
 だから――
「――あなたから、友達を……守る!」
 少女はそう宣言し、精神力の枯渇を推して魔法を詠唱する。
 ……負けられない。
 勝てなくても良い。
 だけど、殺されるわけにはいかない。
 ここで倒れるわけにはいかない。
 ここでルイズを追わせるわけにはいかない。
 だから、魔法を――

 瞬間、『ぷつり』と。
「……ぁ」
 どこかで糸の切れる音が聞こえ、
 少女の視界が今度こそ暗転し――
「……友のため、か」
「なるほど。それがきみの覚悟の形、か」
 どうしようもなく倒れていく体。急激に熱を失い、感覚を閉ざして行く四肢。
 そして、

 ――ヒュン、と。

 気を失う少女は、それでもその最後の瞬間で大気の刃を放ち、
 男たちはそれを防ぐこもなく、
 刃は男たちに届くことはなく、

 男たちは――消えた。

 そしてそれを見届けることは無く、タバサはドサリと地面に倒れ伏した――。

 ◇◆◇◆◇

 ――その日、異世界から連れられて来た『赤いてるてる坊主』は巻き毛の少女に紹介された。
 そして、大切な者を今度こそ助けられるように――モンモランシーはアリスと契約した。
 その代価は――

 ◇◆◇◆◇

 重なる双子月を振り仰ぎ、フーケは黄昏る。
「……なにやってんだろうね、わたしは」
 巨大なゴーレムに肩に腰掛け、騒がしい眼下の争いなど見向きもせず自嘲する。
 トリステイン中の貴族を震え上がらせた大盗賊、『土くれ』のフーケ――そんな風にして生きて来た自分は、今なにをしているのかフーケは夜風に髪を流して考える。
 自分を牢から脱獄させた男の言うがまま、よくわかりもしない組織に付き従ってこんなところまで来た。そして自分を牢へと入れた青年を倒し、今はその仲間を殺すために一人残っている。
 ……なんのために?
 そう疑問に思い、ため息。考えなくてもわかる。自分がここに残る理由は無いし、そもそも男の言うことに付き従う理由も無い。
「……本当に、なにしてんのかね」
 視線を下へと向ける。
 そこに、いつか見た赤毛の少女を見つけ妖艶に笑う。
 ……眩しいわね、やっぱり。
 彼女の手に握られた大剣を見つめ、瞳を細める。
 貴族というのはすべからくプライドの高い生き物であり、そんな彼らが見下す平民が自分たちに対するために作り出した武器を決して使おうとはしない。
 平民の武器を使うぐらいなら死ぬ。
 そんな、誇り高く傲慢なはずの貴族の少女が、今、自分に向けて剣を構えている。
「なに、それ? まさかそんなオモチャでわたしをどうにかするつもり?」
 挑発的な言葉を紡ぎながら、相手の少女の持つ輝きを眩しく思う。
「ま、ね。あなた相手に魔法は必要ないってことよ」
 そう強がる少女が、もうロクに魔法を使えないだろうことを察しながら、瞳を細める。
 ……ばか、ね。
 プライド高き貴族の娘が、その信念を曲げてでも自分に挑もうとしている。自分がもう魔法を使えない――そのことを敵対するメイジに知られて尚、そのことに気付いていることを知りながらも尚、それでも剣を構えて立ち向かう。
 なんのために?
 それはもはや愚問。彼女が戦う理由、引かない理由ぐらいわからないわけがない。
 ……コイツも、誰かのために、ね。
「そう? それなら遠慮は要らないのね」
 内心でため息を一つ。
 ……十日近く前に青年と対峙してからこっち、どうにも調子が狂って仕方ないわ。
 眼下の真っ直ぐに過ぎる瞳を見つめ、心の内で苦笑。手に持つ剣といい、あの青年と被る。
 誰かのために戦い、圧倒的な実力を見せつけて尚、それを畏怖させることなく自分を倒した赤毛の青年――『雷槍の騎士』と出来ることなら、もう一度戦いたかったわね。
 わたしはそう思い、視線を少女の背後の闇へと向け――
「――――!?」
 ――瞬間、闇を切り裂くように金色の光が夜空に伸びた。

 ◇◆◇◆◇

 ――何かを犠牲にしてまで守ろうとはしていない。
 死ぬ気で戦うことも、無茶を賭して闘うつもりも無かった。
 だけど、
 その結果が――

「――アリス」
 暗闇の中、エリオは巻き毛の少女を抱き締めて呟いた。
 その青年に傷は一つとて無く、
 その手の少女は、今にも死にそうな傷を負っていた。
「……ごめん」
 まるで、
 青年の負った傷を肩代わりするように――
「約束…………破る」
 瞬間、青年の足下に黄色に発光する魔法陣が浮かび、
 彼の着た白きローブが、まるで火の粉のように金色の煌めきを散らして消えて行き、
 闇夜を貫くように黄金の柱が天を貫き、
「……ごめん、モンモランシー」
 青年は手の中の少女へと視線を落とし、呟く。
 自分に傷が無い理由。彼女が傷を負っている理由。それを思って顔を苦渋に歪める。
 ……ごめん。
 どうやったのかは知らない。それでも現状を鑑みるに考えられるのは、自分の負った怪我を少女が肩代わりしたということ。
「……ごめん」
 気を失う少女を抱き、歩き出す。
 ――あ、あなたねえ! 明日にはアルビオン行くってわかってて何やってんのよっ!!
 不意に蘇る声。それに対してまた顔を歪め、『ごめん』と呟く。
 視線を前へと向け、現状把握。
 巨大なゴーレムに対峙し、こちらに驚愕の視線を向けて佇む少女を見つめ苦笑する。
 ……ごめん。
 それから、ありがとう。
「ダ、ダダダダーリン!? え? な、なんで怪我……」
 驚き、目を剥く少女にニコリと微笑み、手の中の少女を彼女の前に下ろす。
「っ!? モっ、モンモランシー……!?」
「すみませんが、彼女をお願いします」
 慌ててモンモランシーへと近付くキュルケの横を通り過ぎ、ゴーレムの前へ。巨大なそれの肩に座るフーケへと顔を向け、青年は口を開く。
「フーケ……あなたはどうしてこんなことをするんですか?」
 その問いにフーケは薄く笑うだけで答えず、
 そして、
「っ! ダーリン!!」
 返答はゴーレムの拳が。
 それをエリオは避けない。避けられない。その背に少女たちがいるから、また青年はその身を楯とし、
 そして――

 ドォオオオ――――……ッン!!

「「――――ッ!?」」
 その巨大な拳は、青年には届かず、
 ――彼のかざした手のひらの先に浮かぶ黄色の魔法陣が受け止めていた。
「……僕はもう、誰にも傷付いて欲しくない」
 呟き、ゴーレムが拳を引くと同時に跳躍! その肩に乗ったフーケへと一直線に飛ぶ!
「だったら――どうする!?」
 ゴーレムは引いた拳を再びエリオへと向けて放ち、
 エリオはそれを魔法障壁で防ぎ、弾き飛ばされる。
「ダーリン!!」
「相棒!!」
 ドン、と。半壊した宿の壁に叩きつけられ――そうになる直前に体を反転。エリオは両足で壁に着き、間髪入れずまたフーケへと跳躍! その衝撃で壁が崩れ、それを見ていたすべての人間が息を飲む。
「フーケ! あなたはなんのために魔法を使うんですか!?」
 叫び、拳に魔力を込める。
 ――ストラーダの無い状態で使える魔法は少ない。だからこそ、やれることは限られる。
「それを訊いてどうする!?」
 三度振るわれる巨腕! 一直線にエリオへと向けて走るそれと青年が激突し、
「――説得します」
 ズン、と。低い轟音を響かせ、ゴーレムの巨腕と青年の拳がぶつかり合う。
「なっ――!?」
 驚愕は一瞬。驚き固まるフーケに呼応してか動きの止まったゴーレムの拳に手をつき、エリオはその石の腕に飛び乗り――駆ける!
「あなたは悪い人じゃない!」
「ッ! なにを――!?」
 慌ててゴーレムへと命令を送るも後の祭り。今まさにゴーレムの肩へとたどり着いた彼をゴーレムで迎撃するのは難しく、フーケは舌打ち。ゴーレムを破棄することを決め、ゴーレムに使っている土を石の氷柱へと変え青年を――

 ――なんのために魔法を使うんですか!?

 ――迎撃しようする思考に走るノイズ。そのせいで一瞬だけ魔法の発動が遅れた。
「フーケさえ良ければ学院でまた働きませんか!?」
 再びの、そして決定的な隙を見逃すエリオではない。次々に地面から突き出される石柱をジグザグに動いて避け、フーケへと駆ける!
 対してフーケは目を丸くし、慌てて杖を振るって迎撃。青年の足場たるゴーレムを崩し、叫ぶ。
「はあ!? あんた何を――!」
「学院長は僕が説得しますから大丈夫です!」
 フーケは飛行の魔法で、エリオは人並み外れた跳躍力でそれぞれ暴落するゴーレムから離れ、二人は揃って瓦礫の上へ。
「この……! だから、わたしは『土くれ』のフーケよ!? それを、どこの世界に教員として招く学院があるって言うのよ!?」
 杖を振るい、鉄のゴーレムを幾つも生み出して青年へと走らせるフーケ。
「だからこそ、あなたには教員になって欲しいんです!」
 それをエリオは拳一つで迎撃! 魔力を纏わせたそれで鋼鉄のゴーレムを次々と粉砕して見せる!
「あなたなら――いえ、あなたにしか伝えられないことが、教えられないことがあるはずです!」
「っ! ずいぶんとわかったような口をきくじゃないかっ!!」
 誰もがそれを見て絶句した。
 身長二メートルほどのゴーレムたちは体を作るそれがまるで砂糖菓子のように易々と粉砕されて行く。
「あんたみたいな得体の知れない奴に何が――!」
「わかりません!」
 紫電纏う拳を振るい、、常人のそれとは明らかに異なる身体能力の高さと戦闘能力を見せる青年は、どこまでも真剣な様を崩さず叫んだ。
「だから、これから教わります!」
「なっ――!?」
 そして今度こそ、フーケは動きを止めた。
 意味が分からない。相手の真意が計れない、彼の言葉の意味が理解出来ない。
「ぁ……!」
 しかしそれでも、青年の瞳を見つめフーケは一つだけ理解出来た。
 ……まさか本気で!? 本気でわたしを学院に入れる気!?
「フーケ……あなたの事情を聞かせてくれませんか?」
 驚愕に目を剥き、後退るフーケにエリオは笑顔を向け、手を差し出す。
「あなたは、なんのために魔法を使うんですか?」
 フーケは答えず、一歩後退する。
 なんのために――そう問われ、思い出すのは一人の少女。そしてそれを思い出し、彼女のためと一瞬でも思ってしまった自分を自嘲する。
「……そんなの、自分のために決まってる」
 吐き捨てるように、目の前で笑顔を向けて佇む青年に返す。
「わたしは盗賊。言うなればお金のために――」
「では、そのお金はなんのために必要なんですか? なんのために盗むんですか?」
 エリオは遮り、問いを重ねる。
 それに殺意すら込めて睨んで返すも、彼は構えない。笑顔を、崩さない。
「魔法は人を助けるための力です」
 理解出来ない。
 なんなんだ、この平民は?
 彼の言っていることが、彼の考え方が普通じゃないことはわかる。青年の言うそれが平民の理想であり、貴族からすれば鼻で笑って相手にしないようなことなのもわかる。
 そしてそれがわかるからこそ、理解出来ない。
 そして何より、
 理解出来ない、
 わけの分からないのは――

 ――この青年の言葉に惹かれる自分。

 彼の言うそれに従ってしまいそうな自分自身が一番、理解出来ない。
「……わたしは犯罪者よ?」
「それならその罪を償えば良いんです」
 揺らぐ、心。
 彼の確固たる在り方を前にどこまでも揺らいで行く。
「…………」
 どうすれば良いのか、よくわからなくなって行く。
 どうすれば?
 どちらにするか?
 ……いつの間にか、当たり前のように彼の言うもう一つの選択肢が生まれていた。
「…………わたしは」
 それでも、
 半ば意地になって、
 彼の告げる選択肢を切り捨て――

 一つの銃声が上がった。

「ぁ」
「っ!? フーケ!!」
 それは誤射か、或いは何らかの刺客の仕業か。
 フーケは脇腹から鮮血を迸らせてくず折れ、
 エリオは慌てて彼女を抱き留め、
「フーケ! しっかりして下さいフーケ!!」
 そして結果的に、
 その一発が、すべての運命を変えた――。








次話/前話

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《ゼロの使い魔〜雷槍の騎士〜2》14

《ゼロの使い魔〜雷槍の騎士〜》






 ――その日、キュルケは誰よりも早く青年の部屋へと侵入し、
 ――その朝、少女はエリオより一つの事柄を託され、
 そしてその夜――
「百人は……さすがにいないみたいね」
 その事柄は友人に託し、少女は薄暗がりの中で覚悟を決める。
「それで? どうする気?」
 崩落した瓦礫のせいでルイズたち三人は相手に見つからず酒場の裏口に向かえた。
 それを見送り、気絶する青年に膝枕をしつつ気楽に問いかけるモンモランシー。キュルケは呆れ混じりの視線をそんな少女に向け、苦笑。
「あなたも結構いい性格してるわね」
 一瞬、彼女が状況を理解していないのかと思い、しかしすぐにその考えを否定。
 ……なるほど、ね。
 半壊した酒場には当然、ランプの灯りなど無い。故に光源となりえるのは頭上で重なる二つの月明かりのみで、そしてその仄かな明かりに照らされた少女を見てキュルケは気付く。
 ……もう覚悟は出来てるのね。
 モンモランシーの目を見ればわかる。死ぬかも知れない状況を理解し、そして最後まで諦めないという覚悟の灯る瞳を見れば、嫌でもわかる。
「そっちにはなんか考えはないの?」
 散発的に飛んで来る矢を、何かの残骸を盾にしてやり過ごしキュルケ。気配を頼りに自分たちを包囲しているだろう傭兵の方へと鋭い視線を向け、問う。
「まあね」
 対し、どこまでも気楽にモンモランシー。明後日に飛んで行く矢など意に介さず、ゴソゴソと肩にかけたバッグに手を入れ、
「はい」
 そして、『ポイッ』と。
「っと! いきなりなによ!?」
 それを反射的に掴み止め、キュルケ。モンモランシーが投げた手の中のそれを怪訝な顔をしながら見つめた。
 ……香水瓶?
 訝しむような視線をモンモランシーに向ける。自分の記憶が確かならこれは彼女がいつも持ち歩いている香水の入った小瓶で、つまりは戦闘には全く役に立たないだろう。まさか死ぬ前に化粧を、というワケではないだろうしどういうつもりで、と視線に疑問符を乗せるキュルケに巻き毛の少女は『にんまり』と悪戯小僧のように笑って口を開く。
「それ、火気厳禁よ。ちょっとした炎で爆発するから気をつけてね」
 …………は?
 少女の言葉に怪訝な表情を濃くするキュルケ。それをモンモランシーは一転して済まし顔になって忠告を続ける。
「だから当然、香水みたいに自分目掛けてふりかけたりなんかしちゃダメよ?」
 それでも爆発しちゃうんだから。そう言って最後にはウィンクをしてみせるモンモランシー。

 キュルケはそれを見て、ようやく手の中の『香水』の使い方に気付いた。
「……あなたもなかなか物騒な物を作るのね」
 『やれやれ』と言った具合に両手をヒラヒラさせてキュルケ。
 ……ま、この場合はありがたいんだけどね。
 視線をモンモランシーから周りで散発的に威嚇射撃を繰り返す傭兵たちへと向ける。
「……連中の相手はあたしがするわ」
「そう」
 既に赤毛の少女の注意は自分にはない――それを理解した上でモンモランシーは小さく頷いて返す。
 ……ふう。
 内心でため息を一つ。キュルケには気付かれないように震える両足をさすりつつ苦笑。自分が死ぬかも知れないという恐怖に腰が抜けて動けない――それを彼女に気付かれないよう虚勢を張り続けるのにも限界だった。
 ……まったく。
 気を抜けばガチガチと鳴らしてしまいそうな奥歯を食いしばって、恐怖に抗う。
 自分はキュルケやタバサ、それにルイズとは違う。思えば、命をかけた争いに巻き込まれたのなんて初めてだし、実戦はおろか決闘ですら経験をしたことが無い。
 だから、苦笑する。
 そんな自分のため、その手の中にある大切な青年のため、決死の覚悟を持ってフーケへと挑んだ少女を思い返して苦く笑う。
 ……覚悟、しないとよね。
 既に臨戦態勢となっているキュルケには気付かれないように『それ』を眼前へと持って来る。
「…………はあ」
 もはやため息を吐くしかない。
 手の中の『それ』――とある魔法薬の入った香水瓶を見つめてうなだれる。
 ……わたしが使うことになるなんて想定外よ。
 もとはルイズが使うために――自分が居なくても彼女が青年を助けられるように、と作った魔法薬の中でも『とっておき』のそれ。幾つもの秘薬と高価な原料を惜しみなく使った一級品中の一級品。故に使えば確実にエリオを復活させられるだろう、切り札中の切り札なのだが――
「……………………」
 今、モンモランシーは傭兵たちによる死などより『それ』を使うに際して伴う『代償』にこそ覚悟を決めかねていた。
 ……キュルケには悪いけど、もう少しだけ悩ませて。
 モンモランシーはもう一度、小さくため息を吐いた――。

 ◇◆◇◆◇

 半ば崩壊した宿の外、一つに重なった月の下でフーケは巨大ゴーレムの肩に座って下の喧騒を眺めていた。
「連中は分散したみたいよ? 追う?」
 心底つまらなそうにフーケ。それに、
「――いや、お前は残りの連中を始末しろ」
 その隣にいた、闇夜に紛れる黒マントを羽織った白い仮面の男は低い声で返した。
「ラ・ヴァリエールの娘は俺が追う」
 言って、男は『ひらり』とゴーレムの肩から飛び降り、闇へと姿を消した。
 それをフーケは黙って見送る。
 何もかもがつまらないと言うように、不機嫌そうな無表情で――。

 ◇◆◇◆◇

 ワルド、ルイズ、タバサの三人は走っていた。
 月明かりで道は明るい。そのおかげでルイズはどうにか先頭を駆ける子爵を追って行けた。
 ……エリオ。
 もし、もう少しだけ道が見えにくかったら、
 もし、あとちょっとだけ道が悪かったら、
 ……エリオ。
 心ここに在らずといった体で駆ける少女は子爵を見失っていたかも知れない。転んでいたかも知れない。
 桟橋へと走りながらルイズの心は未だ宿にあった。そこに残して来た青年のもとにあった。
 それが故に――少女は気付いていなかった。
「…………」
 先を行くワルドが小さく振り向き、
「…………」
 タバサがそれに小さく頷いて立ち止まったことに、
「…………」
 ルイズは最後まで気付かなかった――。

 ◇◆◇◆◇

 例えば、爆弾というものがある。それは火薬や、その他爆発に必要な薬品を詰め集団や施設を破壊や纖滅のために使用する。
 そして爆弾という概念は、ルイズたちの世界にもある。故に当然、争いごとや戦争に手を貸す傭兵の中にもそれを知っている者がいた。
「ぐぁッ――!?」
「がァ――ッ!?」
 だからこそ――キュルケを包囲し、殺そうとしていた傭兵たちは『それ』を爆弾だと勘違いした。
「く! な、なんで小娘が爆弾なんて持ってやがんだよ!?」
 男の一人が叫ぶ間にも、少女のものだろう魔法の火球とそれに誘爆したように爆発する紅蓮が見えた。
「し、知るかよ!」
 ドン!
 グォン!!
 炸裂する爆音に顔を恐怖へと塗りつぶし、先とは違う男は叫び返す。
「うわぁあああ!!」
 半壊し、瓦礫の山と化しつつある一階に響く絶叫と爆音。明確な灯りが月明かりぐらいしかない傭兵たちは、故にこそ紅蓮の炎に恐怖した。
「お、おい!! どうし――」
「ギャァアアア!!」
 予め松明を消し、闇夜に紛れて少女らを襲おうとしたのが完全に裏目に出ていた。
 歴戦の傭兵たちをして、一人の少女の手の中だった。
「……お、おい」
 暗闇は、むしろ少女の味方。見えざる恐怖は、むしろ傭兵たちにこそ脅威だった。
「そ、そんな……!?」
 この時点で、闇夜に紛れた奇襲なんて不可能。だからと言って松明を灯せば、次の瞬間には爆弾の餌食となって紅蓮の花を咲かせて散る。
 闇は相手を隠して守り、
 灯りは自分を相手に位置を知らせて爆弾の標的とする。

 ――その『勘違い』こそが、敗因だと知らずに。

 ◇◆◇◆◇

 タバサは基本的に他人のことなど気にしない。そんな無駄なことに気を回している余裕は無かったし、身内以外のことに興味など無かった。
 ――キュルケに出逢う前まで、ずっとそうだった。
「…………」
 ワルドとルイズの二人を先に行かせ、少女は一人、桟橋へと続く長い階段の途中で『彼』を迎え撃つ。
 ――今でも他人になんて興味を抱かない。
 タバサは夜風に青い髪を流し、特徴的な長く節くれだった杖を構える。
 ――だけど、友だちには別。
 宿にはキュルケとモンモランシーを残し、
 桟橋にはワルドとルイズを向かわせて、
 ――だから、友だちのためになら戦える。
 タバサは待っていた。
 ――友だちのためになら、命を賭けられる。
 すべての希望となるべき『彼』を、
 すべての元凶となるだろう『彼』を、
「…………ほう」
 白い仮面を被った黒マントの男を、タバサは迎え撃つ。
 友だちから託された思いを胸に、ただ一人で――。

 ◇◆◇◆◇

 結論から言って、キュルケは爆弾なんて使っていない。
 そもそも一介の女学生がそんなものを携帯しているワケもなく、ましてや魔法学院に通っているれっきとした貴族たる少女がそんなものを使うワケがない。
「……さすがにしんどいわね」
 闇夜に紛れ、乱れた呼吸を整えつつキュルケ。
「ま、仕方ねーわな。なんせ相手の数が数だしよ」
 対して応えたのはその背に担がれた大剣――インテリジェンスソードのデルフリンガーだった。
「で? おめーさんの爆弾は、もう終いか?」
 光源少ない夜戦において歴戦の傭兵を相手に有利に進めている決定的な差違の一つがこの剣。人の目には判別出来ないような暗闇において少女の目となり指示をするデルフリンガーがあってこそ、キュルケは今まで傭兵との無駄な接触を持たずにことを運べたのである。
 ……ギャーギャー騒がしいから何かと思って拾って見ればダーリンの剣なんだもん、ビックリしたわ。
 そうは思うが正直、デルフリンガーを早期に発見出来たのは行幸であったとキュルケは思う。なにせこの剣、口は悪いし態度は気に食わないが、こと戦闘に関しては頭が切れるので助かる。さすがは『雷槍の騎士』の相棒を自負するだけはある、とキュルケは内心でのみデルフリンガーに賛辞を送る。
「『爆弾』は……まあ、もう無いわ」
 キュルケは苦笑を浮かべて大剣に返す。
 ……爆弾、ねえ。
 闇夜で爆発する『それ』を勘違いして騒ぐ傭兵と、そんな彼らの言葉を揶揄するように言うデルフリンガーとに苦笑を浮かべるしかない。
 なにせ件の『爆弾』というのが――実は、ただの油や気化して誘爆した魔法薬なのだから少女は笑ってしまう。
 ……つまりは虚仮威し、ね。
 たまたま戦場となったのが元酒場であったのが幸いした。デルフリンガーの指示の下、闇に紛れるようにして厨房の残骸へと向かったキュルケはそこで油やアルコール度数の高いお酒を拝借し、急拵えの火炎瓶を作成。導線となるヒモや中身にモンモランシーからもらった火気厳禁という魔法薬を一かけし、後は松明の灯りに目掛けて投擲。
 まずは相手に『光源イコール狙われる』ということを即席の手榴弾でもって恐怖と共にわからせ、あとは闇に乗じて火の着いてない火炎瓶を至るところにばらまき、デルフリンガーの合図をもって火球の魔法で着火。気化し、誘爆し易くなっていた導線はもとより中身である燃えやすい液体等を燃やして爆発させ、相手を混乱させる。
 そして仕上げに――
「気を付けろ! 連中の近くは爆弾ばっかりだ!!」
 視界悪く、恐怖と混乱の中に響くデルフリンガーの声。それを傭兵たちは仲間のものと勘違いし、結果、キュルケの思い通りの動きを取ることになる。
 ……ま、連中はあたしら居残り組に男がいるなんて思いもしないだろうしね。
「う゛わぁあああ!!」
「銃はよせ! 爆発させちまう!!」
 悲鳴や怒号、そして爆発音に乗せてデルフリンガーが叫ぶ。
「……へえ」
 キュルケは思わず簡単の声を上げる。
 ……これが『情報戦』と『心理戦』ってやつなのね。
 いつか青年から習った戦術の一つ。戦争の常識たる『数と火力が勝る』イコール『勝利』という公式を覆す、少女の知らない理論による戦術は、しかしその『数と火力で勝る』傭兵たちを相手に互角以上に渡り歩くことが出来ている現状が青年の言う理論の正しさを証明していた。
 ……相手には誤った情報を与えて、自分は常にに正しい情報を把握して戦う『情報戦』。
 『火』の系統魔法を使うが故に発達した熱源探知技能とデルフリンガーの暗視による指示。そして『光源イコール狙われる』という情報を相手に与え、こちらに有利な暗闇での戦闘を相手に自然と促す。
 相手に視界による情報収集をさせないように仕向け、その上でデルフリンガーによる情報操作。誤った情報を流し、相手を意のままに操って戦闘を有利に進める。
 そして暗闇の中で『爆弾を使われる』という混乱と恐怖を与え、相手の思考能力を落として行動力を縛るという『心理戦』。
「……スゴいわね」
 キュルケはそんな現状を思い、それを教えてくれた青年の凄まじさを改めて思い知った。
 『雷槍の騎士』エリオ・モンディアル。彼にはこれまでも幾度となくその強さ、異質さに驚かされていたが、それにしても今回の『これ』はあまりにもキュルケという少女個人を打ちのめしてくれた。
 エリオの戦い方が異質なのは知っている。青年が強いのはわかっていたし、その戦闘能力が常識外れなのは理解していた。
 ……それにしたって、ね。
 戦争の定石、戦術と常識。ゲルマニアの貴族であり、それらをかじっていた少女にとってその概念を覆す新たな戦略というのは、『キュルケ』という少女を形作るアイデンティティを揺るがしかねない衝撃をもたらす。

 ――最強の系統を知っているかね? ミス・ツェルプストー。

「ぷっ……!」
 そんな状態であったからこそ、キュルケは不意に思い出したその台詞に吹き出した。
 ……なによ、それ。
 今だからこそ笑える。その問いを発したギトーと、それに皮肉で返した自分に、笑いがこみ上げてくる。
「『雷』が最強……?」
 強い?
 異質?
 最強?
「……何にもわかってなかったのね、あたし」
 エリオは確かに強い。
 メイジで言う所の二つ名ともいうべき『雷槍の騎士』のあだ名が示す彼の『雷纏う槍』。そしていつの間にか定着した、知る人ぞ知る喋る魔剣『デルフリンガー』。
 それらを振るい、戦う彼は、確かに強い。
 だけど、
 本当に強いのは、

 ――彼に戦い方を教えた者。

「……ますます、会いたくなったわね」
 自嘲の笑みを口元に刻み、呟く。
 ……あたしも、教わってみたいものね。
 今、青年が姿を借りている、彼の『先生』に――。






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《THE SECOND LIFE》7

《THE SECOND LIFE》






 翌朝。
 昨日の今日ということもあり、『ドキドキ』と早鐘を打つ心臓を押さえ、極度の緊張を伴って私はこのちゃんを迎えに行く。
 インターフォンを押す手が震えた。何度も何度も深呼吸をして、玄関を開けると、
「――と、言うワケで桜咲さん。私に剣道教えて!」

 ――神楽坂さんに土下座された。

「……………はい?」
 玄関で立ち尽くす。助けを求めるように神楽坂さんの背後で困ったように笑うこのちゃんを見た。
 とこのちゃんは私の視線に気付いてか苦笑し、
「あんなぁ――」
 ――そして説明を聞くこと五分。なるほど、だいたいは理解出来た。
 神楽坂さんは一週間後にエヴァンジェリンさんに再挑戦する。だけど今のままでは絶対に勝てないだろうことは彼女も理解していた。
 それはそうだろう、と私は思う。何せ相手は真祖の吸血鬼にして最強最悪の魔法使い。それを一介の女子中学生がどうにか出来るワケが無い。
 それで、悩んだ神楽坂さんは駄目もとでこのちゃんに相談。そしてこのちゃんは私の使う剣術――神鳴流が対魔を生業とする掛け値なしの力を持つ戦闘術であることを熱く語ったらしい。
 ……それは良い。何せ神鳴流はこのちゃんのお父上――関西呪術協会の長、近衛詠春氏もお使いになる剣術。自慢するのも無理なからぬこと。
 ――だけど、
「神楽坂さん……あの――」
 問題は、神鳴流は一週間やそこら習ったぐらいで実践レベルに達することが出来るほど簡単なものでは無い。
 それ以前に例え神鳴流を習ったとしても相手がエヴァンジェリンさんでは話にならない。
 あの人は格が違う。土台、勝てるワケが無い。私ですら難しいのだから神楽坂さんが挑戦しても結果は見えて――
「――力を貸して、私に」
 説得するつもりだった。
 止めておけ、と。
 あなたでは勝てない、と。
 無理だ、無謀だ、と。
 止めるつもりだった。
 だけど――
 土下座して、私なんかに頭を下げて懇願する彼女の声が――
「大切な人を守るための力を……私に」
 “似ていた”。
 その声に宿るのは純然たる――後悔の念。
「……神楽坂、さん」
 彼女の声には聞き覚えがあった。
 その姿には見覚えがあった。
 その後悔には覚えがあった。
 フラッシュバックする視界。思い出される過去の情景。
 ――大切な女の子がいた。大好きな女の子だった。
 助けたかった。助けたかったのに助かられなかった。
 無力だった。自分の無力さに涙し、力を求めた。
「――……強くなりたい……です、か?」
 自分でも何を言っているのかわからなかった。
 だけど、
「うん……!」
 ――守れなくてごめん、このちゃん。
 知っている。他の誰でも無い、私が通って泣いた道だから。
 知っているに決まってる。自分の無力さに泣いて、力を求めたのは他でもない私なのだから。
 だから、私はあなたの思いを知っている。だから、私はあなたに言ってあげられる。
「……じゃあ、強くなりましょう」
「うん……」
 大切な人を守れるように。
「私が、及ばずながら力を貸します」
「うん……」
 もう二度と傷付くあなたに涙せぬように。
「強く、なりましょう」
「……うん!」
 ――ウチ、もっともっとつよおなる……!
 神楽坂さんの後ろで微笑むこのちゃんを見た。
 ――……ウチ、強おなるよ。このちゃんを守れるように、強おなる。
 遠い日の約束を違えぬように。あなたが例え覚えていなくても、私はあなたのために強くなる事を辞めません。
「頑張りましょう、神楽坂さん」
「うん……! ありがとう、桜咲さん……!」
 顔を上げない神楽坂さんの肩が震えていた。
 彼女は包帯と湿布に覆われた華奢な手で顔を覆い、今は自身の無力さに涙していた。
 と――
「あぁ、そうやせっちゃん!」
 ポン、と手を打ち合わせてこのちゃん。
「あんな、ウチ、せっちゃんに聞きたいことがあるんよ〜」
「? 何でしょうか、お嬢様?」
 首を傾げて問い返す――って、どうして頬を膨らませて怒ってるん!?
「お嬢様やない! それに敬語!」
 あ。ついクセで……。
「え、えっと……な、何? このちゃん」
 照れながら言い直す。と、途端に機嫌を直して笑ってくれるこのちゃん。
「うんっ! あんな、せっちゃん。センセもネギちゃんもアスナも教えてくれへんのやけどな」
 ?
「せっちゃん。ウチに魔法のこと教えて欲しいんよ」
 このちゃんは笑顔だった。そして私は顔を引きつらせた。
 わ、忘れてたーっ! そう言えばこのちゃん。昨日、エヴァンジェリンさんやネギ先生の魔法を見てたんだったーっ!!
「あ、私、そろそろ学校行くわ」
 って、神楽坂さん!? いきなり復活して、いきなり逃げないで下さい! と言うか助けて下さいっ!!
「……せっちゃんはウチに教えてくれんよね?」
 あ、う……。そんな潤んだ瞳で、そんな台詞を言われたら教えるしかないじゃないですか!
「……えっと。ちなみに今日、ネギ先生は……もう?」
「ネギちゃんはもう学校や」
 逃げましたね、ネギ先生……。後で覚えていて下さいよ……。
 私はガックリとうなだれ、まだ登校まで時間があるとかで張り切るこのちゃんに室内へと連れられて行き、
 そして、洗いざらい魔法使いやこの学校のことを、このちゃんに教えることになった――。

 ◇◆◇◆◇

 食って、寝て、起きればまた食わないといけないワケで……それはつまり今日もインスタントというワケで……あたしは目覚めてすぐに憂鬱になったんだが、
「あ、おはようおねえちゃん」
 居間に出て、目を丸くした。
「あら、おはようございますヴィータさん」
「お、おはよう、ヴィータちゃん」
「おはようございます」
 そこに居たのはケイト他三名。右から雪広あやか、村上 夏美、那波 千鶴。鈍っていた頭をフル回転させて名前が出てきたってことはたぶん知り合いで、おそらくはクラスメートなのだろうが……雪広以外覚えてねー。
 あたしは頭をガリガリとかきつつ「ああ……」と低い声で返し、とりあえず洗面所へ。……ちっ。何がどーなってんのかはイマイチわかんねーが、とりあえずケイトの奴がどうせ元凶なんだろうな。
 何はともあれあたしは冷水でもって洗顔。眠気で鈍る思考を強制的に引き締めて、居間へ。
「――って、おお!」
 そしてまた目を丸くする。
 さっきは気付かなかったが、居間の中心に置かれたコタツの上にはインスタントじゃありえねー料理らしい料理が並んでいた。
 こ、これは……? 疑問を視線に乗せてケイトを見る。
「あら? もしかしてケイトさんからお聞きしてませんの?」
 そんなあたしを声を上げたのはケイトの横に座る雪広。なんか知らんがあたしの顔を、目を丸くして見つつ問うた。って、『ケイトから聞いてないか』ってのはつまり――
「うん! おねえちゃんを驚かせようと思って黙ってたの」
 ジロリと睨むあたしにケイトは小さく舌を出して茶目っ気たっぷりな様子で言う。……あ゛〜、この馬鹿。だからあたしの顔でそーいうことすんなっての。
 あたしはげんなりとしつつ雪広へと視線を向ける。
「……昨日、ケイトさんと朝ご飯をご一緒する約束をしましたの。聞けばお二方ともご飯はインスタントだとか……」
 どこか同情するような視線を向けて言う雪広を見て納得する。……なるほど、ケイトの奴もインスタントばっかってのは嫌だったんだな。
「それで私と夏美ちゃんはあやかについて来たの」
 ご飯は大勢の方が美味しいでしょう?
 そう言って柔らかく笑う那波に視線を転じ、それからその隣で所在無げに部屋のあちこちを見て回す村上へと向ける。
「あ、えっと……」
 あたしの視線に気付き視線を泳がせる村上。あー……なんつーか、コイツだけじゃねえか? 年相応な女って。
「ほら、おねえちゃん。座ってよ」
 だんだんと落ち着きの無さがパニック一歩前みたいになって行く村上をどこか感慨深い思いで眺めていたあたしをケイトが呼び、軽く手を引いて自分の隣へと座らせる。
 あ゛〜……一辺が一メートル半ぐらいのコタツじゃ必然的にこうなるわな。内心で苦く笑い、ケイトの横へと座る。……ちょっとせめーな。
「あ。せっかくだから晩御飯も一緒に食べない、ケイトちゃん?」
「え! そ、そんな……」
 ん? ケイトは何でコッチを見てんだ?
「それはいいですわね!」
 あ、もしかしてあたしに遠慮してんのか? ……インスタントよりはぜんぜん良いぞ?
「ふふ。今度は私たちの部屋にいらっしゃいな、ヴィータちゃん」
 そう言って那波はあたしにだけ聞こえるようにだろう、小さな声で「私たちの部屋のテーブルは大きいから大丈夫よ」と言ってウィンク。……だ〜か〜らあ。なんでコイツらはこう、齢と中身がちげーんだよ!
 あたしは那波に曖昧な笑みを向け、それから視線を村上へと向ける。
「ぇ、あっ、こ、これは……!」
 さり気なくつまみ食いをしようとしていた村上があたしの視線を受けて慌てる。……あ〜、やっぱりこれだよな、年相応っつーのは。
 そんなワケであたしは、やけに村上のことが気に入ったのだった――。

 ◇◆◇◆◇

 朝も早い時間。ボクは青いジャージの上下を着て、世界樹のある広場で古菲さんと恒例となりつつある棒・槍術の訓練をしていた。
「腰の重心が高いアルヨ、ネギー」
 ボクの振る棒――お父さんから譲り受けた魔杖の動きに対して注意してくれる古菲さん。
 彼女もボクに合わせて自身の身長かそれ以上の長さを持つ棍棒を持ち、そしてボクの構えや基本動作に対する見本を披露してくれる。
 今までが我流だったから古菲さんによる指導はありがたい。
 ボクの使う瞬動術や棒術はシロウとタカミチに少し習っただけだったからどうしても完成度が低い。事実、夕方の鍛錬の時、長瀬さんに瞬動術について指導を受けているんだけど、あんまり良い評価を貰えていない。
「こうアル! 踏み込み、その勢いを、こうっ!!」
 図書館島での一件以来、ボクは古菲さんと長瀬さんに戦い方の指導を受けている。
「は、はい!」
 朝は古菲さんから棒・槍術を。夕方からは長瀬さんに瞬動術と実践的な戦術指南を。
 昔――今から三年ぐらい前。シロウが海外で魔法使いとして働くことになった時、ボクはシロウについて行くとわがままを言った。
 浅はかだったんだ。ただシロウといたい――それだけを願い、それだけを望んで彼を困らせた。
 ネカネお姉ちゃんもアーニャもボクを諫めた。遊びじゃないんだ、危険なんだ、と。だけどボクはそれを聞かなかった。聞きたくなかった。
 だけど――シロウはボクを叱らなかった。
 シロウは海外に行くまでの短い間、ボクに戦い方を――世界の厳しさを教えてくれた。
「――さて、ネギー。今日もこれから実践的な訓練を始めるネ」
 棍棒を構え、ボクから距離を置いて古菲さん。不敵に笑い、腰を落とし、空気を引き絞る。
「はい!」
 負けじとボクも距離を離して構える。
 戦いの基本は己の内で――そう、ボクはシロウに習った。
 相手を知り、把握し、そして自分を知り、計り、戦いをシミュレートする。
 自分に何が出来るのかを考える。
 ……ボクの出来るのはいくつかの魔法と荒削りな瞬動術。そして見習いレベルの棒・槍術。
 相手が何を出来るのかを考える。
 ……中国武術全般。それも達人クラス。
 手持ちのカードを確認し、相手のカードを予想してこれからの戦闘を予測する。
 ……ボクの持ち味は俊敏性と魔力。古菲さんの得意とし警戒しなければならないのは近接戦闘全般。獲物はお互いに棒。暗黙のルールでボクも古菲さんもそれ以外の武器の使用を禁止。そしてボクは魔法を自粛。古菲さんは棒・槍術以外の体術を自粛。それら全てを鑑みて、これから始まる模擬戦闘の流れを予想し、予測し、備える。
 ……棒・槍術の利点は間合いの広さ。そして凪ぎ、払い、突きの戦術の幅。だから――
「ヒュッ!」
 即座に瞬動! 古菲さんの背後へと移動し、刺突。
「――フッ!」
 鋭い呼気を一つ。古菲さんは半身になってボクの刺突を避け、体を回転。棍棒を横凪ぎに振るう。
 対して一歩前へ。身を屈めて古菲さんの前へと周り込みながら彼女の一閃を避け、突き出した杖を引き戻す。
「ハッ!!」
 一歩軸足を引き、円運動を足へと逃しながら横に一閃した棒を突きへと変える古菲さん。ボクはそれを引き戻した杖で上方へと捌き、そのまま杖を回転。流れるような動作で杖の柄を古菲さんに突き出す。
 ガ! ボクの突きを彼女は突き出した棒の反対側を、横に振るって弾いた。
 ……棒術での戦闘は如何に相手の獲物を弾くかで決まる。
 バックステップ。一度古菲さんから距離を取り、仕切り直す。
「はぁ……はぁ……!」
 額を緊張の汗が伝う。止めていた呼吸が戻ってか肩がたまらず上下した。
 ……ボクには基礎体力が無い。だから短期で決めなきゃ駄目だったのに。
 構える杖が震える。駄目だ……筋肉が悲鳴を上げてる。
「……もう終わりアルか?」
 ニヤリと笑って古菲さん。
 ……まずい。まだ息が――
「ッ!!」
 悪寒を感じると同時、杖を立てる。と――ガ!! 杖を持つ両手に物凄い衝撃を感じ、たまらず上体を崩してしまう。
「ヒッ――!!」
「まだまだ、ネ!」
 古菲さんの瞬動。それに気付いた時にはもう手遅れ。
 崩れた上体を戻すボクの、その一動作の内に古菲さんは更に一歩を詰め、ほぼ零距離へと迫る。
 苦し紛れに杖を振るい、一歩軸足を引くのと古菲さんがボクの杖を避け、ボクの軸足を刈るように棒を振るうのが同時。タイミングを図ったみたいに、ボクが重心を移動させた瞬間、彼女の棒がボクの軸足を払う。
「あ――」
 ド! たまらず転倒しかけるボクを古菲さんの振り下ろしが完全に地面へと叩き付ける。
「――がッ!!」
 魔力障壁が衝撃を緩和してくれたとは言え息が詰まり、一瞬体を硬直させてしまう。
 その一瞬で勝負は決した。
 気付いた時にはボクの首もとに古菲さんの棒の先端が当ててあり、ボクの杖は彼女の足に踏んで押さえられていた。
「……ま、参りました」
 降参を告げると同時に全身を弛緩させて貯まっていた息を吐き出す。
 ……はぁ。ボクはまだまだみたいだ。
 ボクは地面に大の字になってため息を吐いた。







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《THE SECOND LIFE》6

※ 前書き

 この作品は『魔法少女リリカルなのは』、及び『Fate/stay night』という作品のキャラクターを『魔法先生ネギま!』という作品に登場させるという形のクロス小説です。途中、この三作品をご存知ない方には非常に解り難い表現が含まれていますので、それを承知の上でご覧下さい。
 また、作中に著者による独自解釈、設定、世界観、オリジナルキャラなどが描かれていますが、こちらも事前にご了承の上でご覧になって下さい。








 《THE SECOND LIFE》




 女子寮の各部屋に備え付けてあるシャワーを浴び、バスタオルを体に巻いただけという平時なら有り得ないほどだらしない格好のままリビングに戻る。……ま、どうせ居るんはケイトだけだし、そのケイトは今、あたしになってんだから気にする必要なんてねー。そう気楽に考え、体に巻いたバスタオルと頭をふく用のタオルだけという半裸状態で居間に行くと、
「――……そう。なら引き続き、監視レベルはイエローのままで。……うん。よろしく」
 コタツに入り机上に展開させたモニターやらキーボードなんかを弄っているケイトを見つけ、目を丸くした。
 ケイトが……通信? ……珍しい。
 他の局員ならいざ知らず、このケイトという奴は諜報や局の暗部の仕事を基本的に任されてる。そのせいかは知らんが、コイツはいつも『念話』で報告や指示なんかを済ませてるはずだが……今回に限って、なんでわざわざ端末を介したやりとりなんてしてる?
 そんなあたしの思考が顔に出てたのかケイトの奴がこちらにウィンクを寄越して手招き。……ちっ、やっぱり気付いてたか。
「…………つか、あたしの顔でウィンクすんな」
 苦い顔をして言いつつ、興味津々な内心をひた隠してケイトの隣へ。「どれどれ……」と正面に表示されている比較的メインのディスプレイっぽいやつを覗き込み――絶句。
「なっ――!?」
 そこに映し出されていたケイトの通信相手――ではなく、夜の桜並木。そしてその中心にいる少女たちと、彼女らの略歴と――“魔力値”。
 慌てて視線をディスプレイの左上――おそらくは録画したのだろう繰り返し再生される動画へと向け、さらに驚愕。
「お、おい……嘘だろ?」
 それはまさに魔導師同士の戦い。それはまさに素人では有り得ない戦い。
 視線をまた彼女らの“情報(ステータス)”が表示されていた方へと戻す。
「……………………」
 衛宮士郎――推定魔導師ランク及び危険性『SS−』。
 ネギ・スプリングフィールド――推定魔導師ランク『AA+』。危険性『S』。
 エヴァンジェリン・アタナシア・キティ・マクダウェル――推定魔導師ランク『A+』。危険性『S』。
「……なんだよ、おい」
 絡繰茶々丸――推定魔導師ランク『測定不能』。危険性『A』。
 神楽坂明日奈――推定魔導師ランク『測定不能』。危険性『A』。
 桜咲刹那――推定魔導師ランク『測定不能』。危険性『B』。
「…………これって、なんだよ」
 呆然と、呟く。
 喉が乾上がる。
 冷や汗が頬を伝う。
「――……はい。では『彼女』を最優先で調査して下さい」
 驚愕に目を向くあたしをチラリと見て、ケイトはキーボードを叩き、あたしの眼前に別のディスプレイを表示する。
『危険性「α」≠最低魔導師ランク「α」以上、小隊以上の部隊でのみ戦闘を許可』
 それはケイトなりに現状を正しくあたしに知らせるための配慮なのだろうが――おかげで風呂上がりだというのに一気に凍えるような思いとなった。
 ……お、おい、ちょっと待て。じゃあ何か? “衛宮士郎(あいつ)”をどうにかしようと思ったら“最低でダブルSマイナーの魔導師の、小隊以上の部隊”で事に当たる必要があるってのか? ……ふざけんなよ! そんな部隊なんてねーだろうが!!
 あたしは苦い顔をケイトに向ける。
「……どうすんだよ、これ」
 現状を理解し、理解させられたが故にディスプレイを指差しながら告げる。
 ケイトはその指差した先を、
 推定魔導師ランク及び危険性が『SS−』と表示されたディスプレイの――
「――……うん。最悪、『彼女』の相手は、」

 ――“その真上に表示された”それを眺めて告げた。

「――……わたし一人で行う」
 AAA、S、SS、SSS――そして、“その上位ランク”。数億からなる時空管理局の局員の中にすら片手の数でたりる“規格外”の魔導師。
 その名を――“大魔導師”。
 それは『オーバー・トリプルS』という埒外にして、もはや戦艦にすら匹敵する単体魔導戦闘能力か、その主砲クラスの大質量の魔力を行使出来る魔導資質を持つとされる化け物たちの総称。
 教科書や記録の中にのみ存在する著名人にしか冠することの出来ないだろうその名を、何故か『彼女』は名前や略歴とともに表示されていた。
「――……大丈夫。わたしは負けませんから」
 そう言って微笑むケイトを、しかしその時ばかりは信じられなかった。それほどの衝撃があった。
「……………………」
 無言で視線をそれへと戻す。

 ――“近衛このか”。

 推定魔導師ランク、
 及び危険性、

 ――『“大魔導師(バケモノ)”』。

「……うそ、だろ?」
 結局、ケイトの通信相手の声はおろか姿すらわからなかった。
 そしてそれ以上に、
 あたしが、今や完全に外野なのだと改めて思い知って、
「……………………っ」
 ショック、だった――。

 ◇◆◇◆◇

 ――どくん、と一際大きく心臓が鳴った。
「あ……アス、ナ……さん…………?」
 手の中の彼女は傷だらけだった。
「アスナさん……? アスナさん! アスナさんっ!!」
 ――ボクはアスナさんの事が大好きだった。
 彼女が今は遠い故郷に居るお姉ちゃんに似ているからだけでは無い。
 出会った当初は乱暴で怖い人だと思っていた。ガサツで勉強の苦手な、だけど人一倍元気で活発な女の人。
 魔法使いだと知られ、知り合って、一緒に暮らすようになって、ボクは神楽坂明日菜という女性に自然と惹かれるようになった。
 優しくて強くて頑張り屋のお姉さん。そんな彼女がボクは大好きだった。
「――少しばかり来るのが遅かったな、先生」
 声に、ゆっくりと振り向く。
 収縮した視界に嘲りの笑みを浮かべる少女が映って、

 ――フラッシュバック。

 切り替わる視界。過去と現在が反転し、そしてボクの視界に広がった光景は――……焼け、滅びる街と嘲う悪魔とそして傷つき倒れる大切な人達。
 ……頭の中が、真っ白になった――。
「――……ほほう? それで貴様は教え子を殺そうとした、と?」

「えぅ……!」
 ――気が付くとボクは保健室にいた。
 どうやらボクはエヴァンジェリンさんに向かって“魔力(チカラ)”一杯『稲妻の暴風』を打ってしまい気絶したらしい。
 しかもアスナさんやこのかさん、桜咲さんが近くにいるのを気にせずに、だ。
 とっさにエヴァンジェリンさんが空へと逃げてくれなければ余波で桜通りは吹き飛んでいたかも知れない。
「あの、その……すみません」
 だから素直にエヴァンジェリンさんに謝る。
 ボクを睨み、腕を組んでベッドにあぐらをかいていたエヴァンジェリンさんはそれで一応は納得してくれたのかため息を吐いて視線を外した。
「……で? 衛宮士郎」
「何だ?」
 入り口に佇み、壁に寄りかかって腕を組んでボクたち二人を見ていたシロウ。エヴァンジェリンさんはボクに向けたのとは比べものにならないくらい冷たい視線を向けて口を開いた。
「貴様……茶々丸をどうした?」
 ? 茶々丸さんってウチのクラスのかな?
 エヴァンジェリンさんの問いかけに無表情を向けてシロウは口を開いた。
「……時間が無かったので破壊させてもらった」
「「なっ――!?」」
 奇しくもエヴァンジェリンさんと声が重なった。
 は、破壊したって……え? そんな……!? えーっ!?
 ボクがあまりの言葉に頭をパニクらせていると、エヴァンジェリンさんがベッドを蹴ってシロウへと掴みかかった。
「き、貴様――!?」
「――とりあえず二、三日動けないようにしただけだ。命に別状は無い」
 エヴァンジェリンさんの言葉を遮ってシロウ。それにエヴァンジェリンさんは口をパクパクと開閉して絶句。
 そんな二人を見ながら、気付く。
 ……シロウ。顔には出してないけど、申し訳なく思ってる。それに、エヴァンジェリンさんも気付いたみたいで何も言えなくなってる。
 知らず、眉をハの字にしてシロウを見つめていた。それに気付いてか、彼がコチラを向く。
「すまない、ネギ。君の生徒を傷つけてしまった」
 ……どう応えたら良いんだろう?
 『ううん』と否定すれば良いのか、『それは良くない』と彼を叱れば良いのか。
 わからない。だからボクはうつむいてしまう。どんな顔をしたら良いのかもわからないから、シロウから表情を隠す。
「――衛宮先生が謝る必要はありません」
 凛とした声がかかり、ボクもシロウやエヴァンジェリンさんもそちらを向いた。
「桜咲さん……」
「ネギ先生も、です。謝る必要はありません」
 言って桜咲さんは一歩エヴァンジェリンさんへと近付く。
 エヴァンジェリンさんはシロウから離れ、桜咲さんへと視線を向けて――嘲う。
「……ほほう」
 二人の視線が絡み合う。
 ……はぅ!? な、なんか空気がピリピリするぅ!?
 エヴァンジェリンさんの視線やプレッシャーに臆することなく桜咲さんは――嘲って返す。
 彼女は手に下げた野太刀をスッと引き抜き、エヴァンジェリンさんに向けて立つ。
 て、ちょっ――!?
「さ、桜咲さ――!?」
「――小娘は黙っていろ」
 ヒッ!? ボクはエヴァンジェリンさんの視線に身を竦ませてしまう。
 ……こ、怖い。
 気付いた時にはペタンと尻餅をついていた。
 そんなボクを一瞥すると、エヴァンジェリンさんは桜咲さんへと視線を戻した。
「これは何の冗談かな? 京都神鳴流の桜咲刹那嬢」
「なに、冗談のつもりはないさ、桜通りの吸血鬼エヴァンジェリン殿」
 い、一触即発ですか!? な、なんかもの凄く険悪なムードなんですがっ!
 ボクは『あぅあぅ……』と慌てふためきながら救いを求めるようにシロウを見た。
 また壁によりかかって腕を組んで佇んでいたシロウは苦笑して『チラリ』と視線を横に向けて見せる。
 ? とりあえずボクはシロウの視線を追って――『あ』と気付いた。
「じゃあ何かな? これはもしかして、さっきの続きを希望なのか?」
 どうやらエヴァンジェリンさんも『それ』に気付いているのかニヤニヤと笑っていた。
「ああ、そうだ。あなたはこのかお嬢様を傷付けた。だから許し――っ!?」
「せっちゃ〜ん!!」
 抱き! 今までそろりそろりと足音と気配を殺していたこのかさんが桜咲さんに抱きついた。
「〜〜〜〜っ!!」
 音が出るぐらい急激に顔を真っ赤にする桜咲さん。その背に抱きつき、実に嬉しそうな顔で桜咲さんに頬ずりするこのかさん。
 さっきまでの抜き身の刃みたいな雰囲気はどこへやら。桜咲さんは真っ赤な顔で固まる。
 あ、あれ? このかさんと桜咲さんて仲良かったのかな?
「くくく! どうした桜咲刹那? 私と“戦(や)”り合うのでは無かったのか? くははは!」
 二人をおかしそうに笑うエヴァンジェリンさん。とそれで我に返る桜咲さん。
 赤い顔をそのままに――ついでに腰に抱きつくこのかさんもそのままに、桜咲さんは野太刀をエヴァンジェリンさんに振るう。って、ちょっと!?
「「――――」」
 睨み合う二人。桜咲さんは冷ややかに、エヴァンジェリンさんは嘲笑を浮かべて。
 野太刀はピタリとエヴァンジェリンさんの首筋に当てられ――しかし二人は微動だにしない。
「……どういうつもりだ?」
 刃先を動かさず桜咲さん。
 対し、ニヤリと笑ってエヴァンジェリンさん。
「……なに。今日のところは貴様達の勝ちだからな」
 言って一歩、桜咲さんとの距離を詰める。それによって首筋に当てられていた刃先がエヴァンジェリンさんを刺してしまうが、二人は気にしない。
 ボクは息を飲み、そんな二人の空気に飲まれて絶句する。
「……そうか」
 無表情に呟き、桜咲さんは野太刀を持つ手に力を――
「……せっちゃん」
 ――その手を、このかさんの手が包んだ。
 ハッと振り向く桜咲さん。このかさんは彼女に優しく微笑み、首を左右に振った。
 桜咲さんはすまなさそうな顔をして野太刀を鞘へ納める。
「良いのか?」
 薄く笑ってエヴァンジェリンさん。対し、桜咲さんは殺意すらこもった視線で一瞥し、さっさと部屋を出て行く。
「せっちゃ――」
「近衛このか」
 桜咲さんを追いかけようとしたこのかさんをエヴァンジェリンさんが呼び止める。
 このかさんは彼女に不思議そうな顔を向け、エヴァンジェリンさんは薄い微笑のままに口を開く。
「良いのか? 私はお前や、お前の友人を傷付けたのだぞ?」
 挑むように、試すようにエヴァンジェリンさんは笑って問う。
 それにこのかさんは微笑み、腰を折ってエヴァンジェリンさんと視線を合わせて、
「ほんでも、ウチやアスナを助けてくれたんもエヴァちゃんや」
 スカートのポケットからハンカチを取り出し、このかさんはエヴァンジェリンさんの首筋を拭う。
 キョトン、と。その笑顔と行為を呆然として見ていたエヴァンジェリンさんだが、しだいにクツクツと笑い出した。
「くくく……! それでは、これは貸しにしといてやる。くははは! 貴様は大したやつだよ近衛このか!」
 微笑むこのかさんとおかしそうに笑うエヴァンジェリンさん。
 ボクはそんな二人を見てホッと胸を撫で下ろした。
 ……良かった。これで万事解決かな。
「ああ、そうだ近衛このか」
 笑いを引っ込め、意地悪くこのかさんを見上げてエヴァンジェリンさん。
「呼び止めておいて何だが……桜咲刹那が大事なら今すぐ追うが良い。さもなくば二度と会えなくなるぞ?」
「え!? ほ、ほんならウチはせっちゃん追いかるわ!」
 エヴァンジェリンさんの言葉に慌てて保健室から出て行こうとするこのかさん。と、部屋を出て行く直前にこちらへ――ボクやエヴァンジェリンさんへと笑顔を向け、
「また明日な、ネギちゃんっ! エヴァちゃん!」
「あ、はい!」
 手を振って部屋を出て行くこのかさんに手を振り返して、ボクは見送った。
 これで部屋に残るのはボクとエヴァンジェリンさん――そして今はベッドに眠るアスナさんの三人になった。
 って、あれ? シロウはいつの間に部屋を出て行ったんだろう?
「――それで?」
 内心、首を傾げていたボクなんて無視して、エヴァンジェリンさんはアスナさんの眠るベッドへ――それを仕切り、遮る白いカーテンへと視線を向けて口を開いた。
「貴様はどうする? 神楽坂明日奈」
 エヴァンジェリンさんの問いに白いカーテンが――開いた。その向こうで額に包帯、全身に湿布とバンソーコーを貼った満身創痍のアスナさんが立っていた。
 今まで眠っていたとばかり思ったのでギョッとするボク。とアスナさんはそんなボクを不機嫌顔で一瞥し、それからその表情のままにエヴァンジェリンさんを睨んだ。
「……あんたをやっつけたのはネギ? それともヘルパー?」
「いいや。倒したのは――お前だ、神楽坂」
 ニヤニヤと嘲いながらエヴァンジェリンさん。アスナさんはその台詞に怪訝顔で『何それ?』と呟き、視線をボクに向けた。
 ……あ。なるほど。
 ボクはエヴァンジェリンさんの言葉にポンと手を叩いて頷いた。
「そっか……アスナさんがボロボロになったから」
 このかさんはシロウを呼んで、
 その時に長瀬さんに伝言を頼み、
 長瀬さんはそれを念のために桜咲さんにも伝えて、
 桜咲さんがエヴァンジェリンさんを抑えてくれている間にボクが駆けつけて、
「くっくっく……! まあ納得出来んようならまたいつか私に挑むが良い」
 ボクの言葉に益々怪訝な顔をするアスナさん。それをおかしげに笑い、エヴァンジェリンさんは保健室を出て行こうと歩き、
「あんた――いや、エヴァンジェリン」
「ん?」
 アスナさんに呼び止められて振り向く。それも実に面白そうな笑みを浮かべて。
「『いつか』じゃないわ。『いつ』にするの?」
 それに負けず劣らずニヤリと笑ってアスナさん。
「何なら今からにする?」
「ほう? その無様な格好でか?」
 完全に振り返り、腕を組んで嘲笑するエヴァンジェリンさん。それにやはり不敵に笑って返し、一歩前に出るアスナさん。
 一触即発。室内をまたものすごい緊迫感が包んだ。
 あわわわわ! ど、どうしようっ!? こ、ここは先生らしく生徒にビシッと――
「一週間後」
 ボクが何かを発する前に放たれた言葉。
 三人の視線が保健室のドア――その前に立ち苦笑しているシロウへと向いた。
「神楽坂もエヴァンジェリンも今は全力を出せないだろう? だから一週間後」
 途端に不機嫌顔になるエヴァンジェリンさん。シロウを睨み、
「……何故、貴様の指図を受けねばならん? 貴様には関係な――」
「茶々丸の修理に一週間かかる」
 遮り、シロウ。
「それにお前。今、さっきのネギとの魔法の撃ち合いで立ってるのもやっとだろう?」
 言いながら、エヴァンジェリンさんを――抱き上げたぁーっ!?
「なっ!? き、貴様、何を――!」
「と言うワケで神楽坂。勝負は一週間後な」
「私を無視するな!! と言うか下ろせっ!」
 シロウにお姫様だっこをされて運ばれて行くエヴァンジェリオンさん。真っ赤な顔でジタバタと暴れる彼女を呆然と見送り、ボクらは同時に一言。
「緊張感ぶち壊し……」
「良いなぁ……」
 ……アスナさんに白い目で睨まれた。

 ◇◆◇◆◇

『――どうやらこのか殿の危機のようでござるよ』
 そう長瀬から聞いて駆けつけて見れば確かに。このかお嬢様はエヴァンジェリンさんにより木に縛られ、神楽坂さんは血を吸われる寸前であった。
 助けて、と泣き叫ぶお嬢様。それを見て頭に血が昇った。
 助けて。その後に私を呼んでくれたお嬢様。
 私は――歓喜した。
 いつかの時とは違う。私にはお嬢様を助けてあげられる力がある。
 だからエヴァンジェリンさんを斬るのに躊躇わなかった。
 だけど――真帆等学園中等部の保健室。白いカーテンに白いベッドのその一室で、私が彼女に刃を向けると、
「――……はぁ」
 ため息が漏れた。
 ――お嬢様が私を止めた。
 それは別におかしな事では無い。お嬢様はお優しい。だから私を止めるのもわかる。
「だけど……」
 ……見られてしまったから。
 エヴァンジェリンさんとネギ先生の激突。その余波から離脱する際に私は禁忌たる我が身の正体を見せてしまった。
 だから――
「――……すまなかったな、近衛を巻き込んで」
 っ!?
 振り返る。
 そこには長身痩躯の男――衛宮先生が無表情で立っていた。
「すまなかったじゃありません!」
 頭に血が昇った。
 彼の接近に気付かなかった自分に。これからの事に。現状に。そして、自分を助けてくれなかったこの男に。
 腹が立った。
 涙が出そうだった。
「もし私があの時このちゃ――お嬢様をかばわなければどうなっていたか!! 先生ならおわかりかと思いますがっ!?」
 詰め寄る。
 自制出来ない。彼が悪く無いことをわかっていて衛宮先生にくってかかっる。
 原因は数分前の吸血鬼事件での事。
 桜通りに満月の夜現れると噂された吸血鬼――3‐Aのクラスメイトにして真祖の吸血鬼エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルとその担任であるネギ・スプリングフィールドの抗争に二人の女生徒が巻き込まれかけた。
 今はベッドに寝かされているだろう神楽坂明日奈さんは、額に包帯、頬に絆創膏、体中には湿布という満身創痍の体だが辛くも衛宮先生に助けてもらい――そして二人目の少女、このかお嬢様は私が助けた。
 そう、助けてあげられた――そのことは良いのだ。
「……すまない」
 詰め寄る私に衛宮先生は瞳を閉じ、頭を下げて謝罪。
「――――っ!!」
 彼に非はない。衛宮先生が謝罪する理由も、それに掴みかからんばかりに身を乗り出して反論する理由も無い。
 私が怒る理由なんて無い。私が責める理由なんて無い。それをわかっていて――それでも私は、顔を憤怒の赤に染め、今にも切りかからんばかりに手に持つ野太刀――夕凪に力が入る。
「どうしてくれるんですか先生っ!?」
 衛宮先生の襟首を掴み、
「わ、私……このちゃんに、羽……鳥族の…………」
 段々と尻すぼみになって行く声。それに比例して顔を俯かせて行く。
 正体を知られたら姿を消さねばならない――それが鳥族の掟だ。だから私はこのかお嬢様の下から去らねばならない。
 だから――肩が……どうしようも無く、震え始めた。
「――……そんなに近衛が信用出来ないか?」
 ――ポン、と。震える肩に手を乗せて、衛宮先生は問う。
 顔を上げる。彼は苦笑を浮かべて私を見ていた。
「……そういう問題では――」
「信じろ、桜咲」
 反論しかける私の声を遮る。
 ……反則だ。
 衛宮先生を見つめていられない。だから俯く。
 ……なんて優しい顔で――
「…………っ!」
 静かに腰を折り、
 下から俯く私の顔を見上げて、
「お前が何であれ、近衛はお前を嫌ったりしない」
 衛宮先生は――微笑む。
「……でっ、ですからっ! そういう問題では……!」
 くしゃり、と頭を撫でられる。思わず目を丸くして彼を見た。
 ……反則、だ。
 衛宮先生は優しい、まるで兄か父親のような慈愛に満ちた微笑を浮かべて私を見ていた。
「それだけ、だろ?」
「……え?」
 先生が、振り返る。
 私もそちらを見て――絶句。
「お前が気にすべき事はそれだけで良いんだよ」
 お嬢様が、いた。
 衛宮先生が浮かべる優しい微笑に似た笑みを浮かべる、このかお嬢様が。
「魔法使いとか鳥族とか……そんな事より、桜咲刹那が気にすべき事は――」
 ……反則だ、その顔は。
 今すぐここから離れなきゃいけないのに、動けない。
 止められて、しまう。抱き止められて、しまう。
 優しく、暖かく。その微笑に。
「近衛このかとこれからも仲良く居られるのか――その事だけを気にしていれば良いんだ」
 呆然と衛宮先生を見る。口が言葉を紡ごうと開閉するが声にならない。
 先生は笑っていた。お嬢様も、笑っていた。
 私はゆっくりと顔を俯ける。
 …………反則だ。
「大丈夫。お前と近衛は互いを嫌いにはならない。だからまぁ――」
「……先生」
 ニコリと笑う衛宮先生を、戸惑い顔で見つめた。
 そして、
「…………すみませんっ!」
 反転。そして瞬ど――ガシ! 衛宮先生に腕を掴まれ、止められた。
「――逃げるな」
 力が、抜ける。
「せっちゃん……」
 俯く。
 近く――気配からして背後に立っているだろうこのかお嬢様の声に、うなだれる。
 もう……振り返れない。振り向けない。
 お嬢様はきっと私を――
「ウチはせっちゃんが――」
 ……私のような化け物をきっと――
「――大好きや」
 ――ブチ! 緊張や緊迫感などの張り詰めた糸が、音を立てて切れた。
「……このちゃん」
 ――お嬢様をこう呼ぶのはいつ以来か?
 私は衛宮先生に腕を掴まれ、俯きながら――“翼”を、出した。
 禁忌の白き翼。災いの化粧。人外の化け物。
「……私は、」
 肩が、震える。
 声が、震える。
「…………化けも――」
「天使や」
 ポス、と。背後から抱きしめられる。
「キレーなハネ……」
 っ!
「せっちゃんはキレーなハネの天使や」
「…………ぅ……!」

 ――ずっと、怖かった。

「…………ぅ……うっ……!」

 ――ずっと、寂しかった。

「ぅ……あ……ぁ!」

 ――拒絶されるのが当たり前で、

 ――忌避されるのが当然で、

 だから――

「せっちゃん……」
 顔をみっともなく歪めて、
 振り向いて、抱きついて、
 泣いた。
 泣いた……。
「このちゃん……! こ、の……ちゃん…………!」
 あぁ……やっぱり。私はこのちゃんに依存してしまう。
 好きだから。大好きだから。
「き、らぃ……なら……んとぃ、てぇ…………!」
 泣く。
 鳴く。
 大切な人の胸を借りて……みっともなく、泣き喚く。
「こ、の……ちゃぁん!」
「……せっちゃん」
 強くなった、つもりだった。
 だけど…………まだまだだ。
 だけど――今は良いや。
 私はこのちゃんの胸でいつまでもいつまでも泣き続けた――。






次話/前話

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《THE SECOND LIFE》5

※ 前書き

 この作品は『魔法少女リリカルなのは』、及び『Fate/stay night』という作品のキャラクターを『魔法先生ネギま!』という作品に登場させるという形のクロス小説です。途中、この三作品をご存知ない方には非常に解り難い表現が含まれていますので、それを承知の上でご覧下さい。
 また、作中に著者による独自解釈、設定、世界観、オリジナルキャラなどが描かれていますが、こちらも事前にご了承の上でご覧になって下さい。








 《THE SECOND LIFE》





 ――それは、突然の衝撃。
 今まさに口に含もうとしていたスプーンを止め、眉をひそめる。
「…………なんか、変な感じしなかったか?」
 怪訝な表情を向かいに座るケイトへと向けて問う。
 それに「ん?」と、あたしとは違い手にしたスプーンを止めることなく口に含みつつ、ケイトはどこまでも不思議そうな表情をあたしに向け、『もぐもぐ』と悠長に咀嚼しつつ口を開く。
「ぁ……。たぶん……。例の……。副担任……」
「あ゛〜……とりあえず口ん中の物なくしてからしゃべれ」
 そんなケイトの様子にげんなりしつつ、あたし。食べかけのカレーから手を放し、傍らのコップに手を伸ばす。……ちっ。二人して料理出来ないってのは致命的だな。
 あたしは不味いわけじゃないが大して美味くもないインスタントカレーを眺めやり、内心で舌打ち。つか、ケイトの奴は隻腕だから仕方ないとしても連日“レンジで三分(インスタント)”ってのは流石に萎えるな。後で何らかの手を考えねーと……。
 そんな風にこれからの食生活改善について真剣に頭を悩ませつつケイトの奴を見ると――
「……もぐもぐ」
「――って、オイ! なに普通に食い続けてやがる!!」
 説明はどーしたコラ!?
 言いつつ机を『バシン!』と叩く。それに今度こそ『ごっくん』と口ん中の物を飲み込んでから口を開くケイト。
「ほら、わたしたち二人が教室に入った時、先に紹介されてた人が居たでしょ?」
「あ? ……ああ、あの白髪の」
 ケイトの台詞に昼間のことを思い返す。
 あたしらと同じように今年度から3‐Aの一員になった長身痩躯の男――衛宮士郎。ケイト直々の指揮下にある局の諜報部隊をもってして、“五年より前”の経歴を洗い出せない謎多き魔導師。
 彼は担任である少女ともどもあたしとケイトがマークしておくべき次元震を引き起こした可能性のある最重要容疑者の一人。
「ヴィータおねえちゃんの感じたのは、たぶん彼の使った魔法じゃないかな?」
 だからこそ、ケイトの言葉に目を丸くする。
「っ!? じゃ、じゃあ、さっき感じたんは――」
「彼の魔力、だね。さっきちょうど通信が入ったし間違いないんじゃない?」
 そんなあたしとは打って変わってケイトはどこまでもしれっと返す。
 ……お、おい、ふざけんなよ!
 あたしは内心の驚愕を抑えるのに必死で、そんなケイトのことをとやかく言う余裕が無い。彼の魔力? ……嘘だろ? あたしがまだまともな時だったならいざ知らず。今のあたしは魔力を感知するのはおろか念話すら満足に出来ない魔導師崩れだぞ?
 そんなあたしをして、感じさせた。
 そんなあたしをして、遠距離で発したハズのそれに気付かせた。
 それはつまり――
「…………衛宮士郎はどれくらいの魔導師だ?」
 ゴクリと生唾を飲み込み、ケイトを睨むようにして見つつ問う。……推定でも良い。少なからずあたしらとは魔法体系が違うんだから正解な数値は望めないまでも、それでもこれからの指針となりえそうな数値が欲しい。
 そんなあたしにケイトは傍らのコップに手をつけ、一旦唇を湿らせてから口を開いた。
「……推定魔力値と瞬間的に発せられた魔力値だけで見れば、少なくとも“ダブルSマイナー”かそれ以上かな」
 なっ――!?
 今度こそ絶句。
 お、オイ、ふざけんなよ……。ケイトの言葉を受け、血の気が失せる。『SS−』? ……そんな! 今のあたしらは魔導師としては三流以下だぞ!? ケイトに至っちゃ魔法使用禁止令まで出されてんだぞ……!?
「……そんなん相手に、どうしろってんだよ?」
 途方にくれる。……畜生。今の自分が足手まといでしかないってのがすげー歯痒いぜ……。
 そんなあたしを前にケイトは、
「気にしない、気にしない」
 と、やっぱりどこまでも気楽な調子で言って再度スプーンへと手を伸ばす。て、オイっ!? あたしは目を剥いてケイトへと言葉を投げる。
「き、気にすんなったって……そんなワケには行か――」
「あのね、ヴィータおねえちゃん」
 そんなあたしに苦笑を向け、ケイトはやんわりと遮って言った。
「わたしの魔導師ランクがどれくらいか知ってる?」
 は……? あたしは首を傾げる。あ゛〜……そう言やあ、あたしはケイトの魔導師ランクとか強さは知らなかったな。そのことに、あたしは訊かれて初めて気付いた。
 今まで何度かケイトと模擬戦をしたり、コイツが他の奴とやってんのを見たことはあったが、そう言やあどれくらいの魔導師かってのは知らなかったな。なんせケイトの強さってのは魔導師ランクとは無関係――
「あ」
 そこまで考えてようやく気付く。
 そうか! ケイトの言わんとしていることにようやく思考が追い付く。コイツの戦闘スタイルに限り、魔法使用禁止令なんて無関係。そう言やあ、あたし、コイツの魔法って見たこと無いんじゃ……?
 そんなあたしの表情の変化に気付いてか、ケイトは『にこり』と笑って「そういうこと」と軽く返す。
「『議会』の連中だってそこまで馬鹿じゃないよ」
 ……そうだ。ケイトの強さってのは魔導師ランクとか魔力値とかそんなんとは関係ねー。
 あたしは内心で冷や汗を流す思いで改めて目の前のケイトを眺めた。
「要するに、わたしが魔法使えないからって、なんにも問題なんて無いの」
 この、今はあたしの姿になってる“この男”の実力を思い出して戦慄する。
 まだみんなが現役だった時。模擬戦好きなフェイトやシグナム、それにシャッハの奴とケイトが“戦(や)”ってんのをたまに眺めてた。何かってーと衝突するあたしや他の隊の血気盛んな連中はよくコイツとやりあってた。
 そん時は気付かなかった。そん時は大抵、ケイトの奴は負けてたから考えもしなかった。
 このケイトという男の本質――その戦闘スタイルと能力のデタラメさ加減に、あたしは今さらながらに肝を冷やす。
「お、お前……今までずっと手加減して――!?」
 あたしは今までケイトの魔法を見たことが無い。コイツがコイツ特有の魔法を使ったところを見たことなんて一度も……。それどころか、あたしはケイトがデバイスを使ってるところすら見たことが無――
「あ、それはちょっと違うよ」
 スプーン片手に、ケイトは苦笑。
「わたしは魔法を使わないんじゃなくて、使っても弱いから使えないの」
 ……………………は?
 “手加減(つかわない)”じゃなくて“本気(つかえない)”?
 再び目を丸くするあたしに苦笑を濃くしてケイトはスプーンをテーブルに置き、首を傾げながら言葉を次ぐ。
「だってそうでしょ? わたしは下手な魔法を使うより“斬った方が速い”し、三流以下の魔導より“能力を使った方が強い”」
 それはケイトの資質と保有希少技能――『“根源改竄(イデア・ハック)”』のチカラを知らない者にはわからないだろう理論。
「……なるほどな」
 そしてそれをあたしは知っている。知ってるが故に納得する。納得出来るからこそ苦笑する。
 ……この馬鹿。
 本当の本当に、今さら。それこそ出会ってから百年という月日を跨いでようやく、あたしはケイトという男の本質に気付く。
「じゃあ、おめーなら“衛宮士郎(あれ)”に勝てんだな?」

 もし、ケイトがその能力をも封じられていたとしても――

「う〜ん……、どうかな〜?」

 ――あたしはもう二度と、コイツには勝てないだろう。

「たぶん、百回やれば三回ぐらいは勝てるんじゃない?」
 そう言って頭をかくコイツは、たぶん誰よりも嘘つきで、
 そして、
「まあ、それでもヴィータおねえちゃんは何も心配する必要はないよ」
 そう言って笑うコイツは、
 きっと、誰よりも――
「やっぱ、馬鹿だな……」
 あたしは苦笑を濃くして、再びカレーへと口を付けた――。

 ◇◆◇◆◇

 桜通りを包んだ閃光が闇へと戻る。
 私は障壁を張るために上げていた腕を下ろし、遠く彼方に居るだろう男の方を睨んだ。
「……茶々丸」
『はい、マスター』
 呟きに念話で返答する従者。
 視線を障壁を張った手に持って行き、
「少しの間だけで良い。奴の動きを全力で止めろ」
『了解』
 血の滴る指先を口元に持って行き、舐める。
 ……やってくれたな、衛宮士郎。
 頬を一筋、汗が伝う。
 先ほどの一撃。タイミングと魔力から見て衛宮士郎に間違いない。そして、奴だからこそ戦慄する。
 あの男の魔力量は小娘はおろか並の魔法使い以下だ。それなのに、先ほどの一撃は私や小娘のような、膨大な魔力量を誇る魔法使いの行使する上級魔法に匹敵する威力だった。
 チカラを封印された私がそれを防ぎ切れたのは単に奴が“外した”からだ。
 ……ふざけてくれる。
 おそらく直撃させれば私がひとたまりもなかったろうことを解ったのだろう。衛宮士郎は私に直接攻撃するのではなく余波をぶつけるという攻撃をしたのだ。
 まったく……。どういう理屈かは知らないが、衛宮士郎は自身の魔力量を無視した魔法の行使が可能らしい。だから迎撃に向かわせた茶々丸は、おそらく勝てないだろう。
 ……だがまぁ、
 振り向く。
 神楽坂明日奈をかばうように立ちふさがる近衛このかへと向き直る。
「…………」
 震えを必死に抑え、恐怖をかみ殺して友人の盾となる少女を、見る。
「そこを退け、近衛このか」
「い、嫌や!」
 睨む。
 『ヒッ!』と声を詰まらせ、近衛このかが尻餅をつく。
 ……当然だ。殺意を込めていなかったとはいえ私が睨んだのだ。常人ならば身を竦ませるのが普通――だと言うのに、その背後で倒れ伏す神楽坂明日奈は違った。
 恐怖は確かにあったのだろう。しかし奴はそれを振り切って私に挑んだ。
 神楽坂明日奈とて私との実力差が判らぬほどに馬鹿ではない。にも関わらず奴は決して諦めず、私に挑み続けた。
「……邪魔だ」
「キャッ!?」
 尻餅をついて尚、私の前に立ちふさがろうとする近衛このかを魔力の糸で退かし、人形のように近くの桜の木まで動かして、括りつける。
「え!? あっ、う、動けへん……!」
 突然の事態に顔面を蒼白にし、ジタバタと暴れる近衛このか。それに冷ややかな視線と笑みを向けて、
「貴様は次だ。神楽坂明日奈が私に血を吸われるのをそこで大人しく見ているがいい」
 ……まぁ神楽坂明日奈の血を飲み終える頃には衛宮士郎が邪魔をしに来るだろうがな。
「そ、そんなん駄目や!! だ、誰かアスナを助けて!」
 私が神楽坂明日奈へと近付くに連れ騒ぎ出す近衛このか。正直、煩いが我慢する。
 ククク……、これはささやかな仕返しだよ、衛宮士郎。
「センセ! ネギちゃん! 助けて!! 誰でもええからアスナを助けてーな!」
 泣き叫ぶように助けを求める近衛このか。
 そうだ傷付け。泣き喚け。絶望しろ。それはすべからく奴を傷付ける。
 気を失い、倒れ伏す神楽坂明日奈を起こし、首筋をさらす。
 わざとゆっくり、大仰に。近衛このかに見せるために。
「嫌や! エヴァちゃん止めて! だ、誰か!! アスナを助けて!!」
 私はそして神楽坂明日奈の首筋に口を――
「助けて! せっっっちゃぁああああ――――っん!!」
 その絶叫に、

「――……はい、お嬢様」

 返事は、
 思いの外静かに、そして近くで。
「――――ッ!」
 即座に神楽坂明日奈から距離を取る。――と同時、私が先ほどまでいた場所を野太刀が滑る!
「チッ! そうか、貴様は――」
 それは、桜舞う月下で、
 野太刀を片手に下げた、
「せっちゃん!!」
 神鳴流の剣士――桜咲 刹那が、私の前に立ちふさがった。
 極度の恐怖と安堵のためか涙を流し歓喜する近衛このか。彼女を見て薄く微笑むと桜咲刹那は私へと視線を戻し――瞬動。
「神鳴流奥義……」
 背後の殺気に舌打ち一つ、
「“氷楯(レフレクシオー)”!」
 魔法薬を媒体に障壁を張り、
「斬岩剣!!」
 『ガキィン!』と私が張った障壁を容易く切って見せる桜咲刹那。
 チッ! 近衛詠春には届かないまでもなかなか鋭い太刀筋じゃないか!
 後退する私を尚斬りつける桜咲刹那。その太刀を体術だけで避け、時折魔力の糸を走らせて牽制。
 糸は桜咲刹那を拘束しようと彼女にまとわりつくが、即座に切り伏せられてしまう。
「リク・ラク、ラ・ラック、ライラック!!」
 稼げた時間は数瞬。その間に私は魔法薬を触媒に呪文を唱える。
「“氷の精霊17頭(セプテンデキム・スピリテゥス・グラキアーレス)”――」
「神鳴流奥義……」
 くっ! 間に合わんか!!
「“集い来たりて敵を切り裂け(コエウンテース・イニミクム・コンキダント)”――」
 っ! マズイ! 半瞬足りん! このままでは――

「ちょっ、な、何してるんですかーっ!?」

「――――ッ!?」
 良し! 桜咲刹那の注意が逸れた!
「――“『魔法の射手・連弾・氷の17矢(サギタ・マギカ・セリエス・グラキアーリス)』”!」
 桜咲刹那へと放つ氷の弾丸――その数十七!
「っ!」
 しかしそのことごとくを切って捨てる桜咲刹那。だがまぁそれは予想通り。私はその間に一旦、距離を取る。
 と、それにあわせて桜咲刹那も後退し、近衛このかの近くへと移動。
 それに慌てたのが声をかけて来た小娘だ。……まあ危うく自分のせいで“桜咲刹那(おしえご)”が傷付くところだったのだから仕方ない。
 だからだろう。小娘は――サウザンドマスターの娘、ネギ・スプリングフィールドは私と桜咲刹那の間に立ち、目を見開いた。
「えっ……! き、君はウチのクラスの……! エ……エヴァンジェリンさん!?」
 ……私に気付いてなかったのか? ああ、そう言えば普段とは違う格好だからな。遠目からでは誰だかわからなかったのか。
 私は内心とは別に、小娘の台詞に不敵に笑って返した。
「フフ……、新学期に入ったことだし改めて歓迎のご挨拶と行こうか、先生」
 チラリと見れば桜咲刹那が近衛このかを解放し――抱きつかれ、狼狽していた。て、オイ……先ほどまで私を手こずらせていた神鳴流剣士が何顔を赤らめてあたふたしている……。
 と、私の視線を追ってか、小娘が後ろを向き、
「ア、アスナさんっ!?」
 叫んだ。
 そして小娘は一目散に神楽坂明日奈へと走って行く。――て、オイ!? いきなり敵に背を向けるな!
 小娘の向かう先。桜の大樹に背をもたれさせて眠る神楽坂明日菜は、誰の目にも明らかほどに傷つき、疲弊していた。
 全身を泥だらけにし、所々で痣を作り、擦り傷を作り、額を切ったのか血を流している神楽坂。小娘はそんな少女を抱き起こし、その状態に息を飲んでいた。
 …………言い訳をするようでアレだが、私は何もそこまでする気は無かった。それこそ魔力の糸で絡め取るなり幻術をかけるなりするだけのつもりだったのだ。
 しかし出来なかった。何故か神楽坂明日奈には魔法が効かなかったから……。
 だから、投げた。投げて、吹き飛ばし、身を竦ませてやろうと思った。
 だというのに神楽坂明日奈は決して倒れず、決して諦めず私に挑み続けた。
 だから――……いや、やはりこれは言い訳だな。
「――少しばかり来るのが遅かったな、先生」
 嘲りの笑みを浮かべる。冷たく、愉悦の笑みを浮かべて小娘を見る。
 ……私は悪い魔法使いだよ、先生。さあ、どうする?
 私の言葉にゆっくりと小娘が振り向く。
 小娘の雰囲気が変わった。一目見て、小娘の様子が普通では無いと気付いた。
 と、同時に――瞬動!
 小娘が一瞬にして私に肉迫する!
「――――ッ!?」
「――ラ・スキル、マ・スキル、マギスキル!!」
 く! 荒削りながらも瞬動術まで使うのかコイツは……!?
 私の眼前で全ての魔力を右手に集める小娘。それをギョッとして見る。
「な――っ!? 」
「“来れ雷精、風の精(ウェニアント・スピリトゥス・エアリアーレス・フルグリエンテース)”!!」
 それは常人が見てもわかるほどに異常に膨れ上がって余波渦巻く魔法の呪文。
 顔色を驚愕から一点、焦りへと変え、私は懐から無数のフラスコと試験管を取り出し、空へと飛び上がった。
「リク・ラク、ラ・ラック、ライラック! “来れ氷精、闇の精(ウェニアント・スピリトゥス・グラキアーレス・オブスクーランテース)”!!」
 今持っている全ての魔法薬を使用し、小娘の呪文に対抗する。
 誰がどう見ても小娘は異常だった。
 チィ! この場、この状況で“上級魔法(それ)”を使うのか!?
 チラリと下を見る。木にもたれていた神楽坂明日奈を抱く近衛このかとそれを守るように彼女の前に立つ桜咲刹那を見た。
 連中は手の平に魔力を貯めて対峙する魔法使い二人を呆然と眺めていた。
『――何をしている!? とっととこの場から離れろ小娘!!』
 苦い顔で近衛このかと桜咲刹那に念話を送る。
「“雷を纏いて吹けよ南洋の嵐(クム・フルグラティオーニ・フレッド・テンペスタース・アウストリーナ)”――」
「“闇を従え吹けよ常夜の氷雪(クム・オブスクラティオーニ・フレッド・テンペスタース)”――」
 バチバチと、紫電を散らし、
 パキピキと、空気を凍てつかせ、
『死にたくなければとっとと消えろ!!』
 幼き少女は祝詞を紡ぎ、
 黒衣の吸血鬼は呪歌を謳い、
「――『“雷の暴風(アウストリーナヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)”』!!」
 走る、螺旋描く雷の風槍!
「――『“闇の吹雪(ニウァーリスニウィス・テンペスタース・オブスクランス)”』」
 駆ける、螺旋描く闇の氷槍!
 お互いを否定するため、鏡写しの魔導が噛み合う。
 と、その余波が呆然と事の成り行きを見守っていた近衛このかに迫り、
「――お嬢様、こちらへ! 早く!!」
 桜咲刹那がそんな彼女を抱き上げ、

 ――飛んだ。
 桜の花びら舞う夜天に、白い羽根が混ざった。

「え……? せっちゃん!? あ、アスナは!?」
「心配いりません。今は離脱を優先します!」
 ……ああ、心配はいらんさ近衛このか。
 チラリと下を見る。その視界にワインレッドの男を見つけ、薄く笑う。
 二人の魔法の拮抗が破れる。
 小娘の魔法が私の魔法を飲み込み、
 そして、

 ――視界が閃光に飲まれて、消えた。






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