嗣希創箱の消閑

小説、落書き、二次創作、etc…。 あなたの暇潰しのお供にどうですか♪ 

《THE SECOND LIFE》4

※ 前書き

 この作品は『魔法少女リリカルなのは』、及び『Fate/stay night』という作品のキャラクターを『魔法先生ネギま!』という作品に登場させるという形のクロス小説です。途中、この三作品をご存知ない方には非常に解り難い表現が含まれていますので、それを承知の上でご覧下さい。
 また、作中に著者による独自解釈、設定、世界観、オリジナルキャラなどが描かれていますが、こちらも事前にご了承の上でご覧になって下さい。








 《THE SECOND LIFE》




 女子寮の一室。あたしとケイトの二人がこの世界で借りた部屋の中。
「――吸血鬼?」
 身体測定の授業? で柿崎から聞いた噂話をそのままケイトにしてみた。
「なにそれ? と言うより、それってエヴァンジェリンのことじゃないの?」
 さっさと制服を脱ぎ散らかして部屋着の赤いワンピースへと着替えたケイトが床に散らばった自分の制服をハンガーにかけつつ、あたしの言葉に疑問符で返した。
「それとも他にいるの?」
「いや、あたしもそれを確認したくて聞いたんだ」
 ケイトの言葉に部屋の中央に敷かれたコタツに入りつつ返す。……なんだ、ケイトも知らねーのか。
 柿崎たちクラスの連中には「いるわけねーだろ」と返しはしたが、実際あたしらは吸血鬼の存在を認知している。知り合いに近しい奴がいるってのもだが、何よりこの世界の、よりにもよって同じクラスにいるのだから認めないわけがない。
「ま、あたしらには関係ねーのか」
 コタツのぬくぬく感に表情を緩ませつつ、あたし。なんかクラスの奴が吸血鬼にあって血を吸われたとかって言ってたが、まあ管理局の人間には関係ねー。目の前で襲われたんなら助けもするが、いちいち余所の世界の事件に首を突っ込む必要はねーし、そもそもあんま干渉すんなってのが決まりだしな。
 ……それにあたしにはもう魔法の力はほとんど残ってねーし。
 コタツの上に顎を乗せて瞳を細める。まだみんなが現役だった頃を懐かしく思い、そしてそれと同時に連中がいなくなってからの虚無感が蘇る。
 ……本当に、あの頃の奴ん中でまだ生きてんのはあたしみたいに不老長寿の連中だけだな。
 百年……それだけたてば人は死ぬ。はやてもなのはもフェイトもみんな……。教官だった頃の教え子も、局で一緒の部隊になった連中も……。その子供も……。
 時の流れってのはみんなに平等で、そして無慈悲で……。その流れに置いてきぼりを食らわされたあたしらは、たくさんの別れを経験して心を摩耗させてきた。
「……わりぃ。ケイト、あたしは――」
 コタツから顔を上げ、こちらに不思議そうな顔を向けるケイトに思わず謝罪を口にしかけ、

 ――……すまんな。結局、お前だけを残すことになってしまった。

 『ハッ』と我に返り、顔を俯かせる。
 ……なに考えてんだ、あたしは。内心で自嘲の笑みを刻み、ケイトには見えないようコタツの中で拳を握り締めた。……今さら、先に逝くことを謝るなんてどうかしてる。そんなのはケイト自身知っていて、それでもあたしのためにコイツは今、あたしと供に居るんだ。
「――不安? それとも心配?」
 そんなあたしの向かいに座り、同じようにコタツに入りつつケイト。いつもの演技臭い微笑ではない、奴特有の枯れた笑みを口元に刻んで静かに問う。
「…………いや、わりぃ。今さら、だな」
 それに視線を逸らして返す。……ああ、そうさ。今さら、だ。
 知人の死を見送るのなんて、今さら過ぎて反吐が出る。親しい人間の喪失を悼むのなんて当たり前過ぎて、今さら謝罪されたって意味がねー。
 誰が何と言おうと関係ねー。死に別れってのは悲しいんだ。それが当然なんだから今さら――
「――気にするな」
 そんなあたしの物思いを遮る、声。
 呆然とした顔をケイトに向ける。
「……たぶん、結局、生き残るのは“俺”みたいなロストロギア崩れの連中だけだ」
 ケイトは枯れた苦笑を浮かべて言う。
「今は『アギト』や『リィン』も辛うじて稼働してるが……たぶん、あと百年もすれば停止する。『ヴィジャヤ』はそれなりに長生きするだろうが……それでもいずれは別れの時がくる」
 ユニゾンデバイスや竜族なんかとは寿命の桁が違う。ケイトたち生きるロストロギアとでは根本的に流れる時間に対する耐久力が違う。
 気が遠くなるような月日を跨いで尚、彼らは生きる。その中でたくさんの出会いと別れを経験し、たくさんの喜びや悲しみを感じて生き続ける。
「だけど、俺たちはまた、出会いと別れを繰り返す」
 瞳を細めて、どこまでも空虚で乾いた笑みを浮かべてケイト。それを眺めながら、あたしは思う。……ああ、もしかしたら“初代リィン(あいつ)”もケイトみたいな思いをしていたんかな、と。
 それは悲しいことか。
 それは幸せなことか。
 百年ちょっとしか生きてねーあたしにはわからねえ。あたしにはコイツらの苦しみも痛みもわかりゃしねえ。
「ケイト……あたしは――」
 ……わかんねえ。わかんねーけど、あたしはケイトをそんな風に笑わせることしか出来ないのが嫌だった。
「――気にするな」
 ……あ。
 ケイトはあたしの思いを知ってか知らずか、また乾いた苦笑を浮かべてあたしの言葉を遮った。
「ヴィータ。君は俺にたくさんの思い出をくれた。だから気にせず、最後の最後まで笑ってろ」
 言って、『くしゃり』とあたしの頭を乱暴に撫でるケイト。……ふん。仕方ねー、今だけは大人しく撫でられてやらあ。
 あたしはそっぽを向く。……つーか、なんでコイツらはことあるごとにあたしの頭撫でんだ? あたしはガキじゃねーぞ?
「それとね、ヴィータおねえちゃん」
 …………って、おい!
 あたしは突然声音を『八神ケイト』に戻して、雰囲気その他まとめて素のそれとは違う少女然としたものになるケイトを思いっきり睨み、その手を乱暴に払う。
「きゃっ!?」
「『きゃっ』じゃねー!! てめぇ……何いきなり猫被ってんだ?」
 言いつつ『ぐいー』とケイトの奴の頬を引っ張る。この! あたしがせっかくマジで話してたんにコイツ! 気恥ずかしさも手伝って、あたしはケイトの、自分と同じ顔の頬を力の限り左右に引っ張った。
「いっ、いひゃいれふ、ほねえひゃん……!」
「『おねえちゃん』じゃねー! つか、そう言や、おめえ、なんであたしの姿してんだよ!?」
 『ぐいーぐいー』と伸ばしつつ、怪訝な顔で問う。そう言やあ、今さらだけどケイトの奴からはその辺の説明が無かったな。そもそも、なんで管理外世界の学校にあたしやケイトみたいな異端な局員を転入させたんかがわかんねー。
「せ、せつめー、しまひゅから……! 手〜……!」
 お〜モチモチしてて以外と延びんなあ。
「手〜……!」
 ――ハッ!!
「て――ひゃあ!?」
 最後に『びよん、バチン!』と伸ばして、放す。お、面白くってついハマっちまったぜ。
 あたしは少し赤くなった頬をさすりつつ涙目を向けて来るケイトを内心の思いを隠しつつ睨み、「さ、さっさと説明しろ!」と怒鳴りつける。
「うう……。わ、わかったよう……」
 どことなく不機嫌な様子で唇を突き出しつつケイト。くっ……! 今さらだが、なまじ自分と同じ顔の奴があたしじゃ絶対しねーような仕草や表情をしてんのを見んのは、何か無性に気持ちわりぃな。
「……じゃあ、まずはわたしがこの姿になってる理由からね」
 顔をしかめるあたしに何を感じてか、ケイトは自分自身を示しながら静かに語り出す。
「まあ理由って呼べるほど大した理由は無いんだけど……。強いて言えば“楽だから”かな」
 …………ああ?
「まず、第一の目的がヴィータを学院に転入させることで、それ以外はさしたる理由は無いの」
 ……………………はあ?
「『管理局がどうの〜』とか『次元震が〜』とか、それらは後付け。簡単に言っちゃえば、“局(した)”の連中に対する言い訳だね」
 …………………………………………なんだって?
 ケイトのあんまりにもあんまりな説明にあたしは呆然とした顔を向けて口をあんぐり。ちょ、ちょっと待て! な、なんだよ、第一目的が『あたしの転入』って! それは手段であって目的じゃねーだろ普通!?
 そんなあたしのことなどさして気にせず、ケイトはあくまでもしれっとしたまま説明を続ける。
「現役は退いてると言っても、ヴィータを単身異世界の学校に転入させるにはいろいろと面倒な理由が必要で、それがないと“局(した)”の連中や“教会(がいや)”の連中がうるさいの。それを無理矢理黙らせるにはわたしが出て行くのが一番楽なんだけど……そういう個人的な理由だけでわたしが前面に出るのを今度は“議会(まわり)”がうるさく言うもんだから大変」
 そう言って「やれやれ」と頭を左右に振りつつため息を吐くケイトを、あたしは唖然として眺めた。
 こ、この馬鹿は何を言ってんだ? 個人的な理由だとうるさく言われる? ……何を当たり前なことを!
「それでわたしがこの姿になった理由に話を戻すけど、……まあつまりは“議会(まわり)”の連中が出した『前面に出るのなら一切、その姿を他人の目に晒すな』ってのと『魔力の一切を封印』ていう条件を呑んだ結果ね」
 あたしの呆れ混じりの視線を受けて尚、ケイトはさらりととんでもないことを告げる。
「ちょ、ちょっと待て……!」
 今までの話を聞いて混乱する頭をどうにか整理しようと、ケイトの奴に手のひら向けて制止を促す。
 他人に姿を晒すな? 魔力封印?
 ……じゃあ何か? ケイトの奴は“希少技能(レア・スキル)”意外のチカラを一切使えない状態で、あたしみたいな壊れかけの魔導師くずれと一緒に異世界まで次元震のことを調べに来たってのか?
 ――ふざけんなよコラ!
「てめ! もしかしてあたしの姿ってのは――!!」
 誰かに変身しなければいけなかったから適当に――そう思って怒鳴るあたしをケイトは、
「当然、わたしがヴィータをフォローし易いのとクラスメートに怪しまれないようにだよ」
 やんわりと遮り、微笑。
「ほら、『双子』ってことにすればわたしがいっつもヴィータと一緒でも周りは怪しまないし、戸籍その他の設定もフォローし易いからね」
 その台詞、その表情に絶句する。
 い、意味がわかんねー……。この馬鹿が何を考えてんだか、ぜんぜんわかんねー。
 あたしのフォローがし易い? ……そんなんはどうでもいい! そもそも何であたしを連れて異世界まで来た? 何であたしを学校に転入させようとなんてする?
 ……意味がわかんねー。いや、わかりたくねー……!
 あたしは視線をケイトから外す。畜生、この馬鹿……! もしかして“アレ”か? あの時の“アレ”が理由か!?
「……おめー、馬鹿だろ?」
 ケイトは馬鹿だ。大馬鹿だ。
 あたしを学校に転入させるのが目的? ……なんでだよ。なんで覚えてんだよ、畜生。

 ――……なあ、ケイト。学校って楽しいか?

 “アレ”はまだ、はやてもなのはもフェイトもみんな……みんなが居たときにした会話じゃんか。すげー昔の会話じゃねーか……!

 ――……そっか。じゃああたしも、一度くれーは行きたいな。

 なんで今さらなんだよ……! なんで覚えてんだよ、コンチクショー……!
 あたしは内心で渦巻く激情をこらえて思い切りケイトを睨む。この馬鹿野郎が! ふざけんな! おめーはそれでも議会の一人か!? そんな風に視線に罵倒を込め、震えて声の出ない口の代わりとする。
 そして、
「……馬鹿でも、ほら、」
 そんなあたしに、ケイトは笑って言った。
「俺は絶対――約束は守る」

 ――……じゃあ今度、一緒に転入しない? 俺は中学中退だから、今度こそ卒業したいし。

 ――……はあ? おめー馬鹿か? あたしもおめーも局の仕事が忙しくって無理だろ?

 ――……じゃあ、仕事で♪

 ――……って、また職権乱用か!? いい加減にちゃんと仕事をしろ! つーかおめーみたいな上司のせいであたしらは忙しいんだよ!!

 ――……ぅをっ!? じゃっ、じゃあヴィータが忙しく無い時にでも――って、ちょっ!? 艦内で『ギガント』ぉお!?

「…………馬鹿野郎」
 あたしは視線をそっぽに向ける。……たく。相変わらずの職権乱用のダメ上司が。
 そうは思うが、言葉は出せそうにない。……畜生。
 そんなあたしの頭をケイトは優しく撫でる。
 いつまでも――。

 ◇◆◇◆◇

 ――月満ちる夜に、桜並木に吸血鬼現れ、少女の生き血を啜る。

「……懲りないと言うか、なんと言うか」
 適当に高い建物の屋根の上に立ち、俺は遥か遠くに見える桜通りを睨む。
 ――長瀬の電話は近衛からの伝言だった。
『このか殿から伝言を預かっているでござるよ。衛宮殿を見つけたら桜通りに来て欲しい、だそうでござる』
 遠くに見える桜通りには今、神楽坂とエヴァンジェリン、近衛の三人がいた。
 一目見てだいたいの事情を察する。神楽坂とエヴァンジェリンが喧嘩している理由も、近衛が俺を呼んだわけもだいたい。
「……神楽坂」
 一方的だった。一方的に神楽坂がエヴァンジェリンに投げられ、打たれ、吹き飛ばされていた。
 相手が悪い。
 格が違う。
 そんなことは神楽坂自身もわかっているだろう。
 だけど彼女は退かない。諦めない。
 傷だらけの痣だらけになりながら、神楽坂は決して逃げたりしない。
 投げられても起きる。吹き飛ばされても立ち上がる。
 だから――見ているしかない。
 俺や、少し離れた位置に立っている近衛に彼女たちの間に入る資格はない。
 だから――後は任せろ。
「――……“投影(トレース)”」
 神楽坂が桜の木に背を打ちつけ、くずおれる。
 エヴァンジェリンが構えを解き、近衛が神楽坂へと駆け出す。
 それらを見届け、瞳を閉ざす。
「――“開始(オン)”」
 イメージを研ぎ澄まし、
 魔力回路に魔力を通し、
 幻想を投影する。
「よく頑張ったな、神楽坂」
 手の中に生み出された弓。
 自身の幻想を世界に投影する――これが、衛宮士郎の魔術。
 無から生み出された、イメージが実体化した弓。それを桜通りに向けて構える。
「後は任せて、今は休め」
 矢をつがえる。
 捻れた刃の“剣(や)”を。
「――“我が骨子は捻れ狂う(I am the bone of my sword)”」
 弦を引き絞り、空気を引き絞り。“剣(や)”に魔力を込めて、衛宮士郎はエヴァンジェリンを狙う。
「――“偽・螺旋剣(カラドボルグ)”」
 呟き放つは螺旋の刃の模造刀。
 偽なれど真との差など皆無。空気を穿ち、翔る剣は一瞬にしてエヴァンジェリンとの距離を詰め――爆発、四散。
 遠く――桜通りに立つエヴァンジェリンを閃光が包んだ。
「……警告は、したな?」
 瞳を閉じ、肩を竦めて呟き、
「――はい」
 それに背後に立つ女生徒、『絡繰 茶々丸』は抑揚の無い平坦な声で応えた。
「申し訳ありません衛宮先生。マスターの命令ですので」
「……そうか」
 瞳を開け、振り返る。
 地上二十メートルほどの屋根の上で、俺と絡繰は向かい合い、そして――瞬時に肉迫する!
 残像すら残す俊足で眼前に迫る絡繰。その勢いのまま、女子中学生とは思えないプロの戦士もかくやという速度で放たれる彼女の拳。
 それをすんでの所で頭を左に傾けてかわし、バックジャンプ。屋根から飛び降りた。
「――“投影、開始(トレース・オン)”」
 脳裏に浮かぶ撃鉄を押し、魔術回路に魔力を流す。
 これが魔法使いでは無い異端の魔術師たる衛宮士郎の戦い方。
 戦うべくは己の内で。想像を創造せし異色の魔導。
 創造の理念を鑑定し、
 基本となる骨子を想定し、
 構成された材質を複製し、
 制作に及ぶ技術を模倣し、
 成長に至る経験に共感し、
 蓄積された年月を再現し、
 あらゆる工程を凌駕し尽くし――
「――っ!?」
 俺を追い、屋根から飛び降りた絡繰は、彼女にしては珍しく驚愕に目を見開いていた。
 それを着地しながら彼女を見上げていた俺はニヤリと笑って見せる。
「――“投影、完了(トレース・オフ)”」
 俺の手に携えられるは白黒の夫婦剣――干将、並びに莫耶。
 こちらへ追撃のためか真っ直ぐに降下して来た絡繰に二刀を持って迎撃。空中ならば身動きが出来ない――それを予測しての行動だったが、

 ――絡繰は空中でいきなり制止した。

「……なるほど」
 そう言えば絡繰はロボットだったな。
 背中や足からバーニアを生やし、制止状態から即座に距離を置いて地に降りる彼女に苦笑を向ける。
「失念していました。衛宮先生は武具を自在に創世出来る魔法使いでした」
 二十メートルの距離を挟み絡繰が構え直す。
 俺も同様に構えながら、彼女の言葉に対して口を開く。
「いいや、絡繰。俺は魔法使いじゃないぞ」
「?」
 ……そう、俺は魔法使いじゃあない。
 そもそも俺は“コチラの世界”にいる魔法使い達とは決定的に異なる手順と手段を用いて魔導を行使している。
 だから、俺は――

「――魔術使い、だ」

 瞬動。
 絡繰の背後へと即座に移動。
 彼女の背に干将莫耶を振り下ろし、
 絡繰は背と足のバーニアを使って即座に反転。二刀を避け様、腕をコチラに向ける。
 ! 絡繰の腕が――伸びた!?
 驚愕しながら、迫り来る拳を干将で払い、莫耶を絡繰に向けて突き出す。
 彼女はそれを、俺の腕を掴んで引き、突きの勢いをそのままに方向を変えるという形でさばく。そしてそのまま、放った拳がワイヤーで戻る前に俺との距離を一歩詰め――肘打ち。
 干将の刃を盾にして防ぐも、その衝撃に耐えられなくなってか『バリン!!』と干将が砕けた。
「「――――」」
 両者、即座にその場を離脱。またも二十の距離を挟んで対峙する。
 ……正直、驚いたな。まさかここまで苦労するとは思わなかった。
 砕けた干将を捨てつつ苦笑。
「……先に確認だが絡繰。お前はどこを破壊されたら再起不能になる?」
 問いつつ、ワインレッドのスーツの内へと開いた手を入れる。
「そうですね。おそらく人間と同じように頭部、そして心臓部を破損するか、首を切断され思考回路と動力源とを分断されてしまえば終わりかと」
 スーツの内、ワイシャツの内。左腕に巻かれた『それ』に触れる。
「そうか。なら、悪いがそれ以外の箇所を破壊させてもらう」
 苦笑を濃くする。まさかこんな所で奥の手を披露するとは思わなかった。
「お気になさらずに、衛宮先生」
「絡繰……その『先生』ってのは止めてくれ」
 ワイシャツの内の、腕に巻かれた『それ』――“聖骸布”に触れる。
 ……さて、覚悟を決めよう。
 ここで時間を食ってしまっては神楽坂や近衛が危ない。だから一瞬で絡繰には行動不能になってもらわなければならない。
「俺は先生って柄じゃない。だから名前か、他の生徒みたいに『ヘルパー』とでも呼んでくれ」
 だから――“聖骸布(ふういん)”を少しだけ緩める。同時、
「もしくは、そうだな…」
 左腕から流れて来る魔力。
 五年前なら意識を刈り取っていただろうそれも、今の俺には大した影響を与えられない。
 強くなった、というより“近付いた”という方が正しい。
 忌々しい己の末路に。俺の先を行った、道を間違えた衛宮士郎に。
 近付いた。強さを求め、何度も何度も奴の力を解放して来たがために染められた。
 だから、そう――
「絡繰。なんだったら俺のことは、」
 “奴”の力を借りねば何も成せない未熟な俺。
 だから名前なんて要らない。だから呼称は配役で良い。
 だから絡繰。俺のことはこう呼んでくれ。
「“アーチャー”、とでも呼んでくれ」
 いつかのアイツのように不適に笑って俺は言った――。





次話/前話

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寒いですね、ほんと……

 自転車で最寄の本屋に行くのにもマフラーと手袋がかかせなくなりつつある今日この頃。こんばんは、嗣希創箱です。

 《ゼロの使い魔〜雷槍の騎士〜》の最新話がなかなか書けず、ヴィヴィオの話は資料の関係でまだ本格的には着手できそうになかったので、昔書いた作品をちょこちょこ修正して掲載することにしましたが、いかがでしょう? 三つの作品をクロスさせているこの《THE SECOND LIFE》は一応、ヒロインはヴィータ……の予定ですが、もしかしたら性別反転魔法先生やアーチャー未満の彼なんかに主人公の座を脅かされるやも知れません。まあ流れによって、ですが。とりあえず今週は少し忙しいので《ゼロの使い魔〜雷槍の騎士〜》より《THE SECOND LIFE》の方が更新速度は上かも知れません。何せ、少し修正するだけで載せられるので……。

 続きまして、《THE SECOND LIFE》に関しての注釈を少し。作中に登場する『ネギま!』キャラは一部、嗣希創箱の独自設定を多分に含んだ半オリキャラ扱いです。また『Fate』、並びに『なのは』キャラに関しましては、原作設定を崩さないよう出来る限り努力する所存ですので何か気になる点がございましたらお気軽にコメント下さい。

 基本的に《ゼロの使い魔〜雷槍の騎士〜》>《THE SECOND LIFE》で書き進め、資料の出揃い方次第では二つの間にヴィヴィオの話か《ゼロの使い魔〜雷槍の騎士〜》第一章の改訂版が来る形になるかと思います。

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《THE SECOND LIFE》3

※ 前書き

 この作品は『魔法少女リリカルなのは』、及び『Fate/stay night』という作品のキャラクターを『魔法先生ネギま!』という作品に登場させるという形のクロス小説です。途中、この三作品をご存知ない方には非常に解り難い表現が含まれていますので、それを承知の上でご覧下さい。
 また、作中に著者による独自解釈、設定、世界観、オリジナルキャラなどが描かれていますが、こちらも事前にご了承の上でご覧になって下さい。








 《THE SECOND LIFE》




 身体測定というのは要するに身長やら体重、座高に胸囲といった読んで字のごとく身体のいたるところを測定する授業だった。……いや、授業じゃないのか?
 しっかし転入初日に他人に半裸を晒すことになるとは思わなかったぜ。しかもムカつくことにケイトの奴は今、あたしの姿をしてっから二倍さらし者って感じだ。
「うわぁ……。あんた、それ、どしたの?」
 そんななか、勇気があるというか馬鹿なだけなのか、一人の女生徒があたしの身体を見て声をかけてきた。
「ああ……?」
 それに怪訝な顔で首を傾げて返す。目の前の女生徒――確か名前は神楽坂明日奈だったか? の言う『それ』が何のことを指してんのかわかんなかったが、彼女の視線を追ってみて気付いた。
「ああ、これな。ま、気にすんな」
 正確には思い出したといった感じか。神楽坂の視線の先――あたしの背中に刻まれた大小さまざま縦横無尽の傷跡を見てとり、軽く肩をすくめて返す。
 そー言やあ、あたしの自己修復プログラムが完全停止してっからも結構怪我してたな。あたしは苦笑し、今さらながらに身体中に刻まれた傷跡を眺めて回し、妙に感慨深いものを感じた。……なんだかなぁ。身体が老化しねーもんだから、つい時間の奴に置き去りにされてるような気がしてたんだが、やっぱしっかりと時間てのは流れてたんだな。
 ……結局、あたしだけんなっちまったんだよな。
 瞳を細め、柄にもなく感傷に浸る。
「……ごめん、ヴィータちゃん。もしかして私、無神経なこと訊いた?」
 そんなあたしを見て何を勘違いしたのか、神楽坂が申し訳なさそうな顔をして言った。
「ああ? 何言ってんだ、おめー。あたしは別に――」
 おめーの事なんかどうとも思ってねーよ。そう言おうとしたのを、
「おねえちゃんおねえちゃん! わたし、身長が三ミリも伸びてたよ! おねえちゃんは!?」
 なにやら興奮覚めやらぬ様子であたしの腕に抱き付きまくし立てるケイトに遮られて言葉をやめる。
 ……つか、何言ってんだコイツ?
 あたしは思いっきり怪訝な顔をしてケイトを見た。身長が伸びたぁ? いったい、いつの自分と比べてだ? つーか、もとの姿ん時の方がデカいんだから、むしろ縮んでんじゃねえ? それ以前にあたしが成長しねーのぐらい知って――あ!
 そこまで考えてあたしはようやくケイトの目的に気付いた。
 周りを少し見回せばわかる。あたしの身体に刻まれた傷跡やケイトの左腕のことで結構な人数の女生徒がこちらをチラチラと窺っていた。
「あ、ああ。おめーと同じだよ」
 ……目立つのはよくねー。ただでさえこのなりに、ケイトにいたっちゃ“隻腕”だ。これ以上目立つのも、いちいち訊かれんのも面倒くせー。
「そうなの? な〜んだあ……せっかく今年はわたしが勝ったと思ったのに、また一緒か〜」
 あたしの多少引きつってるだろう表情とは打って変わり、ケイトはどこまでも自然な感じで嘘を並べる。……ちっ。そう言やあ昔、フェイトも言ってたな。ケイトは嘘つきだから、ってよ。それに最近は単身での敵地潜入や諜報活動なんかもしてるらしいから嘘は得意ってことかよ。
 あたしは半裸のまま腕を組んでケイトを横目で睨む。つかマジであたしの姿をコピーしてんだな、とケイトの姿態を眺めて内心で感嘆の声を漏らす。
 赤い髪も身長も、身体付きも何もかも。顔はもとより、髪の一本、毛細血管の一つ一つにいたるまで全てがあたしと同じ。一卵性の双子どころかクローン以上にあたしと同一のケイトは、それでいてあたしとは決定的に外見が違う。
「ケイトさん! 次、番ですわよ!」
「は〜い!」
 あたしが全身に傷跡を残しているのに対し、ケイトは白い肢体のまま。あたしのような傷跡は無く、そして――

 左腕が、その根元からバッサリと切り落とされたように存在しない。

 ケイトと出会ってから結構な月日がたったが、その理由をあたしは知らない。初めて会った時からそうだったし、今みたいに別の姿ん時にも絶対に左腕を作んねーのは不思議と言えば不思議だし興味が無いと言えば嘘になるが、そういうことをいちいち詮索しないってのがいつの間にか習慣になってたからな。逆にケイトもあたしらが老化しない理由を訊いて来なかったし、別にあたしはそれでいいと思ってる。
 しかし、
「もう少し後ろに。そう。それで顎を引いて下さい」
「は〜い。お願いします、あやかちゃん」
 たぶん座高を計る椅子? に腰掛けているケイトをそれとなくサポートしようとする雪広を眺め、内心で苦笑。
 普段ケイトは一見して隻腕とは気付かれないよう、見た目だけは本物に見える義手を着けてるが、身体測定ではそれを外した。周りの連中が、じつはケイトが隻腕なのがわかって目を丸くする中、雪広は率先して奴の面倒を見ようとしている。おそらくは先の問答が尾を引いてるんだろうが、それにしたって、普通このぐらいの年代の女ってのはもう少し遠慮がねーってか、ケイトの腕のことを根掘り葉掘り訊くもんだろうに。
 ……そー言やあ、あたしのことも神楽坂以外は訊かなかったな。
 ふと周りを見回して首を傾げた。あたしらが服を脱ぐや傷とか片腕ってのがわかって結構な注目を集めていた気がしたが、今はそうではない。不干渉……ってのとはちょっと違う。十代半ばだろう連中にしては珍しい、相手の訊かれたくなさそうなことを察し、思いやるってことが自然と出来る連中なんだな。
「――……思うよね、ヴィータちゃん」
 ん?
「ああ? 何の話だ?」
 物思いに耽っていたあたしに女生徒の一人が――ああ、確か『柿崎 美砂』だったかな? がいきなり声をかけてきた。
 そして当然あたしは柿崎の話なんて聞いてなかったので『思うよね』と言われても首を傾げるしかない。
「あ、聞いてなかった?」
 そんなあたしに別段気を悪くするでもなく、柿崎はその噂を口にした――。

 ◇◆◇◆◇

 桜の花びら舞う夜道。
 私は立ち止まり、振り返って言った。
「やっぱり気になるから本屋ちゃん送ってくよ」
「あ。アスナ――」
 途中まで一緒に下校していたこのかに手を振り、駆け出す。
 ……思えば、今日に限ってみんな普通じゃなかった。
 ネギは貧血で昨夜運び込まれたまき絵を見て真剣な顔をして黙り込むし、今日に限って帰りが遅くなるとか作り笑顔で言うし。
 身体測定の時にはエヴァンジェリンさんに話しかけられるし。しかも吸血鬼に注意しろとか言われるし。
 二人の転入生は知れば知るほどに不思議な感じだし。ヘルパーもなんか変だったし。
 不安がむくむくと顔をもたげ、胸を締め付ける。
 その不安を取り払うために、私は足を加速させる。
「あ!」
 桜通りを行く本屋ちゃん――もとい、宮崎さんの背を見つけ、私は安堵の笑みを浮かべた。
 ……良かった、無事で。
 そう思い、しかし思った事に対して笑いが込み上げて来た。
 無事も何も、吸血鬼なんていないって言ったのは自分なのに。いつの間にかその存在を認めて一人怖がっていた自分に笑いが止まらない。

 ――それは安堵から来るもの。
 それは照れくささからくるもの。
 だけど悪くはないもの。
 でも、

 ――『ざわっ……』と桜並木が風に靡いて、

「――――っ!?」

 ――空気が、一変した。

 先ほどまでの安堵を嘲笑うかのように、不安と恐怖が舞い戻って来た。

 ――月満ちる夜に、桜並木に吸血鬼現れ、少女の生き血を啜る。

 それはまっ黒なボロ布につつまれた……、

 血まみれの吸血鬼……。

 柿崎から聞いた噂話をデタラメと言った自分が遠くに感じた。
 ザァー……桜並木が夜風に靡く。
 途端、私はまるで金縛りにあったかのように動けなくなる。
 先を歩く宮崎さんとの間にある街頭の一つ。そこの上に立つそれに私の視線は釘付けにされていた。
 黒いボロを纏った――その噂を証明するかの如く漆黒の外套と尖り帽子をかぶった小さな影が見えた。血まみれでは無いが、それが噂の吸血鬼だと瞬時にわかった。
「だ、誰よあんた!?」
 虚勢から来る怒声。
 震える声をかみ殺し、動かぬ体を無理矢理動かし、黒い影を睨む。
 対し、影は口元を『ニィッ……』と笑みに変えて、応える。
「私は警告したな? 神楽坂明日菜」
 それは笑いをかみ殺した少女の声。含まれるのは絶対零度の冷たさと愉悦。
 そして――嘲り。
 影の纏う空気と相まって、それは聞くもの全てに恐怖を与えるようだが、

 ――当の私は違った。

「その声……あんたまさかウチのクラスの――!?」
 驚愕の声と表情での問いに、影は芝居がかった仕草で帽子を取って見せた。
「盗み聞きは良く無いな、神楽坂明日菜」
 満月の光の下で、桜通りの吸血鬼――エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルは『ニィ』と笑って告げた。
「…………」
 私は彼女の台詞を聞き、顔をうつむかせ、肩を震わせた。
「? 恐怖のあまり声も出ないか?」
 愉悦と嘲笑の混じった声で問うエヴァンジェリンさんに、キッと顔を上げて、
「こ、の、お騒がせ者がー!!」
 怒鳴り、駆け出し、
「へ? ――はぶぅっ!?」
 跳び蹴り。
 街頭の上から真横に蹴り飛ばされ、エヴァンジェリンさんが宙を舞う。
 『スタッ!』と入れ替わるように街頭の上に立ち、そんな少女を見て我に返る。
「あっ、ごめ……! つい――」
 クラスメートを怖がってしまった恥辱からつい蹴っ飛ばしてしまったが、よくよく考えてみればそれって全面的に私が悪いんじゃ……!? それより、こんな所から落っことしたらエヴァンジェリンさん怪我じゃ済まないような……!?
 そう思い、青ざめる。
 すぐさま落ちるエヴァンジェリンさんを助けに行こうとし――しかし結果から見たら、それら全ては杞憂に終わった。
「えっ――!?」
 蹴り飛ばされ、宙を舞った少女は――今だ宙に居た。
 まるで黒い外套が空飛ぶマントのように、もしくはコウモリの羽のように風を孕んで舞い、エヴァンジェリンさんは蹴られた左頬を押さえてうつむき、肩を震わせていた。
 重力を無視した、ありえざる光景。
 街頭の上に立つ自分とそう変わらぬ位置に浮遊する黒いボロを纏う少女に、私は絶句し、戦慄した。
「あ、あんたまさか――」
 ここに来て気付いた。そう言えば、彼女はどうやって今自分が居る街頭の上に上がったのか。そして先ほど味わった凍えるような直感――コイツが吸血鬼だ、と告げる本能からの警告が間違っていなかったのだと。
「……許さんぞ、神楽坂明日菜」
 それは地獄の底から響くような殺意と怒気の入り混じった絶対零度の声。
 途端にまた金縛りに合い、体が硬直する。
 ……あぁそうか。
 遠巻きながらに気付いた。やっぱり自分の直感は当たったんだ、と。やっぱりコイツが吸血鬼だったんだ、と。
 これから自分が吸血鬼の餌食になる。

 ――……アスナさん!

 ――そう思い、思った瞬間に、一人の少女の顔を思い出した。
「――……そっか」
 そう、例えば――神楽坂明日菜がエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルに襲われたら、
「! ……ほう」
 ――あの子はきっと、泣く。悲しむ。
 甘えん坊で意地っ張りで泣き虫で、ガキな――だけど誰よりも優しくて強くて頑張り屋の少女は、きっと私が傷付けば、一も二も無く桜通りの吸血鬼と対峙するだろう。
 自分の教え子と対峙する――そんな事、あの子にさせたく無い。
 故に神楽坂明日菜は桜通りの吸血鬼に負けては行けない。
「悪いけど、私の血は簡単にあげらんないわ」
 月満ちる夜、桜舞う夜道で私は吸血鬼と相対す――。

 ◇◆◇◆◇

 じつに今更だが、ここ麻帆良学園は――広い。
 いくつもの学区を有する世界有数のマンモス校であるこの学園は、その学園内の移動だけに電車やバスがいるほどだ。
 だからというわけでは無いが、いくら俺でも一日で学園内を回り切ることは出来ない。いや、電車やバスなどを乗り継げばもしかしたら回れたかもしれないが、如何せん、俺は今徒歩だ。
 正確には散歩である。さらに正確に言えばさんぽ部の部活動中である。
 移動自体が部活動なのは素直に助かるな。そう思い、最初に選んだのだが……失敗した。
 歩いて回るのは良い。だが、その道順をさんぽ部部員の二人――『鳴滝 風香』と『史伽』の双子に任せたのが間違いだった。
 演劇部、バスケ部、サッカー部はまだ良い。だが新体操部や水泳部にチアリーディング部、さらにはそれらの更衣室を巡ろうとするのは如何なものか……。下手したら教員資格を失いかねんぞ?
 俺は学園長からの好意により数多くの部活の副顧問を任されている。
 それと言うのも、俺は学園を離れることが多く教師としての責務を全う出来ないからなのだが――おかげで学園にいる時は部活動を巡るだけで日が落ちる毎日となる。
「しろー、おなか空いた〜」
「空いたです〜」
 両手にぶら下がる鳴滝姉妹の声をとりあえず無視して次の部へと行く。ふむ……次は料理研にでも向かうか。
 確か3‐Aの生徒の中で『超』と『四葉』辺りが料理関連の部活をやっていたはずだ。そう当たりをつけ、そちらへと進路を変える。
 双子は無視されたからか『ギャーギャー』と俺の手にぶら下がりながら喚いているが無視。
 先ほどの散歩コースというか、鳴滝姉妹のエスコートによる部活動巡りのささやかな仕返しである。なにせ危うく変態にさせられるところだったからな。
「あやや! そこを行くのは士郎アルネ!」
 ……道中で、厄介なのに見つかった。
「「あっ、古菲」」
「ここで会ったが百年目アル! いざ、勝負!!」
「「無視するなっ!」です!」
 鳴滝姉妹の存在そのものを無視して古菲が構える。
 ……苦笑。まぁ中武研の部活動ってことで相手しても良いが――さっきから「おなかすいた〜」と連呼して俺の手を振る双子を放っておくわけにもいかんしな。
「行くアル――」
「古菲は腹減ってないか?」
 今まさに飛びかかろうとしていた古菲に呼びかける。
 キョトンとして動きを止める彼女に、ニヤリと笑って、
「これから俺たち三人は料理研に行ってなにか食うが、どうする?」
「……士郎の手作りアルか?」
 ……食いついて来たな。
「ご所望とあれば作るが?」
「「「食べたい!」アル!」です!」
 「そうか」と三人に応え、歩き出す。
 俺の両手に双子、横に古菲。……なんと言うか、桃太郎の話を思い出すな。
 何を食べたいか、何を作ってもらうかを真剣に議論する三人を苦笑して眺めて回し、俺は中等部の料理研究部を目指す。
「あっ、亜子? あのね、今からしろーが料理するって」
「あっ、楓姉? あのねしろーが今から料理するです」
「あ、超? ふふふ、今からシロウが料理するアルヨ。おー、食べに来ると良いネ!」
 ……よぶな。
 携帯片手に増援を呼ぶ三人に苦笑を濃くし俺はさっさと歩いて行く。
 うーん……最大でクラス全員分を作らねばならないな。
 さて、何を作るか? と俺が首を捻っていると――くいくい。視線を下げると左手にぶら下がっていた鳴滝妹が俺の手を引いていた。
「しろーに楓姉が電話かわって欲しいそうです」





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《THE SECOND LIFE》2

※ 前書き

 この作品は『魔法少女リリカルなのは』、及び『Fate/stay night』という作品のキャラクターを『魔法先生ネギま!』という作品に登場させるという形のクロス小説です。途中、この三作品をご存知ない方には非常に解り難い表現が含まれていますので、それを承知の上でご覧下さい。
 また、作中に著者による独自解釈、設定、世界観、オリジナルキャラなどが描かれていますが、こちらも事前にご了承の上でご覧になって下さい。








《THE SECOND LIFE》






          一章  エヴァンジェリン編



 今日は麻帆良学園の始業式。このかのおじいちゃん――学園長による挨拶や集会も終わり、今はクラスでのホームルームの時間。
 私、神楽坂明日奈のいる2‐A改め3‐Aは、いつもと変わらず、またいつもと同じように騒がしかった。
 それはまぁ女の子しかいないクラスなんだから仕方ないのかも知れない。それにそんな騒がしいクラスを静めてしかるべき担任のネギは、めったな事でもない限り生徒を諫めないしね。
 優しいと言うかなんと言うか。長い赤髪と可憐な容姿の、今年で十歳という担任の少女は、要するにガキなのよ。
 その頼りない担任のネギは、いつも通りの黒いスーツに同色の長いスカートという格好で壇上に立ち、クラスの皆を笑顔で見回して口を開いた。
「えと……改めまして、3年A組担任になりましたネギ・スプリングフィールドです」
 騒がしかったクラスの連中も、この誰の目から見ても愛らしい異国の少女による挨拶には耳を傾けるのか、若干声のトーンを落として彼女を見ていた。
 かく言う私もその一人。この憎たらしいぐらい可愛い担任を見つめ――もとい、ニヤニヤと眺める。
 このクラスでわたし意外に気付いている子はいるだろうか?
「これから来年の3月までの一年間、よろしくお願いします」
 隠しようも無い、と言うか隠す気のないネギの満面の笑み。それは「はーい」とか「よろしくー」とかいうノリの良い返事に対する笑顔では無く、「それから」とネギが継いだ台詞にこそ想いが込められていた。
「今年からこのクラスに転入して来ました二人と、新たに副担任となって下さいました先生を皆さんに紹介します」
 それは騒がしいクラスを尚騒がしくする言葉。とりとめの無かったざわめきはネギの台詞に合わせた話題へと変わり、いっそううるさくなる。
 だけどこの担任はそれでもクラスを静めることをせず、ニコニコと上機嫌のまま「どうぞ」と教室前面の扉へと声をかけた。
 ネギの視線が扉へと向き、それに続くようにクラス中の視線がそちらへと向く。とほぼ同時に『ガララ』と開く扉。そして、入って来る――

 逆立つ白髪、

 褐色の肌、

 鷹の如き双眸、

「「――え!?」」
 自分へと集中する視線にニヤリと意地悪く笑う、ワインレッドのスーツに黒いワイシャツを着た、長身痩躯の男。
 それを茫然と見るクラスの子たち。
「今日から君たちの副担任になる――」
 気だるそうに頭を掻きながら男は壇上へと――心底嬉しそうな顔をして立つネギの横へと行き、そこで振り向いて3‐Aの生徒へと視線を投げる。
 その風貌や纏う雰囲気はまったく全然、これっぽっちも堅気の人には見えない――どころか日本人にすら見えないこの男は、それこそ先生らしくない態度を崩さず口を開いた。
「――衛宮士郎だ。よろしく」
 彼を茫然と見ていたクラスの子たちも、慇懃無礼に頭を下げる衛宮士郎――もとい、ヘルパーを見て、歓声が爆発した。
「ええー――!?」
「ヘルパーが先生ー――!?」
「うそうそ!? マジで!?」
 椅子を蹴倒し、机を飛び越え彼に殺到するクラスの子たち。
 まぁ驚く気持ちはわからないでもない。私も昨日、ネギから話を聞いた時に驚いたから。
 クラスの連中に騒がれるヘルパーを微笑ましげに眺めるネギ。それを眺めながら、頬杖をつく。嬉しそうね、ほんと。
 呆れ混じりに視線をヘルパーへと向ける。彼はクラスの大半から質問攻めという名の歓迎を受けていた。顔は皮肉気な笑みながら、ヘルパーはその歓迎を甘んじて受ける。
 ヘルパーこと衛宮先生は生徒からの人気が高い。少し前までは初等部担任をしていたらしいので私たちの中にも彼が担任だった子もいるし、何より部活をやっている子たちの“大半”を彼が受け持っているからだ。
 昨日このかや衛宮先生から聞いた話では、彼は日頃、高畑先生並に授業を放って世界中を回っているらしい。それで、先生らしいことを出来ない、と申し訳なく思った衛宮先生は学園長に頼まれた部活道の副顧問を片っ端から引き受けたんだとか。その数は今年から三桁台に突入し、衛宮先生はそれを嘆いていたらしいが自業自得。
 まぁそのせいでついたあだ名が“助っ人(ヘルパー)”。運動系は言うに及ばず、日曜大工から家事全般、それに手品までこなす彼は学園にいる時は各部に引っ張りだこの人気者だ。
 それに何と言っても彼は美形だ。本人にはまったく自覚が無いが、ヘルパーは間違いなくハンサムの部類であり、そのため女子からの人気の高さは顔からくる事が多い。……まぁ顔から入って中身を知った子の大半は彼に心酔するのが常なんだけどね。
 ――と、それはさておき、よ。
 クラス中がヘルパー一人に注目する中で私は一人、開けられたままの扉へと視線を向けてため息を吐く。
「…………あの〜? もしかして放置ですか〜?」
 騒がしいまま一向に紹介どころか何らかの指示もなく放置されていた少女の一人が、顔をちょこんと出して言う。て、わっ……! けっこう可愛い。
 特徴的な赤い髪を頭の後ろで二つに編んで下ろす、外見だけを見れば小学生にしか見えない少女を、あたしは眺めるとはなしに眺めながら内心で感嘆の声を漏らす。ウチのクラスには整った顔の子が多いけど、これまたすごい美少女が来たものねぇ。
「え、あ! す、すみません!!」
 声をかけられてようやく少女の存在を思い出したらしいネギが慌てて顔を彼女に向けた。
 ……まったく、これだからガキは。
 私は呆れから来るため息をもう一つ吐き出し、頬杖のままネギと赤髪の少女とを眺める。
 そして――目を丸くした。
 困ったような苦笑を浮かべて、ネギにようやく入室のタイミングを教えてもらった少女は「失礼します」と小さく断りを入れて教壇へ。申し訳なさそうな顔をしている担任や、先ほどまでクラス中の注目を集めていた副担任とを順に眺め、壇上へと上がる。
「え……?」
「あ……!?」
 それに併せて注目が少女へと映り、今までヘルパーを囲んでいた連中がゆっくりとその輪を広げて行く。
 注目の的は“二つ”。
 同じ顔、同じ容姿の少女が二人、自分に集まる視線の中心で静かに佇んでいた。
「はじめまして」
 向かって左側。ネギが慌てて黒板に書いた『八神 ケイト』という汚い文字の下に立ち、自分に注目する子たちに微笑を向ける少女と、
「……………………」
 その右側。『八神 ヴィータ』という文字の書かれた黒板を背に、不機嫌さを隠さず腕を組んで眉根を寄せて立つ少女。……顔はともかく、どうやら二人の性格はぜんぜん違うみたいね。
「え、えっと……。それではお二人にも自己紹介をお願いします」
 再びざわめき始める壇上の子たちを「皆さん! いい加減席についてください!」と担任ではなくいいんちょが諫め、それでようやく渋々ながらも自分の席へと戻って行く連中を横目にネギ。今までヘルパーにかまけて二人のことを疎かにしてしまった手前強く出れないのだろう。外見や立場だけなら二人の転入生より上なのにどこまでも下手に言う。
「はい」
 それに答えたのは左に立つ少女だけで、右側の『ヴィータ』という名前らしい少女は完全に無視。……あ〜あ、嫌われちゃった。
 ブスッとした顔を明後日に向ける少女を見て泣きそうな表情になるネギ。私はそれに苦笑を浮かべ、それから返事をした方の少女へと視線を向ける。
「ほら、おねえちゃん。自己紹介だって」
 傍目からもわかる、壇上の微妙な空気に気付かないのか。『ケイト』という名前の前に立つ少女が隣の少女を促すように言う。
「……うっせーな、わかってるよ」
 ため息を一つ。ヴィータちゃんは不機嫌な顔をそのままに、視線をクラスのみんなへと向け「ヴィータだ、よろしく」とぶっきらぼうに言った。
 ……あらら、お姉さんの方はすっかりご機嫌ななめみたいね。私は内心で苦笑し、早くも落ち込み始めるネギに呆れ顔を向けた。
「皆さん、はじめまして。ヴィータおねえちゃんの妹の、八神 ケイトです」
 クラス中に広がりつつあった微妙な空気に、やっぱり気付いていないのか。不機嫌な姉とは打って変わってにこやかな笑みを浮かべてケイトちゃんは言った。
「わたしたちは見ての通りの双子です。これから一年間、おねえちゃんともどもよろしくお願いします」
 ケイトちゃんはそう言って自己紹介を結び、ニコニコ笑顔のまま隣に立つヴィータちゃんの腕に自分の腕を絡めてお辞儀。うわ……お姉さん、凄い嫌そう。
「……ふ〜ん」
 私はそんな二人を終始頬杖をついて眺めていた。
 八神 ヴィータと八神 ケイト。
 その時の私は二人の転入を特に疑問には思わず、ただ中学の三年生って時期に新たにクラスの一員となった双子の少女を眺めていた――。

 ◇◆◇◆◇

 まるでお芝居のようだった。
 麻帆良学園中等部、三年A組の教室の中。転入生であるあたしら二人はクラス中の視線を集め、教壇の横に立って質問を受けることになった。
「八神さんたちはどこから来たのですか?」
 出身か? 確かミッド近郊の……あれ? なんて名前だったかな?
 金の髪の上品そうな外見の少女――雪広 あやかの問いに、視線を明後日に向けながら心の中だけで応える。ま、あたしは一々答える必要はねーからな。無視無視。
「出身校ですか? それとも出身国?」
 質問に質問で返すケイト。お、なるほどな。この場合の『どっから』ってのは『前の学校はどこだ?』って意味でもあるんだな、とあくまでも他人事なあたし。それでも終始不機嫌な態度をとってたおかげか、誰もそんなあたしに不満を漏らさないので助かる。
「あ、失礼。言葉足らずでしたわね」
「いえ、お気になさらず」
 ……なんせ実際、あたしは今、ものすごい不機嫌なんだからな。
「ただ、どちらの質問であれ、お答えを返しずらいので……。すみませんが聞かなかったことにしていただけませんか?」
 そう、終始ニコニコしていたケイトが意味ありげに少しだけ表情に陰りを加えて返すと、雪白あやかは「まあ……」と言って口元を押さえて絶句。彼女が何をどう勘違いしたのかは知らないが、目を丸くしてこっちをいたわるように見始めたことから、なんとなくあたしら二人が訳ありなんだろうことがわかったらしい。
 ……たく、相変わらず人心操作が上手いなコイツは。ジロリと横目でケイトを睨むあたし。それに外見だけはあたしと瓜二つの姿をしているケイトは「あ、ごめんなさい」と何故か申し訳なさそうな表情で小さく謝ってきた。
 ? なんで謝ってんだコイツ?
 ケイトの態度に内心で首を傾げる。そしてそんなあたしを見て何を思ったのか雪広あやかが――……面倒だから『雪広』でいいや――雪広があたしに向かって口を開いた。
「そんな……! ヴィータさん、責めるならわたくしを!」
 はい?
 今度こそ思いっきり首を傾げようかと思っていると、雪広は大仰な仕草で「ああ……!」とか言って胸に手を当てて言葉を次ぐ。
「お二方の複雑な事情も知らず無神経な質問を……。わたくしとしたことがなんたる失態……」
 …………よくわからねーけど、なんか雪広が勘違いに勘違いを重ねてるんはわかった。しかも、その元凶ってか、わざわざ勘違いさせるように仕向けたんがケイトなんも同時に理解。なるほどな。ケイトは上手いこと嘘を吐かずにあたしらのことを詮索させないようにしたわけだ。
「お気になさらずに…………えっと……?」
 雪広の言葉に再び笑顔を取り繕ってケイト。やんわりと彼女を労るような台詞を言いつつ自然に名前を聞こうとしている辺り、芸が細かい。
 ……まったく。あたしらはこのクラスの連中の名前やある程度の内情ぐらい事前の資料で確認してんのにな。一々知らないふりすんのも面倒だが、まあ怪しまれねーよーにだけはしねーとだし仕方ねーか。
「申し遅れましたわ。わたくし、この3‐Aのクラス委員長をつとめさせていただいております、出席番号29――改め、31番、雪広あやかと申します。」
 ケイトの言葉に軽く自己紹介をする雪広。最後に「なにかお困りになりました時にはお気軽にわたくしに声をかけて下さい」と言って席に座る。……ふ〜。ようやく質問の一人目が終わったか。
 …………つーか、なんか面倒になってきたな。
「えっと、それじゃあ他に八神さんたちに質問のある人は――」
「なあ先生」
 外見通りの幼い担任少女の台詞を遮り、どこかビクついている彼女を横目に見つつあたしは言葉を次ぐ。
「あたしらの席はどこだ? ……質問は、あとで聞きたい奴はケイトにでも聞いてくれ」
 言いつつ、担任の――『ネギ』だったか? の言葉を待たず、さっさと歩き出す。とりあえず教室の後ろにある空いた席にでも座るか。
「あ、ちょっと……! 待ってよ、おねえちゃん!」
 その後ろを慌てた風について来るケイト。途中、ネギに「ごめんなさい」やクラスの連中に「よろしくお願いします」とかペコペコ頭を下げてる辺り、やっぱり芸が細かい。
 そんなケイトとクラスの連中とを見て、もう一度思う。あ〜あ、マジでお芝居の中みてーだな、と。
 なんせケイトはあたしの妹でもなければ外見通りの年齢ですら無いのだから。
「よろしくお願いします」
 このクラスで年上なんは、たぶん今ケイトの奴が挨拶して思いっきり無視されてるエヴァンジェリンって奴だけだろうな。
「よろしくお願いします」
「よろしくです」
「……よろしく」
 とりあえずあたしらは教室中央の一番後ろの席――今ケイトが挨拶した長谷川 千雨と綾瀬 夕映の二人の後ろの席に座ることにした。……ん? なんか席に違和感があると思ったら、あたしらの席だけ教室にあるんと少し違うな。もしかしてあたしら二人の急な転入に合わせて新しくどっかから運んで来たんか?
 ……しかし、なあ。さっそく机に頬杖をつきながら教室を見回し、改めてため息。
 はやてと出会ってからもう百年以上たってんのに……ほんと、まさかこの歳で学校なんかに通うことになるとは思わなかったぜ。

 ◇◆◇◆◇

「――……驚いたな」
 それはざわめきの中に内没するような小さな声。
「――……それはこちらの台詞だ」
 ヘルパーや転入生二人の登場に一際騒がしくなるクラスの子たちには聞こえないだろう彼の言葉。そしてそれに返す、同じくらい小さな少女の声。
 改めてよく見れば、転入生の登場に合わせ教壇の右奥に行って腕組みし佇んでいたヘルパーは微かに自分へと注目する子たちから視線を外し、教室の後ろの方を向いていた。
 その視線を訝しげに追い――ギョッとした。
 彼が見つめる先にいたのは、どこからどう見ても異国から来ただろう外見の少女――エヴァンジェリンさんだった。
 線の細い綺麗な金の髪の、フランス人形のように整い過ぎて逆に寒気すら覚える容姿の少女。
 常に目立たず、常に何もしないような彼女が、今は密かに衛宮士郎を睨んでいた。
「――……じじぃに喋ったのは貴様か?」
 !
 それは普通なら聞こえ無いだろう声量。何より騒がしいこのクラスだ、普通なら聞き取れないだろうその台詞を、しかし私の耳は拾ってくれた。
「喋った、と言うのか……まぁ一応の報告はした」
 これまた普通ならばまず聞こえ無いだろう声量で、ヘルパーが返す。ご丁寧にも二人は口元を動かさずに言葉を綴るが、私はそれを一字一句漏らさずに聞くことが出来た。……昔から私はむやみやたらに耳や目が良いのよね。それこそ集中すれば、どこぞの仙人のように遠くの――と、それはどうでも良いわ。
「……この借りは必ず返す」
 ヘルパーの返答に何故か苦々しく返すエヴァンジェリンさん。……驚いた。彼女ってあーいう子だったっけ?
「ふむ。借りを返すのは構わんが、あまり他者を巻き込むなよ? それから――」
 目が合った。
「良く“密談(これ)”を聞こえるものだと感心するが……盗み聞きは良くないな、神楽坂」
 ニヤリと意地悪く、それでいてどこか楽しそうに笑い、ヘルパーは肩を竦めて見せる。そしてその台詞にギョッとして私へと視線を向けるエヴァンジェリンさん。
 ……冷や汗が頬を伝った。
「……どこから聞いていた?」
 表情を消し、やはり誰にも聞こえないような声量で問うエヴァンジェリンさん。それに私は「あ、あはは……」と乾いた笑いを浮かべて明後日を向いた。
 ……た、確かに盗み聞きはよくないわ。
 よく知らないクラスメートの全く知らなかった一面を見てしまった気まずさと相まってか、私は教壇に立つネギへと視線を戻した。
「あっ。そう言えば今日はこれから身体測定でした! 皆さん、用意して下さい」
 折しも、ちょうど今日の連絡事項を思い出したらしい少女と目が合った。
 ……相変わらず無意味に可愛いわね、このガキ。
 睨むように見ると笑顔を引きつらせるネギ。それに、内心で微笑む。
 ネギの言葉を聞き、クラスがまた無意味に騒ぎ出して――
「今宵は貴様の血を貰うぞ、神楽坂明日菜」
 だから私は、その言葉を聞き逃した――。






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《THE SECOND LIFE》1

※ 前書き

 この作品は『魔法少女リリカルなのは』、及び『Fate/stay night』という作品のキャラクターを『魔法先生ネギま!』という作品に登場させるという形のクロス小説です。途中、この三作品をご存知ない方には非常に解り難い表現が含まれていますので、それを承知の上でご覧下さい。
 また、作中に著者による独自解釈、設定、世界観、オリジナルキャラなどが描かれていますが、こちらも事前にご了承の上でご覧になって下さい。








《THE SECOND LIFE》






          序章


 夕方のカフェテラス。
 秋のオレンジ一色の空ではない、橙から薄紫の夜空への綺麗なグラデーションのかかった夕焼け空の下、時折風に流されて飛来する桜の花びらに瞳を細めながら少女は幾分冷めてしまったコーヒーのカップを口に運んだ。
 少女の着る、赤と黒とを基調としたフリルとリボンの沢山付いたゴシック調の洋服と彼女の幼くも整った容貌から、それはまるで映画のワンシーンのように美しい光景。人気のない清閑な通りを横目に、春風に赤い髪を流す美少女は気品すら漂う優雅さで白いカップに口を付け、ゆっくりと小皿の上へと戻した。
「……………………まず」
 少女は小さく不平の声を漏らし、テーブル隅の紙ナプキンを口元に当て眉をひそめる。
「……やっぱり冷めると不味いね。まぁ、わたしは熱くてもコーヒーは嫌いだけどさ」
 言って苦笑を向かいの席へ。
「だったら頼むんじゃねーよ!」
 白い二人掛けのテーブルの向かい。赤髪の少女と瓜二つの容姿をした少女が吠えるようにして怒鳴り、テーブルを『ドン!』と拳で打って立ち上がった。
 そんな彼女を目を丸くして見上げる少女に、もう一人の赤毛の少女は『キリ!』と目元を吊り上げ、こめかみを痙攣させつつ口を開く。
「つーか、あたしのがココアなんはアレか? もしかしなくても馬鹿にしてんのかっ!?」
 向かいに座る少女を見下し、思い切り指差して怒鳴りつける。
「え? もしかしてヴィータって……ココア嫌い?」
 対して自分の手の中にあるコーヒーの入ったカップと向かいの少女の手元で仄かに湯気を上げるココアの入ったカップとを見比べる、赤髪の少女。
 それにヴィータと呼ばれた方の少女は「そういう問題じゃねー!!」と叫び、机を『バシバシ』と叩く。
「だーかーらあ! なんであたしがココアでおめーがコーヒーなんだよ! ガキ扱いすんなっての!!」
 怒鳴り、ヴィータは勢い良く椅子に座って腕を組む。
 ガキ扱いするな――それは少女の外見だけを見れば背伸びしたい盛りの子供の台詞としか周りには映らないだろうが、しかし向かいに座る少女は違う。しっかりと、彼女がじつは見た目以上に歳をとっていることを理解した上で、尚、ヴィータと同じ容姿と格好の少女は「ふむ」と小さく頷き、おもむろにそれぞれのカップを交換。さも『これでどう?』というような視線を彼女へと向け、小さく首を傾げて見せる。
「おめー……」
 ヴィータのこめかみに青筋が増える。
「あたしをおちょくってるだろ……? 馬鹿にしてっだろ!?」
 頬を痙攣させ、怒りに声を震わせて言うヴィータに、しかし向かいに座る少女は僅かに苦笑するだけ。別段、取り乱すでも弁解するでもなく、少女は柔らかそうな頬に手を当て、頬杖を付きながら彼女を上目遣いに眺めやりながら口を開いた。
「あのね、ヴィータ。これからわたしたち、双子の姉妹ってことになるでしょう?」
 さり気なく辺りに聞き耳を立てる人物がいないかを目で探り、少女は小さな声で言った。
 他人には聞かせられない内緒話。その気配を察し、ヴィータも心持ち怒りを沈め声のトーンを落として返す。
「……だからなんだよ? つーか、なんでそういうことになってんだ!?」

 ――新暦一八三年、春。

「……約十年前。この世界のとある場所で中規模次元震を観測しました」

 ――それは突然にして、当然の事態。

「その発生源は未だもって不明。原因もわかってはいませんが、しかしこの世界を調べていた当時の局員が面白い仮説を提出して来ました」
 少女は『にこり』と小さく笑い、ヴィータに向けて指を一本立てて見せる。
「十年前。それはこの世界でとある人物が亡くなったとされる年と合致し――」
 人差し指の『一』に中指をプラスして『二』と示し、少女は言葉を次ぐ。
「――そして五年前、その説を裏付けるように、またこの世界のとある場所で次元震が起きました」
 次元震。
 それは隣接する次元世界をも脅かし兼ねない次元災害の一つであり、時空管理局が最も警戒する災害の一つ。
「まあ細かい資料は追々。一応、寮の方にデータを送ってもらっといたので、後日、目を通してもらうとして……」
 自分の話が長いことに機嫌を悪化しつつあるヴィータを苦笑を浮かべて眺め、少女は立てた指をまた一本にして口を開く。
「では本題を」

 ――管理局所属の二人がこの件に関わるようになるのは自然な流れであり、

「これから、僕とヴィータはとある学院の中等部に編入します」

 ――故に、これからの出逢いはすべて必然であり、

「……はあ?」

 ――故に、これから先の戦いはすべて偶然ではない。

「さっきの話で出て来たとある場所。そして当時の局員が提出した仮説。更には次元震が観測された十年前と五年前――」

 少女は告げる。
 運命を絡める、決定的な言葉を――。

「――そのすべてが、わたしたちの編入するクラスに集約されます」

 ◇◆◇◆◇

 日本国某所の空港内。
 旅客機の低いエンジン音とアナウンス、そして何千何万という人間が発する雑音の中を、彼は小さなスーツケースを片手に歩いていた。
 その男はざわめくロビーの中にあって、一目でそうと判るほどに普通では無かった。
 歳は二十代半ばか。ワインレッドのスーツの上下に、第二ボタンまで開いた黒いYシャツ。日本人の平均身長を大きく上回る長身と、服の上からも見て取れる引き締まった体躯。鷹の目の如く危険な色を孕んだ双眸に、特徴的な逆立つ白髪に浅黒い褐色の肌。
 あまりお近づきになりたくない職種の方――そんな風に周りの旅客は彼を見ていた。
 それは従業員も同じで、態度にこそ出さないようにしつつも内心では思うことは一緒。警備員に至っては戦々恐々と彼に警戒と怯えの混じった目を向けているしまつ。
 どっからどう見ても、誰の目にも堅気では無いだろうその男は、周りの空気や視線、彼らの内心の一切を無視して歩き続ける。
「……ほう」
 と、男の視線がある一点で止まり、小さく感嘆の息を零した。
 彼の視線の先に居るのは三人の少女。
 一人は布でぐるぐる巻きにされた長い棒を背負う、十に届くかどうかという幼い少女。茶色がかった長い髪と見た目の幼さに反したスーツ姿というのが印象的なその子は、大きな瞳一杯に期待の光を宿し、何度も何度も同じ場所を右往左往と落ち着きなく歩き回っていた。
 そんな女の子をしかるように彼女の首根っこを掴んで止める、少女の連れの女の子。
 うろちょろと落ち着きの無かった少女に何か諭すような、もしくはしかるようなことを言っているらしいその子は、だいたい中学生ぐらいか。傍目から見れば二人は仲の良い姉妹に見えるだろうその少女は、長い髪を頭の両脇で結ぶ、鈴付きのリボンが何より特徴的だった。
 そんな二人を微笑ましげに眺め、やんわりと仲裁に入る三人目の少女。
 この子も恐らくは鈴付きリボンの女の子と同じく中学生ぐらいだろうか。なんとも暖かな雰囲気を持つ、二人とは違った大和撫子然とした日本美人だった。
「…………ふ」
 そんな三人を遠くから眺め、彼は口元を綻ばす。瞳も先ほどまでの剣呑としたそれではない優しい兄のような、父親が愛娘を眺めるようなそれへと変わり、途端に彼を取り巻く空気が柔和になった。
 自然と彼は歩みを少女三人へと向ける。
 果たしてそれは余人にはどう映ったか。男に警戒の視線を向ける者、奇異の表情を向ける者らの内心を、彼は当然のように無視して少女達三人に向け口を開いた。
「久しぶりだな」
 男は意地の悪そうな、それでいて優しげな笑みを口元に浮かべて声をかける。それに、一斉に彼へと視線を向ける少女たち。
「シロウ!」
 と、感極まった声と表情で男を呼ぶのは三人の中で一番幼い少女。全身全霊でもって歓喜の思いを示すと共に彼に抱きつき、ぐりぐりとその幼い顔を男の黒いYシャツにこすりつけた。
 対してシロウと呼ばれた男は苦笑して腰を折り、しがみつくように抱きついていた少女をやんわりと剥がして目線を合わせた。
「こら、ネギ……。先生が生徒の前で泣いてちゃ格好悪いぞ?」
「だって……、だって……!」
 ネギと呼ばれた少女は顔を涙で歪め、鼻をぐじゅぐじゅと言わせていた。
 男は微笑んでその頭を撫でる。
「大きくなったな……ネギ」
 万感の思いを込めて男。それはまるで父親が愛娘へと贈るような、見ている者全てを暖かくするような、そんな優しい声だった。
「……シロウ!」
 バッと、飛びつくように再び抱きつく少女。
 男はされるがままになりながら、そっとそんか彼女を抱きしめる。
「……ホントに知り合いだったんだ」
「あはは。ネギちゃん、可愛いな〜」
 呆れとそして愛情を込めて鈴付きリボンの少女は言い、暖かい雰囲気を持つ女の子は二人を慈愛に満ちた瞳で眺める。
 男は抱きつくネギをそのままに視線を上向け、二人を見た。
「お迎えご苦労。神楽坂。近衛」
 意地の悪そうな、優しいような、彼特有の微笑でそう声をかける男。それに、羞恥と焦りを混ぜたような顔をそっぷ向け、口を尖らせる鈴付きリボンの少女――神楽坂 明日奈。
「べ、別に私は『ヘルパー』のために来たワケじゃないんだから」
 勘違いしないでよね。そう言って少しだけ頬を朱に染める神楽坂に、男はクツクツとやはり意地の悪いような優しげな笑みで返す。
「……何笑ってんのよ」
「いや。あまりにも神楽坂が神楽坂らしいんで、つい」
 どーいう意味よ、とブスッとする神楽坂に瞳を細める男。やはりその目は兄のような父親のような慈愛に満ちたものだった。
「センセ、お帰りなさい」
 そんな彼と神楽坂の二人を「あははは」と笑いながら眺めていた少女――近衛 このかが男にそのままの笑顔を向け、出迎えの言葉を贈った。
「……近衛。もう何度も……それも会う度に言ってると思うが……『センセ』はよせ」
 途端に苦笑へと顔を変え、ネギを抱き上げる。
 少女は「あっ」と少し驚いたような声を上げたが、何の抵抗をするでも無くそのまま彼にお姫様だっこをされた。
「あははは。相変わらずやな〜、センセは」
「……近衛も相変わらずだな」
 言外に「成長して無い」と言われたのにも気付かず、近衛は「?」と首を傾げる。それを見て男はそっとため息を吐く。
「……まぁ、そんなのはどうでもいいわ」
 そんな二人を、腕を組み横目で見ていた神楽坂がため息を一つ、男に不機嫌顔を向けて言う。
「良くは無いんだが――何だ? 神楽坂」
 対し苦笑を神楽坂に向けて男は問う。
「とりあえず歩きながら話しましょ。……ただでさえ目立つんだから」
 言ってさっさと歩き出す神楽坂。その後を、ネギを抱き上げたまま男は追う。近衛は三人の後を、さり気なく受け取った、男のスーツケースを引きながら歩く。

 ――時は、西暦ニ○○三年四月。
 翌日には新学期という春休み最後の日。
 男――衛宮 士郎と、
 少女――ネギ・スプリングフィールドは再会を果たし、
 そして――

「明日っから『ヘルパー』がウチの副担任になるんでしょ?」
 神楽坂は皆を先導するように先を行きながら、チラリと後ろの男に目を向けて問い、
「……そうらしいな。俺も昨日、初めて知ったんだが」
 それに苦笑し、頷く衛宮。そんな彼に抱かれたネギは目を丸くして口を開く。
「き、昨日ですか!? じゃ、じゃあ明日、ボクたちのクラスに転入生が来るって話は知りませんか……?」
「なんや、噂やと今まで学校に行ったこと無い子らしいんやわ〜」
 少女の言葉を次ぐように近衛。カラコロと衛宮のスーツケースを引きながら男の隣へと行き、その顔をネギと同じように下から覗き込むようにして見ながら首を傾げる。
「センセは何か聞いてないん?」
 それには答えず、衛宮は視線を前を行く神楽坂へと向け「ふむ……」と小さく頷く。そして先ほどから男をチラチラと窺っていた彼女に苦笑を向け、口を開く。
「先にも言った通り、副担任の話を聞いたのも昨日が初めてでな。すまないが、俺には何も答えられそうにない」

 ――運命は絡み合い、動き出す。

 魔法と奇跡と出逢いの物語が、幕をあける――。






次話

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寒いですねぇ……

 最近、ずっと風邪かなぁと思っていた咳が実はハウスダストが原因なのではと思い始めた嗣希創箱です、こんばんは。

 なにやら少し目を離した隙に平時のアクセス数が三倍から四倍に増えていてビックリです。それもこれも某所に投稿し、それを読んで下さった方が嗣希創箱の作品を紹介して下さったおかげ。『はじめまして』という挨拶から書かれたコメントや感想をいつも楽しみにしている嗣希創箱はとても感謝感激です! もちろん毎回のようにするどいご指摘やご感想をくれます方々にも、同じかそれ以上の喜びをもって対応していますが、やはり多くの方が読まれて下さっていると思えばこそ、こちらの士気も上がるというものです! コメントは創作意欲向上の何よりの栄養です! これからもお気軽に書いてって下さい♪

 それと遅ればせながらカテゴリー欄訂正の報告を。当ブログ内のSS、《ゼロの使い魔〜雷槍の騎士〜》の話数が多くなって来ましたので一章と二章をカテゴリー分けしました。これからは一章はそのままに、二章以降は《ゼロの使い魔〜雷槍の騎士〜》という題名の後に数字を入れて行く予定です。

 改めまして、これからも嗣希創箱の作品をよろしくお願いします。

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《ゼロの使い魔〜雷槍の騎士〜2》13

《ゼロの使い魔〜雷槍の騎士〜》







 協議の結果、モンモランシーはタバサから結構な額の借金をして薬の原料を買いあさり、翌日には別れるだろう青年のために、夜になるまで部屋に籠もって集められるだけ集めた原料を調合していた。
 ついて行けないのならせめて薬だけでもと、とりあえず速効性の魔法薬を幾つかととっておきの魔法薬を一つ。気付けば、念の為と持って来ていた秘薬をも使って作っていた。
「…………さて、どうしたものかしらね」
 日も落ちた暗い一室で一人苦笑する。
 明日、エリオたちに渡す魔法薬は出来た。それはもう、自信をもって彼らの手に渡せるだけのものを作れた。
 しかし、
 ……借金返済のあてがないわ。
 モンモランシーは手の中の香水瓶を見た。
 色とりどりの小さくて綺麗な小瓶。その数、十と少し。中身はモンモランシーが自信をもって薦められる、それはもう凄まじく高価だろう魔法薬だった。
「…………一個、誰か他の人に売ろうかしら?」
 最初と違い二回目の買い出しは半ば意地になって金に糸目をつけず高くて珍しい薬の原料を買いあさったのが失敗だった。気付けば――と言うか、我に返った時には手遅れで、少女の小遣い程度ではどうやっても返せないだろう額になっていたのである。
 まったく、どうしてタバサがそんなに持っていたのかは知らないが、一言ぐらい注意しても良いのに、とモンモランシーは逆恨み気味に思う。しかもキュルケにいたっては『それだけで良いの?』なんて煽るのだから始末に負えない。そんな風に言われれば『もっと』と言うに決まってるわ、と自分の非を棚に上げて憤る。
「あ、そうよ! いっそキュルケに売れば――」
 ポンと手を叩き、さも名案とばかりに表情を輝かせてモンモランシー。しかし、次の瞬間にはその輝きは室内のそれに負けず劣らずの暗鬱としたものに変わる。
「――て、なんで知り合いの借金のために違う知り合いからお金を稼がないといけないのよ……」
 なんだかそれはものすごく情けない気がした。少女はため息を一つ、とりあえず出来た魔法薬を、持って来ていた肩掛けのバッグにしまい部屋を出た。
 そして、
「……………………え?」
 廊下に出て、少女は初めて一階の喧騒に気付いた。
「うそ……! これって――!?」
 騒がしいのは階下が酒場だから――ではない。
 今までそう思って気にしていなかったが、違う。
 違う。絶望的なまでに、違う。
 今まで全然それに気付かなかった。なにせ室内と廊下とでは防音性が段違いだったし、何より中では魔法薬の調合に集中していてから気にかける余裕が無かったからだ。
「…………っ!」
 モンモランシーは真っ青な顔になって駆け出す。
 騒がしいのは酒場だからでは無い。
 聞こえる喧騒に混じる怒号と悲鳴はそんな生易しいものじゃない。
 何より、時折響く銃声が酒場とかそんなのは関係無く今が非常時であると雄弁に語っていた。
「はぁ、はぁ……!」
 息せききって走る。
 目指すは青年の部屋。
 階下のそれに気付いたからこそモンモランシーは一目散にエリオの居るだろうそこを目指した。
 しかし――

「! モンモランシー! 伏せて!!」

 開けようとした扉は勝手に開き、
 中から出てきた会いたかったその人は、栗色長髪の美人顔を焦りに歪め、
 その青年と彼に肩を貸す少女の背後に、

 ――長大な岩の拳が、見えた。

「………………………………ぇ?」
 モンモランシーは反応出来なかった。
「く――っ!!」
 エリオは反応し、今まで縋っていた少女を呆然と立ち尽くす彼女へと突き飛ばし、
「ッ!? エリオ――!!」
 ルイズはとっさに動けず、突き飛ばされるがままに巻き毛の少女にぶつかり二人して転倒。
 そして次の瞬間――
 ドガシャァアアアア――――……!!
 凄まじい音を響かせて、
 岩の拳は宿の壁、窓、扉を易々と吹き飛ばし、
 そして、
 伏せた少女たちの目の前で、
 二人と少し離れた位置で自ら的になった青年は、

 ――赤く、弾けた。

 まるでトマトのように、血しぶきが舞った。
「「――――――――!!」」
 二人の少女の悲鳴が重なる。
 岩の拳に吹き飛ばされ、受け身はおろか満足に防御の体制すら取れなかった青年は反対側の壁に強く打ちつけられ、
 ズルリ、と重力に引かれて廊下に倒れるまでの軌跡を赤黒くべっとりと塗って記した。
「エリオ! エリオエリオエリオエリオエリオ!!」
 ルイズがいつかみたいに半狂乱で叫んで青年へと近付き、
 そして、

 ――モンモランシーの視界から、色が抜け落ちた。

「――触らないで!!」
「きゃっ!?」
 ともすれば、狂ってしまいそうだった。
 喚き、駆け出す友人を突き飛ばし、モンモランシーは青年へと詰め寄る。
 前と違って不思議と取り乱さなかった。前と違ってどういうワケか頭がひどくクリアーだった。
「……大丈夫、助かる」
 色の抜け落ちた、白と黒の視界の中で、即座にそうと判断。青年の傷で一番酷い後頭部と右腕を一瞥し、これならまだ助けられると確信する。
 理由なんて知らない。だけど頭の中に自然と浮かぶ手順に従い、今は手を動かす。
「エリオ!!」
「黙ってジッとしてなさい!」
 一番確実な縫合手術などは無理。だけど速効性の魔法薬は幸いにして手の中。
 モンモランシーはボロボロと涙を零すルイズを一括し、持って来た薬瓶を二つ手に取り、呪文を唱えながら二つを同時に青年の傷口へと垂らす。少女自慢の魔法薬はそれだけで見る間に傷口を塞ぎ、出血を抑えていく。
 ……もともと魔法がダメなルイズでも使えるようにってしていたのが良かったわね。
 今のモンモランシーは先ほどまでの魔法薬調合で精神力を大量に消費したためほとんど残っていない。
 通常、魔法薬である程度以上の速効性を求める場合必須な『魔力を込める』という作業を今の彼女は困難な状態であったが、少女の手の中のそれは普通の薬とは違い魔力を込める必要が無い。ルイズや平民であるエリオでも使えるようにと工夫と苦労をして作った特別性のこれは、製作段階で魔力の込もった高価な原料を溶かして混ぜ込み、調合の際に少女自身の魔力を存分に込めてある、市販の物とは出来も違えば手間暇も違う逸品だった。
「傷は……見た目ほど深く無いわね」
 とは言え予想より若干、治りが早い。モンモランシーは青年の傷を改めて見て回し、泣きべそをかきながらハラハラとした面持ちでそれを窺っていたルイズへと顔を向けて言う。
「たぶん、とっさに右手を盾にしたのね」
 未だモノクロの視界の中、複雑骨折なんて生易しい、重度の粉砕骨折を負っている青年の右腕を見ながらモンモランシー。それから少し離れた廊下に突き立つデルフリンガーを見つけて呆れ顔になる。
 ……あの一瞬で、肩から剣を?
 そのおかげで致命傷は免れているが、それだけのことが出来るなら素直に初めから避ければ良かったのに、と思って呆れる。
 ……たぶん、避けれたのに避けなかったのね。
 反応出来なかった二人を助けるためにわざと。重傷を負うことぐらい覚悟の上で青年は自らを囮とした。
「……無茶はしないんじゃなかったの?」
 バッグから包帯を取り出し、青年の頭に巻く。出血は抑えたとは言え流れ出た血は尋常な量では無い。それこそ白い包帯が即座に深紅となるほどで、モンモランシーは顔をしかめた。
「……色、まだ戻らないわね」
 黒に近い灰色に染まる包帯を見つめてモンモランシー。
「え……?」
 その呟きにポカンとした様子で聞き返すルイズ。それに『何でもないわ』と返し、バッグからもう二つ、香水瓶に入れた魔法薬を取り出して青年にかける。
 片方は先ほどと同じ魔力の込もったそれ。そしてもう一方のが、特に『水』に関する怪我に効くように調合した魔法薬で、要は即席の増血剤代わりであり輸血パック代わりだった。
「……たく! これだけで平民なら十年は遊んでくらせるわよ……!?」
 青年の様態が改善していくに連れ、視界に色が戻り声に涙の気配が混じり出す。
 モンモランシーはぶつくさと涙声混じりの呟きとともにテキパキと青年に包帯を巻いていく。
「……ぁ」
 その様子を見て、ルイズは小さく声を上げた。

 ――フーケん時に何もしなかったあんたなんか足手まといよ!

「――――ッ!!」
 思い出した。
 昨日の朝、自分の言った台詞を思い出した。

 ――人のこと散々馬鹿にしておいて、何よ!

 それは、言っちゃいけないってわかっていながら、

 ――いざとなったら何の役にも立たないじゃない!

 それでも、言葉を止められなかった。

 ――だから、あんたなんか要らないの!

「……モンモランシー」
 胸が、痛い。後悔と自責の念から、締め付けられるように痛い。
「ん?」
 モンモランシーはゆっくりと振り返り、
 ルイズは謝ろうと思って、
 しかし、

「――あら? もしかしてわたしのこと忘れてない?」

 ズン……――。
 低い地響きと打って変わって響く高い声。
 吹き飛ばされ、風通しどころか視界を遮るものすべてをぶち抜かれた壁の向こう。
「――――ッ!!」
「な――っ!?」
 ルイズは即座に反転し、モンモランシーは目を剥く。
 本来なら月明かりが少なからず入って来るはずのベランダに居る、光を遮る巨影。
「な、なんで……」
 『それ』は、いつかの巨大なゴーレムに乗った、
 『土くれ』の二つ名を持つ、大盗賊――
「なんであんたが出てくるのよ――フーケ!!」
 ルイズは叫んだ。
 対して『それ』は――フーケはゴーレムの肩に腰掛け、月光の下、ニヤリと笑った。

 ◇◆◇◆◇

 それは結界の内側。
 トリステイン魔法学院の図書室の最奥。『人払い』と『認識阻害』の魔法により他者には見ることの出来ないそこ。
 幾つもの書籍とともに地上三メートルの位置に滞空する、『赤いてるてる坊主』――アリスは静かに閉じていた瞳を開けた。
「……エリオさんが落ちた」
 リィン……――
 少女の呟きに合わせて右目の片眼鏡に吊された鈴が鳴る。
「――介入すんのか?」
 その音に呼び出されるように、高い本棚の陰から忽然と姿を表す銀髪に黒いスーツを着た青年――カオル。サングラス越しの視線を宙に浮く少女に向けてニヤニヤと笑う。
「――必要ないんじゃない?」
 響く声は二人のそれとは違う、少女のもの。しかしその姿は無い。
「――大丈夫だろ、彼なら」
 次いだ声は低い男のそれ。先の声と同様、その姿は図書室のどこにも無い。
「――どうしますか? 我が主」
 そしてまた姿無き女性の声。アリスでもなく、先の少女のものでもない落ち着いた大人の女性の声。
「……しばらくは様子見に徹するわ」
 それらの声にため息を吐かんばかりの、心底つまらなそうな声でアリス。幼い見た目と打って変わっての乾いた表情で言い、足下の青年へと視線を向けた。
「もし彼が死んでも……――」
 そっと瞳を閉じ、開けた、その時には、
「――『人柱』はあるでしょう?」
 少女の付けたモノクルの内側――アリスの右の瞳には、
「ま、確かに」
「なんなら私が出よっか?」
「いや、俺やアルと同じで介入出来ないだろ?」
「……我らは未だ、この世界に紹介されてませんから」
 ――血色の魔法陣が浮かんでいた。

 ◇◆◇◆◇

 状況は最悪だった。
 いつの間にか眠ってしまっていたエリオとともにただ床に座り、呆としていたルイズ。魔法薬調合のため部屋に籠もっていて気付かなかった少女との違いは、寝ていても尚、外からの襲来に気付ける人間と一緒にいたことだけ。
 いきなり飛び起きた青年に対し、ルイズはしばらく怪訝な視線を向けていたが――
「良かった、覚えてくれたのね」
 ――ベランダの向こうに佇むゴーレムを目にして血相を変えた。
「あんた、今は牢屋に入ってるはずじゃ……」
 頬を冷や汗が流れて過ぎる。
 ……最悪だわ。
 おそらくは治癒魔法のために精神力を使ったであろうモンモランシーはもとより、重傷を負って気絶している青年ななど頼れない。
 故に、
 ルイズは二人を庇うように、フーケへと一歩近付く。
「あら? まさかまた、あなた一人でわたしに挑む気?」
 そんな少女に嘲笑を向けながらフーケ。いつかのようにどこまでも見下しきった視線でルイズを見、しかし以前のように油断はしない。
 ……最悪。
 ルイズはそんな彼女を睨みながら奥歯を『ギリ……』と鳴らす。
 ……どうする?
 フーケの実力は知っている。
 以前の『破壊の杖』に関する事件で直接的、間接的に戦い、自分とキュルケ、タバサと今はいないギーシュの四人を撃退し、キュルケとカルディナに重傷を負わせた『土』のメイジ。最終的にエリオ一人に圧倒的な実力差でもって捕縛され王宮へと送られた、『土くれ』の二つ名持つ大盗賊。
 エリオの倒れた今、彼女を倒せるメイジは一人しかいない。そしてその人はおそらく階下の喧騒に巻き込まれて身動きが出来ない状態だろう。
 つまり――最悪。
 前回のような『杖に見えない杖を使う』という奇策は、フーケに限ってはもう通じない。頼みの綱のワルドは階下。切り札中の切り札である青年は二人の盾となって撃沈。
 今、目の前のメイジと戦えるのは二人。その内、モンモランシーは精神力に難があり、今尚重態だろう青年の治療をしなければならないため戦えない。
「……あんたの相手はわたしがするわよ」
 つまり、必然的に残るのはもう一方のみ。
 ルイズは青ざめた顔をフーケに向け、冷や汗の止まらない頬をそれでも挑発的に歪める。
 ……最悪ね。
 どうやっても勝てない。それをわかっていて、ルイズは背を向けない。
「ルイズ……!」
 その背に友だちがいるから。
 その背に大切な使い魔がいるから。
「……エリオを連れて逃げなさい、モンモランシー」
 ともすれば竦んでしまう両足を、それでも前へと進め、
「下に。それでワルドに守ってもらいなさい」
 杖を片手に、
 夜風に学院のマントをはためかせて、
 フーケにまた一歩、近付く。
「ルイズ……!? あなたまさか――」
「良いから、早く!」
 ルイズは、逃げない。
 決して、敵に背を向けない。
「フーケなんてわたし一人で――」
 そんななけなしの勇気と意地を賭けて立ち向かう少女を、

「――……ばかね」

 フーケは嘲り、
 ドッグォオオオオ――――……!!
 次の瞬間、ゴーレムの巨大な拳が振り下ろされ、半壊した部屋を粉砕。
「なっ――!?」
「きゃっ――!!」
 床に走る亀裂は即座に倒壊。部屋の内外を問わず、床という床が自重に耐えられなくなって崩れ落ちる。
 遠く、近く、悲鳴が上がり、『ゴォオオオ……!』と、地響きを立て、宿の一部が呆気なく崩れる。
 そこに居た、三人を巻き込んで――
「…………」
 それを、
「……………………」
 フーケは笑みともつかない、なんとも言えない微妙な表情を浮かべて眺めていた――。

 ◇◆◇◆◇

 死ぬかと思った。
 何の誇張でも無く、たまたま崩れ落ちた階下にキュルケやワルドたちが居て、タバサが落ちてきた自分たちに気付いて魔法を使ったから良かったが、そうでなければ間違い無く死んでいた、とモンモランシーは思った。
「……なるほど。敵にはあの『土くれ』のフーケがいるのか」
 落ちてきた二人の話を聞き、この中で最も頼れるだろう子爵は思案顔で腕を組み、瓦礫の向こうを睨んだ。
 倒壊し、瓦礫の山を成す酒場の成れの果て。そこに今、ルイズたちは居る。
「……参ったね」
 そして瓦礫を挟んだ向こうには、たくさんの傭兵がいて時折矢を飛ばして来る。モンモランシーら三人が気にしていた階下の喧騒の元凶が彼らであり、酒場にいたワルドら三人にいきなり襲いかかったらしい。
「やっぱり、この前の連中は、ただの物盗りじゃなったわね」
 フーケによって崩落した瓦礫を挟み、今なお殺意を向けて来る連中に苦い顔を向けてキュルケ。
「あのフーケがいるってことは、アルビオン貴族が後ろにいるということだな」
 少女の言葉に頷き、ワルド。そして苦い顔で何かを考えてるらしい彼をチラと見て、キュルケは考える。
 ……連中はちびちびとこっちに魔法を使わせて、精神力が切れたところを見計らって一斉に突撃する気ね。
 そしたらどうする?
 キュルケはワルドに向けていた視線を隣の少女に向ける。
「……いま動くのは危険」
 無表情にタバサ。その自分が最も信頼する友人からの言葉に苦笑で返し、視線を背後へ。
「……大丈夫なの?」
「傷自体は塞いだわ。今は気を失ってるだけよ」
 不安顔を気絶した美女に向けるルイズと、こんな状況でありながら治癒魔法を使うことに余念の無い様子のモンモランシー。
 ……二人は戦力外ね。
 内心でそう結論付け、視線を少女の中心で瞳を閉ざし、巻かれた赤黒い包帯が痛々しい美女に向ける。
 ……最悪ね。
 思わずため息を漏らすキュルケ。こういった危機的状況に何よりも信頼出来る青年を欠いた今、彼女には現状を打破する術が思いつかない。
 せめて何か一つでも手があれば――
「いいか諸君」
 そんな折に聞こえた低い声。キュルケはハッとした面持ちで声を発したワルドを見た。
「このような任務は、半数が目的地にたどり着ければ、成功とされる」
 半数。
 つまり残りは――
「…………」
 その言葉を聞き、タバサはスッと音も無く杖を自分とモンモランシー、そして倒れたエリオへと向け『残る』と言った。
「なっ――!?」
 ギョッとしてタバサを見る。
 しかしこんな時にも無表情な少女はキュルケを無視して残る三人を杖で示して小さく口を開く。
「桟橋へ」
 キュルケ、ルイズ、ワルドを当分に見回して言った。
「時間は?」
 それに真剣な声でワルド。
「今すぐ」
 迷わず、間髪入れずタバサ。残された半数がどうなるか――それをわかっていて少女は言った。
 そして、
「却下よ」
 その案を切って捨てる。
「…………」
 少しだけ目を丸くして自分を見つめる少女にキュルケは笑いかける。
 ……さすがね、タバサ。
 半数――それを聞いてギョッとした自分とは違い、即座に片方を切り捨てる覚悟を決め作戦とも呼べない作戦を口にした少女に心底感嘆する。
 さすがはタバサ。さすがはあたしが認めた、あたしの友だち。
 窮地の時、頼りになるのは何もエリオだけではない。そしてそれが故に、キュルケは信頼する少女の言葉に異議を唱える。
「タバサ。あなたもルイズたちと行きなさい」
「…………っ!」
 その言葉に今度こそ誰が見てもわかるほどに大きく目を丸くするタバサ。
「残るのはあたしとモンモランシーとダ――キャルゥ? よ」
 キュルケは視線をワルドに向けて言う。
 それに子爵は残されるのがどちらでも大して興味は無いのかあっさりと頷き、
「だめ」
 タバサが食い下がった。
「あなたは行って。残るのはわたしと――」
 少女は真っ直ぐにキュルケへと視線を向けて口を開き、
「タバサ」
 キュルケは少女を抱き締めて言葉を止め、
「……………………ょ」
「――――!?」
 耳元でそっと囁き、頬に口付け。
 そしてキュルケは、絶句し、呆然とするタバサから体を離しウィンクを一つ。笑顔をただ成り行きを見守っていたワルドへと向け、口を開く。
「残るのはあたしよ。すいぜい派手に暴れるからその隙にとっとと桟橋にでも行きなさいな」
 その台詞に、もう反論の声は上がらない。
 ワルドはキュルケの傍らで顔を伏せ、口付けされた頬に手を当てて佇む少女を一瞥し、それから視線を背後へと向けて口を開く。
「聞いての通りだ。裏口に回るぞ」
「……え?」
 子爵の視線の先――言われたルイズは目を丸くして驚いた声を上げた。「え?」
 少女は今まで彼らの話を聞き流していた。
「ええ!」
 重態の使い魔のことで頭がいっぱいだったため、タバサやキュルケの言葉も聞くとはなしに聞いていたため気にしていなかったのだが、
「今からここで彼女が敵をひきつける。その隙に、僕らは裏口から出て桟橋に向かう」
 狼狽する少女を見つめワルドはそう宣言し、
「で、でも……!」
 ルイズはオロオロと傍らのモンモランシーを見た。
「……ま、仕方ないわね。わたしたちは足手まといだしさ」
 それに苦笑し、気絶する青年へと視線を向けるモンモランシー。そしてゆっくりと彼の血で汚れた頬をハンカチで拭いながら、小さな声で言葉を次ぐ。
「……大丈夫よ。あなたの使い魔はわたしの命にかえても守ってみせるから」
 ……ぁ。
 ルイズはそう言った少女の顔を見てようやく気付いた。
 先ほどまでキュルケやタバサが『どちらが残るのか』で軽く言い争っていた理由がようやく。
 半数が行き、半数が残る――その言葉の意味をようやく理解した。
 そう、つまり――

 ――残された半数は死ぬ可能性が極めて高いということに、ルイズはようやく気付くことが出来た。

「そ、そんなの――!!」
 たまらずルイズは首を振って全てを否定しようとし、
「行こう」
 それを、小さな声が遮った。
「え……?」
 呆然とルイズは声の主を――この作戦の危険性を一番明確に理解しているだろう青い髪の少女を、見る。
 ……どうして?
 ルイズは困惑する。一番キュルケが残ることを反対していたタバサには、もう迷いが無かったから混乱する。
 そして、
「――ねえ、ヴァリエール」
 呆然としたまま、ルイズは視線を転ずる。
「勘違いしないでね? あんたのために囮になるんじゃないんだからね」
 その視線の先で、赤毛の少女はいつものように挑発的に笑っていた。
「キュルケ……」
 ルイズは泣きそうになった。
「ほら、さっさと行きなさいよ」
 そんな彼女の背を、傍らの少女が押した。
「モンモランシー……」
 巻き毛の少女もいつものように笑っていた。
「タバサ……」
 不意に手を握られ、その手の先で青い髪の少女が表情に乏しい顔で頷いて見せた。
「…………………………………………」
 ルイズは顔を俯けた。
 肩を震わせ、歯を食いしばり、そしてすぐに顔を上げた。
「……行くわ」
 今にも泣き出しそうな顔で、
 まるで泣いているように声を震わせながら、
 それでも少女は涙を流さず、言った。
 これが今生の別れにならないように、青年と別れると決めた時に一緒に決めた誓いを違えぬように――
「…………行こう」
 少女は泣かない。
 今だけは決して――。






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らいそーのきし対談

嗣希創箱(以下、嗣)「風邪引きました」

カルディナ(以下、カ)「……もはやカルディナはレギュラーでしょう?」

ヴィヴィオ(以下、ヴ)「……もしかしてこの対談に呼ばれる人って……本編では活躍しない?」

嗣 「ついに二巻を買いました!」

カ 「……やっぱり無視でしょう」

ヴ 「『二巻購入』って……遅くない? 本編の二章ももう半ばを過ぎてるよ……?」

嗣 「それは仕方ないんです! 経済的な理由で仕方なかったんです! そんなワケでようやっと買えました、二巻が! 『タバサの冒険』の二巻が!!

カ 「そっち!?」

ヴ 「『ゼロの使い魔』は!?」

嗣 「(視線逸らして)……図書室で借りれば良いかなぁ、と」

カ 「……二章終わりますよ?」

嗣 「が、頑張ります(汗)」

ヴ 「ちなみにヴィヴィオの活躍は?」

嗣 「当初の予定ではありましたが、とある事情から完全にカットしました」

ヴ 「ええ〜!!」

カ 「納得。時系列的に当然でしょう。ヴィヴィオのお話は『雷槍の騎士』の三年から四年前です。つまり――」

嗣 「下手に活躍なんてさせたら完全にネタバレです。同様の理由で白い魔王様も出せません」

ヴ 「なのはママ?」

嗣 「完全無欠、徹頭徹尾、全身全霊をもって本編には出しません。時系列的に今の彼女は色んな意味でネタバレの化身です」

カ 「作者のSSは基本的に完全リンクです。故に先生(※『なのは』の意)は他作品の先生と異世界同一存在なので出すだけで他作品の先生の情報を提示してしまうんです」

嗣 「ちなみにフェイトに限ってはほぼ例外的で、出しても問題ありません」

ヴ 「な、なんでフェイトママだけ……?」

嗣 「嗣希創箱の独断と偏見と独自設定からフェイトのみ例外的に他作品とリンクさせてませんので」

カ 「先生も『どちらかの先生』によってはリンクされません」

嗣 「こちらも例外的で『なのは』に限っては二種類の存在を用意していますので」

カ 「具体的には『アニメ』か『原作』かの違いでしょう」

ヴ 「??? じゃ、じゃあヴィヴィオやエリオは?」

嗣 「完全リンク。他作品でも基本設定はそのまま流用しています」

ヴ 「カルディナやアリスは?」

カ 「オリジナルキャラも同様。カルディナはリンク。アリスもリンクしていますが――」

嗣 「アリスに限り、ネタバレ上等です。――さてここいらで閑話休題。本編のことに関した対談を少し。ズバリ、二章の後はヴィヴィオの話を書くか三章へと行くかで悩んでいます」

ヴ 「『ヴィヴィオの話』に一票!」

カ 「『両方』に一票。理由。どちらでもカルディナは出ます」

嗣 「……まぁ、二章が終わった頃には資料が出揃ってるかも知れませんので『改訂版』の執筆が先かも知れませんが、とりあえず二章を頑張ります。――というワケで、さあ、次回の予告を!」

カ 「予告? ……『ゼロの使い魔』本編をご存知の方には不要では?」

ヴ 「えっと……ヴィ、ヴィヴィオは出ませんっ! ママたちも出ません!」

嗣 「敢えてサブタイトルを付けるなら『わお☆傭兵いっぱい、フーケも出てきてさあ大変!』と、そんな感じです」

カ 「次回、カルディナの再登場にご期待下さい」

ヴ 「ヴィヴィオも出るかこうご期待!」

嗣 「……いや、二人とも出ないし」

カ&ヴ 「「が〜ん」」

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《ゼロの使い魔〜雷槍の騎士〜2》12

《ゼロの使い魔〜雷槍の騎士〜》







 宿に戻ったモンモランシーとキュルケ、そしてタバサの三人は、三人ともに思った。
 ――まさか早速、傷薬が必要になるとは思わなかった、と。
 自分たちが出掛けている間、先日まで重態であった青年は、あろうことか無理を強いて子爵と決闘をした。それだけでも信じられないのに、その挙げ句、右手の骨を複雑骨折するという重傷を負い、もとから無かった体力を使い果たしてか起きられなくなったと言うのだから呆れてしまう。
「あ、あなたねえ! 明日にはアルビオン行くってわかってて何やってんのよっ!!」
 ベッドに横たわるエリオの傍らに座り、彼の手のルイズにより巻かれた不格好な包帯を外しつつモンモランシー。青年の話を聞き終え、憤怒の形相に若干涙目をプラスした顔をエリオに向け、思いっきり怒鳴った。
 ……て言うか、わたしの買い物は無駄?
 今朝、せっかく明日のためにと買い集めた傷薬の原料は、それが原料であるがために使えない。それがとてつもなくもどかしい。そんなワケでモンモランシーは彼を睨みつけて言う。
「エリオ! あなたまだ貴族を舐めてるの!? そもそも昨日の今日で、どうして子爵と決闘なんてしてんのよっ!!」
「い、いえ。そ、そういうワケでは無――って痛!」
 ブチ切れ状態の少女を前に引きつった笑みを浮かべてエリオ。起き上がれず寝たきりでありながら未だ栗色の長髪美人のままの彼は、モンモランシーに反論しようとし、痛みに顔をしかめて彼女の隣に座る少女を見た。
「自業自得」
「…………はい」
 巻き毛の少女と一緒になって自分の怪我の治療をしてくれていたタバサは、心なしか責めるような視線を向けて、ポツリ。彼女としても念の為にと買っておいた傷薬をまさか皆の目の前で使う羽目になるとは思っていなかったため、若干不機嫌であった。
「すみません。ご迷惑をかけます」
 そんな余人には無表情にしか見えないタバサの顔を見てエリオはうなだれて謝る。彼は身内に感情を面に出さない娘がいるため、なんとなくでも少女の思いを知れるのだった。
 傷薬の値段を訊くのは……やっぱり野暮、かな?
 モンモランシーと二人、タバサが買って来たらしい魔法の軟膏を自分の手に塗っている少女を眺めつつ思う。おそらくは厚意でだろうそれの値段を問うのは、何だか気が引けた。
 ……後でなにかお礼をしよう。
 そう思い、今の手持ちを思い返す。最近はルイズに何もかもを出して貰うのは忍びないと思い、学園の厨房でアルバイトに励んでいたため雀の涙ほどだが個人のお金が無いこともない。いつかの治療費や衣食住を賄ってくれた少女への恩返しのためにこつこつと貯めているのだが、仕方ない。なんだかんだで彼女ら三人にはお世話になっているし、足りなければ後で管理局にでも問い合わせて幾らかあっちの貯金を両替して貰おう。
 などと青年が考えている間に治療を終えて包帯を巻き直していたモンモランシーは最後にしっかりと端を止めて口を開いた。
「はい、おしまい! もうあんまり無茶しないでよ?」
「あ、はい、すみません」
 ジロリと睨みながら言う少女に反射的に謝るエリオ。それから『あれ?』と不思議そうな表情を彼女に向けて首を傾げて口を開く。
「あの……別に無茶はしてませんよ?」
 多少の無理はしたが、無茶はしていない。自分の限界を正しく把握した上で予め予想していた範囲内での戦闘に留めたという自負があるエリオは少女の言葉にやんわりと反論した。
「この怪我にしても予想通りっていうか、ほとんどわざとですし」
 言いつつ右手をぶらぶらと振る。
 もともとワルドとの決闘では負傷するのを前提とした作戦立てをしていたし、それが必要だったからこそ負傷して問題ない右手で攻撃を受けたのだが、
「はあ!? ちょっ、ちょっと待ってよ! わざとって何!? あなた、自分から怪我するようにしたって言うの!?」
 しかし当然、そんな事情も覚悟も知らないモンモランシーは不機嫌いっぱいの表情を青年に向けて怒鳴り返す。
「冗談言わないでよ! て言うか、なんでわざと怪我する必要なんてあるのよ!?」
 そんな、ベッドに横たわるエリオに半ば覆い被さるようにして怒鳴るモンモランシーを青年は苦笑を浮かべて、なるべく彼女を刺激しないようにゆっくりと口を開く。
「いえ、これぐらいの怪我なら問題ありません。右手が使えなくてもデルフリンガーは左手一本で振り回せますし、しっかりと固定すれば問題なく戦闘を――」
「そういうことじゃないでしょう!!」
 モンモランシーはそんな青年の言葉をピシャリと遮り、胸倉を掴んで睨む。
「戦闘って何よ!! あなた、もしかしてこんな状態でまだ戦う気なの!?」
 まだ戦える。だから問題ない――そんな理由を少女は許さない。そんな理由で怪我をしても大丈夫なんてこと、あるワケがないとモンモランシーはエリオの目を真っ直ぐに見つめて怒鳴る。
「あなた正気!? 少しは逃げようとか明日っからはせめて動かないようにしようとかって思わないの!?」
 明日――戦時下であるアルビオンに彼らは行く。そしてそれに自分たちは付いて行けない。
 これから先、青年が怪我しても治療出来ない。これから先、自分たちは彼の無茶な振る舞いを諫められない。
 だからこそモンモランシーは今、怒鳴る。
「それ以前に、なんで子爵と決闘なんかしたのよ!? あなた昨日まで――」
 それを、
「ありがとうございます」
 やんわりと遮って、エリオは微笑む。
「んなっ!?」
 その不意の微笑に別の意味で真っ赤になるモンモランシー。言おうとしていたことや内心の憤り、その他すべての事柄が『ボン』と一瞬で頭から抜け落ちたように少女は絶句する。
 そんな少女の頭に手を伸ばし、優しい瞳を向けてエリオは言う。
「心配してくれてありがとうございます。ですが大丈夫です。僕は無茶だけはしませんから」
 平時であれば『どの口が言えるのよ!?』などと怒鳴り返すところだが、今の少女はそれどころではない。青年の必殺技『エリオスマイル』と『頭なでなで』という最強コンボに思考回路をショートさせられているため真っ赤になって何も言えない。
「大丈夫です」
 少女の瞳を真っ直ぐに見つめながら、告げる。
 自分のことを真剣に心配し怒ってくれる友人に、微笑んで言う。
「避けられるべき戦いは避けますし、自分の状態もちゃんと把握しています」
 少女の言う無茶と青年の思う無茶は違う。
 それをわかった上でエリオは、尚『大丈夫』と告げる。
「……心配、いりません」
 エリオは笑う。自分のことを真剣に思ってくれる少女のために笑いかける。
 ……無茶はしません。
 呆然とするモンモランシーの頭を撫でながら、思う。
 僕は負けません。絶対に。
 自分のことを思ってくれる人のために。自分のことを大切に想ってくれる人たちのために。
「信じて下さい」
 無茶はしない。『死んでも勝つ』や『無理を承知で』とは考えない。
 無理はしない。勝てないと思えば逃げるし大怪我をするとわかっていれば他者に頼りもする。
 ……僕は一人じゃないから。
 死なない。
 落ちない。
 絶対に。
「……………………うん」
 ――思いは、伝わる。それが真剣であればあるだけ、伝わる。
 モンモランシーは赤い顔のまま静かに頷いた。
 もう、青年の覚悟の前に自分には言えることなんて無いのだと内心で悲しみながら――。

「あら、なんだか良い雰囲気みたいね?」
 ちなみにキュルケも同じ部屋にいたが、一人ベッドから離れたテーブルに座って買ってきた装飾品を物色していたり。

 ◇◆◇◆◇

 モンモランシーら三人が帰って来るやエリオを任せて部屋を出たルイズはワルドの誘いで一階の酒場に居た。
「――キャルゥを置いて行くって……どうして!?」
 向かい合わせの席に座り、今後のことを話し合っていた矢先、少女は子爵の言葉に食ってかかった。
「どうして、とは?」
 対してどこまでも涼しい顔でワルド。明日のアルビオンに彼を連れて行かない――その言葉にどうして少女が反論しようとするのかわからないと言った体で返す。
「彼女が足手まといなのは火を見るより明らかだろう?」
「そ、そんな――!!」
 ルイズはそんな子爵の態度に困惑を隠せない。
 エリオが、足手まとい? ――そんなわけない、とルイズは信じて疑わない。
 なにせ彼はあんな状態で子爵と決闘し、辛くも勝利して見せたのだ。故にこそ足手まといなんてことは無いと思うし、それは子爵自身が一番わかっているはずだと思っていた。
「どうして……? だってキャルゥはあなたに――」
 そもそも決闘自体が彼の実力を計るためであったはずだし、その勝利の条件に青年の同行を認めるという話だったはずだ。
 そう思い、反論するルイズにワルドは、
「勝敗は関係ないよ」
 首を左右に振って苦笑する。
「そもそもあれは彼女の実力を計るためのものだろう? それにキャルゥは確か――」

 ――僕が勝ったら、ルイズを戦争に連れて行かないと約束して下さい。

 ――彼女がそれを望むならともかく。それ以外の理由で、ルイズを戦争に巻き込まないと約束して下さい。

「ぁ――!」

 ――? きみが勝ったら、アルビオンに連れて行って欲しい、という条件では無いのかね?

 そう。確かに彼は、言った。

 ――そもそも決闘事態の目的が、僕が足手まといかどうかを調べるためです。……ならそれは、勝ち負け以前でしょう?

 勝敗など関係ないと彼自身が言っていた。
「――もう一度訊くが……。ルイズ、きみは今の彼女の状態を足手まといでないと思うかい?」
「それは……」
 ルイズは困惑の色を濃くし、ワルドから視線を外した。
「…………」
 彼の言わんとしていることがようやくわかった。
 足手まとい――そう言われれば確かに、と今度は素直に頷けた。彼の状態を思えばこそ、頷けた。
 ……エリオ。
 ルイズは顔を俯けて、思う。
 彼が何のために戦ったかを。青年が誰のために無理をしたかを考える。
「確かに、彼女は強いが……」
 そんな少女にワルドは柔らかい笑みを向けて言う。
「今の彼女を連れて行くのは、些か酷ではないかな?」
「…………」
 ルイズは言葉を返せない。
 彼の状態を思えばこそ、返せない。
「ルイズ。彼女がなんのために無理をするか、きみならわかっているだろう?」
 そんな少女にワルドは優しく諭すように言う。
「今日は僕が相手だったから良い。でも明日は? これから先、もしアルビオン貴族に襲われた時、彼女はま