※ 前書き
この作品は『魔法少女リリカルなのは』、及び『Fate/stay night』という作品のキャラクターを『魔法先生ネギま!』という作品に登場させるという形のクロス小説です。途中、この三作品をご存知ない方には非常に解り難い表現が含まれていますので、それを承知の上でご覧下さい。
また、作中に著者による独自解釈、設定、世界観、オリジナルキャラなどが描かれていますが、こちらも事前にご了承の上でご覧になって下さい。
《THE SECOND LIFE》
女子寮の一室。あたしとケイトの二人がこの世界で借りた部屋の中。
「――吸血鬼?」
身体測定の授業? で柿崎から聞いた噂話をそのままケイトにしてみた。
「なにそれ? と言うより、それってエヴァンジェリンのことじゃないの?」
さっさと制服を脱ぎ散らかして部屋着の赤いワンピースへと着替えたケイトが床に散らばった自分の制服をハンガーにかけつつ、あたしの言葉に疑問符で返した。
「それとも他にいるの?」
「いや、あたしもそれを確認したくて聞いたんだ」
ケイトの言葉に部屋の中央に敷かれたコタツに入りつつ返す。……なんだ、ケイトも知らねーのか。
柿崎たちクラスの連中には「いるわけねーだろ」と返しはしたが、実際あたしらは吸血鬼の存在を認知している。知り合いに近しい奴がいるってのもだが、何よりこの世界の、よりにもよって同じクラスにいるのだから認めないわけがない。
「ま、あたしらには関係ねーのか」
コタツのぬくぬく感に表情を緩ませつつ、あたし。なんかクラスの奴が吸血鬼にあって血を吸われたとかって言ってたが、まあ管理局の人間には関係ねー。目の前で襲われたんなら助けもするが、いちいち余所の世界の事件に首を突っ込む必要はねーし、そもそもあんま干渉すんなってのが決まりだしな。
……それにあたしにはもう魔法の力はほとんど残ってねーし。
コタツの上に顎を乗せて瞳を細める。まだみんなが現役だった頃を懐かしく思い、そしてそれと同時に連中がいなくなってからの虚無感が蘇る。
……本当に、あの頃の奴ん中でまだ生きてんのはあたしみたいに不老長寿の連中だけだな。
百年……それだけたてば人は死ぬ。はやてもなのはもフェイトもみんな……。教官だった頃の教え子も、局で一緒の部隊になった連中も……。その子供も……。
時の流れってのはみんなに平等で、そして無慈悲で……。その流れに置いてきぼりを食らわされたあたしらは、たくさんの別れを経験して心を摩耗させてきた。
「……わりぃ。ケイト、あたしは――」
コタツから顔を上げ、こちらに不思議そうな顔を向けるケイトに思わず謝罪を口にしかけ、
――……すまんな。結局、お前だけを残すことになってしまった。
『ハッ』と我に返り、顔を俯かせる。
……なに考えてんだ、あたしは。内心で自嘲の笑みを刻み、ケイトには見えないようコタツの中で拳を握り締めた。……今さら、先に逝くことを謝るなんてどうかしてる。そんなのはケイト自身知っていて、それでもあたしのためにコイツは今、あたしと供に居るんだ。
「――不安? それとも心配?」
そんなあたしの向かいに座り、同じようにコタツに入りつつケイト。いつもの演技臭い微笑ではない、奴特有の枯れた笑みを口元に刻んで静かに問う。
「…………いや、わりぃ。今さら、だな」
それに視線を逸らして返す。……ああ、そうさ。今さら、だ。
知人の死を見送るのなんて、今さら過ぎて反吐が出る。親しい人間の喪失を悼むのなんて当たり前過ぎて、今さら謝罪されたって意味がねー。
誰が何と言おうと関係ねー。死に別れってのは悲しいんだ。それが当然なんだから今さら――
「――気にするな」
そんなあたしの物思いを遮る、声。
呆然とした顔をケイトに向ける。
「……たぶん、結局、生き残るのは“俺”みたいなロストロギア崩れの連中だけだ」
ケイトは枯れた苦笑を浮かべて言う。
「今は『アギト』や『リィン』も辛うじて稼働してるが……たぶん、あと百年もすれば停止する。『ヴィジャヤ』はそれなりに長生きするだろうが……それでもいずれは別れの時がくる」
ユニゾンデバイスや竜族なんかとは寿命の桁が違う。ケイトたち生きるロストロギアとでは根本的に流れる時間に対する耐久力が違う。
気が遠くなるような月日を跨いで尚、彼らは生きる。その中でたくさんの出会いと別れを経験し、たくさんの喜びや悲しみを感じて生き続ける。
「だけど、俺たちはまた、出会いと別れを繰り返す」
瞳を細めて、どこまでも空虚で乾いた笑みを浮かべてケイト。それを眺めながら、あたしは思う。……ああ、もしかしたら“初代リィン(あいつ)”もケイトみたいな思いをしていたんかな、と。
それは悲しいことか。
それは幸せなことか。
百年ちょっとしか生きてねーあたしにはわからねえ。あたしにはコイツらの苦しみも痛みもわかりゃしねえ。
「ケイト……あたしは――」
……わかんねえ。わかんねーけど、あたしはケイトをそんな風に笑わせることしか出来ないのが嫌だった。
「――気にするな」
……あ。
ケイトはあたしの思いを知ってか知らずか、また乾いた苦笑を浮かべてあたしの言葉を遮った。
「ヴィータ。君は俺にたくさんの思い出をくれた。だから気にせず、最後の最後まで笑ってろ」
言って、『くしゃり』とあたしの頭を乱暴に撫でるケイト。……ふん。仕方ねー、今だけは大人しく撫でられてやらあ。
あたしはそっぽを向く。……つーか、なんでコイツらはことあるごとにあたしの頭撫でんだ? あたしはガキじゃねーぞ?
「それとね、ヴィータおねえちゃん」
…………って、おい!
あたしは突然声音を『八神ケイト』に戻して、雰囲気その他まとめて素のそれとは違う少女然としたものになるケイトを思いっきり睨み、その手を乱暴に払う。
「きゃっ!?」
「『きゃっ』じゃねー!! てめぇ……何いきなり猫被ってんだ?」
言いつつ『ぐいー』とケイトの奴の頬を引っ張る。この! あたしがせっかくマジで話してたんにコイツ! 気恥ずかしさも手伝って、あたしはケイトの、自分と同じ顔の頬を力の限り左右に引っ張った。
「いっ、いひゃいれふ、ほねえひゃん……!」
「『おねえちゃん』じゃねー! つか、そう言や、おめえ、なんであたしの姿してんだよ!?」
『ぐいーぐいー』と伸ばしつつ、怪訝な顔で問う。そう言やあ、今さらだけどケイトの奴からはその辺の説明が無かったな。そもそも、なんで管理外世界の学校にあたしやケイトみたいな異端な局員を転入させたんかがわかんねー。
「せ、せつめー、しまひゅから……! 手〜……!」
お〜モチモチしてて以外と延びんなあ。
「手〜……!」
――ハッ!!
「て――ひゃあ!?」
最後に『びよん、バチン!』と伸ばして、放す。お、面白くってついハマっちまったぜ。
あたしは少し赤くなった頬をさすりつつ涙目を向けて来るケイトを内心の思いを隠しつつ睨み、「さ、さっさと説明しろ!」と怒鳴りつける。
「うう……。わ、わかったよう……」
どことなく不機嫌な様子で唇を突き出しつつケイト。くっ……! 今さらだが、なまじ自分と同じ顔の奴があたしじゃ絶対しねーような仕草や表情をしてんのを見んのは、何か無性に気持ちわりぃな。
「……じゃあ、まずはわたしがこの姿になってる理由からね」
顔をしかめるあたしに何を感じてか、ケイトは自分自身を示しながら静かに語り出す。
「まあ理由って呼べるほど大した理由は無いんだけど……。強いて言えば“楽だから”かな」
…………ああ?
「まず、第一の目的がヴィータを学院に転入させることで、それ以外はさしたる理由は無いの」
……………………はあ?
「『管理局がどうの〜』とか『次元震が〜』とか、それらは後付け。簡単に言っちゃえば、“局(した)”の連中に対する言い訳だね」
…………………………………………なんだって?
ケイトのあんまりにもあんまりな説明にあたしは呆然とした顔を向けて口をあんぐり。ちょ、ちょっと待て! な、なんだよ、第一目的が『あたしの転入』って! それは手段であって目的じゃねーだろ普通!?
そんなあたしのことなどさして気にせず、ケイトはあくまでもしれっとしたまま説明を続ける。
「現役は退いてると言っても、ヴィータを単身異世界の学校に転入させるにはいろいろと面倒な理由が必要で、それがないと“局(した)”の連中や“教会(がいや)”の連中がうるさいの。それを無理矢理黙らせるにはわたしが出て行くのが一番楽なんだけど……そういう個人的な理由だけでわたしが前面に出るのを今度は“議会(まわり)”がうるさく言うもんだから大変」
そう言って「やれやれ」と頭を左右に振りつつため息を吐くケイトを、あたしは唖然として眺めた。
こ、この馬鹿は何を言ってんだ? 個人的な理由だとうるさく言われる? ……何を当たり前なことを!
「それでわたしがこの姿になった理由に話を戻すけど、……まあつまりは“議会(まわり)”の連中が出した『前面に出るのなら一切、その姿を他人の目に晒すな』ってのと『魔力の一切を封印』ていう条件を呑んだ結果ね」
あたしの呆れ混じりの視線を受けて尚、ケイトはさらりととんでもないことを告げる。
「ちょ、ちょっと待て……!」
今までの話を聞いて混乱する頭をどうにか整理しようと、ケイトの奴に手のひら向けて制止を促す。
他人に姿を晒すな? 魔力封印?
……じゃあ何か? ケイトの奴は“希少技能(レア・スキル)”意外のチカラを一切使えない状態で、あたしみたいな壊れかけの魔導師くずれと一緒に異世界まで次元震のことを調べに来たってのか?
――ふざけんなよコラ!
「てめ! もしかしてあたしの姿ってのは――!!」
誰かに変身しなければいけなかったから適当に――そう思って怒鳴るあたしをケイトは、
「当然、わたしがヴィータをフォローし易いのとクラスメートに怪しまれないようにだよ」
やんわりと遮り、微笑。
「ほら、『双子』ってことにすればわたしがいっつもヴィータと一緒でも周りは怪しまないし、戸籍その他の設定もフォローし易いからね」
その台詞、その表情に絶句する。
い、意味がわかんねー……。この馬鹿が何を考えてんだか、ぜんぜんわかんねー。
あたしのフォローがし易い? ……そんなんはどうでもいい! そもそも何であたしを連れて異世界まで来た? 何であたしを学校に転入させようとなんてする?
……意味がわかんねー。いや、わかりたくねー……!
あたしは視線をケイトから外す。畜生、この馬鹿……! もしかして“アレ”か? あの時の“アレ”が理由か!?
「……おめー、馬鹿だろ?」
ケイトは馬鹿だ。大馬鹿だ。
あたしを学校に転入させるのが目的? ……なんでだよ。なんで覚えてんだよ、畜生。
――……なあ、ケイト。学校って楽しいか?
“アレ”はまだ、はやてもなのはもフェイトもみんな……みんなが居たときにした会話じゃんか。すげー昔の会話じゃねーか……!
――……そっか。じゃああたしも、一度くれーは行きたいな。
なんで今さらなんだよ……! なんで覚えてんだよ、コンチクショー……!
あたしは内心で渦巻く激情をこらえて思い切りケイトを睨む。この馬鹿野郎が! ふざけんな! おめーはそれでも議会の一人か!? そんな風に視線に罵倒を込め、震えて声の出ない口の代わりとする。
そして、
「……馬鹿でも、ほら、」
そんなあたしに、ケイトは笑って言った。
「俺は絶対――約束は守る」
――……じゃあ今度、一緒に転入しない? 俺は中学中退だから、今度こそ卒業したいし。
――……はあ? おめー馬鹿か? あたしもおめーも局の仕事が忙しくって無理だろ?
――……じゃあ、仕事で♪
――……って、また職権乱用か!? いい加減にちゃんと仕事をしろ! つーかおめーみたいな上司のせいであたしらは忙しいんだよ!!
――……ぅをっ!? じゃっ、じゃあヴィータが忙しく無い時にでも――って、ちょっ!? 艦内で『ギガント』ぉお!?
「…………馬鹿野郎」
あたしは視線をそっぽに向ける。……たく。相変わらずの職権乱用のダメ上司が。
そうは思うが、言葉は出せそうにない。……畜生。
そんなあたしの頭をケイトは優しく撫でる。
いつまでも――。
◇◆◇◆◇
――月満ちる夜に、桜並木に吸血鬼現れ、少女の生き血を啜る。
「……懲りないと言うか、なんと言うか」
適当に高い建物の屋根の上に立ち、俺は遥か遠くに見える桜通りを睨む。
――長瀬の電話は近衛からの伝言だった。
『このか殿から伝言を預かっているでござるよ。衛宮殿を見つけたら桜通りに来て欲しい、だそうでござる』
遠くに見える桜通りには今、神楽坂とエヴァンジェリン、近衛の三人がいた。
一目見てだいたいの事情を察する。神楽坂とエヴァンジェリンが喧嘩している理由も、近衛が俺を呼んだわけもだいたい。
「……神楽坂」
一方的だった。一方的に神楽坂がエヴァンジェリンに投げられ、打たれ、吹き飛ばされていた。
相手が悪い。
格が違う。
そんなことは神楽坂自身もわかっているだろう。
だけど彼女は退かない。諦めない。
傷だらけの痣だらけになりながら、神楽坂は決して逃げたりしない。
投げられても起きる。吹き飛ばされても立ち上がる。
だから――見ているしかない。
俺や、少し離れた位置に立っている近衛に彼女たちの間に入る資格はない。
だから――後は任せろ。
「――……“投影(トレース)”」
神楽坂が桜の木に背を打ちつけ、くずおれる。
エヴァンジェリンが構えを解き、近衛が神楽坂へと駆け出す。
それらを見届け、瞳を閉ざす。
「――“開始(オン)”」
イメージを研ぎ澄まし、
魔力回路に魔力を通し、
幻想を投影する。
「よく頑張ったな、神楽坂」
手の中に生み出された弓。
自身の幻想を世界に投影する――これが、衛宮士郎の魔術。
無から生み出された、イメージが実体化した弓。それを桜通りに向けて構える。
「後は任せて、今は休め」
矢をつがえる。
捻れた刃の“剣(や)”を。
「――“我が骨子は捻れ狂う(I am the bone of my sword)”」
弦を引き絞り、空気を引き絞り。“剣(や)”に魔力を込めて、衛宮士郎はエヴァンジェリンを狙う。
「――“偽・螺旋剣(カラドボルグ)”」
呟き放つは螺旋の刃の模造刀。
偽なれど真との差など皆無。空気を穿ち、翔る剣は一瞬にしてエヴァンジェリンとの距離を詰め――爆発、四散。
遠く――桜通りに立つエヴァンジェリンを閃光が包んだ。
「……警告は、したな?」
瞳を閉じ、肩を竦めて呟き、
「――はい」
それに背後に立つ女生徒、『絡繰 茶々丸』は抑揚の無い平坦な声で応えた。
「申し訳ありません衛宮先生。マスターの命令ですので」
「……そうか」
瞳を開け、振り返る。
地上二十メートルほどの屋根の上で、俺と絡繰は向かい合い、そして――瞬時に肉迫する!
残像すら残す俊足で眼前に迫る絡繰。その勢いのまま、女子中学生とは思えないプロの戦士もかくやという速度で放たれる彼女の拳。
それをすんでの所で頭を左に傾けてかわし、バックジャンプ。屋根から飛び降りた。
「――“投影、開始(トレース・オン)”」
脳裏に浮かぶ撃鉄を押し、魔術回路に魔力を流す。
これが魔法使いでは無い異端の魔術師たる衛宮士郎の戦い方。
戦うべくは己の内で。想像を創造せし異色の魔導。
創造の理念を鑑定し、
基本となる骨子を想定し、
構成された材質を複製し、
制作に及ぶ技術を模倣し、
成長に至る経験に共感し、
蓄積された年月を再現し、
あらゆる工程を凌駕し尽くし――
「――っ!?」
俺を追い、屋根から飛び降りた絡繰は、彼女にしては珍しく驚愕に目を見開いていた。
それを着地しながら彼女を見上げていた俺はニヤリと笑って見せる。
「――“投影、完了(トレース・オフ)”」
俺の手に携えられるは白黒の夫婦剣――干将、並びに莫耶。
こちらへ追撃のためか真っ直ぐに降下して来た絡繰に二刀を持って迎撃。空中ならば身動きが出来ない――それを予測しての行動だったが、
――絡繰は空中でいきなり制止した。
「……なるほど」
そう言えば絡繰はロボットだったな。
背中や足からバーニアを生やし、制止状態から即座に距離を置いて地に降りる彼女に苦笑を向ける。
「失念していました。衛宮先生は武具を自在に創世出来る魔法使いでした」
二十メートルの距離を挟み絡繰が構え直す。
俺も同様に構えながら、彼女の言葉に対して口を開く。
「いいや、絡繰。俺は魔法使いじゃないぞ」
「?」
……そう、俺は魔法使いじゃあない。
そもそも俺は“コチラの世界”にいる魔法使い達とは決定的に異なる手順と手段を用いて魔導を行使している。
だから、俺は――
「――魔術使い、だ」
瞬動。
絡繰の背後へと即座に移動。
彼女の背に干将莫耶を振り下ろし、
絡繰は背と足のバーニアを使って即座に反転。二刀を避け様、腕をコチラに向ける。
! 絡繰の腕が――伸びた!?
驚愕しながら、迫り来る拳を干将で払い、莫耶を絡繰に向けて突き出す。
彼女はそれを、俺の腕を掴んで引き、突きの勢いをそのままに方向を変えるという形でさばく。そしてそのまま、放った拳がワイヤーで戻る前に俺との距離を一歩詰め――肘打ち。
干将の刃を盾にして防ぐも、その衝撃に耐えられなくなってか『バリン!!』と干将が砕けた。
「「――――」」
両者、即座にその場を離脱。またも二十の距離を挟んで対峙する。
……正直、驚いたな。まさかここまで苦労するとは思わなかった。
砕けた干将を捨てつつ苦笑。
「……先に確認だが絡繰。お前はどこを破壊されたら再起不能になる?」
問いつつ、ワインレッドのスーツの内へと開いた手を入れる。
「そうですね。おそらく人間と同じように頭部、そして心臓部を破損するか、首を切断され思考回路と動力源とを分断されてしまえば終わりかと」
スーツの内、ワイシャツの内。左腕に巻かれた『それ』に触れる。
「そうか。なら、悪いがそれ以外の箇所を破壊させてもらう」
苦笑を濃くする。まさかこんな所で奥の手を披露するとは思わなかった。
「お気になさらずに、衛宮先生」
「絡繰……その『先生』ってのは止めてくれ」
ワイシャツの内の、腕に巻かれた『それ』――“聖骸布”に触れる。
……さて、覚悟を決めよう。
ここで時間を食ってしまっては神楽坂や近衛が危ない。だから一瞬で絡繰には行動不能になってもらわなければならない。
「俺は先生って柄じゃない。だから名前か、他の生徒みたいに『ヘルパー』とでも呼んでくれ」
だから――“聖骸布(ふういん)”を少しだけ緩める。同時、
「もしくは、そうだな…」
左腕から流れて来る魔力。
五年前なら意識を刈り取っていただろうそれも、今の俺には大した影響を与えられない。
強くなった、というより“近付いた”という方が正しい。
忌々しい己の末路に。俺の先を行った、道を間違えた衛宮士郎に。
近付いた。強さを求め、何度も何度も奴の力を解放して来たがために染められた。
だから、そう――
「絡繰。なんだったら俺のことは、」
“奴”の力を借りねば何も成せない未熟な俺。
だから名前なんて要らない。だから呼称は配役で良い。
だから絡繰。俺のことはこう呼んでくれ。
「“アーチャー”、とでも呼んでくれ」
いつかのアイツのように不適に笑って俺は言った――。
次話/前話
この作品は『魔法少女リリカルなのは』、及び『Fate/stay night』という作品のキャラクターを『魔法先生ネギま!』という作品に登場させるという形のクロス小説です。途中、この三作品をご存知ない方には非常に解り難い表現が含まれていますので、それを承知の上でご覧下さい。
また、作中に著者による独自解釈、設定、世界観、オリジナルキャラなどが描かれていますが、こちらも事前にご了承の上でご覧になって下さい。
《THE SECOND LIFE》
女子寮の一室。あたしとケイトの二人がこの世界で借りた部屋の中。
「――吸血鬼?」
身体測定の授業? で柿崎から聞いた噂話をそのままケイトにしてみた。
「なにそれ? と言うより、それってエヴァンジェリンのことじゃないの?」
さっさと制服を脱ぎ散らかして部屋着の赤いワンピースへと着替えたケイトが床に散らばった自分の制服をハンガーにかけつつ、あたしの言葉に疑問符で返した。
「それとも他にいるの?」
「いや、あたしもそれを確認したくて聞いたんだ」
ケイトの言葉に部屋の中央に敷かれたコタツに入りつつ返す。……なんだ、ケイトも知らねーのか。
柿崎たちクラスの連中には「いるわけねーだろ」と返しはしたが、実際あたしらは吸血鬼の存在を認知している。知り合いに近しい奴がいるってのもだが、何よりこの世界の、よりにもよって同じクラスにいるのだから認めないわけがない。
「ま、あたしらには関係ねーのか」
コタツのぬくぬく感に表情を緩ませつつ、あたし。なんかクラスの奴が吸血鬼にあって血を吸われたとかって言ってたが、まあ管理局の人間には関係ねー。目の前で襲われたんなら助けもするが、いちいち余所の世界の事件に首を突っ込む必要はねーし、そもそもあんま干渉すんなってのが決まりだしな。
……それにあたしにはもう魔法の力はほとんど残ってねーし。
コタツの上に顎を乗せて瞳を細める。まだみんなが現役だった頃を懐かしく思い、そしてそれと同時に連中がいなくなってからの虚無感が蘇る。
……本当に、あの頃の奴ん中でまだ生きてんのはあたしみたいに不老長寿の連中だけだな。
百年……それだけたてば人は死ぬ。はやてもなのはもフェイトもみんな……。教官だった頃の教え子も、局で一緒の部隊になった連中も……。その子供も……。
時の流れってのはみんなに平等で、そして無慈悲で……。その流れに置いてきぼりを食らわされたあたしらは、たくさんの別れを経験して心を摩耗させてきた。
「……わりぃ。ケイト、あたしは――」
コタツから顔を上げ、こちらに不思議そうな顔を向けるケイトに思わず謝罪を口にしかけ、
――……すまんな。結局、お前だけを残すことになってしまった。
『ハッ』と我に返り、顔を俯かせる。
……なに考えてんだ、あたしは。内心で自嘲の笑みを刻み、ケイトには見えないようコタツの中で拳を握り締めた。……今さら、先に逝くことを謝るなんてどうかしてる。そんなのはケイト自身知っていて、それでもあたしのためにコイツは今、あたしと供に居るんだ。
「――不安? それとも心配?」
そんなあたしの向かいに座り、同じようにコタツに入りつつケイト。いつもの演技臭い微笑ではない、奴特有の枯れた笑みを口元に刻んで静かに問う。
「…………いや、わりぃ。今さら、だな」
それに視線を逸らして返す。……ああ、そうさ。今さら、だ。
知人の死を見送るのなんて、今さら過ぎて反吐が出る。親しい人間の喪失を悼むのなんて当たり前過ぎて、今さら謝罪されたって意味がねー。
誰が何と言おうと関係ねー。死に別れってのは悲しいんだ。それが当然なんだから今さら――
「――気にするな」
そんなあたしの物思いを遮る、声。
呆然とした顔をケイトに向ける。
「……たぶん、結局、生き残るのは“俺”みたいなロストロギア崩れの連中だけだ」
ケイトは枯れた苦笑を浮かべて言う。
「今は『アギト』や『リィン』も辛うじて稼働してるが……たぶん、あと百年もすれば停止する。『ヴィジャヤ』はそれなりに長生きするだろうが……それでもいずれは別れの時がくる」
ユニゾンデバイスや竜族なんかとは寿命の桁が違う。ケイトたち生きるロストロギアとでは根本的に流れる時間に対する耐久力が違う。
気が遠くなるような月日を跨いで尚、彼らは生きる。その中でたくさんの出会いと別れを経験し、たくさんの喜びや悲しみを感じて生き続ける。
「だけど、俺たちはまた、出会いと別れを繰り返す」
瞳を細めて、どこまでも空虚で乾いた笑みを浮かべてケイト。それを眺めながら、あたしは思う。……ああ、もしかしたら“初代リィン(あいつ)”もケイトみたいな思いをしていたんかな、と。
それは悲しいことか。
それは幸せなことか。
百年ちょっとしか生きてねーあたしにはわからねえ。あたしにはコイツらの苦しみも痛みもわかりゃしねえ。
「ケイト……あたしは――」
……わかんねえ。わかんねーけど、あたしはケイトをそんな風に笑わせることしか出来ないのが嫌だった。
「――気にするな」
……あ。
ケイトはあたしの思いを知ってか知らずか、また乾いた苦笑を浮かべてあたしの言葉を遮った。
「ヴィータ。君は俺にたくさんの思い出をくれた。だから気にせず、最後の最後まで笑ってろ」
言って、『くしゃり』とあたしの頭を乱暴に撫でるケイト。……ふん。仕方ねー、今だけは大人しく撫でられてやらあ。
あたしはそっぽを向く。……つーか、なんでコイツらはことあるごとにあたしの頭撫でんだ? あたしはガキじゃねーぞ?
「それとね、ヴィータおねえちゃん」
…………って、おい!
あたしは突然声音を『八神ケイト』に戻して、雰囲気その他まとめて素のそれとは違う少女然としたものになるケイトを思いっきり睨み、その手を乱暴に払う。
「きゃっ!?」
「『きゃっ』じゃねー!! てめぇ……何いきなり猫被ってんだ?」
言いつつ『ぐいー』とケイトの奴の頬を引っ張る。この! あたしがせっかくマジで話してたんにコイツ! 気恥ずかしさも手伝って、あたしはケイトの、自分と同じ顔の頬を力の限り左右に引っ張った。
「いっ、いひゃいれふ、ほねえひゃん……!」
「『おねえちゃん』じゃねー! つか、そう言や、おめえ、なんであたしの姿してんだよ!?」
『ぐいーぐいー』と伸ばしつつ、怪訝な顔で問う。そう言やあ、今さらだけどケイトの奴からはその辺の説明が無かったな。そもそも、なんで管理外世界の学校にあたしやケイトみたいな異端な局員を転入させたんかがわかんねー。
「せ、せつめー、しまひゅから……! 手〜……!」
お〜モチモチしてて以外と延びんなあ。
「手〜……!」
――ハッ!!
「て――ひゃあ!?」
最後に『びよん、バチン!』と伸ばして、放す。お、面白くってついハマっちまったぜ。
あたしは少し赤くなった頬をさすりつつ涙目を向けて来るケイトを内心の思いを隠しつつ睨み、「さ、さっさと説明しろ!」と怒鳴りつける。
「うう……。わ、わかったよう……」
どことなく不機嫌な様子で唇を突き出しつつケイト。くっ……! 今さらだが、なまじ自分と同じ顔の奴があたしじゃ絶対しねーような仕草や表情をしてんのを見んのは、何か無性に気持ちわりぃな。
「……じゃあ、まずはわたしがこの姿になってる理由からね」
顔をしかめるあたしに何を感じてか、ケイトは自分自身を示しながら静かに語り出す。
「まあ理由って呼べるほど大した理由は無いんだけど……。強いて言えば“楽だから”かな」
…………ああ?
「まず、第一の目的がヴィータを学院に転入させることで、それ以外はさしたる理由は無いの」
……………………はあ?
「『管理局がどうの〜』とか『次元震が〜』とか、それらは後付け。簡単に言っちゃえば、“局(した)”の連中に対する言い訳だね」
…………………………………………なんだって?
ケイトのあんまりにもあんまりな説明にあたしは呆然とした顔を向けて口をあんぐり。ちょ、ちょっと待て! な、なんだよ、第一目的が『あたしの転入』って! それは手段であって目的じゃねーだろ普通!?
そんなあたしのことなどさして気にせず、ケイトはあくまでもしれっとしたまま説明を続ける。
「現役は退いてると言っても、ヴィータを単身異世界の学校に転入させるにはいろいろと面倒な理由が必要で、それがないと“局(した)”の連中や“教会(がいや)”の連中がうるさいの。それを無理矢理黙らせるにはわたしが出て行くのが一番楽なんだけど……そういう個人的な理由だけでわたしが前面に出るのを今度は“議会(まわり)”がうるさく言うもんだから大変」
そう言って「やれやれ」と頭を左右に振りつつため息を吐くケイトを、あたしは唖然として眺めた。
こ、この馬鹿は何を言ってんだ? 個人的な理由だとうるさく言われる? ……何を当たり前なことを!
「それでわたしがこの姿になった理由に話を戻すけど、……まあつまりは“議会(まわり)”の連中が出した『前面に出るのなら一切、その姿を他人の目に晒すな』ってのと『魔力の一切を封印』ていう条件を呑んだ結果ね」
あたしの呆れ混じりの視線を受けて尚、ケイトはさらりととんでもないことを告げる。
「ちょ、ちょっと待て……!」
今までの話を聞いて混乱する頭をどうにか整理しようと、ケイトの奴に手のひら向けて制止を促す。
他人に姿を晒すな? 魔力封印?
……じゃあ何か? ケイトの奴は“希少技能(レア・スキル)”意外のチカラを一切使えない状態で、あたしみたいな壊れかけの魔導師くずれと一緒に異世界まで次元震のことを調べに来たってのか?
――ふざけんなよコラ!
「てめ! もしかしてあたしの姿ってのは――!!」
誰かに変身しなければいけなかったから適当に――そう思って怒鳴るあたしをケイトは、
「当然、わたしがヴィータをフォローし易いのとクラスメートに怪しまれないようにだよ」
やんわりと遮り、微笑。
「ほら、『双子』ってことにすればわたしがいっつもヴィータと一緒でも周りは怪しまないし、戸籍その他の設定もフォローし易いからね」
その台詞、その表情に絶句する。
い、意味がわかんねー……。この馬鹿が何を考えてんだか、ぜんぜんわかんねー。
あたしのフォローがし易い? ……そんなんはどうでもいい! そもそも何であたしを連れて異世界まで来た? 何であたしを学校に転入させようとなんてする?
……意味がわかんねー。いや、わかりたくねー……!
あたしは視線をケイトから外す。畜生、この馬鹿……! もしかして“アレ”か? あの時の“アレ”が理由か!?
「……おめー、馬鹿だろ?」
ケイトは馬鹿だ。大馬鹿だ。
あたしを学校に転入させるのが目的? ……なんでだよ。なんで覚えてんだよ、畜生。
――……なあ、ケイト。学校って楽しいか?
“アレ”はまだ、はやてもなのはもフェイトもみんな……みんなが居たときにした会話じゃんか。すげー昔の会話じゃねーか……!
――……そっか。じゃああたしも、一度くれーは行きたいな。
なんで今さらなんだよ……! なんで覚えてんだよ、コンチクショー……!
あたしは内心で渦巻く激情をこらえて思い切りケイトを睨む。この馬鹿野郎が! ふざけんな! おめーはそれでも議会の一人か!? そんな風に視線に罵倒を込め、震えて声の出ない口の代わりとする。
そして、
「……馬鹿でも、ほら、」
そんなあたしに、ケイトは笑って言った。
「俺は絶対――約束は守る」
――……じゃあ今度、一緒に転入しない? 俺は中学中退だから、今度こそ卒業したいし。
――……はあ? おめー馬鹿か? あたしもおめーも局の仕事が忙しくって無理だろ?
――……じゃあ、仕事で♪
――……って、また職権乱用か!? いい加減にちゃんと仕事をしろ! つーかおめーみたいな上司のせいであたしらは忙しいんだよ!!
――……ぅをっ!? じゃっ、じゃあヴィータが忙しく無い時にでも――って、ちょっ!? 艦内で『ギガント』ぉお!?
「…………馬鹿野郎」
あたしは視線をそっぽに向ける。……たく。相変わらずの職権乱用のダメ上司が。
そうは思うが、言葉は出せそうにない。……畜生。
そんなあたしの頭をケイトは優しく撫でる。
いつまでも――。
◇◆◇◆◇
――月満ちる夜に、桜並木に吸血鬼現れ、少女の生き血を啜る。
「……懲りないと言うか、なんと言うか」
適当に高い建物の屋根の上に立ち、俺は遥か遠くに見える桜通りを睨む。
――長瀬の電話は近衛からの伝言だった。
『このか殿から伝言を預かっているでござるよ。衛宮殿を見つけたら桜通りに来て欲しい、だそうでござる』
遠くに見える桜通りには今、神楽坂とエヴァンジェリン、近衛の三人がいた。
一目見てだいたいの事情を察する。神楽坂とエヴァンジェリンが喧嘩している理由も、近衛が俺を呼んだわけもだいたい。
「……神楽坂」
一方的だった。一方的に神楽坂がエヴァンジェリンに投げられ、打たれ、吹き飛ばされていた。
相手が悪い。
格が違う。
そんなことは神楽坂自身もわかっているだろう。
だけど彼女は退かない。諦めない。
傷だらけの痣だらけになりながら、神楽坂は決して逃げたりしない。
投げられても起きる。吹き飛ばされても立ち上がる。
だから――見ているしかない。
俺や、少し離れた位置に立っている近衛に彼女たちの間に入る資格はない。
だから――後は任せろ。
「――……“投影(トレース)”」
神楽坂が桜の木に背を打ちつけ、くずおれる。
エヴァンジェリンが構えを解き、近衛が神楽坂へと駆け出す。
それらを見届け、瞳を閉ざす。
「――“開始(オン)”」
イメージを研ぎ澄まし、
魔力回路に魔力を通し、
幻想を投影する。
「よく頑張ったな、神楽坂」
手の中に生み出された弓。
自身の幻想を世界に投影する――これが、衛宮士郎の魔術。
無から生み出された、イメージが実体化した弓。それを桜通りに向けて構える。
「後は任せて、今は休め」
矢をつがえる。
捻れた刃の“剣(や)”を。
「――“我が骨子は捻れ狂う(I am the bone of my sword)”」
弦を引き絞り、空気を引き絞り。“剣(や)”に魔力を込めて、衛宮士郎はエヴァンジェリンを狙う。
「――“偽・螺旋剣(カラドボルグ)”」
呟き放つは螺旋の刃の模造刀。
偽なれど真との差など皆無。空気を穿ち、翔る剣は一瞬にしてエヴァンジェリンとの距離を詰め――爆発、四散。
遠く――桜通りに立つエヴァンジェリンを閃光が包んだ。
「……警告は、したな?」
瞳を閉じ、肩を竦めて呟き、
「――はい」
それに背後に立つ女生徒、『絡繰 茶々丸』は抑揚の無い平坦な声で応えた。
「申し訳ありません衛宮先生。マスターの命令ですので」
「……そうか」
瞳を開け、振り返る。
地上二十メートルほどの屋根の上で、俺と絡繰は向かい合い、そして――瞬時に肉迫する!
残像すら残す俊足で眼前に迫る絡繰。その勢いのまま、女子中学生とは思えないプロの戦士もかくやという速度で放たれる彼女の拳。
それをすんでの所で頭を左に傾けてかわし、バックジャンプ。屋根から飛び降りた。
「――“投影、開始(トレース・オン)”」
脳裏に浮かぶ撃鉄を押し、魔術回路に魔力を流す。
これが魔法使いでは無い異端の魔術師たる衛宮士郎の戦い方。
戦うべくは己の内で。想像を創造せし異色の魔導。
創造の理念を鑑定し、
基本となる骨子を想定し、
構成された材質を複製し、
制作に及ぶ技術を模倣し、
成長に至る経験に共感し、
蓄積された年月を再現し、
あらゆる工程を凌駕し尽くし――
「――っ!?」
俺を追い、屋根から飛び降りた絡繰は、彼女にしては珍しく驚愕に目を見開いていた。
それを着地しながら彼女を見上げていた俺はニヤリと笑って見せる。
「――“投影、完了(トレース・オフ)”」
俺の手に携えられるは白黒の夫婦剣――干将、並びに莫耶。
こちらへ追撃のためか真っ直ぐに降下して来た絡繰に二刀を持って迎撃。空中ならば身動きが出来ない――それを予測しての行動だったが、
――絡繰は空中でいきなり制止した。
「……なるほど」
そう言えば絡繰はロボットだったな。
背中や足からバーニアを生やし、制止状態から即座に距離を置いて地に降りる彼女に苦笑を向ける。
「失念していました。衛宮先生は武具を自在に創世出来る魔法使いでした」
二十メートルの距離を挟み絡繰が構え直す。
俺も同様に構えながら、彼女の言葉に対して口を開く。
「いいや、絡繰。俺は魔法使いじゃないぞ」
「?」
……そう、俺は魔法使いじゃあない。
そもそも俺は“コチラの世界”にいる魔法使い達とは決定的に異なる手順と手段を用いて魔導を行使している。
だから、俺は――
「――魔術使い、だ」
瞬動。
絡繰の背後へと即座に移動。
彼女の背に干将莫耶を振り下ろし、
絡繰は背と足のバーニアを使って即座に反転。二刀を避け様、腕をコチラに向ける。
! 絡繰の腕が――伸びた!?
驚愕しながら、迫り来る拳を干将で払い、莫耶を絡繰に向けて突き出す。
彼女はそれを、俺の腕を掴んで引き、突きの勢いをそのままに方向を変えるという形でさばく。そしてそのまま、放った拳がワイヤーで戻る前に俺との距離を一歩詰め――肘打ち。
干将の刃を盾にして防ぐも、その衝撃に耐えられなくなってか『バリン!!』と干将が砕けた。
「「――――」」
両者、即座にその場を離脱。またも二十の距離を挟んで対峙する。
……正直、驚いたな。まさかここまで苦労するとは思わなかった。
砕けた干将を捨てつつ苦笑。
「……先に確認だが絡繰。お前はどこを破壊されたら再起不能になる?」
問いつつ、ワインレッドのスーツの内へと開いた手を入れる。
「そうですね。おそらく人間と同じように頭部、そして心臓部を破損するか、首を切断され思考回路と動力源とを分断されてしまえば終わりかと」
スーツの内、ワイシャツの内。左腕に巻かれた『それ』に触れる。
「そうか。なら、悪いがそれ以外の箇所を破壊させてもらう」
苦笑を濃くする。まさかこんな所で奥の手を披露するとは思わなかった。
「お気になさらずに、衛宮先生」
「絡繰……その『先生』ってのは止めてくれ」
ワイシャツの内の、腕に巻かれた『それ』――“聖骸布”に触れる。
……さて、覚悟を決めよう。
ここで時間を食ってしまっては神楽坂や近衛が危ない。だから一瞬で絡繰には行動不能になってもらわなければならない。
「俺は先生って柄じゃない。だから名前か、他の生徒みたいに『ヘルパー』とでも呼んでくれ」
だから――“聖骸布(ふういん)”を少しだけ緩める。同時、
「もしくは、そうだな…」
左腕から流れて来る魔力。
五年前なら意識を刈り取っていただろうそれも、今の俺には大した影響を与えられない。
強くなった、というより“近付いた”という方が正しい。
忌々しい己の末路に。俺の先を行った、道を間違えた衛宮士郎に。
近付いた。強さを求め、何度も何度も奴の力を解放して来たがために染められた。
だから、そう――
「絡繰。なんだったら俺のことは、」
“奴”の力を借りねば何も成せない未熟な俺。
だから名前なんて要らない。だから呼称は配役で良い。
だから絡繰。俺のことはこう呼んでくれ。
「“アーチャー”、とでも呼んでくれ」
いつかのアイツのように不適に笑って俺は言った――。
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