嗣希創箱の消閑

小説、落書き、二次創作、etc…。 あなたの暇潰しのお供にどうですか♪ 

ゼロの使い魔〜雷槍の騎士〜おまけ

《ゼロの使い魔〜雷槍の騎士〜》



○ カルディナの夢

 その日もルイズの横で眠るエリオは、珍しくうなされていた。
「カ、カルディナ……それは確かに遊園地の領収書……え? ち、違うよ……女の子? ……いたけどデートじゃ…………そ、そんな……小遣い無しは酷……う、うん……次の休みに……カルディナ……」
 あんまりにもあんまりな寝言に隣でたまたま聞いていた少女はとても不機嫌になったとさ。



○ カルディナの呼称

「母」
 フェイトの意。後見人なのだから間違いでは無い。
「父」
 エリオの意。悪い虫が付かないようにとお兄ちゃんでは無くこちらを推奨した虫使いがいたとか。
「ルー姉」
 ルーテシアの意。ナンバーズたちといた時の影響かと。
「お姉ちゃん」
 名前のわからない年上の女性全般。もしくはキャロの意。
「アルフ」
 そのまんまアルフの意。本人が呼び捨てで良いと言ったのでそのまんま。
「お兄ちゃん」
 名前のわからない年上の男性全般。もしくはクロノの意。本人は嫌がるが、嫁がそう呼ばせたとか。
「エイミィお姉ちゃん」
 エイミィの意。他の『お姉ちゃん』呼称がいない場合はただの『お姉ちゃん』。
「先生」
 なのはの意。三年B組のアレを見てエリオにも先生はいるかと聞いたら『なのは』と答えたので以来こうなったとか。



○ エリオのバイト

 いつまでもヒモ状態というのはあまりにも情けない。そんなワケでエリオはルイズが学業に勤しむ間や食事時などは基本的に厨房で働かせてもらっていた。
 しかし――
「あ、エリオ様。シャンパンのおかわりをお願い出来ますか?」
「エリオ様。こちらはワインのロゼを」
「エリオ様〜」
 給仕服で働く青年に女生徒の注文は殺到。エリオはせかせかと自分が役に立っているのが嬉しいのか微笑をたたえて働き、そしてそれを皆がうっとりと眺めていた。
「……いっそそっち系の店で働かせたら?」
「……客に持ち帰られそうだから嫌よ」
 ルイズとモンモランシーはそれをため息を吐いて今日も眺めていた。



○ コロシアム

 いっそ賭け試合で儲けたら良い。
 そんな理由でやって来ました城下町。その裏路地の怪しいお店。
「……い、いや、流石に自衛以外の理由で魔法を使うワケには――」
「あ、コレ被って」
 冷や汗を流すエリオにルイズは予め持って着ていたマスクを渡した。
「…………虎?」
「顔隠して素手で倒せば問題無いでしょう?」
 そんなワケでその日、非公式賭け試合に伝説の覆面ファイターが誕生したとかいないとか。



○ カルディナと桃太郎

「父。読みました」
 娘の情操教育のために少女の住まうハラオウン家にて昔話を買い与えたエリオ。
「どうだった?」
「まず『どう』という問いの範囲を――」
「カルディナは本を読む時、登場人物になって読んだりする?」
「否定」
 カルディナはエリオの言葉に数秒で読み終えた本をまじまじと見た。
「父。そうして読んだ方が良いのでしょう?」
「うん。例えば桃太郎は強くて優しい主人公だから――」
「では『父』と」
 カルディナの頭の中で桃太郎はエリオになった。
「ぇ、あ。じゃ、じゃあ、犬は――」
「『アルフ』」
 カルディナの頭の中でエリオにきび団子を貰うアルフの図が浮かんだ。
「キジはフリード」
 バッサバッサと羽ばたく飛竜が一行に加わった。
「…………さ、猿は?」
「晶お姉ちゃん」
「……誰?」
「ではスバルお姉ちゃんで」
 エリオ、アルフ、フリードの部隊にスバルが加わった。
 青年は頭をひねりつつ最後に『鬼は?』と尋ねた。
「先生」
 ※先生=なのはの意。
「……………………」
 エリオの頭の中に仁王立つ白い魔王の映像が浮かんだ。
 ……勝てないよ、桃太郎。



○ カルディナとシンデレラ

 エリオの買い与えた昔話の絵本を手に、カルディナは今度は自分を主人公として物語を進めることにした。
「ほらほら、カルディナちゃん! ここがこんなに汚れていますわよ!」
 窓の冊子にツゥーと人差し指を滑らせてリンディ。
「さぁさ、今日は楽しい舞踏会よ! あ、でもカルディナちゃんはお留守番ね! しっかり掃除しなさい!」
 とても楽しそうにエイミィ。
「そ、そんな。母さんもエイミィもちょっと……」
 とてもオロオロしつつフェイト。それを呆れたように見るエイミィ。
「ほら、フェイトちゃんも役になりきって! 自分がやられて悲しかったことをここでは敢えてするのよ!」
「で、でも……」
「フェイト。これも情操教育のため。ここは敢えて心を鬼にするべきよ」
 意地悪な義母役のリンディまで加わりフェイトを説得。そしてそれに渋々頷くフェイト。
「ご、ごめんね、カルディナ……」
 そう言ったフェイトはとてもとても悲しそうな顔をして――
「母。何故、カルディナは両手を拘束されているのでしょう?」
「自分がされて悲しかったこと……それを人にするなんて……」
 フェイト、聞いちゃいない。
「母。その手の鞭をどうするのでしょう?」
「これも情操教育のため……きっとプレシア母さんも私を思って……」
 フェイト、やっぱり聞いちゃいない。
 そして――
「……………………配役を変更」
 カルディナは自分の想像を振り払うように若干血の気が失せた顔を左右に振った。

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《ケイト〜knight of nightmare〜》3

《ケイト〜knight of nightmare〜》






 朝の目覚めと共に、俺はそっと隣を見た。
「……うん、夢じゃない」
 視線の先には果物籠にタオルを敷いた簡易ベッドに眠るリス――フェイトさんが、安らかな寝息をたてていた。
 それを見てため息を一つ。俺は音を立てないように枕元に置いてあった目覚ましを止めた。
「……午前五時三十二分」
 目覚ましが鳴るのは七時だから、寝坊でもしない限りこれが鳴ることはない。それでもいつもより三十分も多く寝たのは、多分、昨日の疲れからだろう。
「……とりあえず頭の整理をしよう」
 昨日は日課の山林への散歩で、巨大なネズミに遭遇した。その絶体絶命のピンチに駆け付けた――もとい、降って来たのがフェイトさんで、彼女曰く、『何かを強く望む者のもとに降り、その願いを叶える』という性質のある危険なそれ――ロストロギア『ジュエル・コア』によって喚ばれて来たんだとか。
 同じくジュエル・コアによって願いの成就と引き換えに存在の根源――『イデア』を改竄されて巨大ネズミと化した野鼠の成れの果てに対し、彼女は俺と同化して魔法を使って助けてくれた。
 元々、彼女は一人の魔導師だったらしいが、ジュエル・コアの最初の犠牲者にでもなったのか、彼女はイデアを分割され、それが新たなジュエル・コアとしてばらまかれた。その際に記憶を失ったらしく、どうしてこうなったのかについては覚えていないたらしい。
 そんなワケで彼女の意思が比較的残る、俺と同化したジュエル・コアである彼女は、未だに俺と同化したままである。どうにも一度同化して、離れるにはその機能を完全に停止させなければならないらしいが、それをすると彼女の意志が消える可能性もあるため今はまだ出来ないらしい。
 とりあえず今日からはフェイトさんと共にジュエル・コアの収集をする。
 ジュエル・コアは資質のある者しか喚べず、そして資質ある者とジュエル・コアは引き合う性質があるとか。
「……ちなみにただ単にイデアを歪められ自我を失い、その本質のままにジュエル・コアを求めるものを、便宜上『暴走体』と呼ぶ」
 俺の場合は自我を残し、尚且つイデアを改竄して変身してもフェイトさんがもとに戻してくれるのでそれに該当しない。これから先、暴走体との戦闘が必須となるだろうが、俺はその変身能力とマジカルな力できっと大丈夫だろう。
「……いや、本当にそう信じたい」
 苦笑。とりあえず俺の姿のままではリンカーコアだったか魔導師としての資質だかの問題で魔法が使えないらしい。だから俺のイデアを改竄した、フェイトさんの幼い頃バージョンの姿に一々変身する必要があるとか。
 ちなみにジュエル・コアのイデア変質にはパターンがあるとかで、俺はそれ意外には変身出来ない。予め組まれたそのプログラムに介入した場合、俺のもとのイデアやフェイトさんのイデアも変質してしまう可能性が高いため危険なんだとか。
 フェイトさんの青いリス状態はただ同調させているだけだから大丈夫だとか、そもそも大本となるイデアが同じだから元のイデアを改竄してもバックアップは自分自身なので大丈夫なんだとか……はっきり言って俺にはよく解らなかったけど、結論から言って『リス』はフェイトさんの意のままの姿に変えられるらしい。
「……もっとも、」
 強力な物に変化させた場合、何らかの理由で同調や封印処理が外れる可能性と、そうなった場合のリスク等が高くなるなめ、例えば昨日の巨大ネズミとかにはなれないとか。
 そんなワケで、フェイトさんは現在、絶賛リス状態だったり。
「……ん?」
 物思いに耽っていると、彼女が起きたらしい。青いリスがちょこんと顔を上げてこちらを向く。
「……おはよう、敬人」
「おはよう。……ゴメン、起こした?」
 こうやって話して動いたりしているのを見ると忘れそうになるが、フェイトさん自身は俺の身の内に宿っているらしい。
「ううん。今、起きただけ。……敬人は早起きだね」
 そう言って、フェイトさんは微笑んだように見えた。それに『そうかな?』と薄く笑って、朝日の差し込む窓を見た。
 ……なんともはや、世界は不思議で満ちていますねぇ。
 なにせ今日から俺は、晴れて魔法少女ですよ――。

 ◇◆◇◆◇

 朝の六時過ぎ。敬人は学校の制服と鞄等を持って家を出た。
 てっきり通学するのかと思えば彼が向かった先は近くのファミリーレストラン。どうやら朝ご飯は外食にするらしい。
「あ、フェイトさんて何か食べるの?」
 多少汚れを落とした制服姿で敬人。キョトンとした眼差しを向けて肩に乗る私に問うた。
「ううん。今の私自体は敬人の中だし、このリスも生物じゃないから」
 それに首を振って返し、トテトテと彼の服を伝い地面に降りる。
「私はその辺で時間潰すから。敬人はそのまま学校?」
「そ。いつもはここで朝ご飯と学校行くまでの間まったりとしてるからね」
 そう言って店内へと足を向け――『あ』と何かに気付いたのか急いで私のもとへ戻って来る。
「ジュエル・コアが出た時はどうする?」
 若干声を潜ませての問いに私は普通の声量で返す。
「ジュエル・コアは共鳴――と言うか、近くにジュエル・コアや暴走体が来たら関知出来るから大丈夫。私自体は敬人と同化しているし、視点を敬人に戻すのも変身させるのもこのリスの位置に関わらずいつでも出来るから」
 その答えに『そう』と納得し、今度こそ店の中へと消える敬人。
 それを見送り、近くの草陰に隠れながら改めて思う。
 ……同化した男の子が悪い人じゃなくて、本当に良かった。
 私自身、気付いたら既に同化してたから彼を自分の意思で選定したワケじゃない。だからこそ敬人で良かったとつくづく思う。
 ……もしかしたら異常犯罪者や野生動物だったかも知れないのだから尚更。
 それらと比べなくても、敬人は良い人だと思う。
 身長が私より高くて、クロノみたいに鍛えてる感じがする男の子。
 ……気になるのは彼の家庭の事だけど、それは訊いて良い事なのか判らない。
 敬人の家をそれとなく観察して見たが、彼は老夫婦との三人暮らしのようだった。行きがけにチラリと見たところ、なのはの世界で見た事のある『テレビ』という物を二人で眺める、本当に和やかで仲の良さそうな老夫婦がいた。
 彼らの居るリビングの奥。確か『仏壇』と呼ばれる、故人の遺影や先祖を奉る祭壇に飾られていた写真は、恐らく敬人の母親だろう。私の周りの母親というのがとても若いというのを差し引いても、若く見える遺影だった。
「……敬人もお母さんを亡くしてるんだ」
 呟いて、草陰に隠れながら移動する。
 目指すのは慣れ親しんだ友達の家。そして考えるのは同化し、一緒にジュエル・コアの収集を行うことになった少年の事。
 ……敬人はいつも醒めた目をしてる。
 それは何処か、自分を上から見ているような、第三者のような達観した目。何かを悟っているような、すべてを諦めてしまっているような、そんな目をしているように感じる。
「……それに、敬人は何処か、」
 ……枯れてる。そんな感じがする。
 言動は『普通』を通り越して明るく、軽いようだが……どこか違和感がある。
 敬人は物事に関心が無いのかと思えるぐらい、執着がない。
 私の事に関してもそうで、普通なら驚き戸惑うだろう事柄を、全て鵜呑みにしている感じがする。
 感情の起伏が少ない、というよりやはり視点が第三者的なように感じる。
 要は他人事なのだと思う。
 ……それは、もしかしたら昔の私のような――
「……敬人にも、なのはみたいな友達がいれば良いのに」
 そう、ため息を一つ。
 見上げる。
 ここが海鳴市であればこそ、あるのは当たり前で、
 敬人から聞いた暦が確かならばこそ、私の知っている世界では有り得ないだろう家屋。
 私の親友――高町なのはの住む家。
 私は壁を登り、少女の部屋を目指す。
 そして――
「……やっぱり」
 窓から見える、ベッドで眠っている少女に私はため息を吐いた。
 『平行世界』――その単語を思い出しながら、顔を歪める。
 私の視線の先にいるのは高町なのはで間違いない。
 ただし、このなのはは――

 ――私と出会った時より更に四、五歳は幼かった。

「……それに」
 苦々しく、窓から少女を見つめながら呟く。
「…………なのはにも資質がある」
 リスが――封印され、機能の大半を凍結されている筈のそれが、少女に喚ばれているような――そんな気がした。





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《ケイト〜knight of nightmare〜》2

《ケイト〜knight of nightmare〜》






 山林からの帰り道。もしかしてこのまま女の子として生きるのか、と元凶とも言える彼女に問うと、フェイトさんはいとも容易く『ううん』と否定した。
 その後で何やら変身、というか元の俺に戻るためだろう呪文を唱えてくれ、そして元の体に戻った俺は安堵しつつ家路を急いでいた。
「……良かった。もとに戻れて本当に良かった」
「……うん。ごめん、敬人」
 俺の言葉に肩のリス――フェイトさんが済まなさそうに言う。
「イデアを元に戻すこと自体はいつでも出来たんだけど……ジュエル・コアを封じるにはアッチの姿じゃないと魔法が使えないみたいだったから」
 あっはっは! ごめん、意味不明。
 俺はフェイトさんの言葉に頭をガリガリとかいて明後日を向いた。そろそろ根本的なことを聞いておこうかな。
「……で、何でリスなの?」
 夜道を泥だらけの制服姿で歩きつつ、一番気になっていたことを問う。
 それに肩の青いリスは、キョトンとしたよう。
「……え? あ、これは私のイデアから分岐した結晶体を使ってるから、基本的に私の任意の形になれるの。リスにしたのは、小さくて魔力の消費が少ないのと動けるから。それに、」
 前にペットショップで見付けて、可愛かったから。そう、照れたように言うリス。
 それに俺は内心で苦笑する。……どうにも認識に差がある気がするなぁ。
「……まぁ、確かに可愛いし、持ち運びに便利そうだから良いけど……とりあえず、閑話休題。まず第一に、フェイトさんて何者?」
 いきなり空から降って来たり、
 当たり前みたいに『魔法』なんて使って見せるし、
 どう考えても普通じゃない。
 そんな俺の根本的な問いに彼女は、
「……たぶん、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンていう魔導師の大元、だと思う」
 静かに空を見上げて答えた。
「私はさっきも見せた通り、魔法が使えます。そしてその力で、私はいろいろな事件を調査したり解決に導いたりする――そんなお仕事をしています」
 彼女の言葉に想像する。
 例えば俺が知らないだけで、実は世界のどこかではフェイトさんのような魔法使い――魔導師がたくさんいるのかも知れない。
 ……確かにあの金色の縛鎖なら逃げ出した象とか猛獣なんかの捕縛も楽だし、安全そうだ。
「そしてあのジュエル・コアというのは、喪われた古代の遺産――『ロストロギア』というとても危険な代物で、おそらく効果は『何かを強く望む者のもとに降り、その願いを叶える』というもの」
 その言葉に思い出す。彼女が降ってきた時、俺は確かに『ネズミにかじられては死にたくない』と強く願っていた。
 だけど――
「いや、それじゃあ――フェイトさんも、その『ロストロギア』ってことになるんじゃ……?」
 俺のもとに降りて来たのは青い宝石ではなく女の子で、
 彼女の言う『何かを強く願う者』だったかも知れないが、それでも結果的に願いを叶えたのは他でもない、彼女自身の魔法の筈だ。
 そんな俺の疑問に、肩に乗るリスは視線をこちらへと向けて答えた。
「……だから私も、たぶんロストロギアの一部……だと、思う」
 …………はぁ?
 ポカンとする俺にフェイトさんは言葉を次ぐ。
「私はそういうロストロギアとか危険な遺失物を管理、回収したりするのを仕事としていて……。だから今日も、私はその仕事の一環でジュエル・コアに関わった……そのはず、なんだけど……」
 ため息を一つ。人間ならば自嘲するように小さく口元を歪ませて、リスは言った。
「……私、その辺の記憶が曖昧だから。私は、気付いたら敬人――あなたと同化していたから」

◇◆◇◆◇

 鳴海市藤見町にある寂れた一軒家。
 今時珍しい古風な造りのその家屋は、築四十年以上を余裕で刻んだ、祖父母と俺の三人が暮らす家であり、要するに宗円治 敬人の帰るべき家であった。
 俺は肩にリスを乗せたまま、慣れた手つきで鍵を回して帰るや真っ直ぐに自室へと向かった。
 八畳一間の畳敷きの自室――その角にある自分の勉強机に腰掛け、一段落。ああ、疲れた。
 ため息を一つ。それから、肩に乗ったままの青いリスを見て口を開いた。
「要するにオーパーツ――ロストロギアだっけ? それの一つ、『ジュエル・コア』はとても危険である、と」
 確認するように問う。
 それにフェイトさんは小さく頷いて答える。
「うん。ロストロギア、ジュエル・コアは私のリンカーコアも取り込んでるから……暴走すると危険」
 ……えぇと、リンカーコアは魔力の元だか魔導師としての資質だかだったから、
「……つまり、これから先、ジュエル・コアに触れ、同化した奴は今日のネズミと違って、俺みたいにフェイトさんの魔法を使えるかもってこと?」
 頭を整理しつつ、問う。
 ……俺の場合、どうやら運良くジュエル・コアの基となった彼女――魔導師フェイト・テスタロッサ・ハラオウンの意志が強く残っていたジュエル・コアだか、本人の残り滓だかであった彼女と接触出来たから良い……らしい。
 もしもネズミのように彼女の意志が希薄で、その本質にただ忠実であったら、彼女に触れた瞬間、俺という人間を構成する存在情報の根源――『イデア』を浸食なり改竄なりされ、その願いの成就と引き換えに俺は俺でなくなっていたかも知れない……らしい。
 ジュエル・コアとは願いの成就の代価に対象者のイデアを喰らう。
 『イデア』とはその者をその者とする根源であり、生物でいうDNAや魂とかに近いらしい。要するに『それ』が『それ』たり得る源のこと。
 ジュエル・コアは『それ』を歪めて願いを叶える。
 例えば今日の巨大ネズミとなった野鼠。あれはどうやら仲間と共に天敵に襲われ、本能的に生を渇望しジュエル・コアを呼び寄せた……らしい。
 ジュエル・コアは野鼠が野鼠であったという根源を改竄し、違う存在と変えて『生きる』という願いを叶えた。代価として今度は仲間であった他の野鼠を喰らう程に存在を歪められて――そう、野鼠から切り離して今はそのジュエル・コアに同調し、リスとなっているらしいフェイトさんは言った。
 ………………ゴメン、頭から煙出そう。
「うん。可能性の上では……」

 ――ジュエル・コアの性質は『何かを強く望む者のもとに降り、その願いを叶える』というもの。そしてその願いの叶え方というのが、その本質とも言うべき『リンカーコアを取り込み、イデアを改竄させる』という最悪なもの。
 どうにも大元であるジュエル・コアに最初に寄生されたのがフェイトさんらしい。
 彼女が何を望み、どうしてジュエル・コアがばらまかれたのかはわからないと言う。

「……これから、フェイトさんはそれをどうしたいの?」

 ――俺を少女へと変えた、俺と同化した彼女はその辺を覚えていないと言う。
 自分が何者かは覚えているが、どうしてこうなったのかについては、何故か記憶に無い。代わりにジュエル・コアについてや、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンが知らないような知識を知っているらしい。
 だからこそ、彼女は自分が本当に『フェイト』なのか自信が無いと言うが――

 そんなのは俺には関係無い。

「……ジュエル・コアの収集を、手伝って欲しい」
 俺の問いに、リスは肩から机へと飛び降りて告げた。
「……敬人」
 視線を合わせて、紳士に。 
「確かに私は、ただのジュエル・コアの一つかも知れない」
 どこまでも真剣な瞳を、まっすぐに向けて。
「でも、それでも……」
 リスは――

「私は……『フェイト』として散らばったジュエル・コアを放っておけない」

 ――フェイトさんは、言った。

「……で?」
 彼女がそう答えると、なんとなくわっかていた。
 だから俺は、特に思うことなく、
「ちなみにジュエル・コアに接触してイデアを歪められた者ってどうなるのさ?」
 問いで、返す。それに顔を伏せ、沈痛な声でフェイトさん。
「……ジュエル・コアを喚ぶには何かしらの要素がいる」
 その小さな手が、彼女の内心を物語るように小さく震えていた。
「……つまり誰も彼もが願いを叶える忌まわしい宝石を喚べない、と?」
 ……いや、降って来る時はフェイトさんの姿をしてるんだっけ。
「うん。そして……ジュエル・コアにイデアを歪められ、どんな形であれ願いを叶えられた者は――」
 リスは顔を上げ、俺を見つめて、言った。
「――同じくジュエル・コアを喚ぶ資質のある者か、同じジュエル・コアによって変質した者を取り込んで、次の被験者にしようとする」
 その言葉に、ため息を一つ。窓から外を見て、口を開いた。
「それはフェイトさんも?」

 ――俺の中には彼女が今もいる。
 リスは確かに喋るし、五感なんかも彼女と同調している本体は、今も俺の中にいる。
 ジュエル・コアの本質は『願いを叶え、イデアを喰らう』。そしてその被験者は次のジュエル・コアとなるようにして被験者を求め、またその本質でもって喰らう。

 ……ネズミが俺を狙ったワケがやっとわかった。あと少し彼女が降って来るのが遅ければ、俺はアレに取り込まれていたかも知れない。
「……ううん。私はどういうワケか敬人と同化した際に自我を取り戻した。だからイデアを歪めてもいない。敬人が変身したのは確かに敬人のイデアを私というジュエル・コアが変質させたからだけど、それはもとに戻せない程じゃない」
 問いに真剣な声でフェイトさん。それに俺は、彼女へと視線を向けて――

「なら、断る理由は無い、かな」

 ――微かに笑って、言った。
 ……これから先、ジュエル・コアに寄生され存在を歪められた被害者――ジュエル・コアの暴走体が現れた時、俺はそいつらに狙われる。
 だったら、ただそいつらを待つよりこちらから動いた方が良い。
 ……何より、彼女には命を救われたんだし。
 俺はリスへと手を伸ばし言葉を次いだ。
「俺はフェイトさんを手伝う」
 それにフェイトさんは、ゆっくりとその小さな手を伸ばして、
「……ありがとう、敬人」
 感極まったような声でそう言った――。

 ◇◆◇◆◇

 お風呂に入るという敬人を見送り、私は一人、彼の部屋から外を見ていた。
 私の大元は今も敬人のイデアと同化している。だからこのリスはただの外部端末のようなもの。視点や五感なんかは同調させているため感じられるけど、それだけ。決して本体じゃ、無い。
「……はぁ」
 それでもため息を吐いてしまうのは、これが今の自分の体だと思うから。
 今の私は、やろうと思えば、敬人のイデアを改竄して存在を乗っ取ることも出来る。そしてだからこそ、このリスとしたジュエル・コアをこそ自分としたい。
「……駄目だ。どうしても思い出せない」
 自分が何者かはわかる。自分が何をしていたのか、どういう人間なのかはわかるし昨日までのことだって少しだけだけど覚えている。
 ……確か私は、局の仕事でどこかの観測世界に向かうはずだった。
 しかし、それがどこで、何のためかという詳細を、何故だか忘れている。
 ……これもイデアを改竄された副作用かな?
 そう思い、自嘲するようにして笑う。
「……『イデア』って、どうしてそんな概念を知ってるの?」
 私は――フェイト・テスタロッサ・ハラオウンは、そんな概念を知らなかった筈だ。
 敬人には黙っていたが、イデアとは生物のDNAや魂なんかとは根本的に違う。言うなれば物語に登場する役の設定そのものだ。
 例えばシンデレラ。『灰被り』という意味を持つ、意地悪な継母や義姉に虐げられ、後に王子様と結婚するヒロイン。
 イデアとはそんなシンデレラをシンデレラとする設定そのもの。
 そしてイデアを改竄するというのは、例えばシンデレラで言えば『不幸な生い立ち』という設定を『幸福な家庭で何不自由なく暮らす』とするようなもの。『健気な性格』を『わがままで自己中心的な性格』と変えるようなもの。そして『見目麗しい女性』を『巨大な邪竜』と変えるようなものだ。
 ジュエル・コアをシンデレラが手にし、もしも『何不自由ない暮らし』を望むとする。
 それに忌まわしき宝石は、シンデレラの『何が不自由なのか』という判断基準を歪め、『不自由のない暮らし』のために『見目麗しい健気な女性』という外見を『何者にも邪魔されない強靭な鱗を持つ怪物』へと変えるだろう。
 ジュエル・コアのイデアを歪めて願いを叶えるということは、つまりそういうこと。
 私が敬人にしたのも同じ。彼の『宗円治 敬人十四歳はネズミにかじられては死にたくない』という願いにジュエル・コアがしたのは、彼を彼で無くすこと。イデアを歪め、あろうことか私の原典――『アリシア』にしてみせた。
「……結果的に私がほぼ同時に目覚めたから最悪の展開とはならなかったけど」
 呟き、肩を震わせる。
 敬人は本当に運が良かった。あとほんの少しでも私が目覚めるのが遅ければ、彼は完全に『アリシア』となっていただろう。そして少年の存在を歪められて出来た彼女はなすすべもなく巨大なネズミに――
「……最悪」
 深く深く、ため息。
 イデア――それは物語で言う、役の設定。しかもその原典の設定のことだ。
 そしてイデアを歪められるということは、後に現れる全ての物語もその影響を受けるということを指す。
 私はどういうワケかフェイト・テスタロッサ・ハラオウンでは知り得なかった知識の一つとしてそれを知っている。
 『イデア』という概念に付随する形で『平行世界』という存在を。
「……明日、確かめに行こう」
 視線を部屋の片隅にかけられた少年の制服へと向け、呟く。
 泥だらけの上下。その制服を、私は知っている。
 ……ここにもたぶん、『なのは』がいる。
 視線を窓から外――夜の海鳴市へと向けながら、思う。
「……明日」
 私はそれを確かめに、行く。
 この世界の『なのは』に会いに――。





次話/前話

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本日より心機一転!!

 《ゼロの使い魔〜雷槍の騎士〜》 もいったん完結させましたので今日以降のアクセス数がとても不安な今日この頃。
 今日からは『なのは』の方のSSを掲載させて頂きますが、こちらはオリジナル色が強すぎて正直、投稿には向かないような……?
 とは言え、SSって多かれ少なかれそういう作者のフィルター越しの作品ですし、少しぐらい暴走しても……別に原作を中傷しているワケでもないのでいいかなぁ、と……(←とても自身無さげ)。
 そんなワケで魔法少女ものを使って魔法少女ものをやろうかと。しかも主人公男(オリキャラ)で変身したら見た目アリシア! 前半は『なのは』一期のような宝石収集を! そして後半は――!!
 嗣希創箱の独自設定や造語がこれから多く登場しますが、それらはネタバレにならない程度にお答えしますのでお気軽にお尋ねください。

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《ケイト〜knight of nightmare〜》1

 ――それは、小さな願いでした。

 出会ったのは優しい少年。紡がれたのは悲しみの旋律。

 なのはと出会って六年目の春。私に出来た、新しい友達は……誰よりも強くて、儚くて……。

 きっかけは、やっぱりロストロギアで。

 魔力を喪い、異世界に跳ばされて、私達は出会った。

 存在の根源を失った私と戦う力を持たない彼は、共に戦う道を選ぶ。

 私の与えた魔導の力。それは戦うための……守るための力。

 だけど、それは傷を増やすきっかけで……。

 幼いなのは。

 平行世界。

 孤独の涙。

 砕かれ、変質した、私の根源。

 散らばり、暴走する、私の魔力。

 誰かのために振るわれた力は、悲しみと悼みしか生まなくて。

 それでも、誰かが傷付く事が無いように……私達は立ち向かいます。

 魔法少女リリカルなのはSSep1《ケイト〜knight of nightmare〜》――……始まります。







《ケイト〜knight of nightmare〜》






 ――さて、突然ですが問題です。

 視線を、身を潜ませていた木陰から奥へと向け、自問自答という名の現実逃避。

 ――イカれたのは、俺の頭でしょうか? 

 息を殺して木々の奥を睨む。
 満天の星空の下、小高い丘の山林。俺の視線の先にいるのは、自身の身長――百七十センチの優に二、三倍の体長を有する巨大な――ネズミ。
 冷や汗が浮かぶ。あまりの現実離れした光景に、もはや笑うしかない。
「……それとも、イカれたのは、」

 ――この世界でしょうか?

 冷たい汗が頬を伝い落ちて、知らず苦笑を刻んでいた口元を過ぎた。
 それと同時に――ドズゥン! 地響きの如き低い音を立て、一本の大木がへし折れた。
 ……ははは。なんだ、アレ。どうやったら尻尾の一振りで直径一メートル超の木が折られるんだ?
 もはや笑うしかない。
 なぜあんなのがいるのか?
 どうして自分が狙われているのか?
 そんな疑問はさておき、
「――アンサー」
 不意に、ネズミと視線が合った。頬をまた、嫌な汗が伝う。
「……どうやらイカれたのは、この世界のよう――です!」
 言葉を吐き出すのと同時に、反転。間髪入れず、全力疾走!
 俺の行動に反応したネズミが、こちらへと迫り来る。それを背中に感じながら、俺は即座に隠れていた木陰から飛び出す!
 俺の走り方は左足を引きずる不格好なそれだが、仕方ない。小さな時に負った交通事故の後遺症で、俺は左の腿から下が思うように動かせないのだ。
 いつもは気にならない不自由な足も、今はもどかしい。
 とは言え、これが今の俺の全力。どう贔屓目に見ても、百メートルを三十秒オーバーはかかるだろう、常人より甚だトロい速度だが、致し方ない。
 ズン! ズゥン!
「やっぱり追って来ますか、ネズ公!」
 肩越しにその全容を捉え、即座に横っ跳び。間髪入れず突進して来た巨大ネズミをかわす。
 思わず、良く避けられたなぁ、と冷や汗流して自画自賛。
 ドオゥウゥン!
「……いや、避けたのは俺だけど、前見ないで木に激突したのは俺のせいでなくない?」
 何やらお怒りのご様子の四メートル超の野鼠君。威嚇されてます、尻尾が辺りの樹木を薙ぎ倒してます。正直に怖いと思います、はい……。
「……思えば、短い人生だったなぁ。“宗円治 敬人(そうえんじ けいと)”、享年十四歳。死因は――……うわ、情けないとか格好悪い以前に、ネズミにかじられては死にたくない!!」
 突進して来たネズミに対して、思わず走馬灯を見出した自分に叱咤しつつ、またも辛うじて避ける。フッ、俺さまの動体視力を舐めるなよ! これでも元・野球部のエースだぜ!
「……などという万年帰宅部の戯言をよそに、実はもう絶体絶命、万事休すです。足首捻って次は無理です、すみません」
 とりあえず謝ってみたが意味はなかったよう。ネズミさんが突進して来ました。
「クッ!!」
 出来る限り上体を捻って、体を固め、衝撃に耐えるように全身に力を込めて、
「――――ッ!?」
 突然――ネズミが動きを止めた。
 俺はそれを訝しむでもなく、
 なんだかワケが判らないけど、
 何かに――誰かに呼ばれたような気がして、
 上を見た。
 そして、

 ――女の子が降って来た。

「……さて、ここで二問目の出題です、っと!」
 見ればネズミは、俺と同じように上を向いていた。しかも、どういうワケか彼女が近付くと後退し、まるで脅えるように体皮を震わせている。
 なんであれ丁度良い。俺は女の子を受け止めるべく両手を広げて立ち、来るべき衝撃に耐えるよう、腰を落として腕に力を入れた。
 しかし――ふわり、と。俺の手の中に落ちる寸前、あたかも重力を無視するかのように彼女の落下速度が緩やかになった。
「……この状況はなんでしょう?」
 手の中に抱き留めたのは奇妙な外人だった。
 長い金髪と整った顔。間違い無く美人の部類に入るだろうが、今はそれどころではないので見取れたりなんかしない。
 ……どこかの制服かな?
 黒い、公務員だかどこぞの企業の職員だかの制服を着た、年齢はおそらく俺と同い年か一、二歳上の女の子。
 手の中の彼女は意識が朧気なのか、焦点さえあやふやな視線をコチラに向け、小さく口を開いた。
「■■■■……」
 聞き取れない言葉。それは声の大小に関係無く、俺の理解を越えた言語であり、呪文だった。
「■■■■……」
「「――――!?」」
 俺の足下に浮かび上がって来た『ソレ』を見て、奇しくもネズ公と驚愕するタイミングが重なる。
 闇夜に煌く金色の光で描かれた円陣。中で踊るは異界の紋様にして、呪言。幾何学的な線と図形によって描かれた『ソレ』は、ファンタジーゲームなんかでは馴染み深く、しかし現実においては異質でしか無い――『魔法陣』、だった。
「アンサー……何はともあれ、今日は厄日のようです」
 乾いた笑みを浮かべて溜め息。ほんとに意味不明。ワケわからん。
 そう俺が嘆息するのと同時、
「――――!?」
 突然、手の中の少女が発光!
 そして気付けば、彼女を抱いていた手からは重みが消失え、
 それを訝しむ間も無く、
 手の中の光の、あまりの眩さに瞳を閉ざし、
 そして、

「……………………あれ?」

 発光は一瞬。その一瞬で、抱いていた少女は――消えていた。
 俺は閉ざしていた両目を開けて首を傾げる。さっきのって、幻覚?
 あはは、そうだよね。まさか空から女の子が降ってきたり、ばかでかいネズミに襲われたりなんて現実的に考えればありえないって。
「ねえ、ネズミくん?」
 引きつった笑みを浮かべて眼前のネズミに同意を求める。あははは、あなた様は消えないのでせう?
 て言うか……心なし、さっきよりネズミが大きくなってません?
 冷や汗をダラダラと流しながら後退。ん? なんか、違和感が……?
「って、何か声が高い気がするし、何故か頭が微妙に重いし……」
 頭を振ると、金色の髪がその動きに合わせて揺れた。
「あー……」
 それに触れようと持ち上げた手は、どういうワケかブカブカの制服に覆われていて、

 ――……なんとなく理解した。

 俺は、表情を引きつらせて自身を見た。
 答えは――……………………やはり予想通りでした。
「……問三。私は誰でしょう? アンサー……何故か幼女になってる宗円治 敬人、十四歳です」
 身長は百二十センチにも満たないだろう。腰に届こうかという長い金の髪と下半身の違和感から少女だろうことはわかる。どうにも着ている服はそのままに中身である俺だけが変化したらしい。
 そんな自身を見下ろし、乾いた微笑。あはは、何が何やらサッパリですなぁ。
 と、次の瞬間――

『――……ごめんなさい』

 鼓膜を震わせず、心に直接響くような女の子の声。
「ぅおっ!?」
 思わず目を丸くしてキョロキョロ。
 ……あれ? 何か今、頭の中で響くような声が――
 閃くものがあった。いい加減このファンタジーな出来事に慣れたというか、むしろ投げやりになって口を開いた。
「あぁ、なるほどなるほど、これがいわゆるテレパシーってやつね? 君の名前は?」
 どうして、だとか自身に対する違和感だとかをとりあえず置き去りにして問う。
 対して、大した間も開けずに答える声。
『……凄い。この状況で混乱してないんですね』
 ……いえいえ、大混乱中ですよ? しかも当てずっぽうですよ?
 内心、苦笑を浮かべながら、俺は少し驚いたような声で言った彼女へと再度言葉を投げた。
「とりあえず自己紹介しとくと、俺は宗円治 敬人。中二。何処にでも居るような普通の十四歳」
 後半強調。
『私はフェイト・テスタロッサ・ハラオウン。えっと、歳は数えで十五歳になります』
 それに習って自己紹介する声の人――フェイトさん。
 客観的に見ると凄い滑稽だなぁとか思いつつ、
「フェイトさんね、了解。とりあえず、この状況を判り易く説明してくれると助かる。俺は、」
 先程まで威嚇するだけで動かなかったネズミがいきなり突進して来た。
「――その間に、全力で逃げるから!」
 猪突猛進という言葉をネズミが実践するのは如何なものか?
 コチラへと牙を剥き、迫るネズミ。対して俺は地面を転がるようにして避け――て、ズボンが脱げた!? 靴も!!
 体格差からベルトが用を成さなくなっていたらしい。おかげズボンと靴が、俺の動きについてこれずにすっぽ抜けた。
 しかもそれが不運なことに、ズボンはネズミの突進に巻き込まれどこかへ。……下、トランクスで帰れと? …………泣くぞコラ。
「くっ! さすがに下半身裸だけは回避してやる!」
 ずり落ちるトランクスをどうにか死守しつつ、ネズミを睨んで立ち上がる。
 ぅを!? 今度は上着が……!
 もともと、中肉中背とは言え中二の男であった俺に合わせて仕立てた風ヶ丘の制服だ。どう贔屓目に見ても小学校低学年相当だろう、今の体にはブカブカ過ぎて動き難い。
「……誰も見てないよね?」
 このままではネズミの攻撃を避け続けるのは至難。俺は苦渋の選択として上着とそしてトランクスとを脱ぎ、まとめて林の中へと投げる。ははは、どうだ裸ワイシャツだぞ! 泣きそうだぞ〜!
「さて、どういうワケか不自由なハズの左足も捻った右足首も治ってるみたいだけど……」
 ワイシャツの袖をまくりつつ、こちらを睨むネズミに対して引きつった笑み向ける。
「正直、逃げるのはキツいかな……」
 先ほどよりは動き易くはあったが、それでも逃げるのは難しいだろう。今の体は体力面と筋力面が心配だし、何よりコンパスの違いからさっきより移動速度は落ちてすらいる。
 ……ただ、救いなのは、この体の運動神経自体は決して悪く無いってことと、動態視力の方はむしろ向上しているみたいだってことだな。おかげで避け易くはなっているし、逃げられないまでもこのままどうにか時間を稼げれば――
『敬人』
 頭に響いた声に思考を停止。そう言えばフェイトさんがいたんだっけ。
『幾つか確認したいことがあるんだけど良い?』
「どうぞ」
 断る理由は無い。こちらにはもう打つ手が無いのだから、このワケのわからない女の子に頼る他無い。ちなみに脳内彼女説は現在全力で否定してます。フェイトさんはいるさ絶対! だから俺はまともなんだ! きっと!
『今、敬人は「私」に成り代わってるけど、敬人は魔法を使える?』
 電波な内容だけど、気にしたら負けさ!
「いや、使えませんよ」
 『私』がフェイトさんを指し、フェイトさんが降ってきた女の子だとして何故に自分は幼女か?
 ……などという疑問もあったがそれより何より質問に返すことを優先。今は疑問を一々解消している程の余裕なんて無い。
『わかった。じゃあ私が魔法を使うから……敬人はタイミングを合わせてアレに接近して』
 また難しいことを、と内心で苦笑しつつ、
「了解!」
 俺は迫り来るネズミをヒラリヒラリと華麗に――ギリギリのところでかわしつつ、答える。その動きに合わせて金色の長髪が踊る。
 逃げられないまでも避け続けるだけなら何とかなりそうだ。ちょうど今居るのが月下の林道ということもあり、靴下を履いていない足が地面の小石なんかで切れたのか痛いけど、周りを囲う木々のおかげでネズミの動きが阻害されて読みやすい。
 幸か不幸か今は小回りの抜群に利く幼女体! 木々の隙間を縫うようにして駆け、ネズミの突進を寸でのところでことごとく回避。
 そして――
『敬人!』
 頭に響く、待ちにまった反撃の狼煙!
「了解!」
 俺は方向転換に手間取っているネズミに迫り、
『手をかざして!』
 迷わず指示に従う。
 瞬間、かざした手の先に浮かび上がる、輝く金色の魔法陣。そしてそこから伸びる金の鎖。
 それはまるで意志を持つかのようにネズミへと高速で巻きつき、その身を拘束した。
「……え? もしかしてこれで終わり?」
 ネズミは暴れるが縛鎖からは逃れられない様子。どうやら事態は一応の終着を迎えたようだが、俺としては何とも味気ない。
 ……まぁ命懸けでマタドーラをやってたんだから味気ないも何も無いんだけどさ。
 とりあえず俺は頭をかきかき後ろへ一歩。さて、このまま逃げようかな、と後ろを向こうとして――

『――「ジュエル・コア」封印!』

 内側から響く声に呼応するように、ネズミの下に浮かび上がる新たな魔法陣。
 俺はギョッとしてそれに目を向け、だんだんと光の粒子となって消えて行く巨大ネズミを見た。
 そして――
「……あれって、」
 巨大なネズミは光となって消え、
 代わりに残ったのは、小さな野鼠が一匹と、
 宙に浮かぶ、青く光る宝石。
 俺は呆然としつつ、それへと手を伸ばし――

『触らないで!』

「――ッ!?」
 フェイトさんの制止の声でハッと我に返り、伸ばしかけていた手を下ろした。
 混乱する。自分の――今は幼くて小さな手を見つめ、冷や汗を流す。
 ……何だ、今の?
 無意識に、俺は手を伸ばしていた。まるで青い宝石に引き寄せられるみたいに――
『アレは「ジュエル・コア」』
 答えは、やっぱり頭の中から。
『触れた者のリンカーコアと同化して存在情報の根源――「イデア」を浸食、改変させてしまう危険なもの』
 …………ナンデスト?
「……ありがとう、助かった」
 の、かなぁ? 俺はよくわからないながらもとりあえず御礼。そして何故か動悸の早まる胸を宥めるため、そっと深呼吸。
 そんな俺の様子にフェイトさんは心底不思議そうな声で、
『……信じてくれるの? こんな突拍子も無いことを』
 それに俺は『何を今更』と言わんばかりに苦笑して返す。
「フェイトさんの言った言葉に嘘は無かった。それに突拍子とかはともかく、ネズミの化け物から助けてもらったのは事実だから」
 その言葉にフェイトさんはしばし言葉を返さなかった。
 そして俺が、そろそろ寒くなって来たなぁ、と思ってワイシャツの袖を下ろし始めた頃、
『……あのジュエル・コアは、たぶん私がばら撒いてしまった、私のリンカーコアの欠片』
 キョトンとして青い宝石を眺めた。
 ……はい、名前以外はサッパリです。
 フェイトさんの言っている言葉の意味がよくわからなかったので、とりあえず問う。
「……それで、あれをどうするの?」
『敬人……とりあえずアレに出来る限り近付いて』
 ……マジで?
『大丈夫。心を強く、確かに保っていれば引き込まれないはずだから』
 その言葉に『了解』と返し、恐る恐る近付く。
 その間に、フェイトさんは何やら朗朗とした声で呪文を唱え、
 次の瞬間、

 ――宝石が眩い閃光を放った。

「ぅをっ……!?」
 たまらず左手をかざして目を庇う。
 フェイトさんが何かしたんだろうけど目を開けてられな――

『……ジュエル・コアとの同調に成功』

 閃光は瞬きの内に収まり、
 俺はゆっくりと手を下げ――
「……………………は?」
 呆然となる。
 なにせ、さっきまで宙に浮いていた青い宝石は、
「……とりあえずイデアに還元するのは難しいかな。たぶん敬人の魔力抵抗値だと暴走の危険性が高いし」
 今や手のひらサイズの、

 青いリスに、なっていたのだから。

 しかも俺の耳が確かなら、あのリス、今……喋った? と言うか、声が――
「……もしかして、フェイトさんだったり?」
 呆然と、引きつった顔をリスに向けて問う。
 対して、
「うん。これはもともと私のイデアから分岐した、私の欠片だから」
 リスはその小さな瞳をこちらに向けて、答えた。
「…………ふぅ」
 思わず吐いたそれは、安堵の溜め息か、それとも疲れのためか。何はともあれ、終わったんだなぁ、と実感する。
「……フェイトさん。説明して欲しい事が山ほど貯まってますが、付き合ってくれますよね?」
 とりあえず苦笑して、リスへと手を伸ばす。
「……はい」
 それにフェイトさんはトテトテと腕を伝い、俺の肩まで登って返事した。
「さて、」
 空を見上げれば、変わらず綺麗な満月があり、星々は煌めくように夜空を飾っていた。
 そんな、ある種幻想的な空の下で、
「……とりあえず、どっかに飛ばされたズボンを見つけて帰りますかね」
 一息、また嘆息をもらすと、俺は暗い山林を捜索し始めた。

「――って、そう言えば俺はこの格好で帰るの!?」

 ――その日俺は、空から降ってきた女の子と出会い、
 そして、魔法少女となったのであった。






次話

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ゼロの使い魔〜雷槍の騎士〜 後書き対談?

嗣希創箱(以下、嗣)「とあるSSサイトや某有名ドラまた魔法少女の小説の後書きなんかで作者と作品内のキャラクターが対談するような形での後書きがありますが、それに密かに憧れていたので今回はその形で」

キャロ(以下、キ)「そ、それでわたしたちですか……?」

嗣「はい! 今回は『なのは』サイドのオリキャラ、半オリキャラの三人をお呼びしました!」

カルディナ(以下、カ)「……カルディナはまだ喋れない筈では?」

ルーテシア(以下、ル)「それより、エリオをどうにかするのが先。あの終わり方は個人的にとても不満」

嗣「では早速本編の裏話から始めましょう!」

カ「無視ですか……」

嗣「まずは我らが主人公、エリオから。……実は、天然女殺しスキルは書いてたらいつの間にか付いた、いわば予定外のスキルです」

キ「……作者が読者様に指摘されるまで『最強主人公ハーレムもの』っていうことに気付かなかったぐらいですしね」

ル「しかもプロットには私や艦長の登場なんて無いし、モンモランシーやギーシュにしてもああなったのは成り行きみたいだし」

嗣「エリオはですね。どれだけ弱くするかで悩みました」

カ「また無視ですか」

キ「確かにゲームバランスを崩し兼ねないですね……AAA魔導師は」

ル「『なのは』側では割と多いけど。ニアーSランク」

嗣「そもそもデルフリンガーが無意味なんですよ。最初はあの剣のイベントはスルーするつもりでしたし」

ル「ストラーダがあれば七万のアルビオン兵とも渡りあえそう。AAA」

カ「それ以前に二巻のワルド様すら瞬殺では? AAA」

嗣「そんなワケでエリオは要所要所で弱く、または居なくなってもらいました」

キ「そ、そのためのカルディナちゃん登場ですか?」

嗣「悲しい過去を持つ女の子って萌えませんか?」

カ「……そんな理由であの仕打ちでしょう?」

ル「……実は作中、もっとも悲劇に見回れたのがカルディナだったり」

嗣「ですがカルディナ無くしてこの話は進行しません。なにせリミットブレイクした主人公って物語を破綻させかねないジョーカーですから」

キ「……一章のボスとも言うべきフーケさんにも楽勝でしたから、AAA」

嗣「そんなワケで二章以降もエリオには要所要所で弱く、或いは居なくなってもらいます」

カ「……父は本当に主人公でしょう?」

ル「二章以降……もしかして私たちの出番ない?」

嗣「はい」

キ「がーん」

カ「カルディナの復帰は?」

嗣「当然、あります。そして同時にオリキャラが二人登場します」

ル「ちなみに作者は『なのは』関連のSSは全てリンクさせるという悪癖があるけど……もしかして?」

嗣「はい。当然、リンクさせます、そこから持って来ます、SSS」

カ「……何故、ジョーカーを増やすのでしょう?」

嗣「これからサイトならやるだろうけどエリオじゃ絶対しないことが増えます。その対策です」

キ「……セーラー服とか管理外世界のこととかですか?」

嗣「はい。ちょうど動かし易いのが居ましたので」

ル「……完全に内輪ネタ気味なので軌道修正。次回作はいつ?」

嗣「嗣希創箱が二巻を買ったら書き始めます」

カ「……早急な購読を要求」

嗣「……給料日前で現在財政がピンチです。来月以降まで待って下さい。と言うか、一章の改訂版を書き終えてからなのでもっと待っていただきたい所存です。ちなみに改訂版は『なのは』本編が終わって、漫画が終わって、ドラマCDが出揃ってからなのでいつになるか……」

ル「……ではそれまで何も書かない、と?」

嗣「いえ。明日以降は『なのは』SSの『ep1』を載せようかと。二章以降登場のオリキャラの説明にもなるし一石二鳥かと」

キ「……なんだか裏話というよりこれではCMでは?」

カ「それ以前に後書きですら無いでしょう?」

嗣「まあ所詮はネタです。これは本編に関係があるようで無い、嗣希創箱の日記みたいなものです。あ、では裏話を一つ。カルディナは家の車の名前です」

カ「文字通り取って付けたような裏話です」

嗣「さて、ではこの辺で今回は筆を置かせていただきます」

ル「筆……作者は基本的に携帯で書くのに、筆?」

キ「それより、カルディナちゃんの扱いが後書きまで不憫な気が……」

嗣「今まで《ゼロの使い魔〜雷槍の騎士〜》をご愛読いただき、誠にありがとうございました! 以上、後書き対談でした」

カ「……最後まで無視でしょう?」

ル・キ「……可哀想に」

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ゼロの使い魔〜雷槍の騎士〜23

《ゼロの使い魔〜雷槍の騎士〜》





 フーケを宮廷の衛士に引き渡し、そしてルイズが破壊した秘宝『破壊の杖』の残骸を学院へと引き渡した少女たちはその功績から『シュヴァリエ』の爵位を貰えるという話になった。
 ただし、タバサは既に『シュヴァリエ』の爵位を持っていたので変わりの勲章を。そしてただの平民であり使い魔という扱いであるエリオはそれら勲章などの褒章は無し。それにルイズらは不平を申し出たが、青年としてはあまり目立ちたくなかったのでそれを了承。
 そして時間は過ぎ、夜――。

「い、いや、だから……その……」
 場所はアルヴィーズの食堂の上階。その日はちょうど『フリッグの舞踏会』という催しがあったらしく、エリオたちはそれに参加していた。
「あ、あれは事故です……! た、たまたま倒れかかった時に……」
 周りを見渡せば着飾った生徒や教師が、テーブルを見れば豪華な料理の数々が並べられている華やかな会場において、エリオはバルコニーで三人の少女たちに詰め寄られていた。
「それは無い。エリオはもう少し、自分の悪癖を自覚すべき」
 黒いリボンと同じく黒いゴシック調のドレス――のように見えないこともないバリアジャケットを纏ったルーテシアが、下から睨み上げるようにして青年に言った。
「い、いや、悪癖って――!?」
「そ・れ・よ・り! なんで何も言わないで帰ってるの! おかげでいろいろと大変だったのよ!」
 ルーテシアの言葉に表情を引きつらせる青年に詰め寄りモンモランシー。彼女もやはりきらびやかな真紅のドレスを纏い、腰に手を当てエリオを睨む。
「あ、それとエリオくん! 聞きましたよ? ルイズさんのために無茶して死にかけたり、決闘の度に魔法使ったりしたそうですね!?」
 少女二人に詰め寄られバルコニーに追い詰められている青年に追い討ちをかけるようにキャロ。本当ならエリオを置いて帰るだけだったため当然ドレスなど無く、ルーテシアのようにバリアジャケットを纏うワケにも行かず管理局の制服姿で頬を膨らませて青年を睨んでいた。
「……ダーリンも大変よねぇ」
 それを遠目に眺めながらキュルケ。シルフィードに乗ってルイズのもとへ向かっていた途中で同じく少女のもとへ急いでいた彼らと会い、キャロに治癒魔法をかけてもらったため傷は完治。一応、ダンスの申し出は自粛しつつも綺麗なドレスを纏い舞踏会には参加していた。
「自業自得」
 その傍らで料理と格闘しつつタバサ。黒いパーティドレスを纏い、チラリと青年を見て一言。
 キュルケはそんな少女の態度が意外だったのか目を丸くし、次の瞬間には『確かに』と言ってケラケラと笑い出した。
「――ヴァリエール公爵が息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブランド・ラ・ヴァリエール嬢のおな〜〜〜り〜〜〜!」
 門に控えた衛士の言葉にそちらを見るエリオやキュルケたち。
 ルイズは長い桃色がかった髪をバレッタにまとめ、ホワイトのパーティドレスに身を包んでいた。
 キャロの魔法により怪我は完全に治っている。ルイズはしずしずと高貴な家柄だということが一目でわかる歩き方で会場入りした。
 その少女の登場により主役が揃ったのだろう。楽士たちが小さく、流れるように音楽を奏で始めた。
 それに呼応してかルイズの周りには少女の姿と美貌と驚いた男たちが群がり、その肘までの白い手袋越しの手を取ろうとするが、彼女はそのすべてを歯牙にかけない。
 ホールでは既に貴族たちが優雅に躍り出すが、ルイズはそれらを気にせずキョロキョロ。そして青年を見つけて近付こうとし――
「ルイズ」
 呼び止められる。
 さすがに無視するワケにも行かないので振り向くと、見知った少年――ギーシュとそして彼の横に佇む女性が目に入った。
「初めまして、ルイズさん」
 そう『にこり』と微笑む妙齢の美女にルイズは見覚えが無い。格好もドレスではなくどこかの制服だろう、黒の上下を着ていた。
「……誰?」
 それを眉をひそめて見つめ、隣の少年に問う。
 対し白いタクシードと胸元に飾られた赤い薔薇が物凄く似合っているギーシュは、苦笑するように肩をすくめて答えた。
「エリオの元上司で保護者」
「なっ――!?」
 その言葉に思い切り驚愕の表情になるルイズ。目を丸くしてまじまじと女性を見れば、確かにその服装が彼らの着ていた制服にデザインが似ていた。
「フェイト・テスタロッサ・ハラオウンです。初めまして」
 そう言って微笑む女性――フェイトに、ルイズは即座に背筋を伸ばす。
「はっ、ははははじ、初めまして! ル、ルルルルイズ・フランソワーズ・ル・ブランド・ラ・ヴァリエールですっ!」
 そう、これでもかという程に緊張しながら名乗る。
 対してフェイトは苦笑するように微笑み、口を開いた。
「あの、そんなに緊張しないで下さい。今日はただ、エリオのことで挨拶したかっただけですので」
「いっ、いえいえそんなっ! エ、エリオ――さんには、いつもお世話になっていますと言いますか、守られっぱなしで申し訳ないと言いますかっ!」
 そんなやりとりを『くつくつ』と笑って眺めるギーシュ。ルイズは横目でそんな少年を睨みつつ、緊張の眼差しでフェイトを見た。
 長い金の髪の、とても美しい女性だった。彼女の持つ独特の雰囲気は、なるほど青年と似た柔らかくて暖かいそれに通じるものがある。
「ふふ。エリオから貴方のことは窺ってます。あの子が怪我した時に治癒を手配してくれたとか」
「そ、そんなっ! あ、あのそれはわたしが原因で――!」
 微笑のままに言うフェイトに両手を振り乱してルイズ。『あわあわ』と焦りまくる少女を、フェイトは静かに見つめ、
「ルイズさん」
 そっとその手を取って真剣な瞳を向ける。
「エリオとカルディナは私の大切な家族です。どうかよろしくお願いします」
 そう言って頭を下げるフェイトに、ルイズは大慌てで答えた。
「は、はいっ! こ、こちらこそお願いします!!」
 『だ、だから頭を上げて下さい!』と、もはや泣きそうな声で懇願するルイズ。
 フェイトはその言葉にゆっくりと顔を上げて最後に微笑んで言った。
「……まあ、親ばかなおばさんのお願いですから、そんなに気負わないで下さいね」
 『それでは』と断り、フェイトは歩き去った。
 それを見送り、『くらり』とめまいを起こしたようにテーブルにもたれかかるルイズ。どうやら心底緊張し疲れたらしい。
 そんな少女を本当に楽しそうに眺めてギーシュ。肩をすくめて、歩き去ったフェイトの方を向きたまらず口を開いた。
「『おばさん』て……まだまだお姉さんで通じると思うけどね」
「て言うか、あいつの憧れの人ってあんなに美人なの……?」
 ギーシュの言葉により落ち込んでルイズ。母親だか姉だかは知らないが、身近にあんた美人な人がいたのでは自分なんて――と少しだけ女としての自信を喪失する。
 先ほどまでの煌びやかさが嘘のように縦線を背負う少女に苦笑し、その肩を叩いて去って行くギーシュ。
「どうかしましたか?」
 果たして、少年と入れ替わるように声をかけて来るのは、顔を上げなくてもわかる、大切な使い魔の青年だった。
「……どうしてフーケを攻撃しなかったの?」
 ルイズは顔を上げずに問う。
「怒ってたのに……あいつはあんたの娘を――」
「悲しいからって、人を傷付けて良い理由にはなりません」
 顔をゆっくり上げる。エリオは笑っていた。
「僕らは人が傷付くと悲しいということを知っています。だから僕らは、その連鎖を断ち切る」
 だからルイズも笑う。意地悪く、悲しみなど無いというように笑う。
「だからってキスする? 普通」
 その台詞に表情を引きつらせるエリオ。さっきまでそのことで散々、ルーテシアたちに詰め寄られていたことを思い出し、冷や汗。
「い、いや、あれは事故で! ……あ! そうです、まだ言ってませんでしたね」
 焦りつつ言葉を紡いでいたが、ハタと何かに気付いてか再びいつもの微笑を取り繕って言った。
「ドレス、すごく似合ってます。綺麗ですよルイズ」
「〜〜〜〜っ!」
 その一言で『ボン!』と音が出るほどに顔を真っ赤に染め上げるルイズ。そして照れを隠すように苦々しい表情になってそっぽを向く。
 相変わらず、この青年はずるい。
 その言葉が嘘じゃないのはわかる。そして他意が無いことも。
 だからこそ始末におえない。その顔、その微笑でそんな台詞を言われて正常でいられる女性などいないだろうに。
「ルイズ? どうかしましたか? 顔が赤いみたいですし……さっきも目眩を起こして……大丈夫ですか?」
 そっぽ向く少女の顔を覗き込んでエリオ。その相変わらずの鈍感ぷりに頭を抱えたくなりながら、ルイズはため息を一つ。若干まだ頬を染めつつ、不機嫌顔を向けて口を開いた。
「きょ、今日はぶぶぶ舞踏会よね? あ、あんたは踊らないの?」
 その問いに苦笑を浮かべて頭をかきかき答えるエリオ。
「いや、僕、こういった行事に参加したことなくて。踊り方とか知らないんですよ。ルイズは?」
 言ってキョロキョロ。
「先ほどからルイズに声をかけようとしている人がたくさんいるみたいですよ。踊らないんですか?」
「そう言うあんたは?」
 訊きつつ、不機嫌顔で辺りを見回すルイズ。モンモランシー以下エリオファンクラブ一同が青年に声をかけるタイミングを計り、なんとも恐ろしい視線を自分に向けていた。
「いえ? 誰も僕みたいな平民と踊りたいなんて言いませんよ」
 『それに着ているのが局の制服ですし』と苦笑する青年の言葉に今度こそ頭を抱えた。
 ほ、本当に無自覚なのね、自分がモテるってことに……。
 ルイズは深く深くため息を吐き出し、何故かこちらを心配そうに見る青年を睨み、口を開く。
「じゃ、じゃあ、仕方ないわね」
「?」
 首を傾げる青年に真っ赤な顔を向け、ドレスの裾を恭しく両手で持ち上げ、膝を折って一礼。
「わ、わたわたわたくしといっ一曲、お踊ってくだ、ください、ませんこと。ジェントルマン」
 その言葉に一瞬目を丸くするエリオ。そうしてから微笑を取り繕い、誰が見ても紳士然とした立派な仕草で一礼。
「喜んで、お相手いたします」
 少女の手を取った――。

 ◇◆◇◆◇

 青年と少女のダンスをバルコニーにて眺めるフェイトたち管理局の三人。
「カルディナは大丈夫。二週間もすれば完治するそうよ」
 そう言って通信を切り、フェイトは二人の部下に微笑んだ。
「後であと二人、エリオたちのサポートに来るわ。私たちは彼らが来るまでこちらで待機します」
「……艦長。それは女ですか?」
 フェイトの言葉にエリオたちから視線を外さずにルーテシア。それに苦笑するように微笑みフェイトは答える。
「女の子とその夫よ」
 それに『それなら安心だ』とばかりに頷くルーテシア。見ればキャロも同じような表情だったが、おそらくは本人は気付いていない。
 ……キャロとエリオって、なのはとユーノの時みたいに進展しなさそうね。
 フェイトは小さく苦笑するように笑い、ホールで踊る二人へと視線を戻すであった――。

 ◇◆◇◆◇

「君たちはエリオと踊らないのかい?」
 ホールで踊るエリオとルイズを眺めながらギーシュは問う。
「……まあ、わたしは後で良いわ」
 それに若干悔しそうな表情でモンモランシー。
「あたしは今日は良いわ」
「決闘に負けたから誘う理由がない」
 と、キュルケとタバサ。テーブルに並ぶ料理を食べつつ、チラリと二人を見て返す。
「そうだね。僕もなんだかそういう気分じゃない」
 見れば給仕をする少女――シエスタも隙あらば青年と踊ろうとしているようで、ギーシュは苦笑した。
 視線を傍らの三人に戻すと、何故か皆、若干引いていた。
「……ギーシュ。やっぱりあなた、そっちの趣味が……」
「た、たまにいるらしいわね。ま、まあダーリンは美形だし、し、仕方ないわ……」
「…………男色」
「……………………君たち。だからそれは誤解……」

 ◇◆◇◆◇

 ホールで踊る青年と少女は、いつの間にか注目の的であった。
 着飾り、澄ました顔でステップを刻む美少女とその相手をする赤い髪の美男子。エリオの踊り方はルイズの『わたしに合わせて』という言葉に従っているだけだが、持ち前の運動神経と飲み込みの早さで、今はホールで踊るどんなカップルより華麗に踊っていた。
「ねえ、エリオ。あなたはどうしてわたしのためにそんなにしてくれるの?」
 ステップを刻みつつルイズ。それに微笑を浮かべたままエリオは口を開く。
「初めは異世界に喚ばれて寄る辺が無かったので仕方なく。でも今は違います」
 手を引き、右へ左へ。そしてターン。
「ルイズは見ず知らずの、ワケの分からない僕なんかのために食事や衣類、武器や治療費を出してくれました」
 踊るながら、ステップを刻みながら笑顔で答える。
「それにルイズはカルディナのために悲しんでくれた。僕の娘のために怒って、戦ってくれた。だから僕は――」
「ねえ」
 曲が終わる。
 次の楽曲が始まるまでの間、ルイズとエリオは立ち止まって見つめあった。
「誓いを、もう一度……。今度はちゃんと、流されてとか、仕方なくとかじゃなくてちゃんと……しよう……?」
 少女は多少頬を染めた潤んだ瞳で青年を見上げて言う。
「使い魔契約の儀式……あ、あれがわたしの、ファ、ファーストキス……だ、だから……ちゃんと、やり直したい」
「え……!」
 目を丸くして赤面する青年の服を掴んで、不機嫌顔で言葉を次ぐ。
「フ、フーケとはしたじゃない……! だ、だから……」
 言って瞳を閉じ、深呼吸を一回。
 その鳶色の瞳を青年に向けて、今度は真剣に、そして神聖な儀式として少女はそれを言葉にする。
「――我がは名ルイズ・フランソワーズ・ル・ブランド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ……」
 そう言って顔を上向け、静かに瞳を閉ざすルイズ。
 対し、エリオは顔を真剣なそれへと変え、あの日少女に誓った言葉を、今度は自分の意思で、それを望んで口にする。
「――どんな外敵からもルイズは僕が守ります」
 肩に手を置き、膝を折って少女の顔に顔を寄せる。
「――使い魔、エリオ・モンディアルとその能力のすべてを持って、」
 周りに見ていただけだった全ての人間が息を飲んで二人を見た。
 ルーテシアがたまらず駆け出し、モンモランシーが眉をつり上げ、キャロが目を丸くし、シエスタがトレイを落とす。
 しかし二人はそんな周りのことになんて気付かない。何故なら既に、二人は瞳を閉じていたから、
 そして――
「我が主を守り抜くことを、ここに誓います」
 宣言し、エリオはそっと少女の唇に自分のそれを当てた――。

 楽士が、次の曲を奏でる。
 次の、舞踏のために――



 ――――《ゼロの使い魔〜雷槍の騎士〜》・完――――



※ 後書き

 この度、嗣希創箱の《ゼロの使い魔〜雷槍の騎士〜》を読んでいただき誠にありがとうございました。
 これにて《ゼロの使い魔〜雷槍の騎士〜》はいったん完結とさせていただきます。皆さまからいただいたご意見、ご指摘、感想は後日改めてこちらの作品の改訂版を書く際に参考とさせていただきます。
 最後に、この作品を読んで下さいましたすべての方に感謝をもう一度。
 ありがとうございました。





前話

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ゼロの使い魔〜雷槍の騎士〜22

《ゼロの使い魔〜雷槍の騎士〜》





 ――もう大丈夫だ、と無条件に思った。
 モンモランシーの部屋に現れた三人を見て、部屋の主である巻き毛の少女も、ちょうど眠る少女のお世話のために来ていたシエスタも、そしてその場で待機していたコルベールも皆、安堵した。
 彼らを連れて来た学院長もそう。誰もが希望の化身のように、三人の中の一人を見つめていた。
「……カルディナ」
 赤い髪と異国の制服を纏った青年――エリオは、ベッドで眠る自分の大切な娘を抱き締め瞳を閉じた。
「「…………」」
 沈黙が部屋を包む。誰もが彼ら親子を見て声をかけられずにいた。
 そんな中、青年は立ち上がり、抱いていた娘を一緒に来ていた、彼と同じような作りをした制服を纏う、黒いリボンと額の紋様が特徴的な少女に手渡した。
「ルーテシア……カルディナを」
「わかった」
 カルディナを手渡された少女――ルーテシアは頷き、そして部屋から出て行った。
 青年はそれを見送り、部屋にいた四人をそれぞれ見て回す。
「……少女のことは力及ばず。すまんかったの」
「いえ。僕の見通しの甘さがいけないんです」
 オスマンの言葉に優しい笑みを浮かべてエリオ。彼はフーケの存在を知らず、カルディナの力を過信し過ぎていたせいだと思っていた。
「それにミス・ヴァリエールのことも……」
「ルイズは言い出したら聞きません。むしろ一人で勝手に行かなかっただけ良かったですよ」
 コルベールの言葉にも同様。首を振って否定。青年はルイズのことを『ドルイド』との通信でだいたい把握していた。
「あの……カルディナちゃんは……?」
「大丈夫です。僕たちはもともと、あの子みたいな存在を助けるために動いてますので任せて下さい」
 シエスタの不安気な言葉に笑いかけて答える。エリオたちの部隊はもともと戦闘機人や人造魔導師、そしてそれに類する命を救うための装備と人員を揃えた、言わば専門家だ。だからこそ少女は大丈夫だし、何より『カルディナちゃん』と呼んでくれた彼女にエリオは嬉しく思い、笑顔で頷いて見せた。
「エリオ……帰ったらいろいろと話あるから」
「はい」
 涙目で睨むモンモランシーに笑顔を向け頷く。そして傍らの桃色の髪の少女――キャロを伴って背を向けた。
「では――行って来ます」

 ◇◆◇◆◇

 ――それは光だった。
 黄色くて暖かい、赤くて温かい光。
 希望の、光。
「――お待たせしました」
 にこりと光は――エリオは笑って言った。
「……ぁ」
 それだけで少女を縛り苛んでいたすべての闇が消えて行くようだった。
 目頭が熱い。頬を額から流れる血以外の液体が伝う。
 抱き締められた体が熱い。力が入らない体を抱き締める青年の温もりが嬉しい。
「おせーよ、相棒。待ちくたびれたぜ」
 肩に背負ったデルフリンガーの台詞に青年は苦笑して見せた。
「ごめん。これでも色々と無理して急いだんだけど」
 そっと、着ていた制服の上着を脱いでエリオ。それを畳み、地面にしいてルイズの頭を乗せた。
「ただいま、ルイズ」
 そしてそっと少女の涙を拭ってエリオは言った。
「……!」
 もう我慢出来なかった。
 ルイズは青年の胸に抱き付いて泣こうとし、

 ――瞬間、青年は少女の肩に担がれた大剣を抜き放ち、一閃!
 二人を貫くはずだった石の氷柱を斬り伏せる。
「――あなたが『土くれ』のフーケですか?」
 それは純然たる怒気を孕んだ声。
 ルイズからは振り向いた青年の顔は窺えないが、彼はきっと物凄く怖い形相をしているのだろうことは知れた。
「……そう言う貴方は、噂の『雷槍の騎士』、エリオね?」
 青年の見つめる先で、フーケは冷や汗をかいて問うた。
 そして彼女を見て思い出す。そうだ、自分はエリオの娘を――
「エリオ……!」
 まずは謝ろうと思った。
 自分を信じて娘を託した青年に、カルディナのことを謝ろうと思った。
 だけど――
「ごめん、ルイズ……。話は後で……」
 振り向いた青年は申し訳なさそうにそう言った微笑み、少女をそっと寝かせた。
 ルイズは言葉を失う。彼の内心は、その手に下げたデルフリンガーが異常なほど眩い輝きを放っていることからもわかる。
 エリオは怒っていた。
 だからルイズは引き留められない。
 そして――
「……忘れ物よ」
 すぐにでも駆け出しそうな青年にルイズは笑って言った。
 右手をゆっくりと上げる。青年の頬に触れ、勝ち気に笑って告げる。
「行きなさい、わたしの『雷槍の騎士』。あなたが最強であることを、もう一度、わたしに見せて……」
 エリオはその手を取り、笑う。
「……了解」
 少女の手首に巻かれた自身のデバイスに触れて、微笑む。
「……ストラーダ。セットアップ」
 青年の言葉と同時、視界を埋め尽くす黄色の閃光。しかし見えなくても見える。エリオが笑っているのが、振れられた手から伝わったわかる。
 それは瞬きの間に。いつか見た、赤いジャケットと白いロングコート姿の――バリアジャケットを纏った青年の姿に、ルイズは微笑みを返し、その手に従うようにして地面に体を横たえた。
「……お待たせしましたか?」
 右手に紫電纏う槍を。
 左手に雷光纏う剣を。
 そしてその背に、唯一無二の主を寝かせ仁王立つは最強の使い魔。
「そうね。いい加減待ちくたびれたわ」
 対するは『土くれ』の二つ名を持つ大盗賊――フーケ。
 ルイズとの戦いで所々煤け、泥に汚れ、それでも尚、背後に巨大なゴーレムを従えて退こうとしない。
 青年の背にいる少女は自分を散々コケにした。だからこそ殺す。そのために邪魔する者はすべてねじ伏せるとばかりに彼と対峙する。
「貴方の噂の真偽……この目で確かめてあげるわ!!」
 叫び、杖を一閃。背後のゴーレムを青年へと突撃させる。
『Stahlmesser』
「一閃必中!」
 対し、エリオは真っ向からこれに挑む。
『Explosion』
 カートリッジ消費し、全力で。左手のストラーダの刃先に黄色の魔力刃を纏わせ、噴出口から魔力を勢いよく吐き出し、ゴーレムに突っ込む!
「なっ――!?」
 フーケは驚愕に目を剥く。
 青年の突撃のスピードもだが、槍から生やした黄色の刃がゴーレムを難なく貫き、背から見える。そしてそれは段々と上へと走り、ゴーレムを切り裂く。その上――
「ハァアアアア!!」
 気合一閃!
 エリオの回転斬りによってゴーレムが胴の部分で両断された。
 ギーシュ、タバサ、キュルケの三人がかりでどうにか倒したそれをエリオは瞬殺。まったく相手にならなかった。
「チィッ!」
 フーケは舌打ちを一つ、ゴーレムの制御を止めて次の呪文を唱える。
 それなら、あんたの娘を倒した魔法で――!
 エリオがゴーレムに攻撃をしている間に詠唱完了。杖を振って青年と、そして少女の横になる地面そのものを隆起させて攻撃とする。
 コイツがいくら早くても所詮は足。だからその足場さえ無ければ――
 しかし――
『Sonic Move』
 一瞬で青年を見失った。
 何の比喩でもなく、本当に青年が閃光となって視界から消えた。それも距離を置いて寝かせていた少女もほとんど同時に。
 フーケはここに来て気付いた。自分が相対する敵は何の偽り無く噂通りの使い魔なのだと。幾人ものメイジを同時に相手して尚、返り討ちにしてきた最強の騎士なのだと思い知り、戦慄した。
 ……くっ! なら数で――
 今日戦った少年の使うゴーレムのコピー。鉄で出来た戦乙女を大量に作り出して周囲を警戒する。
 そして――

『Speerangriff』

 次の瞬間には幾つものゴーレムを貫き、目の前まで迫った青年がいた――。

 ◇◆◇◆◇

 フーケとエリオが激突する上空。
 白い飛竜――フリードリヒに乗せられ、桃色の髪の少女――キャロに肩を抱かれ、もたれかかるようにして下を見ていた。
 ……これが、わたしの使い魔。
 久しぶりに見た青年はやっぱり強く、そして圧倒的だった。
 紫電散らす槍で鋼鉄のゴーレムを難なく貫き、そして雷光煌めく大剣で紙のように切り裂く。
 まるで自分たちが苦戦していたのが嘘のような圧倒的な強さ。
 自分が待ちわびた、自分を支え、守る、最強の槍。いつでも傍にいてくれた、優しくて、暖かい、希望の剣。
 ルイズは呆然と、そして恍惚としてエリオを見下ろしていた。
「気付きましたか?」
「え?」
 そんな少女に傍らにいたキャロが問う。
 頭を強く打っていたため呆としていたルイズは、そう言えば誰かにもたれかかっていたことをようやく認識し、その少女に気付いた。
「エリオくん、ルイズさんが召喚してすぐの時より強くなってますでしょう?」
 ぼんやりと自分を見つめる少女にキャロは悪戯っぽく微笑んで告げる。
 それにルイズは視線をエリオへと戻し、そう言えばと、遅ればせながらそれに気付く。今までストラーダとデルフリンガーの二つを同時に使って戦う青年を見たことがなくて気付かなかったが、確かに彼がより強く、そして早く見えた。
「エリオくん、うちの部隊を辞めちゃったんです。ルイズさんとカルディナちゃんを守るために、この世界に残るんだって」
 だから青年は能力リミッターを外して来た。
 今までは部隊の保有する魔導師ランクの総合などを気にして制限していたそれを、今日、除隊する彼は解除して来ていた。
 つまり彼の魔導師ランクは総合AAA。その上、今はカートリッジの残量も気にしない、本当の全力全開状態。
「……あの」
 ルイズは傍らの少女の顔を見た。優しく、そして大切な人を見つめる瞳で青年のことを語る異世界の魔導師を見つめて問うた。
「あなたはそれで……良いんですか……?」
 少女の話では彼は自分たちの世界に、部隊を辞めてまで残るという。
 つまり彼女と青年は、もう――
「……わたしとエリオくんの保護者は同じ人で、ずっと同じ部隊で働いて来ました」
 ルイズの問いにキャロは瞳を閉ざし、回想するようにして語る。
「あと一人、ルーテシアさんっていう子と三人で、十歳の時から今日まで七年間……わたし達は同じ部隊でした」
 保護者であるフェイトが、自分のような子供たちを助けるために頑張っているのを知っていた。だからエリオとキャロはそれを手伝おうと局に入隊し、そして戦闘機人や人造魔導師関連の事件に対する専用部隊が発足された時には、ルーテシアの三人で入り、今まで一緒に頑張って来た。
「……エリオくん、言ってました。今もどこかで悲しい思いをしている誰かを助けるのではなく、僕は今、自分を必要としている人たちを守って行きたいって」
 青年はキャロとルーテシア、そしてフェイトを前にそう言った。
 自分は誰かのためではなく、誰のために戦うかを決めてしまった。
 フェイトが自分みたいな悲しい子供を助けるために戦うように、
 キャロが自分を助けてくれたフェイトのようになりたいと戦うように、
 エリオは誰かではなくルイズとそしてカルディナを守って行くと決めた。
「ルイズさん。あなたは確かにたまたまエリオくんを召喚しただけかも知れませんが……」
 キャロはそう言って、少女を真剣な瞳で見つめた。
「それでも、あなたがエリオくんの主だということを、絶対……忘れないで下さい」
 キャロにとってエリオは幼なじみで同僚で仲間で友達で家族だった。好きと愛するとかそんなのではなく、ただ一緒にいるのが当たり前で、会おうと思えばいつでも会える、恋人とか想い人とかは既に越えた、切れない絆で結ばれた大切なパートナーだった。
 だから彼がそれを望むなら応援したい。エリオが自分たちから離れるのは寂しいけど、でもだからと言って引き止める理由なんて無い。
 絆は変わらない。会おうと思えば、いつでも会いに行ける。
 だからキャロはそんなパートナーである青年が仕えることになる少女を真剣な瞳で見つめた。
 まるでこれから息子を婿にでもやる母親のように。弟が出て行くのを心配する姉のように。そして兄が居なくなることを寂しく思う妹のように。
 キャロにとってエリオは幼なじみで家族でそれ以上の大切な存在だ。だからこそそれを託すのであれば、その相手に妥協は許さない。
 そして――
「…………」
 その言葉と思いににルイズは、
「……はい!」
 と確かに頷いて返した――。

 ◇◆◇◆◇

 土で出来た巨大なゴーレムは瞬きの内に切り刻まれ、
 足場を隆起させればその魔法以上の速度でもってかわされ、
 数多の鉄のゴーレムで戦えば軽く蹴散らされ、
 石の氷柱で不意を打っても難なく斬って捨てられ、
 フーケはもう勝てないことはとっくの昔にわかっていた。格が違うことも、青年がその気になれば即座に自分の首を落とせるということもわかった。
 では何故、自分は未だに生きているのか。
 そんなのは簡単だ。フーケが諦めず、そして青年が彼女に攻撃しないからだ。
「……はぁ……はぁ」
 しかしそれももうおしまい。抵抗しようにももう魔法は使えないし、逃げようにも青年の足に勝てるとは夢にも思わない。
 膝を着き、肩で息をして青年を睨む。
 ……はは。結局無傷みたいね。
 もう笑うしかない。彼が出て来た時点で負けなのだとようやく気付いた。
「まったく……はぁ……ずっと……帰って来なければ……良かったよ」
「そうも行きませんよ」
 フーケの憎まれ口に苦笑する青年。
「娘と、それに僕の主がお世話になったんですからご挨拶はしませんとね」
 ……はは。あ〜あ、『破壊の杖』なんかに拘らないでとっとと逃げとくんだったわ。
「……もう良いですか?」
 それは何とも気の抜けた降伏勧告だった。青年は困ったような微笑でもってフーケに問いつつ、右手の槍を消して見せた。
 対して思わず邪気を失って苦笑。何よ、その顔は? 反則じゃないの?
 フーケは手に持った魔法の杖を投げ、両手を上げた。
「……参ったわ」
 もう抵抗する気も、青年を憎む気持ちも沸かなかった。
 ……まさかこちらのやる気を削いで勝って見せるなんてね。
 青年はゆっくりと無警戒に自分へと近付く。
 フーケは逃げない。逃げようなんて思わない。
「決して、悪いようにはしません」
 そう微笑む青年に毒気を抜かれ、『やれやれ』と首を振った。
 これでは彼も、そしてその主である少女も恨めないではないか。
「……狡いわね、貴方」
 とうとう目の前まで迫った青年に、しかしフーケは何もしようとは思わない。
 抵抗は無駄。敵対も無駄。だからこそ彼が手を伸ばしても避けるどこかか警戒すらしなかった。
「……狡いわよ」
 バチ、と。青年が触れた瞬間、意識が刈り取られて行った。立ったままではいられず倒れかかるも、それをエリオは当然のように抱き留める。
 意識が闇に塗りつぶされかける中、視界の端にこちらを見下ろす少女たちを見つけた。
 ……最後に仕返ししてやるわ。
 にやりと小さく笑い、倒れかかりながらフーケは――
「…………っ!?」
 青年の唇に自分のそれを、押し当てたのだった――。






次話/前話

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戦闘って良いですよねぇ……

 今日はなんだかとても筆が進んでしまい、《ゼロの使い魔〜雷槍の騎士〜》は二話更新です。いや〜、本当に戦闘シーンて書いてて楽しいですよね。あの駆け引きなんかがとても燃えます。そして我らが主人公ではああは行きません。
 そしてそして《ゼロの使い魔〜雷槍の騎士〜》は次回、遂に最終話です。主人公の全力全開にご期待下さい。

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ゼロの使い魔〜雷槍の騎士〜21

《ゼロの使い魔〜雷槍の騎士〜》





 ――これを持って言えば良いの?
 それはまだ青い髪の少女の怪我が完全には治っていなかった頃。
 夕飯後。後は寮に帰って寝るだけだったのが、いつの間にか魔法の特訓へと変わっていた夜の一時。
 ――肯定。
 カルディナが渡した黒真珠の耳飾りを手に、ルイズは言われた通り、『セットアップ』と唱えた。
 ――ぅわ!?
 すると耳飾りは少女の両目を覆うミラーシェイドへと瞬時に形状を変えた。
 外からは窺い知れないが、内から見たミラーシェイド越しの視界は快調で肉眼以上によく見えた。夜間で光源など空の月や建物から漏れるランプの光しか無いにも関わらず壁に背をつけ座る少女の顔の細部までよくわかる。
 ――今日はその『ドルイド』を着けたまま魔法を使って下さい。
 驚き目を丸くするルイズにいつもの淡々とした口調でカルディナ。ミラーシェイドを着けていないためいつもは隠れている少し大きめな銀色の瞳を向け、無表情に言う。
 ――良いけど……あんた、コレ無いと見えないんじゃないの?
 ――肯定。しかし現在、『ドルイド』と情報リンクをしているのでルイズ姉の視界越しにでしたら見ることが可能。
 また意味不明なことを、とルイズは顔をしかめつつとりあえずその日も的を狙って魔法を使うことにした。
 その背に向けて、カルディナは言う。
 ――いずれ『ドルイド』はルイズ姉用に調整します。
 ――は?
 ――ルイズ姉専用のデバイスはまた後ほど造ります。今は情報が足りませんので『ドルイド』で我慢して下さい。
 背後から聞こえる言葉の意味はほとんど理解出来なかった。
 だけどそんなのは別にどうでも良い。とりあえず理解出来たミラーシェイドを着けたままの魔法の特訓を今はすれば良い。
 わからないことはまた後で聞けば良い。カルディナはいつでも答えてくれる。本当に今、理解しなければいけないことならば少女はもっと細かく、説明する。
 だから後で良い。
 後で――

 ◇◆◇◆◇

 巨大なゴーレムは破壊した。しかしフーケはまだ姿を現さない。
 ルイズは辺りを見回していた。自分に驚いたような視線を向けるキュルケたちは無視する。今はフーケのことで頭がいっぱいだった。
「ちょっと、ルイズ……今の――」
 たまらず声をかけてきたキュルケの言葉は、しかし最後まで続かない。
 巨大なゴーレムに成り代わり、成人男性の身の丈ほどの鉛色のゴーレムたちが十数体現れ、ルイズたちを取り囲んだからだ。
「……なるほど。この僕の『ワルキューレ』を真似たワケか」
 その造形は、苦々しく言う少年の言葉通り、材質こそ異なるがすべて戦乙女を模したもの。
 つまり鉄の『ワルキューレ』。
「ちょ、ちょっと! 鉄じゃあたしの炎はほとんど利かないわよ!?」
 引きつった顔でキュルケ。それにタバサもギーシュも顔をしかめて無言。タバサの風や氷の魔法も、ましてや鉄以下の硬度である青銅の『ワルキューレ』を使うギーシュにも打つ手など無い。
 しかし相手はそんな彼らの都合など気にせず、鉄で出来ているとは思えない俊敏さを見せて襲いかかる!
 キュルケとタバサは『フライ』の魔法で回避を選び、ギーシュは駄目もとで『ワルキューレ』を出して牽制。しかし硬度の違いが如実に現れる。鉄の『ワルキューレ』の剣が青銅の剣を折り、次々と粉砕して行く。
 キュルケとタバサは距離を離して火球と氷纏う烈風で攻撃するが、その進行を一時的に抑えるだけに留まり、破壊には至らない。
 そしてルイズは――
「――『破壊の杖』よ、その力を解き放て」
 『破壊の杖』を振り、鉄の硬度など気にせず『ワルキューレ』たちを次々に爆砕させていた。
 ギーシュはそれを横目で確認し、自身の『ワルキューレ』を使って時間を稼ぎキュルケとタバサに合流。早口に言う。
「僕たちでは正直この鉄のゴーレムの相手は難しい。そこでルイズの『破壊の杖』に頼るのが良いと思うが、数が数だ」
「そうね。あたしたちはなるべくルイズの所に行かせないように――それだけに集中しましょう」
 少年の言葉にキュルケも早口に言って同意。青銅の『ワルキューレ』を破壊して来た鉄のゴーレムを睨み、即座に『フライ』で距離を取る。
 二人の会話を聞いていたタバサもキュルケの目配せを受け頷く。
 タバサが唱えるのは『フライ』の魔法。鉄のゴーレムの傍らまで素早く移動し、注意を引きつけ、即座に移動。ゴーレムがタバサを狙って反転する頃にはキュルケの業火がその身を燃やし、しかし何事も無かったかのように動き出す。
 キュルケは舌打ちを一つ、今度は自分へと向き迫り来る赤熱したゴーレムの一撃をどうにか横に跳んで回避。しかし少女に呪文を唱える暇を与えずゴーレムは更に剣を振り上げてキュルケを――
 タバサの冷気の塊をその身に受け、動きが軋んだ。
 ……鉄とかの金属にだって弱点はあんのよ。
 キュルケはニヤリと笑ってギーシュへと視線を向ける。
 少年は頷き、急激な温度変化でひび割れた鉄のゴーレムに『ワルキューレ』を向かわせキュルケを庇う。
 青銅の『ワルキューレ』との硬度差が逆転したゴーレムに勝ち目などなく、難なく突き崩される。
 ……それにしても、キツいわね。
 キュルケはそれを確認し、冷や汗を流しながら次のゴーレムへと火球を放つ。
 現状、三人がかりで鉄のゴーレムをどうにか破壊しているのだが、どう考えても物量の差から追い込まれるのは時間の問題のように思える。
 一体を破壊するのに手間と時間がかかり過ぎる。巧いことタバサがゴーレムを引きつけ戦場を飛び回り、ギーシュの『ワルキューレ』が時間を稼いでくれているがそれでもこのままではまずい。何せ三人の内の誰かが倒れてしまえばそれまでなのだから。
 チラリと三人とは別に一人でゴーレムを破壊し続ける少女を見る。
 ……ルイズが『破壊の杖』を使ってゴーレムを瞬殺してくれんのはありがたいけど、それでもこのままフーケが現れなければ物量で圧されて負ける。
 鉄のゴーレムはいくら破壊してもどんどんと作り出され、その数を減らさない。このままでは誰かが落とされ、連鎖的に全員が負け――
「――――っ!」
 キュルケは全ての思考を投げ、ルイズへと駆け出す。
 ゴーレムは無視。連携とかも今は気にしない。
 視界の中心――ルイズは気付いていない。
 その背に迫る石の氷柱に――
「っ! キュルケ!!」
 気付いていたのは自分だけ。だから赤毛の少女はルイズを突き飛ばした。
 そして――

 ――石の氷柱は少女の脇腹に突き刺さった。

 ……ああ、これであの子を刺したのね。
 血の滴る唇を『ニィ』と歪め、キュルケは思う。
 急所はどうにか外したが、これではもう戦えない。そしてそれは必然的に負けを意味する。
 氷柱はただの土くれとなり、栓を抜かれたワインのようにキュルケの脇腹から鮮血が流れ出した。体を支えられず倒れかかるが、それはルイズに受け止められる。
 キュルケは少女を見上げる。ミラーシェイド越しでわかりづらいがルイズが目を剥いて自分を見下ろしているのだけはわかった。
「……どうして」
 ルイズは呆然と呟く。自分と少女は確かにいがみ合い、憎しみ合う家計同士だ。それなのにどうして自分を助けたのかと少女は問うた。
 それにキュルケは笑う。そんなのはこっちが聞きたいと思いながら、口をついて出たのは違う言葉。
「……あなたは傷ついちゃ駄目だからよ」
 横目で戦況を見る。
 ルイズとキュルケの抜けた穴をタバサとギーシュが無理をして埋めているが、それも時間の問題。結局は遅かれ早かれ自分たちは負けるだろう。
 ……それはまあ、今さらね。
 キュルケは別に命のやりとりのためにここに来たのではない。ただ単に気紛れで、なんとなく、こう思ったから来ただけだ。

 ――赤い青年と青髪の少女が守った主を死なせない。

 苦笑する。あまりのらしくなさに笑うしかない。
「……あなたは逃げなさい」
 見上げた空にタバサの使い魔であるウィンドドラゴンが見えた。
 ……『破壊の杖』とルイズが無事ならあたしの勝ちよフーケ。
 こちらに降りて来るそれにフーケも気付いたのか、ゴーレムたちが一斉にルイズたちに向かうが――
「――悪いが、僕の友人には指一本触れさせないよ」
 それをギーシュが立ちふさがり、『ワルキューレ』でもって迎撃。
 硬度の差で破壊されるも、その度に作り直して時間を稼ぐ。
 ……たとえフーケに僕の『ワルキューレ』が勝てなくても、それでもここは譲れない。
「ギーシュ!」
 キュルケを抱いて叫ぶ少女に笑みを向ける。
 ああ、そうさ。ルイズは守ってみせる。僕は貴族だ。貴族は義を尊び、友のために戦ってこそだ!
「乗って」
 降りて来た風竜に乗ろうとしないルイズにタバサが言う。
 それにルイズは首を振って否定。このまま自分がいなくなれば皆、殺される。だから『破壊の杖』で戦うという風に杖を構え――
「シルフィード」
 風竜がタバサの言葉に従うようにしてルイズを抱え、翼をはためかせる。
「っ! タバサ!」
 暴れるルイズを無表情に見上げてタバサ。それから、残され、地に倒れ伏す友人に目を向け微かに微笑む。
 ……これで良い?
 キュルケからタバサはルイズを守ってやって欲しいと頼まれていた。
 だからこれで依頼は達成だ。たとえ自分たちがこれからどうなろうと目的は果たしたのだからタバサは満足していた。
 キュルケは血の滴る唇で笑い返し、そしてタバサに肩を借りる形で起きた。
 ……さあて、あとはまあ適当に頑張りましょうかね。
 対するは十数体の鉄のゴーレム。瀕死の自分を抱えて、『破壊の杖』を振るうルイズ無しで勝てる見込みなんて零だろう。
 それでもキュルケやタバサ、そしてギーシュたちは絶望しない。たとえ殺されても、自分たちの目的は果たしたのだから、と笑みさえ刻んでゴーレムに対する。
 そして――
「フゥゥウウウケェエエエ――――!!」
 ルイズは叫んだ。森中に響き渡るように、声の限りに叫んだ。
「あんたの目的は『破壊の杖』の使い方を知ることでしょう!? だったら今すぐゴーレムを止めなさい!! じゃないとコレを持ち帰っちゃうわよ!!」
 ルイズの目的は『破壊の杖』の奪取では無い。だからこそこのまま帰るワケには行かない。
 何より、皆をこのまま残して一人で帰るなど出来ない。
「ルイズ! 良いから逃げなさい!」
 因縁深い自分のために力を貸して、その上体を張って助けてまでしてくれたキュルケのためにも――
「僕たちのことは大丈夫だから早く!」
 青年のいない今でも自分のために戦ってくれたギーシュのためにも――
「行って」
 ほとんど関わりの無かった自分をずっとフォローし続けてくれたタバサのためにも――
「出て来なさいよ、ミス・ロングビル!!」
 ルイズは逃げるワケには行かない。
「あんたがフーケなのは知ってるのよ!! だってわたしの使い魔にそう言ったものね!? 全部このインテリジェンスソードから聞いてるのよ!!」
 そしてその叫びに鞘に入っていたデルフリンガーは苦笑しるように『おいおい』と小さく言う。
「そのことは学院長も知ってるわ! 今頃は王宮にあんたのことを知らせているわ! ざまあ見なさい!」
 シルフィードは叫ぶルイズをどうして良いかわからない風に上空で留まっていた。シルフィードとしても主を残して行くのに気が引けるようで、内心ではルイズを応援してすらいたのである。
「ついでに教えておくわよ馬鹿フーケ! あんた、あたしの使い魔を殺したと思ってるみたいだけどね! あの子なら生きてるわよ!! 本当に詰めが甘いわね!!」
 ルイズは大声でフーケを挑発し続ける。
「さあ、早くゴーレムたちを止めて出て来なさい!! じゃないと本当に『破壊の杖』を持ち帰るわよっ!?」
 そして――
 その声に呼応するようにゴーレムたちは動きを止め、彼女の二つ名の通り『土くれ』へと変わった。
「――随分とナメた口をきいてくれるわね」
 変わりに現れたのは黒いローブを纏ったフーケと、そして巨大な土のゴーレム。
 フーケはロングビルに化けていた時にしていた眼鏡を外し、猛禽類を思わせる鋭い視線をルイズへと向けて言葉を次いだ。
「ほら、言われた通りゴーレムを止めて、出て来たわよ?」
 嘲笑するように言って、フーケ。確かに言われた通りだが、変わりに誰かが魔法を使えばすぐにゴーレムを使ってキュルケたちを踏み潰す気であるのがありありと知れた。
 それはルイズも同様。少女が『破壊の杖』を持って逃げればフーケは見せしめのためにやはりキュルケたちを殺して逃げるだろう。昨晩殺し損ねたという少女の時とは違い、かんぷなきまでに徹底的に。
 それでもイニシアチブはルイズの方にこそある。
 少女はようやく押し殺していた感情を面に出すかのように凶々しく笑いながら、口を開く。
「取り引きよ。『破壊の杖』はあんたにあげる。変わりに下の三人は見逃しなさい」
 その言葉にキュルケたちは目を剥いてルイズを見るが、彼女たちが何かを言う前にフーケが答える。
「良いわ。でもその前に、貴方は自分の杖を捨てなさい」
 その提案に三人はギョッとした。つまりフーケはルイズに杖を捨てさせ、その上で『破壊の杖』を寄越すように言っているのだ。
 それでは取り引きが成立すると同時にルイズは殺される。杖の無いメイジなどもはやメイジではなくただの人だ。魔法が使えなければなすすべなくフーケに殺されてしまうだろう。
 そんなことはルイズだって当然知っている。知っていて尚、少女は笑って言った。
「交渉成立ね」
 懐から取り出した杖を、少女は躊躇なく捨てて見せた。
 そして、
「場所を移すわ。付いて来なさい。ほら、あんたはとりあえずあっちに向かって飛びなさい!」
 そう言って自分を掴む風竜に指示するルイズ。それにシルフィードは少しだけ考え、従うことに。主の命とルイズとを天秤にかけた結果、風竜は主たちを選んだのである。
「ちょ、ちょっとルイズ!?」
「待ちたまえ! 君一人を行かせるワケには――」
 それに慌てるキュルケとギーシュ、そして無言で攻撃の機会を窺う三人に、少女は振り向き、そして――
「ありがとう……」
 ルイズは笑った。綺麗に、万感の思いを込めて笑って言った。
 それを見て三人は言葉を失い、
 飛び去る風竜と、そして巨大なゴーレムを、ただ見送った――。

 ◇◆◇◆◇

 森の開けた広場。三人からはそれなりの距離を置き、ルイズとフーケはそこで対峙していた。
 風竜はタバサのもとへ飛び去り、フーケはゴーレムを土くれへと変えて少女の前で余裕の構え。
「さあ、『破壊の杖』を渡しなさい」
 所詮相手は杖を持たないただの小娘。フーケは見下しきった態度でそう言い、片手を差し出した。
 それにルイズはまた表情を押し殺したような無表情を向け、『破壊の杖』を足下に置き、ゆっくりと離れた。
 ……あら? それだけしか離れなくて良いの?
 ルイズと『破壊の杖』との距離は大体歩いて五歩。十分相手を逃がさず魔法を当てられる距離だ。
 ……まあ、『破壊の杖』を手放した時点で殺しちゃっても良いのだけど。
 フーケは余裕の表情を浮かべて『破壊の杖』を手に取った。
「せっかくだから、貴方でコレの力を試させてもらうわね」
 フーケはニィと残酷な笑みを刻み、『破壊の杖』を構えた。
「貴方も馬鹿よね。お仲間は貴方を逃がそうとしたのに、わざわざ杖まで捨てて残るなんて」
 いっそ哀れむように蔑みきった台詞を吐くフーケをルイズは無表情に見つめて返す。
「……少し前に同じようなことを聞かれたわ。『魔法が使えないのに自分に挑むのか』って」
「あはは! それで貴方は何て答えたのかしら?」
 フーケは笑う。少女を馬鹿だと嘲笑う。
 対し、ルイズも笑って返した。
「今も答えは一緒よ。わたしは貴族。魔法が使える者を貴族と呼ぶんじゃないわ」
 少女は笑う。笑って、自身の杖も無しに右手を上げて構える。
「敵に背を向けない者を、貴族って呼ぶのよ!!」
 叫び、火球の呪文を唱えるルイズ。
「あはは! 杖も無しに何してるのよ!」
 フーケは笑い、そして『破壊の杖』を振るった。
「さっさと死になさい! 『破壊の杖』よ、その力を解き放て!」
 しかし――何も起きない。
 そして、ルイズの呪文が完成する。
「なっ――!?」
 それは勘だった。発動する筈は無いと知りながら、それでもフーケはとっさに体を捻って回避行動を取った。
 ――おかげで死なずに済んだ。
「――――ッ!?」
 ルイズの『ファイヤーボール』の魔法は確かに失敗した。
 失敗し――爆発した。とっさに避けたフーケの頭のあった位置で、手に持っていた『破壊の杖』を爆砕する形で大爆発を起こした。
 何が起きたのかフーケには理解出来ない。気付いたら爆風で吹き飛ばされ地に伏していた。
「く……!」
 混乱する。
 確かにルイズは杖も無しに魔法を失敗とは言え発動させた。確かに自分は見ていた通りの呪文で『破壊の杖』を振るったのに魔法が発動しなかった。
 これではまるっきりあべこべではないか! どうして発動しないはずの魔法が発動し、発動するはずの魔法が発動しない!
 意味がわからない。
 そして混乱する頭に少女の呪文が聞こえ、またとっさに地面を転がった。
「なっ――!?」
 先ほどまで自分のいた地面が爆発した。
 ……間違いない! 彼女は杖も無しに魔法を使えるんだわ!
 驚愕に目を剥きつつ懐を探る。そして青ざめた。どうやら先ほど吹き飛ばされた時に自分の杖を落としたらしい。
 ……じょ、冗談じゃないわ!
 舌打ちを一つ、体を起こし、横っ飛び。少女の爆発をなんとか回避する。
 自分の落とした杖の位置は困ったことに少女の近く。つまり取りに戻っていては杖を落としたことに気付かれる。
 ……たく! どうして杖を使わず魔法を使えるのよ!?
 爆発を転がって避け、考える。自分には少女みたいに杖を使わず魔法なんて無理だ。そもそも系統魔法全般がその法則に則っているはずだし、それこそ何かのマジックアイテムとか『先住魔法』でも無い限り――
 気付いた。
 少女の使い魔は先住魔法を使えるという噂がある。
 『エリオ』という使い魔は雷を纏う槍と剣を持ち、閃光の如く駆ける。そして『カルディナ』という使い魔は――
 フーケは転がって爆発を避けながら、石を拾う。
 狙うはそう。昨晩、殺し損ねた少女もしていた黒いミラーシェイド!
 ……許さないわよ!!
 彼女は初めから『破壊の杖』なんて使っていない。ただ違うマジックアイテムを使ってそう見せかけていただけ。
 ……それにまんまと騙されたってワケね?
 それは何という屈辱。しゃべる剣といい、人間の使い魔といい何て埒外のメイジだ!
 フーケは爆発を避けつつ少女に迫る。
「!」
 詠唱より速くは無理でも詠唱後すぐなら、幸い距離が近かったこともあり少女へと肉迫出来る。
「……散々、人をこけにしてくれた礼は――」
 爆発。それを突っ切り、ルイズの顔面に向けて掴んだそれを振り下ろす!
「高くつくわよ!!」
 石は狙い違わず少女の着けていたミラーシェイドを砕き、
 そして――

 ドッ、と。
 少女は勢い良く地面に頭をぶつけ、倒れた。
「――――!」
 地面に広がる鮮血を見下ろし、フーケはとどめの一撃を――。

 ――瞬間。
 黄色の閃光が、少女をさらって行った――。





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