※ 前書き
この作品は『魔法少女リリカルなのは』という作品のアニメシリーズと原作版のクロス小説です。途中、『魔法少女リリカルなのは』という作品をご存知ない方には非常に解り難い表現が含まれていますので、それを承知の上でご覧下さい。
また、作中に著者による独自解釈、設定、世界観、オリジナルキャラなどが描かれていますが、こちらも事前にご了承の上でご覧になって下さい。
◇◆◇◆◇
《なのは’s View》
……わたし、高町なのはは少しだけ変わった家庭で育った……多分、ごくごく普通の女の子。
好きな科目は理系全般。苦手なのは体育。
趣味はゲーム全般。それからカメラやビデオでの色んなものの撮影で、特技はAV機器の取扱い全般。
今習っているのは学習塾が一つと、休みの日に帰って来るフィアッセさんに英会話教室をしてもらってます。
そしてわたしの夢は……――
――お嫁さんになること、です……。
◇◆◇◆◇
「――……それで結局、なのははみんなに発表したの?」
時刻は既に正午過ぎのお昼休み。
雲一つ無い初夏の青空の下。わたしは友達の槙原檸檬ちゃんこと、檸檬ちゃんと屋上にてランチの真っ最中。
二人並んでベンチに座ってお弁当を広げています。
「………………うん」
会話の中身は今朝のこと。
我が家で起こったなのはの将来の夢についての一騒動の顛末について。
結局、わたしはあの後、好奇心によって根掘り葉掘り聞いてくる家族の質問攻めに真っ赤になって固まってしまい、そのまま時間切れ。帰ったら続きを話す、ということになりました。
「……すごく恥ずかしかった〜」
今思い出しただけでも顔から火が出る思い。
なにせ夢が『お嫁さん』。
それを家族に発表した上に帰ったらまた質問攻めが確定。……穴があったら入りたい心境とはこのことだよ〜。
「で、でもね檸檬ちゃん! な、なのはも何も考えないでお嫁さんになりたいって思ったわけじゃなくてね、ちゃんと考えて……それまで一番なりたかった『翠屋』の二代目さんとか、他の、例えば映像監督さんとか……お嫁さんなら色んな夢のお仕事と兼任ができるからなの!」
真っ赤な顔で檸檬ちゃんにまくし立てるわたし。それに檸檬ちゃんはふんわりと柔らかい微笑を向けて一言。
「そっか……」
それだけ。
檸檬ちゃんは綺麗な瞳を細めてなのはに微笑み、昼食を再開し始めます。
「……うん」
わたしも照れくさくなりながら昼食を再開しつつ、隣の檸檬ちゃんを見ます。
……檸檬ちゃん。
長くて綺麗な金の髪をリボンで左右に結んだ、笑うとすっごく綺麗ななのはの友達。
檸檬ちゃんは去年の夏休み明けに、なのはのクラスに転校して来た。
「檸檬ちゃんの夢は?」
……初めは、ぜんぜん笑わない子だった檸檬ちゃん。
「……わたし?」
クラスの子に話しかけられても、いつもビクビクしてて……わたしも最初は、ちょっと暗い子だなーって思ってた彼女。
「……わたしは――」
でも今、わたしの隣にいる檸檬ちゃんは――
「…………お医者さんに、なりたい」
はにかむように、それでも花が咲くようにふんわりとわたしに笑ってくれる。
「それって、フィリスさんみたいな?」
フィリスさんというのは、おにーちゃんがたまに迷惑をかけているお医者さんでレンちゃんの主治医さん。
ちなみに檸檬ちゃんの義理の姉であるリスティさんとフィリスさんは血の繋がった姉妹らしいけど親は違っていて……でも檸檬ちゃんにとってはフィリスさんともお姉さんと妹みたいな関係……らしいんだけど、ちょっとその辺は複雑っぽい。
「……うん」
……でも多分、血の繋がりとかは関係ない。
うちの晶ちゃんやレンちゃんみたいに、きっと仲が良ければ(……二人は仲良しだよね?)家族になれるんだから。
檸檬ちゃんはフィリスさんが大好きで、憧れだって言ってたし、フィリスさんだって檸檬ちゃんのことは好きだと思うから……だから二人は姉妹で、家族なんだ。
「な、なのははやっぱりクロノくんのお嫁さん?」
「――――――っ!」
照れ隠しだろう、檸檬ちゃんの一言に固まるわたし。
あ〜う〜……そ、そう言えば檸檬ちゃんにはなのはの気持ち、前に相談してたっけ〜……!
にゃ――――! は、ははは恥ずかしいよ――――!!
「……なのは?」
穏やか午後の昼下がり。
わたし、高町なのははまた真っ赤になって硬直し続けるのでした。……まる。
◇◆◇◆◇
《恭也’s View》
夕暮れ時、大学から帰り着替えてリビングに降りると晶とレンの二人がいつものように言い争いをしていた。
「……なんだとてめー。もういっぺん言ってみろ、このカメっ!」
「ほっほっほー。何度でも言うたるわ、おさるー」
……口喧嘩もとい、本格的な喧嘩に移行しそうだな。
ため息混じりにそんな二人を眺め、それから……いつもならこんな二人の喧嘩を止めるだろう妹を探す。
……ふむ。とりあえず家にはいないな。
時計を見れば既になのはの学校は終わっているような時間だ。
「……なるほど」
そう言えば、なのはは帰ったら今朝の続きを話す約束をしていたな。
チラリとリビングでうたた寝している美由希を(殺気を込めて)睨む。
「――――ッ!?」
ガバッと飛び起きる美由希。……ふむ。寝ていてもちゃんと気配を掴めるようにはなってるようだな。
何やらひどく怯えた様子の美由希を無視してリビングを出る。
……さて、なのはを迎えに行くか。
「はぁあああああああ!!」
「ほい! はっ!!」
ドカ! バガン!! ダン!
……家が壊れる前に。
◇◆◇◆◇
……まぁなんとなく、ここにいるような気はしたが。
優しい風の吹く草原。そこは一人の少女がよく友達と遊んでいた丘。
「あ、おにーちゃん」
今だ制服姿の妹とそして一度家に帰ったのだろう、なのはの友達の少女を見つけ俺は黙って近付く。
「あ、あの……こ、ここここんにち、は……!」
「……ああ」
黒のワンピースを着た少女……確か槙原さん所の……檸檬、ちゃん……だったか?
俺がなのはに近付くのに対し、少々怯え混じりに挨拶する少女に苦笑。……何度か会っているのだが、今だに怖がられているな。
「……なのは」
とりあえず当初の目的通り、妹のもとへ歩む。対しなのはは困ったような顔で檸檬ちゃんの後ろへ。……おい。檸檬ちゃんが固まってるぞ妹よ。
ため息を一つ、往生際の悪い妹の首根っこを掴もうと手を伸ばす俺。すると――
「ウー……!」
何やら唸っている子犬が一匹。檸檬ちゃんの持つリードに繋がれたそいつが俺を睨み威嚇する。
「あ、みかん……!」
そんな子犬のリードを引いてどうにか黙らせようとする檸檬ちゃん。
俺は彼女の飼い犬らしきそいつを見る。
……ふむ。オレンジ色の毛並みに犬というよりは狼のそれに近い外見だが……なんて種類の犬だ? それに何故、額に赤い宝石をつけている?
俺は唸る子犬と怯えて固まる少女とを交互に見て苦笑。彼女の背に隠れるなのはへと視線を向けて、口を開く。
「……もう日も暮れるぞ」
我ながらぶっきらぼうにしか聞こえない声で言って背を向ける。
「あ。待っておにーちゃん!」
それに少し慌てたような声でなのはが応じ、少女の背から出てくる。
……ん?
背を引っ張られる感覚に振り向くと、バツの悪そうな顔を向けてこちらを見上げるなのはと目があった。
「……おにーちゃん。帰ったらやっぱり――」
少しだけ頬を染めて困ったような笑みのなのは。俺はその台詞の途中でなのはの頭に手を置き、膝を折って視線を合わせた。
「……今朝も言ったが、言い難いのなら話さなくていい。それに……話したくなかったからと言って、帰って来ない方が問題だ」
なのはを目をまっすぐに見て言う。
「……うん」
それに小さな声で頷くなのは。
……ふむ。素直でよろしい。帰ったらとりあえず、こんななのはを困らせた馬鹿弟子に制裁をするか。
「……帰るか」
「うん! ……あ」
俺の言葉にようやく元気な返事をするなのは。そしてそのまま俺の手を取り帰ろうとして――慌てて振り向く。
俺もなのはの向いた先を見て……苦笑。キョトンとした表情で俺たちを見ていた檸檬ちゃんと目が合う。
「檸檬ちゃん! 今日はごめんねっ、心配かけて! それから、ありがとー!」
そんな彼女に元気一杯で手を振るなのは。
対して檸檬ちゃんもふわりと柔らかく微笑んでなのはに小さく手を振る。
俺はそんな二人を微笑ましく眺め(しかし表情は変えず)家路へと向けて一歩を――
「また明日ー! 檸檬ちゃ――」
――即座に反転。
同時、なのはから手を離して――神速!
モノクロ無音の、まるで空気がコールタールのように感じる高速世界で俺は彼女に向かって駆ける!
「――――ッ!?」
そして――
なのはの驚愕を余所に――
今だ気付かぬ檸檬ちゃんの微笑を余所に――
何かを察したらしいオレンジの子犬を余所に――
――夕焼け空の下、身の丈三メートルを越す巨大なカマキリが彼女へと襲いかかる。
◇◆◇◆◇
巨大カマキリの鎌が少女に迫った瞬間――
「……下がっていろ」
間一髪、どうにか檸檬ちゃんを抱えて避けることに成功した。
「え? え、え……?」
混乱する少女を背後に庇い、カマキリと対峙し――ッ!? しまった!
カマキリの向こうで尻餅をついてこちらに涙目を向けるなのはを見つけて歯噛みする。
……不味い。今、檸檬ちゃんの前を離れるわけには――
「あ、あ、あ、あ……!」
心底すくみあがるなのはは涙目をカマキリに向けて驚愕の声を発する。
それにカマキリが反応。腰が抜けて動けなくなったなのはに振り向き、そして――
「――『ストラクル・バインド』!」
今まさになのはに向かって振り下ろされたカマキリの鎌。それを絡め取り、あまつさえ完全に動きを封じる緑色の鎖。
なのはに向かって駆け出しかけていた俺は、その鎖を放った第三者へと視線を向けて――ギョッとした。
緑の鎖。それはソイツの手のひらの先に浮かぶ――
「……ま、ほう?」
呆然となのはが呟く。
……そう、それは魔法だ。
その緑色の鎖が生み出されるソレ。異国の服を纏う少年の、手のひらの先――緑色の魔法陣を、呆然と見つめる。
「く……! 何をしているんですか!? 早く逃げて!」
少年の言葉に我に帰る。と、ほぼ同時に――
「ま、待って――!!」
なのはの叫びを無視して、
「――『封時結界』!」
――少年と巨大カマキリの姿は、虚空に消えた。
◇◆◇◆◇
《檸檬’s View》
いきなり現れた大きなカマキリ(……かな?)に襲われて。……だけどなのはのお兄さんに助けてもらって。……それから、よくわからない、多分同い年くらいの男の子が来て、それで……もう、なにがなんだか。頭ぐちゃぐちゃ……と言うか、ここどこ?
わたしはみかんを抱いてキョロキョロ。さっきまでなのは達と居た平原と同じ景色の……だけど何かはわからないけど絶対にさっきの場所とは違う場所にわたしはいた。
なんだか……ちょっと、怖い。知らず、草原の上にペタンと尻餅を着きながら、わたしは更に周りを見回し――硬直。
「ウー……!」
みかんが唸るその先に、さっきわたしに襲いかかって来た巨大なカマキリがいた。
……あ、あ、あ……!
泣きそうになりながら辺りを見る。……っ!? な、なのはもなのはのお兄さんも……いない!? どうして……!?
わたしの心を恐怖が鷲掴み、腰が抜けたのか立てなくなる。
……ど、どどどどうしよう!? こ、このままだとわたし――
「――ごめん! こんなことに巻き込んで!」
混乱するわたしに、さっきの男の子の声が上からかかった。
……上?
呆然と見上げる。とほぼ同時に、わたしの目の前に少年の背中が。……降って来た!?
「ぇあ、あ、あなたは――」
「――とりあえず……はぁ、……説明は、後で――!!」
――ガキィィィィイン!!
彼の背から前を見て息を飲む。
彼の手に握られた赤い宝石。そしてそこから(……だと思う)発せられた(らしい)緑の魔法陣(のようなの)と、それによって防がれているカマキリの鎌! どこからどう見ても二次元以下の魔法陣なのに、どういうわけか三次元のものを受け止められている、そんな常識外れの現象に目を丸くする。
「……はぁ、はぁ……! だ、駄目だ……バリアを保たせられない……!」
少年の魔法陣とカマキリの一撃との均衡は、そんな彼の苦しそうな呟きを合図に崩れる!
――パキィン!
まるでガラスが割れるような音を立てて少年の魔法陣が砕ける。
自身を守るべき盾を失い、しかし少年はわたしの前から退かず。
――……ザシュッ!!
結果、彼はカマキリの凶刃をその身で受けた。
「………………ぁ?」
赤い血しぶき。
舞う衣服の切れ端。
盾が消えた瞬間にそうなることぐらいわかっていただろうに……それなのに少年は決してそれを避けようとはせず、そしてボロ切れのようにわたしの方へと倒れた。
……わたしは呆然と、それを見ていた。
あまりにも現実離れしたこの光景に、心のどっかが壊れてしまったのかも知れない。
胸に倒れて来た少年を見る。
中性的で綺麗な顔をした、多分同い年くらいの男の子。
……あ、レ?
少年のお腹は裂けていた。
少年のお腹から血が流れていた。
少年の血でわたしの手が濡れていた。
少年の赤で頬が濡れていた。
少年の瞳がわたしに向いていた。
そして――
「…………」
わたしが怪我してないことを心から喜ぶようにして――
笑った。
――とくん、と。心臓の鼓動が早く、強くなる。
「――――」
少年の手から離れた宝石を拾う。
宝石――これが多分、魔法の発動体。
前を見る。カマキリがこちらに向けて鎌を振り上げ、
そして――
『――protection』
金色の光に弾かれた。
カマキリが驚愕のためかわたしから離れる。
それを覚めた目で見つめながら、手元の宝石へと意識を向ける。
「…………うん、わかった」
何をどうすれば良いかは手元の宝石が教えてくれる。だからわたしはただ思えば良い。想像すれば良い。
「……我、使命を受けし者なり」
自然と口をついて出る宝石の――魔法の“発動体(デバイス)”の起動呪文。
「……契約の下、その力を解き放て」
溢れる金色の――魔力。
知らないはずの――よく知っている魔力を感じながら、どこか遠くから自身を見るような感覚で意識を研ぎ澄ます。
「風は空に、星は天に……」
ああ……わたしはこの感覚を知っている。覚えていないけど、体が知っている。
「そして、不屈の心――」
懐かしいような。
暖かいような。
「――この胸に!」
悲しくて、
寂しくて、
痛くて、
切ない。
「この手に魔法を」
これをわたしは――
「レイジングハート――セットアップ!」
――“覚えて(忘れて)”いる!
この作品は『魔法少女リリカルなのは』という作品のアニメシリーズと原作版のクロス小説です。途中、『魔法少女リリカルなのは』という作品をご存知ない方には非常に解り難い表現が含まれていますので、それを承知の上でご覧下さい。
また、作中に著者による独自解釈、設定、世界観、オリジナルキャラなどが描かれていますが、こちらも事前にご了承の上でご覧になって下さい。
◇◆◇◆◇
《なのは’s View》
……わたし、高町なのはは少しだけ変わった家庭で育った……多分、ごくごく普通の女の子。
好きな科目は理系全般。苦手なのは体育。
趣味はゲーム全般。それからカメラやビデオでの色んなものの撮影で、特技はAV機器の取扱い全般。
今習っているのは学習塾が一つと、休みの日に帰って来るフィアッセさんに英会話教室をしてもらってます。
そしてわたしの夢は……――
――お嫁さんになること、です……。
◇◆◇◆◇
「――……それで結局、なのははみんなに発表したの?」
時刻は既に正午過ぎのお昼休み。
雲一つ無い初夏の青空の下。わたしは友達の槙原檸檬ちゃんこと、檸檬ちゃんと屋上にてランチの真っ最中。
二人並んでベンチに座ってお弁当を広げています。
「………………うん」
会話の中身は今朝のこと。
我が家で起こったなのはの将来の夢についての一騒動の顛末について。
結局、わたしはあの後、好奇心によって根掘り葉掘り聞いてくる家族の質問攻めに真っ赤になって固まってしまい、そのまま時間切れ。帰ったら続きを話す、ということになりました。
「……すごく恥ずかしかった〜」
今思い出しただけでも顔から火が出る思い。
なにせ夢が『お嫁さん』。
それを家族に発表した上に帰ったらまた質問攻めが確定。……穴があったら入りたい心境とはこのことだよ〜。
「で、でもね檸檬ちゃん! な、なのはも何も考えないでお嫁さんになりたいって思ったわけじゃなくてね、ちゃんと考えて……それまで一番なりたかった『翠屋』の二代目さんとか、他の、例えば映像監督さんとか……お嫁さんなら色んな夢のお仕事と兼任ができるからなの!」
真っ赤な顔で檸檬ちゃんにまくし立てるわたし。それに檸檬ちゃんはふんわりと柔らかい微笑を向けて一言。
「そっか……」
それだけ。
檸檬ちゃんは綺麗な瞳を細めてなのはに微笑み、昼食を再開し始めます。
「……うん」
わたしも照れくさくなりながら昼食を再開しつつ、隣の檸檬ちゃんを見ます。
……檸檬ちゃん。
長くて綺麗な金の髪をリボンで左右に結んだ、笑うとすっごく綺麗ななのはの友達。
檸檬ちゃんは去年の夏休み明けに、なのはのクラスに転校して来た。
「檸檬ちゃんの夢は?」
……初めは、ぜんぜん笑わない子だった檸檬ちゃん。
「……わたし?」
クラスの子に話しかけられても、いつもビクビクしてて……わたしも最初は、ちょっと暗い子だなーって思ってた彼女。
「……わたしは――」
でも今、わたしの隣にいる檸檬ちゃんは――
「…………お医者さんに、なりたい」
はにかむように、それでも花が咲くようにふんわりとわたしに笑ってくれる。
「それって、フィリスさんみたいな?」
フィリスさんというのは、おにーちゃんがたまに迷惑をかけているお医者さんでレンちゃんの主治医さん。
ちなみに檸檬ちゃんの義理の姉であるリスティさんとフィリスさんは血の繋がった姉妹らしいけど親は違っていて……でも檸檬ちゃんにとってはフィリスさんともお姉さんと妹みたいな関係……らしいんだけど、ちょっとその辺は複雑っぽい。
「……うん」
……でも多分、血の繋がりとかは関係ない。
うちの晶ちゃんやレンちゃんみたいに、きっと仲が良ければ(……二人は仲良しだよね?)家族になれるんだから。
檸檬ちゃんはフィリスさんが大好きで、憧れだって言ってたし、フィリスさんだって檸檬ちゃんのことは好きだと思うから……だから二人は姉妹で、家族なんだ。
「な、なのははやっぱりクロノくんのお嫁さん?」
「――――――っ!」
照れ隠しだろう、檸檬ちゃんの一言に固まるわたし。
あ〜う〜……そ、そう言えば檸檬ちゃんにはなのはの気持ち、前に相談してたっけ〜……!
にゃ――――! は、ははは恥ずかしいよ――――!!
「……なのは?」
穏やか午後の昼下がり。
わたし、高町なのははまた真っ赤になって硬直し続けるのでした。……まる。
◇◆◇◆◇
《恭也’s View》
夕暮れ時、大学から帰り着替えてリビングに降りると晶とレンの二人がいつものように言い争いをしていた。
「……なんだとてめー。もういっぺん言ってみろ、このカメっ!」
「ほっほっほー。何度でも言うたるわ、おさるー」
……口喧嘩もとい、本格的な喧嘩に移行しそうだな。
ため息混じりにそんな二人を眺め、それから……いつもならこんな二人の喧嘩を止めるだろう妹を探す。
……ふむ。とりあえず家にはいないな。
時計を見れば既になのはの学校は終わっているような時間だ。
「……なるほど」
そう言えば、なのはは帰ったら今朝の続きを話す約束をしていたな。
チラリとリビングでうたた寝している美由希を(殺気を込めて)睨む。
「――――ッ!?」
ガバッと飛び起きる美由希。……ふむ。寝ていてもちゃんと気配を掴めるようにはなってるようだな。
何やらひどく怯えた様子の美由希を無視してリビングを出る。
……さて、なのはを迎えに行くか。
「はぁあああああああ!!」
「ほい! はっ!!」
ドカ! バガン!! ダン!
……家が壊れる前に。
◇◆◇◆◇
……まぁなんとなく、ここにいるような気はしたが。
優しい風の吹く草原。そこは一人の少女がよく友達と遊んでいた丘。
「あ、おにーちゃん」
今だ制服姿の妹とそして一度家に帰ったのだろう、なのはの友達の少女を見つけ俺は黙って近付く。
「あ、あの……こ、ここここんにち、は……!」
「……ああ」
黒のワンピースを着た少女……確か槙原さん所の……檸檬、ちゃん……だったか?
俺がなのはに近付くのに対し、少々怯え混じりに挨拶する少女に苦笑。……何度か会っているのだが、今だに怖がられているな。
「……なのは」
とりあえず当初の目的通り、妹のもとへ歩む。対しなのはは困ったような顔で檸檬ちゃんの後ろへ。……おい。檸檬ちゃんが固まってるぞ妹よ。
ため息を一つ、往生際の悪い妹の首根っこを掴もうと手を伸ばす俺。すると――
「ウー……!」
何やら唸っている子犬が一匹。檸檬ちゃんの持つリードに繋がれたそいつが俺を睨み威嚇する。
「あ、みかん……!」
そんな子犬のリードを引いてどうにか黙らせようとする檸檬ちゃん。
俺は彼女の飼い犬らしきそいつを見る。
……ふむ。オレンジ色の毛並みに犬というよりは狼のそれに近い外見だが……なんて種類の犬だ? それに何故、額に赤い宝石をつけている?
俺は唸る子犬と怯えて固まる少女とを交互に見て苦笑。彼女の背に隠れるなのはへと視線を向けて、口を開く。
「……もう日も暮れるぞ」
我ながらぶっきらぼうにしか聞こえない声で言って背を向ける。
「あ。待っておにーちゃん!」
それに少し慌てたような声でなのはが応じ、少女の背から出てくる。
……ん?
背を引っ張られる感覚に振り向くと、バツの悪そうな顔を向けてこちらを見上げるなのはと目があった。
「……おにーちゃん。帰ったらやっぱり――」
少しだけ頬を染めて困ったような笑みのなのは。俺はその台詞の途中でなのはの頭に手を置き、膝を折って視線を合わせた。
「……今朝も言ったが、言い難いのなら話さなくていい。それに……話したくなかったからと言って、帰って来ない方が問題だ」
なのはを目をまっすぐに見て言う。
「……うん」
それに小さな声で頷くなのは。
……ふむ。素直でよろしい。帰ったらとりあえず、こんななのはを困らせた馬鹿弟子に制裁をするか。
「……帰るか」
「うん! ……あ」
俺の言葉にようやく元気な返事をするなのは。そしてそのまま俺の手を取り帰ろうとして――慌てて振り向く。
俺もなのはの向いた先を見て……苦笑。キョトンとした表情で俺たちを見ていた檸檬ちゃんと目が合う。
「檸檬ちゃん! 今日はごめんねっ、心配かけて! それから、ありがとー!」
そんな彼女に元気一杯で手を振るなのは。
対して檸檬ちゃんもふわりと柔らかく微笑んでなのはに小さく手を振る。
俺はそんな二人を微笑ましく眺め(しかし表情は変えず)家路へと向けて一歩を――
「また明日ー! 檸檬ちゃ――」
――即座に反転。
同時、なのはから手を離して――神速!
モノクロ無音の、まるで空気がコールタールのように感じる高速世界で俺は彼女に向かって駆ける!
「――――ッ!?」
そして――
なのはの驚愕を余所に――
今だ気付かぬ檸檬ちゃんの微笑を余所に――
何かを察したらしいオレンジの子犬を余所に――
――夕焼け空の下、身の丈三メートルを越す巨大なカマキリが彼女へと襲いかかる。
◇◆◇◆◇
巨大カマキリの鎌が少女に迫った瞬間――
「……下がっていろ」
間一髪、どうにか檸檬ちゃんを抱えて避けることに成功した。
「え? え、え……?」
混乱する少女を背後に庇い、カマキリと対峙し――ッ!? しまった!
カマキリの向こうで尻餅をついてこちらに涙目を向けるなのはを見つけて歯噛みする。
……不味い。今、檸檬ちゃんの前を離れるわけには――
「あ、あ、あ、あ……!」
心底すくみあがるなのはは涙目をカマキリに向けて驚愕の声を発する。
それにカマキリが反応。腰が抜けて動けなくなったなのはに振り向き、そして――
「――『ストラクル・バインド』!」
今まさになのはに向かって振り下ろされたカマキリの鎌。それを絡め取り、あまつさえ完全に動きを封じる緑色の鎖。
なのはに向かって駆け出しかけていた俺は、その鎖を放った第三者へと視線を向けて――ギョッとした。
緑の鎖。それはソイツの手のひらの先に浮かぶ――
「……ま、ほう?」
呆然となのはが呟く。
……そう、それは魔法だ。
その緑色の鎖が生み出されるソレ。異国の服を纏う少年の、手のひらの先――緑色の魔法陣を、呆然と見つめる。
「く……! 何をしているんですか!? 早く逃げて!」
少年の言葉に我に帰る。と、ほぼ同時に――
「ま、待って――!!」
なのはの叫びを無視して、
「――『封時結界』!」
――少年と巨大カマキリの姿は、虚空に消えた。
◇◆◇◆◇
《檸檬’s View》
いきなり現れた大きなカマキリ(……かな?)に襲われて。……だけどなのはのお兄さんに助けてもらって。……それから、よくわからない、多分同い年くらいの男の子が来て、それで……もう、なにがなんだか。頭ぐちゃぐちゃ……と言うか、ここどこ?
わたしはみかんを抱いてキョロキョロ。さっきまでなのは達と居た平原と同じ景色の……だけど何かはわからないけど絶対にさっきの場所とは違う場所にわたしはいた。
なんだか……ちょっと、怖い。知らず、草原の上にペタンと尻餅を着きながら、わたしは更に周りを見回し――硬直。
「ウー……!」
みかんが唸るその先に、さっきわたしに襲いかかって来た巨大なカマキリがいた。
……あ、あ、あ……!
泣きそうになりながら辺りを見る。……っ!? な、なのはもなのはのお兄さんも……いない!? どうして……!?
わたしの心を恐怖が鷲掴み、腰が抜けたのか立てなくなる。
……ど、どどどどうしよう!? こ、このままだとわたし――
「――ごめん! こんなことに巻き込んで!」
混乱するわたしに、さっきの男の子の声が上からかかった。
……上?
呆然と見上げる。とほぼ同時に、わたしの目の前に少年の背中が。……降って来た!?
「ぇあ、あ、あなたは――」
「――とりあえず……はぁ、……説明は、後で――!!」
――ガキィィィィイン!!
彼の背から前を見て息を飲む。
彼の手に握られた赤い宝石。そしてそこから(……だと思う)発せられた(らしい)緑の魔法陣(のようなの)と、それによって防がれているカマキリの鎌! どこからどう見ても二次元以下の魔法陣なのに、どういうわけか三次元のものを受け止められている、そんな常識外れの現象に目を丸くする。
「……はぁ、はぁ……! だ、駄目だ……バリアを保たせられない……!」
少年の魔法陣とカマキリの一撃との均衡は、そんな彼の苦しそうな呟きを合図に崩れる!
――パキィン!
まるでガラスが割れるような音を立てて少年の魔法陣が砕ける。
自身を守るべき盾を失い、しかし少年はわたしの前から退かず。
――……ザシュッ!!
結果、彼はカマキリの凶刃をその身で受けた。
「………………ぁ?」
赤い血しぶき。
舞う衣服の切れ端。
盾が消えた瞬間にそうなることぐらいわかっていただろうに……それなのに少年は決してそれを避けようとはせず、そしてボロ切れのようにわたしの方へと倒れた。
……わたしは呆然と、それを見ていた。
あまりにも現実離れしたこの光景に、心のどっかが壊れてしまったのかも知れない。
胸に倒れて来た少年を見る。
中性的で綺麗な顔をした、多分同い年くらいの男の子。
……あ、レ?
少年のお腹は裂けていた。
少年のお腹から血が流れていた。
少年の血でわたしの手が濡れていた。
少年の赤で頬が濡れていた。
少年の瞳がわたしに向いていた。
そして――
「…………」
わたしが怪我してないことを心から喜ぶようにして――
笑った。
――とくん、と。心臓の鼓動が早く、強くなる。
「――――」
少年の手から離れた宝石を拾う。
宝石――これが多分、魔法の発動体。
前を見る。カマキリがこちらに向けて鎌を振り上げ、
そして――
『――protection』
金色の光に弾かれた。
カマキリが驚愕のためかわたしから離れる。
それを覚めた目で見つめながら、手元の宝石へと意識を向ける。
「…………うん、わかった」
何をどうすれば良いかは手元の宝石が教えてくれる。だからわたしはただ思えば良い。想像すれば良い。
「……我、使命を受けし者なり」
自然と口をついて出る宝石の――魔法の“発動体(デバイス)”の起動呪文。
「……契約の下、その力を解き放て」
溢れる金色の――魔力。
知らないはずの――よく知っている魔力を感じながら、どこか遠くから自身を見るような感覚で意識を研ぎ澄ます。
「風は空に、星は天に……」
ああ……わたしはこの感覚を知っている。覚えていないけど、体が知っている。
「そして、不屈の心――」
懐かしいような。
暖かいような。
「――この胸に!」
悲しくて、
寂しくて、
痛くて、
切ない。
「この手に魔法を」
これをわたしは――
「レイジングハート――セットアップ!」
――“覚えて(忘れて)”いる!



