《ケイト〜knight of nightmare〜》
『敬人!?』
私の叫びと同時、
視界が――切り変わった。
『ッ!? これは――!?』
数瞬前までカラスの背からなのは達を見ていたハズの敬人の視線が、今や――
「ケイトさん……!?」
「けいとちゃんっ!?」
なのは達の前――カラスを迎え討つような、暴走体に対して真正面の位置に。
『これは――高速転移!?』
でも、どうして敬人が……?
頭を捻る。
もともと敬人は魔法が使えないはずで、
そして今、彼はアリシアの姿をしていて、
では、アリシアの魔法かと聞かれれば、おそらく答えなノーであり、
つまり――
『ッ! まさかジュエル・コアが……!?』
驚愕する。そして同時に納得。
今、敬人はジュエル・コアを二つ使っていて、
そしてジュエル・コアとは、つまりは願いを叶える魔石だ。
『ッ! 敬人っ! 前っ!!』
高速で突進してくるカラス。
それに対して敬人は、
「…………」
あろうことか、その両手を眼前に翳して、
腰を落として、真っ向から迎える構え。
『――ッ!! 敬人逃げて! 早く!!』
血の気が引く。そして私の悲鳴混じりの叫びと同時、
――ガガガギィィイイイー――――ン!!
敬人と暴走体が激突!
それを見て、弾かれたようになのはのお母さんが娘を抱いて横に跳び、
間髪入れずにその横を敬人ケとカラスが突き抜けて行く。
マズイ! 『ソニック・フォーム』はバリアジャケットとしては防御力に乏しい……! このままじゃ――!!
『敬人!!』
「…………」
叫ぶ!
しかし彼は何故か私の声に反応せず、
そのまま、殺気すら込もった視線を暴走体に向けて無言。
そして、
――メキ……!
カラスの突進に、遂に耐えられなくなったのか。ケイトの右手の鉄甲が砕けて消え、更にその手首の骨を粉砕!
『――――!!』
血潮吹きが舞い、
弾かれるように両手が開き、
カラスの鋭い嘴がケイトの薄いバリアジャケットに届き、
そして――
『敬人ー――っ!!』
――ズゥゥウウウー―ン……!
塀に、暴走体は突っ込み――停止。
その嘴に貫かれた敬人は、上半身をはだけた格好で――壁に縫いつけられた。
◇◆◇◆◇
「……ゴホッ!」
咳き込み、吐いたのは大量の血。胸を貫くのは怪鳥の嘴。感覚の無い右腕。
……ああ、赤だ。血の赤だ。
震える左手を持ち上げる。鉄甲を染める俺の血が、映る。
ぼやける視界に、カラスの背後で青ざめた顔をしている親子を見付け、
俺は知らず、安堵の溜め息を吐いていた。
……また、俺は人を助けられた。
良かった……。
これで死んでも……、悔いは無い、かな…………。
――意識が闇に堕ちた。
◇◆◇◆◇
『敬人っ!!』
叫ぶ。
『敬人! しっかりして!! 敬人!!』
いくら呼んでも反応が無い。
恐らく既に意識が無いのだろう。視界は瞼が落ちたのか、暗い。
まずい、このままじゃ……!
焦る。このままでは失血死かショック死か――いずれにせよ命に関わる。
だから、私は――
『……ごめんね、敬人』
一言謝り、彼の意識と
――入れ替わった。
「――――っ!!」
意識の表層が彼と転じた事により、体内で発する激痛を感じるのは私となる。
……痛い、けど、敬人がケガしたのは私のせいだから。
ともすえば、即座に気を失いかねない激痛に歯を食いしばるようにして耐える!
これぐらい、我慢しなきゃ……!
涙に濡れた瞼を開ける。
意識を集中し、同調しているジュエル・コアを僅かに起動。その力のすべてを敬人のケガの修復に回――
――……ズルッ。
私の行動を察したのだろう。暴走体は私の体を貫いていた嘴を引き抜いた。
「――――っ!!」
その、あまりの激痛に今度こそ気絶するかと思った。
「カ、ハッ……!!」
目の奥で明滅する火花。飛び散る鮮血。まずい……意識が…………。
「――……はぁ、はぁ」
視界は霞掛り、
五感はその機能を失いかけているが、
そんなのには構わない。
……ここで、敬人を……殺すワケには、行かない。
すべては私の責任。
私が彼を巻き込んで、
私の撒いた災厄が元凶で、
だから――
「はぁ……、はぁ……」
――今はもう、
目の前で嘴を高く構える暴走体等、
気にもかけず、
そして、
「――そこまでだ」
――それは、怒気を孕んだ男の声。
「――――?」
それは、“彼(か)”の巨鳥すら怪訝にその動きを止めるような、場を支配する強烈な――殺気。
「……母さんとなのはが帰って来ないもんだから出て来て見れば――何だ、お前は?」
見つめるのは奇怪なカラス。そして、今まさに喪われようとしている幼い命。
それはさっきまで彼――高町 恭也さんやその妹と一緒にお風呂まで入った少女。
「……母さん。なのはと一緒に家の中へ」
静かに、告げる。
それになのはのお母さん――桃子さんは逡巡するように視線を敬人と恭也さんへと向け、
「でも、」
「早く!」
遮る怒声。
それで今度こそ親子はそそくさと室内へと待避した。
「お、お兄ちゃん……」
最後になのはが心配そうに彼を見たが、恭也さんは視線を巨鳥から動かさず、頷いたきり。
そして、
「……その娘から離れろ」
一歩。
その踏み出した一歩に、巨鳥は脅えたように後退さった。
「…………」
――それは彼我の力関係を考えるに有り得ない行動。
「――っ!!」
また一歩。恭也さんが進み、巨鳥は大きく後退した。
そして、
「……もう、大丈夫だから」
そう言って、恭也さんは少女に――私に向かって微笑んだ。
「…………」
私はそれを朧気に見つめ、
視線だけで『ソレ』を示した。
「……判った。これは借りる」
私の視線の意味に気付いたのか、恭也さんは足下に転がっていた『ソレ』――一時的に切り離して作った、ジュエル・コアの『剣』を拾った。
「…………さて、」
刃渡り五十センチを切るまでに圧縮された、
私のデバイス――バルディッシュのザンバーフォームを模した『剣』を手に持ち、
軽く構え、視線を巨鳥に移し、
――瞬間、空気が凍った。
先ほどまでは漠然と辺りを漂っていた殺気が、その一点――恭也さんの持つ『剣』に集中する。
「――――ッ!!」
それに声無き悲鳴を上げる巨鳥。
――彼我の力関係はここに来て明確となった。
「……父さんに誓ったんだ」
恭也さんの声は、さながらこの聖域に置ける審判者のそれ。
「『家族を泣かせる全てのものから……』――」
死刑台に立たされた哀れな囚人に、神の“詞(ことば)”を司る司祭は郎郎と告げる。
「――『俺が家族を護る』、と」
刹那。
常人には追えない速度で踏み込んだ彼を、捉えることのできた者が、
果たして、この場に居ただろうか?
「この、『御神流』で……」
「――――っ!?」
走った剣閃は、むしろ残像。
極限まで研磨せし、人の神技がここに顕現す――。
「……終わりだ」
――哀れ、その前に立ち塞がりしは愚の骨頂。
なれど、“彼(か)”の事実に戦慄せしは、ただ、それを観する者のみで。
全ては、あの世の果てにて後悔し、
全ては、“彼(か)”の神童を敵に回すが愚かなり。
果たして、巨鳥は自分が斬られた事に遂に気付かずに、消滅した。
前話
『敬人!?』
私の叫びと同時、
視界が――切り変わった。
『ッ!? これは――!?』
数瞬前までカラスの背からなのは達を見ていたハズの敬人の視線が、今や――
「ケイトさん……!?」
「けいとちゃんっ!?」
なのは達の前――カラスを迎え討つような、暴走体に対して真正面の位置に。
『これは――高速転移!?』
でも、どうして敬人が……?
頭を捻る。
もともと敬人は魔法が使えないはずで、
そして今、彼はアリシアの姿をしていて、
では、アリシアの魔法かと聞かれれば、おそらく答えなノーであり、
つまり――
『ッ! まさかジュエル・コアが……!?』
驚愕する。そして同時に納得。
今、敬人はジュエル・コアを二つ使っていて、
そしてジュエル・コアとは、つまりは願いを叶える魔石だ。
『ッ! 敬人っ! 前っ!!』
高速で突進してくるカラス。
それに対して敬人は、
「…………」
あろうことか、その両手を眼前に翳して、
腰を落として、真っ向から迎える構え。
『――ッ!! 敬人逃げて! 早く!!』
血の気が引く。そして私の悲鳴混じりの叫びと同時、
――ガガガギィィイイイー――――ン!!
敬人と暴走体が激突!
それを見て、弾かれたようになのはのお母さんが娘を抱いて横に跳び、
間髪入れずにその横を敬人ケとカラスが突き抜けて行く。
マズイ! 『ソニック・フォーム』はバリアジャケットとしては防御力に乏しい……! このままじゃ――!!
『敬人!!』
「…………」
叫ぶ!
しかし彼は何故か私の声に反応せず、
そのまま、殺気すら込もった視線を暴走体に向けて無言。
そして、
――メキ……!
カラスの突進に、遂に耐えられなくなったのか。ケイトの右手の鉄甲が砕けて消え、更にその手首の骨を粉砕!
『――――!!』
血潮吹きが舞い、
弾かれるように両手が開き、
カラスの鋭い嘴がケイトの薄いバリアジャケットに届き、
そして――
『敬人ー――っ!!』
――ズゥゥウウウー―ン……!
塀に、暴走体は突っ込み――停止。
その嘴に貫かれた敬人は、上半身をはだけた格好で――壁に縫いつけられた。
◇◆◇◆◇
「……ゴホッ!」
咳き込み、吐いたのは大量の血。胸を貫くのは怪鳥の嘴。感覚の無い右腕。
……ああ、赤だ。血の赤だ。
震える左手を持ち上げる。鉄甲を染める俺の血が、映る。
ぼやける視界に、カラスの背後で青ざめた顔をしている親子を見付け、
俺は知らず、安堵の溜め息を吐いていた。
……また、俺は人を助けられた。
良かった……。
これで死んでも……、悔いは無い、かな…………。
――意識が闇に堕ちた。
◇◆◇◆◇
『敬人っ!!』
叫ぶ。
『敬人! しっかりして!! 敬人!!』
いくら呼んでも反応が無い。
恐らく既に意識が無いのだろう。視界は瞼が落ちたのか、暗い。
まずい、このままじゃ……!
焦る。このままでは失血死かショック死か――いずれにせよ命に関わる。
だから、私は――
『……ごめんね、敬人』
一言謝り、彼の意識と
――入れ替わった。
「――――っ!!」
意識の表層が彼と転じた事により、体内で発する激痛を感じるのは私となる。
……痛い、けど、敬人がケガしたのは私のせいだから。
ともすえば、即座に気を失いかねない激痛に歯を食いしばるようにして耐える!
これぐらい、我慢しなきゃ……!
涙に濡れた瞼を開ける。
意識を集中し、同調しているジュエル・コアを僅かに起動。その力のすべてを敬人のケガの修復に回――
――……ズルッ。
私の行動を察したのだろう。暴走体は私の体を貫いていた嘴を引き抜いた。
「――――っ!!」
その、あまりの激痛に今度こそ気絶するかと思った。
「カ、ハッ……!!」
目の奥で明滅する火花。飛び散る鮮血。まずい……意識が…………。
「――……はぁ、はぁ」
視界は霞掛り、
五感はその機能を失いかけているが、
そんなのには構わない。
……ここで、敬人を……殺すワケには、行かない。
すべては私の責任。
私が彼を巻き込んで、
私の撒いた災厄が元凶で、
だから――
「はぁ……、はぁ……」
――今はもう、
目の前で嘴を高く構える暴走体等、
気にもかけず、
そして、
「――そこまでだ」
――それは、怒気を孕んだ男の声。
「――――?」
それは、“彼(か)”の巨鳥すら怪訝にその動きを止めるような、場を支配する強烈な――殺気。
「……母さんとなのはが帰って来ないもんだから出て来て見れば――何だ、お前は?」
見つめるのは奇怪なカラス。そして、今まさに喪われようとしている幼い命。
それはさっきまで彼――高町 恭也さんやその妹と一緒にお風呂まで入った少女。
「……母さん。なのはと一緒に家の中へ」
静かに、告げる。
それになのはのお母さん――桃子さんは逡巡するように視線を敬人と恭也さんへと向け、
「でも、」
「早く!」
遮る怒声。
それで今度こそ親子はそそくさと室内へと待避した。
「お、お兄ちゃん……」
最後になのはが心配そうに彼を見たが、恭也さんは視線を巨鳥から動かさず、頷いたきり。
そして、
「……その娘から離れろ」
一歩。
その踏み出した一歩に、巨鳥は脅えたように後退さった。
「…………」
――それは彼我の力関係を考えるに有り得ない行動。
「――っ!!」
また一歩。恭也さんが進み、巨鳥は大きく後退した。
そして、
「……もう、大丈夫だから」
そう言って、恭也さんは少女に――私に向かって微笑んだ。
「…………」
私はそれを朧気に見つめ、
視線だけで『ソレ』を示した。
「……判った。これは借りる」
私の視線の意味に気付いたのか、恭也さんは足下に転がっていた『ソレ』――一時的に切り離して作った、ジュエル・コアの『剣』を拾った。
「…………さて、」
刃渡り五十センチを切るまでに圧縮された、
私のデバイス――バルディッシュのザンバーフォームを模した『剣』を手に持ち、
軽く構え、視線を巨鳥に移し、
――瞬間、空気が凍った。
先ほどまでは漠然と辺りを漂っていた殺気が、その一点――恭也さんの持つ『剣』に集中する。
「――――ッ!!」
それに声無き悲鳴を上げる巨鳥。
――彼我の力関係はここに来て明確となった。
「……父さんに誓ったんだ」
恭也さんの声は、さながらこの聖域に置ける審判者のそれ。
「『家族を泣かせる全てのものから……』――」
死刑台に立たされた哀れな囚人に、神の“詞(ことば)”を司る司祭は郎郎と告げる。
「――『俺が家族を護る』、と」
刹那。
常人には追えない速度で踏み込んだ彼を、捉えることのできた者が、
果たして、この場に居ただろうか?
「この、『御神流』で……」
「――――っ!?」
走った剣閃は、むしろ残像。
極限まで研磨せし、人の神技がここに顕現す――。
「……終わりだ」
――哀れ、その前に立ち塞がりしは愚の骨頂。
なれど、“彼(か)”の事実に戦慄せしは、ただ、それを観する者のみで。
全ては、あの世の果てにて後悔し、
全ては、“彼(か)”の神童を敵に回すが愚かなり。
果たして、巨鳥は自分が斬られた事に遂に気付かずに、消滅した。
前話



