《ゼロの使い魔〜雷槍の騎士〜》
フーケを宮廷の衛士に引き渡し、そしてルイズが破壊した秘宝『破壊の杖』の残骸を学院へと引き渡した少女たちはその功績から『シュヴァリエ』の爵位を貰えるという話になった。
ただし、タバサは既に『シュヴァリエ』の爵位を持っていたので変わりの勲章を。そしてただの平民であり使い魔という扱いであるエリオはそれら勲章などの褒章は無し。それにルイズらは不平を申し出たが、青年としてはあまり目立ちたくなかったのでそれを了承。
そして時間は過ぎ、夜――。
「い、いや、だから……その……」
場所はアルヴィーズの食堂の上階。その日はちょうど『フリッグの舞踏会』という催しがあったらしく、エリオたちはそれに参加していた。
「あ、あれは事故です……! た、たまたま倒れかかった時に……」
周りを見渡せば着飾った生徒や教師が、テーブルを見れば豪華な料理の数々が並べられている華やかな会場において、エリオはバルコニーで三人の少女たちに詰め寄られていた。
「それは無い。エリオはもう少し、自分の悪癖を自覚すべき」
黒いリボンと同じく黒いゴシック調のドレス――のように見えないこともないバリアジャケットを纏ったルーテシアが、下から睨み上げるようにして青年に言った。
「い、いや、悪癖って――!?」
「そ・れ・よ・り! なんで何も言わないで帰ってるの! おかげでいろいろと大変だったのよ!」
ルーテシアの言葉に表情を引きつらせる青年に詰め寄りモンモランシー。彼女もやはりきらびやかな真紅のドレスを纏い、腰に手を当てエリオを睨む。
「あ、それとエリオくん! 聞きましたよ? ルイズさんのために無茶して死にかけたり、決闘の度に魔法使ったりしたそうですね!?」
少女二人に詰め寄られバルコニーに追い詰められている青年に追い討ちをかけるようにキャロ。本当ならエリオを置いて帰るだけだったため当然ドレスなど無く、ルーテシアのようにバリアジャケットを纏うワケにも行かず管理局の制服姿で頬を膨らませて青年を睨んでいた。
「……ダーリンも大変よねぇ」
それを遠目に眺めながらキュルケ。シルフィードに乗ってルイズのもとへ向かっていた途中で同じく少女のもとへ急いでいた彼らと会い、キャロに治癒魔法をかけてもらったため傷は完治。一応、ダンスの申し出は自粛しつつも綺麗なドレスを纏い舞踏会には参加していた。
「自業自得」
その傍らで料理と格闘しつつタバサ。黒いパーティドレスを纏い、チラリと青年を見て一言。
キュルケはそんな少女の態度が意外だったのか目を丸くし、次の瞬間には『確かに』と言ってケラケラと笑い出した。
「――ヴァリエール公爵が息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブランド・ラ・ヴァリエール嬢のおな〜〜〜り〜〜〜!」
門に控えた衛士の言葉にそちらを見るエリオやキュルケたち。
ルイズは長い桃色がかった髪をバレッタにまとめ、ホワイトのパーティドレスに身を包んでいた。
キャロの魔法により怪我は完全に治っている。ルイズはしずしずと高貴な家柄だということが一目でわかる歩き方で会場入りした。
その少女の登場により主役が揃ったのだろう。楽士たちが小さく、流れるように音楽を奏で始めた。
それに呼応してかルイズの周りには少女の姿と美貌と驚いた男たちが群がり、その肘までの白い手袋越しの手を取ろうとするが、彼女はそのすべてを歯牙にかけない。
ホールでは既に貴族たちが優雅に躍り出すが、ルイズはそれらを気にせずキョロキョロ。そして青年を見つけて近付こうとし――
「ルイズ」
呼び止められる。
さすがに無視するワケにも行かないので振り向くと、見知った少年――ギーシュとそして彼の横に佇む女性が目に入った。
「初めまして、ルイズさん」
そう『にこり』と微笑む妙齢の美女にルイズは見覚えが無い。格好もドレスではなくどこかの制服だろう、黒の上下を着ていた。
「……誰?」
それを眉をひそめて見つめ、隣の少年に問う。
対し白いタクシードと胸元に飾られた赤い薔薇が物凄く似合っているギーシュは、苦笑するように肩をすくめて答えた。
「エリオの元上司で保護者」
「なっ――!?」
その言葉に思い切り驚愕の表情になるルイズ。目を丸くしてまじまじと女性を見れば、確かにその服装が彼らの着ていた制服にデザインが似ていた。
「フェイト・テスタロッサ・ハラオウンです。初めまして」
そう言って微笑む女性――フェイトに、ルイズは即座に背筋を伸ばす。
「はっ、ははははじ、初めまして! ル、ルルルルイズ・フランソワーズ・ル・ブランド・ラ・ヴァリエールですっ!」
そう、これでもかという程に緊張しながら名乗る。
対してフェイトは苦笑するように微笑み、口を開いた。
「あの、そんなに緊張しないで下さい。今日はただ、エリオのことで挨拶したかっただけですので」
「いっ、いえいえそんなっ! エ、エリオ――さんには、いつもお世話になっていますと言いますか、守られっぱなしで申し訳ないと言いますかっ!」
そんなやりとりを『くつくつ』と笑って眺めるギーシュ。ルイズは横目でそんな少年を睨みつつ、緊張の眼差しでフェイトを見た。
長い金の髪の、とても美しい女性だった。彼女の持つ独特の雰囲気は、なるほど青年と似た柔らかくて暖かいそれに通じるものがある。
「ふふ。エリオから貴方のことは窺ってます。あの子が怪我した時に治癒を手配してくれたとか」
「そ、そんなっ! あ、あのそれはわたしが原因で――!」
微笑のままに言うフェイトに両手を振り乱してルイズ。『あわあわ』と焦りまくる少女を、フェイトは静かに見つめ、
「ルイズさん」
そっとその手を取って真剣な瞳を向ける。
「エリオとカルディナは私の大切な家族です。どうかよろしくお願いします」
そう言って頭を下げるフェイトに、ルイズは大慌てで答えた。
「は、はいっ! こ、こちらこそお願いします!!」
『だ、だから頭を上げて下さい!』と、もはや泣きそうな声で懇願するルイズ。
フェイトはその言葉にゆっくりと顔を上げて最後に微笑んで言った。
「……まあ、親ばかなおばさんのお願いですから、そんなに気負わないで下さいね」
『それでは』と断り、フェイトは歩き去った。
それを見送り、『くらり』とめまいを起こしたようにテーブルにもたれかかるルイズ。どうやら心底緊張し疲れたらしい。
そんな少女を本当に楽しそうに眺めてギーシュ。肩をすくめて、歩き去ったフェイトの方を向きたまらず口を開いた。
「『おばさん』て……まだまだお姉さんで通じると思うけどね」
「て言うか、あいつの憧れの人ってあんなに美人なの……?」
ギーシュの言葉により落ち込んでルイズ。母親だか姉だかは知らないが、身近にあんた美人な人がいたのでは自分なんて――と少しだけ女としての自信を喪失する。
先ほどまでの煌びやかさが嘘のように縦線を背負う少女に苦笑し、その肩を叩いて去って行くギーシュ。
「どうかしましたか?」
果たして、少年と入れ替わるように声をかけて来るのは、顔を上げなくてもわかる、大切な使い魔の青年だった。
「……どうしてフーケを攻撃しなかったの?」
ルイズは顔を上げずに問う。
「怒ってたのに……あいつはあんたの娘を――」
「悲しいからって、人を傷付けて良い理由にはなりません」
顔をゆっくり上げる。エリオは笑っていた。
「僕らは人が傷付くと悲しいということを知っています。だから僕らは、その連鎖を断ち切る」
だからルイズも笑う。意地悪く、悲しみなど無いというように笑う。
「だからってキスする? 普通」
その台詞に表情を引きつらせるエリオ。さっきまでそのことで散々、ルーテシアたちに詰め寄られていたことを思い出し、冷や汗。
「い、いや、あれは事故で! ……あ! そうです、まだ言ってませんでしたね」
焦りつつ言葉を紡いでいたが、ハタと何かに気付いてか再びいつもの微笑を取り繕って言った。
「ドレス、すごく似合ってます。綺麗ですよルイズ」
「〜〜〜〜っ!」
その一言で『ボン!』と音が出るほどに顔を真っ赤に染め上げるルイズ。そして照れを隠すように苦々しい表情になってそっぽを向く。
相変わらず、この青年はずるい。
その言葉が嘘じゃないのはわかる。そして他意が無いことも。
だからこそ始末におえない。その顔、その微笑でそんな台詞を言われて正常でいられる女性などいないだろうに。
「ルイズ? どうかしましたか? 顔が赤いみたいですし……さっきも目眩を起こして……大丈夫ですか?」
そっぽ向く少女の顔を覗き込んでエリオ。その相変わらずの鈍感ぷりに頭を抱えたくなりながら、ルイズはため息を一つ。若干まだ頬を染めつつ、不機嫌顔を向けて口を開いた。
「きょ、今日はぶぶぶ舞踏会よね? あ、あんたは踊らないの?」
その問いに苦笑を浮かべて頭をかきかき答えるエリオ。
「いや、僕、こういった行事に参加したことなくて。踊り方とか知らないんですよ。ルイズは?」
言ってキョロキョロ。
「先ほどからルイズに声をかけようとしている人がたくさんいるみたいですよ。踊らないんですか?」
「そう言うあんたは?」
訊きつつ、不機嫌顔で辺りを見回すルイズ。モンモランシー以下エリオファンクラブ一同が青年に声をかけるタイミングを計り、なんとも恐ろしい視線を自分に向けていた。
「いえ? 誰も僕みたいな平民と踊りたいなんて言いませんよ」
『それに着ているのが局の制服ですし』と苦笑する青年の言葉に今度こそ頭を抱えた。
ほ、本当に無自覚なのね、自分がモテるってことに……。
ルイズは深く深くため息を吐き出し、何故かこちらを心配そうに見る青年を睨み、口を開く。
「じゃ、じゃあ、仕方ないわね」
「?」
首を傾げる青年に真っ赤な顔を向け、ドレスの裾を恭しく両手で持ち上げ、膝を折って一礼。
「わ、わたわたわたくしといっ一曲、お踊ってくだ、ください、ませんこと。ジェントルマン」
その言葉に一瞬目を丸くするエリオ。そうしてから微笑を取り繕い、誰が見ても紳士然とした立派な仕草で一礼。
「喜んで、お相手いたします」
少女の手を取った――。
◇◆◇◆◇
青年と少女のダンスをバルコニーにて眺めるフェイトたち管理局の三人。
「カルディナは大丈夫。二週間もすれば完治するそうよ」
そう言って通信を切り、フェイトは二人の部下に微笑んだ。
「後であと二人、エリオたちのサポートに来るわ。私たちは彼らが来るまでこちらで待機します」
「……艦長。それは女ですか?」
フェイトの言葉にエリオたちから視線を外さずにルーテシア。それに苦笑するように微笑みフェイトは答える。
「女の子とその夫よ」
それに『それなら安心だ』とばかりに頷くルーテシア。見ればキャロも同じような表情だったが、おそらくは本人は気付いていない。
……キャロとエリオって、なのはとユーノの時みたいに進展しなさそうね。
フェイトは小さく苦笑するように笑い、ホールで踊る二人へと視線を戻すであった――。
◇◆◇◆◇
「君たちはエリオと踊らないのかい?」
ホールで踊るエリオとルイズを眺めながらギーシュは問う。
「……まあ、わたしは後で良いわ」
それに若干悔しそうな表情でモンモランシー。
「あたしは今日は良いわ」
「決闘に負けたから誘う理由がない」
と、キュルケとタバサ。テーブルに並ぶ料理を食べつつ、チラリと二人を見て返す。
「そうだね。僕もなんだかそういう気分じゃない」
見れば給仕をする少女――シエスタも隙あらば青年と踊ろうとしているようで、ギーシュは苦笑した。
視線を傍らの三人に戻すと、何故か皆、若干引いていた。
「……ギーシュ。やっぱりあなた、そっちの趣味が……」
「た、たまにいるらしいわね。ま、まあダーリンは美形だし、し、仕方ないわ……」
「…………男色」
「……………………君たち。だからそれは誤解……」
◇◆◇◆◇
ホールで踊る青年と少女は、いつの間にか注目の的であった。
着飾り、澄ました顔でステップを刻む美少女とその相手をする赤い髪の美男子。エリオの踊り方はルイズの『わたしに合わせて』という言葉に従っているだけだが、持ち前の運動神経と飲み込みの早さで、今はホールで踊るどんなカップルより華麗に踊っていた。
「ねえ、エリオ。あなたはどうしてわたしのためにそんなにしてくれるの?」
ステップを刻みつつルイズ。それに微笑を浮かべたままエリオは口を開く。
「初めは異世界に喚ばれて寄る辺が無かったので仕方なく。でも今は違います」
手を引き、右へ左へ。そしてターン。
「ルイズは見ず知らずの、ワケの分からない僕なんかのために食事や衣類、武器や治療費を出してくれました」
踊るながら、ステップを刻みながら笑顔で答える。
「それにルイズはカルディナのために悲しんでくれた。僕の娘のために怒って、戦ってくれた。だから僕は――」
「ねえ」
曲が終わる。
次の楽曲が始まるまでの間、ルイズとエリオは立ち止まって見つめあった。
「誓いを、もう一度……。今度はちゃんと、流されてとか、仕方なくとかじゃなくてちゃんと……しよう……?」
少女は多少頬を染めた潤んだ瞳で青年を見上げて言う。
「使い魔契約の儀式……あ、あれがわたしの、ファ、ファーストキス……だ、だから……ちゃんと、やり直したい」
「え……!」
目を丸くして赤面する青年の服を掴んで、不機嫌顔で言葉を次ぐ。
「フ、フーケとはしたじゃない……! だ、だから……」
言って瞳を閉じ、深呼吸を一回。
その鳶色の瞳を青年に向けて、今度は真剣に、そして神聖な儀式として少女はそれを言葉にする。
「――我がは名ルイズ・フランソワーズ・ル・ブランド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ……」
そう言って顔を上向け、静かに瞳を閉ざすルイズ。
対し、エリオは顔を真剣なそれへと変え、あの日少女に誓った言葉を、今度は自分の意思で、それを望んで口にする。
「――どんな外敵からもルイズは僕が守ります」
肩に手を置き、膝を折って少女の顔に顔を寄せる。
「――使い魔、エリオ・モンディアルとその能力のすべてを持って、」
周りに見ていただけだった全ての人間が息を飲んで二人を見た。
ルーテシアがたまらず駆け出し、モンモランシーが眉をつり上げ、キャロが目を丸くし、シエスタがトレイを落とす。
しかし二人はそんな周りのことになんて気付かない。何故なら既に、二人は瞳を閉じていたから、
そして――
「我が主を守り抜くことを、ここに誓います」
宣言し、エリオはそっと少女の唇に自分のそれを当てた――。
楽士が、次の曲を奏でる。
次の、舞踏のために――
――――《ゼロの使い魔〜雷槍の騎士〜》・完――――
※ 後書き
この度、嗣希創箱の《ゼロの使い魔〜雷槍の騎士〜》を読んでいただき誠にありがとうございました。
これにて《ゼロの使い魔〜雷槍の騎士〜》はいったん完結とさせていただきます。皆さまからいただいたご意見、ご指摘、感想は後日改めてこちらの作品の改訂版を書く際に参考とさせていただきます。
最後に、この作品を読んで下さいましたすべての方に感謝をもう一度。
ありがとうございました。
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